遊戯王5D's ~剣纏う花~   作:大海

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う゛ぇええ~~~いい~~~~~……
んじゃあ前に言った通り、スタンディング決闘だで~。
久しぶりなせいかだいぶ長くなっちまったけど、よければ読んでやっておくれ。
そんじゃら、行ってらっしゃい。



第九話 ラン=“__”

視点:ラン

 

 ……

 

 ――「まったく……なんだって、ここまで使えない奴が生まれてきたんだ。『ラン』のくせに……誰の子供だと思ってやがる……」

 

 ……

 

 ――「勉強はダメ。スポーツもダメ。習い事もダメ。何もかもダメ。頑張ればできる? 笑わせんじゃないわよ! 誰が生んだと思ってんの? アタシ達の『ラン』なら、最初からできて当然でしょう?」

 

 ……

 

 ――「もういい。もう何もするな。見てるこっちが恥ずかしい」

 ――「アンタはただ、アタシ達がやれって言ったことだけしてりゃ良いのよ」

 

 ――「そのために、名前を『ラン』にしたんだから。分かった? 『ラン』?」

 ――「そのために、名前を『ラン』にしたんだから。分かった? 『ラン』?」

 

 ……

 

 ハイ……

 オ父サン……

 オ母サン……

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:外

 

『決闘!!』

 

 

ラン

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

LP:4000

手札:5枚

場 :無し

 

 

「今度は私の先行です……ドロー」

 

ラン

手札:5→6

 

 カードを引いた瞬間、ライディング決闘中は見えなかったランの顔が、初めてはっきりと見えた。

 口元は平然とし、目は据わっていて、何物の干渉も受け付けず目の前の事柄に取り組む。

 ただの無表情以上の冷たさが、冷たさ以上の、無機質さが、全身から滲み出ている顔をしていた。

「『トライデント・ウォリアー』を召喚します」

 二戦目の最初に、ランが呼び出したのは、今までの機械的なデザインとは全く違う、三又の槍を持った、戦士の姿をした生身のモンスター。

 

『トライデント・ウォリアー』

 レベル4

 攻撃力1800

 

「このカードの召喚に成功した時、手札のレベル3以下のモンスター一体を特殊召喚できます。私は手札から、レベル3のチューナーモンスター『ヴァイロン・ステラ』を特殊召喚します」

 

『ヴァイロン・キューブ』チューナー

 レベル3

 攻撃力800

 

「レベル4の光属性『トライデント・ウォリアー』に、レベル3の『ヴァイロン・キューブ』をチューニング」

 顔もそうなら、声も、ライディング決闘中と同じ。冷たく、機械的な声だった。目の前に繰り広げられる光景は、そんな声によく似合う、無機質な星の輝きだった。

 

「メインシステム起動(スタートアップ)。ファイル検索(インデックス)機械仕掛けの天使(アンゲルス・エクス・マキナ)』。プログラムレベル=星7(セブンスター)。モードセレクト……『防衛(ウォール)』。システム進行率(アドバンス)100%(コンプリーティッド)実行(ラン)プログラム(ネーム)……『Δ(デルタ)』」

「Practice……シンクロ召喚『ヴァイロン・デルタ』」

 

 その名の示す通り、黄金に輝く巨大な三角形が浮かび上がった。

 その中心から、銀色の胴体、太い両腕、大きな翼が広がる。

 今までの攻撃的なデザインとは一線を画す、護りに特化したデザインの機械天使。

 

『ヴァイロン・デルタ』シンクロ

 レベル7

 守備力2800

 

「『ヴァイロン・キューブ』の効果を発動します。光属性モンスターのシンクロ素材として墓地へ送られたことで、デッキから装備魔法カード一枚を手札に加えます。装備魔法『ヴァイロン・セグメント』を手札に加え、『ヴァイロン・デルタ』に装備します」

 デルタの頭上に、金色の金属が現れる。そこから発生した光が、ただでさえ硬いデルタの防御を、より強固なものに変えたように見えた。

「『ヴァイロン・セグメント』を装備したモンスターは、相手の罠・モンスター効果の対象になりません。永続魔法『ヴァイロン・エレメント』を発動します。カードを二枚伏せ、ターンエンドと同時に、『ヴァイロン・デルタ』の効果を発動します。このカードが表側守備表示で存在する場合、デッキから装備魔法カード一枚を手札に加えることができます。装備魔法『ヴァイロン・マテリアル』を手札に加えます。これで終了します」

 

 

ラン

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『ヴァイロン・デルタ』守備力2800

   魔法・罠

    装備魔法『ヴァイロン・セグメント』

    永続魔法『ヴァイロン・エレメント』

    セット

    セット

 

 

「さあ……どうですか? 梓先生?」

 また、彼女の口調が変化した。直前とは別人そのものな、より人間らしく、そしてより少女らしい、年頃にふさわしい姿に変わっていた。

「今の私のプレイに、不備がありましたか? 攻撃できない先行一ターン目、守りを固め、手札の補強も万全です。私の決闘は完璧でしょう? 梓先生?」

「私のターン、ドロー」

 

手札:5→6

 

「では、私もお見せしよう。大波コナミでも、藤原雪乃でもない……水瀬梓の決闘を」

 

「永続魔法発動。『六武の門』、『六武衆の結束』、『紫炎の道場』」

 梓の後ろに、巨大な門が建立した。

 梓の目の前が、荘厳に光り輝いた。

 梓らの周囲が、厳かな道場に変化した。

 かつて、梓が梓であった時、何度も繰り返した光景だった。

「魔法カード『紫炎の狼煙』。この効果で、デッキからレベル3以下の『六武衆』、『真六武衆-カゲキ』手札に加え、これを召喚」

 

