東方Ψ綺憚 〜 Disastrous Life in Lotus Land. 作:ヘドロ爆弾
僕の頭に付いている、アンテナ型の制御装置。
周囲には単なるヘアピンでしかないと偽っているが、それは僕が当たり前の様に日常生活を送る上で絶対に必要不可欠なアイテムである。
僕の超能力は年月を経るごとに強化されている、と序説で述べたのを覚えているだろうか?
生まれたての赤ん坊の頃の僕は、どれだけ本気を出しても精々プロボクサー1人をボコボコにする程度の力しか持っていなかった。
それがどうであろう。
小学5年生になる頃には、既に片手のパンチで月を軽く破壊できる程に急成長を遂げてしまっていたのである。
その急成長の弊害なのか、僕は次第に自分の力をコントロール出来なくなってしまった。
もし
僕はちょっとジャンプしただけでも大気圏を楽々突破し、
ちょっと振り向いただけでも風圧で地面を大きく抉り、
ちょっと壁に寄り掛かっただけでもその壁を一瞬で粉々にしてしまう。
こんな状態で走り回ろうものなら今周りにある神社や森、と言うか山自体を消滅させてしまうかもしれない。
下手したら地球という惑星を丸ごと破壊してしまう恐れすらあるのだ。
冗談ではなく、である。
随分と馬鹿げた話?
僕もそう思う。
でも、これらは紛れもない事実なのだ。
だから恐ろしいのである。
タダでさえ僕を苦しめているテレパシーも、制御装置が無かったら更にトンでもない事になる。
具体的に言えば、範囲が『半径200m以内』から『地球上全て』にグレードアップする。
つまり、『地球上全ての人や動物の思考が常に頭に流れ込んでくる』事になる…ここまで来ると最早笑うしか僕には出来ない。
つまり、僕にとっても、人類にとっても、この地球という惑星自体にとっても、制御装置は生命線であり、大切にしなければならない超重要な物であった。
その制御装置が…
…無い。
…無い!
…無い!?
…無い!!!
何処にも無い!!?
ついさっき、と言うか待ち合わせの場所である神社前へと瞬間移動した時はしっかり頭に付いていたハズなのに!
何故だ…!?
今丁度ここで落としたのか?と思い、血眼になって辺りを見回すが、何もそれらしい物は落ちていない。
落ちているのは木の葉ぐらいのものであった。
まさか寺子屋に置き忘れてきたか?
いやいや落ち着け。
僕は何事もなく寺子屋を出て、瞬間移動で神社まで普通に帰ってこれた。
その時はまだ何ともなかったのだ。
ということはその時点では制御装置はまだあった。
紛失したのはついさっきの出来事であるハズだ。
何処だ!?
何処にあるんだ!?
「斉木さん?どうかしたんスか?そんな血相変えて。」
今現在進行形で地球が崩壊の危機に晒されている、なんていう事を当然知る由も無い鳥束は、能天気そうに僕に話しかけてきた。
いや、ひょっとすると、僕の制御装置を隠し持っているのは鳥束なのかもしれない。
コイツの事だから、妖怪に追いかけられた腹いせに僕を困らせようとしているんじゃないか?
徐々に僕はそう勘繰り始めた。
後から思うに、僕はパニックの余りあらゆる事柄に対して疑心暗鬼の状態になっていたんだと思う。
「はぁ!?斉木さんのヘアピンをオレが盗った!?そんな訳無いっしょ!!オレは本当に何も知らないですってば!!」
僕が今ここで突然物を紛失するということは、1番怪しいのはお前なんだが。
一度とっちめてみれば、素直に白状するだろう。
いや、待て待て。
僕にはテレパシー能力があるんだった。
他人の嘘を見破るのは簡単だ。
鳥束の心を読めば済む話である。
(男のヘアピンなんか盗ったところで嬉しくもなんともねーよ…超可愛い女の子のヘアピンなら話は変わるけど…)
…どうやら嘘はついていないようだ。
鳥束は
では一体誰が?
何の為に?
そもそも僕には常時作動しているテレパシー能力が有るのだから、誰かが悪意を持って近づいてきた時点で僕にはすぐそれが分かるハズである。
じゃあやっぱり落としたか?
いや、しかしあんなに頭にしっかり固定していたのに突然落とすなんて事があるのか…?
