ようやっとこっちが進めれる。
例によって、めっちゃ苦労したけどや。
理由は、相手がセクト君だってことで察してくんろ。
そんだら、行ってらっしゃい。
視点:岬
「……」
納豆を食い終わった後も、ずっとあの歩道橋に座り込んでた。
時々、金目的のチンピラとか、ヤリ目的のジジィが図々しく話しかけてきた時は、ボコボコにして追い返してやった。
そんなことしたって、憂さが晴れるどころか余計に曇ってくばっかだった。いくら誰かを殴ったって空しいだけだから、とりあえず、セキュリティが来る前にそこから離れた。
離れて、歩いた後は……ただ、歩いてただけだ。
歩道橋に上る前と同んなじ。どっか目指してるわけでもなんでもなくて、ただ、フラついてるだけ。何すりゃいいか分かんなくて、むしろ何もしたくなくて、ただぼんやり歩いてただけだ。
だから、自分が今どこ歩いてるかとか、どこ向かってるとか、そんなこと何の自覚も無しに、足が続く限り、ただ歩いてた……
それで、ずっと聞こえてたはずの車の音とか、人の話し声とか、街の匂いとかが無くなって、気が付いたら、周りは山に囲まれた場所だった。
ボーっと歩いてるうちに、とっくに街から離れて、まあまあ離れた山の方まで歩いてきちまったらしい。しかも、進行方向を見てみたら、そこは、あれから一度も頭から離れなかった場所……
「……はははっ」
つい、笑い声が漏れちまった。
で、気付いちまった。
俺がずっと、ボーっと歩き通して、やりたいって思ってたこと……
「なんだよ……結局、そういうことかよ……」
「死にたがってたのかよ。俺は、あそこで……」
考えてみりゃ、当然だ。
何にもしてねぇ三人を散々な目に遭わせておいて、一人は死なせちまって。
その死なせた女の子の葬式にまで出ておいて、俺自身は、死ぬのが怖いとか言ってのうのうと生きてて。
そんなこと、許されるわけねーんだ。
あの二人を……コナミの奴を、あんな目に遭わせちまったこと、許されるわけが……
今までずっとそう思ってたのに、死ぬに死ねなかった。けどそれは、死ぬのが怖かったんじゃねえ。死に場所が違ってたんだ。
そのこと、頭じゃずっと気付かなかった。けど、体は分かってたんだな。
だから、こんな俺が死ぬのに相応しい場所まで、勝手に案内してくれたんだ。
生徒会副会長、宇佐美彰子を死なせちまった、工場跡まで。
あそこに着いたら、どうやって死ぬべきだろう……
あそこには、俺自身何度も入ったことがある。なに作ってた工場だか、正直、何度見たって分からねぇ。けど、何かを縛るためのロープだとか、そういうのを切るための刃物だったりも大量に落ちてる。工場自体の高さもあるし、何より、人なんて誰も寄り付かない。
だから、少なくとも死ぬには不自由しねぇ場所だ。
単純に屋上から飛び降りるか……違う。
ロープを見つけて、柱に括り付けて首つり……違う。
ナイフかハサミを見つけて、首とか、手首を切って……違う。
そんな死に方したって、とてもあの三人への償いにはならねぇ。
俺一人死んだところで償いになるわけねーのは分かってる。
けど少なくとも、宇佐美彰子が味わっただけの苦しい思いをしなきゃ、何の報いにもならねぇ……
「……ああ、そっか」
そこでやっと、死に方が分かった。
そうだよ。宇佐美彰子と同じ目に遭う。しなきゃならねぇのはそれだ。
だったら、やることは一つだ……
宇佐美彰子が死んじまった、あのデカい冷凍庫。
あそこのスイッチを入れて、靴も、制服も、下着も全部脱いで、中に入って。
あとは、ジッとしてりゃあ良い。
本当なら、男たちに犯られなきゃならないだろうけど……
そう考えたら、歩道橋でチンピラやジジィをボコボコにしたのは失敗だったけど……
これから死のうって時に、贅沢なんか言ってられねぇ。
副会長が死ぬまでに感じた苦しみの、ほんの少しだって身に沁みる義務が俺にはあるんだからさ……
やること決めた後は、さっきとは違って、はっきり見えてる場所に向かって、歩いていく。
これから死のうって決めたせいかな? それともやること決めたからか?
歩道橋に上る前と後に比べて、明らかに足取りが軽くなった。
歩き疲れてるはずなのに、むしろさっきより歩きやすい……
いいや、普通に走ることだってできちまう。
だから、走った。
もう、何も考える必要は無ぇ。俺は今から、死んじまった宇佐美彰子と同じことするんだ。
それでもし、行けるわけねーけど、彼女と同じ場所に行けたなら……
いくらでも土下座して、謝んねーとな……
そうして走って、工場の入り口が見えて、そこを通った……
ドォオオオオオオオオオ!!
「……!!」
突然、工場の方から、バカでかい音がした。
何かの爆発音だった。けど、その正体はすぐに分かった。
この爆発は、決闘の仮想立体映像で鳴るエフェクトだ。
「うわっ!」
そのすぐ後で、俺の足元まで、何かが吹っ飛んできた。
左手に決闘ディスクを着けてる、赤い服着た、赤い帽子を被ったソイツは……
「こ、コナミ……?」
「……」
コナミ
LP:4000→0
……
…………
………………
視点:外
「コナミ……決闘だ」
「……」
互いに大いに傷ついて、大いに落ち込み苦しんで……
あれだけのことがあったのに、行きつく先は、ただ一つ。
その一つを執り行うため、D・ホイールから降りたセクトは、決闘ディスクを構えた。コナミもまた、向かって決闘ディスクを構えた。
「……」
「……」
「決闘……」
「……」
コナミ
LP:4000
手札:5枚
場 :無し
セクト
LP:4000
手札:5枚
場 :無し
「先行はお前だぜ……」
「……ドロー」
コナミ
手札:5→6
「……ターンエンド」
コナミ
LP:4000
手札:6枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
無し
「……俺のターン、ドロー」
セクト
手札:5→6
先行一ターン目が回ったにも関わらず、何もしない。
プロアマ問わずあまり見かけない行為ながら、決して見ないわけではない。
手札事故、手札誘発のカード、敢えてライフを減らしたい、格下相手へのハンデ、理由などいくらでもある。
だからセクトも警戒を怠らず、油断なく相手を見据えて、いつも通りにカードを手に取る。
「自分の場にモンスターがいない時、手札の『インヴェルズの魔細胞』を特殊召喚する」
地面の下から、煙とも泥ともつかない、黒い何かが浮かび上がってきた。
それが妖しく蠢き、徐々に形を成していった時、そこには、黒く艶めく円い蟲が浮かび上がった。
『インヴェルズの魔細胞』
レベル1
守備力0
「こいつはシンクロ素材にできねぇし、リリースとして使えるのは『インヴェルズ』モンスターのアドバンス召喚のみだ」
「……」
「『インヴェルズの魔細胞』をリリース……『インヴェルズ・マディス』をアドバンス召喚」
円い蟲の足元から、再び黒い何かが湧いて出てくる。
蟲よりも大きなそれが蟲を飲み込んだ時、より大きな形に変質し、実態を象り……黒を基調とした青色の身体を持つ、二足歩行のカマキリを思わせる、異様な蟲が立ち上がった。
『インヴェルズ・マディス』
レベル5
攻撃力2200
「マディスのアドバンス召喚に成功した時、ライフを1000ポイント払って、自分の墓地からインヴェルズ一体を特殊召喚できる。俺はこの効果で、『インヴェルズの魔細胞』を特殊召喚する」
セクト
LP:4000→3000
『インヴェルズの魔細胞』
レベル1
守備力0
「そして、装備魔法『巨大化』。こいつをマディスに装備する」
装備魔法を発動した瞬間、巨大な黒いカマキリの身が、倍の大きさまで膨れ上がった。
「俺のライフがお前のライフを下回ったことで、マディスの元々の攻撃力を倍にする」
『インヴェルズ・マディス』
攻撃力2200×2
「……」
「バトルだ。『インヴェルズ・マディス』で、コナミに、ダイレクトアタック」
巨大化したマディスが、両手の鎌を振り下ろす。
一撃でライフを削り切れる威力。それを、コナミは……
「……」
コナミ
LP:4000→0
「……」
一撃でライフを削り切られて、コナミはその場にひざを着いた。
「……」
セクトは何も言わず、ただ、コナミを見つめている。
「……」
自分の身体を確かめて、何やら疑問を感じている。そんなコナミは、再び立ち上がった。
「……」
「決闘……」
「……」
セクト
LP:4000
手札:5枚
場 :無し
コナミ
LP:4000
手札:5枚
場 :無し
「今度は俺が先行か……ドロー」
セクト
手札:5→6
「……魔法カード『ワン・フォー・ワン』。手札一枚をコストに、デッキからレベル1のモンスター一体を特殊召喚する。デッキから『インヴェルズの斥候』を特殊召喚」
セクト
手札:5→4
今度もまた、黒く、小さな蟲が浮かび上がった。
だが今度の蟲は、頭は大きいが二足歩行で、人間的な四肢を持つ、蟲ではあるが、二頭身の小人のような姿をしていた。
『インヴェルズの斥候』
レベル1
守備力0
「こいつも、さっき使った『インヴェルズの魔細胞』と同じ制約がある。更に、『インヴェルズを呼ぶ者』を召喚」
小さな蟲のすぐ隣に、新たな黒い蟲が現れる。
全身が黒い、人間の姿に見えるが、猫背でひざは曲がり、手足も、体も細細い。
