正直に言うけど、コナミの方針をどうしようか全然決まらないんだよなぁ……
まあ、書きながら決めていくとするよ。今までもそれでどうにかなったし。
んなわけで、行ってらっしゃい。
視点:外
「待たせたな!」
セクトが声を上げたその先に、その人物は、木にもたれて立っていた。
黒のシャツの上に羽織った、赤色のジャケット。灰色のズボンに赤い靴、黒の穴開きグローブ。
そして、何よりも目立つのが、その表情を隠し、だがその存在を際立たせている、赤色の帽子。
そんな、やたら赤色が協調された、ラフな見た目の少年に対して、セクトは片手を振りながら近づいた。
「悪ぃ悪ぃ、遅くなっちまって。渋滞から中々抜けらんなくてよぉ……」
「……」
笑って謝罪するセクトに対して、少年は何も言わず、ただ、一つ頷いた。
何を考えているのか分からない。どんな感情かも分からない。
ただ、開く気配を一切感じないその口元をセクトに向けて、頷くか、首を振るだけ。
「うし。そんじゃあ、早速行こうぜ」
しばらく、セクトの一方的なやり取りを終えた後で、二人は目の前に建つ、巨大なスタジアムに入っていった。
「今日は久しぶりにスタンディング決闘だ。いつもと違うが、まあやることは一緒だから、今日もよろしくな。コナミ」
「……」
コナミは相変わらず、声を出すことは無い。ただセクトを見ながら、一つ、頷いただけだった。
……
…………
………………
「コナミ、タオルくれ」
「……」
「コナミ、ドリンク」
「……」
「コナミ、次の対戦相手のデータ見せてくれよ」
「……」
今日のセクトの仕事は、本人の言っていた通りスタンディング決闘。
いつものライディング決闘であれば、一日に一回、多くとも三回程度しか決闘は行われない。
だが、少し考えれば分かる通り、スタンディングはライディングに比べれば体力の消費も少なく、規模も遥かに小さい。
そのため、多い日には一日十戦以上、プロ同士が連戦することもある。
対戦相手の実力はピンキリだが、いつもは前座試合に甘んじていたキリの決闘者が、その日の終わりにはピンへとのし上がった、ということもザラにある。
そんなプロの世界だから、今は比較的ピン寄りであるセクトも、キリにならぬよう全力で決闘をしている。
そのため、全九試合行われるうちの、六試合目まで、全勝のままでいた。
そして、そんなセクトの傍らにいるのが、赤い帽子で顔を隠す、寡黙な少年だった。
「やっぱお前頼りになるわ。相変わらずいい仕事だぜ」
「……」
別段、プロ決闘者の傍らに付き人が立つことなど、珍しいことではない。
セクト以外の対戦相手にも、一人から二人の付き人を伴うプロは何人かいたし、むしろ有望だから付き人として選ばれた、という事実でもある。
そんな、珍しくも無い存在の付き人だからこそ、二人に向けられる視線には、好奇が混ざっていた。
「んじゃ、次行ってくるわ。声には出さなくても応援してくれよな」
「……」
珍しいのは付き人ではなく、二人の間にある、気安い馴れ馴れしさだった。
付き人というものは言うまでもなく、付いている主にとっては下の立場であり、そんな付き人もまた、そんな主にかしづき敬意を示すもの。
だというのに、この二人の間には、そんな上下関係など見られない。
無論、特別可愛がっている付き人にそういった態度を示す者も中にはいる。それに加え、セクトの、本来なら高校生である年齢を考えれば、不思議ではないのかもしれない。
だが、そのことを差し引いても、この二人の場合は付き人というよりも、長年連れ添ってきた相棒、という言葉の方が相応しい雰囲気があった。
実際、付き人であるはずの、コナミと呼ばれる少年は、セクトの指示をよく聞いている。どころか、その指示を常に先読みしつつ、セクトが最も望むタイミングで、セクトの望む物を用意し、行動を起こし、セクトにとって最良の結果を与えている。
