宮藤芳佳の孤闘~第二次ネウロイ大戦異話~   作:芳佳ファン5号

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ちょっと天空の乙女設定入ってます


第二話

 お父さんを見送った私を待っていたのは、突然泣き崩れた私を心配するお母さんやおばあちゃんを安心させる作業だった。

「私は大丈夫」と何度繰り返したことだろうか。最終的に子供の感情の高ぶりだと勘違いしてくれたのは幸いだった。

 

(騙してるみたいでやだな、これ)

 

 これからはボロを出さないようにしないと。私は気を引き締めた。

 

 さて、私の今すべき事は何だろうか。

 

「未来を変える」と一言に言っても行動指針が決まらなくてはどうしようもない。とは言えいつまでも悩んでいては前と同じになってしまう。

 そこで、私はその後の歴史を大きく変えうるであろう大きな事件がもう間もなく起こることに目を着けた。

 

「扶桑海事変…だったっけ」

 

 1937年から始まったこの戦いは、お父さんの提唱した「宮藤理論」を使用したユニットの初陣であり、後のウィッチの戦いかたについて大きな影響を及ぼした戦いでもある…はずである。

 そして私の記憶だと、坂本さんがウィッチになるきっかけになった戦いのはずだ。

 私は全くと言って良いほどウィッチに関心が無かったのでうろ覚えだが、逆に言えばそんな私ですら知っていたのだから相当な戦闘だったのだろう。

 だとすればそこで私というイレギュラーが戦果をあげれば流れが変わるかもしれない。

 それに、これに参戦出来れば坂本さんと伝が出来るかもしれないし、坂本さんに付いていけばブリタニアの研究部隊に参加出来るかもしれない。

 

(このチャンスを、逃すわけにはいかない)

 

 となれば、話は早い。戦争に参加するには軍に入る必要がある。私はウィッチの養成学校に入学することを決意した。しかし、まだ重要なことをしていない。

 それは、使い魔の契約。

 私の使い魔である豆柴の形をした刀の化身、「九字兼定」は「前」の記憶通りだったなら、私が現れるまで中学校の裏山の祠にいたはずだ。その裏山は、開発でもあったのか私が契約した直後にあの祠ごと無くなってしまった(結局何の建物も建たなかった)が、契約したのは私が中学生の時だったのでまだ大丈夫だろう。

 契約の決行は小学校の放課後と決め、その準備にかかった。

 

 

 爽やかな新緑に覆われた鎌倉近郊の山中。そこに、一本の長い石段がある。

 

(鍛えてないとこの程度もキツいな…)

 

 その石段を息を切らしながらやっとの思いで登りきった私は、「前」と全く変わっていない祠を見つけた。確か、前は私がここを見つけた次の日くらいに向こうからわざわざ私を追ってきてくれた。

 でも今回は少しの時間も惜しいので、策を用意してある。きっとあの刀なら釣れてくれるはずだ。

 

 

「おーい兼定さん、出ーてーきーてー」

 

 

 私はそう言いながら、持参した「ブツ」を祠の前に並べていく。すると、祠の扉が少し揺れたのが見えた。しめたと思いながら今度は無意味に魔力を出し入れしてみる。すると扉の揺れが激しくなった。もう一押し、私は大人っぽい声で(難しかった)わざとらしく言った。

 

 

「あー、階段を汗かいちゃいましたー、ここなら少し身体を拭いてもバレませんよねー」

            

 

 ガタンッ!と音がして、祠が『内側から』壊れた。

次の瞬間、小さな影が飛び出てくる。

 

(よしっ!)

 

戦闘により鍛えられた感覚をもって瞬時にそれを確保、つまみ上げた。

 

 

「久しぶり…いや、はじめまして、兼定さん♪」

 

 

 子犬の形をしたそれは、嵌められたのを理解したのか、若干自己嫌悪の入った表情でため息をついた。が、あくまで白を切るつもりなのか、名前を呼ばれてとぼけるような仕草をして目を合わさない。

 

(外見だけは可愛いんだけどなあ)

 

 まあいい、相手が大人しくこちらを見ている間に、さっさと本題に入ろう。

 

 

「単刀直入に言います。兼定さん、私の使い魔になってくれませんか?」

 

 

 そう言った瞬間だった。

 突然兼定が暴れだし、私の腕を抜け出した。

 

 

「え…?」

 

 

