遊戯王5D's ~剣纏う花~   作:大海

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ごろにゃーご……
んじゃ、第六話ね。
特に言うこともないゆえ、行ってらっしゃい。



第六話 進撃の巨竜

視点:外

 

「……むはっ、これやべぇな、あず、コナミ……」

 朝食の席で、セクトは鼻をしかめつつ、笑顔で話していた。

「『臭意注! BARASA糸』、こんな強烈なのが売られてたんだなぁ……」

 出された納豆をかき混ぜ、糸を伸ばしつつ、その香りと見た目を楽しんでいた。

「こちらは試しましたか? 『納豆の臭撃 ~ワームの体液~』」

 コナミも同じように、納豆をかき混ぜ、糸を伸ばしている。

 もちろん、よくかき混ぜた後は、刻みネギを忘れず加える。

「お前、納豆にネギ入れる派だっけ?」

「ええ。必ず。セクトさんは入れない人ですか?」

「そうだなぁ、切るのが面倒だからほとんど入れねえけど……美味そうだなぁ。俺も久しぶりに入れてみるかな」

 言われて、コナミは手元の刻みネギを渡す。それを、大豆と大量の糸の海の中へ加え、更にかき混ぜていく。

「緑と茶色って、よく合うよな」

「香りの相性も最高ですよ」

 そうして、会話と香りを十分楽しんだ後で、糸を伸ばしつつ、互いに一口……

 

「美味い」

「美味い」

 

 そうして、珍しくコナミも一緒に食べての朝食を終え、玄関に立つ。

 今日のセクトの服装は、決闘アカデミアの制服ではなく、決闘用のライディングスーツだった。

「んじゃあ、いつも通り先に行っといてくれ」

「ええ」

 玄関を出た直後の会話の後で、コナミは走り、七階の手摺りから躍り出る。

 ビルの陰で姿を消した後、手摺りに手を置いて下を見ると、既に姿は無い。

「今時の付き人は飛ぶんだな……」

 

 元々は、セクトが金を出して、電車かタクシーを使って移動させていた。

 一緒に移動できるようにと、Dホイール用のサイドカーの購入も検討していたのだが、コナミは、そんな物より走った方が手っ取り早いと拒否し、結果、仕事場への移動は全て脚のみになっていた。

 実際、セクトが信号に捕まったり、高速で料金を支払ったり、ネズミ捕り(※セキュリティによるスピード違反の取り締まり)に掛からないよう減速したりしている間、コナミはセクトの到着する二十分前には到着し、受付やら、選手控室の確認やらを済ませていた。

「いつもサンキューな、コナミ」

「……」

 明るく言っている物の、コナミは返事をしない。

 これにも既に慣れているからセクトも特に何も言わず会話を続けた。

 

 

「今日は短かったなぁ……」

 選手控室でコナミの弁当を食べながら、そう会話をする。

 プロの決闘は連戦が基本で、それによって終了の時間は夕方か、時間が掛かった時には深夜を超える場合も多い。

 だが、今回は前座試合で一戦だけ、ということで、昼になる前にはセクトの出番は終わってしまった。

「……ま、前座で経験値稼ぐのも立派な仕事だしな……」

 いくら人気があり、プロランキングの上位を勝ち取っていると言っても、キャリアはまだまだ新人である。

 普通の試合やランキング戦、イベントに出ることは多いが、こういった、希望を出せば大抵のプロは受けることができる、地味な仕事も少なからず受けていた。

 もちろん、地味だからと悪いことばかりではない。今言った通り、特別なキャリアや実績が無くとも、プロであれば、希望さえ出せば大抵の人間は参加できる。

 華やかな仕事に比べればファイトマネーは少額だが、それでも、普通に生活すれば半月は食べていける金になる。金だけが目的なら、はっきり言って、普通のイベントの決闘を一度こなすより、前座決闘を二度こなした方が稼ぎは良い。

 それが、多い時には日に十回近くの決闘のイベントが行われることもあるから、既にランク入りを諦めたプロの中には、そんな前座試合で生計を立てている者も少なからずいるくらいだった。

 もっとも、当然メリットだけではない。

 いくら回数が多く、簡単に出られるから稼げると言っても、それぞれ会場はばらついているため、それぞれの会場が遠い場合体力は削られるし、自己負担となる交通費もバカにならない。セクトもできればもう一試合出ようかと思っていたが、地理的な問題で一試合に留めるしかなかった。

 そんな前座試合に、金に目がくらんで考え無しに出続けていれば、決闘に必要な体力はいずれ使い果たし、本人も気付かないうちに再起不能にまで陥る場合さえある。

 過去にも、世界一にもなれると噂された決闘者が、家族への仕送りのためにそうやって金を稼ぐためだけの決闘をし続けた結果、いざ世界チャンピオンとのタイトル戦で倒れてしまい、引退を余儀なくされた、という例もあるくらいだった。

