遊戯王5D's ~剣纏う花~   作:大海

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はぁ~い。
予告してた通り決闘ですじゃ。
あと、生徒会長が出ますわ。

てなことで、行ってらっしゃい。



第九話 侵されし和総 ~決闘~

視点:外

 

 ブウウウウウウウゥゥゥゥン……

 

 午前中、空は十分に明るい物の、日はあまり高くなく、土曜日でも、何人かの人間達は仕事へ出掛ける、そんな時間。

 ハイウェイの上を、多くの自動車の間を縫って走る、一台のDホイールがあった。

 特徴的な形をしていた。

 色合いは、全体的に黒一色。形は、どのDホイールにも見られるメカニックな前面と、それとは対照的な、どこかアバンギャルドな曲線を描く意匠の背面。

 サイズは普通よりも小さ目で、それによって小回りが利く走行を見せている。

 そんなDホイールを駆る男は、小さく、微笑みを浮かべながら、一気に速度を上げた。

 

 

 やがて、ハイウェイから公道へ移った後は、通行人に気を遣いつつ、高速で、且つ、安全運転で、目的地へ向かった。

 

「着いたぜー」

 目的地――決闘アカデミアに辿り着き、そう声を上げる。

「三週間ぶりくらいか? 今日は土曜だから授業は無えが……念のため、先生方には挨拶しとくかぁ。学園祭も近いしな……」

 腰を伸ばし、肩を鳴らしながら、敷地内へと足を踏み入れる。

 最後に授業を受けたのは、約三週間前。

 それ以下や、それ以上、学校を離れることはしょっちゅうだった。

 そんな生活と毎日が続けば、長年世話になってきた、学校という施設に郷愁を募らせるのも、ある意味必定だ。

 充実した毎日は送っている。やりがいも感じている。

 それでも、今となっては、過去にあれだけダルいと感じた、眠気を押しての登下校も、耳に入らない授業の声も、やりたくもない体育の運動も、気分を重たくする中間・期末テストも、早く抜け出したいと思っていた毎日の全てが愛おしい。

 学校から離れた身でなければ、分からない感覚だろう。

「……とまあ、んなことはどうでもいいがな……」

 やがて、校舎へ辿り着き、靴を脱ぎ、上履きを取り出そうとした、その時。

 

「……あ、会長」

 

 突然、声を掛けられる。

 振り向くと、それは、よく見知った、生徒会の後輩の生徒だった。

「よう。久しぶり。変わりは無えか?」

 何も無いとは思うが、生徒会長として、一応、尋ねておく。

「ええ。既に連絡した通り、ちょっと前に転校生が来たことと、その直後に二つの和そう部が一つになったこと以外は、特に何も」

 その答えを聞き、何事もないと安堵する。

 そして、その直後、予想とは違う答えに、疑問を覚えた。

「例の件も、体育館で実施されている最中ですよ」

「例の件……?」

 はて……

 なんのことだろう?

 生徒会の仕事や案件は、全てメール等で連絡を受けている。必要なら、指示を出すこともあるし、中には生徒会長の権限が必要な案件もある。

 とは言え、プロのDホイーラーとして、多忙の毎日を送る身だ。仕事の一つや二つ、頭から抜け落ちてしまうことも多々ある。

「例の件て、なんのことだったか?」

 なので、特に恥じることなく、後輩に尋ねた。

 

「忘れたんですか? 和総文化部解体を賭けての決闘のことですよ」

 

「……」

 後輩の言葉に一瞬、言葉を失う。そして、

「はあ!?」

 一瞬の後に、大声を絶叫する。

 一瞬の間に、そして、絶叫に後輩が怯んでいる間も、記憶をまさぐるが、そんな話は、記憶のどこにも無かった。

「なんだよそりゃ! 一っ言も聞いてねーぞ!」

「え? そ、そんな……会長からの許可を得て、それの受諾書も見せられましたし、間違いないかと……」

「俺がぁ……?」

 聞きながら、再び記憶の底をまさぐる。

 仕事や案件に見過ごしはあったか?

 忘れている事柄はあったか?