そして、そんな前傾に過ぎる姿勢を作っている原因が、か細いソレが背中に広げている、スズムシのような大きな翅のせいだろう。
『インヴェルズを呼ぶ者』
レベル4
攻撃力1700
「カードを二枚伏せる。ターンエンド」
セクト
LP:4000
手札:1枚
場 :モンスター
『インヴェルズを呼ぶ者』攻撃力1700
『インヴェルズの斥候』守備力0
魔法・罠
セット
セット
「……」
「お前のターンだぞ」
「……」
コナミ
手札:5→6
「……ターンエンド」
コナミ
LP:4000
手札:6枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
無し
セクト
LP:4000
手札:1枚
場 :モンスター
『インヴェルズを呼ぶ者』攻撃力1700
『インヴェルズの斥候』守備力0
魔法・罠
セット
セット
「そういうことかよ……俺のターン」
セクト
手札:1→2
「……永続魔法『冥界の宝札』。そして伏せカードオープン、速攻魔法『速攻召喚』。手札のモンスターを通常召喚できる。『インヴェルズの斥候』、『インヴェルズを呼ぶ者』二体をリリース……アドバンス召喚『インヴェルズ・ガザス』」
より巨大な物質が浮き出て、二体の下級インヴェルズを飲み込んだ。
そんな二体の餌を喰らい、現れた者。
凶悪なる形相には、胴体の赤色がよく映えた。
腕が大きく、脚が太く、そんな巨大な四肢や身体には、鋭利な角がいくつも飛び出す。
巨大な翅を広げ、威嚇するその形相は、昆虫のようで、それ以上に恐ろしい悪魔そのもの。
『インヴェルズ・ガザス』
レベル8
攻撃力2800
「ガザスの召喚に対して俺は、ガザス、『インヴェルズを呼ぶ者』、『冥界の宝札』の順にチェーンを組む。ここまででカードの発動はあるか?」
「……」
「無いなら、更に罠カード『侵略の波紋』。ライフを500払って、墓地に眠るレベル4以下のインヴェルズ、『インヴェルズ万能態』を特殊召喚」
セクト
LP:4000→3500
地面ではなく、セクトの墓地から例の物質が漂い始めた。
それが再び、小さな黒色へ姿を変える。
だが、完全な蟲へと変わっていた今までに対し、今度変わったそれは、その物質はそのままに、その小さな周囲だけを黒い蟲の外皮で覆った、そんな簡素な変質にとどまった。
まるで、ビラビラと適当に揺れる外皮の下から、あらゆる姿に生まれ変われると、そう主張しているかのように……
『インヴェルズ万能態』
レベル2
守備力0
「チェーン3、『冥界の宝札』の効果で、カードを二枚ドロー」
セクト
手札:0→2
「チェーン2『インヴェルズを呼ぶ者』の効果。こいつをアドバンス召喚のためのリリースに使った時、デッキからレベル4以下のインヴェルズを特殊召喚する。来い、『インヴェルズの門番』」
『インヴェルズの門番』
レベル4
守備力1900
「最後にチェーン1……ガザスがインヴェルズ二体をリリースしてアドバンス召喚に成功した時、二つある効果の内の一つを選んで発動する……もちろん知ってるよな? 一つがこいつ以外を飲み込む『ブラック・ホール』、もう一つは『大嵐』の効果だ」
「……」
「発動するのは『大嵐』……」
最後にガザスが咆哮を上げる。効果の通り、フィールドの、地上の、この世の全てを破壊せんとするほどの、怒りと憎しみと、止め処ない飢えのこもった、そんな絶叫。
『冥界の宝札』を飲み込んだ後も、その衝動は止むことのない、あらゆるものを喰らいつくさんという際限無き飢えの力。
そして、そんな飢えはガザスに限らず、セクトの操る、悪魔の蟲ら、全てにこもっていて……
「続けるぞ。『インヴェルズ万能態』を、二体分のインヴェルズとしてリリース……『インヴェルズ・ホーン』をアドバンス召喚」
形を持たない万能態が、外皮と中身の二つに分かれる。元は一つであろうとも、二つとなったことに違いはなく、物質は喜んでソレを飲み込んだ。
そしてまた、巨大な形を作る。
一見、ガザスに比べて細身なようで、そのサイズは、ガザスよりも遥かに巨大。
白い胴体と巨大な四肢、頭には長く鋭利な触覚。
巨大ながらも長く鋭い、白い悪魔がフィールドを見下ろした。
『インヴェルズ・ホーン』
レベル9
攻撃力3000
「インヴェルズを使ったアドバンス召喚に成功した時、ホーンは一ターンに一度、ライフ1000ポイントと引き換えにフィールド上のモンスター一体を破壊できる。まあ、今は意味ねーけどな……『インヴェルズの門番』が場にいる限り、インヴェルズのアドバンス召喚に成功したターン、俺はもう一度通常召喚できる。『インヴェルズの門番』をリリース……『インヴェルズ・ギラファ』をアドバンス召喚」
『インヴェルズ・ギラファ』
レベル7
攻撃力2600
「ギラファはレベル7の最上級モンスターだが、インヴェルズ一体のリリースでアドバンス召喚ができる」
『インヴェルズ・ギラファ』
レベル7
攻撃力2600
『インヴェルズ・ガザス』
レベル8
攻撃力2800
『インヴェルズ・ホーン』
レベル9
攻撃力3000
先行一ターン目を含めての、開始三ターン。
その短い間にフィールドに並べられた、三体の蟲の悪魔達。
その三体ともが、二体の生贄を要求する大型の最上級モンスター。
シンクロ召喚が隆盛を見せ、モンスターの展開力と回転率にこそ価値が求められる今の時代。上級モンスターや最上級モンスターは、シンクロ素材としてのレベル調整以外の価値は無くなり、それ以外では、どれだけ強力な効果を持っていようと、見向きもされなくなっていった。
今でも愛用する人間は見かけはするが、時代が進むにつれて、人々はエクストラデッキから手軽に呼び出せるシンクロモンスターを選び、容易な自己の特殊召喚効果を持っているならともかく、普通に呼び出すにはリリースを要求する、そんな上級以上のモンスターの肩身は狭くなっていく一方。
そんな時代に逆行するように、アドバンス召喚に特化した性能を与えられてデザインされた『インヴェルズ』達も、本来なら誰にも相手をされず、そのまま忘れ去られるはずのカード達だった。
そして、そんな『インヴェルズ』達を手に取り、手足のごとく使いこなし、モンスターを展開し、更には呼び出したが最後、彼らの圧倒的な力を振い、相手を蹂躙する。
それができる、それが許される、そんな巨大なモンスター達を、自在に操り、呼び出す決闘。
それこそが、アカデミア生徒会長にして、アカデミア唯一の現役プロ決闘者、伊集院セクトの決闘スタイルだった。
古かろうが時代遅れだろうが、多くの人は本能的に、巨大なものに心惹かれる。
生き物であれ。機械であれ。時に芸術であれ。果ては人間であれ。
巨大なものにはそれだけで興味を抱き、喜び、時に賛辞を贈る。
そしてそれは、決闘モンスターズにおいても例に漏れず。
全てを踏みしだく圧倒的な力。ソレを備えし巨大なモンスター達。
もちろん、シンクロなり融合なりを含めるなら、そう言ったモンスターを愛用し、使いこなせる決闘者たちはゴマンといる。だが、時代の変化と共に、アドバンス召喚が敬遠されがちな今の時代において、シンクロでも融合でもなく、アドバンス召喚でこれだけの巨大モンスター達をいとも簡単に並べ、操ることができる決闘者。
『インヴェルズ』自体のポテンシャルを差し引いても、現時点でそんなことができるプロ決闘者は、伊集院セクト、彼一人しかいない。
今までもそうして最上級モンスター達を並べては、その能力で相手の戦略全てを破壊し、そして、その圧倒的力でワンターンキル、ワンショットキルを達成してきた。
そんな、時代に逆らっていながらも、派手でパワフル、豪胆にして大胆な決闘は、プロデビューと同時に瞬く間に決闘ファンらの心を掴み、彼を一躍トッププロへと押し上げた。
もちろん、巨大で派手で強力だからと、良いことばかりではなく……
『インヴェルズキモすぎワロタww』
『インヴェルズキモい。食欲失せるからデッキ代えろ』
『まーた手札事故ってるしwww』
『インヴェルズマジグロすぎ。セクトくんマジ天使♡』
『手札事故はさすがに草。インヴェルズじゃ無理ないけどww』
『キモい。グロい。重い。事故る……そんな良い所なしなデッキ使うセクトきゅんマジ天使♡』
ファンらの一部の声だが、要は、書かれてある通り。
単純に、昆虫をモチーフにした悪魔達というデザインや、その動きに嫌悪感を持たれやすいというもの。セクトの小さな容姿とのギャップと合わせて好むファンらも大勢いるが、それでも嫌うファンもまた多いようで、かつては、「子供が泣くからデッキを代えなさい! でなきゃ決闘を今すぐやめなさい!」といった、ヒステリックなマダムらの苦情をいくつも受けたことがあった。
決闘面でも、アドバンス召喚を主軸にしている関係上、当然上級レベル以上のモンスターの比率は高くなり、必然的に手札事故は増えてくる。実際、これまでセクトが敗北してきた決闘の大半が、そんな手札事故によるものだった。
そして、そんなキモいモンスターらを使い続け、デカいせいで何度事故を起こそうと、その力を引き出し、戦い続けてきたことで、セクトはここまで上り詰めることができた。
(これが俺の決闘……彰子を苦しめて、ぶっ殺した、俺の……伊集院セクトの決闘だ!)
