ここんとこ、重い話が続いてたから、今回は軽めでいきますわ。
あと、やっぱ祭って言ったらあの人だよなってことで、あのキャラ出しますらい。
そんじゃ、行ってらっしゃい。
視点:雪乃
「ねえ、聞いた? 龍牙先生の話……」
「ああ、聞いた聞いた。今入院中だけど、セキュリティに捕まったんでしょう?」
「おまけにその時、その……あそこが、削り取られてたって……」
「削り取られた……て、どういうこと……?」
「さあ……先生方は、すたんどとか、おくやすとか、ザハンドとか、がおんとか、よく分からないこと言っていましたけど……」
……不思議に思っていたのですが……
私のこの、藤原雪乃の右手で、削り取ったモノはどこまで飛んでいったのでしょう……?
ま、頭悪いので考えても頭痛がするだけですが……
シャカシャカシャカシャカ……
「……」
「お手前、頂戴いたします」
「……」
「……結構なお手前で」
茶道における、一般的なイメージの動作を行います。
細かい描写は、どうせ興味が無いでしょうから省かせていただきます。
茶菓子を頂き、点てて下さったお茶を頂く。
あの頃から更に動作に磨きが掛かっておられる。振る舞いも、ただ言われた通りにしていただけのあの時とは大違いだ。
「雪乃」
「へ?」
「茶道の経験あるの?」
全ての動作を終え、茶道具を片付けながら、幸子さんが尋ねてきました。
「ああ、うん。米国にいた頃、ちょっとね」
「他のも上手だって聞いたけど、茶道も中々のものね。アメリカ育ちってのが嘘みたいだわ。純日本人、て感じだったわよ」
「ハハハハハハ……」
まあ、褒め言葉と受け取りましょう。
私自身、国籍どころか、どこで生まれてどんな血筋なのか、全く知らないのですから……
「そう言えば、雪乃は学園祭の出し物、どうする?」
「……がくえんさい?」
「うちの部でも、華道作品だったり和楽器の演奏だったり、色々出すことになってるけど、雪乃は、どれにするの?」
「えっと……」
がくえんさいってなに……?
……
…………
………………
「それじゃあ、うちのクラスでの出し物を決めたいと思います」
現在、私達は授業を終えて、『アカデミアがくえんさい』、とやらの出し物について話し合っております。
まあとりあえず分かったのは、がくえんさいとは、『学園祭』と書くこと。要するに、アカデミアで行われるお祭りのことのようです。
本来なら、後ろの席にはアキさんがいらっしゃるのですが、今日は、Dホイールの実技講習のため休みだそうです。
なんでも、セクトさんのプロ決闘者としての活動と同じように、決闘の大会や、Dホイールなど、決闘に関する事柄であれば、然るべき手続きを踏むことで、こうけつ、の扱いにできるそうで……
……自分で話しをしておいて、半分は理解ができかねますが。
「それじゃあ、何か意見はありますか?」
と、本題に戻ります。
がくえんさい、というものがどんなものかは知りませんが、とにかくこのアカデミアで開催されるお祭りがあり、それでこのクラスは何をするか、という話し合いですね。
どういうことをするのか、皆目見当がつきませんが……
「やっぱ、露店じゃね?」
「お化け屋敷」
「メイド喫茶!」
「カーニバルゲームとか、どうよ」
皆さんが口々に、自分のやりたいと思っている事柄を言っていく。
それを言った直後、面倒臭いとか、準備が大変だとか、良いとか悪いとか……
改めて言いますが、半分近く何を話しているのか分かりません。
今思えば、私は学校どころか、そういう娯楽施設等とも無縁でしたからね。
なんですか、『冥土喫茶』って? お化け屋敷以上にそそるのですが……
「まだ意見を言っていないのは……雪乃さん」
「うん?」
いきなり呼ばれ、注目が集まりました。
「なにか、やりたいのありますか? 雪乃さんが最後ですよ」
「えっと……」
何と答えれば……こういう時、学生というのはどんなことを言うものなのでしょう……
「お……お笑い漫画道場」
『……』
「……じゃなくて、甘味処、とか、どう?」
「甘味処?」
「そう。お汁粉とか、お団子とか、和菓子を出すお店……」
『……』
間違えたか……?