 

「じゃあ、これ食ったら帰るから、先に帰って夕飯の支度しといてくれ」

「……」

 セクトはそういった現実をある程度理解しながら、相変わらず、食事をほとんど取らないコナミにそう言った。コナミは一つ頷いて、そのまま姿を消した。

「……付き人にしとくにゃ、勿体ないよなぁ、やっぱ……」

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 セクトと別れ、一度帰宅した後で、コナミは夕飯の買い物にスーパーを訪れていた。

(あら、今日はお豆腐が安い……)

 そんなことに喜びを感じつつ、今日は豆腐にしようと決めながら、豆腐以外にも材料を見ていった。

(シンプルに冷奴……いや、湯豆腐……肉豆腐か……揚げ出し豆腐という手もある……)

 考えられる限りの豆腐料理を思い浮かべつつ、どれにしようかと考えながら、スーパーを歩いている時だった。

 

「コナミさん」

 

 後ろから、よく見聞きした少女の声。

 振り返ると、思った通り、ツインテールに縛った緑の髪があった。

「こんにちは」

 服装は、いつも見てきた普段着ではなく、アカデミアの制服を着ていた。

「……」

「えっと……今日は、アカデミアは午前中までです」

 相変わらずの無言で、首だけを傾げたコナミに対して、龍可はそう言う。

 コナミは表情は変わらないが、納得したように頷いていた。

「ここに来たら、コナミさんに会えるかなって思ってたんですけど、本当に会えて嬉しいです////」

 顔を赤く染めながら、はにかむ姿は、恋する可憐な少女そのものだった。

 そんな龍可の姿に、コナミは……

(会う度に顔が赤くなっているのは、風邪かなにか……?)

 そう思っていた。

 

 

(お豆腐、いっぱい買いましたね)

(ええ。今日はお豆腐づくしにしましょう)

 大安売りしていた豆腐の山と、それ以外の野菜やら材料の入ったレジ袋を両手に、コナミは満足げな顔を帽子に隠し、龍可は、興奮に舞い上がった顔を隠しもせず歩いていた。

 お互い、相変わらず呟き声で楽しく会話をし、いつかの公園のベンチに腰を下ろした。

(……ああ、そうだ。思い出した)

 しばらく二人で楽しく会話をしていたところで、コナミはそう言って、龍可と目を合わせた。

(どうしたんですか?)

(実はですね……)

 

「おーい! 龍可ー!」

 

 そんなコナミの話しを、邪魔する声が遠くから響いた。

 その声は、龍可もコナミもよく知っていた。

 空気を読む、という行為が苦手な彼は両手を大きく振りながら、二人のもとへ走り寄っていった。

(もー……せっかく梓さんと二人きりだったのに……)

「二人してなに話してたの?」

 龍可の文句など知らず、龍亞はハツラツとした満面の笑顔を向けている。

 そんな笑顔の龍亞に、喋れないコナミの代わりに龍可が答えた。

「……今度の、アカデミアでのタッグ決闘大会のこと話してたの」

 話してはいないが、面倒なのでそう話しておいた。

「え? 龍可、あず……コナミさんとタッグ組むの?」

「うん……あれ? 言ってなかったっけ……?」

「聞いてないよー! 何で教えてくれなかったんだよー!」

「なんでって……」

「いいなー。俺もコナミさんと組みたかったよー」

「ダーメ。もう私が……」

 

「ちょっと待ってください!」

 

 二人が話していると、後ろから別の声が聞こえた。若い女子の声だった。

「だ、誰ですか?」

 歩いてきたのは、やはり女子。それも、龍可や龍可と同じく、かつてコナミも着たことのある、決闘アカデミア高等部の制服を着ていた。

 青い長髪を、左右に切りそろえた、素朴だが真面目な雰囲気の女子だった。

「ああ……初めまして。宇佐美彰子と言います。高等部で生徒会副会長をやっています」

「ああ……どうも、ご丁寧に……」

 二人して、互いにお辞儀をしあう。頭を上げて、目が合い、再び互いにお辞儀した。

「今度のタッグ決闘大会、俺と組んでくれることになったんだー」

(……むしろ、断る暇も無く一方的に決められてしまったのですが……)