と、僕がすっかり混乱し、憔悴しきっていたその時である。
木々の葉が風に煽られてざわめくと同時に、足場の近くにある小石がカタカタと軽快な音を
と思った瞬間に、やがて辺り一帯がグラグラ振動し始めた。
真っ直ぐ立っていられない程という訳ではないが、多少クラクラとよろめきそうになる。
「ん? …ぅおわっ!地震っスか!?」
と、鳥束がよろけながら突然の地震に驚いた。
確かに凄い地震だな。結構揺れているようだ。
幻想郷と言えども、地震の1つぐらいは普通に起こるんだな。まぁ当たり前と言えば当たり前か。
でも今はそんな事はどうでもいい…
…地震?
いや、違う!
この揺れを起こしているのは僕自身だ!!
しまった、制御装置が見つからない事に苛立ちを感じたばかりに、足に力を入れ過ぎて大地を揺らしてしまっていたのだ!!
このままでは幻想郷全土を平坦な荒野にしてしまう!
まずい、一刻も早くここから脱出しなければ!
こうなってはもうなりふり構っていられない。
僕は急いで鳥束を連れて瞬間移動で幻想郷から外の世界へと移動した。
そして有無を言わさず即座に鳥束を寺まで送り届けて、後になって適当に誤魔化されないようにその場でコーヒーブランマンジェの約束をしっかりと取り付けた後…
すぐさま
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「なるほどねぇ。」
僕の目の前にいるソイツは、オフィスチェアに座ってコーヒーを飲みながら僕の話を全て聞き終えた後、ゆっくりとそう言った。
「それで僕の所へわざわざ来てくれたんだね。
僕はてっきり、可愛い弟がフラッと遊びに来てくれたのかと思ったよ。」
急用さえ無かったら、誰がお前の顔なんか見に来るものか。
「酷いなぁ、血を分けた兄弟なのに。
少し落ち着いたら?気分転換も兼ねて、イギリス旅行でも楽しんできたら良いよ。」
それが出来ないのを分かってて言ってるだろ。
相変わらず嫌味なやつだ。
「あはは!ごめんごめん。
いやぁつくづく思うんだけど、不便な体だよね。
同情しちゃうよ本当に。」
そう言いつつも全く同情する素振りを見せず、目の前にいるソイツは事も無げに笑った。
僕がわざわざロンドンへと瞬間移動したのには、勿論理由がある。
僕の制御装置の開発者、その人に会いに来たのだ。
(正直個人的に嫌いな人物なので非常に会いたくなかったのだが)
彼であれば、もしかしたら制御装置の場所が分かるかもしれないと僕は思ったのだ。
その開発者と言うのは…
僕の実兄であるコイツ、
かなりイカれたマッドサイエンティストである。
端的に言えば、兄は幼い頃から天才であった。
生後一ヶ月にして流暢に言葉を話し、小学校レベルの簡単な計算や文字の読み書き程度なら2歳でマスター。
知能テストの結果はIQ218。
14歳の頃に高校を飛び級で卒業してイギリスへ留学し、ケンブリッジ大学で修士号を取得。
発明などのライセンスや特許収入で巨万の富を築き、総資産は80億円を優に越えているらしい。
18歳になった現在では博士号を取得する為、また僕の超能力についての研究を続ける為に専ら自身の研究室に引き篭もり気味であるそうだ。
傍から見れば非常に優秀であり、他人から羨ましがられる事はあれど他人に対して僻むことの決して無いであろう完璧超人…のように思われがちであるが、正真正銘の超能力者である僕に対しては並々ならぬ嫉妬や劣等感を常に抱き続けている。
そんな負の感情を幼い頃から絶えず向けられ続けてきた僕が自然と兄を嫌うようになるのは当然である、と思う。
兄は今、長年の超能力研究の成果を利用して作ったテレパスキャンセラーを頭に装着している。
なので僕はコイツの考えている事を読み取る事が出来ない。
まぁ基本気持ち悪い事しか考えていないのでずっと付けていてくれた方が僕としても有り難いのだが。
「楠雄も知っている通り、あの制御装置にはGPS機能も付いているんだから探そうと思えば簡単に探せる…と、思ったんだけどね。」
そう言って、兄は目の前の複数あるモニターを順次チェックしては不思議そうに首を捻った。
「GPS受信不可な場所なんてまだまだあるからね。信号が受信できない事それ自体は、別に変でもなんでもないんだよ。」
そう断った上で、兄は更に話を続けた。
「ただ、直前までの楠雄の行動がなんか不思議なんだよね。わざわざ長野の山奥にまで移動して、一体何しに行ってきたの?」
人間や妖怪や神霊が共に暮らしている幻想郷の探索に行っていました…なんて馬鹿正直に答えても、どうせ信じないだろうし信じないどころか更に馬鹿にされそうだったので、敢えてその質問には答えなかった。
ひょっとして自殺かな?なんていう酷いブラックジョークを言いつつも、兄でさえも制御装置のある場所を把握する事が出来ないようであった。
恐らく、あの大結界がGPSの送受信の妨げになっているのだろうと思われた。
やはりアレは見た目に違わず強力な結界であったのだろう。
もうこの際紛失した制御装置の捜索はいい。
新しく作り直してくれ。
「作り直し、かぁ…
うぅ〜ん、まぁいいけど、結構時間かかるよ。」
そう言って兄はアクビをしながら大きく伸びをした。
何故だ?