 許可を求める連絡はあったか……

 どれだけ探しても、そんなものは皆無だった。

 考えられる可能性は一つ。

 誰かが、自分の名前を使い、そんな行為に走っている。

 図らずも、アカデミアでの発言力を持ってしまい、そのくせ、学校には滅多に来られない。

 そんな立場を利用する輩が、いつかは現れるのではないかという懸念はあった。

 そして今、その懸念が、現実になってしまっている、ということだ。

 それを瞬時に理解し、後輩に迫った。

 

「どこのどいつだ!? そんなアリえねえこと抜かした野郎は!?」

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 時間は少々遡る……

 

「サクラさーん! メイさーん!!」

「必ず勝ちなさーい!」

「和総部の未来は、あなた方に懸かっていますわよー!!」

 

 大勢の女子生徒の声に包まれながら、サクラとメイの二人は、決闘場の中心に立っていた。

 対するは、元プロ決闘者であり、アカデミアの社会科教師である、龍牙。

 いかにもインテリな風貌と物腰ながら、その実、決闘の実力は誰も知らず、未知の部分が多い。

 にも関わらず、その表情には余裕を浮かべ、目の前に立つ二人の生徒のことを、どこまでも見下していることが窺えた。

「さて……それじゃあ、事前に取り決めておいたルールを確認しておくぞ」

 龍牙が、余裕な声を出しながら、そう言葉を切りだした。

 

「決闘は、俺一人と、お前達二人。先行は俺、次にお前達のどちらか、俺、お前達のもう一人と、交互にターンを回していく。そちらは二人だからな、こちらは先行と、ライフは倍の8000もらう。そちらのライフは別々だが、フィールドは共通で、モンスターと魔法・罠のセットできる数はシングルの決闘と同じ五枚まで。以上だ。それ以外は普通の決闘と同じだ。これで平等だろう」

 

 平等。その言葉がいかに矛盾しているか、それに気付かない和総部の面々ではない。

 

「なにが平等よ。二対一とか言って、実際には手番もフィールドも同じで、ライフを倍もらっての一対一じゃない……」

「おまけに先行までちゃっかり奪って……」

「二人掛かりと言っても、実際には一ターン終えた後で敵のターンで、すぐにターンを回すから、自分のやりたいことができませんし……」

「有利な部分があるとしたら、ライフが4000ずつに分かれている所くらいですか……」

 

 女子生徒達の言うように、一見、龍牙は二人の決闘者を相手取らなければならないように見えるが、実際には、二人への不公平さを絶妙に隠しているに過ぎない。

 それを分かっていながら、それでも、誰も龍牙に文句を言えずにいた。

「言っとくが、このルールは生徒会長からも同意を得ているからな」

「くぅ……」

 

『……』

 

 このアカデミアで、間違いなく最強の存在である男、生徒会長。

 決闘でも、権力に置いても、全てを兼ね備えている男の命令下で行われる決闘。

 それに逆らえる者は、ここには一人もいなかった。

 

「……雪乃はどこにいるの?」

「そう言えば……」

 と、三人を眺めている最中、ツァンが、雪乃の不在に気付き、隣に座る幸子に尋ねていた。

 そして、それに対して、紫が答えた。

「雪乃さんなら、野暮用があるとかで、先程出て行かれました」

「野暮用って……この和総部の緊急事態に……」

「……まあ、考えてみれば、転校生の雪乃にとっては、あまり思い入れのある部とは言えないでしょうしね……」

「……」

 幸子の言葉に、三人ともが、表情を曇らせる。

 的外れ、とは、一概には言えない。

 実際、雪乃にとっては、ある意味、この和総部が無くなるのなら、それはそれで好都合なのだから。

 

 そして、そんな内情など知らず、三人の決闘は、幕を開けた。

 

 

『決闘!!』

 

 

龍牙

LP:8000

手札:5枚

場 :無し

 

サクラ

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

メイ

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

 

「……」

 

「……!」

 龍牙が、デッキに手を伸ばしながら、サクラをジッと見つめた。

 言葉ではない何か。それを訴える、強い視線だった。

 

「俺の先行、ドロー」

 

龍牙

手札:5→6

 

「まずは、そうだな……モンスターをセット。カードを伏せる。これでターンエンド」

 

 

龍牙

LP:8000

手札:4枚

場 :モンスター

    セット

   魔法・罠

    セット

 

 

