遊戯王5D's ~剣纏う花~   作:大海

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八話だわ~。
今回も、決闘は無ぇよ~。
決闘も無ぇのに長ぇよ~。
それでも大丈夫かい?
大丈夫ならば、行ってらっしゃい。



第八話 恋人達の一日

視点:外

 

 朝日に照らされながら、まだ朝もやの僅かに残る街の中。セクトは、Dホイールを駆っていた。

 いつもなら、知り合いの家からマンションまで、まだ車や人のほとんど通らない時間の中なら、普通に走っても五分と掛からなかったろう。

 それが、今はいささか安全運転に過ぎる速度で、知り合いの家を出てから十分以上の時間が経っている。

 途中の信号で必ず赤信号に捕まってしまったことも理由の一つではあるが、それ以上に、この時のセクトの運転に対する意識は低下していた。

 出発する直前に見た光景。そして、昨夜の出来事。

 本当は夢だったのではと思えるほどに現実味が無く、だがまたすぐに現実であったことを思い知り、その度に、心には混乱のような、至福のような、複雑ながらも悪くない、そんな感情に満たされていた。

 何より、彼の心を満たしているのは、そんな複雑さや夢想以上に、結ばれた、愛しい彼女への愛情と、そんな愛情を受け止め合ったことで感じた確かな幸福。

 俺は、なんて幸せ者なんだ……

 昨夜の出来事と、可愛い彼女を思い出す度、顔はニヤけ、体中から力が抜ける。そのせいで、いつものように、運転するどころではなかった。

 

 結局、彼がマンションの駐車場にDホイールを停めた時には、彼女の自宅を出て十五分の時間が経っていた。

 愛用のヘルメットとDホイールの鍵を手に、エレベーターで自室へと上がる。

 そこで真っ先に目に入ったのは、

「あれ? コナミ……」

 ラップに包まれた夕飯の並べられた、テーブルの上に突っ伏し、寝息を立てる、付き人の姿だった。

(まさか、待っててくれたのか? ちゃんとメールは送ったのに……)

 疑問に思いつつ、コナミに近づいてみる。

 組まれた両手の上に乗せられた、美しい顔。

 顔と同じく寝息まで上品で、服装を見ても、とても男子だとは思えない。

 こんな容姿と、普段の献身的な働きぶりを思いつつ、昨夜の出来事を思い出すと、夕飯を並べて待っている妻を放って、不倫の末に朝帰り……

 そんな、ありもしない関係性への罪悪感を芽生えさせられた。

(従弟で、そもそも男なんだけどなぁ……)

 そう苦笑を漏らしつつ、肩に布団を掛けてやる。その後、まずはシャワーを浴びた。

 風呂から出て、部屋着であり寝間着でもある服に着替えると、テーブルに並べられたおかずやご飯をレンジでチンし、鍋に入った汁物は火に掛けた。

「いただきます……」

 温めた後はコナミを起こさないよう、小声で挨拶をする。

 しかし、その挨拶の直後に、

「……」

 コナミが目を覚ましてしまった。

「あ……おはよう」

 コナミは、まだ眠そうな細い目で、セクトを見つめていた。

「昨夜メール送ったけど、届いてなかったか? 先に寝てて良かったんだぞ」

「……」

 コナミは、答えない。まだ眠っているのだろうか。

 そう思いつつ、ご飯を掻き込んだ。

「……」

「……」

「……ゆうべはおたのしみでしたね……」

「……ブゥー!!」

 その一言を聞き、思わずご飯を吹き出してしまう。それをコナミは、手元に置いてあったお盆で防いだ。

「……今……何て言った……?」

 かなり分かり易く動揺し、顔をしかめつつ、聞き返してみる。

「……昨夜はお楽しみでしたね」

「知らんっ! 知らんっ! オラぁ、なんも知らねぇ……!」

 何かに脅え、必死にごまかし否定する。その様はまるで、二昔前のミステリーかホラー映画に出てくるような、村人の老人を彷彿とさせた。

「お相手は彰子さんですか?」

「知らんっ! 何のことだかぁ、さっぱり分からねぇ……オラぁ、なんも知らねぇ……!」

「そうですか……」

 そう返されて、セクトはホッとしながら味噌汁を飲んだ。

「ちなみにお胸は大きかったですか?」

「ああ……大きさと言い形と言い、スタイルも合わせて俺の好みドストライクで……て、おい!」

 顔を真っ赤にし、声を上げる。コナミは両手を振った。

「冗談です、冗談ですって……」

「……」

 そんなコナミを見ながら、今度は焼き魚をほお張った。

「アソコは舐めてみましたか?」

「ああ、舐めた……ほんのりしょっぱくて、癖になる匂いがして……くぉら!!」

「冗談ですって……」

 真っ赤な顔を伏せながら、豆腐を半分に割った。

「ちゃんと彼女をイかせられました?」

「……どうだろう。初めてだったもんで上手くやれた自信は無えけど、気持ちいいとは言ってくれた……テメェー!!」

「冗談です。冗談ですってば……」

 

 こんな感じで、食事しては何気なく尋ねられ、セクトもいつもの会話のノリでつい話してしまうということを繰り返し、食事を平らげた時には、大まかにではあるが全て話してしまっていた。

