言葉に意味はない。早速いこー。
行ってらっしゃい。
視点:外
「頼むよ……やめてくれ……」
目の前で燃え上がる、青い炎。その向こうで繰り広げられる、恩人とその主人……事件の被害者二人の決闘。
ここにアカデミアの生徒達がいたら、今頃は大声援が起こっているに違いない。
それだけお互い一歩も退かない、それこそ、あまり授業や将来のことに熱心とは言い難い、岬にも分かるほどの激戦なのだから。
けど、今の岬には、そんな二人の激しい決闘に興奮する余裕なんか無かった。
あの二人と同じ、この事件に深く関わった、岬だから感じ取った。
二人が闘っている、その理由。二人が全力で戦い、その果てに、手に入れたいもの……
「なんで、二人のどっちかが死ななきゃならねーんだ……なんで、お前らが死にたいって思ってんだ……」
二人は、何も悪くない。二人はただ、巻き込まれただけだ。
そして、そんな二人……三人を巻き込んじまったのが、他の誰でもない、この俺だ。
死んで詫びなきゃいけないのは、他でもない、俺なんだ。
それなのに……
宇佐美彰子という、一人の女の子の死を理由に、二人が二人とも、自分が彼女に関わったからだと思って、ヤケクソになって、何もかもに絶望して、死を望んでいる。
二人は何も、悪くないのに……
「ダメだ、ダメだ、ダメだ……ダメだ! ダメだ! ダメだ!!」
ターンが進んで、決闘が佳境へと迫っていることを感じ取って。
そのタイミングで、二人が、工場のビルの中へ入っていって、姿が見えなくなったタイミングで、届きはしない声を叫んだ。
「ダメだ、ダメだ……お前らが死ぬことねーんだ! 悪いのは全部俺なんだ!! 二人は死んじゃあ、ダメなんだよ!!」
こんな、炎の壁の外の、工場の入り口から叫んだところで、工場の中へ消えていった二人に聞こえるはずもない。
それを分かっていても、叫ばずにはいられなかった。
そして、叫んだ後で、すぐに無駄だと悟って、今すべきことを理解する。
「止めねぇと……二人のこと、止めねぇと……止めるのは……俺だ。俺が止めなきゃならねぇんだ。俺には、その責任があるんだ……!」
理解し、確信して、ふと、足元を見る。
コナミが落としていった、赤色の帽子が転がっていた。
あの時、俺を助けてくれた。別の時は、アイツを先生って呼ぶ女を助けていた。
そして、生徒会長も助け出した。けど、その恋人は、助けられなかった。
そんなあいつの姿は、こんな俺にも、希望と、勇気をくれた。
そんなあいつの、力をほんのちょっとでいいから借りたいと思って……
拾った帽子を、あの時と同じように、バイザーを後ろに被って、走る!
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」
……
…………
………………
「ターンエンドだ」
セクト
LP:1050
SPC:0
手札:0枚
場 :モンスター
『魔王龍 ベエルゼ』攻撃力3000
『インヴェルズ・ホーン』攻撃力3000
魔法・罠
永続罠『血の代償』
梓
LP:1000
SPC:4
手札:2枚
場 :モンスター
『ドラゴン・アイス』攻撃力1800
魔法・罠
無し
(どうにかモンスターは残せましたが、こんなドラゴン一体だけでは、次のターンには破壊されてお終いだ。とは言え、ライフはほぼ互角ながら、手札は二枚……現時点では使い物にならないモンスターと、前のターンにサーチした『暗黒界の刺客 カーキ』。伏せカードも無い。このドローで、どうにかしなければ……)
目の前に浮かぶ、辛苦から生まれた恨みの龍。その上にまたがる、若き悲劇の少年。
その姿を目に焼き付けながら、自身のフィールドを見回して、デッキに手を添えた。
「ドロー!」
梓
手札:1→2
セクト
SPC:0→1
梓
SPC:4→5
「……二枚目の『Sp-エンジェル・バトン』発動! カードを二枚ドロー……まだ可能性はある。そして、ドローした後、手札一枚を墓地へ捨てます。私は、モンスターをセット」
梓の前に、横向きの裏側のカード、モンスターのセットカードが表示された。
「そのデッキで、モンスターのセット……アレか」
「私は墓地に捨てた、『ADチェンジャー』をゲームから除外し、効果発動! フィールド上のモンスター一体の表示形式を変更します。私はこの効果で、セットしたこのモンスターを表側攻撃表示に変更します。モンスターは……『メタモルポット』!」
横向きのカードが表になり、青暗い、土焼きの壺が現れた。
何の変哲もない陶器のようで、その壺の中からは、不気味で巨大な一つ目が外を覗いて、黄色の歯が、ニカッと笑っているのが見えた。
『メタモルポット』
レベル2
攻撃力700
「『メタモルポット』の効果! このカードがリバースしたことで、お互いのプレイヤーは手札を全て捨て、カードを五枚、ドローします。私の手札は二枚。このカードを捨て、そしてドローします」
梓
手札:2→0→5
セクト
手札:0→5
「そして、手札を捨てることと、ドローすることは別の処理です。たった今墓地へ捨てた、『暗黒界の刺客 カーキ』の効果! 『インヴェルズ・モース』を破壊します!」
梓の墓地から飛んだナイフ。それが、セクトの場のモースに突き刺さり、破壊した。
「よし……手札を一枚、デッキの一番上に戻すことで、墓地のチューナーモンスター『ゾンビキャリア』を特殊召喚!」
梓
手札:5→4
『ゾンビキャリア』チューナー
レベル2
守備力400
「レベル5の水属性『ドラゴン・アイス』に、レベル2の『ゾンビキャリア』をチューニング!」
「冷たき
「シンクロ召喚! 狩れ、『氷結界の龍 グングニール』!」
梓の立っている、ビルの屋上の遥か下。地面がひび割れ、そこから這い出た巨大な脚が大地を踏みしめる。
魔王龍に比べれば、その身は遥かに小さくとも、梓にとっては頼れる氷の龍。
『氷結界の龍 グングニール』シンクロ
レベル7
攻撃力2500
「自身の効果で特殊召喚された『ゾンビキャリア』はゲームから除外……グングニールの効果! 一ターンに一度、手札を二枚まで墓地へ捨てることで、捨てた枚数だけフィールド上のカードを選択し、破壊します!」
「そいつの捨てる効果もコストだから、暗黒界の効果は使えねーぞ」
「分かっておりますとも……私は、二枚の手札を捨てます」
梓
手札:4→2
「破壊するのは、『血の代償』と『魔王龍 ベエルゼ』! 冷刃災禍!!」
梓が二枚の手札を捨てると、大地に立つ刃の龍の両翼が翻る。輝きを纏ったその翼が振り下ろされた時、そこから飛ばされた二つの斬撃が、永続罠と、黒い巨龍にぶつかった……
「残念だが、『魔王龍 ベエルゼ』は破壊されない」
『血の代償』は刃に切り裂かれ、破壊された。
だが、セクトの言葉の通り、魔王龍は無傷なまま、今なお空中を浮遊している。
「破壊されない……カードを二枚伏せ、ターンエンド」
梓
LP:1000
SPC:5
手札:0枚
場 :モンスター
『氷結界の龍 グングニール』攻撃力2500
『メタモルポット』攻撃力700
魔法・罠
セット
セット
セクト
LP:1050
SPC:1
手札:5枚
場 :モンスター
『魔王龍 ベエルゼ』攻撃力3000
魔法・罠
無し
「俺のターン」
セクト
手札:5→6
セクト
SPC:1→2
梓
SPC:5→6
「メインフェイズ1の開始時、自分の場に魔法・罠が存在しない時、このターンの特殊召喚を放棄することで、墓地の『インヴェルズの斥候』を特殊召喚する」
『インヴェルズの斥候』
レベル2
守備力0
「お前が『メタモルポット』を使ってくれたおかげで、俺も良いカードが引けたぜ。『Sp-オーバー・ブースト』! 自分のスピードカウンターを四つ置き、エンドフェイズにスピードカウンターを一つにする」
セクト
SPC:2→6
「更に、『Sp-ハーフ・シーズ』!」
「二枚目……!」
「スピードカウンターが三つ以上ある時、相手モンスター一体の攻撃力を半分にして、俺はダウンした数値分、ライフを回復する。対象は当然、グングニールだ!」
先ほどのグラファがそうなったのと同じように、グングニールの身が半分に縮小される。
そして、そこから溢れ出たエネルギーが、セクトの身に吸収された。
『氷結界の龍 グングニール』
攻撃力2500/2
セクト
LP:1050→2300
「ライフが! く……っ」
「そして、『インヴェルズの先鋭』を召喚!」