「良いんじゃない?」
……む?
「うん。良いと思う」
「面白そうだし」
「じゃあ、甘味処でいいですか?」
『はーい!』
「……」
……採用されてしまった。
……
…………
………………
まあそんなことが色々ありまして、学園祭の準備は着々と進んでいきました。
私達のクラスでも、私が提案し、採用された、甘味処の準備が開始されております。
場所は、何でも校門を入ってすぐの、一番人気の場所をくじ引きで引き当てたそうです。
そして、学園祭前日。
屋台の建設も終え、準備も八割方終え、現在、店内で流す音楽を決める話し合いをしております。
「雪乃さん、色々持ってきました」
「え、ええ……」
(ねえ、雪乃?)
(はい……)
(なんで雪乃が仕切ってるの?)
(……和菓子のお店ということで、和総部にいる私を当てにされまして……)
今日はDホイールの講習とやらがお休みらしい、アキさんに応えました。
もっとも、明日の学園祭当日が、同時にDホイールの本試験だそうですが……
そして今言った通り、私はその準備の責任者のような扱いを受けております。
実際、店内の外装であったり内装であったりをどうするか、ほとんど私に決めさせられ、彼らはその通りに作り上げてしまいました。お品書きやお店の看板は、全て私が筆で書いた物が飾られております。
まあ、確かに、このアカデミアで私ほど、和に精通している生徒はいないであろうと自負はできます。おかげで、他クラスからの評判も上々だそうです。
……米国出身という設定はどこへ消えたのやら……
そして現在、明日の開店に向け、店内でどんな音楽を流すかで、生徒の皆様方が持ってきて下さった、しーでぃー、を見ております。
「それで、どれを流す気?」
「じゃあ、まずは私から!」
そう、手を上げて前に出てきたのは……
「あら、光子。どんな音楽を持ってきたの?」
「やっぱり、日本的な音楽がいいかと思ったので、この音楽にしました」
そう言いつつ、目の前の、らじかせ、に、しーでぃーを入れました。
※擬音で何の音楽か当ててみよう。
ヒントはCDを勧めたキャラクター名。
答えはキャラクター達の台詞を参照。
最初、再生スイッチの音が鳴り、その後に音楽がスタートするよ。
ガチャ……
パーパーパ パー パー
パー パー パー
パーパーパ パー パー
パーパ パーパ パー
パーパーパ パー パー
パー パー パー
パーパー パーパ パーパ パー
パッ
「18時だョ! 全員集合、誰が藤原長介よ!!」
「とんでもねえ、あたしゃ神様だよ」
「あんた光子でしょうが! この甘味処をどうする気よ? 入口に入ったと同時にタライが降ってきて散々お客をいじった挙句、最後には崩壊する甘味処なんて誰がわざわざやってくるのよ?」
「う~ん、ぜひ行ってみたいけどなぁ……」
「それじゃダメだ。次は俺です」
「あら、山中の坊や。あなたは大丈夫でしょうね」
「任せて下さい。甘味処なんだから、やはり誇り高き日本の文化を全面に押し出すべきです」
「あら、分かったようなこと言うじゃない。なら、どんな音楽聞かせてもらおうかしら」
「よろしい! 俺の持ってきたのは、これです!」
ガチャ……
デッデデー
デッ デッ デッ
デッデデー
デレレレ デレレレ
デッデーデッ
デー デー デー
デンデゲ デンデゲ デゲデゲ
デッデー デー デッデッデッ
デッ
デレレレー
デレレレー……
「俺は確かに見たんだ! 異次元人が学園祭を狙っている! 本当です! 信じて下さい、誰が北斗雪乃よ!!」
「たるんどる! ぶったるんどるぞ!!」
「うっさいわ山中! なんでアカデミアの学園祭で異次元人と戦わなきゃいけないのよ? 私は誰とウルトラタッチしろっていうの?」
「よければ俺と……」
「はいはい、喜んで入れ替わってあげるから、今すぐ超高速ミサイルでゴルゴダ星まで飛んでらっしゃいよ。お兄さん達しか助けないけどね」
「酷い……」
「もう……日本的とか文化とか、どれも方向性が違うわよ」
