ただ、ほとんどチュートリアルみたいなもんだから短いからね。
それでも良い? んじゃ言う。
行ってらっしゃい。
視点:ジャッカル岬
……なんでこんなことになったんだ?
ちょっとした因縁のある連中から逃げ回って、逃げた先が行き止まりだった時。
そこで、試しに決闘を持ち掛けてみたが、二人は案の定、そんなもんは無視して襲い掛かろうとしやがった。
それで、周りに人もいねえことだし、返り討ちにしてやろうかと思ったんだが……
ちょうどそのタイミングで、上から空き缶が降ってきた。
で、そのすぐ後に、今度は男が一人、俺達の間に降ってきた。
そのすぐ後、目の前のバカ二人が襲ってこようとしたのを、そいつは壁を殴って、砕いて、へこませた。
そのすぐ後にバカ二人が言ってきたのは、俺一人の時は断った決闘。それも、タッグ決闘だ。
普通受けるわけが無えところなのに、赤いこいつはそんなこと知らないからか、普通に受けようとした。
「……分かったよ」
仕方ねえから、こっちも決闘を受けることにした……俺も、結構な決闘脳だな……
そいつに名前を聞くと、何でか声を出さずに、コナミって名乗った。
「……コナミ、足引っ張るんじゃねえぞ」
そいつが頷いて、そのすぐ後、バカ二人の、デブの方が叫んだ。
「さあ行くぜ! ルールはタッグフォースルールだー!!」
視点:外
(……タッグフォース? 何だっけそれ……?)
(タッグフォースルール……ちょうど良い。セクトさん、そして、龍可さんとのタッグ決闘もそのルールだと聞きました。岬さんを糧に訓練させていただきましょう)
『決闘!!』
デブ/ひょろ長
手札:5枚/5枚
LP:4000
場 :無し
コナミ/岬
手札:5枚/5枚
LP:4000
場 :無し
「……え? ライフもフィールドも共有なのか?」
「はぁ!? テメェ知らねえのかよぉ!? お前、それでも決闘アカデミアの生徒かぁ!?」
「う、うるせえ!! だったらだったらさっさと教えやがれ!!」
「い・や・だ・ね! なんでわざわざ何も知らねえ奴に情報与えて有利にしてやらなきゃなんねえんだよ。そんなことも分からねえのかぁ? 決闘アカデミアに通う優等生とは思えねぇなあ! ジャッカル岬ちゃんよ!」
「……んの野郎……」
(……まずいですね。できればじっくりとルールの説明をしてあげたいところですが、声を出せない以上それもできない。何より、この二人がみすみすそんなことをさせるとも思えませんが……)
「ぐっへへへへ……この無敵の『デイブ』に『
(……こいつらの親は、悪意持ってその名前をつけたとしか思えねえなぁ……)
「さあ! やってやるぜ! やっちまいな兵郎!」
「おう! ドロー!」
デブ
手札:5→6
「……ん? お前が兵郎か?」
「ああん? それがどうかしたか」
「……」
「おい! 赤い帽子のお前! 今紛らわしいって思っただろう! 互いの名前と見た目が一致してねえってよ!!」
「……」
コナミは答えず、代わりに吹き出していた。
「今まで俺達を見てそう言った奴から順にぶち殺してきたんだ……お前ら、決闘が終わったら、この日本に生きていけると思うんじゃねえぞ!」
「俺は三枚の永続魔法を発動だ! 『波動キャノン』! 『悪夢の拷問部屋』二枚!」
デブ(長田兵郎)のカード発動と共に、フィールドは怪しげな部屋に変わり、彼の後ろには、緑色の白く巨大な大砲が現れた。
「『悪夢の拷問部屋』は、相手ライフに戦闘ダメージ以外、つまり、拷問部屋以外で効果ダメージが発生する度、相手に300ポイントのダメージが与えられる。拷問部屋は二枚だから、一度のダメージで発生するダメージは、プラス600ダメージだ。そして『波動キャノン』は、発動してから経過した自分のスタンバイフェイズ×1000のダメージを、こいつを墓地へ送ることで相手に与える効果だ」