 互いに謙遜し合う二人に対して、龍亞は無邪気に笑う。

 そんな龍亞に対して、彰子は苦笑するばかりだった。

「……それで、何を怒ってるんですか?」

「そうでした!」

 龍可に尋ねられ、彰子は思い出したように顔を上げ、険しくさせた顔をコナミに向けた。

「あなた! コナミさん、と言いましたね?」

「……?」

 一度首を傾げ、こくり、と一度だけ頷く。

「我が高等部の生徒会長、伊集院セクトさんの付き人、という話でしたね?」

「……?」

 事実なので、また頷く。

「会長から聞きました。あなた、決闘アカデミアタッグ決闘大会当日、同日行われるプロのタッグ決闘大会で、会長とタッグを組んで出場をするというお話のはず!」

「……え?」

 その話には、龍可も反応した。

「同日って……同じ日ってこと、ですか……?」

 正に話そうとしていたことを先に言われて、コナミとしても、困惑してしまった。

「会長とのタッグ決闘に出場すると言っておきながら、裏ではこんな年端もいかない女の子に手を出すなど……許せません! それでも会長の付き人なのですか!?」

「……?」

 途中から、言っていることがおかしい気がした。

 そんなコナミの疑問など知らない彰子は、また言葉を続けていく。

「運動神経は多少良いようですが、付き人とは名ばかり。本当は毎日朝寝坊ばっかりして、先に起きた会長に起こされているのではないですか? それで決闘のことばかり考えて、付き人らしいことなんてしてないんじゃないですか?」

「な、なんでそんなこと分かるんですか……?」

「そのレジ袋を見れば分かります!」

 力強く指差した先にある、コナミが持っていたレジ袋を見ながら叫んだ。

「そんな大量のお豆腐……お料理ができないものだから数日冷奴で凌ごうと思っているのでしょう? それでお料理の手を抜く気ですね!」

 

「……」

 朝寝坊どころか、毎朝日の出直後か、早い時はそれより早い時間に目を覚ましている。そのまま洗濯をし、セクトのお弁当と朝食を作りつつ、今日のお仕事の資料に目を通し、セクトの着替えや荷物を用意したりしていた。

 付き人としての仕事も、今のところ、セクトからは満足してもらっている。

 つまり、彰子が今言ったこととは真逆なのだが、

「……」

 喋れないので、否定することはできなかった……と言うより、単に面倒くさかった。

「そんな人が、会長と一つ屋根の下に住んでいるなんて許せません! 今すぐ私と決闘しなさい!」

 再び力強く指を差され、そんな提案をされた。

「ちょっと、彰子姉ちゃん?」

「落ち着いて……」

「私が勝ったら、もう会長とは関わらないで欲しいです!」

「……」

 なぜこんなに興奮しているのか。

 なぜこんなに怒っているのか。

 コナミとしては、不可解なことこの上ない。

 なにがどうして決闘する流れになるのか全く理解できない。

 理解できないながら、

「……」

 こくり、と頷いた。

「えぇ!? コナミさん、決闘するの?」

「コナミさん、こんな決闘受けること……」

 

「……」

 双子の制止も聞かず、決闘ディスクを取り出し、デッキをセットしていた。

 それを見た彰子も、真剣な表情を崩さないまま決闘ディスクにカードをセットする。

 

「……なんでこうなったの?」

「龍亞が連れてきたからでしょう?」

「え? 俺のせい?」

「……そこまでは言わないけど……でも、コナミさん、会長さんとタッグって、どういうこと……?」

 そんな、双子の会話や、龍可の疑問の只中で……

 

「決闘!!」

「……」

 

 

彰子

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

コナミ

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

 

「先行は私です。ドロー!」

 

彰子

手札:5→6

 

「私は、『セイバーザウルス』を召喚!」

 

『セイバーザウルス』

 レベル4

 攻撃力1900

 

「更に、カードを二枚伏せ、永続魔法『凡骨の意地』を発動。ターンエンドです」

 

 

彰子

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『セイバーザウルス』攻撃力1900

   魔法・罠

    永続魔法『凡骨の意地』

    セット

    セット

 

 

(『凡骨の意地』……『セイバーザウルス』と言い、通常モンスターが主軸となるデッキなのでしょうか……)

 

コナミ

手札:5→6

 

 判断するためには情報が少なすぎる。そう考え、自分のするべきプレイを行うことにした。

「……発動……フィールド魔法……『暗黒界の門』……」

 カードをディスクにセットすると同時に、街中の公園だった景色が変わった。

 昼日中だったのが薄暗い夜に変わり、周囲には不気味な霞が掛かる。

 そして、そんな空間の、コナミの後ろに、黒く不気味な巨大な門が出現した。

「フィールド魔法……」

 

「うわー、不気味な門だな……」

「コナミさん、デッキ変えたんだ……」

 

「……魔法……『暗黒界の取引』……互いに手札一枚、捨て……一枚、ドロー……」

「……」

 

