遊戯王5D's ~剣纏う花~   作:大海

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やっほーい。
んじゃ、今回決闘するよ~。
ちなみに、先に言っとくが、登場キャラに若干オリ設定も入ってるから、その辺も注意ね。
んなわけで、行ってらっしゃい。



第八話 雪の迷走 ~決闘~

視点:雪乃

「ふむ……社会というものは複雑ですねぇ……」

 夜のシティを徘徊しながら、そう呟きました。ちなみに今は、いつもの雪乃の顔と髪をしております。

 

 あの後、アキさんの家を訪れると、アキさんはすぐ、ご両親に事情をお話しになった。

 そのことを聞いて、お二人ともだいぶ驚かれ、そして、私にそのことをお話しした。

 要約すると……

 

「お金を稼ごうとすることは間違いではない。ただ、その方法に問題がある」

「稼げるからと言って、どんな仕事でもやっていいわけではない」

「特に、私の行った稼ぎ方は、道徳的にも年齢的にも問題がある」

 

 ということです。

 そしてもちろん、私も反論しました。

 

「お金を稼ぐ手段において、良い、悪いがあるのか?」

「確実に稼げるならば、むしろ逆にどんな仕事でもやるべきではないか?」

「幼い頃からやっていることなのに、今更何の問題が?」

 

 といった具合です。

 そりゃあ、頭では分かっておりますとも。こんな仕事、簡単に行うべきではないと。

 仮に行うとしたら、それこそ、本当に他に手段が無くなった時の最終手段だと。そうやって、身を削って働いている女性達が、この世の中にどれだけいることか。私は男ですが……

 そして、私もそれを行った。どこに違いがあるのですか? 

 私としても、何の技量も経験も無く、ただ一つ、残った手段を講じただけだというのに。

 そりゃあ、あんな目に遭ったんだ。社会的にも不健全であり、不潔だということも分かっている。実際、そのことを理解してからは、私をそんな目に遭わせたサテライトを心底憎み、せめて、父にだけはこのことを知られないようにと、ずっと秘密にしておりましたから。

 そして、ここがサテライトでなくなり、その父がいなくなった今、誰に遠慮する必要も無い。幼い頃と同じ。お金を稼ぐため、唯一の取り柄であり、財産である、この体を使っただけのことだ。

 体を使って稼ぐという意味で、教室の先生として、シティ中を駆け回っていた時と、一体なにが違うというのか……

 

「分からん……」

 考えても理解はできかねる。

 ただどの道、大恩ある遊星さん達や、アキさんのご両親が、もうやらないでくれと言った。なので、もうやらないことには決めた。

 どの道、せっかく稼いだお金を受け取ってくれないというなら、やる意味もありませんし、藤原雪乃だとばれる危険性もあるので、何度もできることではないと分かっていた。

 たった一回しか使えない手段だとは思っていませんでしたが……

 まあ、それはもういいか。

 今考えるべきは……

 今は家に置いてきた、私にはそれほど必要の無い大金を、どうしたものか、ということくらいだ……

 

「あ」

 

「……む?」

 誰かの声が正面から聞こえて、そちらを見ると……

「あら、ツァンじゃない。奇遇ね。こんな時間に」

「そう、だね……」

 と、なぜか視線を逸らしつつ、気まずそうな顔を見せました。

「どうかしたの?」

「いや……その……」

 ふむ……相変わらず隠し事は苦手な性格をしているようだ。

「何かあるのなら、聞いてあげるけど?」

「聞いて……?」

「ええ。怒らないから、何でも言ってみなさい」

 そう、笑い掛けてみる。すると、顔を赤くしながら、私を見て、

「じゃあ……その……」

 と、話しを切り出した。

「いや……実はさ……」

「実は?」

「えっと……さっき、雪乃が、ねぇ……」

「ええ」

「その……かなり、歳の差のある、おじさんと、その……」

「……」

「ら……ら……ら、ら……」

「ラブホテル?」

「……////」

 真っ赤になった。

「……いや、見間違いだとは、思ったんだけどさ……今朝から何だか、お金のことで悩んでたみたいだし……放課後、龍牙先生に押し倒されてたし……もしかして雪乃、その、え、え、え……」

「援助交際?」

「……////////」

 余計に真っ赤になった。

「えと……見間違い、かな? べ、別に、雪乃のことが心配とか、あんなおじさんの相手するくらいに追い詰められてるって心配になったとかじゃなくて、ただ純粋に、和総部の仲間が、そんなことをしてるわけないって、確かめたいからであって……////」

 ふむ……周囲には警戒していたつもりでしたが、見られておりましたか。

 知人の気配も見逃すとは、平和な世界にいたせいで勘が鈍ってしまいましたか……

「安心して。誰を見たのか知らないけど、私じゃないわ」

 まあ、それでも否定はしておきますが。彼女はそれを望んでいるようですし。

「本当? でも、あの顔に、あの、紫色の髪は、どう見たって……」

「どう見ていたのか知らないけど、遠くから見たら、似たような顔つきをしていれば見間違えると思うわよ。それに、紫色の髪なんて、私だけじゃないでしょう」

「そう……?」

「そうよ。私の知ってる人に、最近五人目の赤ちゃんを産んだ奥さんがいるけど、その人も、むしろ私よりも濃い紫色の髪をしていたし」

「そうなの……?」

「そうよ」

 五児の母親とは思えないほど、若々しいお顔と快活な性格をしていて、髪を結ぶリボンがよく似合うことから、教室内のお友達からは『リボンちゃん』の愛称で親しまれていました。

 ちなみに、清掃会社を経営しているというご主人とは、ご近所でも評判のおしどり夫婦らしく、六人目もすぐにできるだろう、という噂が……

 ……ということはさておき、

「はっきり断言しておくけど、私じゃないわ」

 もっとも、実際は私に間違いないでしょうけど……

「……」

 断言はしたものの、まだ疑いの目を向けておられる。

「……何なら、調べてみる?」

「……へ?」

 声を掛けつつ、ツァンさんに近寄ります。

「ちょ、な、なに……////」

 えーっと……なるべく誘うような声を出しつつ、目は流し目、且つ上目遣いで、体を密着させつつ、腕は腰に回して……

「何なら、今すぐここで、全部脱いであげましょうか……?」

「え……////」

 このタイミングで、耳元に口を近づけぇーの……

「私の体の……隅から隅まで、調べてみる……? キスマークとか、やらしい跡がついてないか……?」

 この時、吐息が軽くぶつかるよう、耳の穴目掛けて囁くのがコツだそうです。

「////////////////」

 やだ、真っ赤……

「……い、いいよ//// 疑ってごめん//// と、とにかく、離れて……////」

 言われた通り離れます。

 ふむ。そういう行為を疑われた場合は、むしろ強気で攻めて全てを見せつける気で相手の同意を誘い出す。あの本に書いてあった通り、解決できた。

 で、ここで更に一言。

「ツァンたら、意外に初心(うぶ)な子ねぇ……」

「////////////////」

 ふむ……なぜ赤くなるかは理解できかねますが、取り敢えず、ごまかせた、のか?