(ふむ……兵郎さんのデッキは『バーン』系統のようですね……)
「そしてぇ! 『連弾の魔術師』召喚!」
『連弾の魔術師』
レベル4
攻撃力1600
「こいつが場にある限り、俺達が通常魔法を発動する度に、テメェらに400ポイントのダメージを与える! そしてこいつだ! 魔法カード『火炎地獄』! 自分が500のライフダメージを受ける代わりに、テメェらに1000のダメージを与える! 更に、二枚の拷問部屋の効果で600のダメージ、プラス『連弾の魔術師』の効果で400のダメージ、合計2000のダメージだぁ!!」
「いきなり、効果ダメージ2000ポイントだぁ!?」
(彼女のデッキのことも考えると……この序盤で2000のダメージは痛いですね。今回は運が良かった)
コナミ
手札:5→4
コナミが、手札を一枚墓地へ捨てる。
その瞬間、二人に向かっていった火炎と魔術は、二人を包む巨大な綿毛の天使によって弾かれた。
「な、なんだ……?」
そんな光景に、兵郎は狼狽していた。それを、コナミが補足した。
「……手札から……捨てた……『ハネワタ』……このターン……自分……受けない……効果ダメージ……」
必要最小限の声しか出さない喋り方で、効果を説明する。
そして、それに納得した兵郎は、気に入らない様子で顔をしかめた。
「ちくしょう……ダメージが無効な上に、こっちだけがダメージかよ」
デブ
LP:4000→3500
「てんめぇ……一枚伏せて、ターンエンドだぁ!!」
デブ/ひょろ長
手札:0枚/5枚
LP:3500
場 :モンスター
『連弾の魔術師』攻撃力1600
魔法・罠
永続魔法『波動キャノン』:0ターン
永続魔法『悪夢の拷問部屋』
永続魔法『悪夢の拷問部屋』
セット
コナミ/岬
手札:4枚/5枚
LP:4000
場 :無し
「……」
「……」
「……」
「……おい、どうした?」
ターンが移り、ジッとしているコナミを見ながら、岬はコナミに尋ねた。
「……」
コナミは顔を岬の、決闘ディスクへ向けた。
「……へ? 今、俺のターンなのか?」
こくり、と、コナミは頷いた。
「な、なんだよ。お前が対応してたから、お前のターンじゃねえのかよ……」
(そこが、タッグフォースルールで最もややこしい部分なのですよね……)
「お、俺のターン、ドロー!」
岬
手札:5→6
(こいつがどんなデッキを使うか知らねえが、このターンで終わらせてやるぜ!)
「いくぜ! 俺は『可変機械 ガンナードラゴン』を召喚!」
『可変機械 ガンナードラゴン』
レベル7
攻撃力2800/2
守備力2000/2
「なんだぁ!? レベル7を通常召喚だぁ!?」
「こいつは生贄無しに召喚できる代わりに、攻撃力と守備力が半分になっちまう『妥協召喚モンスター』だ。だがそれだけじゃねえ。装備魔法『愚鈍の斧』をガンナードラゴンに装備!」
カードから巨大な斧が出現し、それが飛んでいった先、ガンナードラゴンの顎に咥えられた。
「こいつを装備したモンスターの効果は無効化されちまうが、代わりに攻撃力を1000ポイントアップさせる。これでガンナードラゴンの攻撃力は元に戻って、更に攻撃力も1000アップだ!」
『可変機械 ガンナードラゴン』
攻撃力2800+1000
「攻撃力、3800だぁ!?」
(しかし、『愚鈍の斧』はスタンバイフェイズごとに、自分のライフに500ポイントのダメージを受けてしまう。二枚の『悪夢の拷問部屋』の発動下では悪手では……?)