「バトルだ! ギラファ、ガザス、ホーンで、ダイレクトアタック!!」
ここまでの長い道のりと、その道のりの果てに犠牲になった少女……
それらを思い出して、ヤケになりながら、並べた悪魔らに命令を下す。
その命令に従った、最上級インヴェルズ達は……
「……!」
容赦なく、コナミを攻撃した。
コナミ
LP:4000→0
「……ない……」
インヴェルズらの攻撃を受け、背中から倒れて、それでも腰を上げて、自分の身を確かめる。
しばらくそれをした後で、また、決闘ディスクを展開する。
「……」
「……」
「決闘……」
「……」
そこからは、同じことの繰り返しだった。
「『インヴェルズ・モース』で、ダイレクトアタック!」
コナミ
LP:4000→0
「『インヴェルズの先鋭』、『インヴェルズを呼ぶ者』、『インヴェルズの門番』、『インヴェルズの歩哨』、『インヴェルズ万能態』、五体のインヴェルズで直接攻撃!」
コナミ
LP:4000→0
「バトル! 『インヴェルズ・グレス』、ダイレクトアタックだ!」
コナミ
LP:4000→0
もう何度目になるか、コナミも、セクトも、数えてはいない。
敗けて、立ち上がったコナミが決闘を仕掛け、セクトはそれに応じる。
セクトがモンスターを呼び出して、コナミは、何もせずセクトにターンを回して、その都度ワンショットキルで勝負を決められる。
その度に、コナミは倒れた身を確かめては疑問を感じ、立ち上がるのである。
何度も倒され、吹っ飛び、転がって、服装はボロボロに汚れ、体は傷だらけ。
それでも決闘自体はやめようとせず、まるで、何かを待ち望むように、セクトに挑んでは、無抵抗で倒され敗北する……
「やれ! ダイレクトアタック!!」
「……」
コナミ
LP:4000→0
少なくとも、吹き飛んだ回数が二桁を越えた時……
「うわっ!」
吹き飛び、転がった先。そこに、ジャッカル・岬は歩いてきた。
「こ、コナミ……?」
「……」
体を起こす。両手を見て、両足を見て、身体を見てみる……
「……えない」
「は?」
「……消えない」
何度も吹き飛んで、何度も身体を確かめて……何度も、そんな声を上げていた。
「これだけ攻撃を受けて……これだけ敗けているのに……なぜ消えない? これは、闇の決闘に間違いないはずなのに……」
今までとは違って、怪しい炎は出てきていない。それでも、セクトが、この決闘が普通でないことは、三度も経験してきたコナミには分かっていた。
実際、常人であるなら、通常の決闘より遥かに威力を増した攻撃、それも、ワンショットキル級の攻撃をこれだけ受けていれば、とっくに気絶か、最悪命を落としている。
まだ命があるのは、コナミが、梓であるからに他ならない。
それはコナミも自覚している。普通の人間が落ちたら死ぬ高さから落ちても、死ねない体なのだから。だから、闇の決闘の、敗けたら消える、そんなルールに期待して、ここまで来たのに……
「コナミ……」
「禁止カードが無いからからか……あの二人と同じように、禁止カードが無いせいか?」
「おい、コナミ……」
「……岬さん?」
そこでようやく、たまたまやってきていた、ジャッカル・岬と顔を合わせた。
「岬さん……禁止カード、持っていませんか?」
「あん? 禁止って……」
「持っていたら、どうか貸していただきたい。『強欲な壺』でも『現世と冥界の逆転』でも、『サイバーポッド』でも『ファイバーポッド』でも、何でも良い。それをこの決闘で引き当てて、使うことができれば……」
「な、バカ言うな……禁止カードなんて、決闘者が普段持ち歩いてるわけねーだろ……」
尋常でない様子で迫ってくるコナミに、岬は正直にそう言った。
コナミは、体を離して、また地面に顔を向け……
「……うあああああああああああああああああああああ!!」
絶叫しながら、両手を地面に叩きつけた。
地面は大きく陥没し、その衝撃で帽子が落ちて、コナミの美しい髪が、また露わになった。
「コナミ……あいつは!」
地面を殴ったコナミの後に、コナミが飛んできた方を見た。
コナミをこんな風にぶっ飛ばしたやつ、何より、コナミに決闘で勝てるやつ、そんなやつがいることが、とっさのこととは言え信じられなくて……
だが、そこを見た時、疑問は瞬時に納得させられた。
「伊集院セクト……生徒会長……」
アカデミア最強の男にして、生徒である身で唯一のプロ決闘者。そして、此度の悲劇の、最大の被害者の一人……
「あいつと決闘して、消えないって……コナミ、お前、ワザと負けたのか……?」
頭の弱い岬でも、ランとコナミの決闘を思い出して、加えて、これだけの状況を見せられて、理解をさせられてしまった。
「コナミ……お前、消えたいのか?」
そう、コナミに向かって声を上げたのは、セクト。
「死にたいのか? お前……」
「……決まっているでしょう」
コナミは立ち上がりながら、セクトに向かって、はっきりと叫んだ。
「私は死にたい……死んでしまいたい! 死んであなたにお詫びしたい! 彰子さんに土下座しに行きたい!! これ以上、生きているのに耐えられない!!」
「な……ば、バカなこと……!」
「俺もだよ……」
岬がコナミに叫ぶ前に、セクトが語りかけた。
「俺もだ……死にてーんだ。今すぐにでも、俺……」
静かに、なのに、はっきりと聞き取れる、そんな声で語りながら……
ヘルメットも被らずD・ホイールにまたがり、エンジンを掛け、アクセルを噴かす。
「俺さ、頑張ったんだぜ。ただ、ずっとずっと頑張ってきた……頭悪くて、決闘も下手で、周りに遅れてて、笑われたりバカにされたりもしてさ、それでも、頑張ったんだ。こっかから遠くにある、弱小アカデミアの中等部から、アカデミア童実野校に入った後も、念願のプロ決闘者になった後も、生徒会長に選ばれた後も、頑張って、頑張って……頑張ったせいで、彰子が散々辛くて苦しい思いして、挙句、最悪な死に方させちまってさ……」
エンジンは十分すぎるほど温まって、いつでも走り出すことができる……
そんな危うさの中でも、セクトは、語り続ける。
「彰子だけじゃねぇ……ついさっきもな、人一人、傷つけてきた。何にも悪いことしてねぇ、優しい人のこと、俺、傷つけて、で、苦しめた。また苦しめちまったんだよ……死ぬほど苦しい思い、その人にさせちまったんだよ」
鳴り続けるエンジン音。その中から聞こえてくるセクトの悲痛。
その声が、一つずつ上がる度、まるでエンジン音のように、その苦しみの、熱が上がっていくようで……
「挙句……お前だ。お前のことまで、そんなふうになるまで苦しめちまってさぁ。お前はなんにも、悪くねぇのに、死にたいだなんて言わせちまってさぁ」
「セクトさん……」
「けどな……本当に許せねぇのは、それだけじゃねーんだ。どうしてだか分かんねーし、自分でも間違ってるって分かってるんだけど……どうしてだか、お前のこと、恨んじまうんだよ」
「恨むって……コナミをか? お前のこと助けてくれた、コナミのこと恨んでるってか?」
岬の問いかけに、セクトは頷いた。
「あの時の俺はさ、お前のこと、頼るしかなかった。だからお前に連絡した。で、お前は来てくれた……けど、彰子は助からなかった。お前は全力を尽くしてくれた。だからお前は悪くねぇ。そんなこと分かってるから、ずっとそう言ってきた。お前に……俺自身にもだ」
徐々に、徐々に、エンジン音よりも、その声量を増していった。
「なのに……心の奥の所で、どうしても思っちまうんだ。何でもっと早く来てくれなかったんだって。何で俺じゃなくて、彰子を助けてくれなかったんだって。そんなに強いのに、何で……何で、助けてくれなかったんだってさぁ」
目に涙は無い。それでも、涙を出し尽くして乾ききったその目には、涙以上の苦しみの色が十二分に光っていて……
「何度も自分に言い聞かせたさ。間違ってるのは俺だって。コナミに八つ当たりすんじゃねーって。彰子のこと、守らなきゃいけねーのは俺だったんだからさ。だから、お前は何にも悪くねぇ。そう言ってやりたくて、俺はお前を呼んだんだ」