「うう……うう……////」

 ごちそうさまの挨拶も忘れ、両手で顔を覆い、恥じらいの声を上げる。

 そんなセクトの両肩に、コナミは手を置いた。

「そう恥ずかしがらないで。大人になったと言うことです。堂々としなさいな」

「やかましい!! 人の情事詮索しやがって、最低だぞ梓!!」

 真っ赤な顔のまま、思わずコナミの本名を絶叫するも、コナミは終始笑っていた。

「そうですか? では公平になるよう、私の情事のお話しもしましょうか?」

「……へ?」

 そんな提案に、真っ赤な顔は元に戻り、マヌケな声が出た。

「そうですね……初めて経験した、七歳、と言ってももちろん推定ですが。七歳の冬に、無理やりホームレスの男に襲われた時のお話しをしましょうか? それとも、白濁を食料だと思って、各所の男性のもとを舐めて周ったお話しが良いですか? それか、お金をくれると騙されて、一晩の間に大よそ四、五十人の男達を順番に、二百回以上お相手したお話しは? 途中気絶した挙句、結局一円も貰えず、捨て置かれたのがあまりにマヌケでおかしくて……」

「……いや。いい。多分、笑えないから……」

「そうですか? ……ああ、でもそうですよねぇ。今まで何百回と関係を持ってきましたが、女性が一人も出てこない話に興味はありませんか……」

「……」

 俺は、なんて幸せ者なんだ……

 昨夜の出来事と、笑いながら語られた梓の過去を比べると、顔は引きつり、体中から怒りが消える。そのせいで、コナミのように、笑うどころではなかった。

 

「……はい、どうぞ」

 と、別の理由で落ち込んだセクトに、コナミが何かを差し出した。

「なんだこれ……? これ、『海馬ランド』のチケットか?」

「いつものスーパーで福引をしていて、そこでペアチケットが当たったのです。セクトさんがいらないと言うなら、龍亞さんと龍可さんにでもプレゼントしようかと思っておりましたが、ちょうど良い。明日は日曜日で仕事もお休みですし、彰子さんを誘ってみては?」

 いきなり何かと思えば、デートの提案だった。

「彰子と、海馬ランド……彰子と、デート……////」

 今まで、彰子とは散々会話し、会ってきた仲だ。一緒にカフェでお茶したこともある今、何を恥ずかしがる必要がある?

 一昨日までの自分なら、そう思って、気軽に彰子を誘ったことだろう。

 それなのに、昨夜恋人になったという事実を思い出すと、途端に恥が勝ってしまった。

「恥ずかしいなら、私と行きますか?」

「なんでそうなる?」

「嫌でしょう? こんなむさくるしい男とデートだなんて……」

「……」

 コナミほど、むさくるしいという言葉が似合わない少年もいない。

 そう思いつつ、ごまかす意味でも、気になっていたことを尋ねることにした。

「そう言や、何で布団で寝てなかったんだ? 昨夜のメール、届く前に寝ちまったか?」

 聞きながら自身の携帯を取り出し、昨夜も送ったメールをまた送信してみる。

 

 ショウヘイ ヘーイ

 ショウヘイ ッヘーイ!

 

「……このメールなら見ました。おそらくその直後に眠ってしまったのでしょう」

「あ、そう……てか、なにその着メロ……」

 聞き慣れない、奇っ怪な着信ボイスに、思わず声を上げてしまった。

「ダメですか? ちゃんとした歌も一応ありますよ」

「別にダメとは言わねぇけど……歌?」

 聞き返す間に、コナミは拙い手付きで携帯を操作し、再生した。

 

 1! 2! 3! 4!

 着メロになれて 良かった~

 嬉し 恥ずかし Oh(オー) My(マイ) Heart(ハァ~)

 着メロになれて嬉しいぼくの

 体の一部が

 Hot! Hot!

 Hot! Hot!

 Hot! Hot!

 Hot! Hot!

 Hot! Hot!

 Hot! Hot!

 Hot! Hot!

 Hot! Hot!

 Hot! Hot!

 Hot! Hot!

 Hot! Hot!

 Hot! Hot!

 Hot! Hot!

 Hot! Hot!

 Hot! Hot!

 Hot! Hot!

 Hot! Hot!

 Hot! Hot!

 Hot! Hot!

 Hot! Hot!

 Hot! Hot!

 Hot! Hot!

 Hot! Hot!

 Hot! Hot!

 Hot! Hot!

 Hot! Hot!

 Hot! Hot!

 Hot! Hot!

 Hot! Hot!

 Hot! Hot!

 Hot! Hot!

 Hot! Hot!

 Hot! Hot!

 Hot! Hot!

 Hot! Hot!

 Hot! Hot!

 

「……なにこれ?」

「『着メロになれた喜びをダンスで表現したい』、です」

「……これいつまで続くの?」

「誰かが止めるまで続くでしょうね。永遠に。他にも……」

 その後、いくつかの着メロを聞かされたものの、どれも似たり寄ったりで、少なくともセクトには全く馴染みのない、変わった曲ばかりだった。

(梓のセンスって……)

 今日まで知らなかった、付き人の新たな一面を目にしつつ、

(彰子とデート、か……)

 手元の遊園地のペアチケットを見て、微笑みを浮かべた。

 

 ……

 …………

 ………………

 

「……よし。これでなんとか……」

 綺麗に片付けた部屋を見渡しながら、彰子は、溜め息交じりに呟いていた。

 まず窓を全開にして換気した。

 濡れたカーペットや布団は他の洗濯物と一緒に外に干して、床に掃除機を掛けたのちに雑巾掛けした。

 ベッドのシーツは新品に取り換えて、汚れたシーツは、みだりに透明なゴミ袋に入れるのはまずいと思い、消臭スプレーを掛けまくった後は、ゴミの日まで机の後ろへ隠しておくことにした。

 これで少なくとも、この部屋から、シーツ以外のそういう痕跡は隠滅することができた。

(お父さん、お昼まで帰ってこないから助かった……)