そしてセクトは、そんなコナミを信頼し、付き人以上に頼りの存在としている。
付き人という枠を超えた、友情、信頼を、誰もが二人を見ながら感じていた。
そして、それを感じている一人である、セクトにとっては七人目の対戦相手となる決闘者が立った。
「……おい、どこだ? 俺との決闘に怖気づいて逃げちまったか?」
「誰が逃げるかよ。声は聞こえんだろう?」
「……ああ。声は聞こえるぞ? どこに隠れてんだ?」
「声のする方へ声のする方へ……そして、見下~げてごらん~」
「うわああああああああああ!!」
今日だけで、通算七度目のやり取りを行った後で、二人は決闘ディスクを構えた。
……
…………
………………
「だーっ、チクショウ! 八戦連勝したのにラスト一戦で手札事故とはなぁ……」
全ての決闘を終え、会場を後にし、廊下をコナミと共に歩きながらセクトはぼやいていた。
隣のコナミは、相変わらず何も言わずに並んで歩いている。
そんな二人が、スタジアムの出口へ差し掛かった時、
「伊集院セクトさん」
女性の声が、外を出たと同時に響いた。
「すみません。よろしければ、ぜひ取材を……」
決闘の後でのインタビューや取材も、プロ決闘者にはよくある話だ。
メディアへの露出は極力増やした方が、人気商売でもあるプロにとっては都合が良い。
それを知っているセクトはそれを了承し、コナミを見た。
「んじゃ、コナミは先に帰って晩飯の準備しといてくれ」
「……」
コナミは一つ頷き、その場、セクトの隣から、瞬時に姿を消した。
「な……何ですか、今の人? 忍者?」
「とんでもねぇ。ただの付き人だよ」
セクトは目の前の女性に対して、そう、微笑みながら答えるのだった。
……
…………
………………
インタビューを終えて、すぐに地下の駐車場へ行き、愛用のD・ホイールを見つける。
エンジンを掛けて、朝は酷かった渋滞が既に解消された、夕方の道路を走っていく。
公道から、ハイウェイへ。ハイウェイから、再び公道へ。
そして、そんな公道を走り辿り着いたマンションの地下駐車場にD・ホイールを停める。
マンションのエレベーターを昇り、自分の部屋の前に立ち、ドアノブを回す。
「ただいま」
「おかえりなさい」
言わなかった時間が長く、言ったとしても、今も昔も誰も返してくれる者が無かった、そんな言葉に対して、上品な声での返事が返ってくる。
その声に顔を向けた時、そこには、帽子を取り、代わりにエプロンを身に着けた、コナミの姿があった。
「お風呂にします? それとも夕飯ですか?」
コナミの顔と、そんな言葉を聞くと、学生ながら新婚夫婦の気分に浸りそうになるが、すぐさま相手の性別を思い出して我に返りつつ、
「まずは風呂入って汗流すわ」
そう、笑顔で返事をした。そしてコナミも、綺麗な笑顔を向けてくれていた。
風呂に入った後は、コナミの言った通り、夕飯を食べる。
コナミは基本的に和食しか作れないため、小さなテーブルに並ぶのはそういった、和食を基本とした、ヘルシーな料理が主である。
食べ盛りであり、セクトの年齢的にもあまり好まれそうでない料理を、セクトは、
「美味えー!」
毎日、美味そうに食していた。
元々の生まれが日本名家であり、日本的な食材や料理には、幼い頃から慣れ親しんできた。
だが、食材や料理は無駄に豪華なくせに、毎日感じる居心地の悪さのせいで、全く味を感じなかった。
そんな食事に比べれば、それよりずっと小さな家で、遥かに安い食材を使った料理なのに、確かな真心と暖かさのこもったコナミの料理は、プライドと太鼓持ちだけが一流な女中たちの作る料理よりは遥かに美味く感じた。
「凄えよな、梓は。毎日食ってるのに全然飽きねえ料理に仕上げちまうんだからよぉ」
「それは光栄です。ただ、今の私は『コナミ』ですよ」