『インヴェルズの先鋭』
レベル4
攻撃力1850
「バトルだ。『魔王龍 ベエルゼ』で、グングニールに攻撃だ!」
魔王龍の身から伸び、暴れ狂う巨大な黒き双龍。
「
そんな暗い龍たちが、縮小したグングニールの身に喰らいついた。
「勝った……!」
「罠発動『分断の壁』! 相手モンスターの攻撃宣言時、相手フィールドのモンスター全ての攻撃力は、相手フィールドのモンスターの数×800ポイントダウンする!」
喰らいついた龍達、その本体の足元の大地から、怪しい光が瞬いた。
その光に飲み込まれた、セクトの場の二体のモンスターが、その力を奪われる。
『魔王龍 ベエルゼ』
攻撃力3000-800×2
『インヴェルズの先鋭』
攻撃力1850-800×2
「攻撃力が下がったか……だが、それでもベエルゼの方が攻撃力は上のままだ」
その言葉の通り、縮小した刃の龍より、未だ力で勝る魔王の龍の双頭は、問題なくその身全てを喰らいつくした。
梓
LP:1000→850
「もっとも、仮に攻撃力で勝ったとしても、ベエルゼは戦闘でも破壊されねーがな」
「分かっております」
「……どっち道、これ以上の攻撃は無理だ。メインフェイズ、『Sp-シフト・ダウン』!」
「そのカードも二枚……事故率が上がるのでは?」
「今は事故ってねーから良いんだよ。スピードカウンターを六つ取り除き、カードを二枚ドロー」
セクト
SPC:6→0
セクト
手札:2→4
「カードを二枚伏せる。ターンエンド。そしてこのエンドフェイズ、オーバー・ブーストの効果で、俺のスピードカウンターを一つにする」
セクト
SPC:0→1
セクト
LP:2300
SPC:1
手札:2枚
場 :モンスター
『魔王龍 ベエルゼ』攻撃力3000-800×2
『インヴェルズの先鋭』攻撃力1850-800×2
『インヴェルズの斥候』守備力0
魔法・罠
セット
セット
梓
LP:850
SPC:6
手札:0枚
場 :モンスター
『メタモルポット』攻撃力700
魔法・罠
セット
「スピードカウンターを敢えて使いきり、効果で0から1にするとは。何度見ても、セコイ戦術ですね」
「プロなら誰でもやるテクニックだ。ルール破ってるわけでもなし、セコイと言われる筋合いねーよ」
微笑み、梓の皮肉にそう切り返しながらも、セクトは内心では、焦っていた。
(それに、『スピード・ワールド2』でのセーフティライン、ギリギリのライフを残しやがった、お前の方がやべぇっての)
梓の今のライフは850ポイント。ライフポイントとしてレッドゾーンとは言え、あと50ポイント下回っていれば、スピードカウンターを四つ取り除き、セクトの手札にあった『Sp-シフト・ダウン』を見せることで800ポイントのダメージを与え、セクトは勝利していた。
しかし、たった50ポイント。偶然とは言え、たったそれだけの数値が、セクトにスピードカウンターを消費してのダメージではなく、スピードカウンター全てを使い切っての手札の補充を選ばせた。
まるで、梓はここで、お前に倒されるべき存在ではない。そう、何者かが決定しているかのように……
(ベエルゼとお前、どっちが魔王だか……とことん、倒し甲斐のあるやつだ!)
「私のターン!」
梓
手札:0→1
セクト
SPC:1→2
梓
SPC:6→7
「『スピード・ワールド2』の効果! スピードカウンターを七個取り除くことで、カードを一枚ドローする」
梓
SPC:7→0
梓
手札:1→2
「破壊できないなら、ダメージを与えるまで! チューナーモンスター『ジャンク・シンクロン』召喚!」
『ジャンク・シンクロン』チューナー
レベル3
攻撃力1300
「『ジャンク・シンクロン』の効果! 召喚に成功した時、墓地に眠るレベル2以下のモンスター一体を、効果を無効にし、守備表示で特殊召喚する。『暗黒界の刺客 カーキ』を特殊召喚!」
『ジャンク・シンクロン』が手をかざした先。そこから、両肩が異常に発達し、対象的に、下半身が貧弱にすぎる小さな悪魔が現れた。
『暗黒界の刺客 カーキ』
レベル2
守備力500
「そして、カーキを手札に戻し、墓地の『暗黒界の龍神 グラファ』を特殊召喚!」
梓
手札:1→2
『暗黒界の龍神 グラファ』
レベル8
攻撃力2700
「バトルです! まずは『メタモルポット』で、『インヴェルズの斥候』を攻撃!」
足も無い壺が、小さな黒い蟲に向かって飛んでいく。
その中から現れた、不気味な笑みを浮かべる一つ目のナニカが、黒い蟲を飲みこんだ。
「続けて、『ジャンク・シンクロン』で、『インヴェルズの先鋭』を攻撃!」
本来なら、その黒い蟲はオレンジ色の小人など怖るるに足りない力を持っている。
だが、妖しい光の壁の力で弱体化した先鋭は、小人の攻撃にあっさり倒れてしまった。
セクト
LP:2300→1250
「そして、『暗黒界の龍神 グラファ』で、『魔王龍 ベエルゼ』を攻撃!」
最後に残った龍神が、セクトがまたがる、魔王龍に向かって飛んでいく。二体の攻撃力の差は、1300……
「今度こそ……!」
「罠発動『ホーリージャベリン』! 相手の攻撃宣言時、そのモンスターの攻撃力分、俺のライフを回復させる」
セクト
LP:1250→3950
「く……構わない! グラファ!」
変わらずグラファが攻撃を続行する。それを受けたベエルゼだが、やはり、破壊されない。自身の身はもちろんのこと、自身にまたがり、自身の隣に立っている、セクトだけは、絶対に護るとでも言うかのように。
これ以上、セクトの邪魔は許さないとでも言うように……
「悪いな、ベエルゼ……」
セクト
手札:3950→2650
「……『魔王龍 ベエルゼ』の効果! こいつの受けた戦闘ダメージ、または俺が受けた効果ダメージ分、こいつの攻撃力をアップさせる」
『魔王龍 ベエルゼ』
攻撃力3000-(800×2)+1300
「攻撃力2700、グラファと並んだ……」
「痛みも苦しみも、全部力に変える。これがベエルゼの能力だ」
今日までずっと、ただひたすらに、夢のために進んできた。
そのために、散々痛い思いをしてきて、苦しい思いもしてきて、最後には、大切な恋人を犠牲にして……
そうして積み重ねてきた、痛みと苦しみの果てに生まれたモンスター。
こんなゴミクズ野郎に相応しいドラゴン。
ゴミクズにたかる、蟲らを束ねし蠅の魔王……
「ですが、これであなたのモンスターを全滅させられる」
そんな強大なモンスターを前にしても、梓は変わらずフィールドを見据えていた。
「メインフェイズ、グラファのレベルを一つ下げることで、墓地に眠る『レベル・スティーラー』を特殊召喚!」
グラファの星の一つを喰らい、墓地から一匹のテントウムシが飛び出した。
『暗黒界の龍神 グラファ』
レベル8→7
『レベル・スティーラー』
レベル1
守備力0
「このカードは、アドバンス召喚以外のためにリリースすることはできない」
「そんなカード墓地に送ってやがったのか……」
「レベル2の『メタモルポット』と、レベル1の『レベル・スティーラー』に、レベル3の『ジャンク・シンクロン』をチューニング!」
「凍てつく
「シンクロ召喚! 舞え、『氷結界の龍 ブリューナク』!」
フィールドの上空から、粉雪が降り注ぐ。
その粉雪を散らしながら、螺旋を描きし翼の龍はその身をうねらせ、フィールド舞い降りた。
『氷結界の龍 ブリューナク』シンクロ
レベル6
攻撃力2300
「ブリューナクか……」
「ブリューナクのモンスター効果は、手札を任意の枚数墓地へ捨てるごとに、フィールド上のカード一枚を手札に戻す効果。ベエルゼの耐性は破壊のみ、これでベエルゼを排除できます」
「悪いな……ブリューナクの召喚時、手札を一枚捨てることで、罠発動『因果切断』!」
セクト
手札:2→1
セクトが手札を捨てた時。ブリューナクの背後の空間に、怪しい円形が生まれた。
その円形の中に、ブリューナクが飲み込まれていった。
「ブリューナク!」
「手札を一枚捨てることで、相手の表側表示のモンスター一体をゲームから除外できる。墓地に同名モンスターがいりゃあそいつらも除外できるが、今は関係ねぇな」
「グラファに対しても発動できたでしょうに……」
「グラファだけならどうとでもできる。お前なら、グラファよりよっぽど厄介なモンスターを呼び出すだろうって、分かってたからな」