「……そのために、私に決闘を?」
「ああ……それなのに、お前は自分から消えようとしてる。この決闘が、タダの決闘じゃねーのは分かってる。お前も、よく知ってるんだろ? 知ってるから、自分から敗けて、俺に詫びようとしてくれてる……俺が、お前のこと恨んじまったせいで……」
そこまで言った後で、セクトはD・ホイールごと、背中を二人に向けた。
「やっと決心がついた……俺が決闘しただけで、誰かしらが苦しんじまう。彰子も、お前も……もう俺は、決闘やめる……生きることもな」
「……!」
「それって……!」
二人が何かを言い返す前に、セクトは走り出した。
と同時に、二人の前に、二人を遮るように、青い炎が燃え盛る。
その炎が、この工場跡の全てを包み込むように広がった。
誰も、入って来れぬよう。
セクトの邪魔を、させぬよう……
「ダメだ!」
そして、そんな炎を飛び越えて、入ることができる唯一の男。
「コナミ!」
足もとに落ちた帽子もそのままに、コナミ……梓は、炎の壁を飛び越えて、セクトの後を追っていった。
「やめろ! コナミも生徒会長も、やめてくれ!! 死ななきゃならないのはお前らじゃねえ!! 死ななきゃならないのは……!」
「セクトさん!」
工場の入り口から、建物の目前まで。そこまで走ってきていたセクトの前に、梓はその足で追いついていた。
「なんだよ、梓。俺のこと、見送りに来てくれたのか?」
「見送り……それはあなたの役目だ。この件で死なねばならないのは、私だ!」
「……」
このまま下手に返事を返しても、どうせ水掛け論になる。
「だったら、これで決めるか」
それを理解したセクトは、目の前のD・ホイールを操作した。
「ルールは勝った方が消える、闇の決闘だ。これならお互い、文句は無ぇだろう?」
「……」
勝った方が消え、敗けた方が生き続ける……
今の二人にとって、これ以上ないほどに苦痛な、敗けた者への罰ゲーム。
勝とうが敗けようが、どちらも地獄に違いなし。そんな悲劇しか生まない決闘が……
「フィールド魔法『スピード・ワールド2』、セット!」
「フィールド魔法『スピード・ワールド2』、セット!」
今、開始される……
『ライディング決闘、アクセラレーション!!』
セクト
LP:4000
SPC:0
手札:5枚
場 :無し
梓
LP:4000
SPC:0
手札:5枚
場 :無し
ライディング決闘とは言え、第一コーナー等、特にコースが決まっていない場合、互いのターン順の選考は、スタンディングと同じくランダムに執り行われる。
決闘ディスクが自動で選んだのは、セクト。
「俺のターン!」
セクト
手札:5→6
「『インヴェルズの斥候』を守備表示」
『インヴェルズの斥候』
レベル2
守備力0
「カードを三枚伏せる。ターンエンド」
セクト
LP:4000
SPC:0
手札:2枚
場 :モンスター
『インヴェルズの斥候』守備力0
魔法・罠
セット
セット
セット
「私のターン!」
梓
手札:5→6
セクト
SPC:0→1
梓
SPC:0→1
「……魔法カード『手札抹殺』! 互いのプレイヤーは手札を全て捨て、捨てた枚数だけカードをドローします」
「いきなりかよ……」
セクトの呟きの直後、梓の頭上で光が弾ける。
梓の発動した、通常魔法。それに反応し、掟を破った者へ罰を与えるための、この場を支配するフィールド魔法の効果が……
「更にチェーンして、手札の『ハネワタ』を捨てて、効果発動! このターン、私が受ける全ての効果ダメージをゼロにします」
梓
手札:5→4
「引いてやがったか。さすがだな……」
頭上に落ちるはずだった落雷を、巨大に膨れた半透明の『ハネワタ』が弾き返した。
そして、誰に邪魔されることもなく、梓は四枚、セクトは二枚、手札の入れ替えを行った。
「この瞬間、カード効果で手札から墓地へ捨てられた、『暗黒界の尖兵 ベージ』、『暗黒界の狩人 ブラウ』、『暗黒界の龍神 グラファ』の効果が発動」
「発動するカードは無いぜ」
前もってのセクトの宣言に、梓は何の気兼ねも無くカード効果を発動させた。
「まずはグラファの効果! このカードが手札から捨てられた時、相手の場のカード一枚を破壊できる。私は真ん中の伏せカードを破壊します!」
梓の墓地から、妖しい霧が立ち昇った。その霧がグラファの顔の形を象ったと同時に、向かっていった先にあるセクトの伏せカードを飲み込んだ。
「次にブラウの効果! 手札から捨てられたことで、カードを一枚ドロー」
梓
手札:4→5
「最後にベージの効果! 手札から捨てられたこのカードを、墓地より特殊召喚!」
『暗黒界の尖兵 ベージ』
レベル4
攻撃力1600
「ベージ……それに、墓地のカード。あいつが来るな……」
「まだ続けます。私は……」
走りながら、手札のカードを取る。一瞬、動きを止めながらも、すぐさまそれをディスクにセットした。
「チューナーモンスター『魔轟神レイヴン』を召喚!」
『魔轟神レイヴン』チューナー
レベル2
攻撃力1300
「レイヴンの効果! 一ターンに一度、手札を一枚捨てるごとに、このターンの間レベルを一つ上げ、攻撃力を400アップさせる。私は手札を一枚捨てる」
梓
手札:4→3
『魔轟神レイヴン』
レベル2→3
攻撃力1300+400
「そして、今手札から捨てた『暗黒界の武神 ゴルド』もまた、墓地より特殊召喚できる」
『暗黒界の武神 ゴルド』
レベル5
攻撃力2300
「墓地に眠る『暗黒界の龍神 グラファ』の効果! 自分フィールド『暗黒界』、『暗黒界の尖兵 ベージ』を手札に戻し、自身を特殊召喚する」
梓
手札:3→4
『暗黒界の龍神 グラファ』
レベル8
攻撃力2700
「そして……レベル5の『暗黒界の武神 ゴルド』に、レベル3となった『魔轟神レイヴン』をチューニング……」
光司る黒翼の神が、三つの星へ変わり、舞う。
それが黄金に輝く巨大な悪魔の周囲を回り、新たな輝きを形作る……
「不死なる魂
「シンクロ召喚! 不滅の勇者『ギガンテック・ファイター』!」
『ギガンテック・ファイター』シンクロ
レベル8
攻撃力2800
「一ターン目で、レベル7の最上級と、レベル8のシンクロモンスターかよ……」
「一ターンの内に、レベル5以上のモンスターをポンポンアドバンス召喚してくる、あなたには言われたくはありませんが……バトルです!」
モンスターが出そろい、梓は攻撃の命を、二体のモンスターに下した。
「『暗黒界の龍神 グラファ』で、『インヴェルズの斥候』を攻撃!」
その命に従った、禍々しい悪魔の龍神が、小さな蟲へ息を吐く。
邪悪な力にまみれたブレスは、小さな蟲を苦もなく焼き尽くした。
「『ギガンテック・ファイター』で、セクトさんにダイレクトアタック!」
「さすがにそいつは通せねぇ……手札の『バトルフェーダー』の効果! 相手のダイレクトアタックを無効にして、こいつを特殊召喚する!」
不滅の勇者の巨大な拳が、セクトの目の前まで迫った直後。
その拳の前に、小さな黒い悪魔が立ちはだかった。
その悪魔は、自身の身である鐘を鳴らし、戦いの終了を告げ、強制させた。
「『手札抹殺』で引いていたカードがそれとは……私はカードを二枚伏せ、ターンエンド」
「だったら……そっちのエンドフェイズに、罠カード『侵略の波紋』。ライフを500払い、墓地のレベル4以下のインヴェルズ、『インヴェルズの先鋭』を特殊召喚する」
セクト
LP:4000→3500
『インヴェルズの先鋭』
レベル4
攻撃力1850
「こいつは、『手札抹殺』で捨てられてたカードだ」
「……」
梓
LP:4000
SPC:1
手札:2枚
場 :モンスター
『ギガンテック・ファイター』攻撃力2800
『暗黒界の龍神 グラファ』攻撃力2700
魔法・罠
セット
セット
セクト
LP:3500
SPC:1