 そして驚く私をよそに私の背後に回り込んだ兼定は、私の臀部を触った。

「ひゃんっ!」

 と声を上げた次の瞬間、私の頭に犬耳が、臀部にしっぽがそれぞれ生えてきた。使い魔と契約した証である。そして私の頭の中に声が聞こえた。

 

 

「おい、小娘」

 

 

 それは、久々に聞いた兼定の声であった。

 

 

「…今回は最初から素なんですね。あなたの事だから猫を被ると思っていました。……というかいきなりすぎません?」

 

「私とあなたは初対面のはずだ…などという事は言わせんぞ? 俺はお前を見たのは初めてだが、お前の俺に対する態度は明らかに慣れ親しんだ者の態度だ。そしてそれが嘘かどうかぐらいは見抜ける。あと唐突さについてはお前に言われたくない」

 

 

 ああ、変わってないな。

 

 

「そうですね、私とあなたは割りと長い付き合いでしたから」

 

「……嘘では無さそうだな」

 

「まあ『女性の下着』で釣れる神様なんてあなた以外いないでしょうしね、兼定さん」

 

 

 兼定なら引っ掛かってくれる。そう信じた私の判断は正しかったようだ。

 

「ふん、まあそれを知っているのは俺について知っている者だけだ。それでいて膨大な魔法力を有するヤツが契約を持ちかけてきたんだ、乗らない手はない。決して下着に惹かれたわけではないぞ」

 

 

 嘘つけ。でも本当に懐かしいな、この感じ。少し泣きそうだ。

 

 

「…そういうことにしておきましょう」

 

「あと、俺がお前を見込んだのにはもう一つ理由がある」

 

「……なんです?」

 

 

頭の中の犬はのびをしながら言った。

 

 

「お前なら、こいつを倒せるからだ」

 

 

その瞬間、目の前の地面が吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

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 この地には、ある伝説がある。

 曰く、かつてこの地に巨大な「怪異」が出現したという。地を荒らし天を隠し雷鳴轟かすそれは扶桑中に知れ渡り、結果何人かの巫女が集った。当時の「魔法」を使うものたちは協力して対峙。滅ぼすことこそ出来なかったものの、一角に追い詰めて封印することに成功、その守りのために、刀「九字兼定」を祠に祀ったという。

 

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 しばらくして土埃が収まり、視界が回復しはじめると、芳佳は「ソレ」に気付いた。目の前にいる巨大なソレは、色こそ銀色だが生物的外見から著しく解離した形容しがたい形をしていた。

 それはまるで以前戦っていた敵のような──

 

 

「ってこれ、ネウロイじゃないですか」

 

 

 それはまさしく、ネウロイだった。

 何故かわからないが、あのネウロイが本土に、それも鎌倉にいた。

 

 

「何で本土にネウロイがいるんですか?」

 

「お前らはネウロイと呼ぶのか。俺は怪異と呼んでいるのだが」

 

「確か前の戦争でその名前が付けられたって聞いたことが…あ、こっちに来ましたよ」

 

「俺が言えた事では無いがお前はよく落ち着いていられるな…武器は俺の本体の刀で良いか?」

 

 

冷静に考えると、確かに武器は一つしかない。

 恐怖を感じない訳がない。

 でも、私は償いをしなくちゃいけない。

 お父さんとの約束を守らなくちゃいけない。

「こんなのに怖がっていてはいけない」のだ。

 

 

「まあ、これより強い黒いヤツとかに慣れてますからね」

 

 

 嘘はついていない。どんなネウロイだって同じ。とにかくよけて攻撃を当てれば良いのだ。つまり「いかようにして攻撃を避けるか」「どのような攻撃が効果的か」という経験則が重要で、場数が強さに直結することを意味する。私はこの戦いを勝てると踏んだ。

 

 

「刀、使わせてもらいますよ。兼定さん」

 

「おう、存分に使え」

 

 

 扶桑ウィッチがよく使うと言われる刀。

 確かに坂本さんは刀を多用していたし、その師匠の北郷というウィッチやみっちゃんが教えてくれた穴拭とかいうウィッチも刀を使うと聞く。

 私は主に機関砲を使っていたが、オペレーション・マルス以降は鍛練をしていたし第二次ネウロイ大戦末期には何だかんだで多用していたので馴染みがある。

 

 

(これは倒せるな)

 

 

