東方嫉妬姫   作:桔梗楓

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白玉楼に続いて地獄でも、碧の姿を見たパルスィ…彼女の思う事は…。


20話 舌切雀「大きな葛籠と小さな葛籠」

最近パルスィさんと会話ができていない…。

 

具体的には地獄での仕事の後からなのだけれど、どうにも彼女の様子がおかしいのだ。

 

気になって聞いてみたけど「――大丈夫だから」の一点張り

 

布団に入って考える…。

 

いつも通りが出来ない。

 

パルスィさんと何か話したいって思っても、何を話せばいいのか…分からない。

 

そもそも、僕は…どうしてパルスィさんと話したいって思っているのか。

 

理由もなく行動を起こしたい、なんで…。

 

「…変、だよね…」

 

陰陽玉で連絡しようとしても同じ。

 

どんな話題をふればいいのか。

 

急に連絡をして、迷惑だって思われないだろうか?

 

……こんなこと、初めてだ。

 

今まではそんな事思いもしなかった。

 

パルスィさんと一緒に過ごした思い出。

 

出会ってから今まで、たくさんの時間を過ごしてきた。

 

「……楽しいこと…いっぱいあったな」

 

僕もパルスィさんも、お互いに笑顔の思い出ばかり。

 

良い関係を築いてきたはずだ。

 

でも、ここ最近はちゃんとした笑顔を見ていない。

 

陰陽玉越しでも、僕と顔を合わせると、慌てて取り繕う様に誤魔化されてしまう。

 

「……もやもやするなぁ」

 

初めての気持ちに、戸惑いを感じる。

 

これが『本気』で誰かを『好き』になるって気持ち……なのかな?

 

「これって…きちんと伝えるべきなんだろうか…」

 

自分の気持ち…想いだけを優先してしまうことになるんじゃないか?

 

パルスィさんを不幸にしてしまうんじゃないか?

 

考え出すとキリがなく…これ以上踏み込めなくなる。

 

パルスィさんの様子がおかしい原因は、恐らく僕にあるんだろうと思う。

 

じゃないと…あんな態度にはならないだろうし。

 

思い出したくない気持ち…あの時の記憶、言葉…”あなたは優しすぎて面白くない”

 

―――不安が広がっていく…。

 

忘れられない感覚(トラウマ)が…僕を支配していく…。

 

もし、パルスィさんから同じ言葉を言われたら…。

 

「僕は、どうしたらいいんだろう…」

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

碧と上手く話せない…。

 

原因は分かってる…。白玉楼と地獄(仕事で言っていた事は聞いた)での出来事を見てしまったからだ。

 

でも…彼にそれを直接聞くのか?…何で、あんな事を…私以外の女にしていたの?…――って

 

出来ない!だって私は勝手に、彼のプライベートを覗いてしまった…軽蔑されてしまうんじゃ?…また、裏切られてしまうんじゃないか?

 

それが私の心を痛めつける…そして、もう一つ…彼に隠している事がある…。

 

 

 

『あらあら…ずいぶんと参っているようねぇ?』

 

「――あなた…いつから居たのよ…?」

 

『失礼ねぇ…私はあなた(水橋パルスィ)の一部…抑えきれない嫉妬心がスペルカードに宿った存在…言わばもう一人のあなたなのにねぇ』

 

「うるさい!私は…私は、そんな醜い顔で彼を見ない!――…そんな病んだ瞳で彼を見つめたりなんてしない!」

 

そう…彼女。…正確には私の溜まった嫉妬心が、スペルカード”舌切雀「大きな葛籠と小さな葛籠」”に宿り、具現化した存在だ。

 

『嘘ね。現にあなたが見ていたからこそ、私は此処にいるのよ?現実を見なさい?結局…あなたは、あの時から何も変わってないの?嫉妬に狂った嫉妬姫…そのものなのよ?』

 

「私は…私は!」

 

