東方Ψ綺憚 〜 Disastrous Life in Lotus Land.   作:ヘドロ爆弾

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もし透明人間になれたとしても、女湯に侵入する程の度胸がない奴の為のクロスオーバー。





真っ赤に染まった巨大な洋館 踊り歩くは透明人間

現在時刻、只今午後7時20分。

 

 

 

制御装置の電池が切れるまで、あと40分。

残された時間がこれだけじゃ、普通の人ならば建物内を全域捜索するのは中々厳しいだろう。

そう、普通の人ならばな。

 

 

僕は超能力者である。

中に侵入せずとも、テレパシーによって内部に人の存在を確認すると共にその数や位置を正確に察知し、建物周辺を歩きつつ外壁を透視して部屋の間取り等を一瞬で把握し、千里眼とサイコキネシスの併用で目当ての物を引き寄せる。

 

この程度、僕からすれば朝飯前である。

ハッキリ言って僕ほど泥棒の素質がある者もいないだろう。空前絶後の大怪盗として世界中に名を馳せる、なんて事も僕にとっては呼吸をするように容易いのである。

まぁ誇らしげに言える事ではないのだが。

 

それに、外の世界から存在を忘れ去られる事で結界を乗り越えて幻想郷へと移転してきた館のことだ、敷地面積も大したことはあるまい。

 

紅魔館で暮らしている主な住民は

 

門番

地下にある大図書館に引き籠る出不精の魔法使い

この館の主人に当たる2人の吸血鬼

そして彼らに仕える1人のメイド

 

の合計たったの5人であるという前情報も、既に先刻拾った謎の手帳から得ている。

 

残り時間はあと40分。などと、まるで一刻を争う緊迫した状況であるかのようにさっきは言ったが、10分もあれば館全域を一通り捜索する事など造作もないだろう。

 

厄介なのは、地下にある大きな部屋を囲む結界ぐらいのものである。

結界内の場所には僕のテレパシー、透視、千里眼のいずれの超能力も及ばないからだ。

なので、盗品が蓄えられていると噂される地下室内を調査する為には、結界を僕が直々に壊さなくてはならないだろう。

 

しかしここで好都合なのは、今巫女が異変(幻想郷ではこういった大規模な事件を異変と呼ぶらしい)解決の為に紅魔館に乗り込んで来ている事である。

これならば多少結界の一部がダメージを受けても、そこまで不自然ではないだろう。それに壊した直後すぐに復元能力で直してしまえば迷惑もかからない。完璧である。

 

僕が「館内捜索にはそこまで手間取らない」と高を括っていたのは、こういった理由があったからなのである。

 

僕に勝手についてきた妖怪はやたらと紅魔館内部に入りたがっているが、僕は最初、人様の邸宅に侵入するつもりはなかったのだ。

 

 

だが…

目的の場所まで来て初めて、僕はいくつかの誤算に漸く気が付いた。

 

第一に、館の敷地、そして館そのものが思った以上に大きい。大き過ぎる。

僕の知り合いには大財閥の御曹司がいるが、この館は彼の豪邸と遜色の無い程の大きさである。

 

こんなクソデカい上に真っ赤っ赤で目立ちまくりの建物が外の世界の人々から完全に忘却されるなんて事があるのか…?

一目見ただけで忘れる事が出来なくなるぐらい強烈な存在感を放っているんだが。

ここまで外装が派手だと、地元じゃ有名なちょっとした観光スポットみたいになりそうなものだ。

 

最早館ではなく、城や宮殿の域である。

『紅魔宮殿』とかに改名した方がいいのでは?

 

また、『ここで住み暮らしているのが5人』というのはあくまで本当に主な住民を取り上げただけの情報であり、彼等5人の下で無数の妖精メイド達や弱小の悪魔達がせっせと働いているという事を僕はテレパシーによって知った。

事前に聞いていた1人のメイドというのは、妖精メイド達を束ね指揮するメイド長であるそうだ。

これでは、誰にも気付かれず地下近くにある結界に近寄る事さえ難しい。

 

 

 

と、ここまで述べると、まるで僕の心算が完全に外れて内部捜索が不可能になってしまったかの様に思われるかもしれない。

しかし、僕だってタダの超能力者ではないのだ。

ここまで時間をかけて遠路遥々やって来たのだから、手ぶらで帰る気は毛頭ない。

(これは情報的な意味であり、決して貴重品か何かをくすねてこようという魂胆なのでは無い)

