遊戯王5D's ~剣纏う花~   作:大海

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第八話~。
ちょこっと展開飛ぶけどまあ堪忍してくれ。
んじゃ、行ってらっしゃい。



第八話 花の行き先

視点:外

 その日の海は荒れていた。空からはそれほど強くはないものの、傘を刺さねばならない程度の雨が降り、風も吹き、それによって波が踊っている。普段の穏やかな姿を考えれば、十分に荒れていると言っていい。

 そんな海を前に、一人の女性が立っていた。

 長く伸びる黒髪と褐色の肌、紫色の服を着たその姿は、年齢特有の貫禄と雰囲気を醸し出し、その中に確かな優しさと厳しさを感じさせる中年女性。

 そんな女性が荷物を片手に、海を眺めながら、何かを待っていた。

(とは言っても、大丈夫かねぇ。あれだけの騒ぎになって、本当にここまで来れるのか心配だよ)

 そう、女性が考えた直後だった。

 

 バシャ

 

「うわ!」

 突然の出来事に、それなりに長年を生きた身と言えど驚きを隠せない。

 眺めていた海から突然人の手が現れ、それが埠頭の(へり)を掴めば誰でも驚くだろう。

 始め右手だけだったのが、左手も現れ、両手になったところで体が持ち上げられ、全体が現れた。

「ふぅー……」

 黒のウエットスーツとゴーグルを着け、長髪を小さくまとめている。少年は海から上がり、呼吸を整えた。

「こりゃ驚いた。ここに来るとは聞いていたけど、まさか泳いでくるとはね」

 女性が話し掛け、少年はまとめた髪をほどき、ゴーグルを取り、美しい素顔を晒したところで女性を見た。

「初めまして、ですね。マーサさん」

「そうなるかね。梓」

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

視点:梓

 

「おい、あの顔……」

「どこかで見たような……」

 

「……梓、先生?」

「知り合いか、龍可?」

「知ってるも何も、あの人俺達が毎週通ってる習字教室の先生だよ!」

「習字教室?」

「梓……ああそうだ! あの人水瀬家の水瀬梓じゃないか!!」

 

「水瀬梓だって!?」

「そうだあの顔、水瀬家頭首の水瀬梓だ!!」

「何でそんな人が決闘なんてしてるんだ!?」

 

 

「パパ、ママ、見て! 梓先生だ!」

「梓先生!?」

「うそ!?」

 

 

「間違いない、梓先生だ!」

「何で梓先生が、決闘なんか……」

 

 

「おい、あれ……」

「え……梓さん!?」

「梓さんが、決闘……?」

「それより、さっきサテライト出身て言わなかったか?」

 

 

 ガシャン!

 

「あ、梓……」

「何やってんだ、あのガキ……」

「何で……頭首のくせに……そんな格好で、そんな所で何してるんだ!! ああ!?」

 

 

「あっちゃー、遂にやっちまったか……けど面白くなってきた」

 

 

「家元……」

 

「水瀬梓だー!!」

「水瀬家の頭首の、水瀬梓だー!!」

 

 何やらデジャブを感じますね。私がサイレントフラワーだと分かった時もこんな反応ではありませんでしたか? しかし、当然ですね。水瀬梓が、決闘などしていれば。

 

「……なぜ、お前のような人間が……」

 

 十六夜さんに話し掛けられました。まあ、当然の疑問かもしれませんね。

「昨日、誰かが言っていました。カードを持てば、マーカーがあろうが無かろうが皆同じだと。そして、貧富の差や身分があろうと無かろうと同じことだと」

「……」

「あなたとの決闘、とても楽しかった。もしまた決闘したくなる日があれば、私を訪ねて下さい。今日と同じ、決して、あなたに人は傷つけさせませんから」

「……!」

 その会話の直後、膨大な数の足音が聞こえて参りました。

 

 パシャパシャパシャパシャ……

 パシャパシャパシャパシャ……

 

 シャッター音と共に、大量のフラッシュが私を照らしました。

 

「水瀬梓さーん!」

「インタビューさせてー!」

 

「……」

 

 シャキッ

 ズバァ

 

