宮藤芳佳の孤闘~第二次ネウロイ大戦異話~   作:芳佳ファン5号

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紅炎の魔女・三話

 長崎県、針尾島。

 そこは、扶桑の田舎に行けばどこにでも見られるようなのどかな風景の広がる、いたって普通の島だ。

 しかし、そこには一つだけ、他には無い特徴的な建造物があった。

 牧歌的な風景のただ中に、強烈なオーラを放ち屹立する三本の巨大な搭。

 人はそこを、針尾送信所と呼ぶ。

 そここそが、はるか南太平洋の広大な資源地帯と本土を電波で繋ぐ、扶桑皇国の要なのだ。

 

「北郷さん、どう思います?」

「……確かに妙だ。船橋と依佐美は?」

 

 そんな送信所に、通信技師と深刻そうに地図を囲むまばゆい海軍二種軍装の女性がいた。

 

「駄目でした。検見川の逓信さんも、全く通じなかった、と」

「ふむ……」

 

 その女性の名は北郷章香。

 主に扶桑海事変で活躍し、坂本美緒、若本徹子、竹井醇子など数々のエースウィッチを弟子に持つ伝説のウィッチ。

 今大戦では前線を退き佐世保航空予備学校・校長として後進の教育に励んでいる。

 が、そこは歴戦の兵士である。

 佐世保の海軍関連施設で何か問題が起こる度にそこに赴き豊富な経験と知識に裏打ちされたアドバイスをする、ある種の相談役という立場も持っていた。

 今日もその一慣で先週から太平洋上で発生している電波障害の対処を命じられ、この針尾にやって来たのだ。

 

「最初は一分くらいで回復したんで、上は機器の不具合で処理してたんですが、最近は十分に達しようとしていて……そう、ここ。ちょうどこの辺りです」

 

 南洋島~扶桑本土間の一切の通信が数分間遮断されるというそれは、扶桑の全ての船乗りの悩みの種となっていた。

 漁師や民間船舶運営会社の声に、海軍はベテランの電気通信技術者を召集し、また調査隊を太平洋に派遣。

 彼らの努力により原因は不明なものの地点だけは割り出した。

 

「ここで、通信を途切れさせる何かが起きたんです」

 

 技師が指差すのは小笠原の南東の海山帯。

 地図には何も書かれていないが、すぐ横を扶桑本土と南洋島間のメインルートが通っているため軍民問わず船の往来が激しい地点である。

 

「根拠は?」

「本土と南洋、新京の通信記録、また調査隊の報告から割り出しました。彼らの報告によれば、ここを通過する前後で通信が完全に途絶したそうです。また実験的に蓬莱島経由で通信を試みた所、送受信ともに成功しました」

「なるほど……視覚的に何か見えたりは?」

「しなかったようです。ただ通信だけが切れた、と」

 

 北郷は考える。

 何が原因なんだ?

 まず考えられるのは機器の故障だが、全ての船舶が同時に故障するなど有り得ない。

 その海域全体に何かがあると考えるべきだ。

 もしくは、電波に対抗する何か──

 

(そういえば前に坂本が、電波妨害をするネウロイがいるって……)

 

 と、その時だった。

 

「失礼します」

 

 通信室内に凛とした女性の声が響いた。

 北郷は、笑みを浮かべた。

 

「やあ坂本。久しぶりだね」

「ええ、お久しぶりです北郷先生。……あの、お邪魔だったでしょうか」

 

 坂本は少し怖じ気付いて言った。

 恩師を訪ねて学校に赴いたところここを教えられて戸を叩いたのだが、なにせ緊急事態の真っ最中である。

 何十もの技師たちの目線が坂本を貫いたのだ。

 

「いや、こちらこそ約束の時間に居れなくてすまない。しかし助かった。もし時間が大丈夫なら、少し手伝ってくれないか」

「時間なら、明日まで問題ありません。しかし、先生がわからないことに助言なんて出来ますでしょうか」

 

 が、そこは恩師の前である。

 すぐに気を整えた坂本は北郷の言葉に返す。

 と同時に恩師である北郷が自分に手伝いを頼むほどの相当難しい事態であることを坂本は察し、少し不安になっていた。

 

「ああ、問題ない。緊急事態なんだ、よろしく頼む」

「……わかりました。お手伝い致します」

 

 この時坂本は、扶桑を取り巻く危機について何も知らなかった。

 

「しかし先生、一体何が起こってるんですか?」

「ああ、これを見てくれ──」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ芳佳、昨日変な電話が来たんだって?」

 

 次の日、所変わってウィーンの501基地では褐色の見目麗しい少女、フランチェスカ・ルッキーニと芳佳が廊下で立ち話に興じていた。

 話題は、昨夜芳佳に来た奇妙な電話のこと。

 

「うん。雑音だらけでほとんど聞こえなかったんだけど、誰か喋ってたの。すぐ切れちゃったけど、ほんとビックリしたよー」

「ニシシシ、もしかしてそれ……」

「な、何ルッキーニちゃん……?」

「幽霊だったりしてー!」

「もー、やめてよぉ」

 

 ネウロイの襲撃も無い平和な時間。

 哨戒も他部隊がやっているため、基地の中はどこかのんびりとしていた。

 

「でも本当に何だったんだろう?」

「うーん……わかんないっ!」

「ルッキーニちゃん……」

 

 ルッキーニちゃんは変わらないなあ、と思いつつ芳佳は足を止めた。

 

「じゃあ、また後でね」

「うん!それにしてもミーナに呼ばれるなんて、何やらかしたの?」

「うーん、何もしてないんだけど」

 

 そう、今朝芳佳は501の隊長であるミーナ准将に呼び出されていたのだ。

 ルッキーニに手を振り、ノックして入室する。

 

「ミーナさん、宮藤芳佳です。失礼します」

 

 入室するとすぐに、デスクに座るミーナが目に入る。

 目に入ったのだが──

 

「……宮藤さん、そこに座って」

「ミーナさん、あの、大丈夫ですか?良かったら治癒を……」

「要らないわ」

 

 ミーナは、明らかに普段と違っていた。

 目は充血し美しい赤髪はボサボサ、自慢の声も少し震えている。

 まるで寝ていないかのようなその姿に芳佳は言葉をかけようとしたが、手で制されてしまう。

 

「宮藤さん、あなたに言わなければいけない事があるの」

 

 仕方なく、芳佳はソファに座りミーナを見た。

 が、結局芳佳がソファーに座っていたのは五秒ほどの事だった。

 

 

 

「扶桑との通信が、完全に途絶したわ」




やっと導入が終わりそうです
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