遊戯王5D's ~剣纏う花~   作:大海

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あぁ~~~いぃ。

そんじゃあ九話だぜ~。
どうなることかは、取り敢えず読んでおくんなぁ。

行ってらっしゃい。



第九話 ラン

視点:外

 

 ピッ

『天装戦隊……ごせいじゃ……!』

 

 ピッ

『汝のあるべき姿に戻れ……くろうか……!』

 

 ピッ

『フヘヘヘ……もう入らんわい。ばれなきゃイカサマじゃないと言ったのはこいつよ……』

 

 ピッ

『ギヤーハハッ! もう入らんわい! あと一枚でこぼれるッ! ばれなきゃイカサマじゃないと言ったのは、コ・イ・ツ・よ~! ケケーッ!!』

 

 ピッ

 

「さて……そろそろ、買い物に出ますか……」

 セクトを送り出して時間が経ち、現在は子供がおやつを楽しむ時間帯だろうか。

 晴天のおかげで綺麗に乾いた洗濯物を、いつもよりやや早めの時間に取り込み、畳んで、タンスにもしまい終え、やることが無くなりテレビを点けて、しばらく眺めた後だった。

 今では、ある意味無ければ落ち着かないほど自然になってしまった、赤い帽子を頭にかぶって、戸締りをキチンとしたことを確認したところで、廊下の手摺りから地上へと飛び降りた。

 

 ……

 …………

 ………………

 

(今夜の晩御飯はどうしましょうかね……)

 セクトの顔を思い出しつつ、考えるのは、いつも通り夕飯のおかずのこと。

(……いや、それとも今夜も、晩御飯はいらないでしょうか……)

 ふと、そんなことを思ったら、セクトの顔とおかずのことでいっぱいだった頭の中が、一瞬でセクトと彰子の二人のことでいっぱいになった。

(話しを聞き出した辺り、セクトさんは、まだまだ優しさからか少年らしい控えめさが目立つ物の……彰子さんはどうやら、あの決闘の通り、大人しいようで積極的な性格のようですし。彰子さんの方から迫るなら、セクトさんも強くは拒めないでしょうし……)

 聞き出した情報と、二人の性格から、考えられる、高確率で訪れる想定を、ニヤニヤしながら考える。

 その末に、梓が導き出した結論は……

(来年には……甥か姪の顔が見られるかもしれませんね……)

 そんな、飛躍に過ぎる解答だった。

(そうなると、私もとうとう『叔父さん』かぁ~……梓おじちゃ~ん、なんて呼ばれるのでしょうかね。どうしましょう……初めての甥をこの手に抱けるなんて。やっぱり、大きくなったら、お小遣いとか贈り物もしてあげたいところですね……ああ、私は働いていないので無理なのだった……)

 初孫に浮かれるお祖母ちゃんじゃあるまいに。まだできてもいない甥・姪の姿を思い浮かべては帽子の下の無表情の裏で、終始ニヤついていた。

 

 ちなみに、従兄弟であるセクトに子供が生まれたなら、厳密には梓から見て、従甥(いとこおい)従姪(いとこめい)、ということになる。

 もっとも、梓はそもそもが養子であるため、その辺のことを言い出せば更にややこしいことになるのだが、これ以上は作者も面倒臭いから省略。

 更に言えば、養子であることに目を瞑れば、水瀬家には似たような血縁にあたる年上年下は何人もいたし、頭首になるまで、そんな連中からも散々おもちゃにされてきた。

 だが梓自身、いちいちそんな細かいこと覚えていないため、本人にとっては初めての『甥・姪』の誕生と、『おじさん』になることに浮かれていた。

 

 そんなふうに浮かれつつ、おじさんになって甥を抱っこする姿を想像した所で……

(……て、そもそも『大波コナミ』には関係のない話なのだった……)

 そんな結論に達してしまい、それ以上にニヤつくのをやめ、落ち込んでしまう梓であった。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

「無敵のスターダストでなんとかして下さいよぉーッ!!」

 

「ヴィクテムサンクチュアリ!!」

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

(さて……)

 おじさんになれないことにガックリとし、落ち込んだところで、その足を止める。

(この辺りなら、良いでしょうかね……)

 考えつつその場に制止し、まずは、辺りの気配を伺った。

(何物かは知りませんが……この私をつけ狙う者など、ろくな想像はできない……)