 向かってくる報道陣の方々の中心目掛け、刀を抜きました。そして、良い具合に地面と共に、道を塞いでいた方々が左右に割れました。

「道を塞ぎ、通行の妨げになることは、あまり感心できません」

 刀を納め、私はその中心に向かい歩きます。報道陣の方々も、さすがに怖かったのでしょうね。目の前を歩く私に、誰も話し掛けようとせず、シャッター音も聞こえません。

 と思ったのですが、

 

「あ……あの!」

 

 女性の声が聞こえ、見ると、金髪の女性がこちらに近づいてきました。

「あなたは本当に、水瀬梓さんなのですか?」

 マイクを向けてきます。もうここまで来れば、下手に隠し立てしても無意味でしょう。

「ええ。私は正真正銘、水瀬家二十一代目頭首、水瀬梓です」

 笑顔で答えると、それをキッカケに他の方々も押し寄せ、シャッター音も再会しました。

 

「なぜあなたほどの人がここに?」

「なぜ決闘を? これも活動の一つなのでしょうか?」

 

 お決まりの質問ばかり。こう言っては何ですが、あまり面白くありません。

 

「決闘中に言っていた、あなたがサテライト出身であるという発言は?」

 

 その質問が聞こえ、私は足を止めました。

「……今日私の行った発言に、嘘は一つもありません」

 それだけ答え、私は走りました。

 

 

「き、消えたぞ!」

「さっきも決闘しながら姿消してたし」

「足速や……」

「それ以前に、強よ……」

「水瀬梓って、イメージと違って肉体派だったのか……」

『……』

 

「……とにかくこれは、大スクープだわ!!」

 

 ……

 …………

 ………………

 

 まあそれからが大変でしたよ。

 大会もちょうど終わった時でしたし、そのすぐ後に取材陣が家に押し寄せてきたものですから。

 

「梓さん、一言お願いします!」

「サテライト出身ということについて詳しく!」

「困ります。お帰り下さい」

「中にいるんでしょう? 出てきて下さいよ」

「本当にサテライト出身なら、あなたはあなたの開いている教室の生徒達全員を騙していたということですか?」

「生徒の皆さんに謝罪の言葉は?」

 

 部屋にいてもそのような声が聞こえてきます。

 生徒の皆さんへの謝罪、か。謝罪するほどの悪行を犯した覚えは無いのですが。

 サテライト出身というだけで、こうも違うものなのですね。先程から電話も鳴っていますが、留守番電話に残るのはマスコミの方々からの質問や、親戚の方々からの苦言がほぼです。だから必要だと感じた物以外は出ないようにしています。

 

 ピピピピ……

 