コナミ

手札:4→3→4

 

彰子

手札:2→1→2

 

「……発動……効果……『暗黒界の術士 スノウ』……デッキから手札に……『暗黒界の龍神 グラファ』……」

 

コナミ

手札:4→5

 

「……召喚……『魔轟神レイヴン』……」

 

『魔轟神レイヴン』チューナー

 レベル2

 攻撃力1300+300

 

「門の効果……悪魔族、攻撃力アップ……レイヴン……効果……手札を捨て……捨てた枚数分、レベルアップ……攻撃力、400アップ……」

 

コナミ

手札:4→2

 

 コナミが手札を捨てる。と同時に、捨てた分だけレイヴンの肉体は変化し、大きくなった。

 

『魔轟神レイヴン』

 レベル2→4

 攻撃力1300+300+400×2

 

「『セイバーザウルス』を超えた……!」

「……効果……『暗黒界の狩人 ブラウ』……一枚ドロー……」

 

コナミ

手札:2→3

 

「……効果……『暗黒界の龍神 グラファ』……相手のカード一枚、破壊……『凡骨の意地』」

「くぅ……!」

 彰子が分かり易く顔を歪めると同時に、墓地からグラファの怨念が湧き出る。

 それが、彰子のフィールドへと向かっていった。

「甘いです! カウンター罠『天罰』! 手札を一枚捨てて、効果モンスターの効果を無効にして破壊します!」

 

彰子

手札:2→1

 

 彰子が手札一枚を捨てた瞬間、天から落雷が発生する。

 それがグラファの怨念とぶつかり、消滅させた。

「……レイヴン……攻撃……」

 バトルに入り、巨大化したレイヴンが飛ぶ。迎え撃とうと角を突き立てた『セイバーザウルス』とぶつかり合い、結果レイヴンが生き残った。

 

彰子

LP:4000→3500

 

「……一枚伏せ……ターンエンド……レイヴンの攻撃力……戻る……」

 

 

コナミ

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『魔轟神レイヴン』攻撃力1300+300

   魔法・罠

    セット

    フィールド魔法『暗黒界の門』

 

彰子

LP:3500

手札:1枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続魔法『凡骨の意地』

    セット

 

 

「……私のターンです!」

 

彰子

手札:1→2

 

「……ふふふ」

 ターンが回り、カードをドローしたと同時に、不敵な笑みを見せる。

「……見せてあげましょう。私の恐竜さん達の力を!」

 

「恐竜さん……?」

「あれ? なんか、雰囲気が変わって……」

 

「私がドローしたのは通常モンスター『ワイルド・ラプター』。『凡骨の意地』の効果でドローした通常モンスターを相手に見せることで、再びドロー」

 

彰子

手札:2→3

 

「『屍を貪る竜』。ドロー」

 

彰子

手札;3→4

 

「『二頭を持つキング・レックス』、ドロー。『メガザウラー』、ドロー。『剣竜(ソード・ドラゴン)』、ドロー。『大くしゃみのカバザウルス』、ドロー。『フロストザウルス』、ドロー。『トラコドン』、ドロー。『フレイム・ヴァイパー』、ドロー」

 

彰子

手札:4→11

 

「……ここまでです」

「……」

 

「うわぁ、手札がいっぱい……」

「でも、全部あんまり強くない通常モンスターよ。あんな手札で何ができるの……?」

 

「ふふふ……この恐竜さん達で何ができるか。それを今、とくとお見せしましょう」

 疑問を持つ双子に語り掛けながら、彰子は最後にドローしたカードを発動させた。

「フィールド魔法『フュージョン・ゲート』発動!」

「……!」

 先程コナミがしたように、彰子がフィールドゾーンにカードをセットする。

 と同時に、周囲の景色に亀裂が走り、コナミの後ろに立っていた巨大な門は崩壊した。代わりに、景色が、空間がねじれ、揺らめき渦を形作る世界へと姿を変えた。

 

「え? なになに?」

「フィールド魔法はお互いのフィールドに一枚しか残らない。彰子さんが新しくフィールド魔法を発動させたせいで、コナミさんのフィールド魔法は破壊されたの」

 

「これであなたの場の悪魔族モンスターの攻撃力は元に戻ります!」

「……」

 

『魔轟神レイヴン』

 攻撃力1300

 

「そして、『フュージョン・ゲート』の効果。このカードの効果により、ターンプレイヤーは場か手札のモンスターを除外することで融合召喚が可能になります」

「……」

「私はこの効果で、手札の『二頭を持つキング・レックス』と、『屍を貪る竜』を除外! 融合召喚! その巨体で大地を揺らして! 『ブラキオレイドス』!」

 

「うわあ、デッかい……」

 