「……そういうツァンこそ、こんな時間まで出歩いて、まだ帰らなくていいの?」

 話しを終えたので、多少強引ですが、話題を転換しました。

「僕は……ああ、そうだった」

 ツァンさんは急に、何かを思い出したという声を上げて、体の向きを変えました。

「ツァン?」

「ごめん。僕もこれから用事あるから。本当、疑ってごめんね」

「構わないわよ。私の体が見たくなったら、いつでも見せてあげるから。いつでも飛び込んでらっしゃい」

「ぶっ……//// バカなこと言うんじゃないよ!////」

 叫び、赤面しながら、走り去っていきました。

「……何だか、楽しくなってきた。藤原雪乃……」

 芝居とは言え、段々癖になって参りました……

 ただ、実際にそんなことになったら、さすがにまずいですが。

 裸なんて見られたら、私の性別が速攻でばれてしまう。いざ見せろと言われた時はどうにかしてごまかす努力が必要です。

「……というのはさし置いて……」

 ツァンさんの去っていった方を、もう一度見る。ツァンさんの背中は既に小さいが、先程の声を聞いた限り、何やら焦っているように思えました。

「……」

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:外

 

「……」

 

 夜中の街の、とある一角。人通りが少なく、光も、大都会のシティの中にありながら、比較的少ない、薄暗い場所。

 そんな場所に佇み、右手の手紙を握り締めながら、ツァン・ディレは、何かを待っていた。

 

「よぉ……」

 

 そこに、だいぶ低目な、妙にドスの効いた女性の声が響いた。

 その方向へ、ツァンが振り向くと、案の定、女が立っていた。

 歳の頃は、ツァンと同じくらいだろう。髪の色は灰色で、長さはツァンとさほど変わらないが、ツァンに比べれば癖が少なく、首の上へサラリと伸びている。

 また、ツァンも目を細めれば、それなりにきつめな目付きをしているが、彼女のそれは、それ以上に、見る者を怯ませ、尻込みさせるほどの威力を誇る、鋭利さを備えた目だった。

「久しぶりだなぁ。会えて嬉しいぜ」

「……」

 笑顔で語り掛ける少女に対し、ツァンの反応は、芳しいものではなかった。

 あからさまに表情を歪め、嫌そうな顔を見せつけるように、少女を見ていた。

「……おいおい、なんだよ。そんな顔するなよ。昔、二人でブイブイ言わせた仲じゃあねーか……」

「用があるなら早くしてくれない?」

 少女の言葉を遮るように、ツァンが言葉を挟んだ。

 顔と同じく、明らかに嫌だという感情を隠そうともしない。それは話題の振りではなく、苦情だった。

「ご機嫌斜めだな。手紙の相手が俺だったのが、そんなに不満だってのか?」

「相手が君だってことくらい分かってたよ。携帯メールが普通なこの時代に、ラブレターでもないのにわざわざ手書きの手紙を出す奴なんて、君ぐらいしかいないんだから」

「あー、そうかい。分かってて来てくれたってわけかよ」

「僕もいい加減、君との関係は、はっきり解消させたかったからね」

「……言ってくれるじゃん」

 それまで微笑を含ませていた少女の顔が、一気に険しく変わった。

「一体どうしたってんだよ? 昔はよく二人で、生意気な奴は男だろうが教師だろうが、端から順にぶっとばしていったじゃねえか。決闘アカデミアで久しぶりに再会したと思ったら、目を合わせもせず無視ばっかしやがってよ」

「昔の話でしょう。僕はもうそんなバカみたいなことしないよ。今日はそれを言いにわざわざ呼び出されてあげたんだ。君とはもうこれっきりだよ」

「なんだとぉ……」

 ツァンの、突き放した冷たい言葉に、少女の顔が、一気に険しくなった。

「そうかよ……お前がそういう態度でくるってんなら、こっちも考えがあるぜ。明日から、お前が大事にしてる、わ……何とか部の連中、端から一人ずつボコボコにしてこうか……?」

「な……!」

 突然の申し出に、ツァンは、反論しようとした。しかし、その前に、

 

「面白そうなこと言うわねぇ」

 

 と、そんな、低めながらも艶っぽい声が、二人の耳に届いた。

「誰だ? どこにいやがる」

 謎の声の主に、少女が呼び掛ける。すると、その謎の声は、楽しそうに微笑しながら、答えを返した。

「私、藤原雪乃。今、あなたの後ろにいるの」

「うお!」

 どこかの怪談話のような台詞で、少女の背中から呼び掛けられる。

 それに、少女はその体を飛び上がらせ、その場から飛び退いた。

「ゆ、雪乃……なんで、君がここに……?」

 顔見知りであるツァンは、疑問を語り掛けた。

「あなたの様子がおかしいと思ったから、悪いとは思ったけど、追い掛けてきちゃった」

 雪乃は、悪いとは言いつつ、全く悪びれず、むしろ楽しそうに、ツァンに説明した。

 そんな雪乃の反応に、ツァンは、米神の辺りに痛みを覚えつつ、顔を引きつらせた。

「おい、誰だよ、その絢爛な女は? 俺を無視するんじゃねえ」

 だが、そんな二人に少女は、面白く無さそうな声を上げる。

 それに対し、雪乃は冷たい視線を送りながら、ツァンの隣に移動した。

「今名乗ったでしょう。藤原雪乃よ。ツァンの、和総文化部での仲間」

 名乗りながら、ツァンの腰に、嫌らしく手を回し、首元に、自身の口元を近づける。

「このツァンとは、お互いの匂いや、ほくろの数まで知り尽くしちゃった仲よ……」

 また、微笑みながら、見せつけるように、少女に対して言った。

「な……な……////」

「……おい、ツァン、お前、ト一ハ一だったのか……それなりに長い付き合いだと思ってたけど、知らなかったぜ……」

「といちはいち……////」

(よくもまぁ、そんな……私ですらギリギリ知っているだけの古い言葉を……)