「くぅ……グラファのレベルを一つ下げ、『レベル・スティーラー』を再び特殊召喚」
『暗黒界の龍神 グラファ』
レベル7→6
『レベル・スティーラー』
レベル1
守備力0
「カードを一枚伏せます。ターンエンド」
梓
LP:850
SPC:0
手札:1枚
場 :モンスター
『暗黒界の龍神 グラファ』攻撃力2700
『レベル・スティーラー』守備力0
魔法・罠
セット
セクト
LP:2650
SPC:2
手札:1枚
場 :モンスター
『魔王龍 ベエルゼ』攻撃力3000-(800×2)+1300
魔法・罠
無し
「さて、俺のターン……」
セクト
手札:1→2
セクト
SPC:2→3
梓
SPC:0→1
「……墓地の罠カード『妖怪のいたずら』の効果。こいつをゲームから除外することで、フィールド上のモンスター一体のレベルを一つ下げる。対象は、『魔王龍 ベエルゼ』」
『魔王龍 ベエルゼ』
レベル8→7
「『妖怪のいたずら』? そんなカードいつ……まさか!」
「思い出したか? そう。最初のターン、お前が『手札抹殺』の効果で捨てた、グラファの効果で破壊したカードだ。更に俺はチューナーモンスター『チューニンガム』を召喚」
『チューニンガム』チューナー
レベル1
守備力1200
「ここでチューナーモンスター? レベルを下げて、ベエルゼを素材にシンクロ召喚を?」
「ああ……更に俺は、手札の『幻創のミセラサウルス』の効果! こいつを墓地へ送る」
セクト
手札:1→0
「え……それは、恐竜族モンスター?」
「この効果で墓地へ送った時、発動する効果があるが、今は関係ねぇ。墓地へ送った『幻創のミセラサウルス』と、墓地に眠る『ディノインフィニティ』を除外。この効果で除外した数と同じレベルの恐竜族モンスターを、デッキから特殊召喚する。俺はデッキから、レベル2の『トモザウルス』を特殊召喚する」
セクトの墓地から、たった今捨てた、骨から創られし幻の竜と、前のターンに手札から捨てた、輝く二本の剣角を構える竜、二体の恐竜が消えていった。
その二体の魂を糧に、セクトのデッキから現れたのは、何の変哲もない、小さな恐竜のモンスター。
『トモザウルス』
レベル2
攻撃力500
「『幻創のミセラサウルス』に、『ディノインフィニティ』、それに、通常モンスターの……恐竜さん……?」
「そこにいるんだよな……待ってろ。今行くから」
呼び出した恐竜と、その隣に浮かぶチューナー。
そして、自分がまたがっている……すぐ隣にいる、『魔王龍 ベエルゼ』を見据えて、セクトは、新たに呼び出す……
「レベル7になった『魔王龍 ベエルゼ』と、レベル2の『トモザウルス』に、レベル1の闇属性『チューニンガム』をチューニング!」
一つの星に変わる小さな悪魔。
そんな星が回る星の中心には、巨大な魔王龍と、小さな、恐竜さんが一頭。
あまりにサイズ差のありすぎる二体のモンスターが並んで浮かび、だがその思いは、一つの巨大な塊となる。
「地を這いし億万の蛆虫よ、その身をやつし天を埋めよ……全ての未来は、我らの掌中に有り!」
「君臨せよ!! 『魔王超龍 ベエルゼウス』!!」
セクトの乗っていた魔王龍が、その姿を光に変え、消滅し、セクトとD・ホイールも落下していった。
だが、セクトは一人、すぐに受け止められた。
受け止めた女の、ひざから下。
胴体には、直前までなかった、鋭い歯が並ぶ巨大な口が開いていた。
腕はより太く、尻尾はより長く、双頭はより強く。
蠅の眼光はより妖しく不気味に。その姿は、より強大に、よりおぞましく殺意を込めて……
「やっと会えたな……」
セクトが、自身を受け止めた女に、穏やかな声を掛けた時……
「そんな……まさか……!」
梓が、驚愕の声を上げた時……
長い羽飾りが揺らめいていた、黒い冠を脱ぎ捨てて、隠されていた女の素顔が露わになっていた。
短くも風になびく青い髪。素朴ながらも美しく輝く顔。何より、セクトを真っすぐ見つめるその眼差しは……
「彰子……今度こそ、俺が守る。ずっと、そばにいるから」
セクトの誓いの言葉と共に、悪意と死によって引き裂かれた苦しみの男女は、熱く抱擁を交わした。
『魔王超龍 ベエルゼウス』シンクロ
レベル10
攻撃力4000
「本当に……彰子さん?」
梓も、セクトと同じように、確信させられた。
目の前に浮かぶ、巨大な魔王超龍。セクトの苦しみの象徴と、彰子が使ったモンスター達から生まれた存在。
どんなに信じがたくとも、どんなにあり得ないはずの事柄であろうと、それでも、心も体も理解した。
『魔王超龍 ベエルゼウス』は、宇佐美彰子。
セクトに会いたいがために、苦しみの果ての、死の世界から蘇った、セクトの最愛の人……
「そういうことだ、梓。悪いけど、これ以上俺らの邪魔しねぇうちに、倒されてくれ」
直前までの、闘志はあるが、明らかに落ち込み、沈んでいた声色とは一転。愛しい彼女との再会を果たしたことで、弾んだ声を上げている。
嬉し気に、楽し気に。
彰子と並んで、デートした時と同じく手を繋ぎながら、セクトは決闘を再開させた。
「『魔王超龍 ベエルゼウス』の効果、
魔王龍を越えた魔王超龍が、その長い長い尾を伸ばした。
そして、その尾の先端に新たに伸びた、鋭利な針を、『暗黒界の龍神 グラファ』に突き立てる。そして、突き立てたグラファの身から、力とエネルギーが吸い取られていく。
「これは……!?」
「一ターンに一度、相手モンスター一体の攻撃力を0にして、俺はその元々の攻撃力分、ライフを回復する」
セクト
LP:2650→5350
「ライフが、5350……!」
「この効果を使ったターン、俺がお前に与える戦闘ダメージは半分になっちまうが、半分ありゃあ十分だ。バトル! 『魔王超龍 ベエルゼウス』で、『暗黒界の龍神 グラファ』を攻撃!」
今までのように、双頭の龍たちが攻撃するのではない。
彼らの中心の胴体、その、今までには無かった、巨大な口が開いていった。
その口の中に、黒く、怪しく、そして、圧倒的なエネルギーがたまっていき……
「
グラファに、そして、梓に向けて、一気に放出される……
「罠発動! 『ガード・ブロック』! この戦闘によって発生するダメージをゼロにし、私はカードを一枚、ドローする!」
梓
手札:1→2
梓がカードをドローした直後、グラファを一瞬で焼き尽くしたエネルギーが、梓の立つ、屋上へ飛んでいく。
ドローしたカードをかざし、そこから現れた壁が、エネルギーを受け止めた。
だが、全てを受け止めるには、その威力はあまりに強大すぎて、梓の身を、ベランダの一部と共に吹き飛ばした。
「ぐぁ、ぐぅ……!!」
「さすがにしぶとい奴だな……ベエルゼウスが場にある限り、俺はこいつ以外で攻撃できない。そして、ベエルゼウスには、ベエルゼと同じ、絶対に破壊されない効果がある。ダメージを力に変える効果は、無くなっちまってるがな」
その理由は、それ以上の痛みの力など、不要になったからだろう。
今日までずっと、耐えてきた。痛み、苦しみ抜いてきて、その果てにこうして、大切な人との再会を果たすことができた。
目的が果たされた今、もう、力なんかいらない。
欲しいのは、二人がずっと一緒にいられること。
何者にも侵されず。何物にも障られることなく。
たとえ、相手の力を奪い取ってでも。あの時のように、奪われるよりマシだから。
ただ、二人が永遠に、身も心も朽ち果てるその時まで……
望むことは、ただのそれだけ。
力も命も、それに比べれば、取るに足らないものだから……
「……セクトさん……彰子さん……」
「ターンエンドだ」
セクト
LP:5350
SPC:3
手札:0枚
場 :モンスター
『魔王超龍 ベエルゼウス』攻撃力4000
魔法・罠
無し
梓
LP:850
SPC:1
手札:2枚
場 :モンスター
『レベル・スティーラー』守備力0
魔法・罠
無し
「……」
互いに手を繋ぎ、愛おしさに見つめ合う。一人は死に、それでも再会するために、ここまで醜い姿に変わり果てながら、それでも二人は、心から愛し合っている。
「……っ」
そして、理解させられた。
セクトに勝ち、梓が消えるということは、これだけの犠牲と苦しみの果てに再会できた二人を、また引き裂くということ。
一度、最悪な形で引き裂かれ、それでも再会を果たした二人を、今度は、梓がその手で引き裂くということ。
あの二人を、二度も、私のせいで……
(そんなことが、どうしてできよう……!)