 龍亞の言う通り、そして彼女の宣言通り、見上げるほどの巨体がフィールドに降り立った。

 巨大で極太の前足で大地を踏みしめ、地面を、そして空間をも揺らす。

 そんな前足と勝るとも劣らない、天を突く長大な首が、コナミを見下ろしていた。

 

『ブラキオレイドス』融合

 レベル6

 攻撃力2200

 

「確かに大きい、けど……」

 

(攻撃力は2200……弱いとは言いませんが、最初期カード特有の微妙なカード。今時融合を使用してまで出す価値があるとは……)

「ふふふ。古いモンスターだからと、甘く見ないことです」

 相変わらず、不敵に笑いながら、再び彰子はディスクに手を伸ばした。

「罠発動『チェーン・マテリアル』! このカードを発動したターン、私は攻撃ができませんが、代わりに融合素材をデッキや墓地から使うこともできます。私はこの効果で、デッキから再び『二頭を持つキング・レックス』と『屍を貪る竜』、四枚を除外して融合。現れて! 二体の『ブラキオレイドス』!」

 

『ブラキオレイドス』融合

 レベル6

 攻撃力2200

『ブラキオレイドス』融合

 レベル6

 攻撃力2200

 

「二体に増えた……!」

 

「更に、手札の『トラコドン』と『フレイム・ヴァイパー』も除外。『プラグティカル』を融合召喚」

 

『プラグティカル』融合

 レベル5

 攻撃力1900

 

「そして最後です。手札の『メガザウラー』と、『剣竜』を融合」

 手札の二体の上級恐竜をポケットにしまう。と同時に、それまでとは違い、頭上の空の、雲の切れ間から、それは現れた。

 

「清廉なる古竜の魂よ。始まりの名のもとに一つと重なり、大翼となりて天を舞え……」

「融合召喚! 『始祖竜ワイアーム』!」

 

 天を覆い隠せるほどの、巨大な翼と巨大な体。

 それが、空を旋回した後で、二人の立つフィールドに降り立った。

 

『始祖竜ワイアーム』融合

 レベル9

 攻撃力2700

 

「……」

 

「なんか、すごいのが来たよ!」

「今まで出したモンスターとは違う。これって……」

 

「このカードは融合召喚でしか特殊召喚できません。そして、このカードはモンスターゾーンに存在する限り、このカードは通常モンスター以外との戦闘では破壊されず、このカード以外のモンスター効果を受けません」

 

「えぇ!? それってつまり、ほとんどのモンスター相手に無敵ってことじゃん!」

「でも、そんなの持ってたなら、最初からそのカードをたくさん融合召喚した方が……」

 

「ワイアームは自分フィールドに一体しか存在できません」

 

「ああ……」

 

「それに、恐竜さんでなくドラゴン族なのが気に入りませんが……『チェーン・マテリアル』を発動したことで攻撃はできません。そこで、私は『ブラキオレイドス』の一体をリリース。『フロストザウルス』をアドバンス召喚」

 青色の首長竜が天を仰ぐ。

 と同時に、彼の周囲を吹雪が包み、全身が凍り付いていき、やがて、氷の鎧を纏った首長竜がそこに立った。

 

『フロストザウルス』

 レベル6

 攻撃力2600

 

「カードをセットしてターンエンド。そしてこの瞬間、『チェーン・マテリアル』の効果を使って融合召喚された『ブラキオレイドス』は破壊されます」

 

 

彰子

LP:3500

手札:2枚

場 :モンスター

   『始祖竜ワイアーム』攻撃力2700

   『フロストザウルス』攻撃力2600

   『ブラキオレイドス』攻撃力2200

   『プラグティカル』攻撃力1900

   魔法・罠

    永続魔法『凡骨の意地』

    セット

    フィールド魔法『フュージョン・ゲート』

 

コナミ

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『魔轟神レイヴン』攻撃力1300

   魔法・罠

    セット

 

 

「……」

 

「うわぁ、攻撃されなくて助かった……」

「あれだけのモンスター、どうやって倒したらいいの……?」

 

「すごいでしょう。この圧倒的パワー。これが恐竜さん達の力です! この素晴らしさ、次の私のターンで嫌と言うほど味わわせてあげます!」

「……ドロー……」

 

コナミ

手札:2→3

 

 並べた恐竜達の姿に酔いしれている、彰子を前に、コナミのターン。

「……発動……『手札抹殺』……互いに手札全て捨て……捨てた枚数ドロー……」

「む……」

 互いの手札は二枚。二人とも二枚を捨て、二枚ドローする。

「……効果……『暗黒界の先兵 ベージ』……手札から捨てられた時……墓地より特殊召喚……」

 