 と、父の顔を思い出した後で、すぐまた部屋を見渡して、昨夜の出来事を思い出す。

「セクトく~ん……////」

 顔に両手を添え、真っ赤になりながら、顔をヤンヤンと激しく振った。

(私、セクト君と結ばれたんだ……セクト君と繋がって、セクト君のものになれたんだ……嬉しい! 嬉しくって死んじゃう~////)

 頬に当てていた両手で、今度は顔を覆う。

 顔の喜びは隠れたが、体の喜びは全く隠れず、フルフル、クネクネ、はたから見れば不気味なことこの上ない動きを見せていた。

「だぁ~い好きぃ//// セクトく~ん////」

 

 ピロリロリロリロリ

 

「だぉぅあ!?」

 セクトへの思いを口にした瞬間、机の上から携帯の音が鳴り響いた。

 その音のせいで、今まで出したことの無いような声を出しつつ、すぐに手に取る。

「あ、セクト君////」

 驚きつつも、待ち受け画面に表示された名前でまた嬉しくなり、すぐにボタンを押す。

『おう、彰子か?』

「は、はい! 彰子です! 宇佐美彰子です……!」

『お、おう、彰子だよな……』

 歓喜と緊張で上ずった声に、セクトは怯みつつ本題を切り出した。

『あのさ……明日の日曜って、暇か?』

「え? 明日は……はい。予定は、無いです……」

『そうか。俺も明日は仕事も休みなんだ。それでさ、海馬ランドの無料ペアチケットがあるんだけど、一緒にどうだ? 色々奢るぜ』

「えぇ!? それって……デート、ですか……?」

『お、おう……おい、デートしろよ、彰子』

 最後はかなり緊張しながらの一言だった。

 そんなふうに、緊張してしまっている姿を想像すると、とても可愛くて、そして、嬉しかった。

「はい! 行きます!」

 既に迷いはない。結ばれた恋人のそばにいたい。恋を知った少女にとって、当然の欲求に従った。

『そうか……じゃあ、明日、お前の家に迎えに行くな』

「あ……うちには、お父さんがいるので……」

『え? ……あ、そうか、そうだな……』

「じゃあ、私がセクト君の家に行きます!」

『……うちには、付き人がいるので……』

「あー……」

『……んじゃあ、時計塔広場の大時計前で待ち合わせってことで』

「は、はい!」

『じゃあ、明日の、九時半にな』

「はい!」

 その後、簡単に会話を済ませて、携帯を切る。

「おい、デートしろよ……んんふふんん~~~~~////」

 そしてまた、机に突っ伏して、四六時中悶える彰子だった。

 

 ……

 …………

 ………………

 

「よし、……よし!」

 緊張はしたが、無事に誘うことに成功した。

「さて、後はプランを決めねぇとな」

 と、セクトが呟いた時……ベランダの方から物音が聞こえた。何かと思って振り返ると、

「うお! コナミ!」

 帽子を被ったコナミが、屋上の手摺りに四つん這いに乗っている。

 親愛なる隣人を思わせる体勢のその手には、一冊の本が握られていた。

「買ってきました」

「なにを?」

 部屋に入り、帽子を取りつつ、テーブルの上に雑誌を置く。

「『海馬ランド パーフェクトエリアガイド カップルデート編』!」

 某ネコ型ロボット風の口調で紹介されたそれは、コンビニ等でよく見かける観光ガイドブックだった。

「……わざわざ買ってきたのか?」

 相変わらず手が早い。そう思っていると、テーブルに座ったコナミはガイドブックを開いていた。

「プランはお任せ下さい。私が完璧なプランを立てますので」

「へ? コナミが?」

「ご心配なく。教室を開いていた頃からこういう予定を組むことは得意分野です。何より、セクトさんのスケジュール管理も付き人の仕事ですから」

「……」

 コナミの気持ちは嬉しかった。相変わらず、頼りになる男だと。

 そう、思いつつ……

「悪りぃけど、それは自分でやるから良い」

 コナミの手元からガイドブックを取り上げた。

「は? なぜ?」

「彰子は俺の女だからな。女を喜ばすのは彰子の男の俺の仕事だ」

「やだ……セクトさんが格好良い……」

「普段は格好良くねぇってか……?」

 そう言いつつテーブルに座り、ガイドブックを開いた。

「とは言え……実際、海馬ランドには行ったこと無ぇんだよな……」

 簡単に目を通してみるが、どのアトラクションやスポットも、話しに聞くばかりで実際に触れたことは無い。そのため、本当の意味でのお勧めを決めることは難しい。

 そんなふうに困っていると、隣にコナミが座ってきた。

「三年ほど前までなら、海馬ランドには何度も行ったことがありますよ?」

「え? マジで?」

「はい。無理やり連れてこられては置き去りにされたり、細工された絶叫マシンに乗せられて、海馬ランドの責任で事故に見せかけ殺されかけたことが何度もありますので」

「……そ、そう……」

 満面の笑みで語られた、壮絶なエピソード。

 そう言えば、水瀬家を出ていく前、海馬ランドの絶叫マシンの整備不良による事故が連発して、客の不信を買って、閉園一歩手前まで客足が遠のいてしまった、というニュースが、一時期話題になったことがあったっけ……

 そんな過去をぼんやり思い出しつつ、押さえておくべき部分を決めていき、迷った部分のみコナミからアドバイスを受けながら、順調に明日のプランを組み立てていった。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:セクト

 

「セクトさーん、朝ですよー」

 