料理を褒めつつ、ついコナミの本名を口にしてしまったことで、指摘を受ける。
だがセクトは、相変わらず笑っていた。
「良いじゃねえか。どうせ二人しかいねえんだし。誰も聞いちゃいねえよ」
「あまりよくはありませんよ。普段から呼んでいなければ、人前で『梓』と呼んでしまうかもしれません。『藤原雪乃』であった頃にも、友人が危うく梓と呼び掛けたことが何度かありましたから」
アキや龍可もそうだったし、特に龍亞やクロウが顕著だったなぁ、と、コナミがしみじみ過去を思い出していたところで、
「ごちそうさま」
指摘を受けたばかりのセクトは、箸を茶碗に置き、手を合わせていた。
「食ったー! やっぱ日本人は米に限るぜ。腹に貯まるし美味いしなぁ」
「あはは。そこは同意します」
コナミもまた肯定しながら、空になった食器を片づけ始めた。
毎朝セクトよりも早く起きては、洗濯物を洗い、ご飯を炊き、朝食、セクトのために弁当を作る。
その後は、セクトのプロの仕事に付き人として同行し、セクトの身の回りの世話をする。
セクトが学校へ行く日は留守を任され、家の中を掃除するか、買い物へ行き食材や生活雑貨の調達。
セクトが完全な休みの日も同じ。平日であれば銀行や区役所へ行くこともあるし、暇ができれば、テレビを見る時もある。
そして、夜になれば風呂を貯め、夕飯を作り、食べ終わったら食器の片付け。
もはや、セクトの仕事以外では完全に専業主夫だと言われる、そんな流れが、今のコナミの日常だった。
「……あ、そうだ。おいあず……コナミ」
と、セクトはまた、皿を洗っているコナミに向かって、再び本名が出そうになりながらも呼び掛けた。
「なんですか?」
「いやさ、ちょいとお前に相談っつーか、話があるんだがよ」
「相談? 私にですか?」
珍しいこともある物だ。そう思いつつ、丁度全ての皿を洗い終わり、コナミはセクトの前に正座した。
「実はよ……」
そしてセクトは、コナミと顔を合わせ、語り始めた。
「今度また、プロの仕事でスタンディング決闘のイベントがあるんだがよ」
「ええ。もちろんお供させていただきます」
「ああ、そいつはありがてえんだが、そのイベントってのが、『タッグ決闘』のイベントなんだよな」
「タッグ決闘?」
そこでようやく、どちらかと言えばかなり鈍い方であるコナミも、セクトの言いたいことが理解できた。
「お前、俺とタッグ決闘に出る気無えか?」
「私が、ですか……?」
その提案に、コナミは渋い顔を見せた。
「しかし、プロのお仕事となると、テレビや写真に撮られるのでは? それがまずいから取材の度に私を遠ざけていたのでしょう?」
「ああ。確かにな」
帽子のおかげで顔の半分以上が隠れ、何より服装は、かつてのコナミとは真逆な、ラフな服装。
そんな少年を見て、コナミの正体に気付く人間も中々いないだろうが、何せ、かつてネオドミノシティ中の、千人近くの教え子を導き、憧れや、恋慕さえ持たれた少年でもある。
その中に、勘の良い人間がいてもおかしくはない。
それが分かっていたから、セクトも極力、テレビや写真に写らないようにと常々コナミに言い聞かせていた。
それが今回は、そんな普段の指摘とは真逆の提案。
それを疑問に感じているコナミに、セクトは苦笑しながら答える。
「まあ、そうなんだがよ……お前を見た一部の人間の中に、どうにもおかしな考えを持ってる奴がいるんだよな」
「おかしな考え?」
コナミは首を傾げ、セクトは説明を始めた。
「普段は帽子で顔の半分隠してるから、正確な歳は分からねえだろうけど、やっぱちょっとよく見たら、歳の頃は俺と大して違わねえって、分かる奴は分かるんだよな」
「それはまあ、そうでしょうね……」
「だからさ、取材してる時なんかも、あの付き人は学生じゃないのか? とか、学校はどうした? とか、そんなことを聞いてくる奴もいるんだよ。それでひねくれた奴の中には、俺が浮浪児連れ回してこき使ってる、なんて考えてる奴もいるみてえなんだわ」