 家を出た瞬間から、気配を感じていた。

 最初は気のせいかと思った物の、いつもの道をどれだけ歩いても、時に道を外れてみても、その気配が離れることはない。

 私をつけている。そう結論づけたところで、コナミはいつものスーパーを通りすぎて、その後も歩き続けた。

 やがて、小一時間歩きどおし、既に陽が沈み、街灯がともり始めた時間に辿り着いた場所。かつて『ダイモンエリア』と呼ばれ、今ではシティの再開発に伴い一人の住民もいなくなった、海に面した廃墟街だった。

(やはりついてきている。律儀なことだ……隠れても無駄です)

 心の中から語り掛け、その場から、一気に十メートルほど後方にある陰へ、一瞬で移動した時……

 

「うおおおおおおおおおお!?」

 

 そんな、少女の声が辺りに響いた。

「……」

「い、いきなり驚かすんじゃねえ! てか、気付いてやがったのかよ、俺のこと……」

 跳ねた銀髪と吊り上がった目。少女なのに男子らしい口調。

(ジャッカル・岬、さん……?)

 かつて、藤原雪乃として話し、そのしばらく後で、人生で初めてのタッグ決闘のパートナーを務めた少女、ジャッカル・岬がいた。

 

「あー、マジでビックリした……」

 未だに胸を抑えつつ、息を整えている。しばらくそうした後で、岬はコナミと、帽子で見えはしないが、目を合わせた。

「まあ、気付いてたんなら、それはそれで構わねえ。コナミ、俺はテメェに用がある!」

 驚愕から中腰に曲がっていた腰を伸ばし、胸を張りつつ指を刺す。

「テメェへの用は一つ……テメェのその、帽子の下を見せてもらうことだ!」

 無い胸を張った体勢のまま、確信を突いた。

「……」

 顔の前を思い切り指差されながらも、コナミは何も言わず、何の反応も見せない。

「どうしてだって、顔だな……」

 そんなコナミに対して、岬は更に、説明を加えた。

「俺が調べたところによると、歴代の強ぇ決闘者は、全員すげぇ髪型してたんだ。しかもそれは昔に限らず、今でも強ぇ決闘者は、プロアマ問わずものすげぇ髪した奴が多い」

 何やら得意になりながら、一方的に語られる持論を、コナミは無言で聞いている。

「て、ことはだ。テメェはこの間、俺とのタッグ決闘だったとはいえ、8000近いライフを相手にワンターンキルをかましやがった。それだけの実力に、あんだけのすげぇ動きもしてみせた。だからテメェも、その目深に被った帽子の下には、この世のものとも思えねぇような、摩訶不思議で奇妙奇天烈な世界が広がってんだろう!」

「……」

「だからそれを確かめさせてもらいにきたってわけだ! どこかで帽子を脱いでくれるのをジッと待ってるつもりだったんだが、ばれたとあっちゃあ仕方がねぇ! こうなったら、力づくでもその帽子の下を見せてもらうぜ」

「……」

 妙にハイなテンションのまま、今更な持論と一方的な要求を投げかけてくる。

 そんな岬の姿を眺めながら、コナミは終始、こう思っていた。

 

(……違う。彼女ではない。ここに来るまでずっと感じていた、親しみと、それ以上にあった不気味な禍々しさは、彼女からは感じない。一体……)

 

 岬の話もほとんど耳に入らず、その気配の正体に疑問を抱いている時……

 

「……!」

「きゃっ! 何しやがる!」

 突然、コナミは岬の身を引っ張り寄せた。

 次の瞬間、ちょうど岬が立っていた場所の地面から……その地面を含めた、周囲の地面一帯に、青白い炎の壁が走った。

(これは……)

「な、なんだ、一体……」

 突然の光景と出来事に、理解が追い付いていない。

 そんな岬をよそに、コナミは一人、その炎の壁と、過去の記憶を重ねた。

(あの時の炎の壁……まさか、これは……!)