 そんな、優しくて、綺麗な声で目が覚めた。

 昨日、無事にデートプランを立てた後も、しばらく緊張した。

 そんな緊張が夜まで響いて、風呂へ入って晩飯食った後も、早めに寝ようと思って布団に入っても、ちっとも眠れなかった。

 そんな俺を見かねて、コナミが子守唄を歌ってあげましょう、て言った時は、さすがにどうかと思った。

(まあ、おかげでぐっすり眠れたから、文句も言えねぇんだけどよ……)

 

「朝食ができておりますよ」

 

 言われて、テーブルを見てみる。そこには言われた通り、いつもの美味そうなコナミの飯が並べられてた。

 

「着替えも用意しております」

 

 テーブルのそばには、多分俺が持ってる中で一番お洒落な服。

 ビシッとアイロンまで掛けられて、綺麗に畳まれて置いてあった。

「……ありがとう」

 いつもしてくれてる、そんなことが、何でか今はめちゃめちゃ嬉しくなって、お礼を言った。

 

 

「これ、お弁当です」

 朝飯を食い終わって、着替えもして、家を出ようって時間に、梓からデカい手提げ袋を手渡された。

「弁当? 作ってくれたのか?」

「ええ。海馬ランドのお店の方が良かったですか?」

「……」

 ちょっと考えたけど、間違いなく梓の弁当のが美味いだろうから、袋を受け取ることにした。

「ちゃんと彰子さんをエスコートしなければなりませんよ」

「分かってるよ……てか、なんでお前は昨日からそんなに楽しそうにしてんだよ?」

「……そういえば、なぜでしょう?」

 言われてやっと、自分の状態に気付いたみたいだ。

 まあ、考えてみりゃ無理も無ぇ。俺達は俺達で、恋愛漫画とか恋愛ドラマとかで、ある程度の恋愛感は養われるもんだ。

 けど梓の場合、普通の恋愛はもちろん、他人の恋愛を見たことさえ無ぇ人生だったんだ。それを初めて見て、楽しいって思うのも道理かも知れねぇな。

「……」

 そんな梓を見てると、改めて思う。

 人より遥かに過酷で、辛い人生を歩んできておいて、それでも真っ直ぐ他人のことを思いやって、今は、俺なんかのために尽くしてくれて……

「ありがとうな」

 本当、俺なんかにはもったいねぇ、世界一の付き人だ。

 俺なんかの世話をとことんしてくれて。俺を精一杯支えてくれて。

 何より、こいつと出会ってなきゃ、多分、彰子への本当の気持ちにも気付かないままで、彰子と結ばれることだって……

「これやるよ」

「……はい?」

 考えてみりゃ、今までお礼らしいお礼なんてしたことがない。多分、これが初めてのお礼だ。

 デッキケースから取り出した、一枚のカードを差し出した。

「これ……え、これ……!?」

 さすがのコナミも、そのカードを見た途端、驚いた声を上げた。

「ダメですよ! こんな希少なレアカード……!」

「いいよいいよ。どうせプロアマ混合決闘大会での優勝賞品だし。第一、俺のデッキじゃ呼べねぇカードだしな」

「いや、しかし……」

「いいから。何にも言わずに受け取っとけ。お前なら、俺より上手く使いこなせるだろ?」

「……」

 正直、このくらいのことが恩返しになるなんて思わねえ。けど、今できる精一杯だ。

 こいつがそんなこと望むような奴じゃないってのも分かってる。それでも、こいつのおかげで、俺は今幸せを感じられてる。

 いつか、もっとちゃんとした形で恩返ししてぇ。

 そのためにも、今はこれくらいだけど、とにかくこいつのために、何かしてやりてぇって思った。

「……」

 受け取ったカードを見て、しばらく悩んだみたいだけど、

「……大切に使わせていただきます」

 最後にはそう言って、笑ってくれた。

「……じゃあ、行くわ」

「ええ。行ってらっしゃい」

「……て、おい!」

 そこそこ感動のシーンだったのが、コナミの出した右手を見て、つい大声を出した。

「どこで覚えたんだそんなの!」

 親指を、人差し指と中指の間に挟んでる。そんなサインを下に下ろしながら叫んだ。

「ダメですか?」

「ダメに決まってんだろう!」

「そうですか……では改めて、行ってらっしゃい」

(グーサイン?)

 右手の親指を立てて、それを前に出してきた。

(まあ、それくらいなら……ん? OKサイン?)

 今度は開いた左手で、親指と人差し指で輪っかを作って、残り三本の指を立ててる。

 で、それを眺めてると、左手の輪っかへ、右手の親指を……

 

「やめろおおおおおおおおおおおお!!」

 

 ……

 …………

 ………………

 

「まったく、アイツだきゃぁ……」

 世話になってるし感謝はしてる。とは言え、さすがにしていいことと悪いことがある。

 そう思いながら、待ち合わせ場所まで歩いていった。

「……ん?」

 

「……あ」

 

 と、歩いてる途中で、見知った顔が見えた。

「セクト君」

「よう、加藤先生……」

 学校以外で初めて出くわした、加藤友紀先生がいた。

「おはよう。おでかけ?」

「ああ。まあ……」

「デート?」

 て、何気なくそんなこと聞いてきた。

「ま、まあ……」

 ……てっ! なに俺は普通に答えてんだよ!

