宮藤芳佳の孤闘~第二次ネウロイ大戦異話~   作:芳佳ファン5号

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更新遅くなって本当にすみませんでした。展開に悩んでなかなか書き進められませんでしたが、大まかな流れは決定しておりますので流石にこれ以降、今回の期間を越える無更新は無い……と思います。


第七話

「艦長、本当にやるのですか!?」

 

 砲術長・川谷中佐の声が艦橋に空しく響く。

 彼は我が皇国海軍が誇る新鋭戦艦、金剛の砲術長を任されるほどに優秀な男だが、それでもこの作戦は腑に落ちないらしい。

 実際の所、表だって反論しないだけで本音では作戦の中止を望んでいる者がほとんどなのだろう。

 私の代わりに副長が答える。

 

「砲術長、ここでネウロイを撃破せねば欧州に更なる被害が生じる。ここで、我々がやらねばならないんだ」

「しかし!」

「これは命令なのだよ、中佐。司令部からの命令だ。今さら一艦長に過ぎない私が覆す事は出来ない」

「艦長…」

 

 副長に反論しようとする砲術長を黙らせる。

 彼が反論しようとする理由もわかる。が、副長の言う通りここで我々がやらなければ欧州が更なる戦火に覆われる。

 我々しか、あの怪異共を殺せないのだから。

 

 

 

 

 

 機器を背負い、ストライカーに足を通す。

 

「機体点検終了。全て異常なし。バッテリーオン。フラップ全開。魔法混合コントロール、フリー。エナーシャを回して下さい」

「あいよ…っと!」

 

 整備兵がエナーシャを回し、エンジンが始動する。動き始めたそれが私を空に連れていかんと大声を上げる。

 

「魔導エンジン接続を確認。スロットル開く。空気圧良し。高度計、燃料ともに良し。冷却機稼働、油温正常。ロック解除、拘束装置良し。宮藤芳佳、発進準備完了、です」

「芳佳ちゃん、がんばってー!」

 

 裕子ちゃんの声援に手を振る。元気だなあ、あの子。

 

「発進装置、準備完了。準備はよろしいか?」

「問題ありません」

「では、加速する。手すりに掴るように」

「了解」

 

 私とストライカーが乗る「モノ」は見渡す限り真っ直ぐに伸びるレールの上を滑るように走る。一切繋ぎ目の音が出ないのは、何本ものレールを溶接で繋げて一本のレールにしたからだ!と技術士官が得意そうに語っていたのを思い出す。

 そう。私は今、ストライカーを装着して列車に乗っている。

 もちろんただの列車では無い。この見た目はただの無盖貨車のように見える列車は、他の列車が絶対に持っていない特徴を持つ「兵器」なのだ。

 

『射出速度に達した。そちらは発進可能か?』

 

 後ろの通信装置を搭載した車両から通信が入る。

 

「宮藤芳佳、飛行可能です」

『了解。これより発進、僚機を旋回待機し、合流後は第一航路を航行、堀笛基地に着陸せよ』

「了解」

『よし、これより飛行及び射出訓練を開始する。射出用意』

 

 さあ、飛ぶぞ。

 

『発射十秒前。九、八、七……』

 

 衝撃に備える。

 

『三、ニ、一、発射!』

「っ!」

 

 パンッと火薬の音が鳴り、グン!と体に強烈なGがかかる。魔法力で強化されたこの体でさえ痛みを覚えるのだ、おそらく生身ならひとたまりも無くバラバラになるだろう。

 

「はあっ!」

 

 失神しそうになるのを堪え、限界ギリギリの回転数までエンジンを回す。そして、一際重い荷重を感じた直後。

 

 ふっ。

 

 体が唐突に軽くなる。まるでどこまでも飛んでいけそうな感覚すら感じる。

 離陸は成功だ。

 

「…宮藤芳佳、離陸しました。上空待機に移行します」

『了解、僚機を待て』

 

(この痛みは何度やっても慣れないな)

 

 と心で呟きながら了解、と返して眼下を見下ろす。そこには広大な森とそこに敷かれたひたすら一直線のレール、その上を煙を上げ疾走する一つの列車があった。

 

 ──九六式航空歩兵射出車。

 それが私が乗っていた列車の名である。

 本来この列車は、低練度のウィッチでも飛行場無しで飛べる、という構想の下で陸軍が開発を進めていたらしい。しかし、陸軍は大きな壁にぶつかった。陸軍はカタパルトの開発経験が無かったのだ。それでも二年ほど独自で開発を目指したらしいが、流石に0からの開発は金も時間もかかりすぎ、遂に頓挫。泣く泣く海軍に依頼して「共同開発」と相成った。しかし、列車に搭載が出来るほど小型化すると力も不足する。よってまだ幼くとても軽い海軍最年少の私達が呼ばれた。なので、この兵器はあくまで「海陸共同開発」。来週にも一人陸軍の子が来る事になっているから、ようやくその体を成す事になる──

 というのが昨日酔った技術士官が私たちに喋った内容に私が客観的事実を加えたものだ。正直、私はここに来た理由が「軽いから」だけでは無いような気がしてならない。だって──

