宮藤芳佳の孤闘~第二次ネウロイ大戦異話~ 作:芳佳ファン5号
内容を追加、修正して再度投稿しました。前のやつは消します。
オラーシャ陸軍航空隊所属、スヴャトラフ・トゥイニャーノフ中尉。
彼は、俺の飛行隊の上官「だった」男だ。
ネウロイ大戦のウィッチ支援戦闘であの光線の嵐を生き残った強者、という経歴だが、普段はそんな様子は微塵も見せず、いかにもオラーシャ人らしい酒飲みの陽気な青年といった印象が強く残っている。
彼と初めて会ったのは1950年、俺が訓練プログラムを終えて念願の戦闘機パイロットになり、ハバロフスク近郊の基地の飛行隊に配属されたときだ。
兵営の自分の部屋に入った途端、クラッカーの音がなり、そして部屋に引き摺りこまれた。
俺は早すぎる展開についていけずに、気が付いたら酒の飲み過ぎで吐いていた。
今思うと本人たちは歓迎会のつもりだったのだろうが、酒が飲めない俺は、当時は何故こんな部隊に配属されたのかと上を恨んだものだ。
しかし、数週間後にはその部隊が好きになっていたのだから、俺は良い部隊と戦友に恵まれていたのだろう。
それから2ヶ月たった。
その日の朝、その基地所属の全飛行隊に基地司令から招集がかかった。
滑走路に集合した俺たちの前に基地司令が立つ。
そして司令の告げた言葉は俺たちを大いに驚かせた。
「近々、我が陸軍は皇帝陛下の承認を受けて大規模な作戦行動を開始する。ここは、その作戦の最前線基地となる」
その言葉にその場にいた兵士皆が固まった。
驚きのあまり言葉が出てこないのだ。
─もう戦争を始めるのか。
─この間ネウロイからやっと解放されたと思ったら今度は人類どうしでやるのか。
恐らくその場にいた全員がそう思ったはずである。
そして基地司令の次の一言でどよめきが走った。
「我らの目標は、浦塩の占領である。諸君らの戦いに幸が多からんことを」
こんなふざけたことを考えた上層部を殴りたかった。
浦塩への侵攻となれば相手は扶桑である。
確かに最近、扶桑とオラーシャの関係は冷え込んでいた。
しかし扶桑はネウロイ大戦中のウィッチの海外派遣とそのウィッチたちの活躍により国際社会での発言力は高く、また持ち前の技術力、南洋島等の海外領土からの豊富な資源があり、国土もネウロイに空襲こそされたが占領はされていないというどう考えてもウラル山脈以西の復興を始めたばかりのオラーシャが勝てる相手じゃなかった。
そもそもその復興に大いに役立っているシベリア鉄道は起点が浦塩であり、鉄道車両すら満足に無いオラーシャが扶桑の支援を受けて運行しているのだ。
この戦争に勝ち目は無い。誰が見てもそれは明らかだった。
しかし俺たちは兵士だ。上からの指示に従わない兵士は兵士ではない。
一回は軍を辞める事も考えた。
が、尊敬するスヴャトラフ中尉の参戦表明もあり、俺は軍に残った。
どうせ戦争は始まるのだ。卑怯者とは言われたくなかった。
扶緒戦争が始まった。
1951年2月、ウラジヴォストーク(扶桑側名称:浦塩)
戦争が始まって数ヶ月。火を見るより明らかだったはずの勝敗は未だつかずにいた。
その原因は、腐っても大国であるオラーシャの速度重視の強襲による浦塩の失陥と、扶桑側の大きな誤算にある。
「ウィッチが使えなかった」のだ。
ウィッチを戦線に投入できれば、長く続いた魔女を悪とする思想による慢性的なウィッチ不足により、それを戦闘機兵力で補うしか無かったオラーシャは容易く破れる。
そう考えた扶桑海軍は早速ウィッチ隊を投入した。
しかしその目論見は失敗に終わる。
ウィッチの力は個人の精神に大きく左右される。
まだ十代の少女は人を撃てるほど心は強くない。
結果的に本能的なシールドで敵は防げるものの、人を撃とうとすると魔法力がストップし飛べなくなってしまう少女が続出した。
そしてウィッチが使えないとなると、長らくウィッチに依存してきた扶桑とウィッチ不足のため戦闘機開発が進んだオラーシャでは扶桑の分が悪く、迎撃に出たオラーシャ軍による空母天城の喪失という予想外の大損害もあり、扶桑は浦塩の早期奪還を諦めざるを得なかった。
航空兵力の均衡による戦線の膠着により、扶緒戦争は小康状態となっていて、俺たちの飛行隊もここ2週間の任務はやってくる扶桑海軍機を探すの哨戒のみという戦争をしていることを忘れそうになるほど静かな日々が続いていた。
ある日、俺と同期のセギーリョフ少尉が共にランニングをしていると、スヴャトラフ中尉が声をかけてきた。
「よお、お二人さん。今日は暇かい?」
「はっ、本日は非番であり予定はありません、中尉」
「自分も予定はありません」
相変わらず固い返事をする同期に苦笑しつつ、自分も暇である旨を伝える。
「よし、ヴォッタ・『ヘルマ』(まるでヘルマのような)とヴォッタ・『ヨシカ』両少尉、俺と町に行くぞ!」
彼は大のウィッチ好きで、部下に性格や飛びかたが似ているウィッチの名前の渾名をつける癖があった。