「……実際その通りでは?」
その返事には、セクトも顔をしかめた。
「人聞き悪いこと言うな! そりゃ今のお前は浮浪児でも、俺は別にこき使ってるつもりねえぞ!」
「あはは。そうですね」
コナミ自身、本気で言っているわけではないことはセクトも分かっている。
そして、そんなセクトの反応を楽しむコナミを見ながら、セクトは表情を戻した。
「……まあ、それで、一度俺がお前を付き人としてキチンと育ててるって、周りの連中に見せる必要があるわけだ」
「ふむ……そのためのタッグ決闘……」
「そういうこと。ちょうど他に組めそうな相手もいなかったし、丁度良かったってわけ」
「……」
話しに納得しながら、それでもコナミは、神妙な表情を見せていた。
「話は分かりましたが、それではやはり、テレビに映る危険が伴います。わざわざ素人である私でなくとも、他にも強い決闘者はいるのでは?」
コナミは正論を返したが、セクトはなお更表情をしかめさせる。
「いくらプロって言っても、まだ高校も卒業してねえガキだぜ。名のあるプロは大体が三十超えたおっさんおばさんばっかだし、それより若い連中は、下手すりゃ俺以上にプロの世界を知らねえ青二才の集まりだ。おっさん達には相手にもされねえし、青二才と組んでも一回戦で敗けて終わりだ。やるからには勝ちに行きてえ」
「……それなら、アカデミアで探してみては? せいとかい、などにも、強い人達はいるでしょうに」
プロの世界を知らない学生達だが、それはコナミも同じ。コナミ自身、アカデミアには強い決闘者はいくらでもいることを知っている。
だがそれでも、セクトは首を横に振った。
「確かに、強いのはいるが、あいつらは所詮学生だ。そりゃあ中にはプロ並みの才能持ってるのもいるが、いかんせん、経験も駆け引きも、何より、勝利への執念が未熟なのしかいねえ。まあ、学生の甘さ、だろうな……」
「……」
同じ学生の身でありながら、プロの世界を今日まで生き抜き、のし上がってきたセクトだからこその言葉だった。
「そんな俺から見て、プロを知らなくても、俺と同等の力を持った奴……てか、はっきり言って、プロアマ関係なく単純な実力なら間違いなく俺以上な奴。それがお前だ。梓」
最後にまた、コナミの本名を呼ぶ。だがそれは、敢えての本名だった。
「私が? セクトさん以上?」
「おう。静花の時の決闘も十分強かったが、藤原雪乃の時の決闘はそれ以上だ。デッキは変わってたけど、それは関係無え。単純に強いだけじゃなくて、俺以上に相当な修羅場をくぐって身に着けた実力と見たぜ。梓の決闘は」
「……」
真剣な顔で、声で、コナミを見据え、自分の言葉の全てをぶつけていた。
「お前と俺がタッグを組めば、お前って存在を知らしめちまうことにはなるが、優勝を狙える。ついでに、お前に対する誤解も解ける。だから俺はこうしてお前を誘ってるんだ」
「……」
「どうだ、コナミ。テレビに映るのが嫌だっていうなら無理にとは言わねえ。実際、使うデッキは、水瀬梓や藤原雪乃のデッキじゃなくて、俺のカードを使って作った、大波コナミのデッキになる。それに、仮にそれで優勝しても、お前には何のメリットも無え。本来なら、プロである俺の方から、プロへの推薦を与えるとかがあるが、お前の身の上じゃそうもいかねえ。単純に、俺が勝ちたくて、お前への周りの誤解を解きたいから頼んでる、ただの我がままだ」
「……」
「だから、嫌なら嫌って言ってくれ。俺も無理強いする気はねえよ。その時は、アカデミアか若手のプロから適当に見繕ってパートナーを組むさ」
「ふむ……」
言いたいことの全てを言い終え、コナミの返事を待つ。
そして、コナミは少しだけ思案した後、
「分かりました。出場しましょう」
そう、了承を返した。
「マジで?」