「更に、こいつをくれてやらぁ! 装備魔法『魔界の足枷』! こいつをテメェの『連弾の魔術師』に装備だ!」
再びカードから、今度は巨大な鉄球が現れる。それに繋がれた鉄の枷が、『連弾の魔術師』の足首を捕らえた。
「こいつが装備されたモンスターは攻撃ができなくなって、攻撃力と守備力が100になる」
「なにぃ……!」
『連弾の魔術師』
攻撃力1600→100
守備力1200→100
「ついでに、こっちのスタンバイフェイズごとに、装備モンスターのコントローラーに500のライフダメージを与える効果もあるが、んなもん、破壊しちまえば関係ねえ! バトルだ! ガンナードラゴンで、『連弾の魔術師』を攻撃だぁ!!」
ガンナードラゴンが、顎に咥えた斧を振りかざし、連弾の魔術師に降り掛かった。
「……っ」
「永続罠発動!」
「なに!?」
岬が、手札のカードを取ろうとした瞬間、兵郎の声が響いた。
「『グラビティ・バインド-超重力の網-』!」
カードが表になると同時に、フィールド全体が歪む。
と同時に、ガンナードラゴン、更には魔術師までもが、苦しげにうずくまった。
「こいつが発動されている限り、フィールド上のレベル4以上のモンスターは攻撃できなくなる」
「な、マジかよ……」
自身のデッキを見つめながら、岬は顔をしかめた。
(やべぇ……俺のデッキは、レベル4以下どころか上級と最上級しかいねえようなデッキだぞ……)
あからさまな表情の変化に、デブとひょろ長は嬉しそうに声を上げる。
「どうしたよ! そんな顔しちまってよぉ!」
「サレンダーするなら大いに結構だぜ。もちろん二人とも脱いでもらうがよぉ、がははははは!!」
聞いていて不快になる声で語られる、不快にまみれた言葉の数々。
直前とは違う理由で顔をしかめながら、岬は手札を見た。
(どうする……クソ、予定が狂っちまったが仕方ねぇ。今日会ったばっかの得体の知れねえ野郎だが、こいつに賭けるっきゃねえじゃねーかよぉ……)
「俺はカードを三枚伏せる。ターンエンドだ!」
岬/コナミ
手札:0枚/4枚
LP:4000
場 :モンスター
『可変機獣 ガンナードラゴン』攻撃力2800+1000
魔法・罠
装備魔法『愚鈍の斧』
装備魔法『魔界の足枷』
セット
セット
セット
デブ/ひょろ長
手札:0枚/5枚
LP:3500
場 :モンスター
『連弾の魔術師』攻撃力100
魔法・罠
永続魔法『波動キャノン』:0ターン
永続魔法『悪夢の拷問部屋』
永続魔法『悪夢の拷問部屋』
永続罠『グラヴィティ・バインド-超重力の網-』
「おらおらいくぜぇ! この俺、デイブ様のターンだ! ドロー!」
ひょろ長
手札:5→6
「そしてこのスタンバイフェイズ、『波動キャノン』のエネルギーが一つ貯まる」
『波動キャノン』
0→1ターン
「さぁ~て、こっちも行かせてもらうぜぇ。来なぁ! 愛しの『ビッグバンガール』!」
『ビッグバンガール』
レベル4
攻撃力1300
不快な声と共に、真っ赤な炎のような衣装を纏った白髪の少女がそこに立つ。
その少女の顔が、不快に歪んでいるのは、重力の網の影響下ゆえか、それとも……
(『ビッグバンガール』。ということは、彼のデッキは……)
「こいつが場に存在する限り、こっちがライフを回復する度に、相手は500ポイントのダメージを受ける。さあ、燃やしてやんよぉ……魔法カード『治療の神 ディアン・ケト』! こいつでライフを1000回復する。さあ、さっさとライフよこせやババア!!」
デイブが叫んだ瞬間、空から舞い降りた緑髪のふくよかな中年女性が、嫌々な様子で彼に光を当てた。
ひょろ長
LP:3500→4500
「そしてぇ! ライフが回復したことで『ビッグバンガール』の効果で500のダメージ! 更に通常魔法が発動されたことで『連弾の魔術師』の効果で400のダメージだぁ!!」
その宣言通り、超重力の中で苦しげな体勢にありながら、二人はそれぞれ杖を構え、岬へと向ける。