 雪乃の言動に、顔を真っ赤に染めるツァン。ツァンを見て、顔を真っ青にする少女。少女に対し、内心で関心する雪乃。三者三様、対照的な反応を示したところで、

「んなわけないでしょう!!//// 雪乃は変なこと言わないでよ!!////」

 真っ赤な顔のまま、雪乃を振り払い、叫んだ。

「うふふ……ツァンたら、可愛い」

「……////////」

「まあいいわ。冗談はここからにして」

「……ここから?」

「ここまでにして……そこのあなた」

 楽しそうにしていた顔つきを一変、鋭い眼光を、目の前の少女に向ける。

「要するにあなた、ツァンだけじゃなくて、和総部を敵に回す、ということかしら?」

「だ、だったら何だよ……」

「和総部を敵に回すと言うことは……この私を敵に回すことと考えて、問題ないわよね」

 全てを破壊せんばかりの殺意を少女に向けながら、雪乃は、言い放った。

「はぁ? なに言って……いや、そうか。お前か。久しぶりにアカデミアに来てみりゃ、噂になってるぜ、お前のこと」

 雪乃をマジマジと見ながら、少女は不敵な笑みを見せる。

「決闘も強え上に、腕っぷしの方もかなりのもんだってなぁ。それで、俺とやり合おうってのか?」

「あなたにそれだけの勇気があるのならね」

 お互いに、相手を挑発する視線を浴びせつつ、強烈な殺気をぶつけ合う。

「面白れぇ……」

 少女はそう言うと、右手に拳を握り……

 

 ボコォッ……

 

 手近に植えられていた木に突き立てる。その木の、つき立てられた部分には、丸いへこみができた。

「誰だか知らねえが、喧嘩百段、決闘百段の俺に勝てると思ってんのかよ」

「喧嘩百段……それはすごいわね」

 雪乃は驚きつつ、同じように左手の拳を握り……

 

 ドガァッ……!!

 

 手近に建てられていた、電柱に突き立てる。その電柱の、殴られた部分にヒビが入った。

 

 グラ……

 ス……

 

「私の持つ、柔道五段、合気道六段、空手道四段、剣道十段、弓道二段、全部足しても七十と三段ほど届かないわね。決闘の段位なんて持ってないし」

「……」

 その独白に、少女の、そして、ツァンの顔が僅かに引きつる。

「……雪乃、今更だけど、君、何物……?」

「気にしないで。私も、昔は若かった時代があったのよ」

「いや……あんた、僕らと同い年でしょうに……」

 もちろん、雪乃がこの段位を全て持っているのは事実である。もっとも、それは藤原雪乃ではなく、水瀬梓の持つ段位であるのだが。

 

 グラ……

 ス……

 ズンッ!

 

「まあどうでも良いわ。相手になってあげるから、やるなら来なさいよ。もっとも、そうなると、命の保証はできかねるけれどね」

「……」

 さすがの少女も、その雪乃の力には怯んだようだった。

 そのまま逃げ帰り、この問題も終わる。そう、思われたが……

「ちょい待ち、雪乃」

 雪乃の後ろで、成り行きを傍観していたツァンが、前に出てきた。

「悪いけど引っ込んでて。これは一応、僕の問題だからね」

「僕のって……あなた、この娘に勝てるの?」

 勇んで前へ出たツァンに対し、雪乃は、無遠慮に言い放つ。

「はっきり言って、あなたが百人いたって、この娘に勝てるようには見えないけど」

「ハハハ……確かにね。ついでに君相手なら、僕が一万人に、岬が加わっても、絶対に勝てないだろうね……」

「みさき?」

 突然ツァンの口から発せられた、初耳の言葉に、雪乃は疑問を浮かばせた。

「……そう言えば言ってなかったね。『ジャッカル(みさき)』。彼女の名前」

 少女……岬を刺しながら答える。だが、雪乃は興味が無いという顔だった。

「あなた達にどんな過去があったのかは知らないけど、この子はあなたに嫌なことをさせようとして、私の仲間達まで危険にさらそうとしているわ。私がこの子を殺さない理由は無いでしょう」

「……え、殺す気……?」

「……心配しないで」

 その一言に、顔を歪ませていたツァンの表情に、安堵が浮かぶ。

「死体を残すヘマはしないわ」

「そういう問題じゃない!!」

 絶叫しながらツァンは、冷徹に微笑む雪乃の前に、強引に出ていき、岬と向かい合った。

「岬! 僕と決闘しよう!」

「……はぁ? 何でそうなる?」

 雪乃の恫喝と、ツァンの慌てぶりに、混乱やら恐怖やらの感情がないまぜの岬は、突然の言葉に疑問を浮かべた。

「僕と君で、決闘して敗けた方が勝った方の言うこと聞く。これでいいよね? 雪乃もいいよね? ね?」

「お、おいおい、ツァン……」

「……ツァンがそれで納得するっていうなら……」

 言われた雪乃は、歪めていた顔を伏せながら、一歩下がった。

 それを見ながら、ツァンは、岬の耳元に口を近づける。

(逆らわない方がいいよ。雪乃、仲間の悪口や危険には敏感なんだよ。多分、僕のために本気で君のこと殺そうとする……)

(……いや、そりゃ分かったがよ、決闘が決着したからって、あの豪傑女、納得するのか?)

(大丈夫。雪乃は決闘の結果には忠実だから……)

 囁き声で、諭すように言うツァンに対して、それでも岬は、疑問を浮かべた。

(だがよ……お前としても、このまま俺が、あいつに殺られた方が渡りに船なんじゃねえのか?)

 その、もっともな疑問に対して、ツァンは、顔を高揚させながら、視線を逸らす……

(そりゃ……君のことなんて、大嫌いだし……君とは、昔みたいには、戻れないけど……でも……)

 最終的には、顔を真っ赤にし、全力で視線を泳がせながら……

(けど……やっぱ、昔の僕には、君って人が必要だったわけだし……君がいたから、楽しかった、から……今の友達に、昔の友達がケガさせられるの、見たくないっていうか……////)

(……)

 そんなツァンに対して、岬は、苦笑するしかなかった。

(……素直じゃねえよな。お互いによ……)

(は……?)