「さて、次はお前だ。なあ、サクラ……」

「ひっ……」

 邪悪な笑みでの呼びかけに、思わず声が上がり、その身を引かせる。

 

「サクラさーん!! ビビってんじゃないですわー!!」

「勝ちなさーい! ファイトー!!」

 

「うぅ……」

 正面には、邪悪な男笑み。周囲からは、勝利を強要される声。

 そして、決闘の前に行われた、やり取り……

 

 ……

 …………

 ………………

 

 決闘が始まる数十分前のこと、サクラは決闘場の外で、龍牙と二人、話していた。

「も、もう、脅しには屈しません! カンニングのことを報告したければどうぞ。それで罰があるのなら、甘んじて受けます。もう、あなたなんか、怖くないです!」

「……そうか」

 そう、強気な態度を崩すことなく、龍牙に対して言い放つ。

 昨日の、メイと、雪乃がくれた勇気の言葉。そのおかげで、敗北を強請りにきたのであろう龍牙を前に、あれだけ怖かったことが嘘のように、強気でいることができた。

 だが、龍牙は、それでも余裕を表情に浮かべていた。

「まあ、俺は別に構わんがな……じゃあ、こういうのはどうだ?」

 そう言うと、龍牙は、懐から携帯電話を取り出した。それを簡単にいじった後で、サクラにその画面を見せた。

「……!!」

 そこ映っていたのは、このアカデミアの制服を着た、生徒達の姿。

 見覚えのある男子生徒や、クラスで話しをしたこともある女子生徒もいる。

 そんな生徒達の、言葉にすることもはばかられる、あられもない姿の写真。

「もし、仮に俺が敗けて、お前が何かしら証言をしたら、俺は、間違いなくアカデミアをクビになるだろう。そうなると、この写真をどうするかね……」

「……は?」

「やろうと思えば、今すぐネットにばら撒くこともできる。そうなると、大勢の生徒の人生が台無しになるよなぁ……」

「な……!!」

「もちろん、その時は、サクラが決闘に敗けてくれなかったせいで画像をばら撒くことになりました。そう、生徒達のメールに一斉送信するとしよう」

「な……な……」

 あまりにも下劣で、卑劣な提案。サクラはまた声を上げた。

「……ひ、卑怯ですよ!! 大勢の生徒の人生を盾に脅迫なんて……!」

「脅迫? 人聞きの悪いこと言うなよ。俺はただ、敗けた場合のことをどうしようか、そう言ってるだけだぜ。敗けてくれなんて、一言も言ってないぞ」

「くぅ……」

「別に、お前がどんな決闘をしようがお前の自由だ。ただ、どんな決闘だろうが、最終的に敗けた場合は、そうすることもあり得るかもなぁ。ああ、もちろん、メイにとどめを刺された時も同じな」

「うぅ……」

「まあ、精々どうするか考えろや。サクラちゃんよぉ……」

 

 ……

 …………

 ………………

 

「怖くない……怖くない怖くない……」

 決闘を行う際、いつも自分自身に言い聞かせる言葉。それを繰り返し呟きながら、デッキに手を伸ばした。

「ドロー!」

 

サクラ

手札:5→6

 

「……私は、『ローンファイア・ブロッサム』を召喚します」

 

『ローンファイア・ブロッサム』

 レベル3

 攻撃力500

 

「そして、『ローンファイア・ブロッサム』の効果です。このカードをリリースすることで、デッキの植物族モンスター一体を特殊召喚します。私は、デッキから『桜妃(おうひ)タレイア』を特殊召喚します!」

 

桜妃(おうひ)タレイア』

 レベル8

 攻撃力2800

 

「早速来ました! サクラさんのエースモンスター!」

 隣のメイが、嬉しそうに声を上げる物の、サクラの表情の陰りは消えない。

「『桜妃タレイア』は、自分フィールドの植物族モンスター一体につき、攻撃力を100アップさせます。私のフィールドの植物族はタレイア一体のみ。攻撃力は100アップです」

 

『桜妃タレイア』

 攻撃力2800+100

 

