宮藤芳佳の孤闘~第二次ネウロイ大戦異話~   作:芳佳ファン5号

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第一話

 声が聞こえる。

 

 やめて、わたしはしにたいんだ。

 

 たたかいたくないんだ。

 

 ころしたくないんだ。

 

 なんで、わたしをおこすの?

 

 ねむらせてよ。

 

 やっとしねたんだよ。

 

 やっと──

 

清佳(さやか)、よく頑張ったな」

「ええ、一朗さん、私たちの娘よ」

 

 懐かしい声が聞こえて、そして「誰か」の泣き声に掻き消された。

 1929年8月18日、扶桑皇国、鎌倉、宮藤診療所。

 宮藤芳佳は、2回目の生を受けた。

 

 

 

 

 

 

 その日は桜の咲く美しい春の日で、私の学校は明日が入学式、そんな日だった。

 私は家の前で大泣きしていた。明日は入学式だというのに、お父さんが何処か遠くに仕事に行ってしまうと聞いたからだ。

 

 

「お父さんいっちゃやだあー!あしたのにゅーがくしき、ぜったいくるって、いったでしょー!!」

 

 

 見に来るって約束してたのに。来るって言ってたじゃない。私はそう駄々をこねた。不思議な既視感を感じながら。

 

 

「すまない芳佳、大事なお仕事なんだ。これが上手くいけば、ネウロイをやっつけることが出来る」

 

 

 知っている。ストライカーの開発だ。私はそれに乗るんだ。

 それでお父さんは、身を屈めて私に目線を合わせて、

「終わればずっと、芳佳と一緒にいられるんだ」って言うんだ。

 

 

(…あれ?)

 

 違和感。

 

(こんな場面、前にも無かったっけ)

 

 いままでも、何処かで見たことがあるような感覚を感じたことはあった。でも、これほど強烈にその違和感を感じたことは無かった。

 

 そして、頭の何処かでお父さんを止めなくてはいけない、と言う声がする。

 ここで別れると二度と会えない、そんな気もした。

 

 でも、理由がわからない。

 結局、私が取れる手段はワガママを続行することだけだった。

 

「いったらゆるさないんだから!」

「おとーさんは、私をキライになったの!?」

 

 などなど。そして流石にワガママが過ぎた私を、

 

「芳佳。私が留守の間は、そんな風にワガママを言って困らせちゃあいけないよ」

 

 とお父さんは嗜める。

 あ、ここは覚えてるな。

 次にお父さんが私に言うことを、私は「覚えている」。

 

 お母さんに別れの言葉を告げたお父さんは私に向かって笑顔なまま、どこか神妙な雰囲気でこう言うのだ。

 

「芳佳、よく聞きなさい」

 

 忘れていた、約束。

 

「芳佳、お前にはお母さんやお祖母さんに負けない大きな力がある」

 

 この言葉を、私は知っている。「私」の行動の原動力になった約束。─守れなかった、約束。

 

 

 

 

「その力で、みんなを守るような立派な人になりなさい」

 

 

 

 

 

 その言葉は、私が忘れていた事を思い出させるには十分すぎた。

 それを聞いた瞬間、頭の中で何かがはじけた。

 そして、私は「思い出した」。

 お父さんの死亡通知。

 みっちゃんの怪我。

 遠い異国での戦い。

 ネウロイの呻き声。

 仲間たちの姿、声。

 全てが終わった後の「戦争」。

 兵の恨みの声。

 死の記憶。

 

 ──私は、約束を守れなかった。利用されたとは言え、自分の力で「守る」どころか殺めてしまった。しかもあろうことか何故か受けた二度目の人生の中でそれを忘れていた。

 

 お父さんがこっちを見ている。

 

 私の口から言葉が漏れた。

 

 

「ごめんなさい」

 

 

 私は、謝った。謝らないといけなかった。

 

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」

 

 

 約束を守れなかったお父さんに。殺した人に。仲間と言ってくれたかつての人々に。

 

 殺してしまってごめんなさい

 生き残ってしまってごめんなさい

 それを褒められてしまってごめんなさい

 死ねなくてごめんなさい

 

 生きてて、ごめんなさい。

 

 私は、泣きながら謝り続けた。それ以外のことをしてはいけないとすら思った。

 

 

「…ひっく、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…っ!?」

 

 

 私の謝罪は、立ち尽くしていたお父さんが不意に抱きしめてきたことにより止まった。そして、私が驚いた隙にお父さんは言った。

 

 