以前制御装置が壊れた時はその場ですぐ直してくれたじゃないか。
「あれはさ、壊れたっていうより部品が綺麗にバラバラになってただけだからね。
仕組みが分かってて部品も全て揃っているのなら、そりゃあ修理なんて簡単に決まってるじゃないか。」
でも今回は違う、と静かに呟いて、兄はコーヒーカップを机の上に置いた。
「それに、僕は別の発明品にも取り組んでいる最中で色々と忙しいんだよね。
例えば、熱や光や電気のエネルギーを簡単に蓄えて長期保存しておける特殊な紙切れとかね。」
制御装置を失って焦っている様子の僕を煽るかのように、兄は僕の目の前で真っ白な紙片をヒラヒラさせてみせた。
じゃあ暫くの間、僕にこのままの状態で過ごせという訳か。
お前は地球がどうなっても良いのか。
そう僕が言うと、兄は
「あっはは!スケールの大きい脅迫だねぇ。」
と、まるで他人事のように笑った。
よく考えたら、コイツは地球なんてどうなってもいいよとまで言い兼ねない様な奴だった。
「まぁ代替品ならちゃんと既に用意してるから、安心してよ。」
何?代替品?
「うん。楠雄って超能力者の癖に割とうっかりしてる所が結構あるでしょ?だから念の為になんとなく作っておいたんだよね。」
まぁ即席で
「はい、これ。」
これも制御装置としてちゃんと機能するのか?
「うん。但し、あくまで劣化版ね。
充電式だから、はいこれも。充電コード。
100cmも無いから不便なら延長コードでも使っといて。」
ちょっと待て。
これって充電式の制御装置なのか。
「うん。そうだよ。まぁ劣化版だから。」
はい説明書、と言って兄は分厚い書類を僕に寄越してきた。
やたら用意がいいな。本当に即席で作ったのか?
僕には敢えてデチューンされた物を作っておいたようにしか見えないんだが。
「それ、よーく読み込んどいてね。
フル充電から大体、う〜んそうだなぁ…
11,12時間ぐらいは持つかな?
3時間も充電しておけば0%が100%になるから。」
100%まで充電してから11,12時間か…
つまり、朝8時に家を出たら夜の7時〜8時まで持つのか。
「あんまり夜遊びし過ぎると電池切れちゃうよ、ていうレベルだから。
まぁ友達少ない楠雄なら大丈夫でしょ?」
お前は逐一嫌味を挟まないと気が済まないのか。
でもまぁ、確かにそうだ。
これなら何とか普段と変わらない日常生活を送れそうではある。
どうしても夜遊びしたければポータブル電源でも買って持ち歩けばいいよ、と言って兄はまた少し笑った。
「ただ、繰り返すようだけどあくまでそれは劣化版。
当然、超能力を抑える力も比較的弱い。
だから、これからは力を使う時は今まで以上に細心の注意を払うようにね。」
…慣れるまで時間がかかりそうだな。
だが、例え劣化版だとしてもこれが有ると無いとでは雲泥の差であるのは間違いないだろう。
少なくとも、何かの拍子に地震を起こしてしまう様な事態は避けられるハズである。
有り難く貰っておこう。
「人類が核戦争しようが絶滅しようが僕はどうとも思わないけど、地球をうっかりで破壊されると流石に困るから。そこは、十分に気を付けてね。」
お前にとってはその発言は軽い冗談のつもりかもしれないが割と洒落になってないからな。
「冗談じゃないって。実際、何度か本当に破壊しそうになったことあるでしょ?」
…今回ばかりは本当にとんだ災難である。
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7月が終わって8月に入り、幻想郷もいよいよ夏真っ盛り。
夏と言えば、天に澄み渡る青い空に白い雲!