「じゃあ、次は私の」
「あら、千代。あなたも持ってきたの?」
「はい。昔の日本の光景が見えてくる、そんな音楽を持ってきました」
「へえ……とりあえず、流してみたら?」
「はい!」
ガチャ……
ギュルルルルル
デデデ デデデ デーデッデッ
デデデ デデデ デーデッデッ
デーデーデッ
デーデーデッ
デッ……
「さあ笑え! 孤独な私を嘲笑え!」
「わしは誰も笑わない。絶対に……」
「私から絆を奪い、一方では絆を説く……答えろ千代! この矛盾の行方を! 宣言しろ! 掲げた絆は嘘八百と! そしてアキ様に詫びを入れろ!!」
「……え? 私?」
「それはできない。それだけはできないんだ……」
「情けのつもりか!? 哀惜のつもりか!? なら最初から、アキ様を奪うなー!!」
「だから、なんで私?」
「消滅しろ千代! 竹千代おおおおおおおお!!」
「お別れだ、雪乃! 藤原雪乃おおおおおおお!!」
「……て、これのどこが昔の日本よ!?」
「『関ヶ原の戦い』ですけど?」
「古いどころかむしろ新しくなってるじゃない!! 何だったら最新もいいところよ!! どんなパーリィが開かれる関ヶ原なのよ!?」
「もう……ここは私が行くしかありませんね」
「……分かってるとは思うけどね、ハナ、この手のギャグは三回までが限度よ」
「も、もちろんです。今度のは、ちゃんとしていますから」
「じゃあ、入れてごらんなさいよ」
「はい……」
ガチャ……
デンデゲ デンデゲ デンデゲ デンデゲ
デンデゲ デンデゲ デンデゲ デゲデゲ
デー デレレー デレレー
デレレ デレレー
デレレレー……
「東京中央銀行、堂実野支店に勤務する十六夜は、支店長の海野の指示によって負った、五億の負債を取り戻すことを、海野支店長に宣言したのであった……」
「やられたらやり返す。倍返しだ……」
「……ああ、できるものならやってみたまえ……」
「って、誰が十六夜直樹よ!?」
「海野支店長ってなに!?」
「……そういう幸子はどうしてここにいるの?」
「どうしてって……私のクラスの準備が終わったし、和総部の準備もあるから、ついでに迎えにきたのよ」
「そう……じゃあ、面倒だから、これ全部流しちゃいましょう」
『全部!?』
「全部。なんなら、みんなが持ってきたしーでぃー、片っ端から使っていいから」
(そんな適当に決めちゃっていいのかしら……雪乃もアバウトなところがあったのね……)
視点:外
各々のクラスが、自分達の出し物の準備を進めている中、生徒会でもまた、準備は進んでいた。
「さて……毎年、このネオドミノシティにゆかりのある、豪華ゲストを呼んではいるが、今年はどうだ?」
「はい。今年も超豪華なメンバーを揃えておりますよ」
セクトの問い掛けに、生徒会副会長の女子生徒が、揚々と答えた。
早速、手元にある資料を取り、その名前を順に読んでいく。
「まず一人目は……ダンサーの『ステップ・ジョニー』さん」
『おおおお!!』
彼の宣言に、セクト以外の生徒会メンバーは、一斉にどよめきを見せた。
「あのダンスの帝王か!」
「辛いアマチュア時代と下積み時代を乗り越えて、今や全米人気ランキング第三位にまで上り詰めた、あのステップ・ジョニー!?」
「解説ご苦労様です。そう。そのステップ・ジョニーです。そして、二人目ですが……」
今や興奮の止まないメンバーに向かって、二人目の名前を読み上げる。
「二人目は……オペラ歌手『
『おおおおおおおお!!』
最初と同じか、それ以上にメンバーが湧いた。
「あの世界的オペラ歌手にして、ヴァチカンの大司教とも面識があるという、あの騒象寺さん!?」
「学生時代はロック歌手に憧れたものの、ある日を境にオペラに転向。そこからめきめき実力をつけ、世界のオペラ歌手の頂点に君臨した、あの騒象寺さん!?」
「そうです。その騒象寺さんです。そして三人目、最後の一人はトークゲストなのですが……」
彼の言葉で、メンバーは再び息を呑む。ここまででも、十分に豪華メンバーが続いた。