 

「……梓……先生……」

 

「……!」

 思考しているコナミの耳に、コナミの本名と、かつて、多くの人々から呼ばれてきた敬称が聞こえてきた。

 そんなふうに自分を呼ぶ、かつての梓の教室の生徒。何より、聞こえてきた声。

 そこでようやく、コナミは禍々しさと共に感じた、親しみの正体に気付いた。

 

 ブウウウウウウウゥゥゥン……

 

 気付きと同時に、けたたましいエンジン音が鳴り響く。

 今日まで何度となく聞いてきた、D・ホイールを駆る音だった。

 

「……ずっと、探していました……私の愛しい人……」

「……」

 いつか一度だけ見た、黒に近い赤色は、青白い炎とは対照的ながら、まるで彼女の心象をそのまま表しているかのよう。

 そんなD・ホイールで目の前に降り立った彼女は、ヘルメットを脱いで、その美しい金髪と、美しいが、悲愴に染まった虚ろな顔を露わにした。

「ずっとずっと、会いたかったです……お会いしたかったんです……先生……」

「……」

 今、コナミが声を出さないのは、いつもの無口なコナミであるためか、それとも彼女の姿と現象を前に言葉も出ないせいか、コナミ自身も判断がつかない。

 ただ、悲愴な表情のまま、言葉を続けるだけの彼女をジッと眺めているだけ。

 

「……お、おい、なんだよ? あいつ、お前の知り合いなのか? てか、今あいつ、コナミのこと、別の名前で呼ばなかったか? あ、ず……先生? みゅっ……!」

 一人、理解が追い付かないままの岬の頭に、愛用の赤い帽子を被せることで、黙らせる。

 黙らせた後は、ランに向かって歩いていった。

「……おい、コナ、ミ?」

 帽子を上げながら、歩いていくコナミの後ろ姿を見た時、岬は思わず、息を呑んだ。

 目の前を歩く少年の背中には、流れるように透き通った、黒く輝く、美し過ぎる黒髪がサラリと揺れていた。

 既に陽が沈んだ時間と、炎が作り出す陰鬱さのおかげで、今いる空間の全てが暗く、重苦しい。

 そのはずなのに、まるで清流がそのまま髪の毛に変わったかのような、揺れ、流れる、下ろされた長い黒髪は、ただそれだけで、輝き、コナミのいる一帯を照らしているようにすら見える。

「髪……すげぇ……////」

 図らずも知ることになった、知りたいと思っていた男の帽子の下。それを見た岬は、ウットリと見惚れ、歩きながらその髪を一本にまとめる彼の背中を、見送るだけだった。

 

「……」

「……」

 間近で向かい合った時、梓は決闘ディスクを取り出していた。

 ランは、手に持つメットを被り直し、梓は胸ポケットから、『スピード・ワールド2』のカードを取り出した。

 

 ランが目の前のボタンを押し、梓が決闘ディスクに、フィールド魔法をセットした直後……

 三人を囲んでいただけの、炎の壁が、二人の目の前に向かって伸びる。

 梓は知らないことだが、かつて、『シグナー』と『ダークシグナー』と呼ばれる者達との決闘でも使われた、『炎のサーキット』が作り出された。

「ここは旧ダイモンエリア。人は誰もいません。誰にも邪魔されることなく、ライディング決闘が行えますわ……」

「……」

「なんて説明は、梓先生には不要ですよね」

「……ええ。分かっていますとも」

 梓は返事をしながら、再び胸ポケットをまさぐった。

 そこから白いものを一つ、取り出して見せる。

「この納豆パックが地面に落ちた瞬間を、スタートの合図としましょう」

「分かりました……」

 了承を得て、梓は納豆パックを、頭上高く放り投げる。

 それを合図に、D・ホイールで、或いは足で、同じ位置に並ぶ。

 

「おい! コナミ!」

 

 後ろから、岬の悲鳴が聞こえた時には、既に納豆は落下を始めていた。

 二人から見て、数メートル先の道路。硬い道路に、高く飛び上がった納豆が近づいていき……

 また一つ、近くの街灯がともったのと同じ時。納豆が、道路を叩く音が響いた瞬間。

 

『ライディング決闘、アクセラレーション!!』

 

 掛け声と同時に、二人とも岬の前から飛びだした。

 

「おーい!! コナミー!! ……マジかよ? 走ってライディング決闘する気か? D・ホイールを相手に……?」

 

 

「第一コーナーを取った方が先行ですわ!」

「……」

 ランの言葉に無言で答えながら、走り出したその足を速めた。

 過去に一度したのと同じことを、今行う。サテライトでたった一人で生きぬいてきた中、無理やり鍛えられた逃げ足の速さ。拾われてから今日までも、ひたすら鍛えてきた脚の力を今、全力で……

「……っ!」

 

「うお! 抜きやがった!」

 

 近くにあった廃墟ビルの、非常階段から岬が叫んだ通り。遥か前を走っていたはずのD・ホイールをあっさり抜いて、第一コーナーを取ったのは、コナミ……もとい、梓。

 