『暗黒界の先兵 ベージ』

 レベル4

 攻撃力1600

『暗黒界の先兵 ベージ』

 レベル4

 攻撃力1600

 

「な……! 二枚も握っていたのですか……」

「……ベージを手札に……墓地のグラファ、特殊召喚……」

 

コナミ

LP:2→3

 

『暗黒界の龍神 グラファ』

 レベル8

 攻撃力2700

 

「うわっ! なんかすごいのが来たよ……」

「あれが、今のコナミさんの、エースモンスター、なの……?」

 

「攻撃力2700ですか。ですが、そんなモンスター一体程度ならまだ……」

(幸子さん、使わせていただく……)

「……レベル4……『暗黒界の尖兵 ベージ』……レベル2……『魔轟神レイヴン』……チューニング……」

 彰子の言葉を無視しながら、コナミの場の二体が星に変わり、空中を舞った。

「シンクロ召喚……!?」

「……」

 

(凍てつく結界(ろうごく)より昇天せし翼の汝。全ての時を零へと帰せし、凍結回帰(とうけつかいき)の螺旋龍……)

「……シンクロ召喚……舞え……『氷結界の龍 ブリューナク』……」

 

『氷結界の龍 ブリューナク』シンクロ

 レベル6

 攻撃力2300

 

「ブリューナク……ターミナルシリーズ最初期に登場したレアモンスター……」

「……ブリューナク……効果……任意の枚数の手札、捨て……捨てた枚数、場のカード、手札に……ベージを捨て……『フロストザウルス』、手札に……」

「くぅ……!」

「凍結回帰……」

 梓が手札を捨てる。と同時に、ブリューナクの全身から霧が発生する。

 その霧が、『フロストザウルス』の全身を包み込み、消滅させた。

 

彰子

手札:2→3

 

「さすがの効果ですが、それでもワイアームは効果の対象には……」

「……ベージの効果……捨てられた時……特殊召喚……」

 

『暗黒界の先兵 ベージ』

 レベル4

 攻撃力1600

 

「……速攻魔法……『エネミーコントローラー』……ベージをリリース……対象……『始祖竜ワイアーム』……」

「なっ……!」

 続いてコナミの場にコントローラーが現れ、そこから伸びたコードがワイアームに繋がれる。ベージの消滅と共に、ワイアームは彰子に顔を向け、コナミのフィールドへ移動した。

 

「そうか! いくらモンスター相手には無敵でも、魔法や罠の対象にはなるのか!」

「すごい! 無敵のモンスターを、こんな簡単に処理しちゃうなんて……」

 

「くぅ……!」

「……バトル……グラファ……攻撃……『ブラキオレイドス』……」

「うぅ……!」

 

彰子

LP:3500→3000

 

「……ワイアーム……攻撃……『プラグティカル』……」

「うあぁ……!」

 

彰子

LP:3000→2200

 

「コナミさんのフィールドには、まだブリューナクがいる!」

「この攻撃が通れば勝てるよ!」

 

「……」

 双子のそんな解説に、コナミはなぜか、嫌な物を感じた。

 しかし、実際言った通りにするしか無いので、その通りの行動を取る。

「……ブリューナク……ダイレクトアタック……」

 ブリューナクが天を舞い、彰子に向かっていく。

「……静寂のブリザード・ストーム……」

 コナミが攻撃を呟いた時、ブリューナクは口を開き、そこに、冷気のエネルギーが貯まっていく。

 それが、彰子に向けられて、発射される……

 ……はずだった。

 

「永続罠発動『リビングデッドの呼び声』! 墓地のモンスターを特殊召喚します! 私はこの効果で、墓地の『ディノインフィニティ』を特殊召喚!」

「……っ!」

 そのカード名を聞いた途端、感情の乏しいコナミの表情に、初めて動揺が浮かんだ。

 

「え? なに?」

「コナミさん……?」

 

 双子が疑問に思う中、彰子の目の前の地面が輝き、そこから新たな恐竜が現れる。

 

『ディノインフィニティ』

 レベル4

 攻撃力?

