東方嫉妬姫   作:桔梗楓

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続きになります。
記憶を失った碧とそれを保護した彼女。
碧を守ると決めた者達。
それぞれの想いが交差します。



39話 想符「愛しき者達の心」

 

―――紫Side―――

 

「早朝からお集まり頂き、申し訳ありません……それと同時に、来ていただいた事に感謝致します」

 

そう言って私は目の前にいる人達へと頭を垂れる。

 

 

幻想郷の創設者の一人にして、妖怪の賢者とまで言われる私がこうして頭を下げるなどいつ以来だろうか?

 

 

でもそれだけ事態は切迫している……だって―――

 

 

 

「頭を上げて下さい、八雲紫。彼の…碧さんの事が心配なのは私達も同じです。むしろ直ぐに知らせてくれた事を感謝します」

 

そう言って私の肩に手を置いてきたのは、四季映姫―――

 

いつもなら憎まれ口の一つでも言うのだけれど―――

 

「いえ…これも私の不注意ですので―――「ダメよ紫?それ以上自分を責めては」…幽々子…」

 

私の親友、西行寺幽々子―――

 

「それに、彼の魂は“まだ”こちらには来ていない―――つまり生存はしていると言う事よ?」

 

 

そう―――映姫と幽々子の調査で碧君が少なくとも死んではいない…という事は分かった

 

でも……問題は―――

 

「―――その場所、ですね?紫さん?」

 

 

私の思った言葉を続けるように言葉を発するのは、古明地さとり―――

 

人が集まるという事で、サードアイを付けている―――無論、理由はそれだけではないのだけれど……。

 

 

「とにかく!早急にみーくんの居場所を探し出して、一刻も早く永琳に治療して貰わないと!」

 

そうして彼女にしては珍しく……いえ、初めて見るその焦り。

 

正直意外だった。彼女が自ら屋敷から出てきた事は。

 

 

「それを今から突き止める為に、こうして集まったのでしょう?確かに心配だけど、輝夜…あなたが取り乱しても事態は変わらないのよ?」

 

 

そう言いながら主である蓬莱山輝夜を嗜める八意永琳―――

 

 

普段は碧の為にと暴走する永琳を、輝夜が嗜めるというのが普通の光景なのだけど、今はそれが逆転してしまっている。

 

秋のお月見以来、輝夜は碧の事を心からの親友と思い、いつも気にかけてくれるようになった。

 

だからこそ、今こうして碧が行方不明になっている事態を静観できなかったのだろう。

 

 

「でも……このままじゃ、みーくんが…「その為に今日、皆さんをお呼びしたのです」…そうよね、それで…何か手がかりが掴めたの?」

 

 

一旦落ち着きを取り戻した彼女は、いつもの整然とした表情に戻り、一つでも多くの情報を聞き漏らさないようにしている。

 

 

「えぇ。まず、幽々子、それから四季映姫の協力により碧が死んではいない…そして死の淵に瀕している状態ではない事が確定情報として分かりました」

 

ほっと…息を撫でおろす他のみんな…。

 

 

「次に、碧の居場所ですが……さとり、頼めるかしら?「えぇ、もちろんです」…お願いね」

 

私に代わり、さとりが説明を始める。

 

「皆様…地霊殿の主、古明地さとりです。皆様の知っての通り、私の能力は“心を読む程度の能力”です。そしてこれは、実の所、人や妖怪などの生物に限った能力ではありません」

 

一瞬考える一同…しかし直ぐに、思い当たる節があったのか……

 

「なるほど…つまり、残された荷物の心…もしくは記憶を読む……所謂サイコメトリーのような事が出来る訳ですね」

 

流石は閻魔様…近い道具を操るだけあって直ぐに答えが出てきたわね。

 

「閻魔様…その通りです。呪われた…忌むべき力…それを人の為…大切な人の為に使える事を私は誇りに思います」

 

その能力ゆえに地底に封じ込められてきた彼女の言葉には、とても重い意味が…それと同時に、本当の意味で地上と地底が相互理解できる日も遠くないのではないか?と思わせる程の力が込められていた。

 

 

「さて、時間も惜しいので直ぐに始めます。紫さん…荷物を」

 

「えぇ…見つけられたのは、バッグ、カメラ…それから壊れた陰陽玉よ。……お願いね」

 

荷物を受け取ったさとりは真剣な顔つきで…―――

 

「任せて下さい…では…」

 

そして目を瞑り、意識をサードアイへ向ける。

 

 

一同が固唾を飲んで見守る中――――

 

 

「………ふぅ……成程、大体の事は分かりました」

 

!?!?