なら三人目は、一体何者なのか、と……
「三人目は……『
『おおおおおおおおおおおおおおおお!!』
その湧きようは、直前の二人以上の反応だった。
「あのハリウッドスターの花咲さん!?」
「幼い頃から病弱だったという体を鍛え直し、アクション俳優の道を志して渡米し、大成功した花咲さん!?」
「あのアメリカ1のコミックヒーロー『ダーク・ヒーロー ゾンバイア』シリーズで、主人公のゾンバイア及びスーツアクターを一手に担っている、伝説のアクションスターと呼ばれている花咲友也さん!?」
「えらく解説口調だけど、その花咲さんです……」
「随分豪華メンバーだなぁ……」
一人、終始冷静に話しを聞いていたセクトは、変わらない声色で言った。
そして、生徒会副会長も、誇らしげに鼻息を吐いていた。
「ええ。頑張りました」
「そうか……スケジュール調整とか大丈夫か? 当日になって調整ミスでドタキャンとか、勘弁だぞ」
あくまで冷静に、最悪の事態の想定を指摘するが、それでも、彼女の表情は変わらない。
「抜かりはありません。スケジュール調整その他、全て手配済みです」
「……そうか」
自身満々でいう、自身に次ぐ責任者の姿に、セクトは表情を緩ませる。
何せ、最高責任者である自分は、プロであるせいで学校からは離れている身だ。それゆえに、自分に次ぐ責任者が、必然的に全ての仕事の責任を請け負うことになる。
彼女の力は信頼している。しかし、その力量がセクトよりも遥かに劣ることは、二人以外のメンバー全員、そして、セクト本人、副会長自身も自覚している。
それゆえに、度々教師等から比較されることもあった。
今回も、本来ならセクトが最終調整をするべきだったのを、副会長に任せることになってしまった。
加えて、最近クビになったクソ教師の脅しに屈したたという出来事もあった。
それらのことから不安はあったものの、それでも、しっかりと結果で返してくれた。
それが、嬉しかった。
(俺がいなくても、アカデミアは大丈夫っぽいな……)
それを思いながら、彼女から、窓の方へ目を向ける。
あと、気になるのは……
……
…………
………………
「なんじゃあ? 甘味処だあ……?」
持ってきたCD全てを流すという結論を、雪乃が行った時だった。
集まって話し合っていた彼らの前に、大柄な男子生徒が、大勢の生徒を引きつれ立っていた。
(……なんですか? この懐かしい人達……)
彼らのナリを見て、雪乃はそう感じてしまった。
先頭に立つ一人。そして、その後ろに並ぶ六人の男子生徒。
全員、アカデミアの制服ではなく、丈がひざに届く、黒の学ラン姿をしていた。
この時代でも、学ランというのは決して珍しくは無い制服ではある。しかし、今の時代、全国の中学、高校で、ブレザーが圧倒的多数になっているのも事実であり、都市部ともなると、その存在はかなり珍しい。しかも、丈がひざまでと言うのは更に珍しい。
だが、そんな服装以上に目を引くのが、後ろに立つ六人の、ガタイの良い男子生徒六人が持ち上げている、黒く、巨大な鉄板だった。
「おかしいのぉ……ワシらの場所に先客がいるじゃねーか」
そして、そんな集団の先頭に立つ、額に『広島風』と書かれた鉢巻を締めた男子生徒は、雪乃らに向かって野太い声を発した。
「お前らここで何しとるんじゃああああああ!!」
「……なにって、学園祭の準備だけど?」
やたらと巨大な声で威圧してくる男子生徒に対し、雪乃は平然と答える。
それに、男子生徒は顔を歪ませた。
「ふざけるなぁぁ!! 学園祭ではこの場所は、我ら三年D組のなわばりと決まっとるんじゃあ!!」
「なわばりって……ここは私達がくじ引きで引き当てた場所だけど?」
「くじ引きだぁ?」
その言葉に、彼らは大声を上げて笑った。その後で、顔を引き締め、強い口調で言い放った。
「よく聞けぇぇい! ここは毎年、ワシらがお好み焼きを焼く伝統の場所なんじゃあああい! くされ甘味処など去れ去れえええええええええ!!」