「何でも無え!」

 最後にそう叫び、互いの距離を取り、決闘ディスクを装着する。

「さっさと始めようぜ」

「う、うん……!」

 ツァンもそれにならい、決闘ディスクを取り出し、左手に装着する。

 二人同時にデッキをセットし、オートシャッフルが行われる。

 

『決闘!』

 

 

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

ツァン

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

 

「さあて……先行は俺だな。ドロー」

 

手札:5→6

 

「……カードを二枚伏せるぜ。そして、『可変機獣 ガンナードラゴン』を召喚だ!」

 

『可変機獣 ガンナードラゴン』

 レベル7

 攻撃力2800

 

 勢いよく、彼女がカードをセットした時、赤い洗車のキャタピラに、竜の頭がくっついたような、巨大なモンスターが現れた。

「こいつはレベル7だが、生贄無しで召喚できる。その時、攻撃力と守備力は半分に下がるが……」

 岬のその言葉により、勇ましかった顔が、忌々しげに歪んだように見えた。

 

『可変機獣 ガンナードラゴン』

 攻撃力2800/2

 守備力2000/2

 

「……リリースでしょう。生贄なんて、何年前の呼び方だよ」

「るっせえ。俺はこっちのが慣れてんだよ。俺はこれでターンエンドだぜ」

 

 

LP:4000

手札:3枚

場 :モンスター

   『可変機獣 ガンナードラゴン』攻撃力2800/2

   魔法・罠

    セット

    セット

 

 

「相っ変わらずそういうの好きだよね……その伏せカードもいい加減読めるし……」

「はんっ、だったら好きにしてみろってんだ」

「僕のターン」

 

ツァン

手札:5→6

 

「速攻魔法『サイクロン』。セットされた魔法・罠カードを破壊できる。僕は、君から見て右側のカードを破壊」

「ちっ……」

 岬が舌打ちををする間に、指定された伏せカードが巻き上げられる。

「……やっぱ『スキルドレイン』か……」

「けっ……」

 

(『スキルドレイン』……確か、フィールド上のモンスターの全ての効果を無効にする永続罠……なるほど。そういうデッキか……)

 

「さて……僕は、永続魔法『六武の門』を発動」

 ツァンもまた、ディスクにカードをセットする。その瞬間、彼女の後ろに、緑色に輝く巨大な門が出現した。

「『六武の門』……?」

 

(ふむ……懐かしいカードだ……)

 

 雪乃が、回顧の念に駆られている間に、ツァンは次なる手を投じる。

「まずは、『六武衆-ニサシ』を召喚!」

 

『六武衆-ニサシ』

 レベル4

 攻撃力1400

 

「『六武衆』が召喚、特殊召喚されたこの瞬間、『六武の門』に武士道カウンターが二つ乗る」

 

『六武の門』

 武士道カウンター:0→2

 

「更に、フィールドに六武衆と名の付くモンスターが存在することで、『六武衆の師範』を特殊召喚できる」

 

『六武衆の師範』

 レベル5

 攻撃力2100

 

『六武の門』

 武士道カウンター:2→4

 

「何だそりゃ……お前、昔はもっと、単純に攻撃力で殴るデッキじゃなかったか……?」

「僕だって、いつまでもワンパターンな決闘者じゃないんだよ。君とは違ってさ」

「……」

「ここで、『六武の門』の効果。武士道カウンターを二つ取り除くごとに、六武衆一体の攻撃力を500ポイントアップさせる。僕はこの効果を二度使って、ニサシの攻撃力を1000アップさせる」

 

『六武の門』

 武士道カウンター:4→2→0

 

『六武衆-ニサシ』

 攻撃力1400+500×2

 

「攻撃力2400……」

「そして、ニサシはフィールドにニサシ以外の六武衆がいる時、二回攻撃ができる」

「マジかよ……」

「バトル!」

 全ての準備を整え、ツァンが、バトルフェイズを宣言する。

「『六武衆-ニサシ』で、ガンナードラゴンを攻撃! 風刃・(はじめ)の太刀!」

「……罠発動!」

 ツァンの宣言に従い、緑の鎧武者が、赤い恐竜戦車に突撃する。

 二本の刃を豪快に振りかざし、その巨体を細切れにした。

「ちっ……」

 

LP:4000→3000

 

(よし。これで残った二体の攻撃が通れば……)

「続いて、ニサシの効果で……え?」

 ツァンが、二度目の攻撃を宣言しようとした時だった。

 既に構えていたニサシが、その身を光に変え、徐々に、その姿を消していた。

「な、なに?」

「残念だったな」

 混乱しているツァンに対して、岬が、余裕そうな声で声を掛ける。

「俺は、ニサシが攻撃してきた瞬間、永続罠『門前払い』を発動させてたんだよ」

「『門前払い』……?」

 

(……そういうデッキだったか……)

 

 納得する雪乃を尻目に、岬は、ツァンに対して言葉を紡いだ。

「こいつがフィールドにある限り、お互いに相手に戦闘ダメージを与えた時、そのモンスターは手札に戻されちまうのさ」

「な……!」

 岬が説明を終えると同時に、ニサシは完全に姿を消し、ツァンの手札へと戻っていった。

 

ツァン

手札:2→3

 

「くぅ……」

(どうしよう……師範で攻撃できるけど、そしたら今度は師範が手札に戻される。他に六武衆がいないから特殊召喚もできないし、僕のフィールドはがら空きになっちゃうか……仕方がない)

「カードを一枚伏せる。ターンエンド」

 

 

ツァン

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『六武衆の師範』攻撃力2100

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』武士道カウンター:0

    セット

 

LP:3000

手札:3枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続罠『門前払い』

 

 

「さて……俺のターン、ドロー!」

 

手札:3→4

 

「見せてやるぜ。成長してんのは、お前だけじゃねえってことをよ。俺は『光神機(ライトニングギア)桜花(おうか)』を召喚!」

 

『光神機-桜花』

 レベル6

 攻撃力2400

 

「こいつも、レベル6だが生贄無しで召喚できる。その場合、エンドフェイズに墓地へ行っちまうがな」

「そんなモンスター出して……やっぱ、攻撃力で殴るデッキなんじゃないか」

「どうだかな。バトルだぜ!」

 その宣言で、桜花は師範を見据えながら、その四足を低く構える。

「桜花で、『六武衆の師範』に攻撃いくんでよろしく!」

 

(よろしく……?)