 

顔には出さないが、それぞれ、驚いているのは分かった。

 

「それで…碧の居場所に繋がる手がかりは…何か分かったのかしら?」

 

急かすような口調になってしまったが、今は一つでも多くの情報が欲しい。

 

 

「はい。まず、予想されている通り、碧さんは崖から落ち、大怪我を負いました。それも、自分一人では動く事すら出来ない状態です」

 

 

つまり、その状態の碧を移動させた者がいる。

 

 

待て…今と言う季節。一面に吹き荒ぶ吹雪…―――

 

「そこに…一人の女性が現れました。薄紫の髪…青い服…そして白いターバンのような物を巻いています。私は見た事がないので特定は出来ないのですが……紫さん?」

 

間違いない……彼女だ。

 

「えぇ…ありがとう、さとり。これで碧を迎えに行ける「本当に?!」…輝夜…本当よ。碧を連れて行った人物…それは…“冬の忘れ物”、“局所的な大寒波”……『レティ・ホワイトロック』…所謂、雪女とも呼ばれている妖怪よ」

 

 

レティは、冬にしか現れない…言わば自然現象のような存在。

 

だから、毎年現れる場所は変わるが、その拠点となる場所…つまり家の場所は把握している。

 

 

「場所は分かったから、直ぐにスキマを開きます。それと、さとり、輝夜…碧の部屋にいるパルスィに声を掛けてきてくれないかしら?あの子……昨日から塞ぎ込んじゃって…お願い…」

 

 

本当なら、保護者である私がどうにかしなくてはいけないのだろう。

 

でも、私の言葉では彼女に…パルスィに届かなかった。

 

だからこそ、この二人なら…二人を良く知るさとりと碧の親友の輝夜なら…きっと届く。

 

 

「任せて下さい、紫さん。あの子の事は…良く知ってますから」

 

「えぇ!一刻も早く碧の所に行きたいんだから…引きずってでも連れて行くわよ!」

 

「お願い。こちらは場所への最短ルートの計算と座標の固定をしておくから」

 

任された…とばかりに二人は家へと入っていく。

 

二人とも心強い……でも、輝夜…あなた、本当にアグレッシブになったわね?

 

永琳も驚いてるし……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

―――パルスィSide―――

 

こうして彼の眠っていた布団に包まれていると、色んな事が思い出される。

 

でも、彼は…碧はあの血だまりには居なかった……。

 

碧……もう会えないの?

 

私が直ぐに気が付かなかったから?

 

私がもっと、しっかり彼を見ていれば?

 

あぁ…碧…会いたい…でも…どうすれば…?

 

(ドタドタ)

 

?…何かしら?

 

(バタン!)

 

「入るわよ!「か、輝夜さん…入ってから言うのは少々お行儀が…」いいの!それよりもパルスィは…そこね、てい!」

 

喧騒の中、私を包んでいた布団が無理やりは剥ぎ取られた。

 

そして、いきなりの事で驚いている私の目に入って来たのは、息を荒げながらこっちを見据える輝夜さんと、苦笑いをしながらこちらを見る私の親友だった。

 

「え?…何…?何で二人が…?「水橋パルスィ!」っ、は、はい…」

 

思わず気圧されてしまうほどの一喝。

 

ただ、名前を呼ばれただけなのに身体が委縮してしまう程の圧倒的カリスマ感。

 

 

「まったく…死んだ魚みたいな目を……。いいこと?単刀直入に言うわ。みーくんの居場所が分かったわ「?!」…私達は、今からその場所へと直ぐに向かうわ。パルスィ…もちろんあなたも来るのよね?」

 

わた…しは……。

 

「パルスィ…あなたの苦しみも分かるわ。大切な人が死んでしまったかもしれない…自分が守れなかったのかもしれない」

 

そうだ…何もできなかった。

 

そして、みんなが必死で探しているのに、私はただ…自分の殻に閉じこもっていただけ……。

 

そんな私が、今更彼に…碧に会う資格なんて……「それは違うわ、パルスィ」…さとり?

 

 

「悪いけど…あなたの心の声を聞かせて貰ったわ。あなたの言いたい事も分かるわ。大切な人を助ける事が出来なかった。自分は何もすることが出来なかった。……でも、それだけじゃない。あなたが動かない本当の理由…それは、碧さんの生存を信じないといけない自分が、一番最初に諦めてしまった事……違うかしら?」

 

その通りだ……昨日見た光景…あの真っ赤な血が今でも頭から離れない。

 

そして、気を失う瞬間…私は諦めてしまっていた。

 

「そうよ……だからこそ…そんな私が彼の元に行く理由なんて…「馬鹿じゃないの!」…っ?!」

 

 

再び一喝される。でもその声には、先程まで無かった感情が込められていた。

 

 

「確かに、悲惨な光景を、一番間近で見てしまったあなたの気持ちは理解できるわ…。そして、諦めてしまう気持ちも…ね」

 

輝夜…さん…?

