宮藤芳佳の孤闘~第二次ネウロイ大戦異話~   作:芳佳ファン5号

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お久しぶりでございます。暑すぎるのでオラーシャ行きたい作者です。


紅炎の魔女・二話

「うーん、良い気持ち!」

 

 

 ハッチから入り込んだ心地よい風を胸一杯に吸い込む。

 揺れや染み付いた磯臭さは慣れたけど、やっぱり風の有る無しというのは大きい。

 

 

「あ、扶桑艦隊だ」

 

 

 遠くに見えるのは、紅白の旗を掲げる軍艦たち。

 そう、いくら地中海と言えどもここはトリエステ、人類の拠点の軍港。

 遠くの砂浜に打ち付ける白波、なんてものはここには存在せず、あるのは視界を埋める大量の軍艦たちだ。

 今日も扶桑艦隊の他にもリベリオンやブリタニア、ヴェネチアなど様々な国の軍艦が来たる決戦に備え、停泊しているのが見えた。

 

(ん?あれは……)

 

 少し目線を下げた私に、二つの小さな人影が見えた。

 

 

「お帰りー、芳佳ちゃーん!」

 

「お帰りなさいませ、宮藤さん!」

 

 

(リーネちゃんとペリーヌさん!)

 

 わざわざ来てくれたんだ!

 私は、荷物をとりあえず置いて駆け寄る事にした。

 

 

「おーい!」

 

 

 私は手を降りながら走る。

 なにしろ二ヶ月ぶりだ。

 戦時中の二ヶ月は平時のそれとは全く違う意味を持つ。

 

 どこかの町が襲われたりしていないかな。

 みんな無事なのかな。

 だれも怪我してないかな。

 

 近況を知りたい。

 それに、再開を喜びたい。

 私は、一心不乱に走った。

 

 

「リーネちゃん!ペリーヌさん!ただいm──」

 

 

 あれ?

 突然下がる視界。

 あ、アスファルトが劣化してる。

 やっぱり戦争中だとどうしても軍事が優先だからかな。

 早く私たちが戦争を終わらせないと。

 ……とりあえず、そのまま何もしなければ顔面を強打するだろう。

 そして私はそれが出来る。

 だてに坂本さんの訓練を受けているわけじゃないんだ。

 それに、何故か魔法力が発現して耳と尻尾が出ている今、反射神経は強化されている。

 しかし、私は受け身を取らない。いや、取れない。

 体が言うことを聞いてくれない。

 何で。

 どうして。

 私の体はまるで何かに操られたように動かない。

 あ、あと数十センチで地面が──

 

 

 

「芳佳ちゃん!?」

 

 

 ──ムニュン。

 

 

 

 何か柔らかいものに包まれる私の顔。

 自分の尻尾が揺れているのが実感出来る。

 ──ああ、久しぶりの感触。

 

 

 頭の中に、壮年男性の声が聞こえた、気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、まもなく発車いたしますので」

 

 

 二十分後、私たちは軍用列車に組み込まれた客車に案内されていた。

 

 

「わあ、綺麗!」

 

 

 リーネちゃんが喜ぶのも無理は無い、そう思えるほど豪華な車両だ。

 

(……というか、豪華すぎじゃない?)

 

 金属の車体はエンジ色に塗られ、至るところに惜しげもなく金の彫刻が施されている。

 床は赤い絨毯で照明も派手だ。

 おそらく民間から徴用されたのだろうこの車両は、しかし普段の使用の形跡が無いほどに美しく維持されていた。

 

(うーん、なんか気が引けるなあ)

 

 果たして戦時下にこんな贅沢をしても良いのだろうか。

 戦果云々と言われても他のウィッチだって命を懸けて戦っているのに、自分たちとそんな差があって良いのだろうか。

 特に最近、カールスラントが解放されて東部戦線のウィッチたちと交流するようになってからその気持ちは更に大きくなっていた。

 

(私よりも良い待遇を受けるべき人がいるはずなのに……)

 

 みんなは気にしていないようだが、どうしても気になってしまう。

 ──それとは別に、見た目が派手すぎて気になるというのもあるけど。

 

 

「み や ふ じ さ ん ?」

 

「はっ、はい!」

 

 

 いつの間にかペリーヌさんが後ろに立っていた。

 彼女は少し呆れたような顔をすると、私の肩をグッと掴んだ。

 

 

「全く……ほら、入りますわよ」

 

「え、ちょ、わ、わかりましたから肩を持たないでー!」

 

 

 ポスン、とふかふかのシートに座らされる。

 隣はリーネちゃん、向かいにペリーヌさんが座っているが、それでも余りある広さに豪華さを実感し、どうにも居心地が悪い。

 

 

「芳佳ちゃん、そんな気にしなくても大丈夫だよ」

 

 

 リーネちゃんはそう言うけど、前線を思うとやはり気が引けてしまう。

 

 

「そうですわ宮藤さん。あなたはもう誰もが認めるエースなんです。良い待遇を受けても誰も文句はつけませんし、むしろそう扱わなければ暴動が起きますわ」

 

「エ、エースなんてそんな大層なものじゃ……」

 

 

 私はネウロイを倒したくて飛んでるのでは無いし。

 

 

「あなたが大層なものじゃなかったらほとんどの人はエースを名乗る資格なんてありませんわ。……坂本中佐は別ですけど」

 

「でも……」

 

「そうだよ芳佳ちゃん、ウィーンまで楽しもう?それに……ほら、ペリーヌさん?」

 

 

 リーネちゃんが何かアイコンタクトを取る。

 何だろう?