 

『芳佳ちゃーん!飛んだよー!』

 

 通信が入る。

 下を見ると、裕子ちゃんが来るのが見えた。

 

『宮藤、宮崎両機は第一航路を飛行、一三○○に基地に帰投せよ』

『りょーかい!』

「了解しました」

 

 裕子ちゃんが近付いてくる。

 これは私の勘だけども、彼女は天才的な飛行センスを持っている。

 その証拠に今まで飛行訓練などしたことも無かったにも関わらず、たった一ヶ月で美しく飛べている。おまけに記憶力も良いので座学も優秀と来ているし、このまま行けばすぐに有効な戦力になるだろう。

 

「行くよ、裕子ちゃん」

「うんっ!」

 

 そして私たちは、第一航路と名付けられた訓練コースを飛び始める。この航路は試験用線路から基地まで百キロほどの一番基本的な航路であり、私たちが初めて飛んだのもこの航路でもある。

 

「ねえねえ芳佳ちゃん。私、この航路、すっごくきれいで大好き!」

「うん、そうだね」

 

 初めて飛んだときは怖さから泣いていたのに、もう回りを見渡せている。これも彼女の才能の発露だろう。

「前」でもこんなに早く空に馴染む子はそういなかった。

 あれ、でも私の時もそんなものだったっけ?

 

 ……そっか。私が初めて飛んだ時は──

 

『どうした宮藤。進路がずれている』

「っ、はい。申し訳ありません、教官」

「芳佳ちゃん、大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ」

 

 進路を修正する。

 考え事をしていたら進路がずれていたらしく、横から教官に言われなければ大きく進路から外れる所だった。

 教官の仕事はナビゲートと飛行の教育や実験のデータ集め、更には普段の私たちに対する初等教育。勿論今の私のようにミスがあった時のフォローも仕事なのだから相当な激務だろうに、それを気にせず私たちに飛行を教えてくれる教官に私は尊敬の念を抱いていた。

 聞けば元エースウィッチで、大戦の終結に伴って航空歩兵を引退。今のように飛行機で随伴して後進のウィッチの教育をずっとしているのだそうだ。

 

(……私もやりたかったなあ、そういうの)

 

 第二次ネウロイ大戦終戦後、教官にならないかって誘いがいくつも来ていたことを思い出す。

 結局それを全て蹴って医学の勉強をしたけど、それも二年で無駄になったし。

 

(私はその先を、絶対に変える)

 

 眼下に広がる大陸を見下ろす。

 

(二度と、ここに血を撒いちゃいけないんだ)

 

 そう心に誓ったちょうどその時、遠くの方に一筋の線が見えてきた。

『宮藤、宮崎機、着陸体勢に入れ』

「了解です」

「了解しましたー!」

 

 堀笛基地に着いたのだ。

 

 

 「二人とも、本当に上達が早いな。特に今日の飛行。見ていたこちらのお偉方が陸軍の奴らに早く見せたいなんて喜んでたよ」

「有難う御座います」

「ありがとうございますっ!」

 

 いつものように教官と飛行後の報告を兼ねた会話をする。これも彼女の仕事の一つで、任意の情報を数値化出来る固有魔法を使って私たちの飛行や実験のデータを纏め、アドバイスまでしてくれるのだ。ただそのアドバイスが厳しく、失敗すると七歳児相手に容赦のない言葉が飛んでくる。飛行経験の無い七歳児をすぐに飛べるようにしろ、という上の無茶な命令をこなすには仕方がないのかもしれないが、そのせいで裕子ちゃんはこの時間になるとすっかり怯えるようになってしまった。

 ちなみに今日は褒めてもらったので、裕子ちゃんはすごく嬉しそうにしている。

 

「ところで宮藤。今日は少し集中力が切れていたようだが、大丈夫か?」

「すいません、考え─いいえ、景色に見とれてしまって」

 

 おっとあぶない。考え事と答えればこの教官だし、色々聞いてくるに違いない。

 

「ふむ。だがいつも飛んでいる所じゃないか」

「……今日は天気が良かったので。はい」

「……まあ良い。何か悩んでいたら言うんだぞ?」

 

 ふう。引き下がってくれたことに安堵する。

 

「いやな?実は昨日、お前たち二人の飛行を見た上が第三航路の使用を提案してきたんだ。私としては問題無いと考えてるんだが、もし宮藤の体調が悪ければ延期した方が良いと思ってな」

 

 うん?第三航路って何だろう?