しかしそんな私の抵抗を嘲笑うかの様に、私(偽物)は答える。

 

『力の大半を私に持って行かれたあなたに、何ができると言うのかしらね?――…そうだわ、良いことを思いついたわ』

 

そうして、彼女は私の目の前にやってくる…。

 

「――な、何を?!」

 

『くすくす…ゲームは簡単よ。明日、私が彼とデートをするから、それが最後まで気が付かれなかったら私の勝ち。気が付かれたら負け。単純で良いでしょ?』

 

何を言っているんだ?そんな姿で…そんな声色で…碧が気が付かないはず…――

 

「あ、こんばんわ碧。夜分に悪いわね。…――え?元気か、ですって?えぇ…あなたの声を聞いていたわ元気になったわ。ここ数日、こちらも立て込んでてね…少し疲れていたのよ…。だから…明日、デートしない?…――本当!嬉しい!じゃあいつもの場所で待ってるわね…うんうん…えぇ…楽しみにしているわ。それじゃあおやすみなさい碧♪」

 

嘘だ…あれは完璧に私(水橋パルスィ)だ…なんで…?

 

『当たり前でしょう?私はあなたなんだから?――明日は付いてきなさいよね?これで全部が解決する…くすくすっ♪』

 

私は絶望した…もう、私が生きる意味なんてないんだ…。碧の事は…全部私(偽物)がやってくれる…。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

パルスィさんからデートの誘いが来た…嬉しいけど…なんだろう…この感じは…?

 

その日の夜に、紫さんと藍さんに確認を取り、翌日地底まで送ってもらうことになった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

「ごめんね、いつも待たせてしまって」

 

するとそこに居たのはいつも通りのパルスィさん。

 

「良いのよ。あなたを待つことも、楽しみの一つなんですから♪」

 

「今日は機嫌が良いんだね」

 

「えぇ、溜まってた仕事も片付いたし、久しぶりにあなたとデートできるからかしらね///」

 

少し照れた顔で言うパルスィさん……でも…―――

 

「さぁ、そんな事よりも今日は楽しみましょう♪」

 

「そうだね。じゃあ、どこから行こうか?―――」

 

そうして僕たちはデートを始めた。

 

午前中は呉服屋で色々な服を見て…

 

お昼は翡翠で定食を食べ…

 

午後はお茶屋さんでのんびり過ごした…

 

久しぶりにするパルスィさんとの話。ここ数日、どんなことがあったのか…楽しい事はあったのか…。

 

しかし、二人の会話は何かが”かみ合わない”…まるで最初からこうだったかのように…。

 

そうして時間は過ぎて行く…。

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

そろそろ夕日も落ちる頃、僕たちは再び橋の元に来ていた。

 

季節は秋、少しだけ肌寒くなる季節に差し掛かる…。

 

「…少し…寒いわね」

 

「…うん、寒くなってきたね」

 

そして沈黙…。ダメだ、上手く会話が続かない。

 

話したいことはたくさんあるはずなのに…。

 

どうして上手くいかないんだろう…。

 

二人で並んで歩く…。

 

でも、僕達の距離は…お互いに手を伸ばして、ようやく触れる事ができる距離…。

 

「………」

 

沈黙の中…パルスィさんからの視線をちらちらと感じる。

 

どうして良いのか分からないのか…それは僕も同じで、真っ直ぐパルスィさんに向かい合えない。

 

…このままじゃいつもと変わらない。

 

僕がパルスィさんを困らせているなら、その悩みを聞かなくてはいけない。

 

「あ、あの…パルスィさん」

 

「何かしら?」

 

「僕は…このままじゃ嫌なんだ…」

 

「――…嫌?」

 

心の中に閉じ込めていた気持ち…想いを伝える。

 

「上手く話せなかったり、変に遠慮したり…そういうの、嫌なんだ…」

 

「………」

 

「僕は…前みたいに、パルスィさんと楽しく話したい。一緒に手を繋いで歩いたり、ご飯を食べたり…二人で一緒に笑い合えるようになりたい!」

 