だが、
「させねえよ! ライフを1000支払って、永続罠『スキルドレイン』!」
岬
LP:4000→3000
カードが表になる。すると、杖を構えていた二人は杖を下ろし、その場に力無く座り込むだけとなった。
「あん? なんだ?」
「こいつがフィールドに存在する限り、フィールド上の全てのモンスター効果は無効化される。お前らのモンスター効果もな」
「なにをぉ!?」
効果の説明を聞いた後で、デイブも兵郎も、顔を醜く歪ませながら、フィールドに立つモンスターを見た。
「この間抜け! たかが罠一枚で骨抜きにされやがって! 俺達のモンスターなら根性見せやがれ役立たずが!!」
(それがルールでしょうが。何を怒っているんだ、この人達……)
自分のモンスター達に向かって文句を叫ぶ様に、コナミは一人、不快感を募らせる。
そんなコナミの心境など知らないデイブは、新たに手札のカードを取った。
「ケッ! ならこんな役立たずどもいらねえよ! 速攻魔法『神秘の中華なべ』! こいつで『ビッグバンガール』をリリース! 守備力を選択して1500回復だ!」
言われた通り、『ビッグバンガール』は光となり、その光がデイブを照らし出した。
ひょろ長
LP:4500→6000
「使えねぇモンスターはライフに、ムカつく女は食い物にするに限るぜ、なぁ……」
「当然だ! 使えねえバカになっちまったこいつらが悪いんだからよぉ!」
二人がまた、そんな会話をする。一人残った『連弾の魔術師』は、そんな彼らの会話に表情を歪めているように見えた。
(……この人達、カードを大切にしたことありませんね……)
言動だけで、それが十分に伝わってくる。
思い通りのプレイができれば満悦し、少し妨害されただけで、カードのせいだと文句を叫ぶ。
(何のために決闘をしているんだ、この人達は……)
「まあ、こんな役立たずどもどうでも良いぜ。この決闘は俺達の勝ちだぜ」
「なに!?」
デイブが言い、岬が声を上げたところで、プレイを続けた。
「速攻魔法『ご隠居の猛毒薬』! 自分のライフを1200回復させるか、相手ライフに800のダメージを与えるか、選ぶことができる。俺が選ぶのは、テメェらに800のダメージ!」
言いながら、岬らの頭上に紫色の液体が現れ、それを注がれた。
「ちぃ……!」
「……」
岬
LP:3000→2200
「そしてこの瞬間、ダメージを受けたことで二枚の『悪夢の拷問部屋』の効果が発動する。一枚につき300ポイント、二枚で600のダメージを喰らいな!」
「うおお……!」
岬
LP:2200→1600
「これでテメェらのライフは残り1600。そして、こっちには『波動キャノン』があるんだぜぇ……」
ニヤリと笑いながら、『波動キャノン』を墓地へ送った。
「『波動キャノン』の効果で1000ポイント! 更に二枚の拷問部屋の効果で600ポイント! 合わせて1600ポイント! ジャストキルだぁ!!」
叫ぶと同時に、『波動キャノン』から巨大なエネルギーが発射される。
それが、岬ら二人へと向かっていった。
「……伏せカード発動! 『非常食』! こいつの効果で、『愚鈍の斧』と『魔界の足枷』を墓地へ送り、一枚につきライフを1000回復する」
発動されたと同時に、二枚の装備魔法は光に変わる。
それぞれのモンスターに装備されたそれらは消え、その光は岬に吸収された。
『可変機獣 ガンナードラゴン』
攻撃力2800
『連弾の魔術師』
攻撃力1600
守備力1200
岬
LP:1600→3600
「……で、1600のダメージだったな。うぅ……」
岬
LP:3600→2000
「……へ、回復はお前だけの専売特許じゃねえぜ」
ダメージを受けながら、凌ぎ切ったことで笑みを浮かべる。
そんな笑みに、デイブはなお更顔を醜く歪めた。