 

「でも!「っ?!」一度諦めてしまったから何!?もう二度と会ってはいけないなんて決まりでもあるの!?違うでしょ!あなたのみーくんに対する想いはそんな物なの?私は諦めないわ…みーくんは私の大切な親友。たとえ自分の立場を失っても、一度は絶望しても…絶対に守ってあげるって決めたのよ!あなたは違うの?!水橋パルスィ!!!」

 

言葉の強さとは裏腹に、今にも泣きそうな顔をしている輝夜さん……。

 

そうだ、私の心はもう…決まっている――――

 

 

「……くわよ……「何?」…行くわよ!それから伝えるの!どれだけ私が…いいえ、私達が絶望したか、どれだけ心配したか!うじうじなんてしてられない、彼に…碧に会って、私の想いを全部伝えるわ!」

 

言った。一晩溜め込んだ感情が溢れだした。そんな私を見た輝夜さんは―――

 

「良い顔になったわね。そんなあなただからこそ、みーくんは選んだ。(…少し…羨ましいな…)」

 

 

「(輝夜さん…心中お察しします…)さて、パルスィ。碧さんのいる場所への、移動準備は紫さんがしてくれています。直ぐに、出発できますね?」

 

「さとり…えぇ、行きましょう!」

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

―――紫Side―――

 

 

家の中から輝夜の怒声が聞こえてくる。

 

「あの子が、あんなに感情を露わにするのなんて…いつ以来かしらね…」

 

「永琳…。そうね、私も初めて彼女のあんな声は聞いたわ。……ありがとう」

 

「それは碧君の無事が確認できてから、改めて聞かせて貰うわ…それにしても、私は会った事は無いけれど…そのレティとはどんな妖怪なの?」

 

そうね、気まぐれな彼女ですし、遭遇することは滅多な事では無いでしょう。

 

「彼女は…所謂、雪女と言われる妖怪なのだけれども…、普通の雪女と違って行動目的と言うものが明確に無いのよ」

 

「行動目的がない?一般的な雪女は…“死”を表す白装束を身にまとい、男を凍らせ、その精気を吸い尽くすものだと聞いているのだけど?」

 

「えぇ…逸話や伝承でも…実際に彼女以外の雪女は、そういった行動を起こしている。でも彼女は違うの。冬になったら現れ…何の目的もなく雪原を歩く、そして春の訪れを感じると、再び消えていく…妖怪と言うよりも、どちらかと言えば、妖精や自然現象に近い存在なのよ」

 

そう、だからこそ不思議に思った。

 

「なぜ、そんな彼女が碧さんを連れて行ったのか?ですね?八雲紫?」

 

四季映姫…地獄の裁判長でも、彼女の事について把握は出来ていないらしい。

 

「えぇ、ただ…碧君が生きている事を考えると、少なくとも殺すためではないと考えられます。今は…その望みに掛けましょう」

 

 

そうしていると、家の中から輝夜に手を引かれたパルスィちゃんと、その後ろからさとりが出てくる。

 

そして、パルスィちゃんが私の目の前に来る。

 

「紫さん、ご迷惑をお掛けしてすみませんでした」

 

うん、あの二人に任せた事は間違いじゃなかったみたいね。

 

「いいのよ。あなたも私の大切な…そうね、妹みたいなものですから。「紫さん…」さぁ、それでは準備はいいですね?このスキマの向こう側はレティの家へと直通しています。私が先導しますので、皆さんは付いて来てください」

 

いよいよ、彼に…碧君に会える。

 

そう考えると、勇み足になってしまう。

 

でも…一番の懸念…―――

 

レティ…あなたは何故、碧を連れて行ったの?

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

―――レティSide―――

 

朝、目を覚ますと少しだけ冷たい空気が流れていた。

 

私には心地よい環境なのだけれど、この子には辛いのだろう。

 

寒さを凌ぐ為に必死で私の身体に抱きついて眠っている。

 

はぁ…それだともっと寒くなってしまうわよ?

 

でも、そんな事なんてお構いなしに抱きついてくるこの子を見ていると、不思議と心も…そして雪女であるはずの私の身体も温かくなっていく…何故かしらね?