大丈夫、なんて事はない。

ただちょっとミッション難易度が上がっただけである。

 

 

 

今から僕が使う超能力は、『透明化』能力だ。

 

 

★透明化

自分の姿を透明化し、自分の存在を周囲に悟られないようにする能力。一度の能力発動での持続時間は10分間。透明化しても実体は存在するため、物理的行動を取れる。更に、人や物に触れたままこの能力を使えば、その触れている対象も同時に透明化される。まさにこの建物の内部捜索という隠密行動にうってつけの能力である。

 

ただ、この能力にも勿論デメリットがある。それも2つ。

 

1つは、この能力を使っている間はテレパシー以外の超能力が使用不可になる事である。

つまり、透明化中はサイコキネシスも瞬間移動も透視も千里眼も使えなくなってしまうのだ。

だが、逆に言えばテレパシーは使える。

テレパシーさえ行使できるのなら、あらゆる災厄から身を守ることが可能だ。これは然程問題ではない。

 

どちらかと言えば、もう1つのデメリットの方が致命的である。  

 

それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事。つまり、僕はさながらイライラ棒のゲームの様に誰にも触れられずに紅魔館の内部を見て回り、更に地下へと向かう必要があるのだ。

 

だがこれも、テレパシーを使えば誰が何処にいるのかを一瞬で知ることが出来る僕には大した事のないデメリット…

 

 

 

だった筈なのだが…不穏分子が1人、いる。

 

 

そう。お察しの通り、それは今僕に纏わりついているこの妖怪である。

 

コイツは、僕を見つけてからずっと僕の顔を触ったり触らなかったりしてくるハタ迷惑極まりない奴である。加えて、テレパシーでもコイツの心は全く読めない上に姿自体が見えないという超ステルス機能を備えている為、その魔の手からは逃れようがない。

 

こんな恐ろしい妖怪を背後にのさばらせたまま、僕は透明人間となって潜入捜査を行わなくてならないのだ。言うなれば、キングボンビーを始終背中に張り付けられたまま桃鉄をやらされるようなものである。

 

 

おい、そこのキングボンビー。

 

「キング…え、何?それ私のこと?」

 

お前以外に誰がいる。

 

「ふふ、私以外にも誰かいるかもよ?」

 

いない。適当な事を言うな。

 

相変わらず人の話を真面目に聞かない妖怪の様子に、僕は改めてまたウンザリした。

まぁ頭の中がすっからかんなのだから仕方がないと言えば仕方がないのだが。

 

…僕は今から透明化能力を使うのだが、それについて話しておかなくてはならない事がある。

 

「え!何それ!そんな能力まで持ってるの!?」

 

僕はコイツに自分の超能力を隠し通す事を諦めた。

テレパシーも空中浮遊能力も既にバレているので、ぶっちゃけ今更感満載ではあるのだが。

 

いいか、今から僕の言う事をよく聞くんだ。

 

「聞くだけならいいよ」 

 

…その如何にも天邪鬼そうな返事にかなりの不安を覚えつつも、僕は話を続けた。

 

この透明化能力は、他人から触れられると強制的に解除されてしまう。つまり、お前が僕の顔を今までの様に軽率にベタベタ触れば即解除だ。そうなれば、紅魔館の住人に発見された僕達は侵入者として追い出されてしまう。

 

「えー、途中で追い出されちゃうのはヤダ」

 

嫌だろ?

だからお前が選べる選択肢は次の2つだ。

 

今からずっと僕の体を触っているか、今から僕の体には指1本触れないか、だ。

 

そう僕が問い掛けると、その妖怪は間髪入れずに

 

「じゃあずっと触っとく!」

 

と快活に答えた。

 

ちっ。

僕は思わず心の中で舌打ちをした。

出来ればもう触らないで欲しかったんだが。

 

「だって、それじゃ私暇だもん」

 

人様の顔をやたらめったらに触る以外にも暇潰しはいくらでもあるだろ。

それにお前はステルス機能を常備しているんだ、僕から離れて紅魔館探索を気儘(きまま)に行っても絶対大丈夫なんだぞ。

 

「いいから早く入ろーよ!」

 

御託は要らないんだよ、と言わんばかりにその妖怪は僕を急かした。

こうなってはもう何を言ってもこの妖怪は僕の頼みを聞き入れてくれないだろう。やれやれ。

 