理屈では、分かっている。二人はもはや、結ばれることはない。
彼女が命を落とした時点で、生者であるセクトと結ばれることは、許されないことなのだから。
だからセクトは死を望んだ。彰子に会いに行くために。
そして、その望みの果てが、死してもなおセクトを思い続けている、彰子との、決闘の中だけの再会……
「私は……」
「お前のターンだぜ」
思い悩み続ける梓の耳に、セクトの優しい声が聞こえてきた。
「お前の好きにしろよ」
「……」
二人は今、幸せの中にいる。これ以上、よりによって、私があの二人の邪魔をすることなんか……
「私は……」
二枚の手札を握る左手。その手首に装着している決闘ディスク。そこに収まった、セクトから貰ったデッキ。
それに向かって、梓は、ゆっくりと手を……
「バカ野郎おおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
梓の選択と苦悩を、一瞬で消し飛ばす絶叫が聞こえた。
その絶叫の直後、ベランダの、工場内への出入口から、D・ホイールが走ってきた。
「あれは、セクトさんの……」
セクトがベエルゼウスに受け止められ、決闘ディスク以外が放り出され、地面に落下した。
そのせいで、所々が傷ついてはいるが、D・ホイール特有の耐久力から、目立つへこみや外傷はほとんど見られない。
そんなD・ホイールを駆り、この場に乱入してきた闖入者は……
「ジャッカル・岬、さん……」
「あいつは、あの時の……」
セクトも、自分のD・ホイールで闖入してきた少女が、あの時、梓と一緒にいた少女だったことを思い出したらしい。
制服や肌の所々に負った火傷の跡も気にせず、岬はD・ホイールから降りると、真っすぐ梓の元へ歩いていった。
「岬さん……あなた、運転免許は?」
至極真っ当な疑問を投げかけるものの、岬は聞いていない。
梓の目の前まで歩いて、
ガンッ
その顔面を、殴りつけた。
「……痛ぅ」
もっとも、岬程度の拳で、梓がこたえるわけもない。
梓は微動だにせず、逆に殴った岬の方がダメージを喰らい、痛みに悶える始末。
「……お前もだ! クソ生徒会長!!」
本当なら、セクトのことも殴りたいのだろうが、空に浮かんで、これだけ離れていてはそれもできない。
だから岬は、セクトに、そして、梓に向かって、言いたいことを叫んだ。
「お前ら、黙って見てたら、自分達二人だけの問題だと思って、俺のこと蚊帳の外にしやがってよ……」
「関係ねぇだろう? お前はたまたま、あそこにいただけなんだからよ」
「大有りだ、バカ野郎!!」
そして岬は、黙っていた事実を告白した。
「俺はな……お前ら二人をさらって、副会長を殺した、クソどもの仲間だ!!」
「なに……?」
「……仲間だった、です。少なくとも、あなた方がさらわれた時点では、彼女は奴らとは袂を分かっていた。そして、彼女が奴らの居場所を教えてくれたから、私はあなた方を助けに行くことができたのです」
「うるせえ!! そんなこと関係ねぇよ!!」
涙目になりながら、叫び続けた。
「ああ、そうだ。俺はあいつらと手を切るって決めた。アカデミアに、心配かけたくねぇ友達がいたからな。だから縁を切るために話をつけにいったら、逆に襲われそうになった。そこを助けてくれたのがコナミだ! そのせいで、コナミが、お前らがアイツらに目を付けられた。お前ら二人を、アイツらの標的にさせちまったんだ! 俺が、コナミに関わっちまったせいでさ!!」
「……」
「分かっただろう!? お前ら二人が悪いことなんか無ぇ! 本当にアイツらに殺されなきゃならなかったのは俺なんだ! 副会長は、俺の代わりに殺されちまったんだ! 宇佐美彰子に、死んで詫びなきゃいけねぇのは、俺なんだよー!!」
「……なるほどな」
セクトは、黙って聞いていた。
声の限り、思いのたけを叫んだ岬。
それで呼吸を整えている岬に対して、セクトは……
「そいつは……どうでもいいな」
そう、興味も無さげに言った。
「……は? どうでもいい?」
「ああ。どうでもいい。彰子が殺されて、その理由やキッカケが何だったか……そんなもん、関係ねぇよ。理由やキッカケが何であれ、彰子のこと守れなかったのは、俺なんだから。それを、梓に対して逆恨みしちまった、俺自身が許せねぇ。だから死ぬって決めたんだ。そうすりゃあ、こうしてずっと、彰子と一緒にいられるんだからさ」
岬を見下ろすセクトのその目には、少なくとも、恨みの感情は見られない。
それは、岬のことを許している……と言うよりも、ただ単純に、興味がない様子だった。
「……ざっけんな」
許されたかったわけじゃない。最初から、許されるわけがない。
それでも、許すでもなく、憎むでもなく、ただ興味がないと、無視される。
そんなセクトの態度が、そして、コナミの重すぎる優しさが、今の二人の全てが、岬の神経を逆なでした。
「どいつもこいつも、勝手な理屈で死にたいなんて、簡単に言いやがってよ……」
岬が言えた義理ではないが、それでも、死ぬことの恐ろしさは、この身を持って、彰子のおかげで知っている。
だから、簡単に死ぬことを決めている、この二人のことが許せない。
「そんなに死にてーんならよぉ、勝手にしやがれ! けどな……」
言いながら、ここに上った後で乗り捨てた、セクトのD・ホイールへ走った。
「俺がとことん邪魔してやる! そんなに死にたきゃ、俺を倒して死にやがれ!!」
D・ホイールから、決闘ディスクの部分は取り外されて、今はセクトの左手にある。
だから代わりに、岬は自分の決闘ディスクを取り出し、それをケーブルで接続し、D・ホイールの決闘モードを起動。
たった今行われている決闘に干渉した。
岬
LP:4000
SPC:0
手札:5枚
場 :無し
「なに?」
「これは……決闘への乱入は、私達の同意が無ければ許されないはずなのに、どうして……?」
「伊達にあんなクズどもの仲間してたわけじゃねぇ。他人のD・ホイールに、有線だけど干渉する技術も知ってるし、決闘に問答無用で割り込むシステムくらい持ってんだよ!」
ケーブルを引き抜き、戻ってきて、手札を五枚ドローし、セクトに向かって構えた。
「お前……ライディング決闘したことあんのか?」
「あるわけねーだろうが!」
「無い胸を張って言わないで下さい……」
「うるせぇ! 無いは余計だちくしょう!! ……こうなりゃヤケだ! テメェら、勝って死にてーんだろうが! だったら、俺がお前らぶっ倒して、その女の前で盛大に死んで詫びてやる!!」
「俺のターン!」
岬
手札:5→6
セクト
SPC:3→4
岬
SPC:0→1
梓
SPC:1→2
「『神獣王バルバロス』を妥協召喚!」
岬がディスクにカードを叩きつけた時、獣の咆哮がこだました。
巨大な黒獅子の逞しい獅子を備えし獣は、本来の首の部分から、ヒトの胴体と両腕が伸び、その両腕には、巨大な蒼き盾と、巨大な朱き槍、対照的な色の武器が握られている。
そんなヒトの身体持つ王の顔は、黄金の鬣が輝く獅子の貌。
古代の人々が想像し、思い描いた神の獣、獣の王が、巨大な魔王を威嚇していた。
『神獣王バルバロス』
レベル8
攻撃力3000→1900
「『神獣王バルバロス』……」
「こいつはレベル8だが、攻撃力を1900にすることで、リリース無しで召喚できる」
「ほぉ……良いレアカード持ってるじゃねぇか」
「それと、こいつだ。装備魔法『愚鈍の斧』をバルバロスに装備!」
「えぇ!?」
梓が思わず声を上げるも、その時には既に、獣の王の手に、槍の代わりに不気味な顔が刻まれた、巨大な斧が握られた。
「こいつを装備したモンスターは攻撃力が1000アップして、効果は無効になる。バルバロスの攻撃力は元に戻って、更に1000アップだ!」
『神獣王バルバロス』
攻撃力3000+1000
「ベエルゼウスと並んだか……だが、『スピード・ワールド2』の効果が発動される」
最初にセクトが受けたのと同じ、フィールドからの罰。
その落雷が、岬の身に落ちた。
「ぐぅ……こんなもん!」
岬
LP:4000→2000
「言わないことではない……第一、そのデッキ、スピードスペルなんて入っていないでしょう?」
「うるせぇ!! 関係ねぇっつってんだろう!! テメェは黙ってやがれ!!」
今となっては、ライディング決闘とは名ばかり。
梓と岬は、ベランダの上で静止して、セクトに至っては、乗っているのはD・ホイールでなく、実体化したモンスター。肝心のD・ホイールは、岬の後ろで停車中。