『真六武衆-カゲキ』

 レベル3

 攻撃力200

 

「『六武衆』の召喚、特殊召喚に成功したことで、全ての永続魔法にそれぞれ武士道カウンターが置かれる」

 

『六武の門』

 武士道カウンター:0→2

『六武衆の結束』

 武士道カウンター:0→1

『紫炎の道場』

 武士道カウンター:0→1

 

「カゲキの召喚に成功したことで、手札の『真六武衆-シナイ』を特殊召喚。場に六武衆が存在することで、カゲキの攻撃力がアップ」

 

『真六武衆-シナイ』

 レベル3

 攻撃力1500

 

『真六武衆-カゲキ』

 攻撃力200+1500

 

『六武の門』

 武士道カウンター:2→4

『六武衆の結束』

 武士道カウンター:1→2

『紫炎の道場』

 武士道カウンター:1→2

 

「ここで、『六武の門』の効果。武士道カウンターを四つ取り除き、デッキより『真六武衆-ミズホ』を手札に加えます」

 

手札:1→2

 

『六武の門』

 武士道カウンター:4→0

 

「更に、『紫炎の道場』の効果。このカードを墓地へ送ることで、このカードに乗った武士道カウンターの数と同じレベルの六武衆を、デッキより特殊召喚できます。レベル2のチューナーモンスター『六武衆の影武者』を守備表示で特殊召喚」

 

『六武衆の影武者』

 レベル2

 守備力1800

 

『六武の門』

 武士道カウンター:0→2

 

「そして、『六武衆の結束』の効果。このカードを墓地へ送ることで、最大二つ乗せられる武士道カウンターの数と同じ枚数、カードをドローできる。ドロー」

 

手札:2→4

 

「もう一枚、『六武衆の結束』を発動。そして、場にシナイがいることで、『真六武衆-ミズホ』を特殊召喚」

 

『真六武衆-ミズホ』

 レベル3

 攻撃力1600

 

『六武の門』

 武士道カウンター:2→4

『六武の門』

 武士道カウンター:0→1

 

「『六武の門』より武士道カウンターを四つ取り除き、『真六武衆-キザン』を手札に。」

 

『六武の門』

 武士道カウンター:4→0

 

手札:2→3

 

「そして、キザンを特殊召喚。武士道カウンターが二つ乗った『六武衆の結束』を墓地へ送り、カードを二枚ドロー」

 

『真六武衆-キザン』

 レベル4

 攻撃力1800+300

 

『六武の門』

 武士道カウンター:0→2

『六武衆の結束』

 武士道カウンター:1→2

 

手札:2→4

 

「フォーチュンカップでも見ましたが、なんという回転力と展開力……! 一ターン目で、フィールドをモンスターで埋め尽くした……!」

 

『真六武衆-キザン』

 攻撃力1800+300

『真六武衆-ミズホ』

 攻撃力1600

『真六武衆-シナイ』

 攻撃力1500

『真六武衆-カゲキ』

 攻撃力200+1500

『六武衆の影武者』

 守備力1800

 

「当然、これで終わりではありません。レベル3の『真六武衆-カゲキ』に、レベル2の『六武衆の影武者』をチューニング」

 

「激流轟く海原(かいげん)の地より、清誕されしは神なる潮流……」

「シンクロ召喚! 母なる海の力、『神海竜ギシルノドン』!」

 

『神海竜ギシルノドン』シンクロ

 レベル5

 攻撃力2300

 

「梓先生も、一ターン目からシンクロ召喚を……!」

「まだです。ここでミズホの効果。場の六武衆、シナイをリリース。これにより、相手のフィールドのカード一枚を破壊できます。あなたから見て、左の伏せカードを破壊」

 

『真六武衆-キザン』

 攻撃力1800

 

「『攻撃の無力化』が……!」

「そしてこの瞬間、ギシルノドンの効果。フィールド上のレベル3以下のモンスターが墓地へ送られた時、このターンの間、このカードの攻撃力を3000にします」

 

『神海竜ギシルノドン』

 攻撃力2300→3000

 

「『ヴァイロン・デルタ』の守備力を上回った!」

「『ヴァイロン・セグメント』の効果で、罠も、モンスター効果も対象にならない。ですがそれだけです。対処法はいくらでもある。こちらのモンスターの攻撃力を上げることもその一つです」

「梓先生……本当に、あなたと言う人は……!」

「さあ、バトルです。ギシルノドンで、『ヴァイロン・デルタ』を攻撃、海利流衝波(かいりりゅうしょうは)!」

 海水から成る竜の口から、かなりの勢いを持った水弾が放たれた。

 水弾は防御の姿勢を取っていた機械天使の、鋼鉄の羽を突き破り、鉄拳を砕き、その冷たい顔を穿ち、大穴を開けた。

「……『ヴァイロン・エレメント』の効果を発動します。装備された『ヴァイロン・セグメント』が破壊されたことにより、デッキからチューナーモンスター『ヴァイロン・プリズム』を特殊召喚します」

 

『ヴァイロン・プリズム』チューナー

 レベル4

 守備力1500

 

「更に、破壊された『ヴァイロン・セグメント』の効果を発動します。デッキからヴァイロンと名の付いた魔法カード『ヴァイロン・マテリアル』を手札に加えます」

 

ラン

手札:2→3

 

「では、『真六武衆-ミズホ』で『ヴァイロン・プリズム』を攻撃します」

 新たに現れた、結晶の形をしたヴァイロンも、あっさり切り捨てられた。

 

「これであなたの場はがら空きですね。『真六武衆-キザン』で攻撃!」

「う……っ」

 

ラン

LP:4000→2200

 