…そう考えて、もう僕は色々と諦めた。

 

 

 

 

 

触るなら、頭に付いているヘアピン以外の部分にしてくれよ、頼むから。

そこだけは絶対に触ってくれるなよ。

 

 

 

 

「触って欲しいの?」

 

 

これ、ネタ振りとかじゃないからな。

 

 

 

───────────────────────

 

時刻は今、午後7時30分を回っている。

 

 

紅魔館の外周を一通り歩き、館の内部をある程度透視し終えてから、僕は透明化能力で透明になった。

 

しかし、なんて酷く趣味の悪い建物なのだろうか。

紅の色調の洋館が赤い霧の中で赤色の月光に照らされているその様子は、ホーンテッドマンションを彷彿とさせた。

 

 

館への主要な侵入経路は、正面玄関と裏口の2つ。

こっそりと侵入するなら裏口からがいいように思われるが、巫女が蹴破っていったのか真正面の扉が開け放されており、随分とセキュリティ面に問題があるような状況になっている。

 

そこから中をチラリと覗くと、門番と思しき者が、まるで誰かに完膚(かんぷ)なきまでに叩きのめされたのかの様に(うずくま)っていた。

 

門番と言うからには門の前に立って侵入者を追い払うようなイメージだったが、それが館内にまで追いやられると言う事は相当な背水の陣だったのかもしれない。まぁこの門番1人で「陣」と呼ぶのも些か変ではあるが。

 

「済みません、お嬢様〜」

 

門番はそう呟いて、しくしくと泣いていた。

ひょっとしたら、侵入者を防げなかったという今回の仕事ミスでクビが飛ぶのかもしれないな。

そう考えるとなんだか少し可哀想な気もするが、この機に乗じて真正面から堂々と入らせてもらおう。

 

「わっ広い!」

 

館内部に侵入するや否や、僕の頭を絶えずさわさわしている妖怪は感嘆の声を上げた。

 

確かに、広い。

外から見ても大概な大きさだったが、中から見るとより広々としている様に感じられる。

これは、各部屋を見て回るのは骨が折れそうだ。

そんな事を考えながら、僕は玄関を通って奥に続く長い廊下を進んでいった。

 

それにしても一体何なんだこの趣味の悪い内装は。

右を見ても赤、左を見ても赤、赤赤赤赤…

なんて目に優しくない館なんだ。

流石の『紅』魔館、と言った所か。

だが、ここまで徹底されていると空恐ろしさを感じる。

 

「なにこれ中も凄い真っ赤!不気味!趣味悪!」

 

と、不気味な妖怪にも糾弾される始末。

元々外の世界にあったとは思えない程に奇抜な洋館である。

更に、暫くの間中を歩いてみて気付いたが、窓が殆ど無い。吸血鬼に配慮した流石の防日光設計である。

 

 

 

僕達の側を足繁く右往左往する妖精メイド達に気を付けながら、長い長い廊下を渡っていくと…

 

突如、下から大きな轟音が鳴り響くのが聞こえた。

 

「うわぁ!  …あー、びっくりしたぁ」

 

僕の髪の毛で蝶結びが出来ないか只管(ひたすら)試していた妖怪も、この轟音を聞いて思わず声を漏らした。

ていうか、髪の毛で遊ぶのはやめてくれ。

後で(ほど)くのが面倒だ。

 

「この下の部屋で何が起こってるのかな?」

 

と、僕の頭にひっついている妖怪は不思議がっているが、半径200mの範囲を網羅するテレパシー能力を持つ僕は、とっくの前に『下で何が起こっているのか』を理解していた。

 

今僕達がいるこの場所の丁度真下には、辺り一面が本で埋め尽くされたダダっ広い書斎、通称“大図書館”がある。

 

 

(…はぁ、ダメね。今日も喘息の調子が悪いし貧血気味だし、スペルが唱え切れないわ…)

 

この酷く具合の悪そうな心の声は恐らく、大図書館に居着いている魔法使い、パチュリー・ノーレッジであろう。

 

(お、幾つか面白そうな本があるじゃないか。後でさっくり貰っていこ。)

 

この泥棒する気満々の、いや泥棒と言うより寧ろ強盗紛いの思考をしているのは恐らく、先程の神社にいた魔法使い、霧雨魔理沙であろう。

 

『恐らく』と付けたのは、名前は手帳に書いてあった情報からの推測にしか過ぎないからである。

 