ただルールがライディング決闘であるだけのスタンディング決闘に苦戦している、そんな岬を心配する梓の声も、岬の耳には届かない。
ただ、自分のやりたいようにやる。
この二人の、邪魔をすることだけを目的として。
「……カードを三枚伏せて、ターンエンドだ!」
「一枚は魔法カードか?」
「……っ」
「どっち道、攻撃力を上げるのも、それが限界か」
岬
LP:2000
SPC:1
手札:1枚
場 :モンスター
『神獣王バルバロス』攻撃力3000+1000
魔法・罠
装備魔法『愚鈍の斧』
セット
セット
セット
梓
LP:850
SPC:2
手札:2枚
場 :モンスター
『レベル・スティーラー』守備力0
魔法・罠
無し
セクト
LP:5350
SPC:4
手札:0枚
場 :モンスター
『魔王超龍 ベエルゼウス』攻撃力4000
魔法・罠
無し
「……」
もはや、梓にとって、この決闘を続ける意味を見出すことはできない。
あのままサレンダーするつもりだった。だが、仮に今サレンダーしたところで、岬が乱入してしまった以上、それだけでは決着にはならない。
「……」
スタンディングだ、ライディングだとか言う以前に、岬ごときの実力では、セクトに勝てるわけがない。そんなことは梓でも分かるし、だからサレンダーしたところで、セクトは勝ってしまうだろう。
それは、分かっているが……
「……私のターン」
梓
手札:2→3
セクト
SPC:4→5
岬
SPC:1→2
梓
SPC:2→3
これだけ場が混乱してしまって、梓も岬の言葉や姿に混乱させられて、気が付けば、決闘を続けることを選んでいた。
(どちらにせよ、今は守りを固めるより仕方ない……)
「モンスターを裏守備表示。カードを二枚伏せます。ターンエンド」
梓
LP:850
SPC:3
手札:1枚
場 :モンスター
『レベル・スティーラー』守備力0
セット
魔法・罠
セット
セット
セクト
LP:5350
SPC:5
手札:0枚
場 :モンスター
『魔王超龍 ベエルゼウス』攻撃力4000
魔法・罠
無し
岬
LP:2000
SPC:2
手札:1枚
場 :モンスター
『神獣王バルバロス』攻撃力3000+1000
魔法・罠
装備魔法『愚鈍の斧』
セット
セット
セット
「二枚は伏せたってことは、そいつは、グラファの効果で手札に戻した『暗黒界の刺客 カーキ』だろう?」
「……」
「まあ、なんだっていいさ……俺のターン」
セクト
手札:0→1
セクト
SPC:5→6
岬
SPC:2→3
梓
SPC:3→4
彰子から、名残惜しそうに手を離して、カードを引く。それを、すぐさまディスクにセットする。
「魔法カード『終わりの始まり』」
これで何度目になるか、発動されたスピードスペルでない魔法カード。
フィールドに降り注ぐ裁きの雷。それを受けても、平然としているセクト。
セクト
LP:5350→3350
「墓地に闇属性モンスターが七枚以上存在する時、闇属性五枚を除外することで、カードを三枚ドローできる。俺はこの五枚を除外する」
『トラップ・イーター』
『インヴェルズの先鋭』
『インヴェルズ・モース』
『インヴェルズ・ホーン』
『漆黒のズムウォルト』
セクト
手札:0→3
「……なあ、梓。それに、ジャッカル・岬、だったよな?」
「……?」
「なんだ?」
「仮にも俺のこと知ってんだ。だったらよぉ、俺のエースカードが何かくらい、知ってるよな?」
「生徒会長のエースカード……!」
「引き当てたのですか……!」
二人ともが、上げた声に衝撃を交えていた。
あまり情報通とは言えない岬も、決闘アカデミア童実野校に通っている以上、その存在は知っていた。付き人だった梓はもちろん、彼から直接聞いたこともあって、よく知っている。
セクトの操る、強力な力を持った、インヴェルズ達。
だが、彼が自らのエースと出会ったのは、インヴェルズらに出会う前。
シンクロが向いてないと分かって、どうするべきかと思い悩んでいた頃に偶然出会ったことで、彼がアドバンス召喚を極めることを決定づけたカード。まさに、運命の出会いのもと手に入れたという、そのモンスター。
スタンディングでも見せなかったそれを呼び出すために、セクトはまず、生贄を用意する……
「墓地のレベル5以上のモンスター、『魔王龍 ベエルゼ』を除外することで、こいつは特殊召喚できる。『邪帝家臣ルキウス』召喚!」
くすんだ銀色の鎧と、黒いボロボロのマント。それを纏った、赤い目の輝く二頭身の悪魔が、セクトの前に現れる。
『邪帝家臣ルキウス』
レベル1
守備力1000
「邪帝家臣……!」
「非常にまずい……!」
「こいつを特殊召喚したターン、俺はエクストラデッキのモンスターを特殊召喚できなくなる。『邪帝家臣ルキウス』をリリース……アドバンス召喚『邪帝ガイウス』!」
小さな家臣の身が、より邪悪な闇に包まれて、やがて膨れ上がった。
二頭身の小さな鎧があったその場所に、代わりに筋骨隆々の八頭身の姿が現れる。
黒くくすんだ銀色の鎧も、黒いマントも、その体躯に合わせた大きなものに変わり、現れた者。
それこそが、直前に姿を消した、家臣が使えるべき主なのか。それとも、かつて家臣だったソレが、帝と呼ばれるまでに成長し、成り上がった姿なのか。
その真相は、誰にも分からない。
それでも一つだけ分かるのは、直前より遥かに大きく、鋭く輝く赤い視線が、彼に歯向かう者達を突き刺し、威嚇しているということだけ。
『邪帝ガイウス』
レベル6
攻撃力2400
「アドバンス召喚に成功した『邪帝ガイウス』の効果、そして、アドバンス召喚のためのリリースに使った『邪帝家臣ルキウス』の効果の順にチェーンを組む。ルキウスの効果! こいつがアドバンス召喚のためにリリースされた時、相手フィールドにセットされたカード全てを確認する。この効果に対して、お前らはカード効果を発動できねぇ」
「つまり、ガイウスの召喚に対しても、カードの発動はできないということ……」
「ちくしょう!」
「そういうこった。お前らの伏せカード、全部見せてもらうぞ。モンスターもな」
モンスターの伏せカードは、梓の場の一体のみ。
それ以外の魔法・罠も全て、露わになった。
梓
『暗黒界の刺客 カーキ』
通常罠『リビングデッドの呼び声』
通常罠『エネルギー吸収板』
岬
永続罠『スピリットバリア』
通常罠『次元幽閉』
装備魔法『呪いのお札』
「梓の方は……カーキは分かってたから良いとして、蘇生罠のリビデに、『エネルギー吸収板』……俺の使った『ダメージ・イーター』の通常罠版だな。しっかり効果ダメージ対策はしてたわけだ」
「ぐぅ……」
「そっちの、ジャッカル・岬だっけ? やっぱ一枚は魔法カードだったな。装備魔法『呪いのお札』か。ベエルゼウスは破壊できないから、仮に装備できたとしても効果は使えない。で、戦闘ダメージをゼロにできる永続罠『スピリットバリア』はまだ良いとして、『次元幽閉』か……」
「ちくしょう……っ」
二人とも、守りのための対策を見透かされて、歯噛みさせられた。
「いずれにせよ、やることは変わらねぇ。確認した伏せカードは元に戻して、『邪帝ガイウス』の効果! こいつのアドバンス召喚に成功した時、フィールドのカード一枚を除外できる。俺が除外するのは、梓の『レベル・スティーラー』だ」
ガイウスが開いた手を伸ばした瞬間、その先にいる『レベル・スティーラー』の足元から、黒い球体が発生した。
闇から成るその球体は、触れたテントウムシの足、腹、翅、頭、順に飲み込んでいき、やがて全てを消滅させた。
「そして、この効果で除外したカードが闇属性モンスターだった場合、相手に1000ダメージを与える。『レベル・スティーラー』は闇属性、1000ダメージだぜ」
語りかけるが、それはトドメを刺す者の声色じゃない。とどめを刺すことができないと分かっているから、それができない代わりの余裕の声。
「罠発動『エネルギー吸収板』! 私にダメージを与えるカード効果を相手が発動した時、そのダメージを回復に変換する!」
テントウムシを飲み込んだ闇から、より狂暴に、より鋭利に変化した闇の針が無数に飛び出した。だが、それを梓が受けるより前、梓の前に現れた黒い石板が、その針全てを吸収。梓は、石板の裏側から光を受けて、ライフを回復させた。
梓
LP:850→1850
「回復させちまったが、まあいいさ」
ダメージは空振りに終わったものの、初めて出会った日から今日まで、いつも強い味方でいてくれる、そんなガイウスの背中を見ながら、心は感慨深さに満ちる。