「……カードを二枚伏せ、ターンエンド。そしてこの瞬間、ギシルノドンの効果は終了。攻撃力は元に戻ります」

「ではこのエンドフェイズ、永続罠『リビングデッドの呼び声』を発動します。墓地から『ヴァイロン・プリズム』を特殊召喚します」

 

『ヴァイロン・プリズム』チューナー

 レベル4

 攻撃力1500

 

「ほぅ……」

 

 

LP:4000

手札:2枚

場 :モンスター

   『神海竜ギシルノドン』攻撃力2300

   『真六武衆-キザン』攻撃力1800

   『真六武衆-ミズホ』攻撃力1600

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』武士道カウンター:2

    セット

    セット

 

ラン

LP:2200

手札:3枚

場 :モンスター

   『ヴァイロン・プリズム』攻撃力1500

   魔法・罠

    永続魔法『ヴァイロン・エレメント』

    永続罠『リビングデッドの呼び声』

 

 

 墓地にはより強力なシンクロモンスター『ヴァイロン・デルタ』も存在したのに、わざわざたった今召喚したチューナーを蘇生させた。

 それはつまり……

(より強力な、シンクロモンスターが来る、ということ……)

 

「やはり、先生はすごいです……」

 梓の思考を中断するように、ランの声が響いた。

「巧みなカードプレイ。尋常でないデッキの回転率……すごすぎます!」

「……」

「あなたとの決闘、ランは誇りに思います……私のターン」

 

ラン

手札:3→4

 

「墓地の光属性モンスター『トライデント・ウォリアー』を除外することで、手札の『霊魂の護送船(ソウル・コンヴォイ)』を特殊召喚します」

 再び、ヴァイロンとは似ても似つかないモンスターが現れる。

 名前の通り、巨大な船の形をしていた。不気味な悪魔が刻まれた帆も、髑髏の船首が目立つ船体も、うん十年うん百年という年月を感じさせるほどボロボロに朽ちていた。

 そんな、巨大ながらもボロボロな巨船が、いくつもの白い霊魂を伴い、フィールドの海原へ漂い出た。

 

霊魂の護送船(ソウル・コンヴォイ)

 レベル5

 攻撃力1900

 

「レベル5の『霊魂の護送船』に、レベル4の『ヴァイロン・プリズム』をチューニング」

 もっとも、そんな巨船さえ、シンクロ素材の一つにすぎない……

 

「メインシステム起動(スタートアップ)。プログラムレベル=星9(ナインスター)。モードセレクト……『戦闘(クラッシュ)』。システム進行率(アドバンス)100%(コンプリーティッド)実行(ラン)プログラム(ネーム)……『α(アルファ)』」

「Practice……シンクロ召喚『ヴァイロン・アルファ』」

 

 機械でできた、冷たい巨大な翼が再び広がった。

 そんな翼の内に現れたのは、『α(アルファ)』の名によく似合う、丸みを帯びた白銀だった。

 そんな白銀から伸びた、弱々しい細い手は、全てを照らしだせるような、円い光を帯びていた。

 

『ヴァイロン・アルファ』シンクロ

 レベル9

 攻撃力2200

 

「この瞬間、モンスターゾーンから墓地へ送られた『ヴァイロン・プリズム』の効果。ライフを500ポイント支払い、自分フィールド上のモンスター『ヴァイロン・アルファ』にこのカードを装備します」

 

ラン

LP:2200→1700

 

「更に、シンクロ召喚に成功した『ヴァイロン・アルファ』の効果を発動します。墓地の装備魔法『ヴァイロン・セグメント』をこのカードに装備します」

 宣言した二枚のカードが、墓地から現れた。

 それが『ヴァイロン・アルファ』の身に吸収され、その身体が更に強固に変わる。

「装備カードを装備した『ヴァイロン・アルファ』は、装備カード以外の効果では破壊されなくなります」

「ふむ……」

「更に、『ヴァイロン・ソルジャー』を召喚します」

 

『ヴァイロン・ソルジャー』

 レベル4

 攻撃力1700

 

「そして、『ヴァイロン・ソルジャー』に『ヴァイロン・マテリアル』を装備。攻撃力が600ポイント上昇します」

 

『ヴァイロン・ソルジャー』

 攻撃力1700+600

 

「バトルを行います。『ヴァイロン・アルファ』で、『神海竜ギシルノドン』を攻撃します」

「攻撃力はギシルノドンが上。ということは……」

 ライディング決闘の時と同じような展開が待っている、ということ。

 そして、その通り。アルファが攻撃した瞬間、その身から電流が溢れ出した。

「『ヴァイロン・プリズム』を装備したモンスターが戦闘を行うダメージステップの間、攻撃力が1000ポイントアップします」

 

『ヴァイロン・アルファ』

 攻撃力2200+1000

 

 プリズムより受けた電流が上乗せされ、威力を増したアルファの光が降り注いだ。

 それに照らされた海原の竜は、その身を蒸発させ、蒸気は天へと昇っていった。

 

LP:4000→3100

 

「続けて、『ヴァイロン・ソルジャー』で、『真六武衆-ミズホ』を攻撃します」

 同じように、装備魔法で強化された、細身なソルジャーの顔の部分から、細い光が放たれる。

 それが、ミズホの眉間を貫いた。

 

LP:3100→2400

 

「これでターンエンドです」

 

 

ラン

LP:1700

手札:1枚

場 :モンスター

   『ヴァイロン・アルファ』攻撃力2200

   『ヴァイロン・ソルジャー』攻撃力1700+600

   魔法・罠

    永続魔法『ヴァイロン・エレメント』

    装備魔法『ヴァイロン・セグメント』

    効果モンスター『ヴァイロン・プリズム』

    装備魔法『ヴァイロン・マテリアル』

    永続罠『リビングデッドの呼び声』

 