 

「仕方がない子ね……えっと、少しでも部屋を暖かくして…あら?」

 

私が冬の間だけ使う家、その入り口に複数の気配が現れた。

 

「この力は……大妖怪クラス、それも複数…もしかして、この子の知り合い…?」

 

 

状況的に考えて間違いはないだろう……でも、今のこの子は記憶が―――

 

 

「ま、出ていかないと大変な事になりそうね…。事情を聞いてくれると有りがたいのだけれど…」

 

そうして私は、ハクをその場に寝せ、家の外へと向かった。

 

 

 

 

 

 

外に出た私が見た光景は、普通の妖怪であれば即倒したくなる様な絵図でした。

 

幻想郷の賢者…八雲紫様を始めとし―――

 

地獄の最高裁判長…四季映姫―――

 

冥界の管理者…西行寺幽々子―――

 

純粋な力では幻想郷屈指の方々が3人も…それに、後ろに控えている人達も、自分よりも遥かに格上の存在である事が分かる。

 

 

さて……対応を間違えれば、私も危険ですが…まずは―――

 

「こんな辺鄙な場所へようこそ。幻想郷の有力者様方、それと…初対面の方々もおりますので自己紹介を「ねぇ!碧はここに居るの?!」…碧…ですか?」

 

金髪で緑色の目をした…ふむ、妖怪でしょうか?…が、私の言葉を遮り聞いてくる。

 

それだけ、あの子は想われている…だとしたら、キチンと答えないといけませんね。

 

 

「碧…と言う方かは分かりませんが、子供を一人、保護しています」

 

すると八雲様が一歩前に出てきて―――

 

「その子供は無事なのかしら?それと、単刀直入に聞くわ。雪女と言われるあなたが、何故あの子を保護したのかを」

 

 

なるほど、確かにそれは普段の自分を知る者からすれば、不思議に思われても仕方がない。

 

 

「私とて、倒れている子供を見て見ぬふりが出来る程、冷徹な妖怪ではないのですよ?」

 

しかし、その答えに八雲様はいまいち納得がいってない様子でした。

 

 

「妖怪であればこそ…よ。あなたも感じたのではなくて?あの子の匂いを?そして、それが発する魅惑的な…甘露とも言える魂を?」

 

そうだ、確かに“その”感情が無かったと言えば嘘になる。

 

あの子の身体から発せられる匂いは、どんな妖怪…いいえ、人間もなのかもしれない。とにかく魅力的な匂いだった。それと同時に見えてしまった。あの美しく、どこまでも純粋な魂の色を。

 

自然の一部である自分。それ故に見えてくるモノもある。ですが―――

 

「―――確かに。あの子の魂はとても“美味しそう”に思えます。あの子から精気を貰えば、それこそ100年は季節問わずに現界していられる程の力もあるのでしょう」

 

しかし、この答えが不味かったのでしょう。それぞれの目つきが険しくなっていきます。

 

「……彼が死ねば、その魂を吸収することも出来ない。だから、あえて連れ去った…と?」

 

冥界の管理者…普段はおっとりとしているその表情からは、一切の感情が消え去り、私が一つでも回答を間違えれば、その瞬間に存在を消滅させようとしている気配を感じます。

 

失敗しましたね。普段、人とコミュニケーションを取らない事が仇となりました。もっとキチンと説明が出来れば―――

 

「確かに、連れて帰ったのは事実です。ですが―――「なら、碧は?!無事なの?!」…一命は取り留めています。ですが……」

 

記憶を失ったあの状態を、無事…と言えるのでしょうか?

 

目の前の人達の重圧…説明しても良いものか?という私の考え……。

 

張りつめた空気の中、家の扉が開き……っ?!あの子、まさか?!

 

 

 

 

そこに立っていたのは、昨日私が助けた子供。

 

記憶を失い、心の拠り所すら失っていた綺麗な子供

 

いくら手当をしたとはいえ、一晩で治る筈も無く、ましてや立ち上がるなんて出来る筈がない。

 

それなのに―――

 

 

「―――おかあ…さん…」

 

頭や腕、足に包帯や添え木をして最低限の応急処置と治療しかしていない。

 

右の手足は骨が折れたまま。身体も大量の打撲と裂傷で傷つき、普通の子供なら、立ち上がる事すら出来ない…いえ、そんな事をさせてはいけない。

 

「…おかあさん……」

 

それなのに、この子は……痛みに顔を歪めながら―――

 

折れた足を引きずりながら―――

 

ゆっくりと私の前にやってきて―――

 

 

「おかあさんは……ぼくが、まもるんだ…っ!」

 

目の前の大妖怪クラスの方々に向かい言い放つ。

 

 

 

あぁ…この子は何て……―――思わず涙が溢れそうになった。

 