「ふーん……」

 と、返事した直後、何でか先生は、顎に手をやりつつ俺を見つめてきた。

「……どうかしたか?」

「ううん。なにも」

 と、なんか、いやに爽やかな声を出したかと思ったら、カバンを探り始めた。

「これ。前に貸してくれたタオル、ちゃんと洗濯したからね」

「え? そんなわざわざ。返さなくて良いっていったのに……」

「さすがにもらいっぱなしじゃ悪いからね。あと、この間の千円。せっかくだから、倍にして返してあげよう」

「いやいや、それはさすがに悪いって……」

「まあまあ。これでもセクト君より大人なんだから。大人としての指針は示さないと」

「……多分、先生よりも稼いでると思うぞ」

「ま! 生意気言うねぇ。じゃあ、生意気な子にはお小遣いってことで、受け取りなさい」

 そう言いながら、無理やり俺の手に二千円を握らせた。

「……まあ、ありがとうよ」

「……じゃあ、デート、宇佐美彰子さんと一緒に楽しんできてね」

「……え? なんで知ってるんだ?」

 と、聞き返した質問には答えないで、そのまま行っちまった。

 ……なんか、肩の荷が下りたっていうか、会う前よりも動きが身軽で、なのになんか、寂しそうな背中をしてた。今思えば、顔も笑ってはいたけど寂しそうだったし……

(失恋でもしたのか……?)

 

 

 加藤先生と別れた後で、待ち合わせ場所に到着する。

 決闘者の間じゃ今でも語り草になってる、バトルシティで最初の決闘が行われた場所で、決闘者にとっちゃ、単なる広場以上に神聖な場所だ。

 時間にはまだ余裕あるし、あとはのんびり待つだけだ。

 

「……せ、セクト君?」

 

 と、のんびりしようと思ったら、彰子の声が聞こえた。そっちを見ると……

「……彰子か?」

「はい……似合い、ますか?」

 そこには、制服じゃなくて、可愛いくてお洒落な服着て、髪が昨日より短くなってる、彰子が立ってた。

「……」

「えっと……変ですか?」

 変わった髪型をジッと見てると、彰子がそう聞いてきた。

「……いや、変じゃあ無ぇんだけどな……」

 変どころか、むしろ、首の長さまで短くなった髪型は、爽やかでよく似合ってる。なんなら昨日までよりも綺麗になったとも思う。

 思うんだけど……

「……なんだろう? なんか、誰かに似てるような……」

「似てる、ですか? 私が?」

「……」

 と、髪型をマジマジ見ながら、ちょっと前のことを思い出して……

「……あ! 分かった。今のお前、俺のクラスの加藤先生に顔も髪型もそっくりなんだ」

「加藤先生? 加藤友紀先生ですか?」

「おう! そう言や、最初会った時から誰かに似てる気がするって思ってたんだ」

「はぁ……」

 疑問が分かってスッキリして、改めて、彰子を見てみる。んで、さっき見た加藤先生を思い出すと、身長は多分先生のが高いけど、そこまで変わり無ぇし、髪の色以外、言われなきゃ見分けつかねぇかも……

「けど、胸は彰子のが余裕でデカいな」

「……えぇ!?」

 からかいながら言ってやると、彰子の顔が赤くなった。

「セクト君のエッチ!////」

「良いじゃん、今更。どうせお互い、全部見せ合った仲だし」

「////////」

 おぉおぉ、真っ赤。いちいち可愛いなぁ、おい……

「んじゃ、行こうぜ」

 朝に怒鳴ったからかな? 昨日の寝る前までめちゃめちゃ緊張してたのが、今じゃ余裕で会話して、手を繋ぐことも平気でできちまう。

 こうなるのを狙って俺のことからかったなら、やっぱ、あいつは最高の付き人だな。

「……////」

 もちろん、俺の手を握り返してくる恋人もさ……

 

 

 まだ開園時間になったばっかなのに、日曜なのもあって、入口にはかなりの客が並んでた。

 行列に並ぶのは普段は苦痛に感じるけど、彰子と一緒だったら、悪くねぇ。

 んで、ニ十分くらい待って、ようやく俺達の番。

「学生二人で」

 ペアチケットを差し出すと、係の女は笑顔で返事した。

「学生一人に子供一人ね」

「……は?」

「ボク? 小学生は子供のチケットでいいのよ?」

「……」

「今日はお姉さんと一緒にきたの? お父さんとお母さんは?」

「……いないの。お父さんもお母さんも、僕が小さいころ、僕を置いて、どこかへ行ってしまったの」

「え……」

「僕、ハーフなの……」

「ハーフ?」

「お父さん、ウズベキスタン……お母さん、トルキスタン……」

「ウズベキスタンに、トルキスタン……」

「Do you understand? 誰がハーフの小学一年生だ!!」

 怒鳴りながら、Dホイールの免許証を叩きつけてやった。

「え……あ、ごめんなさい、ボク……じゃなくて、申し分かりません、お客様。学生二人ですね……!」

「……たくっ」

 言いながら入場券を受け取って、また彰子の手を引いて中に入った。

「セクト君、長過ぎですよ……」

「放っとけ」

「……あと、トルキスタンは国じゃなくて、乾燥地帯の名前ですよ?」

「……放っとけ」

 まあ、そんな会話をしつつ、中に入って、辺りを見渡した。

「しっかし……外からしか見たこと無かったけど、すげぇなぁ……」

 生まれた時からネオドミノシティに住んでたけど、中学三年間は離れてたし、何だかんだ、一度も来る機会がなかった。ぶっちゃけ、遊園地自体ほとんど初めてみてぇなもんだけど、それでもこの海馬ランドの規模が相当なもんってのは、何となく分かる。

 彰子の方を見ると、俺と大差ない反応してた。

 