LP:2600

手札:2枚

場 :モンスター

   『真六武衆-キザン』攻撃力1800

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』武士道カウンター:2

    セット

    セット

 

 

「どうですか? 梓先生?」

「……」

「私の決闘は完璧でしょう? あなたに負けない展開力で、あなたを今、追い詰めているのは私です。私は強いでしょう? 私を見て下さい。私だけを今、見て下さい」

「……それは、私に言っているのですか?」

「え?」

「本当にランさんのことを見なければならないのは、ランさん自身なのではないですか?」

「……え?」

「私のターン」

 

手札:2→3

 

「『真六武衆-エニシ』を召喚」

 

『真六武衆-エニシ』

 レベル4

 攻撃力1700

 

『六武の門』

 武士道カウンター:2→4

 

「エニシの効果。場にエニシを除く六武衆が存在する時、一ターンに一度、墓地に眠る六武衆二体を除外することで、相手フィールドのモンスター一体を手札に戻すことができます」

「え……!」

「私は墓地の、『真六武衆-カゲキ』、『真六武衆-シナイ』を除外。あなたの場の『ヴァイロン・アルファ』を手札に戻していただく」

 梓が墓地から、二枚のカードを懐にしまった瞬間、エニシの持つ刀が光る。

 その光に包まれて、『ヴァイロン・アルファ』はその姿を消した。

「効果で破壊されなくとも、戦闘で無敵であろうとも、デッキに戻されては意味がありません」

「……『ヴァイロン・エレメント』の効果を発動します。ヴァイロンと名の付いた装備カードが二枚破壊されたことで、デッキからチューナーモンスターである『ヴァイロン・テトラ』、『ヴァイロン・ステラ』の二体を特殊召喚します」

 

『ヴァイロン・テトラ』チューナー

 レベル2

 守備力900

『ヴァイロン・ステラ』チューナー

 レベル3

 守備力200

 

「そして、墓地へ送られた『ヴァイロン・セグメント』の効果により、装備魔法『ヴァイロン・フィラメント』を手札に加えます」

 

ラン

手札:1→2

 

「……」

 二体のモンスターも、増えた手札も気にはなった。

 しかし、それ以上に梓が気になったのは、カードを発動しようとした瞬間から、カードを発動した瞬間の、声の変わりよう。

 無理やりにでも、冷静に、機械的でなければならない。

 そう自分に言い聞かせているように、発動の直前直後の声色の感情がまるで一致していない。

(一体、何があなたをそんなふうにした……?)

 

「『六武の門』の効果。武士道カウンターを二つ取り除くごとに、六武衆一体の攻撃力を、ターン終了時まで500ポイントアップさせます。私はこの効果を二度使い、キザンの攻撃力を1000ポイントアップさせます」

 

『六武の門』

 武士道カウンター:4→0

 

『真六武衆-キザン』

 攻撃力1800+500×2

 

「バトルです。キザンで『ヴァイロン・ソルジャー』を攻撃。漆鎧(しつがい)の剣勢」

 力の増したキザンの斬撃が、機械天使の身を真っ二つに斬り裂いた。

 

ラン

LP:1700→1200

 

「『ヴァイロン・エレメント』の効果を発動します。デッキより、二体目の『ヴァイロン・プリズム』を特殊召喚します」

 

『ヴァイロン・プリズム』チューナー

 レベル4

 守備力1500

 

「更に『ヴァイロン・マテリアル』の効果で、デッキから『ヴァイロン・コンポーネント』を手札に加えます」

 

ラン

手札:2→3

 

「……エニシで『ヴァイロン・ステラ』を攻撃します」

 残ったエニシが、最初に呼び出された、小さな機械天使の一体を斬り裂いた。

「ターン終了」

 

 

LP:2600

手札:2枚

場 :モンスター

   『真六武衆-キザン』攻撃力1800

   『真六武衆-エニシ』攻撃力1700

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』武士道カウンター:0

    セット

    セット

 

ラン

LP:1200

手札:3枚

場 :モンスター

   『ヴァイロン・テトラ』守備力800

   『ヴァイロン・プリズム』守備力1500

   魔法・罠

    永続魔法『ヴァイロン・エレメント』

    永続罠『リビングデッドの呼び声』

 

 

「ジリ貧、と言ったところでしょうか。さすがに序盤であれだけデッキを回転させた後では、出せるカードも少なくなりますね」

「……」

「けれどそんな、何もできない、困った姿も愛おしい……あなたの姿の、全てが私には愛おしい! ……私のターン」

 

ラン

手札:3→4

 

「魔法カード『マジック・プランター』を発動します。自分フィールドの表側表示の罠カード『リビングデッドの呼び声』を墓地へ送り、カードを二枚、ドローします」

 

ラン

手札:3→5

 

「『ヴァイロン・オーム』を通常召喚します」

 

『ヴァイロン・オーム』

 レベル4

 攻撃力1500

 

「『ヴァイロン・オーム』の召喚に成功した時、墓地の装備魔法カード一枚を選び、ゲームから除外します。『ヴァイロン・マテリアル』を除外します。次の自分のスタンバイフェイズ、このカードを手札に加えます」

「……」

「そして……これから呼び出すのが、このデッキの最強モンスターです」

 

「レベル4の『ヴァイロン・オーム』に、レベル2の『ヴァイロン・テトラ』と、レベル4の『ヴァイロン・プリズム』をダブルチューニング」

「ダブルチューニング……!」

 その聞き慣れない単語に、思わず梓は反応した。

 そして、その間にも、機械天使たちは宙へと舞った。

 