「バトルです! 『桜妃タレイア』で、裏守備モンスターを攻撃! 始高の麗雨!」

 タレイアが、右手に持つ扇子で扇いだ時、そこから桜吹雪が舞う。それがまるで冷雨の如く、勢いよくセットモンスターへ飛んでいき、刃物の如く切りつけた。

「……バカが。破壊されたのは『ハイパーハンマーヘッド』だ」

 龍牙が声を発したと同時に、タレイアの身が光り輝く。

 そして、そのまま光へと変わり、姿を消した。

「な、なぜ……?」

「『ハイパーハンマーヘッド』の効果だ。こいつとの戦闘で破壊されなかったモンスターは、ダメージステップ終了時に手札に戻る」

「そんな……!」

 

サクラ

手札:5→6

 

「あーん、もう、何やってんの……」

「伏せモンスターは警戒しなさい!」

 

「うぅ……」

「サクラさん、落ち着いて」

「メイさん……」

 メイの声に、一時の安堵を得る。だが、すぐにまた、正面を見ると、龍牙が、笑っていた。

 

「……」

 よくやった。それでいい。

 

 そんな言葉が伝わってくる表情を見せつけられて、やってもいない、龍牙の勝利への協力をしている気分になってくる。

「……私は、二枚のカードを伏せます。これでターンエンド……」

 

「……」

 

「……うぅ」

 その行為に対しては、余計なことをするんじゃない、そう、表情が言った。

 

 

サクラ

LP:4000

手札:4枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    セット

    セット

 

龍牙

LP:8000

手札:4枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    セット

 

 

「……まあいい。俺のターンだ」

 

龍牙

手札:4→5

 

「ふむ……俺は『首領亀(ドンガメ)』を召喚」

 

首領亀(ドンガメ)

 レベル3

 守備力1200

 

「このカードの召喚、反転召喚に成功した時、手札の『首領亀』を任意の枚数、特殊召喚できる。もっとも、今の俺の手札に『首領亀』は無い。なので、このカードを使おう。『超進化薬』。フィールド上の爬虫類族をリリースし、手札の恐竜族モンスターを特殊召喚する。『暗黒恐獣(ブラック・ティラノ)』を特殊召喚」

 

暗黒恐獣(ブラック・ティラノ)

 レベル7

 攻撃力2600

 

「うぅ、レベル7のモンスターが……」

「さて、現時点でのそちらのターンプレイヤーはサクラだ。つまり、攻撃をすれば、サクラのライフが減ることになる……」

「……っ」

 語り掛けながら、同じ視線をサクラに向ける。

 分かっているな?

 どうするべきか、分かっているな?

 言葉にはしないその言葉を視線に乗せ、脅迫する。

 

 生徒をくみすることなど容易い。

 基本的に生徒という生き物は、教師には逆らえない。

 特に、サクラのようなタイプは、より顕著だ。

 自分に自信が無く、且つ、自分に絶望しているものだから、常に誰かからの言葉を待ち続け、それが自分を導き、助けてくれることを期待している。

 むしろ、いつかそれが、絶対に起きてくれると信じてさえいる、そんなタイプ。

 そんな、自分一人では何もできず、何も成そうとすらしない相手なら、教師の立場を最大限利用し、精神的な恐怖を刻み付けるだけで、後は勝手に言うことを聞く。今のように、視線だけで従わせることもできる。

 そうやって、他にも何人も生徒を従わせてきた。

 女子生徒がつぶ揃いな決闘アカデミアでは、それは大いに価値があった。

 男子生徒であれば、黙ってレアカードを差し出してくれた。

 このくらいの役得が無ければ、教師などという見返りの少ない仕事などやっていられるか。

 龍牙にとっては、生徒も、サクラも、役得の一つでしかなかった。

 

「バトル」

 いつものように、脅した生徒に視線で指示を出しながら、バトルフェイズを宣言した。

「『暗黒恐獣』で、サクラに直接攻撃」

 その宣言により、サクラへ向かう『暗黒恐獣』。

 サクラは反射的に、ディスクに手を伸ばした。

(この罠で、防ぐことが……)

 だが、それと同時に、龍牙からの視線を感じ、決闘前の提案が頭をよぎる。

「怖くない……怖くない……」

 固く目を閉じて、その言葉を何度も自分に言い聞かせる。

 だが、その時には既に、

「はっ! きゃあっ……!」

 

サクラ

LP:4000→1400

 