「……よっ。チョッピー」

 彰子と一緒に歩いてて、途中あるオブジェに手を上げて、声を掛けた。

「チョッピー?」

「チョップマン。相性がチョッピーだ」

 解説しながら、目の前に建ってるオブジェをもう一度見る。

 ボロボロのジャージを着て、両目と口の部分に穴を開けた紙袋で顔を隠した大男が、馬鹿デカい斧を振り上げたポーズで佇んでる、そんなオブジェだった。

「何でも昔、このネオドミノシティで実際に起きた殺人事件の犯人をモデルに作られたそうだ。見た目怖えぇけど、クリーチャーチックなデザインが人気らしいぜ」

「へぇ……なんだか、冷たい」

「ああ。氷みたいに冷てぇんだよこれ。噂じゃ、本物のチョップマンを誰かがここで凍らせて、こいつができたって話しだ」

「そんな、まさか……」

「はは。あり得ねえよな。第一、本当に凍らせたなら、とっくに溶けてなきゃおかしいし」

「百年くらい融けないような氷じゃなきゃ、あり得ませんね」

 そう言い合いながら、彰子は興味津々にチョップマンを眺めてた。

「……よっ、チョッピー」

 

 アギ……

 

「じゃあ、そろそろ行こうぜ」

 

 それからは、昨日、コナミと一緒に考えたプラン通りに、アトラクションとか施設を周っていった。

 コナミが覚えてんのは三年以上前だったけど、そこまで大きな違いは無かったようで、初めてではあるけど聞いてた通りに行動することができた。

 人気のアトラクションの行列に並ぶ間、退屈しないよう色んな話をした。

 人気のスィーツをおごってやったり、人気の着ぐるみのキャラクターと並んで写真を撮ってやったり。

 

 そうこうしてる間に、昼になった。

「昼飯にしようぜ」

「はい……え、お弁当?」

 コインロッカーから、手提げ袋を取り出す。そこから、そこそこ立派な重箱を二つ、取り出して一個を渡した。

「コナミが作った弁当だ」

「コナミさんが……」

「おう。はっきり言って、遊園地の出店より遥かに美味いって断言するぜ」

 会話しながら、途中あるベンチに二人で並んで座った。

「コナミさんのお弁当……」

「どうした? まだ、アイツのこと気に入らねえか?」

「そんなこと……でも、やっぱり、今でも時々、羨ましいなって……セクト君と、一緒のお部屋に住んでますから」

「おいおい……アイツは一応男だぞ? なんだ? まさか腐女子が喜びそうなことでも想像してたのか?」

「……」

「……え?」

 聞いても黙ってて、けどすぐに顔を真っ赤にしながら、

「い、いえ! そんなこと……思ったこと、ない、です……ちょっとしか」

「なんか最後、聞き捨てならねぇ言葉が聞こえた気がするぞ」

 そりゃあ、帽子の下の顔ははっきり言って、彰子よりも遥かに綺麗な顔してる。

 あんな顔に加えて、上品で献身的な性格だ。性別以外、男にとっちゃ理想の塊だろう。

 俺自身、そんな奴と一つ屋根の下、そんな気が全く起きたことないって言やぁ、正直、嘘になっちまう。

 なっちまう、けどよぉ……

「彰子!」

 向こう向いちまった彰子に顔を近づけて、言ってやった。

「俺には彰子だけだ。こうして手を握りたいのも彰子だけだし、デートしたいって思うのも彰子だけだ。俺にとって、彰子は完璧な付き人以上に、そばにいて欲しい人だよ」

「せ、セクト君……////」

 言いたいこと言った後は、顔を離した。

「分かったら腹も減ったし、飯にしようぜ」

「そう、ですね……」

 彰子は嬉しそうに笑いながら、俺と同時に、重箱の蓋を開けた。

『あ……』

 と、蓋を開けて、中身を見た時……二人そろって、声が出た。

「これって……」

 彰子の声を聞きながら、中身をよく見てみる。

 

 ・デカいうなぎのかば焼きが乗った、うな重

 ・牡蠣の甘露煮

 ・輪切りオクラの白ごま和え

 ・トロロのフライパン焼き、ニンニク醤油掛け

 ・デザートに甘い黒ごま煎餅

 

『……』

 俺達でも知ってる、精が付く食材をふんだんに使った料理の数々……

「う、美味そうだなぁ……っ」

 ま、まぁ、たまたまそんなメニューになっただけかも分かんねーし?

 なーんてこと思いながら、おかずの隅っこのところに変なもんが見えたから、箸で取って見てみると……

「……」

 近年になって開発されたばっかの日本製で、表面に『0.009mm』って印刷された……

 こ……こ、こ、コン……コ、コン、コ、コ、コン、コ、コッ

 

「コナミの野郎ぉおおおおおおおおおお……」

 

 朝のアレは、俺の緊張をほぐすためだとか思ってたけど、趣味だってことがはっきり分かった。

(……帰ったら、あげたレアカード取り上げてやる……)

 

「……セクト君」

 ちくしょう……そんなつもり全然無ぇのに、おかずとコン……こいつのせいで、彰子も引いちまってるじゃねぇか……

「私……私は、いつでも大丈夫、です////」

「へ?」

 と、急に声を出しながら、真っ赤な顔を近づけてきた。

「おい、彰子、なに言って……」

「大丈夫です//// 今度はちゃんと、避妊もしますから!////」

(声がデケェ!)