 

「攻撃力が決まってない?」

「あんなカード、いつの間に墓地に……まさか!」

 

「そうです。彼が最初に発動させていた『暗黒界の取引』。あの時手札にあり、泣く泣く捨てたモンスターです」

「……」

 彼女が説明をする間にも、コナミは動揺したままだった。

「その様子ですと知っているみたいですね。『ディノインフィニティ』の効果! このカードの攻撃力は、ゲームから除外されている自分の恐竜族モンスターの数の1000倍の数値です!」

 

「い、1000倍!?」

「ちょっと待って……彰子さんは前のターン、『フュージョン・ゲート』に『チェーン・マテリアル』も合わせて、大量の恐竜族モンスターを除外してた。確か、えっと……」

 

「私が除外した恐竜さんは九体。よって、その攻撃力は……」

 

『ディノインフィニティ』

 レベル4

 攻撃力1000×9

 

「攻撃力9000……」

「そんな……ほとんどのモンスターじゃ勝てない……」

 

「これこそが私の恐竜さん達の切り札です!」

「……中断……」

 宣言し、飛んでいったブリューナクはコナミのフィールドまで戻った。

「……『始祖竜ワイアーム』……リリース……アドバンス召喚……『暗黒界の鬼神 ケルト』」

 

『暗黒界の鬼神 ケルト』

 レベル6

 守備力0

 

「そのカードも手札から捨てることで特殊召喚できる効果があった……ですが、リリースすることでワイアームを除去するために敢えて手札に温存しておいたわけですね」

「……ターンエンド……」

 

 

コナミ

LP:4000

手札:0枚

場 :モンスター

   『氷結界の龍 ブリューナク』攻撃力2300

   『暗黒界の龍神 グラファ』攻撃力2700

   『暗黒界の鬼神 ケルト』守備力0

   魔法・罠

    セット

 

彰子

LP:2200

手札:3枚

場 :モンスター

   『ディノインフィニティ』攻撃力1000×9

   魔法・罠

    永続罠『リビングデッドの呼び声』

 

 

(このフィールドで、どうにか耐え抜くしかないか……)

 

「私のターン!」

 

彰子

手札:3→4

 

「速攻魔法『サイクロン』! あなたのその伏せカードを破壊です」

「……!?」

 再びコナミが、同様に顔をしかめる。その間に、宣言されたカードは破壊された。

「破壊したのは……『魔法の筒(マジック・シリンダー)』ですか。危なかったです」

「……」

 

「私は更に、二体目の『ディノインフィニティ』を召喚!」

 

『ディノインフィニティ』

 レベル4

 攻撃力1000×9

 

「二体目!?」

「攻撃力9000が、二体も……」

 

「まだ終わりではないです! 手札から『幻創のミセラサウルス』を捨てることで、効果発動!」

 

彰子

手札:2→1

 

「このターンのメインフェイズの間、自分フィールドの恐竜族モンスターは相手が発動した効果を受けなくなります。更に、墓地からこのカードを含む、任意の枚数の恐竜さんを除外することで、除外した枚数分のレベルを持つ恐竜族モンスターをデッキから特殊召喚します。私はミセラサウルスに加え、『ワイルド・ラプター』、『屍を貪る竜』、『二頭を持つキング・レックス』を除外! デッキから、レベル4の『ディノインフィニティ』を特殊召喚!」

 

「さ、さ、三体目!? 攻撃力9000が……!」

「……違う。たった今、『幻創のミセラサウルス』の効果で四枚が除外されたから、攻撃力は……」

 

『ディノインフィニティ』

 レベル4

 攻撃力1000×13

 

『ディノインフィニティ』

 攻撃力1000×13

『ディノインフィニティ』

 攻撃力1000×13

 

「……13000……」

「バトルです! 三体の『ディノインフィニティ』で、コナミさんのモンスターに攻撃! トリプル・インフィニティ・ファング!!」

 頭部の二本の角を輝かせる、三体の恐竜が向かっていく。

 コナミの場には、三体のモンスター。一体は守備表示だが、二体は攻撃表示で、その攻撃力は『ディノインフィニティ』に遥かに及ばない。

 伏せカードも、手札も、墓地に使えるカードも無い。

 

「コナミさん!」

「コナミさん!!」

 

「……」

 

「……お手上げ……」

 

コナミ

LP:4000→0

 

 

「……」

 

「うそ……コナミさんが……」

「コナミさんが、敗けちゃった……」

 

 フォーチュンカップ以来に見せつけられた、コナミ……梓の敗北。

 ひざを着くコナミの姿に、双子は呆然とするしかなかった。

「私の勝ちです。コナミさん。約束を守ってもらいますよ」

「……」

 ああそう言えば、そういう約束があったのだった。

 彼女は完全に誤解してしまっている。それを説明する暇も無く決闘することになった。

 今、その誤解を解くべきか……

 だが、決闘での結果は絶対のこと……

 どうしたものかと、コナミが悩んでいると、

 

「おーい! コナミー!」

 