「嫌だけど」
ほとんどの生徒達は、その怒号と勢いに気圧されていた。だが、雪乃は一人、平然としたまま答えた。
「転校生の私が言うのもなんだけど、こっちは正式な手順で決められた場所に、規則通りの出し物を用意しただけよ。伝統なんて知らなかったけど、少なくともあなた達の意見は暴論にしか聞こえないし、私達がこの場所を開け渡す必要性は、一切感じないわね」
毅然とした態度で、力強く言葉を放つ雪乃の態度に、同じクラスの生徒全員が感化されていた。
そして、そんな彼女の態度を、当然三年D組は、面白くは思わなかった。
「随分でかい口叩くじゃねえか。女の分際でよぉ……」
そんな雪乃に対し、男子生徒は、一言だけ声を出す。
その後で、後ろに立つ六人の方へ振り返った。
「構うことはない。行け! 鉄板部隊! 甘味処の砦を壊せー! 奴らの催し物をぶっ潰すのだああああ!!」
『おおおおおおおおおおおおっ!!』
その言葉に従い、六人の男子生徒は、鉄板を持ち上げたまま甘味処へ向かい走った。
「おいおいおい!!」
「やめろ!! 俺達の甘味処を壊す気か!?」
巨大な鉄板を、猛スピードでぶつけられた末の結末を、誰もが容易に想像できる。それでも、それを止めることの危険性も理解している。できることは、声を上げることだけだった。
そして、そんな声にも構わず、鉄板は、甘味処の前まで向かい……
ガァンッッ!
『うおおおおおおおおおおお!?』
「……」
その光景と、男子生徒達の悲鳴に、誰もが目を奪われた。
「……まったく」
彼らの鉄板がぶつかったのは、甘味処ではなかった。
甘味処の前に立った、一人の女子生徒。その額にぶつかり、結果、六人全員のバランスが崩れ、その場に倒れ込んだ。
「雪乃、血が……」
アキの言った通り。鉄板を受けながらも、雪乃は仁王立ちしていた。しかし、その額かは流血し、その血が雪乃の顔を赤く染めていた。
「て、てめぇ……」
その光景に、直前まで強気でいた男子生徒の額に、汗が一筋光る。
大の男六人掛かりの、鉄板による体当たりを受けて、ケガをしているとは言え立っている女子生徒を見れば、恐怖は当然あった。
「……そうか、お前か。噂のゴキブリ女ってのは……」
「む……」
その存在を思い出した男子生徒の、何気ない一言。それに雪乃は、顔を更に歪めた。
「失礼ね、誰がゴキブリ女よ」
前へ出て、毅然とした態度で、はっきりと言い放つ。
「間違えないでちょうだい。ゴキブリ女じゃない。ゴキブリ
(『そこぉおお!?』)
この発言には、アキや幸子を含む、全員の心の声が唱和した。
そして、そんなことを知らない男子生徒は、平然と声を出した。
「なるほどな。強いとは聞いとったが、厚さ十五ミリ、一度に五十人前は焼ける鉄板を止める石頭は大したもんじゃ。だがな、これ以上やるようならそんなもんじゃ済まんぜよ。これ以上のケガをせんうちに、大人しくゴキブリでも食っとったらどうじゃ? なんなら、ワシらがその辺で捕まえてきてやろうか? ゴキブリをよぉ……」
男子生徒のそんな侮辱に、後ろに並ぶ六人が笑い声を上げる。
それを見て、顔を血に染めたまま、雪乃も口を開いた。
「あら、良いわね。だったら捕まえてきなさいよ。このアカデミアにいるゴキブリ、一匹残らず平らげてあげるから。今すぐゴキブリを捕まえに行ってらっしゃい。学園祭が終わるまでずっとね。その方が、お好み焼きを焼いてるより百倍お似合いだと思うわよ」
その発言に、今度は雪乃のクラスメイトが笑う番だった。
もっとも、話しの内容や、雪乃の顔をダラダラ滴る血のせいで、笑えずにいる者もいた。
「……」
「……」
「……どうしてもこの場所が欲しいっていうなら……」
そして、しばらく睨み合った後で、口を出したのは雪乃だった。
「決闘で奪ってみたら?」
「ああん? 決闘でだぁ……?」
その提案には、その男子生徒も眉をひそめた。