 

LP:4000

SPC:0

手札:5枚

場 :無し

 

ラン

LP:4000

SPC:0

手札:5枚

場 :無し

 

 

「私の先行です。ドロー」

 

手札:5→6

 

(これはライディング決闘……だからと言って、ためらいや出し惜しみが許される決闘ではない)

 手札を見ながら、覚悟を決める。覚悟の元にカードを取り、決闘ディスクにセットした。

「永続魔法『六武の門』発動!」

 カードが発動した瞬間、奔る二人の目の前、海の中から、海水を押し上げて、その門は現れた。

 かつて、梓が決闘中に何度も使用し、建立させてきた、武士たちを呼ぶための門。

「『スピード・ワールド2』の効果により、私は2000ポイントのライフダメージを受けます……ぐぅぅ……!」

 ダメージはそのまま、プレイヤー自身への負担となってライフを奪う。

 だが、いつもなら軽い痛みと虚脱感だけのその衝撃が、今は普段の決闘の比ではない威力を伴っていた。

 

LP:4000→2000

 

「……思った通り、普通の決闘ではないようですね」

 その強過ぎる衝撃に、走っている足がふらつく物の、立ち止まる気も、痛がる暇も無い。

「私は更に、『真六武衆-カゲキ』を召喚」

 

『真六武衆-カゲキ』

 レベル3

 攻撃力200

 

「カゲキの召喚に成功した時、手札から『六武衆』一体を特殊召喚できる。私は手札からチューナーモンスター、『六武衆の影武者』を特殊召喚。同時に『六武の門』の効果。六武衆が召喚、特殊召喚される度、このカードに武士道カウンターを二つ、乗せることになります」

 

『六武衆の影武者』チューナー

 レベル2

 守備力1800

 

『六武の門』

 武士道カウンター:0→2→4

 

「同時に、場に自身を除く六武衆が存在することで、カゲキの攻撃力は1500アップします」

 

『真六武衆-カゲキ』

 攻撃力200+1500

 

「そして、場に六武衆が存在することで、手札の『真六武衆-キザン』を特殊召喚。場にキザンを除く六武衆が二体以上存在することで、攻撃力を300ポイントアップします」

 

『真六武衆-キザン』

 レベル4

 攻撃力1800+300

 

『六武の門』

 武士道カウンター:4→6

 

「いきます……レベル3の『真六武衆-カゲキ』に、レベル2の『六武衆の影武者』をチューニング!」

 それは、藤原雪乃になってからというもの、そして、コナミになった後も、行うことがめっきり減ってしまった動作だった。

 それを今、この決闘に勝つために、存分に行う。

 

「無数の傷が語るは理想。全てを受け入れ、全てを護れ」

「シンクロ召喚! 不退転の戦士『スカー・ウォリアー』!」

 

『スカー・ウォリアー』シンクロ

 レベル5

 攻撃力2100

 

『真六武衆-キザン』

 攻撃力1800

 

「ここで、『六武の門』の効果! 武士道カウンターを四つ取り除き、デッキから『真六武衆-ミズホ』を手札に加えます」

 

『六武の門』

 武士道カウンター:6→2

 

手札:2→3

 

「カードを一枚伏せる。これでターンエンド」

 

 

LP:2000

SPC:0

手札:2枚

場 :モンスター

   『スカー・ウォリアー』攻撃力2100

   『真六武衆-キザン』攻撃力1800

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』武士道カウンター:2

    セット

 

 

 六武衆デッキとしては物足りなさを感じるものの、攻撃できない先行一ターン目で、なにより、まともに魔法カードが使えないライディング決闘。

 むしろ、これだけ制限がある中で、久しぶりに触るのによく回ってくれたものだとデッキに感謝しつつ、ランにターンを渡した。

 

「……さすがです。梓先生……」

 さっきからの同じ声色。同じ雰囲気。

 嬉しげながらも陰鬱で、悲しげながらも興奮した、そんな声を、梓に向けていた。

「ライフダメージ覚悟での魔法カードの使用……一ターン目からのシンクロ召喚……先行にふさわしい護りの布陣……何より、足にも関わらず平然とライディング決闘を受けて立つその姿勢……本当に素晴らしいです」

「それはどうも、ありがとうございます」

「そんな素晴らしい先生に……ぜひ、私の決闘を見て下さい。私の持つ、真のデッキと共に……」

 