 そんな、コナミと彰子のよく知る声が聞こえてきた。

「……」

「か、か、会長……」

「会長って……じゃあ、あの人が?」

「そう言えば、見たことあるような……」

 彼との面識が薄い双子の反応は薄かったものの、コナミは、Dホイールから降りる彼を凝視し、彰子は、分かり易く動揺していた。

「なーんだ、お前。まだ帰ってなかったのか……てか、彰子と何で一緒にいるんだよ?」

「そ、それは……そう! 会長! こんな人ともう無理して同棲することなんてないです!」

「……は?」

「この人はとんでもない人です! 会長とタッグを組むと言いながら、幼い女の子とまで喜んでタッグを組むと言った人ですよ!」

「……おお。聞いてるけど?」

「な……そんな人を付き人にして、あまつさえタッグだなんてとんでもないです! だから今、私が決闘で成敗してやったところです!」

「……え? コナミ、彰子との決闘に敗けたのか……?」

「……」

 ひざを着きながら、視線を下げるのが、何よりの肯定だった。

「マジかよ……情けねえなぁ。それでも俺の付き人か? 相手は仮にも学生だぞ」

「……」

 そんな指摘に、コナミはますます落ち込んだ様子だった。

「しかし、コナミに勝っちまうお前もすげぇな。こいつ、決闘の実力なら俺以上だってのに」

「な……なにをおっしゃります! 会長より強いなんて! いや、そうでなくて、会長はもうこんな人を付き人になんて……」

「……なんか話が変だな? どういうことか説明しろよ」

 

 セクトがそう言った時、彰子は、自分がコナミに対して思っていたことの全てをセクトに聞かせた。

 それを聞いたセクトは、普段のコナミとのあまりの違いに、大口を開けて笑っていた。

 その後で、コナミの普段の生活ぶりや、付き人としての仕事ぶり、更には決闘の実力や決闘に対する姿勢、更には、本来ならコナミが説明するはずだった、セクトや龍可とのタッグが重複した理由まで話した。

 

「……ということは……」

「全部、お前の勘違いってこと」

「……」

 

「……////////////////////」

 

 話しを聞いた後で、彰子は自身の激しい思い込みに羞恥し、後ろを向いてしまう。

「……てわけでよ、龍可だっけ? 悪いけど、当日こいつには途中辞退してこっちに向かって欲しいんだわ。それでも構わないかな?」

「そうだったんですか……ええ、最初に約束してたなら、仕方ないです。何なら、当日無理してタッグを組むことも……」

「ああー、そこは気にすんな。知らなかったとは言え、約束しちまったこいつにも責任はあるしな。それに、こいつの足なら途中からこっちの会場に向かっても十分に間に合うし。時間が許す限り存分にタッグ決闘でこき使っちまえよ。なあ、コナミ」

「……」

 相変わらず声は出さず、こくりと頷く。それを見て、セクトも、龍可も笑った。

 

「彰子さーん、大丈夫ですかー?」

 そうしている間、ずっと背中を見せて悶えていた彰子に、セクトが声を掛ける。

 彰子はそれに跳び上がりつつも、セクトと目を合わせた。

「ごごごご、ごめんなさい……私ったら、変な早とちりしちゃって……」

「ああー、いいよ気にしなくて。俺のこと思ってやってくれたのは嬉しかったしな」

「会長……」

「……てかさぁ、前から気になってたんだけど、いい加減、会長って呼び方どうにかなんねーかな?」

「へ……?」

「一年の時に出会った頃は、普通に名前で呼んでたろう。会長だと硬いし、俺は普通に彰子って名前で呼んでんだからよ。アカデミアなら別に良いけど、外にいる時くらい、お前もセクトって名前で呼べよ」

「え? それは……」

「……? 俺のこと嫌いか?」

「……!? ち、違います! ……せ、セクト、君……////」

「それで良し。しっかし、改めてすげぇわ。よくうちの付き人に勝てたな。俺はまだ決闘してねえけど、俺だってこいつに勝つ自信はねえってのに、大したもんだぜ」

「そ、そんな……恐竜さん達が、上手く回ってくれただけですよ……////」

 

『……』

 そんなふうに、会話している二人の様子を、コナミと双子の三人は、無言で見ていた。

(あの二人ってもしかして……)

(そう、かな……?)

(……若いって、良いですね)

 

 

「……」

 

 そして、そんな三人とは別に、彼らを見つめる視線があった。

 

「見つけたぞ、あのクソ野郎……」

「よくもやってくれたなぁ……この間の礼は、きっちりさせてもらうぜ……」

「お前と、お前のお友達全員になぁ……」

 

 

 

 




お疲れ~。

『凡骨の意地』。書いても使っても気持ち良え……

そんなわけで、久しぶりにコナミにゃあ敗けてもらったよ。
やっぱヒロインは強えなぁ……

何気に三体の『ディノインフィニティ』を並べられて楽しかったわ。
次はどんな話になるかいの~。
よろしければ、ちょっと待ってて。
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