 小声で諌めつつ、周りを見てみる。

 幸い、人はそれなりにいるけど、こっちを見てる奴は一人もいねぇ。

「……とりあえず、昼飯食べようか」

「……はい」

 彰子も落ち着いたみたいで、捨てるわけにもいかねぇし、弁当を食べることにした。

(……美味ぇ)

「お、美味しい……!」

 

 

「あ!」

 と、二人して弁当を食い終わった時、子供の声が聞こえた。

「セクトだ! 伊集院セクトだー!」

 俺の名前を呼びながら、小学校低学年くらいの子供が、こっちへ走ってきた。

「うおお!」

「ねえ! セクトだよね!」

「お、おう……」

 抱き着いてきた勢いにちょっと怯みつつ、普通に子供と向かい合う。

 そこへ、後ろにいた母親も歩いてきた。

「ごめんなさい、うちの子ったら……」

「いえいえ、こちらこそ……」

「僕、セクトの大ファンなんだー!」

 俺や母親の会話も無視して、子供は無邪気に騒いできた。

「ねぇねぇ! セクトのエースカード見せてー!」

「えっと……悪りぃ。今日は、決闘ディスク置いてきちまったんだ……」

「えー、つまんなーい!」

「我がまま言わないの。それに、セクトさん、でしょう!」

 母親は子供を遠ざけながら、そう説き伏せてた。

「ほら……セクトさんにちゃんと挨拶しなさい」

「むぅー……またねー! セクトー!」

「こーらー! ……ごめんなさい、本当……」

「あはは! 気になさらず。またなー!」

 子供に向かって手を振って、親子揃って帰っていった。

「悪い。待たせた?」

「……いえ」

 彰子は俺に近づきながら、離れていった子供の方を見た。

「……本当に、プロ決闘者なんですよね。セクト君……」

「まあな……」

 そりゃあ、普通にアカデミアにかよってる時や、テレビや話しで見て聞いてるくらいじゃ実感し辛いだろうからな。ああいう反応を目の前で見て、ようやく分かる感じだろうな。

「けど今日の俺は、プロ決闘者の伊集院セクトじゃねえぜ」

「え?」

「今日の俺は、ただのセクト。宇佐美彰子の彼氏の、伊集院セクトだ」

「……////」

「さあ、まだまだ時間はあるぜ!」

 

 そのまま手を引いて、またプラン通りに行動していった。

 行動してる間、彰子は本当に楽しそうにしてくれた。俺自身、そんな彰子と一緒に、一日中遊べたことが楽しかった。

 

 それで、夕方になって……

「やっぱ、締めはこれだなー」

 俺達二人は、帰る前の最後に、デカい観覧車に乗ってる。

 三分の一くらいの高さを回って、頂上に向かって昇っていってる。

「見ろよ彰子。この街でもまだこんな夕焼けが見えるんだな」

「はい……本当に綺麗」

 いつもは馬鹿デカいビルのせいで見えない夕日も、海が続いて剥き出しになってる先で、オレンジ色に光ってるのがよく見える。

 そんな夕焼けが、俺達や、遊園地はもちろん、このネオドミノシティ全部をオレンジ色に染めてる。

「セクト君……」

 そんな中で、彰子が声を出した。

「今日は本当に、ありがとうございました。私のこと、誘ってくれて……」

「気にすんな。俺の方こそ、ちゃんと彼氏できるか不安だったけど、楽しんでもらえてよかったぜ」

「……」

 彰子は笑った顔のまま、急に俯いた。

「どうした?」

「……なんだか、こうしてると、本当にまだ、これが夢なんじゃないかって、思っちゃって……」

「夢?」

「……私が決闘アカデミアを受験した理由、知ってますよね?」

「……」

 その話なら、前に聞いたことがあった。

 

 勉強が誰よりもできた彰子は、本当なら、決闘アカデミアなんか足もとにも及ばない、都内でもトップクラスのエリート進学校を受験するはずだった。

 けど中学三年生になって間もないころ、元々大学教授で、恐竜の研究をしてた彰子の父親が、発掘現場で事故を起こした。

 その事故で、助手が二人死んじまって、彰子の親父さんはその責任を取らされて、大学を辞めさせられた。

 新しい仕事は、どうにか海馬コーポレーションでのアルバイトが決まったけど、当然収入は激減。母親は彰子が小学生の頃に病気で亡くしちまって、進学先を変えるか、最悪高校を諦めるかしなきゃならないくらい、金に困ってたらしい。

 だから彰子は、少しでも親父さんの負担を減らそうと、そこそこの学歴と、奨学金が貰えて、成績優秀なら返さなくて済む特別奨学金を受け取ることができる、決闘アカデミアに、慣れない決闘を必死に覚えて入学したらしい。

 

「アカデミアに入学したことは、後悔してません。そりゃあ最初は、決闘は下手っぴで、興味も無かったし、ちゃんとした高校に入学したら、もっとちゃんとした人生が送れたんじゃないかとも思いました。けど、クラスメイトや友達は優しい人ばかりだし、辛いこともあったけど、それでも毎日、楽しい学校生活を送ることができました。何より……セクト君に、出会えました」

 話してる間、笑ってた。けど、苦しそうな笑いだった。

「だから……だから、今でも不安なんです。セクト君は、本当に決闘が大好きで、すごく強くて、プロになっちゃうくらい頑張ってます。でも、じゃあ、私はどうなんだろうって……ただ、勉強が人よりできるってだけで、正直、今でも下手なままの決闘はあんまり好きじゃありません。そんな私なんかが、セクト君みたいな立派な人の彼女に、なっていいのかなって……」