手札:1枚
場 :モンスター
『インヴェルズの先鋭』攻撃力1850
『バトルフェーダー』守備力0
魔法・罠
セット
「さて……俺のターン、ドロー」
セクト
手札:1→2
セクト
SPC:1→2
梓
SPC:1→2
「んじゃ、俺も使うか……魔法カード『
セクトも発動させた、何の変哲もない通常魔法。
直前の梓にそうしたように、セクトにも、平等に鉄槌は下される。
「ぐぅ……!」
セクト
LP:3500→1500
直前で防いだ梓とは違い、セクトは甘んじてソレを受けた。
「……だが、これでこいつの力を発揮できる。罠発動『活路への希望』。俺のライフがお前より1000ポイント以上少ないことで、ライフを1000支払い発動」
セクト
LP:1500→500
「お前とのライフの差1000ポイントにつき、カードを一枚ドローできる。互いのライフの差は3500。カードを三枚ドローする」
セクト
手札:1→4
「相変わらず、お金を貯めるのは好きなのに、ライフポイントは湯水のように使いますね」
「金は
「ですね……」
「じゃあ、次だ。『インヴェルズの先鋭』一体をリリース……『インヴェルズ・ギラファ』を召喚!」
先鋭たる黒い蟲が、巨大な霧に包まれ喰われ、その霧が、オレンジ色の邪悪な蟲へ姿を変えた。
『インヴェルズ・ギラファ』
レベル7
攻撃力2600
「アドバンス召喚に成功したギラファの効果、そしてリリースされた『インヴェルズの先鋭』の順にチェーン処理。まずは『インヴェルズの先鋭』の効果! フィールド上のこのカードが墓地へ送られた時、フィールド上の儀式、融合、シンクロモンスター一体を選択して破壊する。破壊するのは『ギガンテック・ファイター』だ」
戦闘に関しては不屈の力を持つ勇者も、効果破壊が相手では、その破壊は受け入れざるを得ない。不滅の名のもと復活することは叶わず、墓地へ送られる。
「そしてギラファの効果。こいつがインヴェルズをリリースしてのアドバンス召喚に成功した時、相手の場のカード一枚を選択して発動できる。俺はお前の場の、『暗黒界の龍神 グラファ』を選択、墓地へ送るぜ」
梓の場に残る巨大な龍神が、件の物質に呑み込まれ、消滅した。
「そして、この効果で墓地へ送ったことで、俺はライフを1000回復する」
セクト
LP: 500→1500
「く……手札の回復に始まり、こちらのモンスターをあっさり処理して、ライフまで回復……」
「プロならこれくらい普通だ……そして、『二重召喚』の効果で、俺はもう一度通常召喚ができる。ギラファをリリース……『インヴェルズ・モース』をアドバンス召喚!」
直前のギラファよりは、僅かながら小さな規模の物質。それがギラファを飲み込んで、緑色の蟲へと変わる……
『インヴェルズ・モース』
レベル6
攻撃力2400
「モース……!」
「インヴェルズをリリースしたモースのアドバンス召喚に成功したことで、俺は1000ライフを支払い、相手フィールドのカードを二枚まで選択して持ち主の手札に戻せる……もっとも、お前のフィールドには、二枚しか残ってねぇけどな」
「……っ」
「伏せカード二枚、両方とも戻しな」
セクト
LP:1500→500
モースの身から、黒く艶めく鱗粉があふれ出す。それが梓のフィールドを包み込み、そして、誰もいなくなった。
梓
手札:2→4
「私のフィールドが……!」
「バトルだ……モースで、梓にダイレクトアタック」
モースが背中の翅を広げ、もースピードで梓に突っ込んだ。
その、細身だが長く鋭い拳が、梓を突き刺した。
梓
LP:4000→1600
「くぅ……!」
「カードを伏せる。ターンエンド」
セクト
LP:500
SPC:2
手札:1枚
場 :モンスター
『インヴェルズ・モース』攻撃力2400
『バトルフェーダー』守備力0
魔法・罠
セット
梓
LP:1600
SPC:2
手札:4枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
無し
「……私のターン!」
梓
手札:4→5
セクト
SPC:2→3
梓
SPC:2→3
(『スピード・ワールド2』の効果を使えば、手札の『
この効果があることで、現在のライディング決闘でのライフポイントのセーフティラインは、800ポイントより上と言われている。
(しかし、そのためにはスピードカウンターが四つ必要。現在、スピードカウンターは三つ。セクトさんも、それを分かっているから、ライフのせぇふてぃらいんを下回らせたのでしょうが……)
「足りないのなら、増やすまで。魔法カード発動『Sp-カウントアップ』!」
梓が新たに発動させたのは、このフィールドでのみ発動が許されている、通常魔法。
「スピードカウンターが二つ以上ある時、手札を任意の枚数墓地へ送り、墓地へ送った枚数につき二つ、スピードカウンターを増やす。私は一枚の手札を捨てます」
梓
手札:4→3
SPC:3→5
「……だが、そいつの効果は手札を『墓地に送る』効果だ。『墓地に捨てる』効果じゃねーから、暗黒界の効果は発動できねーぞ」
「分かっております……ですが、これで私のスピードカウンターは五つ。『スピード・ワールド2』の効果! スピードカウンターを四つ取り除くことで、手札のスピードスペル一枚につき、800ポイントのダメージを与える。」
梓
SPC:5→1
「私の手札に、スピードスペルは一枚。800ポイントのダメージを与えます!」
スピードカウンターを減らし、手札のスピードスペルを見せながら宣言する。
と同時に、スピードスペルのカードから光が伸び、刃の形に変わる。
それをセクトに向けて、梓は足の速度を上げた。
「これで私の勝ちだ!」
「あのなぁ……俺がそんな対策もせずに、これだけライフを減らしたとでも思ってたのか?」
セクトの呟き、そして、鋭い視線。スピードスペルの剣が届くより先に、それが梓を切り裂くのを感じた。
「甘ぇんだよ! 墓地の『ダメージ・イーター』の効果! 相手ターンのみ、相手がダメージを与えるカード効果を発動した時、こいつをゲームから除外することで、そのダメージを回復に変換させる」
梓の振った刃を、黄色の細長い悪魔が受け止めた。そして、その刃を吸収し、そのエネルギーをセクトに与えてしまった。
セクト
LP:500→1300
「それも、『手札抹殺』の効果で……」
「そうでなきゃ、お前相手にここまでライフを減らすなんて怖ぇことしねーよ……こんなことも読めねぇなんざ、それでも俺の付き人か?」
「くぅ……!」
今日までセクトの付き人として、一ヵ月近く行動を共にし、その決闘を見てきた。
確かに、セクトはライフを惜しげもなく減らす戦術を好んではいたが、それだけに、ライフを回復させる手段も常に用意していた。
それを、誰よりも梓は分かっていたはずだった。それなのに、貴重なスピードカウンターを減らしてまで勝負を急ぎ、結果、ライフを回復させて……
(慣れないライディング決闘のせいか……走り続けた疲労のせいか……いいや! 理由など、今はどうでもいい)
手札もあり、ライフも残っている。ついでに、まだまだ走る体力も十分。
これだけ戦える理由がある以上、一つのミスをいつまでも悔いている場合じゃない。
「続けます。手札の『暗黒界の尖兵 ベージ』を通常召喚!」
『暗黒界の尖兵 ベージ』
レベル4
攻撃力1600
「そして、ベージを手札に戻すことで、墓地のグラファを特殊召喚!」
梓
手札:2→3
『暗黒界の龍神 グラファ』
レベル8
攻撃力2700
「バトルです! グラファで『インヴェルズ・モース』を攻撃!」
グラファの巨大な口から溢れ出る闇の瘴気。
それがモース目掛け飛んでいく……
「永続罠『血の代償』! 自分のメインフェイズ、または相手のバトルフェイズ中にライフを500支払うことで、モンスターを通常召喚する。俺は『インヴェルズ・モース』と『バトルフェーダー』二体をリリース……『インヴェルズ・ホーン』をアドバンス召喚!」