たった一晩、それも起きていた少しの時間―――

 

それなのに、自分の怪我を厭わず、私の事を守ってくれようとしている。

 

 

 

「碧?!無事だったのね…。良かった「うるさい!」み、碧…?」

 

先程の金髪の女性が声を掛けるが、ハクはそれを聞かず…むしろ敵意を向けている。

 

「何で…?何でそんな目で私達を見るの?…私達は…「おまえたちは、おかあさんをいじめてた!おかあさんをいじめる人はゆるさない!…っ?!」…ぁ…あぁ…」

 

絶望の表情を浮かべる彼女……余程親しい間柄だったのだろう、でもそれよりも―――

 

「ハクっ!「お…かあさん…?」…私は大丈夫よ?だから心配しないで…ね?」

 

その言葉に頷きながらも、私の前からは離れようとしない……

 

―――今なお激痛で倒れそうになっているのにも関わらず。

 

 

「八雲様、事情を聞いていただけないでしょうか?」

 

私がもっと上手く説明できていれば―――

 

「その必要はありませんよ?」

 

すると、後ろに控えていた紫の髪をした小柄な少女が言葉を発した。

 

「私は地底に封じられた妖怪…その取り纏めをしている、『古明地さとり』と申します。大変失礼とは思いましたが、レティさんの心を読ませて頂きました」

 

なるほど、彼女は“そういう”妖怪なのか。

 

「なら、話は早いです。知っての通り、今のこの子には記憶がありません」

 

私の言葉に息を呑む一同。

 

「えぇ…そして、なぜそういった経緯になったのかも、全てが繋がりましたので…私から説明させて頂きます」

 

口下手な私に代わり、古明地さんが…私がハクを見つけた時の事、手当をしてそのまま看病していた事、記憶を失い心の拠り所を失い、壊れそうになっていたハクの母親代わりになってあげると言った事。

 

余程、信頼されているのでしょう。彼女の言葉を全員は真剣に聞いていました。

 

 

そして一緒に来ていた銀髪の女性(聞くと、永遠亭の医者だと言う)から―――

 

「……恐らくですが、強い衝撃と極度の寒さ。これにより脳が生命維持活動を優先させ、一時的に記憶の混濁、並びに幼児退行が起きている…と思われます」

 

「永琳…それは治療をすれば、元に戻るものなのかしら?」

 

八雲様の問いに、お医者様は―――

 

「……早い段階で、身体の治療に専念することが出来れば。……ですが、一刻でも遅れた場合、二度と記憶が戻る事はないでしょう……」

 

沈痛な面持ちで現状を語り、こちらを向くお医者様。

 

「私では何もできません…お願いします」

 

力強く頷く。後は、移動手段だけれども―――

 

「では、このまま直ぐに永遠亭へ連れて行きましょう?スキマは直ぐに用意するから…」

 

良かった…これで、この子が助かる……「いやだ!」……ハク?

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

―――ハクSide―――

 

 

目をさますと、おかあさんがとなりにいなかった。

 

いっしょにいてくれるって言ったのに……。

 

そしたら、外からこえがきこえてきた。

 

おかあさんのこえ?

 

ぼくはいたいのをがまんして、おかあさんのところにむかった。

 

 

 

 

なんとか、とびらをあけて見てみると……

 

おかあさんがこわい人たちにかこまれてた。

 

なんで?どうして?あんなにもやさしいおかあさんが?

 

そうおもったら、いたむからだをむりやりうごかし…おかあさんの前に立った。

 

「おかあさんは……ぼくが、まもるんだ…っ!」

 

 

でも、おかあさんはだいじょうぶだったみたいで、ぼくをだきしめてくれた。

 

よかった。でも、ほかのお姉さんが何かはなしをして、ぼくはどこかにつれていかれるみたいだ。

 

そんなのはイヤだ!

 

目の前の人たちは、みんなこわい…。

 

「おかあさん…怖いよ…はなれたくないよぉ…」

 

「ハク……」

 

「ぼくはどうしたらいいの?!助けてよ…おかあさぁん…ぐすっ…」

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

碧の…ハクの言葉に、誰もが言葉を失う……

 

守ると決めた。

 

幸せにすると決めた。

 

そんな彼が…ただの子供のように混乱し泣き叫んでいる。

 

 

きちんと治療を受け、記憶を戻す事……それが何よりも良い解決策なのに、誰も…それを口に出せずにいた。

 

 

無論、彼女達の力なら、無理やり連れて行き治療を受けさせる事なんて造作もない。

 

 

だが、誰も…それを口に出せなかった。

 