 そんな時、携帯電話が鳴りました。

「もしもし」

『よ。梓』

「お父さん……」

 病院にいるお父さんからの電話です。私の携帯番号を知っているのは、父と大谷さんの二人だけですし。

『やっちまったなー。今部屋にいるけど、こっちにもマスコミの数がすげえこと』

「……すみません」

 そうだ。今日のことで、最も苦しむことになるのは、父じゃないか……

『良いよ謝んなくて。お前がああしたくてしたことなら、俺には何も言うことはない』

「しかし……いえ、言い訳はやめます。私はああしたくてやった。その通りです」

『ああ。凄えな。ああまでして、あの十六夜って子に近づこうなんてな』

「私には、ああする以外にあの人のことを知る方法が思いつきませんでしたから」

『お前らしいな』

 私らしい、ですか。

 まあ、そうやって何事も楽しむお父さんも、あなたらしいです。

『とは言え、さすがにこのままじゃまずいだろう。しばらくは身を隠した方が良い』

「そう、でしょうか?」

『ああ。マスコミもそうだが、何より親戚達が黙ってないだろうな。ここぞってばかりにお前を潰しに掛かるはずだ。何を言ってくるか分からねえ』

「そうでしょうね。決闘をしていたうえに、サテライト出身となれば」

 ただでさえサテライトの人達に人権は認められていない。だから彼らも、これまでのような遠慮はしないでしょう。

『マスコミは俺の方で何とかしておくから、お前はしばらく安全な場所にいろ』

「そんな! そんなこと、お父さんにお願いできません」

『大丈夫だ。俺も取材には慣れてる』

「けれど、あなたは病の身だ」

『取材を受けるくらいの体力くらいあるっての』

「しかし……」

『それに、お前が今更何を話したところで変わらねーよ。お前のことをどうするか。それは、周りが決めることだ。辛いだろうが、今はそれを、黙って待つしかないだろう』

「それは……そうですね」

『ああ。親戚、シティの人間、お前の生徒、そいつらがどんな答えを出すか。それは、お前には決められない。今は待ってろ。それしか、できることは無いって』

 ……

「……分かりました」

 ……

「お父さん」

『ん?』

「その……それでは、また」

『ああ』

 そして、電話を切りました。

 

 ……

 …………

 ………………

 

 その翌日、決勝戦で十六夜さんが敗れ、不動遊星さんが優勝。その直後に、キングであるジャック・アトラスさんを倒し、新たなキングに。そのおかげで私の家の前に張り込んでいたマスコミ達は全員そちらへ行き、家から出ることができるようになりました。

「家元、逃げるのならば私も一緒に」

「大谷さんは残って下さい。家の留守をお願いしたい」

「しかし……」

「それに、あなただけなら、親戚の方々が受け入れてくれるかもしれません」

「は? ……家元、それはどういう意味で……?」

「あなたが他の家の人からお誘いを受けていたことは、知っています」

「……!!」

「私のことは構いません。あなたはそのお誘いを受けて、これからも水瀬に……」

「私は! あなたの秘書です!! 水瀬梓の秘書ですぞ!!」

「……」

「……」

「その言葉だけで、私は十分報われました」

「そんな……」

「あなたは優秀な人だ。それが、こんな男のもとにいつまでもいてはなりません」

「……」

「だから、あなたはきちんとした人のもとで、あなたのお仕事を行って下さい」

「……」

「今まで、ありがとうございました」

「……お礼はやめて下さい。あなたが何と言おうと、私はあなた以外に仕える気は無い」

「大谷さん……」

「だからあなたがどこかに隠れると言うのなら、私も共に」

 その気持ちは嬉しい。しかし、

「あなたでは無理です」

「それなぜですか!? 私は今まで、あなたと時には危険な目にも遭ってきた。今更どんなことがあろうと同じこと!」

「あ、いや、そういう意味では無くて、その……」

「家元?」

「その……物理的に不可能と言うか、むしろ私くらいしかできないというか、その……」

「はっきりお言い下さい! 一体何なのです!?」

「その、そうですね……十分間、無呼吸運動が可能でしょうか?」

「……は?」

 

 ……

 …………

 ………………

 

 そして今、私はここにいます。

 さすがに大谷さんも、私がサテライトへ、泳いでいくと言った時は黙ってしまいました。シティからサテライトまでは結構な距離があります。その間の海を、酸素も無しに泳いで渡るなど狂気の沙汰だ。おまけに常にセキュリティの監視船も出ているため、一定の距離は潜水で泳ぐ必要がある。

 大谷さんからも本気で止められましたが、むしろ私だから大丈夫だという思いの方が強かったようです。まああまり自信過剰な発言はしたくありませんが、こんなことが可能なのは、少なくともシティでは私だけだと確信しています。そんな私も、さすがにここへ辿り着くまでにはまる一日掛かりましたが。

 そして、さすがに荷物を持って泳ぐことは不可能なので、出発の前日に必要な物をマーサさんの施設へ送り、ここまで運んで頂いたということです。まあ、荷物と言っても、少しの現金に、数日分の下着と着物一着、そして傘に、デッキという、カバン一つに治まる程度の荷物ですが。

 

「とんだご迷惑をお掛けして、申し訳ありませんでした」

 ウエットスーツから着物に着替えながら話しました。程良く降る雨が体の塩を洗い流し、体を拭くだけで済みました。

「良いよ。あんたには本当に世話になってるからね。むしろ頼ってくれて嬉しいよ」

 マーサさんがそう言った直後、私も傘を刺します。

「ありがとうございます。それと、荷物の中に一緒に送っていたお菓子は受け取って下さいましたか?」

「ああ。子供達全員喜んでくれてるよ」

「良かった。和菓子なので子供達のお口に合うか心配でした」

 最後の心配事も無くなりました。

「本日は誠にありがとうございました。では、私はこれで」

 そう言い、その場を去ろうとしましたが、

「え? ちょっとお待ちよ」

「はい?」

 なぜか、呼び止められました……ああ。

「すみません。そうでした」

 私は荷物から財布を取り出しました。

「ああいや、そうじゃなくて!」

 なぜか慌てて手を振られました。

「うちに来るんじゃないのかい?」

 ……はい?