セクト
LP:1300→800
文字通り、血の代償により命を捧げ、セクトの場の二体が光に変わる。
そこに、長く、太く伸びる触覚を頭から垂らした、白い蟲が翅を広げてフィールドに立った。
『インヴェルズ・ホーン』
レベル9
攻撃力3000
「バトルフェイズ中にアドバンス召喚……攻撃は中止します。カードを一枚伏せて、ターンエンド」
梓
LP:1600
SPC:1
手札:2枚
場 :モンスター
『暗黒界の龍神 グラファ』攻撃力2700
魔法・罠
セット
セクト
LP:500
SPC:3
手札:0枚
場 :モンスター
『インヴェルズ・ホーン』攻撃力3000
魔法・罠
永続罠『血の代償』
「俺のターン!」
セクト
手札:0→1
セクト
SPC:3→4
梓
SPC:1→2
「『Sp-エンジェル・バトン』発動! スピードカウンターが二つ以上ある時、カードを二枚ドローし、一枚を捨てる。そしてこっちも、今墓地へ捨てた『暗黒界の狩人 ブラウ』の効果! 手札から墓地へ捨てられたことで、カードを一枚、ドローする」
セクト
手札:1→2
「ブラウ! セクトさんもそのカードを……」
「更に『Sp-ハーフ・シーズ』! スピードカウンターが三つ以上ある時、相手モンスター一体の攻撃力を半分にして、ダウンした攻撃力の数値分、俺のライフを回復させる。グラファの攻撃力を半分にする!」
梓の場に立つ巨大な龍神が、そのサイズを半分にまで縮小させた。
それによって放出された半分のエネルギーが、セクトの身へ吸収される。
『暗黒界の龍神 グラファ』
攻撃力2700/2
セクト
LP:800→2150
「ライフを逆転された……!」
「さあ、バトルだ! 『インヴェルズ・ホーン』で、『暗黒界の龍神 グラファ』を攻撃!」
力が半減され、攻撃力が1350にまで減らされたグラファへの攻撃を許せば、梓のライフはゼロとなる。
だが、梓もそれを分かっているから、それをさせまいとカードを使う。
「墓地の『ネクロ・ガードナー』の効果! このカードをゲームから除外し、相手モンスターの攻撃を一度だけ無効にします」
向かっていったホーンの攻撃が、突然現れた戦士に阻まれてしまった。
「カウントアップで捨てたやつか……一枚伏せて、ターンエンド」
セクト
LP:2150
SPC:4
手札:0枚
場 :モンスター
『インヴェルズ・ホーン』攻撃力3000
魔法・罠
永続罠『血の代償』
セット
梓
LP:1600
SPC:2
手札:2枚
場 :モンスター
『暗黒界の龍神 グラファ』攻撃力2700
魔法・罠
セット
「私のターン!」
梓
手札:2→3
セクト
SPC:4→5
梓
SPC:2→3
「私も、『Sp-エンジェル・バトン』発動! カードを二枚ドローし、一枚を捨てる。そして、墓地に捨てた『暗黒界の尖兵 ベージ』の効果! 墓地より特殊召喚する」
『暗黒界の尖兵 ベージ』
レベル4
守備力1300
「永続罠『デーモンの呼び声』! 一ターンに一度、手札の悪魔族モンスター一体を捨てることで、墓地のレベル5以上の悪魔族モンスター一体を特殊召喚する。私は『暗黒界の術士 スノウ』を捨て、墓地に眠る『暗黒界の部神 ゴルド』を特殊召喚!」
梓
手札:3→2
『暗黒界の部神 ゴルド』
レベル5
攻撃力2300
「そして、墓地へ捨てた『暗黒界の術士 スノウ』の効果! デッキから、暗黒界の名を持つカード一枚を手札に加える。私はデッキから、『暗黒界の刺客 カーキ』を手札に加えます」
梓
手札:2→3
「そして通常召喚、チューナーモンスター『ゾンビキャリア』!」
『ゾンビキャリア』チューナー
レベル2
守備力200
「レベル5の『暗黒界の武神 ゴルド』に、レベル2の『ゾンビキャリア』をチューニング……」
「不屈の闘志たる正義の閃光、断罪の雷となりて、咎人の魂に仁なる救済を……」
「シンクロ召喚! 光輝の武人『ライトニング・ウォリアー』!」
『ライトニング・ウォリアー』シンクロ
レベル7
攻撃力2400
「グラファを守備表示に変更、これでターンエンド」
梓
LP:1600
SPC:3
手札:2枚
場 :モンスター
『ライトニング・ウォリアー』攻撃力2400
『暗黒界の尖兵 ベージ』守備力1300
『暗黒界の龍神 グラファ』守備力1800
魔法・罠
永続罠『デーモンの呼び声』
セクト
LP:2150
SPC:5
手札:0枚
場 :モンスター
『インヴェルズ・ホーン』攻撃力3000
魔法・罠
永続罠『血の代償』
セット
(なるほどな……わざわざシンクロ召喚した理由は、レベル5のゴルドを墓地に置くことか)
梓の場には、一度だけ手札の悪魔族を捨てることで、墓地のレベル5以上の悪魔族を呼び出せる『デーモンの呼び声』がある。だがそれも、墓地にレベル5以上の悪魔族がいなければただの案山子となる。
だからこそ、『インヴェルズ・ホーン』を倒せないシンクロモンスターを敢えて呼び出してでも、墓地にレベル5の『暗黒界の武神 ゴルド』を墓地に置く必要があった。
梓の手札には、『暗黒界の術士 スノウ』の効果で手札に加えたモンスター、手札から捨てられた時、モンスター一体を破壊する『暗黒界の刺客 カーキ』がある。
それと『デーモンの呼び声』を合わせれば、セクトのターンでいつでも手札のカーキを捨てて、セクトのモンスターを破壊しつつ、墓地に眠るゴルドを呼び出すことができるということ。
(まったく、嫌になっちまうくらい、強え付き人だぜ……)
いつも本人に言っていた通り、梓の強さは理解していた。
セクトよりも遥かに強く、付き人にしておくにはもったいないほどの実力を持っていると。
梓の決闘はあまり見たことがない。それでも、雪乃だった時の決闘や、デュエル・オブ・フォーチュンカップ等、僅かな映像からも分かるその強さに、日ごろの感謝とは別な、嫉妬心が芽生えていたことは否めない。
そんな梓が、スタンディングは元より、自分の専門分野であるはずの、ライディング決闘でさえ、越えようとしてくる……
(そんだけ強ぇ、俺なんかより価値ある決闘者をよぉ……死なせちゃならねぇよなぁ)
手札はゼロ。フィールドのカードだけで逆転も難しい。
それでも、セクトは諦めない。
梓と彰子に、死んで詫びるために。梓を、死なせないために……
「俺のターン!」
セクト
手札:0→1
セクト
SPC:5→6
梓
SPC:3→4
「『Sp-シフト・ダウン』! スピードカウンターを六つ取り除くことで、カードを二枚ドローする」
セクト
SPC:6→0
スピードカウンターが減ったことで、セクトのD・ホイールは速度を低下させた。
それによって、常に後ろを走っていた梓に並び……
互いの視線が、ぶつかり合う……
(敗けるわけにはいかねぇ……)
(絶対に、敗けられない……)
(この決闘で……)
(この決闘で……)
(
(
「ドロー!」
セクト
手札:0→2
「……はは、引いたよ」
「……!」
その二枚がセクトの手札に加わった瞬間、梓の身に、ありすぎるほどの覚えがある感覚が走る。
あれは、そう……
小早川ランと決闘した時に感じた感覚……
ランが、あの決闘を行うキッカケとなった……
闇の決闘を司る力を得ることになった、カードを使う時に感じた……
「お前の場の、『デーモンの呼び声』を墓地へ送ることで、チューナーモンスター『トラップ・イーター』を特殊召喚する」
梓の場で表を向けていた永続罠が、背後から現れた巨大な口に飲み込まれる。
その口を持った、紫色の醜い鮟鱇に似た悪魔は、セクトのフィールドに降り立った。
『トラップ・イーター』チューナー
レベル4
攻撃力1900
(くぅっ……! チェーンブロックを作らない効果では、『デーモンの呼び声』の効果を使うこともできない……)
「いや、それよりも、チューナー? 今までセクトさんは、チューナーモンスターを使ったことなど……!」