「メインシステム起動(スタートアップ)。ファイル検索(インデックス)機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)』。プログラムレベル=星10(マキシマム)。モードセレクト……『殲滅(ジャッジメント)』。システム進行率(アドバンス)100%(コンプリーティッド)実行(ラン)プログラム(ネーム)……『Ω(オメガ)』」

「Practice……シンクロ召喚『ヴァイロン・オメガ』」

 

 まずフィールドに浮かび上がったのは、これまで以上に巨大で、これまで以上に輝く、黄金の『Ω』の形だった。

 そこを中心に、機械の大翼が広がった。今までとは対照的な、漆黒に輝く翼だった。

 四つの翼。巨大な両腕。鋭利な凶貌。フィールドを影だけで覆い尽くす巨体。

 今までの誰よりも機械的ながら、今までの誰よりも危険だと分かる、機械天使の君臨だった。

 

『ヴァイロン・オメガ』シンクロ

 レベル10

 攻撃力3200

 

「……」

「『ヴァイロン・オメガ』のモンスター効果を発動します。このカードがシンクロ召喚に成功した時、フィールド上の、通常召喚されたモンスター全てを破壊します……梓先生、あなたの場の『真六武衆-エニシ』は、通常召喚されたモンスターです」

 フィールドに降り立った機械天使の総身から、光が、雷があふれ出る。

 それが夜の世界を照らし出し、全てのフィールドを照らし出し、裁きを下す者達を照らし出した。

「『ヴァイロン・オメガ』の効果により、『真六武衆-エニシ』を破壊します」

 冷徹な言葉とは裏腹に、放たれた雷は激しかった。

 夜を照らす光が一箇所に収束し、天へと上ったそれが、一気にフィールドへ降りそそぐ。逃げ場など存在しない。ただここへやってきてしまった愚か者を焼き尽くす、裁きの火。

 それが、エニシへと降りそそぐ……

 

「何度も言わせないで……笑わせるな!」

 

「……っ!」

「カウンター罠『六尺瓊勾玉(むさかにのまがたま)』発動!」

 エニシの頭上に、翡翠色に輝く勾玉が浮かび上がる。

 それが、エニシの頭上を覆い、降り注いだ雷を吸収した。

「カウンター罠『六尺瓊勾玉』は、私の場に六武衆が存在する時、相手の発動した、カードを破壊する効果を無効にし、そして破壊する」

 雷の全てを吸収した勾玉から、その雷が放出される。それを、放った側であったはずの、オメガに全て跳ね返され、爆散させた。

「……」

「まだ何か、ありますか?」

「あ……あ……ア、あ、アアアア……」

 まるで、機械が誤作動を起こしたような、意味不明の声を出すだけだった。

「最強のヴァイロンが、真の力を発揮する間もなく破壊されたのがそんなにショックでしたか?」

「……」

「いずれにせよ、ようやくあなたの人間らしい姿を見ることができました」

「え……?」

 梓の言葉を受けたランは、その言葉の通り、人間らしい、疑問の表情を浮かべた。

 それは、少なくとも『決闘をしている時』には見られなかった、普通の少女の顔だった。

「虚勢も理屈も必要ありません。全てのヴァイロンを失って、剥き出しの状態となった、今のあなたが本当のあなたなのでしょう」

「ち……違う。私は……本当の私は、ヴァイロンのデッキを、完璧にプレイして、相手を華麗に倒す。それが、本当の……本当の、ワタシ……」

「ですから、それは誰のための、『本物のランさん』なのですか?」

「誰の、ため……?」

「はっきり言って、アカデミアで『蟲惑魔(こわくま)』のデッキを使っていた時の方が、よっぽど活き活きと、楽しそうに決闘をしているように見えました。あの姿は紛れもない、あなた自身のための、本当のランさんの姿でした」

「それは……」

「決闘していて分かりました。そのデッキ、あなたが組んだデッキではないのでしょう」

 終始うつむいている表情に、分かりやすい動揺が浮かんだ。

「誰かに組んでもらったデッキを使って、そのデッキに合わせるように、自分自身の姿まで変えて、その姿こそが、本当の自分だと自分自身に言い聞かせて……」

「……」

「あなた一体、何のために決闘をしているのです」

「……」

 

「……先生には、分かりません」

 視線を地面から、正面の梓へ向ける。

 その目と顔は、真っ赤に腫れていた。

「そうです……このデッキは、好きで組んだデッキじゃない……両親が、両親の好みで、両親の思い通りにさせるために、私に持たせたデッキです……ただ、それだけです……梓先生」

「なんですか?」

「私の名前は、なんですか?」

「小早川、ランさん」

「そう。『ラン』です。プログラム用語で、『実行』を意味する言葉。ITやパソコンにしか興味が無い両親から、自分達の理想を『実行(ラン)』するように。そんな願いが……いいえ、命令が込められて、付けられた名前です……」

 

 

 その昔、非常に優秀なITエンジニアとして活躍し、独立した後も、その技術力と経営手腕、何より、絶対に金持ちになってやる、という野心から、自身の会社を大企業と呼ばれるまでに成長させ、ネオドミノシティ・トップスの仲間入りを果たした男。

 そんな男に、金だけが目当てで近づき、男もそれに気付いていながら、優秀なプログラマーでもあるその女を手に入れておけば、後々役に立つかも知れないという打算から結婚し、妻になった女。

 そんな、絵に描いたような貴族仮面夫婦の間に生まれた一人娘。

 それが、『小早川ラン』だった。

 

 夫婦は二人とも、結婚と同じく子供には何の興味も無かったものの、どうせ持つなら、自分達の子供として恥ずかしくない、優秀な子供が欲しいと、ボンヤリとした考えだけは持っていた。