だから…。確信に迫らないといけない…。

 

「――だから、教えて。”あなた”は誰?」

 

すると驚いた顔をするパルスィさん。

 

「な、何を言ってるのよ!私は、水橋パルスィ!あなたの彼女よ!自分の恋人の顔も見忘れたって言うの!?そんな…酷いわ…ぐすっ…――」

 

「そう……ですか……。でしたら、なぜ…あなたは僕の簪を持っていないのですか?」

 

「そ、それは……今日は偶々、持ってき忘れただけで…」

 

(この人……やっぱり…)

 

「パルスィさんは…あの簪を…本当の僕だと思って、いつも肌身離さず持っていてくれてます。もう一度問います…あなたはいったい”何者”なんですか?」

 

すると、苦しそうに泣いていた顔が一変…その眼は病んでおり、その顔も狂気に満ちていた…。

 

 

 

『ばれたなら仕方がないわねぇ…ほら、そろそろ出てきていいわよ?』

 

すると後ろの方から…パルスィさん?

 

 

「――碧…ありがとう…碧!」

 

僕に必死に抱きつくパルスィさん…でもあの人は?

 

『さて、勝負はあなたの勝ち。私は再び消えるわね…「待ってください!」……?』

 

間違ってなければ…だけど…。

 

「あなたも…パルスィさんなんですよね…?」

 

「碧…?」

 

『くすくす…そうね、私も水橋パルスィ…正確にはその嫉妬心の塊って言った方が正しいでしょうけどね』

 

「嫉妬心の……塊…?」

 

『まぁ詳しい話は私(本物)から聞いた方が早いけど…。碧、あなたが白玉桜と地獄で女性と抱き合ってるのを、私(本物)が見てしまった。そして、その結果として膨大な嫉妬心の塊…つまり私が生まれたの…それを知られたくなくて、今日まであなたと連絡を取ることが出来なかった。自分が嫌われることを畏れて…ね』

 

そっか…やっぱり僕のせいだったんだ…。

 

悲しそうに俯くパルスィさん…。でも、意を決したようにパルスィさんは語り始めた…。

 

「私は……怖かったの…。もう一人の自分が…。嫉妬に塗れた私自身が…!そして、そんな醜い姿を…あなたにだけは見られたくなかったの…」

 

『あらあら…随分な言われようね?でももう遅い…私の姿は彼に見られてしまったわ』

 

パルスィさんも妖怪…そして、その力をあまり知らなかった…いや、知ろうとしなかった自分を殴りたくなる。だけど…!

 

「……でも、それは誰だって同じだと思う」

 

「『―……?』」

 

「人も妖怪も関係なく…みんな、どこか自分を隠している部分があって…その隠している部分も含めて、自分なんじゃないのかな」

 

「全部…本当の私……?」

 

『……へぇ?』

 

「そう、全部。みんなと話している時も。僕と二人で笑顔で話している時も…それから、力の具現化として出てきたもう一人のパルスィさんも……どれも本当のパルスィさんだ」

 

「……碧…」

 

『………』

 

「誰だって、色んな面を当たり前に持っていて……自分を使い分けてる。他の人に見せたくない、見られたくない部分って…誰でも当たり前に持ってるものだと思う」

 

「当たり前に…持ってる?」

 

「うん、そういうのを全部含めて『自分』なんだ…って」

 

そう……誰にでも…言うなら、今しかない…っ!

