宮藤芳佳の孤闘~第二次ネウロイ大戦異話~   作:芳佳ファン5号

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紅炎更新すると言ったのに本編が先に出来上がってしまった……


第十一話

空虚。

それが、あの叔母の家の現状を言い表すのに最適な言葉だった。家主の失踪の報を受け、非番の日に足を運んだその家は、すっかり生気を無くしていたのだ。

とはいえ、家具が何もないとか、そういったわけではない。少ないながらも一般的な家庭が有する程度の物は揃っている。

しかし、この家を昔から知っている俺からすれば、がらんどうと言って差し支えなかった。

例えば、部屋の片隅の机。

かつては怪異の論文や資料で溢れ、机だということすら忘れられていたそれは、しかし今やその武骨な姿をあらわにしている。異国の研究書ばかりだった本棚や、古の魔具で埋まっていた一室も、全てもぬけの殻。ここで怪異の研究がされていたと言われても信じられないほどに、それ関連の物だけがすっぽりと消えていたのだ。

 

(まさか、逮捕されたのか?)

 

この時世に公然と『怪異が敵とは限らない』などと言っていれば連行されても不思議ではない。むしろ今まで無事だったのが不思議なくらいだ。しかし、もしそうだとしたら……

 

「俺も、監視されるんだろうなあ」

 

これからが憂鬱になってくる。やっと人類が巻き返してきたのに。ようやく勝てそうなのに。

俺はその辺にあった椅子に腰掛け、頭を抱えた。

その時だった。

 

 

ブウウウウウウウン…………

 

 

蛾の羽音のような、奇妙な音が聞こえ始めた。

 

 

 

####################

 

 

 

私の問いに、裕子ちゃんはきょとんとしてしまった。

 

 

「ねえ、教官は?私と一緒にいた教官は?」

 

 

悪寒が走る。

そんなはずないと、現実を見たがらない私が言う。

だって、私と教官は一緒にいたのだ。

ネウロイに取り囲まれた私たちは、ようやく脱出出来るところだったのだ。

なのに、私だけ転移したのだとしたら、教官は、もう……

 

しかし、無情にも、彼女はうーんと唸った。

 

 

「でも、私が転移させたのは芳佳ちゃんだけだよ?……どうしたの芳佳ちゃん!?」

 

 

あぁ、なんてこと。私の目の前が暗くなる。

裕子ちゃんが何か呼び掛けているが、何も耳に入らない。

かつて何度かあったとは言え、誰かが死ぬのは嫌なことだ。

あの、厳しくも優しかった教官。

どこか坂本さんを彷彿とさせる教官。

彼女には、もう会えないのだ。

…………そして、何よりも。

 

 

私は、マモレナカッタ。

 

 

守れなかった。

何年も戦い続け、人を何人も殺して、また守れなかった。

教官さえ救えないで、戦争を止められるのか?私は、このまま生きてまた同じた未来に進むのか?

 

 

また、誰かと、争うのか?

 

また、人を、殺すのか?

 

そんなの、嫌だ。

嫌だ。嫌だ。嫌だ。

殺したくない。殺したくない。殺したくない。

人を、守りたい。誰かを、守りたい。殺したくない。守りたい。殺したくない。

 

心の中の私が言う。

 

 

「本当にお前が守れるのか?」

 

 

もう一人の私が叫ぶ。

 

 

「守らなきゃいけないんだ! 」

 

「どうして?」

 

「どうしてって……!」

 

「それに、出来るの?」

 

「やらなくちゃ駄目なの!」

 

「教官すら守れないのに?」

 

「でも、私がやらなくちゃ、また……」

 

「人を殺して嫌な思いをしちゃう?」

 

 

私は、言葉につまった。

 

 

「宮藤芳佳。お前は、弱い」

 

「……」

 

「守るために、殺さなきゃいけないときもある」

 

「……そんなの、間違ってる」

 

 

『私』はぐいと体を私に近づけた。

 

 

「だから弱い、いや、甘いんだ。宮藤芳佳。お前は世界を舐めている」

 

「そんなことない」

 

「軍人は人を殺すものなんだよ?ウィッチだってそう」

 

「でも、私は、殺したくない」

 

 

あきれたように首をふった『私』は、遂にこう言った。

 

 

「じゃあ、死ぬのはどう?

気付けば、回りはいつもの『森』だった。

 

 

「お前が死んだら、このオラーシャの人たちも死なずにすむんだよ?」

 

「「「そうだ、そうだ」」」

 

 

後ろに立つ亡者が肯定する。

自分の「死」を肯定される。

 

 

「…………私が、死ねば、この人たちは死なずに済む」

 

「「「そうだ、そうだ。俺たちはお前に殺された」」」

 

「戦争も、起きない」

 

「「「未来は変わる」」」

 

「でも、人を守れない……」

 

「「「お前が死ねば、『より多くの』人が助かる」」」

 

「…………」

 

「お前が死ぬのが最善だ」「なぜ生き返った」「死んでれば教官も死なずに済んだ」

 

 

気付くと、笑みが零れていた。

思えば私は死んだとき、自ら願って死んだのだ。それが、何故か生き返ってしまった。

私は、最初から死ぬべきだったのだ。

 

 

「あははははは」

 

 

そう気付くと、私は可笑しくなってしまった。

多くの人を救えると思って頑張ってきたが、結局一人新たに殺してしまったじゃないか。

 

また、同じ生を歩むのなら。

 

私は部屋を飛び出した。

兼定は今朝から姿を見せない。好都合だった。

 

 

「あはははははは」

 

 

お母さん、おばあちゃん、みっちゃん。

ごめん、私、生まれちゃいけなかった。

謝りながら、時計塔を駆け登る。

 

 

「あっはははははは!」

 

 

お父さん、ごめん。守れない。

屋上のドアを開ける。目の前に、美しい森林が広がった。

 

 

「はあ……はあ……はあ……」

 

 

これが、この生の最後の景色だ。

それは、とても美しく、前にも見た景色だった。

 

 

「ごめんなさいっ!」

 

 

私は、謝りながら、飛んだ。

 

 

地上が近付き。

 

 

私は目を閉じ。

 

 

 

そこに、ネウロイがいた。

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