 

 雪乃が疑問を感じる間に、桜花の攻撃が師範を仕留めた。

「くぅ……!」

 

ツァン

LP:4000→3700

 

「そして、相手にダメージを与えたことで、桜花は手札に戻る」

 

手札:3→4

 

「……て、攻撃力で殴って、おまけに自分の永続罠で手札に戻して、成長どころか悪くなってるじゃん……」

 

「……そうでもないわ」

 

 毒づくツァンに対し、そう声を掛けたのは、雪乃だった。

「確かに、彼女の戦術の基本は、デメリットを持った高攻撃力のモンスターで殴り勝つデッキのようね。けど、『門前払い』の効果で手札に戻ったことで、エンドフェイズでの破壊を防いだ」

「それは、確かに……」

「つまり、彼女はデメリットアタッカーを破壊させること無く、何度でも使いこなせるということ。しかも、『門前払い』の効果で、ダメージは受けても手札に戻すことができて、防御もできている、ということよ」

 そこまで聞き、ツァンは、改めて岬を見る。

「岬が……頭を使ってる、だと……」

「どういう意味だコラ!」

 一世代前の少女漫画の如く、白目を向け、口に手を当てながら驚愕するツァンに対し、岬は声を上げた。

「……まあいい。カードを一枚伏せる。俺はこれでターンエンドだ」

 

 

LP:3000

手札:3枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続罠『門前払い』

    セット

 

ツァン

LP:3700

手札:2枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』武士道カウンター:0

    セット

 

 

「……僕のターン」

 

ツァン

手札:2→3

 

「……」

 手札とフィールドを交互に見やりながら、次の手を考える。しかし、今の状況で、都合の良い手を思いつくはずもなかった。

(まずは、あの『門前払い』を何とかしなきゃいけないよなぁ……けど、それをどうにかできるカードは、今手札に無いし……仕方ない)

「僕は、永続魔法『六武衆の結束』を発動。そして、『六武衆-ニサシ』を、今度は守備表示で召喚する」

 

『六武衆-ニサシ』

 レベル4

 守備力700

 

「そして、この瞬間、二枚の永続魔法に武士道カウンターが乗る。門に二個、結束に一個」

 

『六武の門』

 武士道カウンター:0→2

『六武衆の結束』

 武士道カウンター:0→1

 

「ターンエンド」

 

 

ツァン

LP:3700

手札:1枚

場 :モンスター

   『六武衆-ニサシ』守備力700

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』武士道カウンター:2

    永続魔法『六武衆の結束』武士道カウンター:1

    セット

 

LP:3000

手札:3枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続罠『門前払い』

    セット

 

 

(これで取り敢えず、ライフは守れる……)

「……俺のターン」

 

手札:3→4

 

「俺は魔法カード『トレード・イン』を発動。手札のレベル8モンスター一体を捨てて、カードを二枚ドローするぜ。手札のレベル8モンスター『光神機-轟龍(ごうりゅう)』を捨て、二枚ドロー」

 

手札:2→4

 

「……どうせ、一ターンに召喚できるモンスターは一体だけだ。そう思ってんだろう……?」

「え?」

「残念だったな。俺は永続魔法『神の居城-ヴァルハラ』を発動するぜ!」

 岬が宣言した瞬間、三人の立っていた、暗い路地裏は、眩しいほどの白に包まれた、光り輝く大理石の玉座と柱、真紅のカーテンに包まれた空間へと変わった。

「こいつが場にある限り、相手の場にのみモンスターがいる時、俺は手札の天使族を特殊召喚できる。レベルの関係無しにな」

「て、ことは……」

「そういうこった。俺は手札の天使族、『光神機-桜花』を特殊召喚!」

 

『光神機-桜花』

 レベル6

 攻撃力2400

 

「これでエンドフェイズに墓地へ行く心配は無くなったが、畳みかけるぜ。『邪神機(ダークネスギア)獄炎(ごくえん)』を召喚!」

 

『邪神機-獄炎』

 レベル6

 攻撃力2400

 

「こいつも生贄無しで召喚できる。そして、エンドフェイズにこいつ以外のアンデット族がいない場合は墓地へ行って、俺はこいつの攻撃力分のダメージを受ける」

「く……けど、ニサシは守備表示だから、一体の攻撃は防げる……」

「甘えよ」

「へ?」

「バトルだ! まずは桜花で、『六武衆-ニサシ』を攻撃!」

 声を上げ、先程と同じように、桜花が、ニサシへと向かっていく。

「この瞬間、伏せカードを発動! 速攻魔法『エネミーコントローラー』! こいつで、相手フィールド上のモンスター一体の表示形式を変更できるぜ!」

「なっ!」

 ツァンが驚いている間に、座っていたニサシは、その場に直立した

 

『六武衆-ニサシ』

 攻撃力1400

 

 そして、そのニサシを、桜花は破壊した。

「うぁ……!」

 

ツァン

LP:3700→2700

 

「戦闘ダメージを与えた桜花は、手札に戻る」

 

手札:1→2

 

「そして、獄炎で、ツァンに直接攻撃だ!」

「うわああああああ!」

 

ツァン

LP:2700→300

 

「うぅ……」

「これで獄炎も手札に戻るぜ」

 

手札:2→3

 

「そして、カードを一枚、場に伏せてターンエンド」

 

 

LP:3000

手札:2枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続罠『門前払い』

    永続魔法『神の居城-ヴァルハラ』

    セット

 

ツァン

LP:300

手札:1枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』武士道カウンター:2

    永続魔法『六武衆の結束』武士道カウンター:1

    セット

 

 

「うぅ……」

 手札を、フィールドを見ながら、ツァンは歯噛みし、表情を曇らせた。

「どうしたよ? もう諦めちまったか?」

「……! ぼ、僕のターン」

 ツァンに対して、嘲りながら掛けられた岬の言葉に、ツァンは、急いでカードを引いた。

 

ツァン

手札:1→2

 

「……罠発動『六武衆推参!』。墓地の六武衆一体を特殊召喚できる。僕は墓地から、『六武衆-ニサシ』を特殊召喚」

 

『六武衆-ニサシ』

 レベル4

 攻撃力1400

 

「確か、そいつは二回攻撃だったか……けどな! 仲間の六武衆がいなけりゃ、その効果は発動されねえ、だろう」

「うん。だから、仲間を呼ぶ」

「なに……?」

「忘れたの? 僕のフィールドに六武衆が特殊召喚されたことで、二枚の永続魔法に武士道カウンターが乗る」

 

『六武の門』

 武士道カウンター:2→4

『六武衆の結束』

 武士道カウンター:1→2

 

「まずは、『六武衆の結束』の効果。これを墓地へ送って、これに乗った武士道カウンターの数だけ、カードをドローする。武士道カウンターは二つ。二枚ドロー」

 

ツァン

手札:2→4

 

「『六武の門』の効果。武士道カウンターを四つ取り除いて、デッキか墓地から六武衆モンスターを一枚、手札に加える。僕はデッキから、『六武衆-ヤイチ』を手札に加える」

 

『六武の門』

 武士道カウンター:4→0

 

ツァン

手札:4→5

 

「……使うか分からないけど、永続魔法『紫炎の道場』を発動。このカードも、六武衆が召喚、特殊召喚される度、武士道カウンターを一つ置く。そして、ヤイチを通常召喚」

 