「どんだけ役立たずなんだよこのカードどもはぁ!! なんで俺にさっさと勝たせねえんだ!! 俺が使ってるんだぞ!! さっさと俺を勝たせやがれ役立たずがぁ!!」
(……)
「何見てやがる! ムカつくツラしやがって! テメェもライフになってやがれ!! 二枚目の『神秘の中華なべ』! そのムカつくツラ二度と見せてんじゃねえよクソ魔術師が!!」
ひょろ長
LP:6000→7600
「おら! 一枚伏せてエンドだよ!! テメェらのターンだ!! さっさとしやがれクソガキどもぉ!!」
ひょろ長/デブ
手札:0枚/0枚
LP:7600
場 :モンスター
無し
魔法・罠
永続魔法『悪夢の拷問部屋』
永続魔法『悪夢の拷問部屋』
永続罠『グラヴィティ・バインド-超重力の網-』
セット
岬/コナミ
手札:0枚/4枚
LP:2000
場 :モンスター
『可変機獣 ガンナードラゴン』攻撃力2800」
魔法・罠
セット
セット
「今まで普通に勝ってきたくせに、こんな簡単に何もできなくなりやがって……」
「こんな役立たずなデッキ今日限りだ。この決闘が終わったら捨ててやるよ」
「……」
自分達のプレイングを棚に上げて、現状をひたすらカードのせいにするばかり。
キャラクターもあって大人しくしていたコナミだが、その拳は、終始震えていた。
「おい……」
そして、そんな二人に向かって、とうとう、ドスの効いた声が響く。
「ああん? なんか言ったかクソ女」
岬の声に、デイブが返事を返す。その返事を受け、岬は声を張り上げた。
「さっきから黙って聞いてりゃ、お前らカードを何だと思ってやがる!?」
決闘者として、カードを大切にしない者達への怒り。
その怒りを受けた二人は、ひたすら岬のことを見下していた。
「はぁ? カードなんか紙切れに決まってるだろうが。変に高くて硬い色違いの紙に、モンスターやら男やら女やらの絵を、長ったらしい文字に数字を印刷しただけの紙切れだろうが」
「そんな紙切れを必死こいて集めて、それで強かったら何でも許される、そんなわけの分からねえ風潮がまかり通る。それを疑問にも思わず紙切れを大事にする奴らがバカなんだろうが、お前らみたいなよぉ!」
「たかが紙切れに対して何に怒ってるのか知らねえが、みっともねえだけだ、バーカ!」
「この野郎……」
バカな見た目をしているくせに、言っていることはほとんど正論に近い。
百人の決闘者が聞けば百人が頭に来るが、決闘者ではない、百人の一般市民が聞けば百人が正しいと答えるだろう。
そんな連中に何を言ったところで、意味は無い。
「おら、さっさとしやがれ! どうせ次の俺のターンが来れば終わりなんだからよ」
「はぁ? 手札ゼロで何言って……おい、お前らまさか、次に引くカードが何か分かってんのか!?」
岬が途中で気付き、声を上げる。デブもひょろ長も、答えはしないが、ニヤニヤ笑うだけ。
「まさかお前ら、カードが好きな順番になるよう、ディスクに細工を……」
(……道理で、やけにカードが揃っていると思ったら……)
ニヤニヤ笑いながら、二人は声を上げた。
「さあなぁ! だがもし俺達がそんなことしてるとして、やったっていう証拠でもあるのか? あったとしても、止める奴なんていねえし絶対にやめねえがな!」
「決闘でしか何も決められねえお前らが悪いんだよ。イカサマも見抜けねえ、決闘でも勝てねぇ、紙切れが無きゃ何にもできねえ。本当! 決闘者ってのはバカの集まりだよなぁ!! ぎゃははははははは!!」
「これに懲りたらこんな紙きれのカードじゃなくて、クレジットカードを集められるようになれよ、だーっはははばはは!!」
「本当に、黙って聞いてりゃこいつらぁ……!!」
岬がまた声を上げ、食って掛かろうとした。が、その岬の肩に、置かれる手があった。
「……」
「てめ、コナミ……」
岬を元の位置に戻し、コナミはディスクを構える。
「おら、やるならさっさとやりやがれ! 適当に紙束回すの付き合ってやるからさっさとターンエンドして俺らに回しな!!」