 むしろ、子供の頃から優秀であった自分達の間に生まれたのだから、きっと彼女も、二人に似て優秀に違いない。そう思い込み、高を括っていた。どうやら、二人にとって、子育てという『プログラム構築』は、ランが「生まれた」時点で終了していたらしい。

 それで、いざ蓋を開けてみれば……

 

 ランが優秀ではないと気付き始めたのは、彼女が小学校へ上がる前。

 それまでには、二人ともが余裕でできていた、文字の読み書きや計算を、彼女は小学校に入って、しばらくしてからようやくこなせるようになっていった。

 二人が一週間とかからず覚えた九九は、すらすら迷わず言えるようになるまで半年以上の時間を要した。

 テストを受ければ、百点どころか、せいぜい半分以下の点数しか取ってこない。

 運動会では、駆けっこでいつもビリケツとなり、団体競技ではチームの足を引っ張る。

 おまけに人見知りで、先生と顔を合わせるだけで黙ってしまう。

 

 そんな姿を見た二人ともが、同じように結論づけた。

 コイツは、失敗作だ。極めて平凡……むしろ、平凡よりも遥かに劣っている。

 生まれてきたのは完璧な実行プログラムじゃない。バグだらけの出来損ないだった。

 そんな奴が、何かしらを『実行(ラン)』したところで、自分達が恥を掻くだけじゃないか……

 

 だから二人とも、何もさせなかった。

 何もするな。大人しくしていろ。それが、二人がランに『実行』させた、ただ一つのことだった。

 方針を決めた後は、ランの持つ唯一の取り柄を活かすことだけを考えた。

 何もできないながら、顔だけは二人に似て……いやむしろ、二人の容姿を良い所取りしてもまだ釣りがくると、二人が唯一認められるだけの美貌を持って生まれた。

 これだけ綺麗な顔をしているんだ。なら最終的に、たとえ出来損ないだろうが、顔さえ良ければ貰ってくれる、大金持ちに嫁がせれば良い。

 自分達も今以上にリッチな生活ができて、娘は幸せになれる。何の問題も無い。

 それが、一人目で懲りて子供を作ることさえやめてしまったIT貴族が、最終的に娘に『実行』させようと決定したプログラムだった。

 

 

「二人が期待するような能力など、生まれてこの方、何一つ持っていない。私自身、二人に振り向いてほしくて、必死に頑張りました。頑張る度に、みっともない。恥ずかしい。努力なんかするんじゃない……何かしら結果を残す暇もなく、頑張ることすら禁じられて、何もできなくなっていた……」

 何かしらの機械のシステムを構築するには、プログラムを構築し、それをコンピュータに書き込み、学ばせて、実行に移せるまで膨大な時間を要する。

 そんなこと、ITのことを何も知らないランでも分かる。

 ただ、コンピュータの方が単純で、一度プログラムすれば簡単に実行してくれるからと、それができない人間のランには、単純なことしか教えてこなかった。

 そしてランも、そんな単純なことを『実行(ラン)』することしかしなくなった。

「娘ではなく、ただ自分達を良くするためだけの、機械にしか扱われない……そんな私のことを、初めて人間として見てくれた人。それがあなただったんです。梓先生」

 過去を思い出し、苦悶を吐露して、目からは涙を溢れさせて。

「機械としてではない。人間として……成功も失敗も、努力も頑張りも全部、人間として、『小早川ラン』として見てくれた初めての人。そんな人だったから、私はあなたに惹かれた。私のそばに、ずっといて欲しいと思った。あなたがそばにいてくれる時だけ、私は両親の組んだプログラムじゃない、生身の人間でいられたから!」

「……」

 

 ……

 …………

 ………………

 

 ――「ランさん。ひじが下がっていますよ」

 ――「スミマセン……」

 ――「ランさん。足の運びが遅れていますね」

 ――「……気ヲ付ケマス」

 

 ――「ランさん」

 ――「ランさん……」

 

 梓の教える日本舞踊教室へ通い始めて、いつも口に出していたのは、いつもいつも、ランが生まれた時から言い続けてきた謝罪の言葉だった。

 悪いことをしたら、失敗したら、間違ったら、謝る。当たり前だ。古くから人間の体にプログラムされている、条件反射、生理現象だ。

 もっとも、ラン自身、幼いころから何度言ったか知れない、とっくの昔から言い慣れた言葉だった。だから、とっくの昔に誠意というものが欠落してしまっていた。

 だからだろう。かつて、一応は家庭教師と呼ばれる人達に勉強を見てもらっていたころも、問題を間違えて謝る度に、先生方からはしかめっ面をされた。ラン自身、普通に罪悪感と誠意は籠めて謝っていたが、優秀な先生方からすれば、横柄な娘に映ったんだろう。

 

 そして、今回も同じだと、教室に通う前から思っていた。

 この同い年の男の子だって、今までの先生方と同じ。

 失敗する度に呆れ果て、謝る度に嫌になる。どうせ、そうするんでしょう?

