宮藤芳佳の孤闘~第二次ネウロイ大戦異話~   作:芳佳ファン5号

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久しぶりの本編ですね。投稿に間が空いてしまい本当にすいませんでした


第十話

『「彼ら」は人類にとって完全なる敵ではない』

 

 俺の叔母がよく言っていた言葉だ。

 彼女は、経歴だけ見ればハイデルベルク大学を首席卒業した若き秀才であり、特に専攻の怪異に関する分野では五指に入るというまさに「天才」である。

 だが、実際には学会からは見放され、世間でも常時白い目で見られ変人扱いされる孤独な研究者だった。

 何故優秀な彼女を学会は干していたのか。その理由には、冒頭の言葉が関係していた。

 

 そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 彼女はその持論を絶対に譲らなかった。何度馬鹿にされようと、ハノーファーの自宅で資料に埋もれながら日夜研究に邁進していた。彼女は、本気で人類と怪異の和解を目指していたのだ。そしてその姿勢は、この戦争が開戦した時でさえ変わることは無かった。

 しかし。

 最終的に、「怪異とネウロイは別」と言って続けられた彼女の研究は、1916年を以て幕を閉じることとなる。

 それは、二年前のこと。

徴兵され、ヴィルヘルム・スハーフェンの港湾を歩哨する毎日を送っていた俺のもとに、母からの電報が届いたのだ。

 

『妹が失踪した。家はもぬけの殻になっている』

 

 #############

 

 

 

 

 

 私は、暗闇を走っていた。

 何も見えないその闇に、誰かがいる気がして。

 ただただ闇雲に走った。

 

(あれは……!)

 

 遥か先に、白い服が見えた。私はスピードを上げる。

 そうだ、あの背中は。

 

「教官!」

 

 声をあげ、私はその背を追おうとする。ここで追い付かなければならない。そんな気がした。

 

「教官!…………!?」

 

 が、それが出来ない。何かに足を掴まれ、進めない。

 

「放して!お願い、放してっ!」

 

 足は進まない。私はせめてと必死に手を伸ばす。

 

「教官……!」

 

 そして、教官が闇に呑まれ、私の手すらも何かに掴まれて────

 

 

 

「……………………はっ!?」

 

 目が覚めた。

 

「ここは……」

 

 視界が明るい。もう朝なのか。

 そう思ったところで初めて、私は手が誰かに掴まれていることに気が付いた。

 

(誰!?)

 

 即座にその「誰か」を確認すべきと判断、私は横を向いた。

 

 

 

 

 

「おはよー!芳佳ちゃん!痛いところない!?」

 

 手を掴んでいたのは、同室の裕子ちゃんだった。

 

「……おはよう、裕子ちゃん」

 

 一瞬で力が抜ける。

 状況から見て、おそらくいつもの時間になっても起きない私を起こそうとしてくれたのだろう。

 この分だともうすぐ朝食の時間だろうから、朝の鍛練は出来そうにない。

 

(何してるんだ私!寝てる場合なんかじゃない!)

 

 己を叱りつける。こんな時間まで寝てしまうなんて弛みすぎだ、と気を引き締める。

 そして、ベッドから降りようとして──

 

「あれ……?」

 

 猛烈な違和感に襲われた。

 

(……何?どこかおかしいところが……?)

 

 いつもどおりの部屋。

 いつもどおりの外の森。

 いつもどおりの学習机。

 部屋の中に違和感を感じる要素は無い。

 ──違う。もっと根本的な所が違う。

 

 私のそぶりが気になったのか、彼女が振り返る。

 

「?どうしたのー?……あっ、もしかしてケガあった!?いむ室いこうか!?」

 

 怪我?

 私は、怪我するようなことをしたの?

 そういえば、さっきも痛いところがどうとか言われた気がする。

 

(私は、何かを忘れている……?)

 

 しかし、そう思った次の瞬間。裕子ちゃんの次の言葉で、私は全てを思いだす。

 

 

「だって芳佳ちゃん、昨日ネウロイと戦ったんでしょ!?」

 

 私は、ハッとした。

 そうだ。

 昨日、私は何者かに連れ去られる教官を追いかけて、そして──

 昨日の感覚が徐々に甦ってくる。あんなにネウロイと戦ったのは何年ぶりだろうか。

 と、ここで私は矛盾に気付いた。

 

「あれ、じゃあどうしてここに……?」

 

 そう、朝から感じていた違和感はそれだったのだ。

 戦場で、謎の魔方陣を見たことは覚えている。しかしそれ以降の記憶がない。

 

「それはね、私がまほうを使ったからなんだ!」

「まほう……魔法?」

 

 どういう意味だろうか?