「私のターン」

 

ラン

手札:5→6

 

SPC:0→1

ラン

SPC:0→1

 

「私は、魔法カード『Sp(スピードスペル)-オーバー・ブースト』を発動します。自身にスピードカウンターを四つ置き、エンドフェイズにスピードカウンターを一つにします」

 

ラン

SPC:1→5

 

「そして私は、『ヴァイロン・ソルジャー』を召喚します」

 興奮していた直前とは打って変わった、やけに冷静な……それ以上に、冷たく、機械的な口調のもとに、ディスクにカードがセットされた時。

 ランの目前に、星のような光の粒子が瞬いた。

 かと思えば、その粒子は一つに集まり、形を成す。そこから輝き現れたのは、生物には見えない。両腕はあるが両足の無い、無機質かつ機械的な体の、黄金と白銀から成るモノ。

 

『ヴァイロン・ソルジャー』

 レベル4

 攻撃力1700

 

「更に『Sp-サモン・スピーダー』を発動します。スピードカウンターが四つ以上ある時、手札のモンスター一体を特殊召喚できます。私は手札から、チューナーモンスター『ヴァイロン・ステラ』を特殊召喚します」

 

『ヴァイロン・ステラ』チューナー

 レベル3

 攻撃力1400

 

「『ヴァイロン』……それがランさんの真のデッキ。そしてチューナー、ということは……」

「レベル4の光属性『ヴァイロン・ソルジャー』に、レベル3の光属性『ヴァイロン・ステラ』をチューニング」

 梓自身、何度となく見た光景。

 機械的な声のもと、飛び上がった機械仕掛けの天使たち。うち一体が、三つの星となり、もう一体の周囲を周る……

 

「メインシステム起動(スタートアップ)。ファイル検索(インデックス)機械仕掛けの天使(アンゲルス・エクス・マキナ)』。プログラムレベル=星7(セブンスター)。モードセレクト……『戦闘(クラッシュ)』。システム進行率(アドバンス)100%(コンプリーティッド)実行(ラン)プログラム(ネーム)……『Σ(シグマ)』」

「Practice……シンクロ召喚『ヴァイロン・シグマ』」

 

 モンスター達の見た目の通り、機械的な口上のもとに誕生したモンスター。

 青白い電流を辺りに散らしながら、白銀色に輝く巨大な翼を広げた。

 いくつもの黄金の輪と、太い両腕と、無機質ながらも凶悪な貌。

 表情も体温もまるで見えないのに、目の前の敵を倒すという、敵意と殺意だけがギラつくその天使の見た目は、正しくギリシア文字の『Σ』を横向きにした形をしていた。

 

『ヴァイロン・シグマ』シンクロ

 レベル7

 攻撃力1800

 

「きゃんゆーすぴーくじゃぱにーず?」

「更に、モンスターゾーンから墓地へ送られた『ヴァイロン・ステラ』の効果を発動します。500ポイントのライフを支払うことで、このカードを自分フィールドのモンスター一体に装備できます。装備するのは、『ヴァイロン・シグマ』です」

 

ラン

LP:4000→3500

 

 その言葉の通り、墓地に落ちた小さな機械が、シグマの頭上に現れる。シグマの放つ電流を浴びながら、その身をシグマと一つにした。

「バトルです。『ヴァイロン・シグマ』で、『スカー・ウォリアー』を攻撃します」

「攻撃力は、『スカー・ウォリアー』の方が上です!」

 梓のその声を無視しながら、シグマの身に再び電流があふれ出る。

 その瞬間、電流とは別の輝きが、シグマの身から溢れ出た。

「『ヴァイロン・シグマ』のモンスター効果を発動します。このカードの攻撃宣言時、自分フィールドに他にモンスターが存在しない場合、デッキから装備魔法カード一枚をこのカードに装備できます」

「デッキから装備魔法……!」

 ランがデッキから一枚のカードを取り出すと同時に、シグマの身から溢れた輝きが、はっきりとその形を成した。

「私は装備魔法『ヴァイロン・マテリアル』を『ヴァイロン・シグマ』に装備、攻撃力を600ポイントアップします」

 

『ヴァイロン・シグマ』

 攻撃力1800+600

 

「そうか……デッキからの直接の装備なら、魔法カードの発動ではない。だから『スピード・ワールド2』によるダメージは発生しない、というわけか」

 梓が理解している間に、攻撃力が上がり、同じように電流の威力も上がる。一つとなり、槍の形となった電流が、傷だらけの戦士の身を貫き、消滅させた。

 