うだるような暑さに
それもまた、夏の風物詩。
…であるハズなのだが、今年の夏は…なんだか寒くて薄暗い。
理由は分かっているのだ。
そう…
「理由は誰でも分かりきってるのよ!」
神社で紅白の衣装を身に纏っている巫女っぽい少女──というか巫女なのだが──は憤慨していた。
もうここ半月以上は禍々しい謎の赤い霧に幻想郷中が迷惑していた。
視界は悪くなる一方だし、太陽光は遮られて気温はダダ下がりである。
それに加えて、つい先日はちょっとした局地的な地震まで起こったのだから大変であった。
「聞く所によれば、人里にも霧が既に蔓延しきっているらしいぜ。普通の人間は短時間しかその妖霧に耐えられないもんだから誰も外に出なくなってしまった、とかなんとか。」
巫女の憤りを他人事のように眺めている、まるで魔法使いのような白黒の格好をした少女──というか魔法使いなのだが──はそう言った。
「まぁ涼しくて過ごしやすい夏っていうのは嫌いじゃないんだけどね。」
「じゃあこのまま放っとくか?」
「そういう訳にもいかないでしょ!
…はぁ、やっぱり私が何とかしなきゃいけないのかしら。」
その
もう青空を見ない日がずっと続いていることに、いい加減
「異変を解決して信仰を集める、ていうのも巫女の務めみたいなもんだし、ね。」
「お、遂に異変解決に霊夢様が乗り出すのか?じゃあ私もついていくぜ。面白そうだから。」
霊夢をおちょくるかのように笑うその白黒の魔法使いは、
「誰もこの異変を何とかしないのなら、私が動くしかないでしょ、全く。
大体この前だって吸血鬼異変、だっけ?
そんな異変があったばかりなのに。きっと今回だってあの紅魔館の一味が犯人に決まってるのよ。」
巫女がそう言って深い溜め息をついた所に、魔法使いがまた軽口を挟んだ。
「いきなり犯人を決めつけるのは良くないぜ霊夢。まぁ私も十中八九あいつらだと思うけど。」
吸血鬼異変。
最近この幻想郷にやって来ていた
実はこの吸血鬼異変の影響で、ここ幻想郷ではとある決闘のルールが協議されていた。
「じゃあ、いよいよ史上初のスペルカードルールに則った異変解決が見られるわけだ。」
「まぁ、多分…ね。
皆ちゃんとルール分かってんのか心配ではあるけど。」
スペルカードルール。
幻想郷で新しく決められた、人間や妖怪、またはそれ以外の種族達が皆平等に決闘を行う事が出来るちょっとした素敵ルールである。
つい最近出来たものである為、今まで異変規模でこのルールが適用されたことは無かったのだ。
「噂では、メイドが能力を悪用して泥棒して回ってるとも聞くぜ。なんでも、怪しげな地下結界の中に盗品をたんまり蓄えてるとか…」
ま、どこまで本当かは分からないけどな、とその魔法使いは付け加えたが、それを聞いた巫女は
「ほんっと、悪影響しかないような連中ね!」
と、より一層機嫌を悪くした。
出掛けるなら夜がいいかな。
夏の夜の空を飛び回るのも気持ち良さそうだし。
そんなことを考えながら、その巫女はゆっくりと暖かいお茶を飲み干した。
出掛けるなら夜は嫌だな。
たちの悪い妖怪やら何やら、変な奴らが一杯いるし。
そんなことを考えながら、その魔法使いは茶菓子を口の中に放り込んだ。
そして彼女達は
妖怪が1人、ずっと隣に座っていた事に全く気付かなかった。
僕は夏より冬が好きです。
〈参考〉
IQ105…一般的な日本人
IQ152…パンナコッタ・フーゴ
IQ160…ホーキング博士
IQ170…岡部 倫太郎
IQ180…金田一 一
IQ180…ソリッド・スネーク
IQ180…ゴルゴ13 (デューク東郷)
IQ190…アルベルト・アインシュタイン
IQ192…バットマン
IQ200…奈良シカマル
IQ218…斉木 空助 ←ココ
IQ228…マリリン・ボス・サヴァント(ギネス記録)
IQ240…ギレン・ザビ
IQ400…究極生命体カーズ
IQ5000…フーディン
IQ12500…バカボンのパパ