「マジです。私の力がどの程度お役に立つかは分かりませんが、私で良ければ……」
そう、綺麗な笑顔を向けた。
「サンキュー!」
そんな笑顔に向けて、セクトもまた、満面の笑みで礼を返した。
……
…………
………………
(……と、了承をしたのは良いですが……大会までの間に、新たなデッキも今以上に使いこなせるようになっておかねばなりませんね……いや、それ以上に、タッグ決闘というもの自体、私には経験が無い。その辺りのことも学ばねば……)
帽子に隠れた無表情の内側で、そんなことを考えつつ、スーパーの特売品の品々の前を歩いて回る。
今日の晩御飯は何が良いだろう……
そんなことを思いながら、目の前のジャガイモを手に取ろうとした時、
「……あ、ごめんなさい」
「……」
小さな手と、コナミの手がぶつかり、小さな手は謝罪をし、コナミは、無言のまま頭を下げる。
頭を上げて、その声の主の方を見ると、
「……あず……コナミさん!」
一瞬、コナミの本名を呼びそうになりながら、慌てて言い直した龍可の姿があった。
「……」
「やだ、偶然。こんな所で、コナミさんに会えた……////」
「……?」
何やら顔を赤らめ、体をウネらせている龍可の姿に、コナミは首を傾げた。
「……あ、ごめんなさい」
「……」
「えっと……晩ご飯のお買いもの、ですか?」
「……」
こくり、と、一つ頷いた。
「今日は、お仕事はお休みなんですか?」
「……」
また、こくり、と一つだけ頷く。
「えっと……なんで、喋らないんですか?」
「……」
その質問に答えるために、コナミはひざを曲げ、龍可と視線を合わせる。
(人前ではあまり声を出さず、無口な人間でいろ、と、セクトさんからの申し付けです)
(無口……)
(ええ。声でばれる可能性もありますからね。藤原雪乃とは違って、顔や髪型を変えているわけではありませんからね)
(はぁ……)
そういう事情があって、そこからは、龍可が一人で話しながら買い物をしていった。
龍可が何かを話しても、コナミはせいぜい、頷くか首を振るか、微笑みかけるか。
それだけしかしないものの、声を出さないなりのはっきりとした反応を見せてくれることが嬉しくなって、龍可も、一方通行ながら楽しく会話をしていた。
そんな会話をしながら買い物を続け、龍可の買うものの良し悪しを、コナミがみてやる。
そうして、二人とも買い物を済ませ、スーパーを出た後は、コナミとは小声で話しをしていた。
(今日はありがとう、コナミさん。おかげですっごく良い買い物できました)
(とんでもない。お役に立てて良かったです)
そうして話をしていきながら、途中あるベンチに腰掛けた。
(……あ、そうだ。コナミさん)
(はい)
ベンチに腰掛けた時、龍可が話しかけてきた。
それまでの楽しげな表情とは違う、真剣な表情を見せていた。
(実は、お願いがあるんですけど……)
(お願い……)
(はい。その……)
言った後で、顔を赤らめ、恥じらいながらも、小声に出した。
(私とタッグ決闘してくれませんか?)
(……は?)
昨日聞いたばかりの言葉が、龍可の口から聞こえた。
それに驚いている間に、龍可は続けた。
(実は今度、アカデミア全体でタッグ決闘大会が開かれるんです。それで、中々組める人がいなくて……)
(龍亞さんではダメなのですか?)
(真っ先に誘いました。けど、どうせなら、普段組まないような人と組んだ方が面白いからって、あっという間に高等部の人とタッグを組んじゃって……クラスの他の友達は、みんなペアを決めちゃってたし……)
(それなら、私ではなく、別の生徒の方にお願いすべきでは?)
(それもそうですけど……さすがに、全然知らない人には話しかけ辛くて……アキさんも、もう組む人は決まったって言ってたし……)
(ふむ……しかし、それは部外者である私が出場しても良い催しなのでしょうか?)