「……ああ。俺は今まで、チューナーや、シンクロモンスターを使ったことなんか無ぇよ。少なくとも、プロになってからは一度もな」
セクトも一介の決闘者である以上、シンクロを使ったこと、使おうとしたことは当然ある。プロデビュー前のアカデミア時代、何なら、アカデミアに入る前、親や水瀬家に隠れて遊んでいた時から、簡単なシンクロモンスターを使おうとしたことはあった。
だがどういうわけか、シンクロモンスターを使おうとした決闘に限って、一度も勝ったことが無かった。
元々、レベルとかの細かい計算が苦手だったこともあって、苦手意識はあった。
そして、そんな苦手意識に関係なく、シンクロを使った瞬間、使おうとした瞬間、挙句、デッキ内容のカモフラージュのために、使いはしないが適当にエクストラデッキを組んだだけで、そのデッキを使った決闘では、どんなに有利になろうが、最終的には敗けていた。
理由は分からない。ただの偶然と言ってしまえばそれまでだが、偶然にしては頻発しすぎる。そういう体質なのか、あるいは、セクトがシンクロモンスターに対してそう感じているように、彼らもセクトが苦手なのか、単純に嫌われているのか……
理由はどうあれ、そんな事情があったことで、セクトはこれまでシンクロモンスターを使うこと、デッキに投入することすらなく、必然的に、チューナーモンスターさえ使ってこなかった。
そのせいで一時期落ち込んだ時もあったが、『アドバンス召喚』を極めたおかげもあって、そんなものに頼らなくとも勝てる自負があったし、実際に勝って成り上がってきた。プロになってインヴェルズ使いとして有名になり、デッキをカモフラージュする意味も無くなったことで、資料や対策目的以上のシンクロモンスターへの興味も失せていった。
そして、それは当然、梓にも話している。
特に隠しているわけでもなし、世間的にも、理由や事情はともかくセクトがシンクロを一切使わないことは周知されていて、それも一つのアイデンティティとして確立され、今となっては、セクト自身のポリシーにさえなっている。
そして、そんなポリシーも、理由も事情も関係なく、セクトは今、ソレを呼び出そうとしている……
「『インヴェルズを呼ぶ者』を通常召喚!」
『インヴェルズを呼ぶ者』
レベル4
攻撃力1700
「このまま呼び出してもいいんだが……呼ぶ必要は無さそうだな」
「……っ!」
「まずは『インヴェルズ・ホーン』の効果! インヴェルズのリリースでアドバンス召喚したこいつの効果で、一ターンに一度、ライフを1000払って、モンスター一体を破壊できる。俺は1000ライフを払って、『暗黒界の龍神 グラファ』を破壊する」
セクト
LP:2150→1150
セクトの命の一部を喰らい、白い巨大な蟲の身から物質はあふれ出す。
もはや、何度となく繰り返されてきた現象の通り、その物質が、梓の場の龍神を飲み込んでしまった。
「バトルだ。『トラップ・イーター』で尖兵ベージを、『インヴェルズ・ホーン』で『ライトニング・ウォリアー』を攻撃する!」
その命に従った、二体の巨大な悪魔達。
巨大な口を開けた悪魔は、その顎で魔界の尖兵に喰らいつき、白いカミキリムシの大悪魔は、ハサミの形をした異形の腕で光輝の武人の首を捕まえ、首を飛ばした。
梓
LP:1600→1000
「そして……『インヴェルズを呼ぶ者』で、ダイレクトアタック!」
スズムシの悪魔が、背の翅を目いっぱい広げて大きくなりながら、迫っていった……
「墓地の『クリアクリボー』の効果! 相手の直接攻撃宣言時、墓地のこのカードを除外し、カードを一枚ドローする!」
「『手札抹殺』で捨てた最後のカードがそれか……」
「ドロー!」
梓
手札:2→3
「そして、このカードで引いたカードがモンスターカードだった場合、そのまま特殊召喚し、攻撃対象をこのモンスターに移し替える。『ドラゴン・アイス』を特殊召喚!」
全身が氷の鱗に覆われた、羽の生えたトカゲのごときモンスター。
それが、向かってくる蟲の前に立ちはだかった。
『ドラゴン・アイス』
レベル5
攻撃力1800
「さすがの強運だが、『ドラゴン・アイス』か……良いカードだが、暗黒界とは相性が良いとは言えねぇな。手札を捨てて特殊召喚する効果はコストだから、暗黒界の効果は使えねぇしよ」
「そんなことは分かっております……そんなことより、バトルは続いておりますよ?」
「……『インヴェルズを呼ぶ者』、『ドラゴン・アイス』に攻撃続行だ」
向かっていく悪魔の蟲。その爪が、氷のトカゲの身にぶつかるが……
「ちぃ……」
セクト
LP:1150→1050
黒いスズムシは呆気なく、氷のブレスに凍り付いた。
「……これでバトルは終了だ」
(しっかし……暗黒界よりも、どうしてか氷がよく似合いやがる)
全ての攻撃を終えて、走りながら、改めてフィールドを見渡した……
「多分、後悔するぜ……今の攻撃を生き残っちまったこと。これから俺が呼ぶ、モンスターを見ちまったらよ……」
「どうか、後悔させていただきたい……私の人生、後悔が無かった瞬間など、一時も無い。私が生きていること、それ自体が、もはや後悔なのだから」
「そうだな……俺もだ」
D・ホイールが速度を上げて、工場内に侵入した。
梓もそれについていく。
二人は並んで、一人と一台が並んで上っていけるだけの広い階段を、かなりの速度で駆け上っていく……
「お前も俺も、ただ生きてて、やりたいこと必死にやってきた。ただそれだけで、周りにいる、大事な人間から死んでいった。誰よりも……自分よりも、遥かに大事な人たちからな」
「……」
「それが俺たち、水瀬家の人間の呪いなのかもしれねぇな。俺たちより先に大事な人に、酷ぇ死に方されて、とうの俺たち自身は、その後ものうのうと生き続けてよぉ」
「そうかもしれませんね……水瀬家の歴史に興味などありませんし、水瀬家の他の連中に、大切な人たちがいたのかは怪しいものですが……」
「皮肉だよなぁ……お前は、養子から当主になったってだけで、本当の水瀬家じゃねぇ。俺は何年も前に家を捨てて出ていった。そんな俺たちによぉ、本物の一族にさえ降りかからなかった呪いがこうして、家が没落して無くなった後になってまで、降りかかってくるんだからよ」
「呪いは、どれだけ時が経とうが、どれだけ関わりが薄かろうが、関わる者、関わった者全てを、例外なく絶対に許さぬという意志があるからこそ、呪いになるのですよ……」
「違ぇねぇや」
階段をだいぶ上っていって、いよいよ最上階、屋上が迫ってくる……
「そんな呪いで、大事な人達死なせちまった俺たちがさぁ、生きてる価値なんて……」
「一切ありませんね。生きていること、それ自体が、この世界にとっての凶事なのだから」
見えてきた屋上への扉は閉まっていた。それでも、セクトはスピードを緩めることなく、むしろ、更に速度を上げて、扉に向かって突っ込む。
扉は壊れて飛んでいき、広い屋上への出口を開放。二人はそんな屋上へ躍り出た。
「つまりだ……この決闘で敗けた方が……」
「この世界へ、更なる凶事を招く者となる」
今、互いの隣を走っている、互いにとっての、大切な人の命を糧にして……
「クズ野郎だな、俺たち……」
「クズ以下の、ゴミでしょう……」
経緯も過程も、積み重ねてきた努力も、成し遂げた偉業も、その結果さえ、関係ない。
ただ、生きていること。
ただ、生まれてきたこと。
それこそが、極大の罪にして、極悪の罰。
水瀬家の人間に生まれたがために、背負ってしまった呪いのせいで、大切だと思った人へ、残酷な凶事を運び、やがて、惨い死に至らせる……
互いに水瀬家だからこそ感じ取り、互いに水瀬家だからこそ確信させられたその事実。
もはや、全てに絶望し……
もはや、全てを諦めて……
「永続罠『呪縛牢』」
ただ、死ぬことだけを希望とし、セクトは、ソレを執り行う……