 今回のネウロイは古いタイプということも考慮し、刀でも私なら倒せる、と判断。攻撃を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 数分後、謎のネウロイとおぼしきもの発見の報を受け緊急出撃した横須賀のウィッチ隊が見たものは、抉れた地面、白い塵に成り行くネウロイと、血塗れの六歳程と思われる女の子だった。

 

 

 

 自分の家である診療所のベッドで目覚めた私は、すぐに動こうとしてお母さんにこっぴどく叱られた。

 本来なら即死級の大怪我だったらしいが、魔法力による加護とお母さんやおばあちゃんの懸命な治療で何とか治ったらしい。そして、そうなった原因は火を見るより明らかだった。

 六歳の私の身体で「前」の私の動きが出来るはずが無いのだ。身体的な面から、前と同じように動くのは不可能だし、そもそも鍛えてなかったので思うように身体が動いてくれなかった。むしろそんな身体でネウロイを倒し、かつ生き残っているのが奇跡的だ。

 

 

「おい、お前」

 

「あ、兼定さん。大丈夫でした?」

 

 

 兼定が病室に来た。どうやら無事だったようだ。

 

 

「本体の刀が無事だったからな。そんなことより、お前のことだ。お前、あんな戦いかたは二度とするなよ」

 

「わかってますって、ちゃんと身体が動けるようになったら訓練して、身体が出来上がるまではネウロイと戦いませんから」

 

「本当か…? 俺にはもし今この瞬間にネウロイが出たら、間違いなくお前が真っ先に出撃する姿が見えるぞ」

 

「いえ、本当に私は出撃しませんって」

 

「ほう、どうしてそこまで言えるのか聞きたいもんだ」

 

「だって、私がそこで死んだら私の罪を償えないじゃないですか」

 

「は? 罪? 何だそれ?」

 

「私は、罪を犯したんです。そして、その罪の償いとして、お父さんが罰をくれたんです。私の力を多くの人のために使うという約束を破るな、という罰を。なので、私は今死ぬわけにはいかないんです。いえ、死んじゃ駄目なんです。だってそれじゃあ『多くの人』のために力を使えないじゃないですか」

 

「……確かに今すぐに死なないであろう事は解った」

 

「いえ、私は『罪を償っている自分』で安心したいのかもしれません。でもじゃあどうすれば良いんですか? だって、今でも来るんですよ? あの人たちが、夜な夜な私の所に来て私に言うんです、『早く死ね』って!」

 

「俺は知らん、それより外の奴を呼んだらどうだ」

 

 

 唐突に壊れたようにしゃべりだした芳佳を見た兼定はまずいボタンを押したなーと思いつつ器用に扉を開けて部屋から出ていく。それに気付かずに芳佳は喋り続ける。

 

 

「あぁ、私は罪を償ってるつもりなだけなのかもしれない、でも毎晩毎晩謝ってるしできる限りのことはしてるし何か足りないって言うんですかああごめんなさい、私に何か言う資格なんてないですねでももう無理です何も出来ませんでも死ぬわけにはいかないんですヨリオオクノヒトのために私のチカラを使わないといけないんですまだ死ねないんですだからお願いします死ねなんて言わないで謝りますからごめんなさい、ごめんなさいゴメンナサイ…」

 

「芳佳ちゃん!」

 

 

 ああ、私の名前が呼ばれたということはまたあの人たちが来たな、でも耐えなきゃ。私のせいであの人たちは

 

 

「芳佳ちゃん、芳佳ちゃん!」

 

 

 あれ、この声はあの人たちじゃない? 聞き覚えもあるし。

 

 

「芳佳ちゃん、私だよ、美千子だよ!」

 

「みっちゃん…?」

 

 

 念のために病室を見渡す。兼定はいつの間にか出ていったようだった。

 

 

「良かったー! 芳佳ちゃんが大怪我をしたって聞いて、もしかしたら死んじゃうかもしれないって凄く心配したんだよ!」

 

「あ、あはは、ありがとうみっちゃん」

 

「それで、芳佳ちゃん怪異を倒したんだって?──」

 

 

 みっちゃんの話を聞きながらぼんやりと窓の外を見る。

 

(坂本さんの鍛練ってどんなのだったっけ…)

 

 やはり体を鍛えなければネウロイは倒せない。

 今やるべき事は、体作りだ。

 

 この一週間後、学校にようやく行けるまで回復した芳佳は、猛烈なトレーニングを開始する。

 全ては、「償い」のために。

 

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