宮藤芳佳の孤闘~第二次ネウロイ大戦異話~ 作:芳佳ファン5号
2017/09/10
読みにくいところ、不自然だったところを修整しました。
「芳佳ちゃん!遊ぼ!」
無邪気な声が、私の周りを跳ね回る。
「ごめんね裕子ちゃん。今日は遊べないよ」
鬱陶しい。そう本音を言っていたのはいつのことだったか。
「よく遊んでられるね。私たち、いつか戦いに行くんだよ?」
「えー、でもネウロイいないよー?」
今の扶桑は、ネウロイの驚異というものを全くもって理解していない。そして大人ですらそうなのだから、この目の前の子供が戦場など知る筈もない。
(……でも、私は違う)
私はあの戦争と、その後の悲劇を知っている。たくさんの人が死に、それ以上の人たちが悲しみに暮れた。それを変えて、犯した罪を償う。そのために、私はここにいるのだ。
「ねえ、裕子ちゃん」
「なに!?遊んでくれるの!?」
「もちろん!」
彼女が遊びたいと言うなら、遊ぼうじゃないか。
「やったー!はやくいこっ!」
「うん。まずは競争しよっか!」
「うん!」
1936年6月7日、舞鶴海軍付属小学校
何故こうなったのか。
私は、同期生と運動場に向かいながらそんなことを考えていた。
北郷先生は我が家に来たとき、「軍に娘さんを預けてくださいませんか」と言った。確かに私は軍に預けられ、ウィッチの養成学校である舞鶴海軍付属小学校には入学できた。
しかしまさか一般と同じく一年生に入れられるとは思っていなかった。まあ実年齢が六歳なので当然といえば当然だが、これでは開戦時に出撃優先度が下がってしまうと嘆いたものだ。
しかも、同期の人数は私含めて二人ときた。
私は今でも転校時の事を忘れることが出来ない。
その日の朝、迎えに来た北郷先生に私は学校のような施設に連れていかれた。連れていかれた先は予想通り舞鶴海軍付属小学校。しかし、六年生や五年生の教室を無視して先生は奥へと進んでいく。
「先生」
「ん? どうした宮藤?」
「あの、教室を間違えてません?」
「何を言ってるんだ君は。ここが宮藤の教室だ」
見上げると「一年生」の文字。まさかと思い訊いてみる。
「私ってもしかして小学校一年生なんですか…?」
「宮藤はおかしな事を言うねえ。君は六歳だろう?」
私はてっきり即航空ウィッチコースだと思っていたのだ。新部隊とか言ってたし。
「ああ、この学校のウィッチたちこそが新部隊なんだ。それまで初等教育を受けていたウィッチたちをこの学校に集め、新しい世代を育成するのがこの部隊の目的さ」
……あれ? じゃあネウロイ撃破方法を教えるとかは?
「先生、じゃあネウロイを倒す方法はどのようにして教えれば良いのですか? 流石に一年生が直接教える訳にはいかないと思うのですが」
「教室とかで直接教えてもらう訳にはいかないかな?」
「……申し訳ありません、出来ません」
「どうして?」
「どうしてって……」
悪目立ちするのが目に見えているとか、恥ずかしいとか、表向きの理由は沢山ある。だが、私が断る本当の理由はたった一つだけだ。
「文書で発表って形じゃいけませんか?」
「まあ君がどうしても、と言うなら良いけど」
「是非お願いします」
「わかったわかった。じゃあ、文書は書くから質問には答えてくれよ?」
苦笑する北郷先生が、前を向いたその時だった。
「おっ、ちょうど良いところに。おーい!」
突然、彼女が手を振った。それに釣られて私は前を見て──
「お帰りなさい、北郷先生!」
「────!?」
私は、凍りついた。
「私の留守中、何も無かったかい?」
「はい、大丈夫でした」
そうかそうかと北郷に誉められるその人物は。
「そうだ、丁度いいから紹介しとくね」
紹介なんて要らない。よく知っている。
「こいつは六年生の、坂本美緒。魔眼を持ってる凄いやつだ」
その後のことはよく覚えていない。私が六年生に会いたくなかった理由であり、最も会いたくなかった人に会ってしまい、混乱してしまったのだろう。気付けば私は教室に立っていた。
「さて、改めてここが君の教室だ。この時期から同期生がいるなんて珍しいんだ。どうかその仲を大切にしてほしい。私も航空関係の事を教えに来るからその時は宜しくね。じゃあ、頑張れよ!」
「……はい」
坂本さんのことでぼおっとしていた私は、どんと背中を押され、中に入った。
「初めまして、私は宮崎裕子、よろしくね!」
教室にいたのは、たった一人。そう、私の同期はたった一人しかいなかったのだ。
「ねえねえ転校生さん、あなたのお名前は?」
「……宮藤芳佳」
それが、この無邪気な同期との最初の会話だった。
「──芳佳ちゃん!つーかーまーえーたっ!」
その声に、私は現実に引き戻される。見れば、私の服が裕子ちゃんに掴まれている。
「よし、次は私が追いかけるから、ちゃんと逃げてね」
「うんっ!」
ふわっとしたショートヘアーを揺らして逃げてゆく、唯一の同期こと宮崎裕子(みやざきゆうこ)。
扶桑の法律では何歳だろうと魔法力が発現した時にウィッチに志願して良い事になっており、発現後に親が軍系の学校に入れることも多い。彼女もまた然り。
「おーい!もう来ていいよー!」
「ちゃんと逃げてねー!」
そして、彼女は根がとても素直だった。だから、私はそれを利用することにした。彼女を鍛えることにしたのだ。
そうすれば行く行くはエースになれるだろうし、私の背中も任せられる。多くの人を守れるのだ。
「それに……」
「どーしたのー!?」
遠くに走る彼女を見る。
(忘れてしまったけれど、私は、『前』の彼女を知っている……!)