「うぅ……」

 大きなダメージと、それによる衝撃。そして、

 

「ちょっとー! その伏せカードは飾りですかー!?」

「ダメージ喰らい過ぎよー!」

 

 仲間達からの非難。

 それらのせいで、思わず目の淵に涙が溜まった。

 

(サクラさん……)

 

「さて……俺はこれでターンエンド」

 

 

龍牙

LP:8000

手札:2枚

場 :モンスター

   『暗黒恐獣』攻撃力2600

   魔法・罠

    セット

 

サクラ

LP:1400

手札:4枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    セット

    セット

 

 

(ニヤリ……)

 また、龍牙の視線が、サクラへ向かう。

 それでいい。やればできるじゃないか。

 そんな、下卑た感情がサクラに浴びせられた。

「……」

 

「サクラさん」

 そんな、怯みっぱなしのサクラに対して、隣に立つメイが声を掛けた。

「安心して下さい。遅れは私が取り戻しますわ」

「メイさん……」

 その笑顔に、一時の安堵を覚える。

 そして、その表情に、龍牙は、更に笑顔を下卑らせる。

(こっちの女も、既に対策済みだ……)

 

「私のターン」

 

メイ

手札:5→6

 

(……よし、この手札なら……)

「くくく……」

 

「私は魔法カード『二重召喚』発動! この効果により、私はこのターン、二度の通常召喚を……」

 そこまで言った時、異変に気付いた。

 魔法カードを発動させたなら、そのカードが目の前に表示されるはずだった。

 なのに、今回はそれが見られない。

「……私はまず、『エレキングコブラ』を召喚」

 

『エレキングコブラ』

 レベル4

 攻撃力1000

 

「更に、『二重召喚』の効果により、『エレキリギリス』を召喚!」

 宣言し、カードをセットした瞬間だった。

 

 ブー ブー ブー

 

「……へ?」

 ディスクから、一定のブザー音が鳴り響く。それは、カードプレイが適切でないことを示すエラー音。

「へ? な、なんで……?」

 混乱しながら、もう一度カードをディスクにセットする。だが、同じ音が繰り返し鳴り響くばかりで、二体目が召喚されることはない。

「……『二重召喚』の効果が適用されていないんじゃないか?」

 見かねた龍牙が、そう声を掛ける。

「はぁ……?」

 疑問に声を出しながら、そう言えばと、直前にあった出来事を思い出してみる。

「……」

 まさか、と思いながら、手札にある、別のカードをディスクにセットする。

 

 シーン……

 

「……うそっ、決闘ディスクが、魔法カードに反応していない……!」

 それに気付き、声に出す。すると、また龍牙が笑った。

「おいおい、決闘ディスクの不具合か? 決闘ディスクのメンテナンスも、決闘者には必須だぞ」

「あ、ああ……」

 下卑た笑いと、起きてしまった現実に、メイの顔が、一気に蒼白に変わった。

 

「ちょっとー! 何をしていますの!?」

「よりによってこんな大事な決闘の時に、ディスクの故障だなんて!」

「やる気あるのですかー!?」

 

「うぅ……」

 サクラの時と同じように、罵詈雑言が飛んでくる。それに、メイもまた、怯んでしまった。サクラも同様だった。

(ククク……)

 そんな二人の様子を龍牙は、手札を持つ指にはめた、大きな指輪をなぞりながら、楽しそうに眺めていた。

 

「うぅ……」

 もう一度、手札を確認する。『二重召喚』は既に墓地へ置き、試しに発動したカードは手札に戻した。モンスターは普通に召喚できたところから、それ以外は問題ないのかもしれない。

 幸い、このデッキは魔法カードが使えなくとも戦えはする。

 あとは……

(サクラさんの伏せカード……)

 ディスクを操作し、タッグパートナーである、サクラの伏せカードを確認する。すると……

(……へ?)

 そのカードを見て、思わず目を丸めた。

 伏せられた二枚のカード。うち一枚は、前のターン、龍牙の攻撃を防ぐことができたカードだった。

 それを、発動させず、大ダメージを受ける。

 ここで発動させるべきでない、そう思ったのか?