『六武衆-ヤイチ』

 レベル3

 攻撃力1300

 

『六武の門』

 武士道カウンター:0→2

『紫炎の道場』

 武士道カウンター:0→1

 

「ヤイチのモンスター効果! フィールド上にヤイチ以外の六武衆がいる時、このターンの攻撃を放棄することで、相手の場にセットされた魔法・罠カード一枚を破壊できる。僕は、岬のフィールドの、その伏せカードを破壊!」

「……永続罠『リビングデッドの呼び声』、発動だ!」

「……へ?」

「墓地のモンスター一体を特殊召喚する。俺は墓地の、『光神機-轟龍』を特殊召喚だ!」

 

『光神機-轟龍』

 レベル8

 攻撃力2900

 

「……え? あれ? 破壊されない?」

 

「……ツァン、まさか、あなた分かってないの?」

 

「はい?」

「……ヤイチの効果をよく読め」

 本当に分かっていないツァンに対して、岬が呆れながら、説明を始めた。

「あのな……ヤイチの効果は、セットされた魔法・罠カードを破壊する効果だろう。つまりだ、発動されちまえば、永続で場に残ろうがセットされた状態じゃなくなる。だから、ヤイチの効果じゃ破壊されねえ」

「あ……」

 ようやく理解したように、声を出した。

「で、でも、いくら攻撃力が高くたって、『門前払い』の効果ですぐに手札に……」

「……お前、自分の状況忘れてねえか? 轟龍の攻撃力は2900、そっちの残りライフ300ぽっちっきゃねえ。仮にその二体のどっちかで自爆特攻したとしたら、その瞬間テメェのライフは0。敗北決定だぞ」

「……」

 やろうと考えたこと全て、正論で否定される。結果、思考が停止し、手が止まった。

「で? どうすんだよ?」

「……」

 岬の問い掛けに、ツァンはただ俯き、答えることはできない。

「……」

「だからお前はダメなんだよ……」

 既に、表情から戦意が抜け落ちてしまったツァンに対して、岬は、呆れながら言った。

「昔っからいっつもそうだったよな。短気でキレ易いくせに、何か難しいこと目の前にしたらすぐ黙っちまっちまってよ。決闘でも、終始自身満々にプレイしといて、今みたいなまずい状況になっちまったらすぐに諦めて……俺に勝ったこと、一度も無かったしな」

「……」

「所詮お前は、どこまでも中途半端な奴なのさ。グレ方も半端。変わったとか言ってもそれすら半端。昔っからお前は、俺がいなきゃなんにもできねえ、中途半端な奴なのさ」

 指さしながら、言い放つその言葉に対して……

「……」

 ツァンは、何も返すことができなかった。

「ほら、決闘続けるのか? それともサレンダーしちまうのか? どっちにしろ早くしな」

「……」

 岬の言葉と、フィールドの状況。それを見ながら、考えた。

(岬、本当に強くなったんだな……僕が助けられてた頃より、ずっと……じゃあ、僕は……?)

 ディスクにセットされたデッキを見ながら、このデッキを使うことになったキッカケに、思いを馳せる。

 彼の決闘を見たのは、テレビで放送されていた、二度だけ。

 最初から最後まで、美しく、鮮やかで、流れるように、見事にカードを操っていた。

 そんな戦術に一目惚れして、同時に、そのデッキを使っているのが、自分を変えてくれた人だということを知って、このデッキで、自分も闘ってみたい。そう思った。

 少なくとも、アカデミアでは、このデッキで敗けたことは無かった。

 カテゴリは同じだけど、彼の使っていた物とは少し違うから、戦術も違ってくる。

 それでも、自分なりにこのデッキの、カードのことを研究し、使いこなせるよう努力をした。そして、少なくとも、昔の自分に負けないくらいには、強くなったと自負していた。

 

 しかし、目の前の岬は、自分のようにデッキを大きく変えたわけでもないのに、自分らしさを失わないまま、過去とは比べものにならないほどに強くなっている。

 デッキを変え、戦術を変え、生き方を変えた、そんな自分のこれまでを、根こそぎ否定してしまえるだけの力で、圧倒している。

「……」

 勝てない……

 今まで一度も勝てなかったように、今も勝てない。

 そして同時に、思い知った。

 いくら変わろうと努力したところで、結局自分は、助けられてばかりいた。

 過去には岬に。今は雪乃に。

 昔から、何も変わってはいなかった。

 そんな自分が、最初から決闘で強くなることなど……

 

「分かってないわねぇ……」

 

 ツァンが、デッキの一番上に、手を置こうと考えた、その瞬間だった。

 そんな、艶っぽい、低目な女性の声。それが、後ろから聞こえてきた。

 

「あなたが、今までのツァンの何を知っているのか知らないけど、ツァンは、そんな単純な娘じゃないわよ」

 

 振り返ると、雪乃が鼻を鳴らしながら、岬に対して、滑稽だという目を向けていた。

「なんだお前? 決闘に口出しは厳禁だぜ」

「別に口出しする気は無いわ。ただ、言いたいことは言わせてもらうわ」

 そして、岬を見ながら、言葉を続けた。

「私は、昔のツァンがどうだったかなんて知らないわ。まあ、昔の友達だったっていうあなたを見た限り、中々弾けてたようだけど」

「……」

「昔がどうだったかはどうあれ、誰にだって過去はある。過去からいくら変わろうとしたところで、過去自体が無くなってしまうわけじゃない。誰にでも、忘れたくても忘れられない過去はあるわよね。ツァンもそうなんでしょうね」

「けどね、たとえ無くならない過去だとしても、そこから変わろうと頑張った積み重ねが、今なんじゃないかしら?」

「……なに言ってんだ?」

 岬の問い掛けに、雪乃は続ける。

「ツァンは言っていたわ。ちょっとだけ我慢したら、それまで見えなかったものが見えたって。誰だって、見たくないと思っているものでも、見なきゃいけなくなる時は必ず来る。ツァンの場合、それが恩師との出会いがキッカケだったようだけど、それがキッカケで変わりたいと考えたなら、それだって、彼女の立派な成長よ。少なくとも、あなたみたいな人に否定される筋合いはないくらいにはね」