 

「そー!私のこゆーまほー。『てんい』っていって、ものを遠くまではこべるんだ!」

 

 なるほど、『転移』という固有魔で私をここに転移させた、と。

 

「そっか。ありがとう裕子ちゃん」

「えへへ……」

 

 とりあえず、お礼を言っておく。彼女が私を助けたのは事実だからだ。

 でも、肝心な事がまだ聞けてない。

 私は、一回深呼吸をした。そして、尋ねる。

 

 

「ねえ裕子ちゃん。教官も私といたんだけど、知ってた?」

 

 

 裕子ちゃんは、はてなマークを顔に浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁ~あ……。暇だなあ……」

 

 若い通信手の呟きは、誰にも聞かれず宙に消える。

 配属時こそ、開発の最前線に携われると喜び勇んで来たものの、待っていたのは良く言えば平和な、悪く言えば退屈な日々。なにせ基地直属の通信施設、それも試験が主任務の基地のそれの仕事など定時報告か試験の結果報告くらいしか無い。特に今日のように試験すらも無い日はひたすら機械の前で座るだけである。

 

「ラヂオでも聞くか……」

 

 そんな環境なので、先達たちは伝統的にラヂオの傍受という方法で暇を潰していた。基地も通信手たちが暇なのは知っているので、それを見て見ぬふりをしている。せっかく高性能な通信設備があるのだから聞かなくちゃ損、とは前任の言で、その通信手もそれに習い、ラヂオを聞かんと目の前の機器に手を伸ばした──

 

 

『堀笛基地、こちら舞鶴鎮守府。応答を乞う。堀笛基地、こちら舞鶴鎮守府。応答を乞う』

「うお!?」

 

 突然の着信に不意を突かれたのか、彼はすっとんきょうな声をあげてしまう。が、すぐに我に返ってマイクの前に立ち、応答する。

 

「こちら堀笛基地。どうされました?」

『…………………………』

 

 こちらが応えたのに、返答が無い。

 

「舞鶴鎮守府、どうされました?こちら堀笛基地」

 

 何かあったのか。彼が訝しんでいると、しばらく無音が続いた後に先程とは違う声が返答してきた。

 

『やあ、返答遅れてすまない』

「何かあったのですか?」

 

 新しい声は太く、何か貫禄を感じさせる物だった。

 

『いや、ちょっとした用があってね。ところで君、そこに誰かいるかい』

 

 その言葉に通信手は困惑する。

 軍の回線の私的利用は完全なる軍規違反だし、それに先程からどうも相手の応答は同業のそれではない。

 

「……失礼ですが、名前と階級を伺っても?」

『ああ、こりゃ失敬。名乗っていなかったか』

「はあ」

 

 相手はどうにも歳をとると常識を忘れて困る、と呟き、こう言った。

 

『海軍中将の、宮崎雄三だ』

「は……?」

 

 かいぐんちゅうじょう。海軍ちゅうじょう……海軍中将!?

 彼は即座に姿勢を正した。

 

「しっ、失礼しました!中将とは知らずに……!」

『気にしなくて良い。ところで、さっきの質問だが』

「はっ、自分以外に誰もおりません!」

 

 彼はすでに、雄三の質問に答えるだけの機械と化していた。

 

『わかった。もうすぐそこに、宮藤訓練生が来る。そしたら席を外してくれ。誰も、そこに入れるなよ』

「了解しました!」

 

 だから、彼は命令に疑問を感じなかった。

 

 ──バンッ!

 

 その時、巨大な音を立てて扉が開いた。

 

「だっ、誰だ!?」

『………………………………』

 

 入ってきたのは、堀笛基地の名物訓練生、宮藤芳佳。中将の言葉通りだった。

 

『通信手、席を外してくれ』

「はっ!」

 

 彼は回れ右をすると即座に廊下に出て防音扉を閉めた。

 結局、彼が事の奇妙さに気付いたのは次に扉が開いた時だった。

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