(はぁ…鉄分が足りないのかしら。)

 

この病弱そうな方の魔法使いは多分、今回の異変とは余り関係がないのだろう。とすると、特に理由なく侵入者に襲撃され、所有物まで()(さら)われるのはちょっと憐れではある。

あと、足りてないのはどちらかというとビタミンAだと思う。

 

「ねぇ、下の部屋に私達も行ってみない?」

 

僕の頭に全身で獅噛(しが)みついているその妖怪は僕にそう聞いてきた。だが、僕にその気はない。

他人の戦闘に横から茶々を入れるのは僕の趣味じゃないし、図書館内部の様子は紅魔館の外周をぐるりと回っている時に透視によってチェック済みである。

そこには、僕の目当ての物は無い。

 

という訳でスルーだ。

 

「つまんないのー」

 

文句言うな。僕はお前と違って遊びに来たんじゃないんだ。

 

「え、遊びに来たんじゃないの?」

 

断じて違う。

 

 

 

 

そんなやり取りを交わしながら更に進むと、これもまた随分と大きい広間の様な所に出た。

…しかし、これは本当に紅魔館の内部なのだろうか。少し部屋1つ1つが大き過ぎやしないか?

 

僕がこの館の間取りや部屋の大きさについて疑問を感じていると、何やら巫女とメイドが会話しているのが聞こえて来た。

 

 

 

「あなたは──ここの主人じゃなさそうね。」

 

そう巫女(彼女の名前は恐らく博麗霊夢である)が話しかけている相手は、メイドのコスプレをしていた。

彼女は侵入者を目の前にしても取り乱さず、ツンと乙に澄ました顔で応対している。その様子はまさに完全で瀟洒(しょうしゃ)、と言った所か。

 

「なんなの?お嬢様のお客様?」

 

…いや、あれはコスプレの一種ではなく、モノホンのメイドの様だ。

 

 

凄いな。流石幻想郷。

外の世界では最早絶滅危惧種の本物の女性メイドが普通に存在しているとは。

コスプレでないメイドなんて、今や勝手に捕獲すればワシントン条約に引っ掛かってしまうレベルの希少天然生物であるとばかり僕は思っていた。

 

僕が驚いていると、今度は霊夢の心の声が聞こえてきた。

 

(倒しに来たって言っても通してくれないよな)

 

いや当たり前だろ。

 

僕に貧乏神の様に取り憑くこの妖怪が巫女は乱暴だとかなんとか言っていたが、確かに少し乱暴な物の考え方をしている様だ。

 

「ここら辺一帯に霧を出しているのあなた達でしょ?あれ迷惑なの。何が目的なの?」

 

と、霊夢が異変の核心に迫る質問をメイド──彼女の名前は恐らく十六夜 咲夜(いざよい さくや)であると思われる──に投げ掛けた。

 

「日光が邪魔だからよ。お嬢様、(くら)いの好きだし」

 

正真正銘本物のメイドである咲夜は、その質問に対して素っ気無くあっさりと答えた。

僕はてっきり、『その答えが欲しければ私を倒してご覧なさい!』みたいな少年漫画的な熱い展開が起こるのかと思ったのだが。

 

そうか、ここの館の主人は確か吸血鬼。

日光が辺りを絶えず照らす昼間は自由に出歩く事が出来ない。それを何とかする為に、常に妖霧を幻想郷中に漂わせる事で、日光を遮って昼夜を問わず外出を可能にしようとしたのか。

 

なんともまぁ…気持ちは分からなくもないが、自分勝手な話である。

 

「私は好きじゃないわ。止めてくれる?」

 

霊夢は強気で詰め寄るが、一方相対する咲夜はと言うと

 

「それはお嬢様に言ってよ」

 

と、巫女の苦情も何処吹く風である。

どうやら、このメイドも相当な実力者の様だ。

 

「ねぇ、早く先に行こうよ」

 

僕についてくるこの妖怪は、異変が起こった理由や彼女達の押し問答にはまるで興味が無いらしく、僕をそうやって急かしてきた。まぁ言われるまでもなく、僕もあの2人を無視して広間の奥にある通路へと歩を進めるつもりだ。

 

「ここで騒ぎを起こせば出てくるかしら?」

 

また霊夢が随分と物騒な発言をすると、咲夜は

 

「でも、あなたはお嬢様には会えない。それこそ、時間を止めてでも時間稼ぎが出来るから。」

 

と言って、何やら格好良く身構えた。

どうやらこの2人も、図書館にいた2人と同じ様に戦闘を始めるらしい。

やはり帰結する所は少年漫画的展開(バトル展開)であった。

この2人の近くにいると危なそうなので、妖怪に言われた通りさっさと素通りしよう。そう思って、僕は奥の通路を先に進んだ。

 

 

(そう、私は『時間を操る程度の能力』を持つ従者。不法侵入者であるこの巫女にはここでお引き取り頂くわ!)