 笑いと一緒で、声も、すっげぇ苦しそうにしてた。

 そんな彰子が見てられなくなって、向かい合ってた席を移動して、彰子の隣に座った。

「俺は、そんな彰子のことが大好きだぜ」

「セクト君……」

「彰子はすっげぇ良い子だよ……少なくとも、俺なんかより、よっぽど」

「え……?」

「……これから多分、絶対に信じられねぇ実話、話すぞ」

 

 そう前置きして、今まで誰にも話したことの無い、コナミになる前の梓に話しただけの、『水瀬セクト』の話を聞かせた。

 水瀬家って言葉にはピンと来なかったみてぇだけど、さすがにそこの頭首の、『水瀬梓』の名前は知ってて、俺がその一族だって話した時は、信じられないって顔してた。

 そんな顔を見ながら、それでも話を続ける。

 終始、信じられねぇって顔は変わらなかった。当たり前だ。同じ水瀬家で、一応の面識もあった梓はともかく、普通の奴が聞いたんじゃあ、信じてくれっていう方が無理がある。

 第一、俺自身、誰にも知られたくねぇ過去だ。

 それを、彰子にだけは、知ってほしいって思った。

 彰子だって、自分の嫌いな部分も全部、俺にさらけ出してくれた。なら俺だって、俺の全部を彰子にさらけ出さないと、好きだって気持ちは嘘になる。

 だから、信じてもらえねぇって分かってても、話さずにはいられなかった。

 

「……この話、聞いてどう思った?」

「……」

「ま、普通信じらんねぇよな。けど、最初言った通り、実話だ。それで、そんな実話を聞いて、彰子は俺のこと、どう思った?」

「どうって……」

「素行も母親も最悪で、そのせいで滅んじまったって言っても、誰もが羨むデカい実家に勝手に愛想尽かして、大嫌いな母親の料亭から大金盗んで逃げてきた。そんなガキの話聞いて、しかもそのガキが自分の彼氏で、どう思った?」

「それは……」

 ……正直、これで嫌われる怖さはあった。けど、それも覚悟で話したことだ。

 これで俺のこと嫌いになって、別れて下さい、そう言われても……

「……正直、ショックです」

「……」

「セクト君が、そんなふうに、自分のこと卑下するの、ショックです」

「え?」

 彰子は、俺の顔を真っ直ぐに見た。

「確かに、今の話しが本当なら、セクト君は、とっても悪い子だって思いました。でも、それでも自分の夢のために、色んなものと戦って、私はもちろん、誰もできないような努力を続けて、ちゃんと結果も残して、すごいって思いました。私の好きになった男の人は、こんなに強い人だったんだって思いました」

「……」

「私は、決闘が嫌いな自分のこと、嫌いです。でも、セクト君は、そんな私のこと、好きだって言ってくれました。嬉しかったです。それに、昔のこと話してくれて、ビックリして、まだ何だか信じられないけど、本当に嬉しかったんです。昔のセクト君は悪い子でも、それでも私は、そんな悪い子だった、今のセクト君のことが大好きです」

「彰子……」

「セクト君の話聞いて、分かりました。大事なのは、過去じゃありません。今、目の前にいる人のこと見て、どう思うかです。私は、セクト君が好きです。好きで好きで、こうして目を合わせてるだけで、胸がドキドキして死んじゃうんじゃないかっていうくらい、大好きです。だから私は、セクト君にどんな過去があっても、セクト君の彼女でいたいです。セクト君の、そばにいたいです……」

「……」

 彰子らしい、真っ直ぐで、分かり易い言葉だった。

 それが、すっげぇ嬉しかった。

 だから、彰子の手を強く握った。

「ありがとう……俺のこと、選んでくれて……」

「……はい!」

 その良い返事と、笑顔がまた嬉しかったから、また顔を近づけた。

 アカデミアで無理やりした時と違って、彰子は優しく受け入れてくれた。

 ちょうど、観覧車が一番高く昇った時……

 オレンジ色の夕日が、水平線の向こうへ沈んでいくのが見えた。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:外

 

「……」

「……」

 

 セクトも彰子も、互いに言葉を交わすことは無く、ただ手を握り合い、無言で海馬ランドを後にしていた。

 二人並んで、夜になっていく道を歩いていく。

 言葉はなくとも、今お互いに感じている、お互いへの不朽の愛情と、握り合った手の温もり。それだけで、二人にとっては十分だった。

 

「あの、セクト君……?」

 海馬ランドからだいぶ離れた所で、立ち止まりながら、彰子がセクトに呼び掛ける。

「ん?」

「あの……もし、よかったら、これから……////」

 彰子が、顔を真っ赤にしながら話を切り出した時……

 

 最後に二人が見たのは、お互いの後ろに光る、真上へ伸びた、鉄パイプの輝き。

 最後に二人が感じたのは、後頭部への、一瞬の鋭い痛みだった。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

「……」

 

「……」

 

 そこは、いつもの街中だった。

 なのに、目の前の光景は、いつもとはまるで違っていた。

 だが、燃え上がる青白い炎に囲まれたそんな光景を、コナミは、見たことがあった。

 

「さあ……決闘を始めましょう? 梓先生」

 

「……ランさん……」

 

 向かい合った二人は、お互いの名を呼び合いながら、お互いに、構えた。

 

 

 

 




お疲れ~。

どっちもヤバい雰囲気だけど、決闘は次話で書くからや。

昨夜何があったか、気になる人いる?
でもそれ書いちゃうと、一気に18禁になっちまうから勘弁しておくれ。

ほんじゃら、今回はこの辺で。次もいつかは知らんが、次話で会いましょやい。
それまで、ちょっと待ってて。












やっぱ気になるかな? 昨夜何があったか……

どうしても気になる言うなれば……




ほい、覗き窓↓

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