LP:2000→1700

 

「バカな……『スカー・ウォリアー』は一ターンに一度、戦闘では破壊されない効果があるはず……」

「『ヴァイロン・ステラ』を装備したモンスターが攻撃した時、攻撃した相手モンスターをダメージステップ終了時に破壊できます」

「なるほど……」

「私は一枚カードをセットします……私は嬉しいです。梓先生と決闘できることが」

「……」

「そして……お互い、同じことを考えたことも」

「え?」

「永続魔法『ヴァイロン・エレメント』を発動します」

「永続魔法!?」

 先程梓がそうしたように、『スピードスペル』以外の魔法カードが発動される。

 その瞬間、ランの身にライフダメージが発生した。

 

ラン

LP:3500→1500

 

「これでターンエンドです。そしてこのエンドフェイズ、オーバー・ブーストの効果でスピードカウンターは一つになります」

 

 

ラン

LP:1500

SPC:5→1

手札:0枚

場 :モンスター

   『ヴァイロン・シグマ』攻撃力1800+600

   魔法・罠

    永続魔法『ヴァイロン・エレメント』

    装備魔法『ヴァイロン・マテリアル』

    効果モンスター『ヴァイロン・ステラ』

    セット

 

LP:1700

SPC:1

手札:2枚

場 :モンスター

   『真六武衆-キザン』攻撃力1800

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』武士道カウンター:2

    セット

 

 

「どうですか、梓先生? 私の決闘を見てくれていますか? 私は今、あなたの目の前で輝いていますか?」

「……私のターン」

 

手札:2→3

 

SPC:1→2

ラン

SPC:1→2

 

 ランからの問い掛けを無視しながら、目の前のカーブを曲がる。

「『真六武衆-ミズホ』を召喚」

 

『真六武衆-ミズホ』

 レベル3

 攻撃力1600

 

『六武の門』

 武士道カウンター:2→4

 

「『六武の門』の効果。武士道カウンターを四つ取り除き、デッキから『真六武衆-シナイ』を手札に加える。そして、場にミズホがいることで、シナイを特殊召喚」

 

『真六武衆-シナイ』

 レベル3

 攻撃力1500

 

『六武の門』

 武士道カウンター:4→0→2

 

「そして、ミズホのモンスター効果。自身を除く六武衆をリリースすることで、フィールド上のカード一枚を破壊する。シナイをリリース。破壊するのは『ヴァイロン・シグマ』」

 シナイが光に変わると同時に、ミズホが走り、シグマの機械の身を細切れにした。

「さすがですわ……こうも早くシグマを処理するなんて……」

「リリースされたシナイの効果。墓地に存在する六武衆『六武衆の影武者』を手札に加えます」

 

手札:2→3

 

「ではこちらも……『ヴァイロン・エレメント』の効果を発動します。私の場に表側表示で存在する、ヴァイロンと名の付いた装備カードが破壊された時、破壊された数までデッキからチューナーモンスターのヴァイロンを特殊召喚できます」

 

『ヴァイロン・スフィア』チューナー

 レベル1

 守備力400

『ヴァイロン・プリズム』チューナー

 レベル4

 守備力1500

 

「そして、『ヴァイロン・マテリアル』の効果を発動します。装備されたこのカードが墓地へ送られた場合、デッキからヴァイロンの名を持つ魔法カードを手札に加えられます。私は装備魔法『ヴァイロン・セグメント』を手札に加えます」

 

ラン

手札:0→1

 

「く……ではバトルです。ミズホで『ヴァイロン・スフィア』を、キザンで『ヴァイロン・プリズム』を攻撃!」

 梓の命に従って、走った二体の武将は、冷たい機械を二体とも切り裂いた。

「私はこれでターンを終了します」

「そちらのエンドフェイズ、罠カード『ロスト・スター・ディセント』を発動します。墓地に眠る『ヴァイロン・シグマ』を守備表示でフィールドに特殊召喚します。この時、シグマの守備力は0となり、レベルは一つ下がり、効果は無効となり、表示形式は変更できなくなります」

 

『ヴァイロン・シグマ』シンクロ

 レベル7-1

 守備力1000→0

 

 

LP:1700

SPC:2

手札:3枚

場 :モンスター

   『真六武衆-キザン』攻撃力1800

   『真六武衆-ミズホ』攻撃力1600

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』武士道カウンター:2

    セット

 