 実際、周りを見てみると、自分を見て、とっくにそんな顔になっている人達もいた。

 もっとも、両親の望みは、日本舞踊じゃなくて、この男の子に色目を使って、惚れさせて、将来この人に嫁ぐこと、らしい。そのために、数あるこの男の子の教室の中でも、内容のせいで他より生徒が少ない、日本舞踊教室に通わせた、らしい。

 色目の使い方なんて教えてくれなかったくせに、どうすればいいか分からないランとしては、どうせ、教えるのが嫌になって、追い出されるまで、したくもない踊りを習い続ける。それしかなかった。

 

 そう思いながら、この教室には週に二度ほど通っていた。

 その間、一ヶ月経っても、二ヶ月経っても、態度は変わらず、やる気がないため進歩もしない、とっくに追い出されてもいいはずの自分を、彼は、一度も出ていけと言わず、怒ることすらしなかった。

 他に習っている人達のほとんどは、ランの顔を見る度に顔をしかめているのに、彼だけは、笑顔も、優しい声も変わらず、ランに、必死に教え続けた。

 

 そんなふうに、教室に通って、三ヶ月目を迎えたころだったろうか。

 いつも通り、教室に入ろうとした時、中から言い争う声が聞こえた。

 男の子と、日本舞踊教室に通う女性達。先に言った通り、他の教室に比べれば、生徒の数はだいぶ少なかった。それだけに、同じ教室に通う女性のほとんどが、ランのことを知り、そして、嫌な顔をしていた。

 そんな女性達が、今まで散々我慢してきた、ランへの不満を彼に叫んでいる場面だった。

 

 ああ……

 あの男の子は、今までの人達とは違う。そんな気がしていたけど、やっぱりここでも、私は必要ない出来損ないだったんだ……

 

 ――「皆さん、落ちついて下さい」

 黙って帰ろうかと思ったランの声に、また彼の声が聞こえた。

 ――「私の力不足で、ランさんだけでなく、あなた方にまで不快な思いをさせてしまって、申し訳ありません」

 

「……え?」

 聞こえてきた声に、思わず声が漏れた。

 慌てて口を手で押さえたものの、どうやら、中の人達には聞こえなかったらしい。

 女性達もランと同じように、彼の言葉に動揺していたから。

 

 ――「今習っている事柄。それに対して興味を抱かせ、楽しいと感じさせ、上達を促す。それをすることこそが、教える立場にある私がすべきことです。それらをランさんに対してしてあげられない私にこそ非があります。悪いのは全て私です。だからどうか、ランさんのことを責めないで頂けませんか?」

 

「……」

 どうしてそんなこと言うの?

 ただ、私が何もしてないだけなのに。

 ただ、親に言われたから、やる気も何もなく、仕方なくここへ来て、やりたくも無い踊りを、頑張ってるフリをしてるだけ。

 それが、態度にまで出てる以上、追い出したっていいはずなのに……

 

 同じようなことを、中にいる女性達も、困惑気味な声で言っていた。

 それでも、彼の答えは同じだった。

 ――「理由はどうあれ、嫌々であろうが、やる気があろうが無かろうが、わざわざ私の教室まで、足を運んで下さる人を、私は拒みません。こんな若輩者の指導を必要としてくれるなら、それに答えるのが私の役目ですから。ランさんが、私の教室へ通ってきてくれる限り、私は、彼女を教え続けます」

 

「……」

 

 ――「そして、それをあなた方が受け入れかねると言うのなら……たとえ、あなた方全員がここからいなくなったとしても、それは、受け入れざるを得ません……」

 最後の言葉は、心底悲しそうで、申し訳なさそうな声だった。

 女性達に対して。そして他でもない、ランに対して……

 

 自分のことをそんなふうに、見捨てずに、ずっと見てくれた人は初めてだった。

 そして、あの子にこれ以上、同じような辛い思いをさせちゃいけない。そう思った。

 実際、この出来事の後、何人かは教室を辞めてしまったらしい。それがランのせいなのか、別の事情からは分からない。分かるのは、今までただ親の望むままに生きてきただけのランが、初めて誰かに対して責任を感じた、ということだった。

 

 だから、ランは頑張った。

 ただ教室で頑張るだけじゃない。家に帰った後も、頑張ることを禁じた親の目の無い所で、寝る直前まで必死に踊りを練習した。

 そんな練習を頑張ってきたから、段々と、教室の他の女性達よりも上手くなって、最後には、教室の誰よりも上手くなった。

 

 ――「ランさん、素晴らしいですね」

 そんなランの上達ぶりを見て、誰よりも喜んでくれていたのが、彼だった。

 ――「私の力が及ばず、辞めてしまうのではと心配しておりましたが……こうして、日本舞踊を楽しんで下さるようになって、とても嬉しいです」

 ……楽しむ?

 その言葉に、ランは思わず疑問を感じた。

 ――「今のランさんは、日本舞踊を心から楽しんでいるように見えます。違いますか?」

 

「……」

 すぐには答えられなかった。だから、考えた。

 真剣に取り組もうと決めた日から、必死に踊りを頑張って、その日の教室が終わったら、早くまた教室へ行きたいと感じながら、親の目を盗んでは、扇子を手に踊る毎日。

 

 そして、やっと気付いた。

 ああ……これが、楽しむってことなんだ。

 

 ――「まずは、楽しむこと。何事も、始まりはそこからです。もちろん、楽しめぬまま、嫌いになってしまう事柄は多々あります。苦しくて、投げ出したいと思うことももちろんあるかと思います。そして、誰もがそんな苦しみに馴染み、最後には、その苦しみごと受け入れて、何も感じなくなってしまう。仕舞いには、自分自身という存在すら、無として考えてしまうものです」

 

「……」

 まるで、見てきたかのような物言いに、言葉も出ない。

 

 ――「しかし、馴染み、耐えることもまた強さです。どれだけ苦しくとも逃げ出さず、受け入れ、戦い続ける。誰のためでも、自分のためでもそれは同じです。戦い続けてきた人達には、それだけの力が宿っている。私など到底及ばない、本当に強い、力と意志が」

 

「……」

 

 ――「積み上げてきたあなたの力を、私にもう少しだけ見せていただけませんか? 私にできることなど、限られている。それでも、あなたの成長を見てみたい。あなたが今以上に強く、立派になった姿を、どうか、私に見せて下さい」

 