 リーネちゃんが促すと、ペリーヌさんは恥ずかしそうにしゃべり始めた。

 

 

「ほら、せっかく大尉になったのですし?それに、扶桑からの長旅でお疲れでしょうし?ですから、その……」

 

「……?」

 

「芳佳ちゃん、この車両、ペリーヌさんが手配してくれたんだよ?」

 

「ちょっとリーネさん!?」

 

「え、ペリーヌさんが!?」

 

 

 私は素直に驚いた。

 こんな豪華な車両、手配するのは大変だったはずだ。

 それを戦闘をこなしながらもしてくれたんだ。

 

 

「……バルクホルン少佐や他の皆さんに協力していただけなければ出来ませんでしたわ。それに、あの新しく入ったヘルマさんだって手伝ってくれましたのよ?」

 

「え、ヘルマちゃんも……?」

 

 

 ヘルマちゃんというのは、ベルリン戦線から加入したジェットストライカーの使い手だ。

 少し頑固な所があるから、私とはあまり話さないのに……

 

 

「まあ、要するに、隊員皆からの昇進祝いという訳ですから、楽しんでいただきますわよ?……宮藤さん?」

 

 

 みんな、私のためにそこまでしてくれたんだ。

 貴重な戦いの間の時間を使って。

 今更ながら、なんて素敵な仲間たちだ。

 501に入って、本当に良かった。

 

 あれ、そう思ったらなにか涙が……

 

 

「わっ、芳佳ちゃんなんで泣いてるの!?」

 

「ちょっとなにも泣くことは無いでしょう!?」

 

「い゛え、ヒック、嬉しいんだけど、みんなが、私のために、用意してくれたのに、グスッ、ふさわしくないなんて思っちゃったのが、ズルッ、申し訳なくって……」

 

 

 みんな、ありがとう。

 そして、ごめんね。

 

 

「ほら、涙をお拭きなさい?」

 

「ペリーヌさん……」

 

 

 ハンカチで頬をぬぐわれる。

 ペリーヌさんは、本当に優しい。

 アメリーさんが尊敬するのもわかる。

「よし」と私は前を向いた。

 

 

「ほんっとうに、ありがとう!私、楽しませてもらうね!」

 

 

 ちょうど遠くで蒸気機関車の汽笛が聞こえた。

 もうすぐ発車するのだろう。

 

 

「うん!」

 

「ええ、そうしてくださいな。……ほら、ちょうど動き始めましたわ」

 

 

 二人が返事をすると、カタン、コトンと規則正しい振動が伝わり始めた。

 なんの変哲も無いこの音を聞くだけでも、私には、無性に楽しく聞こえた。

 

 

 

 

 

 

「ところでペリーヌさん。この車両、すごく豪華ですけど何の車両なんですか?」

 

「……」

 

「ペリーヌさん?」

 

 

 どうしたんだろう、すっごく暗い顔になってる。

 

 

「……カールスラント」

 

「え?」

 

「カールスラント皇室の、車両ですわ」

 

「……えっ?」

 

「バルクホルンさんが、叙勲で謁見した時に頼んだんです。……皇室から手紙が来たときのミーナ隊長の顔は、今でも忘れられませんわ」

 

 

 青ざめるミーナさんの顔が容易に想像できる。

 

 

「あはは…」

 

 

 苦笑して、私は一つ決意した。

 

 バルクホルンさんには感謝するけど、ミーナさんには謝っておこう。

 

 列車は、今まさにオストマルク国境を越えんとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──そうか、宮藤は無事着いたか。何?バルクホルンが?……うむ、わかった。私ももうすぐそちらに向かう。ああ、ウィーンにも立ち寄るよ。では、達者でな、ミーナ」

 

 

 ガチャン。

 

 

「では中佐、そろそろ……」

 

「ああ、わかっている。土方、今回もよろしく頼む」

 

「ええ、もちろんです中佐」

 

「はっはっはっ、いつもありがとう。ところで、今回の航路だが」

 

「はい。本日一二○○横須賀を発ちその後佐世保に一六○○に到着します。補給物資積み込みの後、翌一○○○佐世保を発ち、その後は標準的な太平洋航路の予定です」

 

「わかった。では、行くとしようか」

 

「はっ」

 

 

 廊下を歩きながら、扶桑海軍大佐・坂本美緒は喜んでいた。

 彼女は昨日付で晴れて大佐に昇進し、これから同時に在狩国駐留武官としてカールスラントに派遣されるところなのである。

 またヨーロッパでかつての戦友と会える。

 それに、航路の関係上停泊する佐世保では、恩師である北郷とも会う予定もあるのだ。

 これで心を弾ませないわけがない。

 彼女が空をストライカーで飛ばなくなって久しい。

 たまに頼まれて後進のウィッチの教育にも顔を出す以外はほとんどデスクワークという現在の環境は彼女にとっては苦痛であり、それを和らげる久しぶりの出来事だったのだ。

 当時の従兵、土方兵曹長の日記によれば欧州から帰国してから一年の間で最も元気だったそうだから、その機嫌の良さが窺い知れる。

 そしてそのまま彼女は乗り込み、離水を待った。

 

 ──そして、二式は横須賀を発った。

 当然のことだが。

 そのフライトが、後に扶桑を救うことになるとは、当時は誰も想像し得なかった。




話が進んでないorz
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