勝手な言葉を吐くデブを無視し、コナミはデッキに指を置く。
「……」
コナミ
手札:4→5
(うむ、このデッキなら彼女と……いや、大抵の人とのタッグで問題なく戦える。感謝します、セクトさん……)
「……魔法……『暗黒界の取引』……互いにカードを一枚ドロー……一枚、捨てる……」
「手札交換か……俺は手札がゼロ。普通に捨てるしか無え」
コナミ
手札:4→5→4
デイブ
手札:0→1→0
「……この瞬間、『暗黒界の狩人 ブラウ』……効果、発動……効果によって、手札から捨てられた時……一枚ドロー……」
コナミ
手札:4→5
「……フィールド魔法……『暗黒界の門』……」
コナミがカードを発動させる。その瞬間、不気味な拷問部屋と化していた空間の、コナミの後ろから、暗く不気味で、巨大な門が出現した。
「……フィールドの……悪魔族全て……攻撃力、守備力、300アップ……更に、効果……」
言いながら、墓地に手を伸ばした。
「墓地の悪魔族、除外……手札の悪魔族……捨て……一枚ドロー……ブラウを除外……」
言葉の通り、墓地に眠っていた暗黒界の狩人を懐に仕舞い、同時に手札のカードを一枚捨て、更に引く。
コナミ
手札:4→3→4
「……効果、発動……『暗黒界の術士 スノウ』……デッキから、『暗黒界』と名の付くカード、一枚、手札に……『暗黒界の龍神 グラファ』……」
コナミ
手札:4→5
「な、なんだこのガキ、さっきから手札が減ってねぇ……」
決闘のことを軽んじていた二人だが、その光景の異様さには、思わず声を漏らしていた。
「……」
行っているのは手札交換だけだが、静かな声で、デッキを次々に回していく。
そんなコナミの姿に、パートナーである岬も、声を失っていた。
「……魔法……『暗黒界の雷』……フィールドの、セットされたカード、一枚破壊……」
宣言した瞬間、デイブの頭上に発生した黒雲から、白い落雷が落ちる。
そして、場に唯一裏側で置いてあるカードにぶつかった。
「なぁ! ミラーフォースが!?」
「……その後……手札を一枚、捨てる……」
コナミ
手札:4→3
「……効果発動……『暗黒界の龍神 グラファ』……捨てられた時……相手の場のカード、一枚破壊……グラヴィティ・バインド、破壊……」
グラファのカードが墓地へ置かれると同時に、その墓地から、怪しげな咆哮が轟く。
と同時に、永続罠は砕け、フィールドを覆っていた超重力の網が消え、苦しげに硬直していたガンナードラゴンが鎌首を上げた。
「こんの、クソガキ……だが、こっちのライフは7600もあるんだぜ! このターンで傷りきれるもんかよぉ!」
「……」
男の言葉を無視しながら、コナミは、手札のカードを取る。
「……」
カードを取った後、その指が止まった。
「……?」
突然停止したコナミの動きに、岬も疑問に感じた。
「どうした?」
疑問に感じ、尋ねた時、コナミは思い出したように、ようやく手を動かした。
「……召喚……チューナーモンスター……『魔轟神レイヴン』……」
『魔轟神レイヴン』チューナー
レベル2
攻撃力1300+300
「レイヴンは悪魔族……門の効果……攻撃力アップ……レイヴンの効果……メインフェイズに一度……手札のカードを捨てる……エンドフェイズまで、捨てた枚数分、レベルを上げ……捨てた枚数だけ、攻撃力を、400アップ……一枚、捨てる……」
コナミ
手札:2→1
『魔轟神レイヴン』
レベル2+1
攻撃力1300+400+300
「……効果発動……『暗黒界の尖兵 ベージ』……墓地から、特殊召喚」
『暗黒界の尖兵 ベージ』
レベル4
攻撃力1600+300
「……効果発動……ベージを手札に戻し……グラファ、特殊召喚……」
『暗黒界の龍神 グラファ』
レベル8
攻撃力2700+300
「なに!? レベル8のモンスターを、いきなり特殊召喚!?」
「……グラファは……グラファ以外の暗黒界、手札に戻し……特殊召喚できる……」