最悪の家を捨て、念願叶って決闘アカデミアに入学したは良いものの、成績は振るわず、決闘の実力も弱い、何者でもなかった時分。
シンクロは自分に向いていないと分かり、何の結果や成果も残せないまま、一年の三学期を迎えたころ。偶然買ったパックから引き当てたのが、この『邪帝ガイウス』だった。
古いカードながらレアカードであり、デザインの格好良さも気に入ったが、何より目を引いたのは、その単純だが強力な効果。
このころにはセクトの通っていたアカデミアでも、アドバンス召喚は時代遅れという風潮が広まっていた。セクト自身、このころ使っていた、今のサブデッキのモンスターは、上級も最上級も特殊召喚を主体に呼び出す戦術を練り上げて、アドバンス召喚など滅多に使わなかった。
そんな、時代にも風潮にも合わないカードだったのに、このカードに出会った瞬間、コイツだ、と直感した。
ためしにデッキに入れて、決闘してみた。それまでのデッキには種族的に合わないと思っていたものの、案の定、アドバンス召喚を軽視していた相手の意表を突き、勝つことができた。
その次も、そのまた次もだ。
以来、自然とガイウスを中心にデッキを組み立てるようになり、そういうカードを調べていく過程で『インヴェルズ』達に出会い、それを使いだしたことで、ここまで成り上がることができた。
今でこそ、強力だが最強というほど強いわけでもない、普通の上級モンスターと言えばそれまでだろう。
それでもセクトにとって、『邪帝ガイウス』は、自分に進むべき道を示してくれた恩人であり、無二の相棒であり、過去から変わらぬエースカードだった。
(お前に出会ってなけりゃ……彰子を死なすことも、なかったのかな……)
「……ベエルゼウスの効果! バルバロスを対象に、その攻撃力をゼロにする。蠅王覇権」
前のターンと同じように、ベエルゼウスがその尾を伸ばし、毒針をバルバロスに突き刺した。それを受けたバルバロスは力を失い、手に持つ斧を重たそうにぶら下げてしまう。
『神獣王バルバロス』
攻撃力3000→0+1000
「そして、そいつの元々の攻撃力分、俺のライフを回復する」
セクト
LP:3350→6350
「そんじゃあ、バトルだ。ベエルゼウスで、『暗黒界の刺客 カーキ』を攻撃! 蠅王殲滅覇軍!」
魔王超龍の口が、再び開かれる。そこに、禍々しい闇のエネルギーがあふれ出す。
「おい、忘れたのかよ? 罠発動『次元幽閉』! 相手が攻撃した瞬間、攻撃したモンスターを除外する! バトルロイヤルルールなら、攻撃対象が俺以外でも発動できるぜ!」
「無駄だ。自分フィールドのシンクロモンスター一体のみを対象にするカード効果が発動した時、墓地の『チューニンガム』をゲームから除外することで、その発動を無効にする!」
「なっ……!」
「ベエルゼウスの、シンクロ素材となったチューナーモンスター……っ」
梓が声を上げた瞬間には、セクトの墓地から、緑色に伸びる悪魔が飛び出していた。
それが、岬の場の『次元幽閉』を包み込み、そのまま飲み込んでしまう。
直後、魔王超龍の吐き出したエネルギーが、伏せられたカーキにぶつかった。
飲み込まれたカーキは蒸発、消滅しても、梓にダメージはない。だが、その衝撃まで消すことはできず、攻撃とその爆発の衝撃は、屋上の床を破壊し、梓の身を後ろに吹き飛ばす。
「がぁっ、あぁ……!!」
「コナミ!」
「ベエルゼウスが場にいることで、『邪帝ガイウス』は攻撃できねぇ。カードを伏せる。ターンエンド」
セクト
LP:6350
SPC:6
手札:0枚
場 :モンスター
『魔王超龍 ベエルゼウス』攻撃力4000
『邪帝ガイウス』攻撃力2400
魔法・罠
セット
岬
LP:2000
SPC:3
手札:1枚
場 :モンスター
『神獣王バルバロス』攻撃力0+1000
魔法・罠
装備魔法『愚鈍の斧』
セット
セット
梓
LP:1850
SPC:4
手札:1枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
セット
「くぅ……俺のターン!」
岬
手札:0→1
セクト
SPC:6→7
岬
SPC:3→4
梓
SPC:4→5
「装備魔法『愚鈍の斧』は、スタンバイフェイズごとに装備モンスターのコントローラーに500のダメージを与えるんだったよな?」
「く、ぐぅ……っ」
セクトの説明の通り、バルバロスの握る斧がその重量を増した。
それにバルバロスの身が引っ張られ、同時に岬の力も奪われた。
岬
LP:2000→1500
「ちぃ……俺じゃなくて、コナミの方を狙ってたのは、このダメージのためか」
「どうせ、攻撃したところで永続罠『スピリットバリア』を発動されてダメージは与えられねぇ。だったら、確実にダメージを与えられる方法を取らせてもらうさ。それに……」
そこまで言って、やや言いづらそうにしながら、それでも、はっきりと言った。
「梓はカードが一枚、ライフが1ポイント残ってるだけで、余裕で逆転してくる怖さがあるが、お前にそれは無ぇ。ハッキリ言って、いつでも倒せるからな」
「ぐぅ……!」
岬自身、この二人に比べての、自分の実力の低さは理解している。この二人を相手に、仮にこれが普通のスタンディング決闘だとしても、百回やって、百回敗けるに違いない。
それは重々、分かっているが……
「嘗めやがってぇ……俺だって決闘者だ! 今お前と闘ってんのは、コナミだけじゃねーぞ!」
「別に嘗めちゃいねーよ。俺は少なくとも、決闘の相手のことを、嘗めたことなんか一回もない。ただ……」
言いながら、手に力を込めて、より強く、彰子の手を握りしめた。
「ただ、必死なだけだ。彰子と一緒にいるために、必死なんだ。勝つためにな」
『……』
手を握られている、彰子の表情が変化する。
手を握り返しながら、隣にいる、セクトを横目に、切なそうな顔を見せ……
(あいつ、もしかして……)
そんな表情の変化を感じながら……
岬は、今引いたカードを見た。
「ちくしょう……バルバロスを守備表示に変更、カードをセット、ターンエンド!」
岬
LP:1500
SPC:4
手札:1枚
場 :モンスター
『神獣王バルバロス』守備力1200
魔法・罠
装備魔法『愚鈍の斧』
セット
セット
セット
梓
LP:1850
SPC:5
手札:1枚
場 :モンスター
無し
魔法・罠
セット
セクト
LP:6350
SPC:7
手札:0枚
場 :モンスター
『魔王超龍 ベエルゼウス』攻撃力4000
『邪帝ガイウス』攻撃力2400
魔法・罠
セット
「く……っ」
ターンを迎えて、梓は、倒れていた体を持ち上げて、前に出る。
巨大なベエルゼウスを見上げ、フィールドを、状況を見る。
(手札はゼロ……モンスターも無し……ライフの差も圧倒的……)
こんな状況でも勝利する。そんな方法、梓でも思いつかない。
(勝てない……勝てるわけがない……それでも……!)
いつだって、そうだった。
どんな決闘も、こんな困難ばかりだった。
追い詰められ、手を失って、それでも、最後まで諦めずに戦ってきた。
今までずっと、そうしてきた。そして、最後には勝ってきた。
だから今回も……
「諦めはしない……私のターン!」
梓
手札:0→1
セクト
SPC:7→8
岬
SPC:4→5
梓
SPC:5→6
「『Sp-エンジェル・バトン』発動!」
「とうとう三枚使い切りやがった……」
「カードを二枚ドローし、一枚を捨てる。捨てた『暗黒界の狩人 ブラウ』の効果で、一枚ドロー!」
梓
手札:1→2
「……勝てる!」
「え……!」
「ほぅ……」
「カードを伏せます。自分フィールドにモンスターが無い時、決闘中に一度だけ、手札の『アンノウン・シンクロン』を特殊召喚!」
『アンノウン・シンクロン』チューナー
レベル1
守備力0
「永続罠『リビングデッドの呼び声』! 墓地に眠るモンスター一体を、攻撃表示で特殊召喚する。甦れ、グングニール!」
梓の立つ屋上の、遥か下。地上が再び割れて、そこから巨大な脚が現れ、地面を蹴る。
最初の登場とほぼ同じ動作で、剣の龍はその巨体を持ち上げた。
『氷結界の龍 グングニール』シンクロ
レベル7
攻撃力2500
「レベル7の『氷結界の龍 グングニール』に、レベル1の闇属性『アンノウン・シンクロン』をチューニング!」
機械でできた球体が、光り輝く星に変わる。
同時に、氷から成るグングニールの全身に、亀裂が走り、広がっていった。
そこから邪悪な闇があふれ出し、真の姿を露わにする。
「地獄と極楽、虚無を願いし時。無間に拡がる嘆きと共に狭間の界より
「シンクロ召喚!