「自分のエクストラデッキから、シンクロモンスター一体を守備表示で特殊召喚する。このカードが場にある限り、そのモンスターは表示形式の変更ができず、効果は無効になる。俺はエクストラデッキから、『漆黒のズムウォルト』を特殊召喚」
それは、梓が一度しか見たことが無い、だが、忘れられるはずの無いモンスター。
赤い飾りと黒いローブ。骨の仮面に、巨大な骨の杖を携えた、邪悪に満ち満ちた漆黒の悪魔。
かつて、梓の大切な人が、悲しみの果てに呼び出した、邪悪な闇に染まったカード。
一度は光と共に生まれ変わりながら、梓が憎しみのままに真っ二つに切り裂き、この世から失せたはずのカード……
『漆黒のズムウォルト』シンクロ
レベル4
守備力1000
「……」
だが、梓はむしろ、納得していた。
ランは、疑いの象徴を呼び出す際、かつてのダークシンクロモンスターを素材に使っていた。
今回も、そうだろう。
かつてのダークシンクロ。生まれ変わったかつての邪悪。
どうやって生き返ったかは知れない。最初から生きていたのかも知れない。
「レベル4の『漆黒のズムウォルト』に、レベル4の闇属性『トラップ・イーター』をチューニング……」
理由や経緯は知れなくとも、セクトの手へ渡ったソレが、苦しみの果ての新たな姿に、生まれ変わる……
「魔神を束ねし蠅の王よ、虫唾の走る今生に陰りを……」
「シンクロ召喚! 『魔王龍 ベエルゼ』!!」
宣言と共に、セクトは屋上の、ベランダから飛んだ。梓は、落下の直前で止まった。
『トラップ・イーター』が星へと変わり、『漆黒のズムウォルト』の、身に着けているものの一切が弾け飛び、代わりに、細長い足から、その細身よりも遥かに巨大で、邪悪な身体が生えて、拡がる。
直後、薄暗く、灰色の雲が広がる空を、今以上に暗い闇が包み込んだ。
そんな闇の中、邪悪な身体から、二本の太い腕、長い長い尾、そして、強大な、二本の黒い龍の頭が飛び出した。
その双頭を伸ばす身は、まるで巨大な昆虫――蠅に見えた。
そして、そんな蠅の、両目の真上。
そこに、ズムウォルトの素顔、魔王龍の本体と思われる、妖しくも艶めかしい、鎧に身を包む女の上半身が飛び出していた。
『魔王龍 ベエルゼ』シンクロ
レベル8
攻撃力3000
そんな巨大な蟲の身へ、セクトのD・ホイールは落下する。
巨大な蠅の王はその巨大な身で、セクトとD・ホイールを受け止めた。
「これが、セクトさんの憎しみ……苦しみの果てに生まれた、恨みの龍」
自身のデッキに眠る、純然たる憎しみから生まれた鬼の龍。
それの躍動を感じながら……
セクトは、魔王龍の背から梓を見据え、梓は、屋上からセクトを見つめた。
お疲れ~。
つ~わけで、今回はランと逆パターン、スタンディング→ライディングでお届けしますら。
自分でも無謀だとは思ったけど……
そんな無謀な決闘で出た、オリカ行くでや~。
『速攻召喚』
速攻魔法
手札のモンスター1体を通常召喚する。
アニメGXにて、いろんな人らが使用。
かなりシンプルで使いやすい効果。
正直、今でもOCG化期待してるけど、『ライバル・アライバル』も出たし、もう出ないだろうなぁ……
『スピード・ワールド2』
フィールド魔法
このカードはカードの効果を受けず、フィールド魔法カードをセット及び発動できない。
お互いのスタンバイフェイズ時に
自分用スピードカウンターを1つ置く(最大12個まで)。
「Sp(スピードスペル)」 魔法カード以外の魔法カードをセット及び発動した場合、そのコントローラーは2000ポイントのダメージを受ける。
お互いのプレイヤーは、自身のメインフェイズに自分用スピードカウンターを以下の数だけ取り除いて発動できる。
●4個:手札の「Sp(スピードスペル)魔法カード1枚につき、相手に800ポイントのダメージを与える。
●7個:自分のデッキからカードを1枚ドローする。
●10個:フィールド上のカードを1枚選んで破壊する。
ご存じ、5D's二年目以降、ご用達のカード。
前にも書いたけど、最初のと違ってライフが減ってもスピードカウンターの減少は無し、取り除くスピードカウンターの数によって三つの効果が使える。
『Sp』以外の魔法の使用で2000ダメージは変わらず。
この効果のせいで、書きながらどれだけ泣きを見たことか……
『Sp-カウントアップ』
通常魔法
自分用スピードカウンターが2つ以上ある場合に、手札を任意の枚数だけ墓地に送って発動する。
墓地に送った手札の枚数×2個だけ自分用スピードカウンターを置く。
牛尾vsゴースト戦にて、牛尾が使用。
一枚で二つ乗せられるってのは単純に強力。
手札にこれ含めてスピードスペル貯めておけば、戦闘も含めてワンキルも難しくはない。
ライフ8000だときついけど、4000だとかなりの威力を持つカードと思われ。
『Sp-エンジェル・バトン』
通常魔法
自分用スピードカウンターが2つ以上ある場合に発動する事ができる。
自分のデッキからカードを2枚ドローし、その後手札を1枚捨てる。
前にも書いた、遊星ら大勢が使ってきた、ほぼ必須スピードスペル。
今回書いたみたく、『暗黒界』とか『魔轟神』とはかなり相性が良い。
作中じゃ特に制限もされてないみたいだから、梓みたく三積みしても良いしそれだけの価値あるわな。
『Sp-ハーフ・シーズ』
通常魔法
自分用スピードカウンターが3つ以上ある場合に発動する事ができる。
相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体の攻撃力を半分にし、ダウンした攻撃力の数値だけ自分のライフポイントを回復する。
ジャックvsカーリー戦にて、ジャックが使用。
攻撃力を半分にできるのは永続効果な上に、ライフ回復のオマケ付き。
スピードカウンターが必要とは言え、三つならすぐ貯まるし、ほぼ疾風のゲイルの上位互換。守備力は変わらんが。
『インヴェルズ』みたいにライフを大量消費するデッキには重宝するわな。
『Sp-シフト・ダウン』
通常魔法
自分用スピードカウンターを6つ取り除いて発動する。
自分のデッキからカードを2枚ドローする。
遊星vsムクロ戦において、遊星が使用。
二枚ドローて強力な効果に見合うだけの手間が掛かるカード。
一枚は入れときたいけど、二枚目以降は考え物だね。
『呪縛牢』
永続罠
自分のエクストラデッキのモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターを自分フィールド上に守備表示で特殊召喚する。
このカードが存在する限り、そのモンスターは表示形式の変更ができず、効果モンスターの効果は無効化される。
このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。
そのモンスターがフィールド上から離れた時、このカードを破壊する。
龍亜→龍可vsディマク戦にて、ディマクが使用。
呼び出したモンスターはほとんどお飾りになっちまうが、それでもだいぶ使い道はある。
『バスター・モード』はもちろん、アクセルシンクロやダブルチューニングなんかもかなり楽にできる。
それで呼び出したカードには当然制限は無いし、シンクロ限定でもないようだから、かなり使い道のあるカードかと。
そったらお次、原作効果。
『活路への希望』
通常罠
自分のライフポイントが相手より1000以上少ない場合、1000ライフポイントを払って発動できる。
お互いのライフポイントの差1000につき1枚、自分はデッキからドローする。
ドローする枚数が2000でなく1000ポイントごと。
このままじゃ強すぎるけど、初期ライフ4000スタートだから妥当っちゃ妥当。
それでも8000スタートから2000ごとに1枚ってのも、まあまあ大変だけどね。
それでも強力ではあるが。世界大会でも活躍してたし。
以上。
勝った方が死ねる決闘……
どんな結末が待っとるやらのう?
興味があらば、次話まで待ってて。