 

「ずっと…パルスィさんに言えなかったことがあるんだ…――それは、僕のトラウマ…以前付き合っていた女の子に、言われた言葉…」

 

すると、パルスィさんの表情が強張る…――当然だよね…誰かと付き合ってたって言ってなかったから…。でも、これは伝えなきゃいけない…――僕の為にも、パルスィさんの為にも…

 

「最初は一目惚れで告白された……どうしようか迷ってたら、親友の勧めもあって付き合うことにしたんだ…でもね、そんな中途半端な考えがいけなかったのかな……―――最後は、”あなたは、優しすぎて面白くない”って言われて…一方的にフラれたんだ…。そのせいか、僕は恋愛に対して、積極的になる事が出来なくなったんだ…」

 

「そんな……っ!あんまりすぎるわ!?優しい事の、何がいけないの!あなたの優しさに、私は救われた!それなのにっ!!」

 

僕を想って、本気で怒ってくれる……それだけでも嬉しい…でも――

 

「僕も同じ事を思ったんだ……―――だからこそ願った。”今とは違う環境で、素敵な出会いがある事を…幸せになれる事”を…そして、出会った…。僕が…心の底から愛したいと思える人……パルスィさんに!」

 

「でも…私は…――」

 

遮る様に言葉を続ける――

 

「だからこそ……パルスィさんには聞いて欲しかった!隠しては置けなかった!」

 

 

パルスィさんを不幸にしたくない自分も、嫌われたくないと思う自分も…。

 

嫉妬心から生まれたもう一人のパルスィさんも…。

 

「こんな僕を想ってくれるパルスィさん…。全部を含めて…そんなパルスィさんの事を好きなんです!たとえどんな顔をしても…僕の事を嫌いになっても…。それは…今までのパルスィさんを作ってきた全てなんだから!」

 

「み、碧……!」

 

そうして飛びついて来たパルスィさんを抱き締める…それから…。

 

「名前は分からないけど…あなたもパルスィさんなんだ!だから、こっちに来て!」

 

『……ゲームに負けた私は…素直に消え去る運命なのだけどね…』

 

「ゲームが何の事かは分からない…でもね、例え二人に別れても…どんな姿になっても。――僕はパルスィさんを愛し続ける!」

 

『――私は嫉妬に狂った女…何をするか分からないわよ?』

 

「それでも!それがパルスィさんの一部なら…僕は全部受け止めなきゃいけない!……だってそれが…人を愛するって事だから!」

 

「碧…///」

 

「もちろん…パルスィさんが許してくれるのなら…だけどね?」

 

『やれやれ…私を切り離して、浄化なり何なりすればいいだけでしょうに…本当に優しいのね…あなたは…』

 

「それはあなたも同じ筈です『…――?』もし、あなたが悪い存在なら…パルスィさんはこの場には居ませんから…。だから、そんなあなたを、僕は信じたいんです!」

 

すると、彼女は憑き物が落ちたような顔で……―――

 

『はぁ…興が削がれたわ…。いいこと…私(本物)?何かあったら、私はまた出てくる…そして、次こそ、あなたを消すかもしれない…だから、そうならない様に…二人でキチンと話をする事ね?……――そして、碧。あなたと過ごした時間…嫌じゃなかったわ///』

 

そう言ってパルスィさんと一つになる…。

 

強い光……その光が収まっていく……―――。

 

そして、目を開けたパルスィさんは――

 

「力が……戻ってる…?ううん…それだけじゃない…前よりも上がってる…これって?」

 

「あの人の分の想いまで受け取ったって事でしょ?」

 

「碧…そうね。私、一人で誤解して…一人で悩んで…一人で嫉妬してた…。だから…こんな私で良ければ…ずっと一緒に居て貰えませんか?」

 

無垢で…そして真剣な眼差し…。

 

「よろこんで。さっきも言ったけど…どんな表情でも…どんな姿でも…パルスィさんはパルスィさんだから…。僕も、これから、誤解させてしまう事とかあると思う…そんな僕で良ければ…こちらこそよろしくお願いします」

 

二人はそっと唇を交わした…お互いの存在を証明するように…――もう一人の自分に見て貰うかのように…

 

その日の夜…僕はパルスィさんの家に泊まっていきました―――…

 




スペルカードを見て思いついた話です。
また、その内スペカの方のパルスィさんにも出て貰う予定も…。
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