「……」

「なにをぉ……?」

 雪乃の物言いに、岬は目を細め、声を上げた。

「それは、あなたも同じじゃないの?」

「なに?」

「あなた、どうして今更ツァンの前に現れたのかは知らないけど、ただ、見たくないだけじゃないの? 昔とは変わったツァンを」

「は……?」

「昔と違って、自分のそばから離れていって、変わったツァンのことを」

「な……!」

 そんな指摘を受けて、岬の顔が、完全に図星へと変化した。

「岬……?」

「う、うるせえ! 俺やこいつがどうなろうが、決めるのはこの決闘の勝利者なんだよ。お前のターンだ、ツァン。さっさと続けやがれ」

「う、うん……」

 と、岬に言われて、再びデッキに目を戻す。

 しかし、それでも直前まで感じていた、敗北は、拭えないままでいる。

 

「思い出しなさいよ。梓先生って人のこと」

 

「へ?」

 雪乃の言葉で、また、ツァンは、雪乃の方へ振り返る。

「あなたが、デッキを真似するくらい憧れた、梓先生って人、こんなところで諦めるような人だったの?」

「そ、それは……」

 そう言えば、と、ツァンは思い出した。

 同じアカデミアに通う、同い年の学生……かつて、『黒薔薇の魔女』と呼ばれていた決闘者、十六夜アキ。

 二回戦で、彼は、彼女と決闘をした。途中までは優勢だったが、やがて押し返され、互角になり、そして、不利になってしまった。

 しかし、彼はそれでも、弱気を見せることはしなかった。むしろ、最後まで彼女と向かい合い、かつての自分にそうしてくれたように、彼女に必要な言葉を掛けることさえしていた。

 彼は、最後まで諦めず、最後まで、最高の決闘を貫いていた。

「……」

 そんな姿を思い出しながら、再びデッキを見る……

(僕は……)

 そして、手札を見る……

「……」

 こんな時、彼はどうしていた……?

 彼ならこんな時、どんな決闘をしていた……?

「……」

 

 

ツァン

LP:300

手札:3枚

場 :モンスター

   『六武衆-イロウ』攻撃力1400

   『六武衆-ヤイチ』攻撃力1300

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』武士道カウンター:2

    永続魔法『紫炎の道場』武士道カウンター:1

 

LP:3000

手札:2枚

場 :モンスター

   『光神機-轟龍』攻撃力2900

   魔法・罠

    永続罠『門前払い』

    永続魔法『神の居城-ヴァルハラ』

    永続罠『リビングデッドの呼び声』

 

 

 フィールドを見て、残りの手札を見て、墓地を見て……

 やがて、やるべきことを、理解する。

「このターンで……勝てる!」

「なに……?」

 岬の驚きの声を無視しながら、ツァンは、やるべきことを再開した。

「僕は装備魔法『漆黒の名馬』をヤイチに装備、攻撃力、守備力を200ポイントアップする」

 

『六武衆-ヤイチ』

 攻撃力1300+200

 守備力800+200

 

「更に、速攻魔法『六武衆の荒行』! フィールドの六武衆一体を選択し、その攻撃力と同じ攻撃力の六武衆をデッキから特殊召喚できる。僕は、ヤイチと同じ攻撃力1500の、『六武衆-カモン』を特殊召喚する!」

 

『六武衆-カモン』

 レベル3

 攻撃力1500

 

『六武の門』

 武士道カウンター:2→4

『紫炎の道場』

 武士道カウンター:1→2

 

「この効果で選択したヤイチは、ターン終了と同時に破壊される。カモンの効果。ヤイチとは逆に、フィールドにカモン以外の六武衆がいる時、このカードの攻撃を放棄して、フィールドの表側表示の魔法・罠カード一枚を破壊できる。僕はこの効果で、『リビングデッドの呼び声』を破壊する!」

「ちっ……!」

 岬の舌打ちと同時に、カモンが放り投げた爆弾が、岬のフィールドの『リビングデッドの呼び声』を爆破。同時に、それによって蘇っていた『光神機-轟龍』をも破壊した。

「こっちの場をがら空きにされたか……だがその後どうするんだよ? 効果を使ったヤイチもカモンも、もう攻撃はできねえ。ニサシの二回攻撃を使うにしても、こっちに『門前払い』がある限り、一度目の攻撃で手札に戻っちまう。『六武の門』の効果で武士道カウンター全部使って攻撃力を上げても、ライフの差は600ばかり届かねえ。何をやっても、俺にとどめは刺せねえぞ」

「確かに……けど、まだ手はあるよ」

 宣言しながら、ツァンは、手札のカードを示した。

「最後の手札……?」

「見せてあげるよ。昔とは違う、成長した僕の、新しい切り札。速攻魔法『六武ノ書』! フィールドの六武衆二体をリリースして、デッキから、六武衆達を束ねる主君を特殊召喚する!」

「主君、だと……?」

「ヤイチとカモンをリリースして……来い! 六武衆達の頂点に立つ最強の武将! 『大将軍 紫炎』!」

 

『大将軍 紫炎』

 レベル7

 攻撃力2500

 

「こいつが、今のツァンのエースかよ……」

「……そして、さっき君が言ったことをする。『六武の門』の効果! 武士道カウンターを二つ取り除くごとに、フィールド上の『六武衆』、または『紫炎』と名の付いた効果モンスターの攻撃力を、500ポイントアップさせる。僕は、この効果を二度使って、紫炎の攻撃力を1000アップさせる」

 

『大将軍 紫炎』

 攻撃力2500+500×2

 

「く……」

「それとさ、岬、さっき君、一つ間違えてたよ」

「なに?」

「もっとも、これは岬に限らず勘違いしてる人が多いんだけど……『六武の門』の効果で取り除ける武士道カウンターは、門自体に乗ったものに限らないんだよね」

「なに……?」

「僕は門の効果で、『紫炎の道場』に乗った武士道カウンター二つを取り除く。これで、更に500ポイントアップさせる!」

 

『大将軍 紫炎』

 攻撃力2500+500×3

 

「攻撃力4000、だと……」

「まあ、仮にニサシに使ったとしても、ライフには100届かなかったけどね」

「くぅ……」

「岬」

 高攻撃力に呆然としている岬に対して、ツァンは、再び語り掛けた。

「君にはさ、感謝してるよ。昔は色々とお世話になって、決闘でも喧嘩でも、たくさん助けられてさ。今でも本当、感謝してる」

「……」

「けどさ、僕だって、いつまでも昔の自分とは違う。梓先生とか、色んな人に出会って、心配掛けたくない人達が増えた。だから、僕はもう、昔みたいには戻らない。君との思い出や、君への感謝は忘れないけど、昔みたいにはもう、戻れないから……」

「……」

 

(……そういうことなのかもしれませんね)

 ツァンの独白に、雪乃はようやく、今日の自分がしたことの罪を、理解できた。

 