ラン

LP:1500

SPC:2

手札:1枚

場 :モンスター

   『ヴァイロン・シグマ』守備力0

   魔法・罠

    永続魔法『ヴァイロン・エレメント』

 

 

「私のターン、ドロー」

 

ラン

手札:1→2

 

SPC:2→3

ラン

SPC:2→3

 

「チューナーモンスター『ヴァイロン・テトラ』を召喚します」

 

『ヴァイロン・テトラ』チューナー

 レベル2

 攻撃力900

 

「レベル6となった『ヴァイロン・シグマ』に、レベル2の光属性『ヴァイロン・テトラ』をチューニング」

 再び同じ光景。カーブを曲がったと同時に、飛び上がる二体の機械。二つの星に変わるテトラ。合計の星のレベルは8。

 

「メインシステム起動(スタートアップ)。プログラムレベル=星8(エイトスター)。モードセレクト……『戦闘(クラッシュ)』。システム進行率(アドバンス)100%(コンプリーティッド)実行(ラン)プログラム(ネーム)……『Ε(エプシロン)』」

「Practice……シンクロ召喚『ヴァイロン・エプシロン』」

 

 以前の電流とはまた違う、光の輝きがフィールドを包み込んだ。

 その輝きの中から、シグマを超える巨体が姿を現した。

 アルファベットの『E』、ではなく、ギリシア文字の『Ε(エプシロン)』を象った形。

 相変わらずの冷たく無機質な表情で、フィールドに君臨し、敵を見下ろす。

 

『ヴァイロン・エプシロン』シンクロ

 レベル8

 攻撃力2800

 

「そして、『ヴァイロン・テトラ』もまた、ライフを500ポイント支払うことで、場のヴァイロン一体に装備できる効果があります。エプシロンにテトラを装備します」

 

ラン

LP:1500→1000

 

「バトルです。『ヴァイロン・エプシロン』で、『真六武衆-ミズホ』に攻撃します」

 エプシロンの身に装飾された黄金の輪が、眩いばかりの光を放った。

 次の瞬間、その光がミズホの身を焼き、消し炭と変えた。

 

LP:1700→500

 

「おいおい、あいつ、やられてんのかよ……」

 屋上に上り、決闘を眺めている岬の焦りをよそに、決闘はお構いなしに進んでいった。

 

「そして、『ヴァイロン・エプシロン』の効果。一ターンに一度、このカードに装備されたカード一枚を墓地へ送ることで、相手フィールドのモンスター一体を破壊できる効果があります」

「……」

「どうですか先生……これが本当の私です。私の真のデッキと、真の決闘です。もっと、私を見て下さい。私だけを見て下さい! それ以外は何もいりません! 梓先生! 私の、梓先生!!」

 決闘開始前の、陰鬱な雰囲気の口調や、カードをプレイしている時の、冷たく機械的な口調とは打って変わった、興奮と熱狂に溢れた声と口調。

 それは、無邪気な少女そのものだった。直前まで、とても人とは思えない様子だったのに……

「『ヴァイロン・テトラ』を墓地へ送り、『真六武衆-キザン』を破壊……」

 エプシロンの巨体から、吸収されていたテトラが姿を現した。

 それが、再び光の塊に変わると、唯一生き残ったキザン目掛け、発射される。

(これで先生の場はがら空きです……!)

 ランが内心で、勝利を確信した瞬間……

 

「笑わせるな」

 

 静かながら、強烈な威力を持った声を、ランははっきりと耳にした。

 その声に、衝撃と、一種の寒気を感じた瞬間、梓は前のターンから伏せられていたカードに手を伸ばしていた。

「罠発動『破壊指輪(はかいリング)』。自分フィールドのモンスター一体を破壊し、お互いに1000ポイントのダメージを受ける」

「……え?」

 カードの発動と共に、場のキザンの指に、武将としてはあまり似つかわしくない指輪がはめられた。

 かと思えば、その黒い指輪から火が噴き出し、その火は天に届くほど大きくなった。

 そんな火炎のもと、キザンの身が巨大な爆発に包まれる。

 その爆発の威力が、梓を、ランを、フィールド全てを飲み込んだ。

 

LP:500→0

ラン

LP:1000→0

 

 

「おい……なにやってんだ、あいつ?」

 決闘を一部始終見ていた岬が、思わず疑問の声を上げた。同時に急いで屋上を降り、ライフがゼロとなったことで立ち止まった二人のもとへ駆けだした。

 