 

僕達が広間を後にする際、後方からそんな咲夜の心の声が聞こえて来た。

 

なるほどな。

僕の予想通り、あのメイドは只者では無かったようだ。

 

 

て、え?

 

 

 

時間を、操る?

 

 

 

 

 

それって、ラスボス級の能力なのでは…?

 

そんな最強の能力を持つ人が、従者なのか…?

 

 

 

 

 

…幻想郷、恐ろしいところである。

 

 

───────────────────────

 

時刻は午後7時39分。

 

 

 

 

「いやー、結構色々と回ったね!」

 

赤い壁ばっかり見続けたから目が疲れちゃったよ、と言って、まるでシャンプーを使って洗髪してくれているかのように僕の頭をもしゃもしゃしながらストーカー妖怪はそう呟いた。

 

 

 

そう、僕は紅魔館に侵入してから僅か9()()の時点で、既に地下を除く全部屋を捜索し終え、そして地下室へ続いていると思われる通路の入り口までやって来ていたのである。

 

どうやらこの屋敷の内部は何らかの魔法で空間拡張がなされているらしく、僕の想像よりもずっと広大且つ複雑であった。

 

それを、外から透視した時間も合わせて合計20分程度で調査し尽くしたのだから、僕が如何に効率よく捜索を進めているかがお分かりであろう。

そう、僕は決して遊びに来ているのではないのだ。

僕の背後にへばりつくこの妖怪とは違って。

 

 

「じゃ、早く地下室行こうよ地下室!」

 

そう焦るな。時間はまだまだある。

 

部屋を淡々と見て回るのに飽き、今は地下にある結界で囲まれた秘密空間に興味津々のこの妖怪を、僕は軽く諭した。

もう残す場所はその地下空間だけであるのだから、急がずとも時間には余裕がある。

 

ふむ、残り時間はあと20分以上もあるのか。

これならば腕時計を持ってきてまで制限時間に気を遣わなくても良かったな。

そう僕が考えていると、その妖怪はふとある事に気が付いた。

 

「あれ?なんか私達、透明じゃなくなってない?」

 

そう言われて僕はハッとなり、急いで腕時計を見てみると時刻は午後7時40分になっていた。

そうか、もう紅魔館に侵入してから10分が経って透明化能力が解除されてしまったのか。

 

このままでは不味いな。

透明化は連続して使えない。

と言っても1日1回しか使えないわけではない。

簡単に言えば、小休憩を挟まなければならないのだ。

 

仕方ない、一度外へ移動するか…

 

 

そう思って僕は、得体の知れぬ妖怪を頭上に乗せたまま、紅魔館の屋根の上へと瞬間移動した。

 

 

 

 

 

外はまるで夏の夜とは思えない程に気温が低く、涼しいを通り越して薄ら寒い。

 

 

 

 

煌々(こうこう)と夜空に輝いている月の光も、赤い霧のせいで紅の色に染まっていて何だか不吉である。

 

 

 

 

そう言えば、月の光を体に浴び過ぎると精神が狂気に支配されてしまう、なんていう風説があるが、果たしてそれは本当なのだろうか?

 

 

 

 

英語では「気が狂っている」様子を「“Luna”tic」なんて言ったりするが、月の光にそんな狂気の面影を感じるのは幻想郷でも同じなのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

紅魔館の屋根上にある大きな鐘付き時計台の側へと、一息入れるために瞬間移動した僕は…

 

 

 

 

 

 

 

紅の月影(げつえい)をその小さな体躯に受け過ぎて、まるで気でも狂ってしまったんじゃないかと思われる程薄気味悪い笑顔を浮かべた吸血鬼に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…見つかってしまったのである。

 




ホーンテッドマンション乗ったことないです。
と言うか正直、ディズニーランドよりUSJの方が好きです。


今回は原作のセリフをちょくちょく拝借してます。

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