(そこは大丈夫です。生徒同士でも良いけど、タッグが組めるなら外部の人でも良いって言われてますから……最初は、遊星達に頼もうかと思ったけど、WRGPで忙しそうだし、遊星は確か……『クラッシュタウン』、て場所へ行っちゃったっていうし……)
(……)
(それに……)
コナミが無言でいると、龍可は、顔を赤くしながら、視線を右往左往させつつ、それでも、言葉にした。
(それに……タッグを組むならぜひ、コナミさんが良いって、思ってたから……////)
(……)
その理由は、よくは分からない。しかし、だからと言って聞きだす気にもならなかった。
(……良いでしょう)
と、呟いた時、龍可は顔を上げながら目を見開いた。
「え、本当?」
だいぶ大きくなった声で聞き返す。コナミはまた、一つ、頷いた。
「やった! 良かった……////」
顔を赤くしながら、大喜びしている。
そこまで喜ぶ理由は分からないが、そんな顔を見られたのが、コナミは嬉しかった。
「じゃあ、タッグ決闘大会の日付ですけど……」
と、再び話題が戻り、日付を聞き出す。
(……む?)
「じゃあ、よろしくお願いします」
日付を伝えた直後、龍可は立ち上がり、その場を去っていった。
「……」
コナミは一人、その場に座ったまま、龍可から聞いた日付を思い出す。
(しまった……タッグ決闘の良い訓練になるかとつい返事をしてしまった……その日付は、セクトさんの大会の日付と一致している……)
今から断るべきか……そう考えつつ、二人からの約束を再び考える。
(いや待て……龍可さんの言うタッグ決闘大会は午前中……しかし、セクトさんの言った大会の開催時間は午後……大会ルールにもよりますが、最悪の場合、龍可さんの方の大会での試合数を限定させて頂けば、どちらにも間に合うか……)
どうにか結論を絞り出し、そのことを龍可に伝えようと立ち上がる。
立ち上がった、その時だった。
「……?」
立ち上がり、視線を向けた正面の光景が、コナミの目に飛び込んだ。
……
…………
………………
「はぁ……はぁ……」
時々、後ろを振り返りながら走っていた。
人通りの多かった、日当たりの良い通りから、いつの間にか、人通りの少ない、光も少ない裏路地へ。
よく目をこらせば壁の黒ずみの数すら数えられそうな、汚い裏通りを一目散に掛けていく。
しかし、いくら全力で走ろうが、追い掛けてくるのはそんな全力以上の早足で、逃げ切ることはできそうになかった。
やがて、焦って夢中で走り続けていたせいで、辿り着いたのは、高い高い金網だった。
よじ登ることは不可能では無い物の、上までかなりの高さがある。しかも、途中には有刺鉄線が巻かれていて、安易に人間がぶら下がることを良しとしない作りになっている。
左右を見れば、ビルが道と光を塞いでいる。
後ろを振り向くと……
「……ちっ」
思わず舌打ちが出る。
そんな彼女を追い掛け続けていた、二人組の男は、ニヤつきながら、そこへ並び立った。
「このアマ……もう逃がさねえぞ……」
「……っ」
二人組の内の、横幅の広いデブが言い、彼女は歯を食い縛る。
そんな彼女を嘲笑いながら、隣の、ひょろ長い男が前に出た。
「さーて、どうすっかなぁ……とりあえずデッキを頂いて、その後は素っ裸にひん剥いてやろうか? それで写真撮影して、俺らの玩具になってもらおうかねぇ。そのくらいしてもらわねえと、俺達としても気が晴れねえしよぉ……」
下卑た口調と下卑た笑み。提案までも下卑ている。
そんな下卑だらけな男二人に、怒りやら、屈辱やらで身震いしそうな身を耐えながら、
「……クソッタレ! だったら……」
彼女は叫びながら、決闘ディスクを構えた。
「なんだ? 決闘か?」
「俺達二人を相手にか?」
「……」
彼女はディスクを構えながら、二人を睨みつけていた。
どこからでも来いと。逃げも隠れもしないと……
「バァーカ! 受けるわけねえだろ、そんな決闘。アニメじゃあるまいによぉ」