「どうして……そんなカードを伏せていたのなら、『ヴァイロン・テトラ』を『ヴァイロン・エプシロン』に装備して、私のライフが1000になった直後……『真六武衆-ミズホ』を戦闘破壊して、ライフを削られる前に発動しておけば、ライフが1700ポイント残っていた梓先生は勝利していたはず……」

 決闘とダメージ、何より走り続けた疲労から、梓はひざを着いていた。

 そんなひざに力を込めて、立ち上がりながら、ランと目線を合わせた。

「決闘をしていて思いました……私は、本当のあなたが見たい」

 その言葉を聞いて、ランは理解ができず、目を見開いた。

「本当のって……これが本当の私ですわ。趣味で組んだ『蟲惑魔(こわくま)』ではない、真のデッキである『ヴァイロン』を使った、本当の私の……」

「それは、何のための……誰のためのホンモノですか?」

 語り掛けながら、別のデッキを取り出した。

 そこから何枚かのカードを抜き取ると、決闘ディスクにセットしているデッキのカードと入れ替える。

「いずれにせよ、お互い、ライディング決闘では真の力を発揮できそうにありません。あなたが望むならライディング決闘でも構いませんが、私はあなたに、スタンディング決闘を申し込みます」

「スタンディング……」

「そして……そこで見せていただく。正真正銘の……本当のランさんを」

 言いながら、向けられた視線に、ランは思わず息を呑んだ。

 それは、その視線の強烈さに当てられたから。

 だがそれ以上に、ランの中で、ずっと押さえてきた物が刺激され、躍動しているからであることを、ラン自身は気付いていない。

「……分かりました」

 気付かないまま、ランはヘルメットを投げ捨てて、代わりに決闘ディスクを取り出した。

 そこへD・ホイールにあるものとは別のデッキをセットし、梓と向き合った。

 直後、ライディングコースとして広大に燃え上がっていた炎が、形を変える。いつの間にやら一周して元の場所に戻ってきていた、二人を取り囲むだけの、円形に変わった。

 

「ライディング決闘では、勝利していたのは梓先生でした。それでも、結果は引き分けです」

「ええ……」

「スタンディング決闘では敗けません。私が勝った時は、梓先生……私だけのものになって下さい!」

「良いでしょう」

 

 ランの要求を、あっさりと受け入れて。

 ちょうど岬が、そんな二人を包む炎の前まで走ってきた時。

 

「さあ……決闘を始めましょう? 梓先生」

 

「……ランさん……」

 

 

『決闘!!』

 

 

 

 




お疲れ~。

ヴァイロン……装備魔法……ライディング決闘……
何じゃこの二次創作泣かせの三重苦!
全然書けねーから中断させるしか無かったじゃあねーか!!

……いや、決めたの大海なんだけどね。
普通の決闘よか盛り上がろうと、安易に手を出したのが浅はかだった……

しかし、書いてて分かったけど、装備魔法が基本のパワー・ツールをエースに、ライディング決闘でプロデビューして活躍してる龍亜って、実はすごかったんだね。

そんじゃひとまず、オリカ行こうかい。



『Sp‐オーバー・ブースト』
 通常魔法
 自分のスピードカウンターを4つ置く。
 エンドフェイズに自分のスピードカウンターを1つにする。

遊戯王5D'sにて、ジャックとかシェリーとかが使用。 
エンドフェイズに一つになっちゃうなら、先行一ターン目に使ったら実質一つ増やせるし、後攻一ターン目に使えば損失ゼロだわな。
その時に都合よく、役立つスピードスペルが何枚も手札にあるかどうかだけが問題か……


『Sp‐サモン・スピーダー』
 通常魔法
 自分のスピードカウンターが4つ以上ある場合に発動する事ができる。
 手札からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する。
 この効果で特殊召喚したモンスターは、このターン攻撃できない。

遊戯王5D'sにて、ムクロとか色んな人が使用。
面倒な条件がついた『二重召喚』。
カウンターが貯まるの待つのもダルイけど、展開するだけなら当時でもモンスター効果だけで十分だったんだよなぁ。
なんのカード使うかにもよるだろうけどや……
 


以上。両方ともスピードスペルでした。
ライディングじゃ全く書ける気しないから、決着はスタンディングで着けさせますわ。
罵りたければ罵るがよろし……

そんなわけで、次話まで待ってて。
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