「そう。あなたも、仮にも決闘アカデミアの決闘者なら、決闘で物事を決めるのが筋ってものよ。少なくとも、私がいる限り、力づくで奪えるとは思わない方がいいわねぇ」
「……」
その、微笑みながらの言葉には、男子生徒を含む、誰もが息を呑んだ。
いつも見せる妖艶さに、赤く痛々しい血の赤が加わったその顔は、今までにない凄みを宿していた。
「……へっ、面白ぇ。なら、ワシの燃えるデッキで、ワシらの敷地からテメェらを追い出してやるとするかのう」
「今は私達の敷地だけどねぇ……」
その会話の後で、男子生徒と、同時に雪乃が、決闘ディスクを取り出した。
「ちょっと待って」
だが、そんな雪乃を、引き止める声があった。
「雪乃はケガをしてるし、ここは私が行くわ」
声を出した、海野幸子もまた、決闘ディスクを取り出していた。
「あら、幸子。これは私達のクラスの問題よ。あなたが出る必要は無いわ」
「クラスがどうこう以前に、わたしも、仲間にケガをさせられて、黙っていられるほどお人好しじゃないのよ」
「……」
「……」
二人の視線がぶつかり合う。無言の威圧が、ダラダラ流れる血液を挟んで、重なり合った。
「ワシはどちらでも構わんぜ」
その二人に、声を掛けたのは男子生徒である。
「ワシは今まで、挑まれた勝負は全て受け、そして全て勝ってきた男よ。精々どちらか勝てると思う方を選ぶんじゃのぉ……」
その不敵な笑みには、絶対の自信が宿っていた。
「雪乃……」
「……」
「……」
「……分かったわ」
その強い眼差しに、最後に折れたのは、雪乃だった。
「ただし、私の代わりに出るんだから。敗けたら昔の私のフルコース料理の刑よ」
「昔の、雪乃の、フルコース、料理……?」
その言葉に、幸子はもちろん、それを聞いていた誰もが想像した。
食堂、ゴミ捨て場、男子トイレ。そこから現れたゴキブリを、捕まえてはおやつ感覚で食すという雪乃の姿。
それに加えて、雑草や、ネズミまで食していたという事実。
雪乃をそんな悪食に変えた、過去の雪乃の食事のフルコース……
(『やべぇ! マジやべぇ……!!』
(ゲロまずだとか腹痛だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえものを、文字通り味わうことになる……)
ほとんどの生徒が、恐怖していた。
当人である幸子は、青ざめながらも、改めて、絶対に敗けられない決闘だということを悟った。
そして、二人は準備を終え、広い場所に移動した。
幸子の後ろには、雪乃、アキ、そして、二人と同じクラスの生徒達。
男子生徒の後ろには、鉄板を掲げる六人の男子生徒。
「確認しておこうかしら。この決闘で勝った方が……」
「その場所を勝ち取る」
「それだけじゃ足りないわね」
二人の確認作業に対して、雪乃が口を挟んだ。
「そっちは場所を奪えるわけだけど、こっちにはこの決闘をして勝っても、何も得るものがないじゃない」
「……確かに」
「だから、幸子が勝った時は、その鉄板を貰おうかしら」
「て、鉄板を……!?」
その申し出に、六人が、そして、猪頭の顔が歪んだ。
「文句は言わせないわよ。あなた達は、その鉄板を使ってこの場所を奪おうとしたのだから。そんな危険物は、私達に渡してもらうわ」
「ぬぅ……仕方がない……」
台詞に納得し、渋々ながら、承諾した。
「そう言えば、まだあなたの名前を聞いていなかったわね」
幸子が尋ね、男子生徒は思い出したように答えた。
「そうじゃったのぉ。ワシは三年D組、学園祭実行委員長『
「あんなのが実行委員長だなんて……このアカデミア、大丈夫なの……?」
「ネオドミノシティ1の鉄板焼き屋、『猪頭
「そうね。私は和総文化部所属、海野幸子よ」
「
「ゆ・き・こ!
「ハッ! ワシに勝てたら覚えてやらぁ!」
「……」
共に名乗り終え、改めて、二人は構えた。
『決闘!!』
お疲れ~。
さすがに今回出したキャラはマニアック過ぎたかなと、書いてて思ったけど……ま、いっか。
さ~て、決闘は次やるでよ~。
それまで待ってて。