「……梓、先生……」

 ああ……

 やっぱりこの男の子は……この人は、今までの誰とも違う。

 私のことを受け入れて、受け止めて、そして、見てくれる。そんな人だった。

 そして、初めてランは自覚した。

 自分は、両親の命令を『実行(ラン)』するしかないプログラムじゃ無かった。

 自分のしたいことを、自分のためや、自分の好きな人のために頑張れる、『小早川ラン』という名前の人間だったんだって……

 

 そのことに気付かせてくれた、梓先生のことが、今まで以上に尊く思えた。

 こんな感情も、生まれて初めてだった。

 梓先生のことを考えるだけで、胸がドキドキする。顔が熱くなる。喉が渇く。

 ああ、そうか……これが、恋なんだ……

 私は、梓先生と、結婚したいんだ……

 

 もちろん、そんなこと、夢物語でしかない。あの人にとっての私は、大勢いる生徒達の中の一人でしかないことくらい、分かってる。

 分かってるから、ほんの少しだけでいい。私のことだけを見て欲しい。

 そんな思いで、今まで以上に稽古に、練習に打ち込んだ。

 中学卒業後の進路を考える時期に、いつものように、両親から何の相談もなく決闘アカデミアへ行けと命令された。その時一緒に渡された『ヴァイロン』デッキを練習させられながらも、ランは、踊りの練習を欠かすことは無かった。

 

 毎日毎日、頑張った。中学卒業後も、高校入学後も。

 両親に内緒で、日本舞踊の学生コンクールに応募した。

 そこで、今まで頑張ってきた全てを出しきって、全国優勝を果たした。

 これできっと、梓先生も喜んでくれる。そう思った。

 

 家に帰って、テレビを点けた時にたまたま流れていた、デュエル・オブ・フォーチュンカップ。

 そこで正体を晒した彼が、姿を消してしまうまでは……

 

 ……

 …………

 ………………

 

「……私はただ、あなたに見て欲しかった。ただ、あなたに喜んでほしかった。あなたが見てくれた時だけ、私は、人になれた……」

「ランさん……」

 

「梓先生……私、間違ってますか?」

 

 その時初めてランの身から、禍々しいものが湧きだしているのが見えた。

 

「私は梓先生が好き。たった一人、私のことを見てくれる、先生のことが好き。好きだから見てほしかった。私のことを見て、私は人間なんだよって、言って欲しかった!」

 

 叫ぶ度、涙を流す度、ソレは大きく、強くなっていく。全てを破壊しつくすほどの、力を蓄えていく。

 

「けど! その先生が私の前からいなくなって、私は両親の機械に戻るしかなかった! 今まで梓先生が教えてくれた踊りも、思いやりも全部なくした私には、もう何も残ってないんです! 私のこと、人間として見てくれるのは、あなたしかいないから!!」

 

 より濃くなったそれが、ランの姿を覆い包んだ時……

 

「だから!! あなたがいなくなった時!! あなたまで、私は人間じゃないんだって言ってるように思ってしまった!! あなたはそんな人じゃない!! 分かってるのに!! 分かっててもそう思わずにはいられない!! 私はラン!! 『実行』!! 命令されたことを実行するだけのプログラム!! あなたにまでそう思われたら!! もう生きていけないから!! 私は人間じゃなくて、両親のためのプログラムだって、そう言うしかなくなるから!!」

 

 その絶叫を最後に、ソレは辺りに散らばり、消えた。

 その中から、新たなランが生まれ変わったかのようだった。

 

「だから……決めたのです。あなたをこの決闘で、私だけのものにすると……あなたがそばにいてくれれば、私は人間でいられる。私の夢は、両親の元から、あなたに攫われること。そして、あなたのものになって、正真正銘の『小早川ラン』になる。それが私の、ただ一つの夢です……」

 

「……それが、正真正銘、本当のあなたですか。そして……」

 二人を囲む、青白い炎。それを生み出したもの。

「愛情ゆえの疑い……疑いゆえの、私への憎しみ……」

 ランの本当の姿を見て。何より、こんな姿になってしまった理由を知って。

 梓は改めて思う。必ず解放してみせる、と。

 

「決闘を続けましょう。まだあなたのターンだ」

 

 

ラン

LP:1200

手札:4枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続魔法『ヴァイロン・エレメント』

 

LP:2600

手札:2枚

場 :モンスター

   『真六武衆-キザン』攻撃力1800

   『真六武衆-エニシ』攻撃力1700

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』武士道カウンター:0

    セット

 

 

「私は……魔法カード『一時休戦』を発動します。お互いにカードを一枚ドローして、次のあなたのターン終了時まで、お互いに全てのダメージはゼロとなります」

 

ラン

手札:3→4

手札:2→3

 

「……速攻魔法『リロード』を発動します。私は手札三枚をデッキに戻し、シャッフルし、戻した枚数分、カードをドローします」

「二枚は『ヴァイロン・エレメント』の効果で手札に加えた装備魔法。現状役に立たないそのカードを入れ替えましたか」

 言葉の通り、その二枚を含めた三枚の手札をデッキに戻し、シャッフルの後に再び三枚ドローした。

「……二枚伏せます。これでターンエンドです」

 

 

ラン

LP:1200

手札:1枚

場 :モンスター

    無し

   魔法・罠

    永続魔法『ヴァイロン・エレメント』

    セット

    セット

 

LP:2600

手札:2枚

場 :モンスター

   『真六武衆-キザン』攻撃力1800

   『真六武衆-エニシ』攻撃力1700

   魔法・罠

    永続魔法『六武の門』武士道カウンター:0

    セット

 

 

「長い決闘になりそうだ……私のターン」

 

 

 

 




お疲れ~。
前書きに書いた通り、だいぶ長くなっちまったもんで、キリの良い所で分割させてもらいますわ。
続きはすぐに上げるでよ。
それまで待ってて。
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