それほどまでに、今の碧…ハクは危うかった。

 

 

 

 

 

 

しかし、そんな空気を…碧が幻想郷に来て、初めてできた親友……永遠亭の主、蓬莱山輝夜が打ち破る。

 

 

 

「~~~っ!みーくん!あなたの想いは!今まで積み重ねた記憶は!意志は!思い出は!そんなことで忘れられるモノだったの!」

 

輝夜の一喝。

 

そこに居た全ての人達は彼女の言葉に気圧されていた。

 

「みーくんは!あの日、私の思い出を聞いてくれた…。一緒に音楽を奏でた…。そして、常識はずれで、人付き合いの苦手な私を…私のやりたい事を一緒に探して、見守ってくれるって言ってくれた!そして…初めて、対等な“親友”になって…愛称まで付けてくれた!」

 

彼女を知る人が見たら、誰もが驚愕するだろう。

 

それほどまでに、今の彼女は、感情的で、この場の誰よりも人間味を帯びていたのだから。

 

永遠亭の主としてではなく……ただ一人の、碧の親友…輝夜としての言葉。

 

その言葉は、その場に居た他の人達にも紡がれていく。

 

 

「碧君…あなたは、幸せを求めて、この幻想郷に来た。そして多くの出会いがあったわ。もちろん、私もその一人……。妖怪の賢者としてではなく、あなたの家族として言うわ!今を捨てろとは言わない!でも!あなたの事を、こんなにも心配して駆けつけてくれる人たちがいる!そんなあなたの家族になれた事を…私は何よりも誇りに思うわ」

 

紫の言葉に続くのは、彼に指針を指し示し、これからも毅然と接するであろう人物―――

 

 

「碧さん。前に言いましたよね?あなたは少し、優しすぎる。そして、その優しさを本当に理解できたとき、優しさは何よりも強くなる…と。あなたの優しさは私達…いえ、私達だけではなく様々な人達との結びつきを生みました。そして、これからも多くの出会いがある筈です。その出会いを、上手く繋ぐ力…それがあなたの“優しさ”の在り方ではないのですか!」

 

そして、幽霊でありながら、全てを包み込むような優しい微笑みを浮かべる人物―――

 

「ねぇ、碧くん。前に、魂には色があるって事を話したでしょう?魂は、その人の、その時の“在り様”でその色を変えるの。あの時の碧君の色は希望と幸福に満ち溢れた…キラキラとした宝石みたいな色をしていたの。でも、今のあなたの魂は真っ白…ねぇ?それがあなたの望む魂の在り方なの?違うでしょう?あなたの目指すモノを…大切な人と幸せに過ごすために、その魂を輝かせてきたのでしょう?…目覚めなさい。あなたは、戻るべきなの。私の様になってはいけない。空白に戻るのではなく、今を生きる為に…その魂を輝かせなさい!」

 

「魂の在り方……成程、勉強になります。私からも言わせて貰いますね?輝夜さん程、近しい仲ではないですが…それでも、初対面で私の事を気味悪がず、その上で私の事を労ってくれましたね。あなたのその優しさに、私は何度も救われたのですよ?今の碧さんの恐怖は痛いほど伝わってきます。ですがそれを拒まないで下さい。全ての想いを受け入れて下さい。さて、では後は任せましたよ―――パルスィ―――」

 

大神碧の恋人。最愛の運命の人―――

 

大粒の涙を、ボロボロとこぼしながら…彼女はただ一言、優しく言葉を紡ぐ…―――

 

 

 

 

「―――……お願い、戻ってきて?……私の大切な“碧”」

 

 

 

 

縋るような、諭すような―――

 

それは、彼女の……いや、彼女達の心からの想い。

 

 

 

全ての言葉を聞き終えたハク…碧に…異変が起きる。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

―――ハクSide―――

 

 

知らないはずのお姉さんたちの言葉。

 

それが、心の中にある“何か”をざわつかせる。

 

そして最後の、緑色の綺麗な瞳のお姉さんから言われた瞬間、自分の中にある過去の記憶……その全てがフラッシュバックしていく。

 

 

 

“でもね…月を離れ、幻想郷で生活をするようになった私は自分の本当にやりたい事を探すことに決めた。そして、これからも探し続ける…あなたには…それを一緒に探して…見守って欲しいの…これが、今の私の一番やりたい事”

 

かやちゃんとの記憶―――

 

 

 

“碧君。たとえ離れていても、あなたは私の…いいえ、私達の大切な家族だから…いつでも帰って来てね?”