「いいえ。私はただ、あなたに荷物を預かって頂いて、ここまで運んで頂いただけです」

「その後は?」

「その後と言いますと?」

「どこに寝泊まりする気だい?」

 なぜそのような心配を?

「ここはサテライトですよ。そんな場所はいくらでも見つけることができます」

 過去に一つの都市が破壊されて生まれたサテライト。廃屋など数えきれないほど存在している上に、毎日運ばれてくるゴミなど、中には布団として扱える物もある。捨てられてきた傷んだ服や、小さく破けた布、新聞紙やチラシなどを集めて布団を作ったのは、今では良き思い出だ。

「私はてっきり、『マーサハウス』にしばらくいるもんかと思ったんだけど」

「まさか。既にここまで協力して頂いたのに、これ以上ご迷惑を掛けるわけにはいきません」

「迷惑って、そんなこと……」

「このお礼は、また改めて。それではお元気で」

 お礼を言い終え、私は走りました。マーサさんが何やら言い掛けた気もしますが、今は気にしません。ちょうど雨も止みましたし。

 さて、まずは今日宿泊する場所ですね。

 

 

 

視点:マーサ

 消えちまった。

 てっきりうちを頼ってきたもんだと思ったら、始めから荷物以外は全部自分でどうにかする気だったとはね。

 

 梓は、あの子が水瀬家頭首になる前、既にいくつかの教室を切り盛りしてる時に知った子だ。

 ある日、マーサハウスに多額の寄付金を送られてきた。どこからか見てみると、水瀬家当主の水瀬梓から。梓のことは有名だから知ってたけど、どうしてそんなことをしてくれるのか分からなかった。だからどうしてかを手紙で聞いてみると、自分も元々はサテライト出身だったから、自分と同じような境遇の子供達を放っておけない。そう返事がきた。

 けど、最初はそれも信じられなかった。私は子供達のためにマーサハウスを創って、ずっと子供達の面倒を見てきた。そのためにサテライト中にいる子供達を見つけて、マーサハウスに入れたんだ。そして、梓の歳は、ジャックや遊星、クロウよりも年下だった。あの子達が子供の頃にはマーサハウスは建っていたのに、そんな中で私の知らない子供がいるなんて、にわかには信じられなかったよ。

 でもそれは梓の方も同じだったらしい。マーサハウスなんてものが存在していること事体知らなくて、ずっと一人で生きてきたらしい。そう言えば、クロウにそんな子がいるって話しは聞いたことがあった。可愛い女の子で、知らない子だったからマーサハウスに連れていこうとしたけど、見つけてすぐにいなくなったって。だからみんなが嘘だって笑った。私もその時はクロウの勘違いかと思ったけれど、きっとその子が梓だったんだね。

 梓は手紙で、サテライトでずっと一人で生きてきて、最後には誘拐されて売り飛ばされて、その時に今の水瀬の家に引き取られたってことまで教えてくれた。そして、手紙の最後にはこう書いてあった。

 

『もし私がマーサハウスの存在を知っていれば、生き方は完全に変わっていたでしょう。サテライトに対して、違う思いを抱いていたかもしれない。しかし正直に言えば、今の私は、サテライトが憎くて仕方が無い。一生掛かっても、許すことができる自信が無い。しかし、だからこそ、そんな目に遭い、思いを抱くのは私一人だけで良い。サテライトが憎くとも、そこに生きる人達に罪はありません。まして、子供達には特に。』