コナミの説明を聞き、同時に、コナミのフィールドを見渡す。
『可変機獣 ガンナードラゴン』
攻撃力2800
『魔轟神レイヴン』
攻撃力1300+400+300
『暗黒界の龍神 グラファ』
攻撃力2700+300
「攻撃力の合計は……7800……!」
「逆転しやがった……」
デイブに兵郎、そして岬も、その光景に目を見開き、コナミの姿を凝視していた。
「……バトル……」
そんな沈黙の中で、その沈黙よりも静かな声で、コナミは宣言する。
「……ガンナードラゴン……レイヴン……グラファ……ダイレクトアタック……」
終始変わらぬ静かな口調。そして、そんな口調とは裏腹に、彼の目の前を走るモンスター達の攻撃は、あまりに荒々しく……
『ぎゃあああああああああ!!』
デイブ
LP:7600→0
『……』
敗北し、呆然と座り込んだデイブと兵郎。そんな二人にコナミが歩み寄り、手を伸ばす。
二人の決闘ディスクから、二人が使っていたデッキを抜き取った。
「……ま、捨てるって言ってたんだ。そうでなくとも、カードを大事に扱ってない奴らから取り上げても、文句なんか無えな……」
その光景に、岬はそう、一人ごちる。
「……ふ、ふふふ……」
その直後、不気味な笑い声が聞こえた。
「ふふふ……良いぜ。持っていけよ。そんな紙束くれてやる。十分時間も稼げたしよぉ」
「時間……?」
岬が呟いた時だった。
四人しかいない、路地裏の暗い空間に、バタバタバタ……と、大量の足音が響いた。
その直後、兵郎とデイブと同じような、不快でろくでなしな雰囲気にそのまま服を着せたような、見ただけでいかにもな風体の男達が、その空間を固めた。
「こっそり連絡してやがったのか……しかも、こんなに、仲間がいやがったのかよ……」
ザッと見ただけでも三十人。
全員が、岬とコナミを睨みつけ、卑しい笑みを浮かべていた。
「そのデッキはくれてやるよ。代わりに、お前らのデッキを貰うからよ。で、身ぐるみ全部剥いで写真撮影の後、お前らの財布とカードを売った金で打ち上げだ。その後のデザートは、お前だぜ、岬ちゃんよぉ~」
「……ちっ」
見て、聞いているだけで反吐が出る。
分かっていたことだ。こんな連中、最初から約束を守ることなど無いことは。
(面倒くせえ。二人だった時からこうした方が早かった……)
ディスクを仕舞い、デッキを大切にポケットに入れる。
そして、身軽になった身で、彼らに歩み寄る。
(三十人……正直辛いが、ま、こいつを逃がすくらいはできるか……?)
後ろのコナミに視線を送りながら、固く拳を握る……
「……ん?」
そんな拳を、後ろに立つ少年は握っていた。
「お、おい……」
岬が何かを言う前に、コナミは、岬の手を引いた。そして、
「……えぇええええええええ!?」
引っ張られると同時に、岬の身が持ち上げられる。と同時に、その浮いた身を支えられる。
いわゆる、『お姫様抱っこ』の状態に、岬は恥じらいの声を上げた。
「お、おい! 何すんだお前……きゃっ!」
文句を言ったと思ったら、今までとは真逆な、女の子らしい悲鳴を上げる。
それは、コナミが移動を始めたからだった。
デブとひょろ長ら三十余人の大声を無視しつつ、後ろに建つ棘つきの金網を、左右の壁を蹴り、昇っていく。
そして、金網の頂上まで辿り着き、逆側へ一気に飛び降りる。
「うおおおおおおおおおお!!」
その高さと速度に岬は声を上げるが、数秒の内に地上へ降り立った。
「おらテメェら! 逃がさねえぞ!」
金網の向こうからは、金網を握るひょろ長がそんなことを叫んでいた。
だが、叫んだ直後、
バキバキバキ……
「……ん?」
その空間に響く、鈍い金属音を、全員が聞いた。
バキバキバキバキ……
集まった男の全員が、その音の出どころを探そうと、周囲に目を配る。
バキバキバキバキバキ……
やがて、一人が気付き、二人目も気付き、やがて、全員が気付く。