 

紫さんとの記憶―――

 

 

“優しさは、ある意味で病気の様な物です。自分にとっての優しさ、相手にとっての優しさ…。その二つが完全に一致しなければ、優しさは『自己満足な偽善』となってしまう。本当の優しさとは、相手の全てを背負う、”責任””勇気””精神力”がいります。そして、ただ優しいだけじゃ駄目なんです。相手の”怒り”や”苦しみ”、”憎しみ”や”妬み”…そういった負の思い…その理由を理解するのです”

 

映姫さんとの記憶―――

 

 

“あなたの命は、もうあなただけの物じゃないの、大切な人と生きるんでしょう?幸せを掴むんでしょう?だったらもう…無茶しないで?これからは私達が何とかするから?だから約束して…――絶対に無茶はしないって…ね?”

 

幽々子さんとの記憶―――

 

 

“ふふっ…。私は優しくなんてないわ。何の思惑も無く…普通に話ができるあなたこそ、本当に優しい人間なんだと思うわ…。不思議ね…あなたの様な人間もいるのね…”

 

さとりさんとの記憶―――

 

 

“見た所、普通の人間みたいだけど…あなた、地上から来たんじゃないの?”

 

“私は水橋パルスィ。種族は橋姫…これでいいかしら?”

 

“―――…碧…なの?”

 

“あの日…私は自分の嫉妬心を抑えられなかった…。あなたに醜い顔を見て欲しくなかった…。でも、そんな私の事を…あなたは心配してくれて、優しく抱きしめてくれたわ。……温かかった…。ずっと抱きしめて貰いたかった。そして、目の前にあなたの顔があって…そこで私の…それまで抑えていた恋心が解き放たれたの…。あんな形で…あなたの唇を奪ってしまってごめんなさい…”

 

“ぐすっ…。こんな私に…いいえ、私で良ければ…お願いします…碧///”

 

次々と駆け廻っていく、パルスィさんとの記憶―――

 

 

 

“そういえばさ~、茜ちゃんこの前また告られたんだって?”

 

“うげ…祥華、なんで知ってんの?”

 

“や、告ったのがうちの友達やったんよ~。悪い子やなかったやろ?なんで断ったん?”

 

二度と会えない親友との記憶―――

 

 

 

 

そして訪れる静寂―――闇……

 

その闇が、光によって照らしだされていく―――この記憶は…?

 

 

 

 

“ねぇ、おかあさん。”

 

“どうしたの碧?”

 

それは、在りし日の記憶―――

 

“なんでぼくの名前…碧ってむずかしい漢字の碧なの?”

 

優しげな表情を浮かべる母親―――

 

“ふふっ。そうねぇ…あなたも大きくなってきたし、教えてあげましょうか?”

 

“うん!”

 

“『碧』は青と緑の中間の色。落ち着いた色合いの中で、信頼感や安心感を与えてくれる色なの”

 

“む~…落ち着けるってこと?”

 

優しく冷たい手で、僕の頭を撫でながら続ける母親―――

 

“そうね…。でもそれだけじゃないのよ?碧色の宝石はキラキラと光り輝く物、そしてあなたには、宝石のように綺麗に澄み切った心と、いつも落ち着いて、みんなに優しくできる人になって欲しい。そういう意味を込めて『碧』って名前にしたのよ?”

 

“そっかぁ!なら僕、誰よりも優しい人間になる!”

 

“えぇ…あなたならなれるわ…そして、いつか…出来る大切な人を…その優しさで包み込んであげてね?”

 

 

―――あぁ…そうか、僕は…こんなにもみんなに愛されてたんだ。

 

 

ありがとう…みんな……ありがとう……かあさん…―――

 

そうして僕の意識は沈んでいった。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

―――パルスィSide―――

 

あの後、碧はその場に倒れた。

 

心配した私達は直ぐに駆け寄り声を掛けると―――

 

「みんな…ありがとう…―――」

 

と、言って、優しい顔を浮かべていた。

 

永琳さんの方を見ると、どうやら記憶を取り戻したみたいだ。

 

ただし、怪我の事もあるのですぐさま、紫さんの開いてくれたスキマで永遠亭へと移動した。

 

 

怪我の具合は、とてもひどい状態で、レティさんが応急処置をしてくれていなければ手遅れになっていたと言う。

 

そして今は永遠亭の病室で碧は眠っているのだけど……。

 

「…っ……かあ…さん……、一人は…嫌だよ…」

 

うなされる碧……何とかしてあげなくちゃ…そう思ったのだけど…。

 

 

「まったく…最後まで手を焼かせてくれる子ね…ハク…いいえ…碧」

 

 

そう言ってレティさんが、碧の手を握り…優しく頬を撫でてあげる。

 

 

その姿はさながら聖母のようで、思わず見惚れてしまうほど、美しく、尊いものだと感じた。

 

「う…ん……かあさんの手……冷たくて…おちつく………すー……すー…」

 

そう言って、安らかな寝息を立てて再び眠りに就く碧。

 

良かった……。それと、言わなくちゃ!