 いや、サクラはそんな、熟考ができるタイプの決闘者じゃない。

 となると……

 

「……」

 そこまで考え、そして、思い出す。サクラがカードをプレイしながら、終始、脅えている様を。

(サクラさん……)

 

「少し長考が過ぎないか?」

 と、サクラを見ていると、そんな声が聞こえてきた。

「魔法が使えずショックなのは分かるが、さすがにそろそろ進めてほしいな」

「……」

 言われたことで、再び決闘に目を戻す。

 今できる最良のプレイを考え、そして、実行する。

 

「バトルです。『エレキングコブラ』は、相手に直接攻撃することができます。『エレキングコブラ』で、龍牙先生に直接攻撃!」

「ぐ……」

 宣言と同時に飛び出した『エレキングコブラ』が、龍牙の腕に噛みついた。

 

龍牙

LP:8000→7000

 

「『エレキングコブラ』の効果。このカードが直接攻撃によって相手に戦闘ダメージを与えた時、デッキから、『エレキ』と名の付いたモンスター一体を手札に加えます。私はデッキから、『エレキツネ』を手札に加えます」

 

メイ

手札:4→5

 

「カードを二枚伏せます。これでターンエンド」

 

 

メイ

LP:4000

手札:3枚

場 :モンスター

   『エレキングコブラ』攻撃力1000

   魔法・罠

    セット

    セット

    セット

    セット

 

龍牙

LP:7000

手札:2枚

場 :モンスター

   『暗黒恐獣』攻撃力2600

   魔法・罠

    セット

 

 

「……」

 

 また、サクラは視線を感じた。

 ダメージを喰らったぞ。

 どうしてくれる?

 どうなるのか分かっているのか……

「……」

 

「俺のターン!」

 

龍牙

手札:2→3

 

「……バトルだ。このターン、ダメージを受けるのはメイのライフだな。『暗黒恐獣』で、『エレキングコブラ』に攻撃」

 攻撃の命を受けた恐獣が、メイの前にいる蛇に向かい、突進していく。

「永続罠『血の代償』発動!」

「むぅ……!」

(やった! 罠は発動できる……)

「ライフポイントを500支払い、通常召喚を行います。私は500のライフを支払い、手札の『エレキツツキ』を召喚します!」

 

メイ

LP:4000→3500

 

『エレキツツキ』

 レベル1

 守備力0

 

「『エレキツツキ』が場にある限り、相手はこのカード以外のエレキモンスターを攻撃、効果の対象に選択できません!」

「ちぃ……なら、『エレキツツキ』に攻撃を変更だ!」

 途中、コブラへ向かっていた恐獣は足を止め、隣にいる、電気を纏ったキツツキを踏み潰した。

「一枚伏せる。これでターンエンド」

 

 

龍牙

LP:7000

手札:2枚

場 :モンスター

   『暗黒恐獣』攻撃力2600

   魔法・罠

    セット

    セット

 

メイ

LP:3500

手札:3枚

場 :モンスター

   『エレキングコブラ』攻撃力1000

   魔法・罠

    永続罠『血の代償』

    セット

    セット

    セット

 

 

「……わ、私のターン!」

 

サクラ

手札:4→5

 

「……」

 この手札なら、逆転することも可能。だが……

 

「……」

 

 常に、龍牙の視線がサクラに突き刺さっている。

 その視線が、決闘で自分達が勝った暁の未来を発言していた。

(怖くない、怖くない、怖くない……)

 何度も、そう自分に言い聞かせている。なのに、怖さは全く拭えない。

 龍牙からの視線があるから。そして……

 

「なにをやっていますの……」

「また下手なプレイをするのではないでしょうね……」

 

「……っ」

 味方のはずの和総部の視線まで、自分の身に突き刺さる。

(敗けたら、和総部が無くなる……けど、勝ったら、大勢の生徒達の人生が……)

 怖い……

 幼い頃から今まで、いつもいつも、自分の周りには、怖い物ばかりが溢れている。

 そして今も、サクラにとって、この空間に、怖くないものは一つも無かった。

 

「……」

 そんな怖さの中にありながら、それでも、手を動かすことはした。

「ま、魔法カード『トレード・イン』。手札のレベル8モンスターを捨てることで、カードを二枚ドローします。私は手札から、レベル8の『桜姫タレイア』を捨て、カードを二枚ドロー」

 