「決闘して勝ったら許して下さいってかー? 許してやるよー! ただし、決闘なんてまどろっこしいことより、もっと簡単で分かり易い方法でよぉー!」
「……」
二人のそんな返事も、想像はしていた。
デッキは持っているが、そんなもの以上に信じるものは金と力だけ。
こいつらはそういう連中だ。
むしろ、決闘する気がないというなら好都合だと思った。
友人との約束から、相手が誰であろうと乱暴なことはしないと決めた。
そのために、穏便に済ませてやろうと決闘を提案したのに、相手はそれを断った。
だったらこちらとしても、腕力に物を言わせる他ない。
それが分かったところで、彼女はディスクを納め、二人の方へと歩いて……
カランカラン……
いこうとした時、そんな音が、三人の間に響いた。
「ああん……」
それは、突然上から降ってきた空き缶が、三人の間の、固いアスファルトの上を転がった音だった。
「誰だこらぁ! ふざけたマネしやがった野郎はぁ!!」
デブが叫びながら、周囲を見渡す。そして、上を見上げた時……
「ああん……?」
そこにいる人物を見て、疑問の声を上げた。と同時に、そいつは、金網の上から三人へ向かって、飛び降りた。
「……はぁ!?」
再び大声を出し、デブとひょろ長は急いで飛び退く。
唯一、そんな彼の姿を見ていない、彼女は一人その場に動けなかった。
そして、そんな彼女の目の前に、彼は降り立った。
「……」
赤い服と、赤い帽子。そんな少年は、何も言わぬまま、三人の間に立ちながら、男二人組を睨み据えていた。
「何だテメェ! ナイト気取りかこらぁ!?」
「でしゃばってんじゃねえぞ! ぶっ殺されたくなきゃ今すぐ死ぬかくたばるか地獄へ落ちやがれぇ!!」
いかにも知能が低いと告白しているような言葉を浴びせるものの、その赤い少年は、何の返事も返さなかった。
ただ、言葉で何も言わない代わりに、拳を振り上げ……
ドガァッ……!!
すぐ隣のビルの壁に、拳を突き立てる。
すると、硬いコンクリート製の壁はあっさりへこみ、ヒビが入り、細かな破片が下へと落ちた。
「な……て、テメェ……」
「……」
そんなコナミの姿を、男二人は勿論、後ろに立つ少女も、呆然と見ていた。
「この野郎……だったら決闘だぁ!!」
と、腕力では敵わないと、一目で悟った男が提案したのは、ついさっき、彼女に対してはっきりと拒絶したはずの手段だった。
「タッグ決闘だ。テメェらが勝てば見逃してやるよ。だがテメェらが敗けたらデッキは全部没収。あと二人とも全部脱いで撮影会だ!!」
まるで見合っていない条件を言うと、有無を言わさず決闘ディスクを構えだした。
「おい! なに虫の良いこと言ってやがる! 俺が提案した時は断っておいて、そんな決闘受けるわけ……!」
と、反論しようとした彼女の肩に、手が置かれる。
少年は、少女の前に出ると、ディスクを構えた。
「おい、お前正気か? こいつら見たら分かるだろう? そんな約束守るわけ無えし、そもそもまともな決闘してくる保障なんか……」
そう忠告するも、少年は微動だにしない。
ただディスクを構え、二人を見ているだけ。
「……分かったよ」
そんな光景に、彼女もしまったばかりの決闘ディスクを再び展開し、構えた。
「俺は『ジャッカル岬』だ。お前、名前は?」
そう尋ねると、少年は岬に顔を向ける。
返事は返さない。ただ、帽子の下から口元を見せ、声には出さず、口を動かした。
「……コ……ナ……ミ?」
口の動きから、そう聞きとる。すると、コナミは頷いた。
「……コナミ、足引っ張るんじゃねえぞ」
コクリ、と、コナミが頷いたところで、デブが叫ぶ。
「さあ行くぜ! ルールはタッグフォースルールだー!!」
『決闘!!』
お疲れ~。
こんな感じで、こっちの梓はこれが初のタッグ決闘になるでよ。
良かったら見てやっておくれや。
そんなわけで、次話まで待ってて。