 

「あのっ!レティさん!」

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

―――レティSide―――

 

寝息を立てて眠る碧。

 

これでようやく安心できる。

 

すると、隣に座っていたパルスィさんが―――

 

「あのっ!レティさん!」

 

少し声が大きかったので、しーっと指を立てて静かにするように注意する。

 

あ、と恥ずかしそうな顔をするパルスィさん。クスッ♪…可愛い子ね。

 

「あの…レティさん…今回の件…ありがとうございました…その、何も知らずに…私はレティさんに…」

 

あぁ…この子も中々不器用な子だ。

 

「元はと言えば私の説明下手なのもあるから…それに、この子が…碧が記憶を取り戻したのは、あなた…いいえ、あなた達とこの子の絆が…積み重ねてきた思い出が強かったから「それでも!」…?」

 

 

「それでも……碧の心が壊れなかったのは…レティさんが、ずっと支えてくれていたからです。永琳さんも言ってました、もし、仮に命が助かっても、生きる事を諦め…心が壊れてしまっては…手遅れになっていたって」

 

そんな真っ直ぐに言われると、照れてしまうわね…。

 

「いいのよ。この子が無事だった…それだけで私は十分なのだから」

 

そして軽く、碧の頭を撫でる。

 

くすぐったそうに…でも、嬉しそうにする顔は、私の心を温かくしてくれる。

 

 

「それでですね「…?」碧が目を覚ましたら…ぜひ、二人でお礼をしたいんですけど…「それは無理ね…」…え?」

 

恐らく……ううん、これは間違いないでしょう。

 

「目を覚ました時、この子は私との出会いを忘れているはずです。ですからこの出来事も…できればこの子には伝えないでおいて欲しいの。あんな怖い目に会った事を…辛い目に会った事を…思い出させたくないの…」

 

「そんな…そんなのって…悲しすぎます!」

 

パルスィさん…私の為に涙を流してくれるの?

 

「いいのよ?私は冬の妖怪、冬の忘れ物、この出会いは偶然のモノ…だから、これでいいのよ?」

 

私は彼女の涙を拭い―――

 

「こうして私の事を思って、悲しんでくれている人がいる…それだけで…ね?」

 

ん……それに、時間みたいね―――

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

―――パルスィSide―――

 

 

碧の頭を撫でながら、慈しみの笑みを浮かべながら…彼女は…レティさんは言った。

 

「そんな…そんなのって…悲しすぎます!」

 

こんなに優しい人を、私は疑ってしまっていた。

 

碧に通じる優しさ。

 

在るがままを受け入れる自然の心。

 

それを忘れたままにさせるなんて…あんまりすぎる!

 

そう思うと、私は涙が止まらなかった。

 

でも、そんな私の涙を彼女の手が拭ってくれた―――少しずつ、消えゆくその指で。

 

 

「…え?…なんで…?」

 

 

「どうやら…時間みたいね。今年は冬が短かったわ……でも、それ以上に良い思い出が出来た」

 

少しずつ、光の粒子になり消えていくレティさん。

 

「パルスィさん。あなたは笑顔でいて頂戴?この子が目を覚ました時、安心できるように」

 

あぁ…こんな時にまで、碧と私の事を…。

 

「私の、母親としての役目は終わったけれども…この子の事は、きっとどこかで見守っているから」

 

「レティさん!?待って!」

 

その顔に悲壮感は無く……レティさんは、最後にとっても綺麗な笑顔で―――

 

“私の可愛い子供を……頼んだわよ?”

 

そう言って、光の粒子となって消えていった。

 

 

「レティ…さん…」

 

約束を破ってしまうけど、碧が起きたら全てを伝えよう。

 

例え覚えていなくても―――

 

誰よりも冷たく、誰よりも孤独な彼女は―――

 

誰よりも優しく、誰よりも母性に溢れていた―――

 

そんな彼女…レティさんとの思い出を…必ず伝えよう―――

 

そしてまた、次の冬に会えたなら……二人で絶対に“ありがとう”の言葉を伝えよう。

 

 

 





少々長くなってしまいましたが、これでレティとの出会いの物語を終わります。
原作との性格の違いはありますが、当作品ではこういったレティにしました。

ご意見、ご感想、アドバイスなど、よろしければお待ちしております。
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