『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』シンクロ
レベル8
攻撃力3000
「煉獄龍……そうか、そいつは……」
現れた鬼の龍を見て、セクトは理解した。
梓とは違って、この二体以外に生まれた龍を見たわけではない。
それでも、この二体が、姿やカードこそ違えど、同じ系統の存在。自分にとっての魔王龍たちと同じく、梓から生まれた存在であることを感じ取った。
(……まあ、んなこたぁ、決闘には関係ねぇ。最後にライフが残った奴の勝ちだ)
「見ただけで強いってのは分かるぜ。だが、そいつ一体じゃあ、俺のベエルゼウスには勝てねぇぞ?」
「もちろん……ですから、セクトさん、あなたの力を使わせていただく」
「俺の力?」
そして梓は、フィールドに伏せた、最後のカードを手に取った。
「伏せカード発動『Sp-デッド・シンクロン』! スピードカウンターが五つ以上ある時、自分の墓地のモンスターを除外することで、シンクロ召喚を行う!」
カードの発動の直後、梓の場に、半透明な三体のモンスターが浮き出てきた。
「レベル4の『暗黒界の尖兵 ベージ』と、レベル2の『暗黒界の刺客 カーキ』に、レベル3の『ジャンク・シンクロン』をチューニング!」
「モンスター三体、レベルの合計は、9、で、俺の力……なるほどな」
「
「シンクロ召喚! 刻め、『氷結界の龍 トリシューラ』!」
ベエルゼウスの闇が包むフィールドを、新たに冷たい吹雪が包み込んだ。
風と大量の雪により、人の視界を奪えるほどの吹雪だった。
そんな吹雪の中に、徐々に、徐々に、姿を現す巨大な者。
やがて吹雪が止んだ時……
そこに、その存在は出現していた。
巨大な青い肌の両手両足は、人間の形によく似ていた。
そこから生えた長い尾が、蛇のように蠢き、たゆたい。
そんな巨体の上部からは、三本の首が、頭が伸びていた。
何者も映らず、何物も意に介さない、細く、鋭く、冷たい視線。
ベエルゼウスに勝るとも劣らない、巨大な龍がビルの前に浮かび上がった。
『氷結界の龍 トリシューラ』シンクロ
レベル9
攻撃力2700
「あの時、俺がやったカードか……」
忘れもしない、彰子とデートに行った日の朝。
弁当を作り、着替えの用意をしてくれて、そうして、身の回りのこと全てをしてくれた付き人に、せめてものお礼にと送ったカード。
梓自身から生まれたカードと共に、最高のタイミングで呼び出したものだと、セクトは関心する。
「トリシューラの効果! このカードがシンクロ召喚に成功した時、相手の手札、フィールド、墓地に存在するカードをそれぞれ一枚ずつ選び、除外することができる!」
梓も受け取ることをためらうほどの、レアカードと呼ばれる所以。
希少なことはもちろん、呼び出した瞬間、相手の
そんな、敵対した相手を決して逃がさず、その命を例外なく消し去るという絶対の意志を宿した凶悪な能力。
そしてそれは、いかなる破壊に耐えられるベエルゼウスであろうと、逆らうことの許されない能力……
「この効果で、あなたの場の『魔王超龍 ベエルゼウス』を除外します!」
この土壇場で、ベエルゼウスを倒すカードを呼び出す手段。それを引き当て、使うとは。
本当に、セクトも負けを認めるほどの大した実力だ……
それでも……
「トリシューラの効果……滅涯輪廻!!」
「カウンター罠『神の通告』」
トリシューラの頭上に、フィールド魔法とは関係ない、雷光が煌めいた。
それが雷鳴を轟かせ……
トリシューラの身を照らし出す。
「これは……!」
「ライフを1500支払うことで、二つある無効化効果の内、一つ目の効果を発動するぜ。相手モンスターの効果の発動を無効にし、破壊する」
セクト
LP:6350→4850
雷鳴も雷光も、なお大きさを増していき、トリシューラを、どころかフィールド全てを照らし出すだけの光となり……
「くぅ……オーガ・ドラグーンの効果! 私の手札がゼロの時、一ターンに一度、相手の発動した魔法・罠カードの効果を無効にして破壊……はっ!」
「それで最初にスピードスペル伏せたってわけか……だが、こいつはカウンター罠だ。そいつのモンスター効果で無効にするには、スペルスピードが足りねぇ」
やがて、何も止める手段が無いまま、大地へ落ちた落雷はトリシューラを飲み込み、焼き尽くしてしまった。
「そんな……」
逆転の一手のはずだった。
勝つための最善のドローだった。
それを、アッサリ封じられ……
「……ターン……エンド…」
とうとう、手段は無くなった。
梓
LP:1850
SPC:6
手札:0枚
場 :モンスター
『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』攻撃力3000
魔法・罠
永続罠『リビングデッドの呼び声』
セクト
LP:4850
SPC:8
手札:0枚
場 :モンスター
『魔王超龍 ベエルゼウス』攻撃力4000
『邪帝ガイウス』攻撃力2400
魔法・罠
無し
岬
LP:1500
SPC:5
手札:1枚
場 :モンスター
『神獣王バルバロス』守備力1200
魔法・罠
装備魔法『愚鈍の斧』
セット
セット
セット
煉獄龍は攻撃表示。ベエルゼウスは無理でも、『邪帝ガイウス』なら倒すことはできた。
いつもの梓なら、そうしただろうに、今回はそれをしなかった。今、梓の心が完全に折れてしまったことを、セクトは感じ取った。
「俺のターン、ドロー!」
セクト
手札:0→1
セクト
SPC:8→9
岬
SPC:5→6
梓
SPC:6→7
「『スピード・ワールド2』の効果! スピードカウンターを七個取り除くことで、カードを一枚、ドローする」
セクト
SCP:9→2
セクト
手札:1→2
「……ベエルゼウスの効果! 『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』の攻撃力をゼロにして、その元々の攻撃力分、俺のライフを回復する。
『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』
攻撃力3000→0
セクト
LP:4850→7850
「そして……『邪帝ガイウス』をリリース!」
もはや、この決闘は決したと言っていい。それでもセクトは、決して手を緩めることなく、相手を追い詰める手を講じていく。
「こいつはレベル8だが、アドバンス召喚されたモンスター一体のリリースでアドバンス召喚ができる。アドバンス召喚『怨邪帝ガイウス』!」
邪念に黒く染まった銀色の甲冑が、再び巨大な闇に飲み込まれる。やがて、妖しい輝きと共に、その闇から新たな、更なる帝王が姿を現した。
体は、より巨大になり、特に両腕は、太く、長く伸びていた。
甲冑は、より凶悪で、鋭利なものへと変わり、相対す者から護り、同時に必ず葬るという、邪悪な意志に満ちている。
そして、そんな邪念を体現した鎧の周囲には、死者たちの怨念が目に見えて漂っているのに、そんな怨念さえも力に変える。
正しく、邪念を司り、怨念さえも支配する、怨邪帝の降臨だった。
『怨邪帝ガイウス』
レベル8
攻撃力2800
「『怨邪帝ガイウス』の効果! こいつのアドバンス召喚に成功した時、フィールドのカード一枚を除外して、相手に1000ポイントのダメージを与える。闇属性モンスターをリリースしたなら、その対象を二枚にできる」
「……」
「対象は、梓の『煉獄龍 オーガ・ドラグーン』、そして、ジャッカル・岬の伏せカード『スピリットバリア』だ!」
「くぅ……!」
梓はもちろん、ほぼ眼中にないと思われていた岬の、守りのカードも除去してしまった。
「この効果で除外したカードが闇属性モンスターなら、相手の手札、デッキ、エクストラデッキ、墓地から、同名カード全部を除外できる。もっとも、闇属性のオーガ・ドラグーンは一枚しか無いだろうがな……で、1000ポイントのダメージは片方だけだ。俺は、ジャッカル・岬にダメージを与えるぜ」
カードが除外され、その跡から怨念が浮かび上がった。
二枚分のソレは岬の元へ飛んでいき、その身に纏わり力を奪う。
「ぐぅ……!」
ジャッカル・岬
LP:1500→500
「これで、お前は次のターン、『愚鈍の斧』の効果で500ダメージを受けて終わりだな」
「……」
(もっとも、仮にどうにかしてそのダメージを回避したとしても、絶対に逃がさねぇがな)
セクトは手札の最後のカード……自身のモンスターに貫通効果を与える永続罠『メテオ・レイン』を見ながら、勝利を確信した。
「カードをセット……さあ、この攻撃で最後だ」
フィールドががら空きとなった、梓を見ながら言った。
そして、彰子にも、語りかける……