その音の発生源は、未だ岬を抱きかかえながらこちらを見る、コナミの目の前の、金網だと……
「おい、まさか……」
気付いた時には、既に遅かった。
金網の、地上に刺さった支柱、そして、金網を横から支えている針金。
それらが全て破壊され、やがて自重を支えられなくなった金網は、傾きの方向へ倒れる。
丁度、ビルとビルの間の、路上と全く同じ面積を持ったそれが、そんな路上に立つ男達に向かって、その有刺鉄線を向けながら倒れた。
「うわああああああああああああああああ!!」
「ぎゃああああああああああああああああ!!」
何人かはすぐに反応し、逃げたようだった。
だが、何人かは逃げ遅れた者もいるらしい。
それぞれ何人か、興味も無いコナミは背中を向け、そのまま岬を抱きかかえながら、夕日の沈む方向へと走り去った。
……
…………
………………
「……」
「……」
先程、コナミが龍可と別れた公園に戻り、並んでベンチに座る。
コナミは元より無口で、帽子のせいで感情は読み取れない。
座ってから続く沈黙に苦しんでいるのは、岬だった。
「……あ、えっと、その……」
そんな沈黙が耐えられなくなり、口を動かした。
「その……ありがと、な。助けてくれてよ……」
「……」
礼を言った後も、コナミは喋らない。
代わりに、懐をまさぐり、取り出したものを手渡した。
「これは……あいつらのデッキか……俺に、くれるのか?」
こくり、と、コナミは頷く。
「俺のデッキには合わないと思うけど……まあいいや。戦利品ってやつだな」
言いながら、『ロックバーン』と『キュアバーン』、計八十枚以上のデッキを受け取った。
「……」
「……」
受け取った後も、沈黙は続く。
「……えっとよ……」
そしてやはり、その沈黙を、岬が破る。
「……あいつらはよ、俺が昔やんちゃしてた頃に関わってた連中だ」
今まで誰にも、ツァンにさえ話したことも無い過去。それをこの、顔も声も隠す少年には、話しても良い気になった。
「今更、誰に恨まれても仕方がねえ。それだけのことしてきたことは分かってるし、まともになろうと思えばそれだけの覚悟はいるさ。だがよ、あいつらはその中でも、かなり厄介な奴らでよ。そんな覚えは無えんだが、知らない間に仲間ってことにされてて、はっきり縁を切らせろって言ったら、引き換えに全部脱いで写真撮らせろってさ。それで脅して逃げらんねえようにしようしてるの、バレバレだってのに……」
自嘲しながら、不快な言葉を紡いでいった。
「元々、関わってた頃からあいつらのことは大嫌いだったんだ。社会になじめなかった上に、決闘が弱いから決闘者まで目の敵にして、その決闘者を集団暴力で襲っちゃあデッキを取り上げて、金に変える。今日みたいに、腕力で敵わねえと思った時だけは決闘して、それで勝って言うこと聞かせるか、今日みたいに仲間を呼んで、結局ボコボコにする。そんな連中だ。お互いに利用価値があったから利用し合ってたんだが……正直、仲間だって思ったことは一度も無え」
「……」
コナミは終始、黙って聞いていた。
「しかも、そんな奴らに限って、諦めが悪くて最悪にしつこいときた。あそこまでたちの悪い集団も無いぜ」
「……」
「あいつら多分、これからも俺のこと狙ってくるかもな。お前も、目を付けられたかもしれねえ。厄介なことに巻き込んじまって悪かったな」
「……」
「また俺のこと見掛けても、今度は助けなくて良いぜ。これ以上俺の昔のことで痛い目見ることねえよ」
「……」
「今日は本当にサンキューな。それじゃあ」
そのやり取りを最後に、岬は立ち上がる。
そんな岬の表情は、終始、気丈で、強さを纏っていた。
「……」
そんな岬を見送りつつ、コナミもまた、立ち上がった。
「……」
(さて……今日の夕飯は、どうしましょうか)
お疲れ~。
つ~ことで、これがコナミの使用デッキな。
んじゃあ、次は第五話で会いましょう。
ちょっと待ってて。