 

「?だいさん航路?」

 

 裕子ちゃんも知らないようで首を傾げている。第一、第二は飛んだ事があるが、第三は初耳だ。

 

「ああ、お前たちは知らないのか。第三航路はな……」

 

 教官が地図を広げる。

 そこには私たちが普段飛んでいる平坦な森上空の第一航路、たまに飛ぶ山地上空の第二航路の他に確かに一筋の線が引かれていた。

 

「あれ?でもこの航路、場所が変ですよー?」

 

 裕子ちゃんの言う通り、この航路は少し変だ。特に通る場所が。

 

「そうだ宮崎。この航路は少し特別なんだ。何せ荒漠地帯の訓練用なんだからな」

「成程。だから航路の大半が荒漠地帯なんですね」

 

 地図によると、この航路は射出地点から南西へ向かい荒漠地帯との境になっている川が北西に向きを変える地点で川を越え、そして付近の湖の砂州を通過。その後その湖に沿って東に方向転換、基地に戻っている。

 

【挿絵表示】

 

 

「そうだ。前の戦……ああ、まだ二人とも生まれてなかったか?とにかくその戦いで怪異共が空を飛ぶようになって、空中戦の必要性が出てきて、あらゆる状況下での対応が可能な様に作られたのがこの航路だ。前の戦の時はまだストライカーも発展途上で、対ネウロイ訓練もされず多数のウィッチが出撃、撃墜されたからな」

「……そんな酷かったとは」

 

 訓練もしないで出撃なんて死ぬのと動議だ。私が初めて飛んだ時も撃墜されなかったのは奇跡としか言いようが無い。改めて前の大戦の混乱を実感する。

 

「……私の戦友も、カールスラントで墜とされた」

 

 訓練さえしていれば防げたかもしれない戦友の死。その悔しさを想像すると、教官が私たちの指導に厳しい理由が少しわかった気がした。

 と、そこで今まで黙っていた裕子ちゃんが口を開いた。

 

「えっと、それって『ネウロイたいせん』ですよね?」

「ああ、そうだ。そうか、確かお前のお祖父様も参戦なされてたな。たしか狩国海軍の観戦武官だったか?」

「ううん!お祖父様は『こんごー』に乗ってたんですよー!」

「……うん?」

 

 今話されているのは彼女の祖父、宮崎中将の事だろう。と言うことは『こんごー』は軍艦の名前か。なるほど、年齢的に前の大戦に参加してるはずだし、辻褄も合う。

 と、私が一人合点している横で、教官がなにやら困惑している。どうしてだろう?

 

「おい、宮崎。戦艦金剛は前の戦いには参戦していないはずだが?」

 

 あれ、二人の発言が食い違ってる?

 

 

「うーん……。でも、お祖父様は『こんごー』で、『()()()()()()()()()()()』って所で──」

 

 

 その瞬間。

 部屋の空気が一気に冷たくなった。私が少し驚くくらいに。

 

「──宮崎、お前のお祖父様……宮崎中将は『ヴィルヘルム・スハーフェン』とおっしゃっていなかったか?」

「ひっ!?せ、先生、ど、どうしたんですかー…?こわいですよぉ?」

 

 裕子ちゃんは教官の出す巨大な雰囲気に完全に怯えている。でも、本当に教官はどうしたんだろうか。

 

「宮崎、質問に答えろ。はいか、いいえかで」

「は、はい!た、確か、そう言っていたような気がしま……す……」

 

 あ、威圧感で気絶した。

 

「……ヴィルヘルム・スハーフェン」

 

 うん。今の教官、暴走しかけてる。あまりの感情の乱れからか、衰えているはずの魔法力が一時的に坂本さん(全盛期)くらいに戻っている。

 

「おい宮藤。私は少し用が出来た。第三航路の件はまた後日。今日はもう放課だったな?」

「はい、そうです教官。座学は午前に終わっています」

「よし、今日は解散。明日も訓練があるから休め」

 

 立ち上がり、出ていこうとする教官。

 しかし、彼女は扉の前で立ち止まった。

 

「あの、教官。どうかされましたか?」

「──お前は、どうして自分達がここに集められたか知っているか?」

「あのカタパルトのためだけじゃ無かったって言うんですか?」

 

 気になっていたのだ。なんでわざわざ大陸で実験をやる必要があるのか。こんな実験、やろうと思えば北海道でも出来る。

 

「宮藤、お前本当は七歳じゃ無いだろ?」

「よく言われますが歴とした七歳です、教官」

 

 教官の言うことも間違ってはいないけど。

 

「……お互いの固有魔法をよく知っておけ。生き延びるカギになる」

「……どういうことですか?」

「ああ、それともう一つ。『第三航路には行くな』。それだけは守れ。もし命令が出たら故障を装って川に着水しろ。じゃあ」

「教官、それって……行っちゃった」

 

 うーん、何が何だかわからない。

『ヴィルヘルム・スハーフェン』という恐らく地名な単語が出た途端に教官が豹変した理由もわからないし、ここに呼ばれた理由とか『第三航路には行くな』だとか言われてもサッパリだ。

 

「裕子ちゃんは……寝てるし」

 

 ああ言われると裕子ちゃんの固有魔法が気になってくる。考えてみると知り合ってから数ヵ月経っているのに固有魔法すら知らなかった。

 

「まあ、それは裕子ちゃんが起きてからで良いか。とりあえず『ヴィルヘルム・スハーフェン』を調べてみようかな?」

 

 戦争を止めるためには知識も必要だし、ちょうど良いか。

 そう思った私は、裕子ちゃんを担いで図書室を兼ねた教室に向かった。

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