私の中の何かが言うのだ。
『彼女を思い出せ』と。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「あと一時間はやるよー!」
「おー!」
「チャンバラ五十試合!」
「おー!」
「『鉄棒遊び』一時間!」
「お、おー!」
「元気にやってるねえ」
日の暮れた教室の窓から運動場を走る小さな二つの影が見える。北郷は微笑みながらその影を見ていた。すると、後ろから突然声がした。
「あれが
「はい。──相変わらず気配をお隠しになるのがお上手でいらっしゃる。司令長官」
慣れているのか北郷はこれといって反応しない。それに司令長官と呼ばれた人物は呵呵と笑った。
「今は
北郷は、走るもなにもすぐそこが鎮守府ではありませんかと返した後に答える。
「見ての通り、大人びた奴ですよ。性格は真面目ですが少し何かに焦りを覚えているような節が見受けられますな。また、個人としてはあまりに膨大な魔法力を有しています」
「ふむ……固有魔法は持っているのかね?」
「強力な治癒です。計測では史上最大、真偽は不明ですが既に何回か使ったことがある、と言っています」
「……史上最大?」
決して誇張表現では無い。
「ええ。計測者によれば、コントロールも完璧で百人は連続で治せるだろう、と」
「……素晴らしい」
その時、好好爺然としていた宮崎の雰囲気が変わった。
「……どうされました?」
「なあ、シールドはどうだ?その宮藤とやらのシールド強度は?」
「強力です。陸戦と張り合えるくらいには」
「ああ、しかもシールドも大きいと来たか。フフフ、我が孫とそのような者が出会うとは運命と言っても良いかもしれん!」
どこか歪んだ歓喜の表情を浮かべる宮崎と対照的に顔をしかめる北郷。
「運命とはまた中将らしくない。まず治癒やシールドが宮崎にどんな関係が?」
「おやおや、そちらこそ聡明な少佐らしくない。我が孫の固有魔法を忘れたのかね?」
そこまで言われて北郷はやっと中将が言わんとしている事に気付く。いや、それに薄々気付いてはいたが、口には出していなかった。北郷の顔が蒼白になる。
「中将、まさか貴方は!「あ、お祖父様だー!」」
突然、甲高い声がした。二人が振り返ると裕子と芳佳が戸を開けて教室に入ってきたところだった。
「おー、裕子じゃないか! 元気かい?」
「うん、元気ー!」
無邪気に祖父に飛びつく裕子とそれを受け止める宮崎。宮藤が遠慮がちに声をかける。
「先生、お邪魔でしたか…?」
「……いや、大丈夫だ。自主訓練は終わったか? あんまりやりすぎても体に毒だぞ」
どうせ聞かないのはわかっているが、一応注意する。
「はい、わかりました先生」
それに、宮藤は予想通りの反応をした。こいつにも困ったものである。
「ねえねえ、どーしてお祖父様は学校に来たのー?」
「それはなあ、裕子に会いたかったからだよ!そーれ!」
「わー! お祖父様、おーろーしーてー!!」
そんな二人を他所に、高い高いをする宮崎とはしゃぐ裕子。そこには外道で狂気の海軍中将はおらず、孫を溺愛する老人がいた。その姿からは先程の歪みは感じられなかった。
「ところであの方はどなたなんです?」
「はあ。あれでも扶桑の誇る連合艦隊の元司令長官だ」
「えっ!?」
更新お待たせいたしました。この学校編をどうしようかとめっちゃ悩みました。それにしてもただのモブの予定だった裕子ちゃん(初期では「ハナコ」ちゃんだった)が何故かメイン級になってしまいました。本当に何故だ。
次回で学校編が終わり、扶桑海事変編に突入…のはずです