サクラ

手札:3→5

 

(……ちっ、さすがに二人のディスクが一度に故障ってのも不自然だからな。俺のディスクにはプロテクトが掛けられているが、こいつのターンにはオフにしておかなきゃならねえ。面倒なことさせやがって……)

 

「ひっ……ま、魔法カード『死者転生』発動。手札を一枚捨て、墓地にあるモンスター一体を手札に加えます。私は手札の『薔薇恋人(バラ・ラヴァー)』を墓地へ送り、『ローンファイア・ブロッサム』を手札に加えます」

 

サクラ

手札:4→3→4

 

「そして、『ローンファイア・ブロッサム』を召喚します」

 

『ローンファイア・ブロッサム』

 レベル3

 攻撃力500

 

「『ローンファイア・ブロッサム』の効果。このカードをリリースして、デッキから『椿姫(つばき)ティタニアル』を特殊召喚します」

 

椿姫(つばき)ティタニアル』

 レベル8

 攻撃力2800

 

「永続罠『リビングデッドの呼び声』を発動。墓地の『ローンファイア・ブロッサム』を特殊召喚」

 

『ローンファイア・ブロッサム』

 レベル3

 攻撃力500

 

「再び『ローンファイア・ブロッサム』の効果。このカードをリリースし、デッキから『姫葵(ひまり)マリーナ』を特殊召喚」

 

姫葵(ひまり)マリーナ』

 レベル8

 攻撃力2800

 

「よし……バトルです……!」

「罠発動『威嚇する咆哮』。このターン、攻撃宣言はできない」

「そんな……!」

「残念だったなぁ。せっかくそれだけのモンスターを揃えたっていうのに」

「うぅ……メインフェイズ、魔法カード『マジック・プランター』を発動。フィールド上の『リビングデッドの呼び声』を墓地へ送り、二枚ドローします」

 

手札:2→4

 

「墓地の『薔薇恋人』の効果を発動。このカードを除外し、手札の『紅姫(あき)チルビメ』を特殊召喚します」

 

紅姫(あき)チルビメ』

 レベル8

 守備力2800

 

「……ははっ! お前が手札のモンスターを特殊召喚したことで、レベル7のこのカードを手札から特殊召喚できる」

「なんですって!?」

「『サイバー・ダイナソー』を特殊召喚!」

 

『サイバー・ダイナソー』

 レベル7

 攻撃力2500

 

「あ、あぁ……え、『エレキングコブラ』を守備表示に変更。ターンエンド……」

 

 

サクラ

LP:1400

手札:3枚

場 :モンスター

   『椿姫ティタニアル』攻撃力2800

   『姫葵マリーナ』攻撃力2800

   『紅姫チルビメ』守備力2800

   『エレキングコブラ』守備力500

   魔法・罠

    永続罠『血の代償』

    セット

    セット

 

龍牙

LP:7000

手札:1枚

場 :モンスター

   『暗黒恐獣』攻撃力2600

   『サイバー・ダイナソー』攻撃力2500

   魔法・罠

    セット

 

 

「ちょっと! さっきからやる気ありますのー!!」

「モンスターを並べるだけなら誰にでもできますわ! 並べた後のプレイくらい考えなさい!!」

「そんなことで、勝てるわけがありませんわ!!」

 

「うぅ……」

 やれるだけのことはやり尽くした。できる限りのことはした。

 なのに、未だに龍牙先生のライフは、1000ポイント削れているだけ。

 自分達の居場所である和総部を守るために、強制的に選ばれた二人の決闘。その、あまりにも不甲斐ない姿。

 誰もがそんな二人に対して、非難を浴びせるばかり。

 そんな声の只中にあり、サクラの頭に思い浮かんだのは、愛しい人の顔だった。

(助けて……梓先生……)

 

 ドカァアアアアアアアアアア……

 

「うお……!」

「え……?」

「は……!」

 

 突然発生した、巨大な撃砕音。

 三人が、そして、会場全ての者達が驚愕し、その音の先へ視線を送った。

 

「あれは……!」

「まさか……?」

「像か?」

「ミサイルか?」

「いや……」

 

『雪乃さんだ!!』

 

 

 

 




お疲れ~。

決闘は次話までですゆえ、ちょっと待ってて。
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