『とは言え、今の私にはサテライトをどうにかできる力は無い。だからせめて、今はかつての私と同じ、今を精一杯に生きるしかない子供達の助けになりたい。そう考え、せん越ながら寄付金を送った次第でございます。私はただ、運が良かったから今のような地位にいる。本当ならばいつ終わっていたともしれない命。そんな、私のような子供達をこれ以上生みださないためにも、私にできることをさせて下さい。』

 

 これが、ジャックや、クロウよりも年下の、十六歳の子供が書いた手紙だなんて、とても信じられないよ。もちろんこの手紙の内容は、マーサハウスの誰にも話してない。私と梓、二人だけの秘密さ。それからも毎月寄付金を送ってくれて、手紙のやり取りも繰り返した。

 そして昨日のことだ。いつもの寄付金と一緒に、たくさんの和菓子と小さな荷物。手紙には最後の方にこう書かれてた。

 

『明日、サテライトへ向かいます。どうか私の送った荷物を、港まで持ってきて下さい。着替えなどが入っています。同封したお菓子は、ぜひ子供達に食べさせてあげてください。』

 

 荷物の中には、テレビでも使ってた、命よりも大切なはずのデッキまで入ってた。とても嬉しかったよ。それだけ私のことを信用してくれて。おまけに、今まで一方的に寄付金を受け取るしかなかった私が、初めて頼りにされたことも嬉しかった。だから、あの子と初めて出会うことは嬉しかったんだ。

 

 けど、確かに手紙には、泊めて欲しいなんて一言も書いてない。荷物を届けて欲しいってだけ書いてある。きっと、今までもそういう生き方をしてきたんだね。決して人に甘えず、頼らず、そして完全には信用せず。と言っても、財布やデッキを同封して、中身を確認せずに行っちまったくらいだから信用しちゃくれてるんだろうけど。そもそも信頼してくれなきゃ、自分をサテライトの人間だなんて名乗るはずが無いからね。

 それでもそうやって、何でも一人でどうにかしようとする所はやっぱり子供だよ。

 いや、それとも単に、誰かに頼るってこと自体を知らないだけなのか。水瀬家頭首になるために努力をしてきたっていうのも手紙で読んだ。しかも単に習い事だけじゃなくて、文字の読み書きから始めて、だ。クロウなんかは拾ったカードから文字の読み書きや計算を覚えたらしいけど、梓は決闘がしたくても、一枚だって拾えなかったっていうからね。拾われた先で、ずっと誰にも頼らず努力してる姿が目に浮かぶよ。とても辛かったろうね。

 そしてその甲斐あって、今じゃあの歳で日本一の名家の頭首だ。何でも一人で解決しようとするはずだ。体面的にも、誰かを頼るなんてこと、出来ないだろうね。

 だがいずれにせよ、放っておくわけにはいかない。梓からすれば、もっと幼い頃から一人で生きてきたわけだから、それと同じことをするだけだろうし、余計なことかもしれない。それでも、今までの恩を返したいし、何より梓に、もっと誰かを頼りにするってことを知って欲しいからね。

 

 

 

視点:梓

 

『水瀬家頭首、隠された真実』

『水瀬梓の正体! 「私はサテライト出身だ」』

『水瀬家歴代最高の神童、自分の正体をフォーチュン・カップにおいて激白。サテライト出身という大スキャンダル』

 

 瓦礫の上で、捨てられている雑誌や新聞を読む度、そんな文字ばかり。一面はジャック・アトラスさんの敗北や、不動遊星さんがキングになったこと、サテライト出身のキングということが載っていますが、そのすぐ後には私のことについて書かれている。

 ただ、そのこと事体は構わなかったのですが、次の文字には、正直ショックを受けました。

 

『サテライト出身という事実に、彼の生徒、顔見知り全員が大激怒』

『生徒全員の怒り爆発。「決闘だけでも許せないのに、それがサテライト出身」』

『「私はずっとサテライトの人間に師事してきた。恥と屈辱以上の何物でもない」』

 