「バトル」

 独白した後で、ツァンは、静かに、決闘を終了させるための宣言を行った。

「『大将軍 紫炎』で、岬にダイレクトアタック。獄炎・紫の太刀」

 その、静かな攻撃宣言とは裏腹に、その攻撃は、熱く、激しいものだった。

 

LP:3000→0

 

 

「……じゃあ、約束だから、君には僕の言うこと聞いてもらうからね」

「……」

 敗北した岬と対面しながら、ツァンは、決闘前の約束を持ち出した。

「……分かったよ。女に二言は無え。お前が望むならお前に二度と関わらねえし、何なら、今すぐネオドミノシティから出てってやらぁ」

 岬はあくまで、最初から示していた、強気な態度を崩さなかった。

 そんな岬に対して、ツァンが出した命令は……

「えっと……明日からはサボらないで、ちゃんとアカデミアに通うこと。これが命令だよ」

 その命令に、岬は目を丸くし、ツァンの顔を見た。

「それと……時々だったら、話し掛けてくるくらいは、構わないよ。喧嘩とか、悪いこと以外なら、その……時間さえ空いてれば、いつでも付き合うからさ……」

「お前……」

「話は終わり! 雪乃、帰るよ!」

 それ以上、何も話さない内に、ツァンは雪乃に呼び掛け、背中を向けて歩き出した。

 

「あなたも、中々素直じゃないわね」

「うるさい……////」

 笑いながら、からかいの声を出す雪乃に対して、ツァンはただ、毒づくだけだった。

 

 

「そう言えば……」

 帰り道を歩きながら、雪乃は、決闘中に気になったことを、話すことにした。

「ツァン、あなた、『真六武衆』は使わないの?」

「……」

 『真六武衆』。

 ツァンが、六武衆デッキを使用するキッカケとなった人物が愛用していた、六枚のモンスター達。

 キッカケのモンスター達であり、旧シリーズと呼ばれる彼女の六武衆に比べれば、圧倒的に強力なカード達を、彼女はなぜか、使用していなかった。

「それは……」

 その質問に対しても、ツァンは、言い辛そうに答えた。

「その……真六武衆は、やっぱ、梓先生のカード、だと思ったし……」

「同じ六武衆じゃない」

「そうだけど……それでもやっぱ、僕は梓先生じゃないし、真似しただけじゃ、強くなれないし……だから、それで強くなったとしても、先生は褒めてはくれないと思ったから、まずは、旧シリーズで強くなるところからかなって、思ってさ……」

「……そう」

 その答えに、雪乃自身も、嬉しさを感じた。

 同時に、強く思った。これだけ自分のことを思ってくれている人に、心配を掛けることをしてはならないと。

(ただ……かく言う私の方は、旧シリーズの六武衆達も、『大将軍 紫炎』さえも使用したことが無いのですが……)

 

「それと、もう一つ」

「なにさ?」

「『六武衆推参!』の効果を使った時、ニサシじゃなくて、攻撃力の高い『六武衆の師範』を特殊召喚しておけば、門の効果も合わせて確実に勝ってたんじゃないの?」

「……あ」

 今気付いた。立ち止まりながら、そんな声を上げた。

「……師範が墓地にいたこと、忘れてたんだよ……」

「あらら……」

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 あの後、ツァンと別れ、アキ宅へ帰宅した雪乃は、アキに、そして、アキの両親に対して、謝罪した。

 朝になり、遊星らの家に帰った後で、遊星ら三人に対しても謝罪した。

 そして、今度こそ、二度と同じことをしないと、心から誓った。

 どれだけ過去から変わっても、一度起きてしまった過去は、消えることはない。

 だとしても、それは、過去の姿と同じのままでいい、という理由にはならない。

 過ちを過去に犯したのなら、その過ちを繰り返さないために未来があり、変わるために、今がある。

 かつての教え子の姿から、そのことを学び、雪乃は――梓は、自分が今あるべき姿を、見つめ直すことができた。

(まあ……今の私は、『藤原雪乃』なのですが……)

 

「あ……」

 

 と、アカデミアの校門前まで歩いた時、前からそんな声が聞こえた。

 見ると、そこには、昨夜見たばかりの、灰色の髪をした少女が、制服姿で立っていた。

「あら。サボらないとは言ってたけど、随分早いのね」

「……遅刻はしたくねえからな。じゃあな」

 バツが悪そうに、ぶっきらぼうにそう言い残して、岬は校門から、中へ入っていった。

 

「雪乃」

 

 今度は後ろから、聞き覚えのある声が聞こえた。

「あら、おはよう。ツァン」

「おはよう」

 振り返りながら、挨拶をする雪乃に、ツァンもまた、挨拶を返す。返しながら、両手に持っていた紙袋を、雪乃に差し出した。

「あげる」

「なに?」

「肉まん。雪乃、好きでしょう? 朝ご飯のつもりが買い過ぎちゃったからさ……」

 顔を僅かに高揚させながら、無理やり雪乃に押し付けた。

「それと、その……」

「……え? なに?」

 目を背けながら、口を小さく動かす。その言葉が聞き取れず、聞き返した。

「……」

 

「おはよう」

「おはようございます」

 

 と、ツァンがはっきりと言わない間に、また別の声が聞こえた。

 紫と幸子が、並んで歩いてきていた。

 

「あら皆さん、ごきげんよう」

『おはようございます』

 

 更に別方向から、練習中とは違い、制服姿のランと、メイとサクラの三人が、並んで歩いてきていた。

「……おはよう。じゃあ、朝練に行くよ」

 結局、雪乃に対して、はっきりと言葉を言わないまま、ツァンは、大勢の仲間に囲まれながら、アカデミアの中へ入っていった。

 

「……」

 だが、そんなツァンが、雪乃に対して言った言葉。

 声は出ていなかった。しかし、その口の形が、はっきりと、こう動いていたのを、雪乃は見逃さなかった。

 

 ――ありがとう。

 

 と。

(……少なくとも、藤原雪乃には今、これだけ大勢の仲間達がいる。彼女達に、昨夜のツァンさんのような心配を掛けないためにも、変わっていく必要があるようですね……)

 かつての自分の、大切な教え子達。

 今の自分の、大切な仲間達。

 大切な、彼女達に囲まれて、雪乃は笑みを浮かべながら、文化部棟へと歩いた。

 

 

 

 




お疲れ~。
決闘するのが、雪乃だとは言ってない……

結局さ、この二人って、どっちのが人気キャラなのさ?
まあ、他の小説読んだ感じ、大体想像はつくけどよ。
この二人以外にも、魅力的なキャラは大勢いるしね。大海は詳しくないが。

そんなところで、次話までちょっと待ってて。
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