「いよいよだぜ、彰子……待たせてごめんな。もうすぐ俺も、そっちへ行くからさ」
『……』
「……」
絶望的なフィールドは元より、そんな二人の姿に、もはや、絶望を越えた無力感が、梓の身に溢れていた。
結局、自分には、彼を止めることはできなかった。
それだけ、彼の力は圧倒的だった。
そして、それだけの力を発揮させたもの……
それは、彼の隣に立つ、ベエルゼウス……宇佐美彰子に違いない。
ただでさえ強いセクトが、これだけの力を発揮できたのも、彰子への一途な思いゆえ。
そして、それだけの力を持って、既に確定された勝利に対して、セクトはもちろん、彰子も満足して……
「ざっけんな……」
梓の耳に、そんな声が聞こえた。セクト、ではなく、隣……岬の声だ。
「テメェは分かっちゃいねぇ……ソイツの恋人のくせに、何にも分かっちゃいねぇ」
度重なるダメージに加え、怨邪帝の効果で、梓ほどでないにせよ、ボロボロの状態。
そんな身でふら付きつつも、両足に力を込めながら、セクトを……二人を見上げて。
「おい、コナミ」
今度は、コナミに語りかけた。
「お前は、あの女のことどう思う? 副会長は、生徒会長が勝つこと、喜んでると思うか?」
「……」
言われて、二人を見上げてみた。二人とも、その手をしっかと握りしめている。
「……私には、ベエルゼウスが現れた時と同じ。彰子さんは、心から喜んでいるように思えます。セクトさんと、一緒になることができることに、心から……」
「……かぁー!」
そんな梓の答えを聞いて、岬はそんな、呆れとイラ立ちの入り混じった声を上げた。
「本っ当にお前らは分かってねぇ! その女の気持ち、ちっとも理解できてねぇ!」
「あん? じゃあ何か? お前には、彰子が考えてることが、俺以上に分かるってのか?」
「ああ、分かるさ。自信無かったけど、たった今、本当に理解できた……俺には恋人なんかいねぇけど、それでもお前らと違って、女だからな。女同士、気持ちは分かるさ」
その言葉の通り、その顔には、確かな確信があった。
「確かにな、その女は生徒会長、お前に会えたことが嬉しかったんだろうよ。死んじまって、お前にずっと会えなかったんだ。そりゃあ嬉しかったろうな。けど、今は違う。その女の顔、よく見てみやがれ!」
「……」
言われてセクトは、正面ではなく、隣を向いた。
今、自分の手を握ってくれている、彰子の顔を……
「……彰子?」
確かに、ベエルゼウスを呼び出した時は、喜んでいた。再会を分かち合い、互いに歓喜したはずだった。
それなのに……
「どうした? 彰子?」
間近に向き合ったことで気付いた。その顔は、確かに笑顔だが、それ以上の、切なさ、虚しさ、哀しさ……そんな感情が入り混じっていることに。
「なんだ……嬉しくないのか? 何が哀しいんだ?」
「もう一回言ってやる。そいつは確かに、お前と出会えたことに喜んでた。けど、それだけじゃねえ。今分かった……」
岬は手を伸ばし、セクトを指さしながら、言った。
「副会長が本当に喜んでたのは、生徒会長、お前が生きてたことにだ!」
「……っ!?」
そんな岬の答えに、セクトは、目を見開いた。
「お前ら二人が捕まって、何されたかは具体的には分かんねぇ。けど、散々いたぶられた挙句に、別々に引き裂かれたんだ。そりゃあ心配だったろうな。別の部屋に連れてかれてる間、お前がどうなったかなんて、分かりっこなかったろうからな」
「彰子、お前……」
『……』
彰子は言葉を交わさない。
だが、その表情は、岬の言葉が正しいと、無言ながらに訴えかけている。
「お前……あの部屋に連れてかれて、散々嬲られて、挙句凍らされて……その間も、ずっと、俺なんかのこと、心配してたのか?」
『……』
「そんな奴がよぉ……自分のことや、自分がされてること以上に、お前のことずっと心配して、カードになって生き返ってまで、お前の無事を確かめにきた、そんな良い女がよぉ! お前が、自分と同じように死んじまうこと、望んでると思うか! お前が来るのを、待ってると思ってんのかよぉ!?」
「彰子……」
『……』
岬の叫びを聞いて……
彰子の、切なげな顔を見て……
セクトは、目を背け、正面を見る。
「関係ねぇ! 俺は勝たなきゃならねぇ、勝たなきゃならねぇんだ!! 俺は勝って……勝って、彰子と一緒に行く! 彰子に謝って、それでずっと、今度こそ彰子とずっと一緒にいるんだ! それが俺のしたいことだ! 俺の願いだ!!」
もはや、後戻りはできない。
既に、決闘の勝利は目の前にある。
後はただ、攻撃をして、ターンを終えれば、それで願いは叶うのだから。
望むことは、決闘の勝利……
それ以上、何も考えない……
その願いのもと、セクトは、宣言した。
「バトルだ! 『魔王超龍 ベエルゼウス』で、梓にダイレクトアタック!」
ベエルゼウスの口が開かれた。そこに、エネルギーが収束していった。
セクトの、ただ一つの願い。それに込められた、いくつもの感情。いくつもの痛み。いくつもの苦しみ。それをぶつけるために。
勝利のため。ただ一つの願いのために……
「
「こんの……分からず屋がああああああああああああ!!」
セクトに向かって、岬がまた、叫んだ。
「これだけ言って分かんねぇなら……最後まで、俺がお前らの邪魔してやる! そんな願い、俺が絶対に許さねぇ!! これ以上、誰も死なせねぇ!!」
この決闘に乱入する前、自分に言い聞かせた誓いの言葉。
それを実行するためのカードを、岬は起動させる。
「罠発動! 『自爆スイッチ』!!」
「な……に……っ!?」
「そのカードは……!?」
「自分のライフが相手より7000ポイント以上少ない時に発動できる。俺のライフは500、生徒会長は7850。俺と相手……俺ら全員のライフをゼロにする!!」
岬の前に、金属と機械でできた、巨大な箱が浮かび上がった。表面に、輝く電子回路が広がる箱だった。
その回路が集結し、終結する、中心部分。
黒と黄色でできた側面の、円柱の上部には、赤色の髑髏マークが刻まれていた。
それこそが、全てを力ずくで終わらせる力を持った、終焉のスイッチ。
「あ……あぁ……!」
反射的に、セクトは彰子を見る。彰子もまた、セクトを見つめていた。
「そんな……嫌だ! 彰子!!」
「これで……お前らの願いは終わりだ――――!!」
岬の叫び。そして、スイッチが押された時……
フィールドを、白い光が包み込んだ。
そんな光の中で……
セクトは、彰子と、互いを抱きしめ合っていた。
岬
LP:500→0
梓
LP:1850→0
セクト
LP:7850→0
お疲れ~。
死んだ人間が、カードになって帰ってくる……
ああ、よくあることだな。
そんなお約束な展開しか書けんことを申し訳なく思いつつ、オリカ行こ~。
『Sp-オーバー・ブースト』
通常魔法
自分用スピードカウンターを4つ置く。
エンドフェイズに自分用スピードカウンターを1つにする。
遊星vsジャック二度目において、ジャックが使用。シェリーも使ってた。
発動にスピードカウンターの数の指定もなく、瞬時に四つ増やせる。
しかも、必ずエンドフェイズに一つにするから、セクトがしたみたいに使い切ってしまえば必ず一つは取り戻せるってこと。
もしかしたらそう都合よくいかないって裁定が作中にあるかも分からんが、そんなことまで考えだしたらキリがないから増やすってことで。
『Sp-デッド・シンクロン』
通常魔法
自分用スピードカウンターが5つ以上ある場合に発動する事ができる。
自分の墓地から、シンクロモンスターカードによって決められたシンクロ素材モンスターをゲームから除外し、そのシンクロモンスター1体をシンクロ召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズ時にゲームから除外される。
遊星vsロットン戦にて、遊星が使用。
実に分かりやすい強力カード。
スピードカウンターを五つ貯めるのは大変ではあるけど、その上で墓地さえ肥えてりゃ好きなシンクロモンスターを呼べるのはだいぶ強力。
エンドフェイズにゲームから除外される効果も、『亜空間物質転送装置』とかで一時的にフィールドから離すなり、素材にしてしまうなりすりゃあ補填は効く。
これもかなり便利ね。
以上。
向こうと一緒だけど、前回の紹介や、過去作と合わせて二回紹介したオリカはもう紹介しないので、悪しからず。
つ~わけで、みんな大好き、『自爆スイッチ』でした~。
だってさぁ、セクト君が思ってた以上に強すぎてさぁ、他にどうしようもなかったんだもん。
二人を止めるのは岬の役目だし、けど岬じゃ弱すぎだし、そもそも引き分けにしなきゃ勝った奴が死んじゃうし……
そんなこんなで、決闘は引き分けで決着したわけだども、セクトはこの後どうすっかな~?
気になるなれば、次話まで待ってて。