 覚悟していたこととは言え、こうも生徒達からの反応が変わるとは。

 どれだけサテライトを嫌っているのか、『こちら側』へ戻ってみてよく分かりました。

 正直、私もサテライトに対しては、今でも憎悪を抱いています。できれば一生戻りたくはなかった。しかし、それには明確な理由がある。彼らにはそれがあるのでしょうか。ただ自分達の愉悦のためだけに嫌っているだけのようにしか感じられません。

 

『おぉおぉ、偉い叩かれようだな』

 声が聞こえました。

 デッキは荷物と共にマーサさんに送ったので、一日ぶりの再会となります。

『今まで梓からずっと習ってきたくせに、何を言ってるんだか』

「仕方がありませんよ。これが、あなた方の言う、自分や自分の周囲のために、誰かを傷つける、そういうことなのでしょう」

『確かに。しかし、梓は彼らのために、毎日走り回り、指導してきました。彼らもそれには感謝していたはずなのに、この扱いは酷過ぎます』

「構いませんよ。むしろ元に戻っただけです。私は元来、こんな風に扱われましたから」

『だが、それはお前という存在を認めなかった者達からのものだった。それが今は、お前のことを認めていた者達に、こんなことを言われている』

「良いのです。彼らを裏切ったのは私の方です。そして、言い訳も説明もせぬままここまで逃げてきた。私を罵倒することで彼らの気が済むのなら、私はそれを甘んじて受けるだけです」

『だが、そうなればお前は……』

「ええ。そう遠くないうちに、私は水瀬家頭首ではいられなくなります。しかし、かつてはそれが怖かったのに、今はそれほど気にはなりません」

『意外だな。大会に誘われた時はあれだけ迷ってたくせによ』

 私自身も驚いているのです。長年積み上げ、得ることができた、今の水瀬梓と言う人間でいられなくなることに。

 しかし、失ってみて初めて分かりましたが、それ程惜しくは無い。多くの人々に憎まれ、蔑まれても、私の中に生まれたものは、清々しさだった。

「ずっと、多くの物を背負い、生きてきました。それが全て無くなり、ある意味で言えば自由になれた。全てを失っても、私には父がいる。大谷さんがいる。そして、あなた方がいる」

 真六武衆達に向かって、言いました。

「何より、決闘者になるという、子供の頃から諦めていた夢を叶えることができたのです。今の私に、思い残すことは一つも無い。あなた方が私のそばにいる。それだけで、私は世界一の果報者であると、胸を張って言えます」

『梓……』

『……』

「それとも、皆さんは、私とは一緒にいたくはありませんか? こんな、ゴミである私とは」

 

『バカ言ってんじゃねえ!!』

 

 急にシエンが叫んできました。そして、真六武衆達全員が、厳しい顔を見せています。

 

『言ったはずだ。俺達はお前を守りたくなって現れたんだ』

『君はゴミじゃない。君がどんな人間で、どんな生き方を選んだとしても変わらない』

『あなたほど、仕えることができて誇らしいと感じた人はいません』

『俺達こそはっきり言える。梓以上の主など、友などこの先現れることは無いと』

『むしろ、これからもずっと、お前といたいと思っている……』

『だから私達がお前から離れたいなんて、間違っても思わねえ。二度とそんなこと言うな』

 

 全員が、真剣な顔で言って下さった。私のことを、そこまで思ってくれているのですか。もう、頭首でも何でもない、こんな私のことを。

 

「ありがとう。カゲキ」

『おお』

「ありがとう。シナイ」

『うん』

「ありがとう。ミズホ」

『はい』

「ありがとう。エニシ」

「ああ」

「ありがとう。キザン」

「……」

「ありがとう。シエン」

『ふん』

 一人一人にお礼を言う。そうせずにはいられない。

 心の底からありがとう。

 こんな私を慕ってくれて。こんな私と共にいてくれて。

 

 

「見つけた!」

 