「芳佳、私はお前が何に対して謝っているのか解らない。でも、それが友達とケンカした程度じゃないのはわかる。芳佳の事は、誰よりもわかるからね」

 

 

 そして、お父さんは腕の中で謝り続けていた私の顔を上げさせると、

 

 

「でも、謝るだけじゃ、ダメだ」

 

 

 と言った。

 

 

「え?」

 

 

 謝るだけじゃ足りない、そう言われた気がした私は自らがどうすればいいか混乱した頭で考え始めた。

 

(どうすればいいの? 何をすれば許されるの? 死ねば良いの? どう死ねば良いの? 謝った人達に死ぬまで殴ってもらうの? そうだ、私はそれぐらいの事をしたんだ。それが当然の報いなんだ。力で人を殺した私なんて──)

 

「もし芳佳がそれほどの事をしたなら、それを償わなくてはいけないよ」

 

(ああほら、お父さんだってそう言ってる。今私が出来る償いって何だろう…? あ、そうだ!)

 

 

「わかった。私は死ねばいいんだね」

 

 

 お父さんは呆けたような顔をした。そして、今まで見たことの無い怒気を私に向け、私の頬を張った。

 

 

「やめろ芳佳!」

 

 

 あっけに取られる私にお父さんは言う。

 

 

「芳佳。ここには私しかいないし、誰に謝っているのか私にはわからないし、そもそも芳佳がそんなことをしたとは思えない。芳佳は良い子だからね」

 

「ううん、私は悪い子だよ!」

 

 

 だって、自分の力で何十人も殺した!

 

「だったら!」

 

 父が自虐に満ちた顔を見せた。

 

 

「その誰かに代わって、私がお前に『罰』をあげよう。だから、死ぬなんて間違っても言うんじゃない」

 

 

 お父さんは悲しそうな顔をしながら、

 

 

「『私との約束を絶対に守る。』それが、芳佳の償いであり、罰だ」

 

 

 と言った。

 

 

「お父さんとの約束を守る…」

 

「そうだ。『その力を多くの人を守るために』使いなさい。そして、さっき言ったような立派な人になりなさい。それが、私との約束で、誰かへの償いだ」

 

(罪を、償う。お父さんとの、約束…)

 

「それが、出来るかい?」

 

 

 お父さんは私の目をじっと見た。

 正直に言えばそんな事で赦されるとは思わなかったが、私はそれが「前」を知る自分にしか出来ないことだと気付いた。

 そして、泣き腫らした目で見つめ返した。

 

 

「…うん。わかったよ、お父さん。私は、約束を、守るよ」

 

 

 私は、この瞬間に、未来を変える事を決意した。それが、私がもう一度生まれた意味であり、償いだと感じた。これは私が受けるべき「罰」で、これに人生の全てを賭けるのだ。

 

 すると、お父さんは私の頭をワシャッと撫でて、「良い子だ」と言ってくれた。そして立ち上がると、少し慌てたように、

 

 

「……芳佳、私は仕事にいってくるからね」

 

 

 と私をもう一度抱きしめた。

 

 

「『罰』をくれて、ありがとう」

 

 

 どこか歪んだ私の言葉に、

 お父さんは一瞬絶句し、無言のまま頷いた。

 

 

「行ってらっしゃい、お父さん!」

 

 

 立ち上がったお父さんに向けた私の声に、お父さんは笑顔を見せると、

 

「行ってきます、芳佳」

 

 と言って、港の方へ向かっていった。

 

 

 

 

 しばらくして、私はお父さんが出ていった方を向いて、もう一度「ごめんなさい」と謝った。

 それは、自らの父を「賭け」に使ったことへの謝罪だった。

 思い出したのだ。ここで父はストライカー研究のためにヨーロッパへ向かい、「前」と同じならばそこで死ぬ。本当は引き留めたかった。しかしまだ七歳にもなっていない一介の娘がどうこう言ったところでどうにもならないのはわかっていたし、ここで引き留めたらストライカーが作れず、結果的に皆を守れない。罪を償えない。

 だから、これは賭け。

 未来を変えて、お父さんが死ぬ1939年に私がブリタニアのお父さんの研究所を守れば、最初の賭けは私の勝ち。

 私が、今から行動を起こして未来を変え、皆を守り、人どうしが争いをおこさない未来に変える。それが出来るかどうかの最初の賭けだ。

 

 私は、未来を変えるのだ。

 

 1935年、3月31日。芳佳の償いが始まった。

 

 




未来を変える事を決意した芳佳。次回、彼女が起こす行動とは。
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