 彼らと話しを終えた時、そんな声が響きました。

 そちらを見ると、上に立たせたオレンジ色の髪に、顔には多くのマーカー、そして黒いDホイール。

 追い剥ぎでしょうか? そう感じましたが、その隣にいる、青いライダースーツと赤いDホイールの男性がヘルメットを脱ぎ、違うと分かりました。

「不動、遊星さん?」

 そう言えば、彼も『サテライトの流れ星』という、サテライト出身の方でしたね。ここにいても不思議はありません。しかし、その隣の人は……

「あんたが水瀬梓だろう?」

「え、ええ。確かに水瀬梓は私の名ですが」

「マーサにお前を連れてくるよう言われたんだ。一緒に来いよ。マーサハウスにさ」

「え……」

 そういうことですか。ということは、不動遊星さんもマーサハウスで育った人だということですね。

 彼の顔を見ましたが、嘘はついていないようだ。

 私は瓦礫から降り、彼らと向かい合います。

「俺は『クロウ・ホーガン』。こっちは知ってるだろうが不動遊星だ」

「お久しぶり、に、なるのでしょうか?」

「実際に話しをするのはこれが初めてだがな」

 怪訝な顔を見せていますが、それが彼の普段なのだと分かります。

「所でさ……」

 そんな不動遊星さんを見ていると、クロウ・ホーガンさんが話し掛けてきました。

「はい?」

「俺のこと、覚えてないか?」

 そう話し掛けられました。はて、どこかでお会いしましたでしょうか……

「……まあいいや。それより、マーサがお礼も兼ねてマーサハウスに来て欲しいっていうんだ。一緒に来いよ」

 お礼ですか。お礼をされるだけのことをした覚えは無いのですが。

「遠慮しておきます。こんな厄介者を迎え入れてしまっては、ご迷惑が掛かりますので」

「迷惑なんてこと無えって。どうせ子供(がき)どもが大勢いるんだ。一人くらい増えたって変わらねーよ」

「だとしても、既にマーサさんにはご協力を頂きました。これ以上甘えるわけにはいきません」

「協力って、荷物運んだだけだろう」

「荷物を届け、お預かり頂き、それをわざわざ遠く離れた港まで運んで下さったのです。それ以上甘えるわけにはいきません」

「……どんだけ重労働だと思ってんだよ……」

 呆れ顔を見せていますが、実際にあの年代の女性が、サテライトの中心を、荷物を運びながら港までの道のりを歩くことを想像してごらんなさい。

「かなりの重労働ですよ。体力的にも環境的にも」

「大げさな。まあいいや。どうせ泊まる所無いんだろう。マーサも本気で心配してるんだ。マーサのためにも来てやってくれって」

 そう言いながら、私に手を伸ばしてきました……

 

「っ!! やめて下さい!!」

 

 手を振り払い、彼らから距離を取ります。

「な、何だよ……」

「どうした?」

「ふぅ……お気持ちだけで十分です。ですから、あまり私に近づかないでもらえますか?」

「はあ? どういう意味だよ……!!」

「待てクロウ」

 クロウ・ホーガンさんがまた近づこうとしたのを、不動遊星さんが制止しました。

「本人がここまで嫌がっているんだ。無理をして連れていくのも悪い」

「冗談じゃねえ! ここはサテライトなんだ。こんなところで子供一人放っておく方がどうかしてるぜ」

「……水瀬に限って、危険は無いと思うが」

「何言ってるんだ!!」

 ……このまま二人を放っておいて、逃げるのも手ですが、それでは解決になりませんね。

「分かりました」

 私の言葉に、二人は私を見ます。

「クロウ・ホーガンさん、でしたね」

「あ? ああ」

「私はあなたに決闘を申し込みたい」

「決闘? 俺と?」

「ええ。あなたが勝てば、私はあなたの言う通り、マーサハウスへ行きましょう。ただし、私が勝てば、もう二度と私を誘うことはしないで頂きたい」

「な!?」

「水瀬……」

 こうでもしなければ、彼が潔く引き下がるとは思えません。こういう人は大抵決闘の結果には忠実なものですから。

「……分かった」

 思った通り、承諾して下さいました。

「ただし、決闘するにあたって、一つお願いがありあます」

「何だよ?」

 普通に決闘し、勝ったところで彼が納得するとは思えない。なので、彼が最も得意とするであろう条件、

「私とは、『ライディング決闘』で決闘して頂きます」

 

 

 

 




お疲れ~。
つーわけで、次はライディング決闘だ~。上手く書けるか心配だ~。
そんじゃ、待ってて。
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