ただしウィッチは皆女性であり、必然的に付けられる渾名も女性名になるのでこの渾名の命名基準に異を唱える者もいたが、俺はこれを気に入っていた。
世界の守護者たる彼女たちの名前に恥じぬよう頑張れるからだ。……さすがにあの英雄、宮藤芳佳の名前がつくとは思っていなかったが。
ちなみに扶桑と交戦中なのにその名前はどうなのか、と以前聞いたところ、「ウィッチはネウロイとしか戦わないから良いんだ」との返答が返ってきた。閑話休題。
「了解しました、中尉」
「良いですね中尉、行きましょう!」
こうして、俺たちは中尉と出かけることになった。
中尉の運転する車は基地から出ると数分でウラジヴォストーク(東の占領地の意。オラーシャ政府が名付けた)の町に着いた。
上空を飛んだことはあるものの、俺たちはその町に来るのは初めてだった。
町の入り口の検問を抜けて中に入る。
しばらく走ると視界が開け、扶桑式の美しい街並みが広がった。
そこには煉瓦造りの官庁以外は木と紙で出来た珍しい建物が並んでおり、そのオラーシャでは見られない風景が今でも印象に残っている。
中尉が車を走らせながら話しかけてきた。
「扶桑の町ってのはみんなこうなってるらしいぜ。綺麗っちゃ綺麗だが俺の生まれた所の家と比べると脆いよなー」
「自分はこのような耐火性の無い家に住みたいとは到底思えません」
「そうか? セギーリョフ、俺は中尉が言うように綺麗だと思うがな。というか中尉はモスクワ生まれですよね? 流石にモスクワとここを比べるのは扶桑側に酷じゃないですか?」
「ハッハッハ、確かに天下の大都市、モスクワに比べちゃ可哀想か。モスクワは良いとこだぞ?」
「俺はモスクワに行ったことが無いので羨ましいですよ」
「そうか、じゃあ両少尉は今度戦争が終わったら、俺の実家のパンをくれてやるからモスクワに来い!」
「自分もですか? しかし自分は…」
「ありがとうございます中尉、セギーリョフも連れてきますので!」
「よし、これは命令である!」
そう言って中尉は笑った。
俺たちも連られて笑う。
それが、扶緒戦争中の最後の休日だった。
そして、その命令が果たされることは無かった。
ある日、珍しく警報が鳴り、ちょうど担当だった俺たちの飛行隊は迎撃に飛び立った。
天気は快晴。
敵は海上を単機でウラジオストクに向けて北上していた。
何故単機で来るのか扶桑側の意図は不明だが、強行偵察だと司令は判断した。
しかし、いくら行ってもその単機が捕捉できない。
レーダーには直ぐそこにいると表示されているのに、全く捕捉できないのだ。
誤表示か故障を疑い始めた時だった。
突然隣のスヴャトラフ中尉の機体が「消えた」。
「…!?」
あまりに突然すぎて何が起きたのかわからなかった。
何か空が赤く光ったと思ったら、彼が文字どおり消えた。
影も形も無くなったのだ。
呆気に取られていると、さらにその隣のセギーリョフの機体も消えた。
「あれは!?…っ撤退!」
「!?隊長、何を言ってるんです! 今、中尉が、セギョーリョフが、消えたんですよ!?」
「うるさい! 隊長命令だ! 撤退!」
何かに気付いた飛行隊長は撤退を指示した。
撤退を始めた我々には光は来なかったが、そんなことはどうでも良かった。
スヴャトラフ中尉とセギーリョフが死んだのだ。
俺は呆然としており、気付かなければ基地上空を通りすぎるところだった。
帰投すると隊長に休むよう言われた。
その隊長は、司令室に入ったっきり数時間出てこなかった。
次の日、飛行隊の皆で二人の別れの会を行った。
スヴャトラフ中尉。
24歳で、実家は復興を始めたモスクワでパン屋を経営していて、よく後輩の俺にもパンをくれた。
常に人懐っこい笑顔を浮かべた陽気な人だが、戦闘技術は部隊の中でも隊長を除けば一二を争う腕前だった。
セギーリョフ少尉。
23歳で俺と同い年だった為何かと行動を共にすることが多かった。
すこし堅苦しいが飛行の才能はピカイチで、それはいずれはエースになると言われるほどのものだった。
二人とも、もう共に飛べないのだ。
俺たちは酒を飲みながら二人の思い出を語り合い、大泣きした。
飛行隊長も参加してくれて、泣きこそしなかったが、とても無念そうにしていた。
彼とスヴャトラフ中尉はネウロイ大戦以来の戦友だったという。
そして、平穏な日々は終わった。
毎日のように誰かが落とされる。いや、消される。
「昨日はあの大尉が墜とされたらしいぞ」
「一昨日なんてモスクワからの慰問楽隊が輸送機ごと…」
「噂じゃ娘さんはあの…」
「俺の同期もあの光にやられた! 畜生!」
「あの光はネウロイの光だって話が…」
「はあ!? 扶桑とネウロイと両方戦えってのか!?」
ネウロイ大戦が終わってまだ一年と半年程だ。
あれはネウロイの光線なのではないか、と噂になるのも無理はなかった。
その噂が気になった俺は、ネウロイ大戦の生き残りであり、あの日何かに気付いていた隊長に尋ねた。
「隊長、隊長はあの光はなんなんですか? 自分にはネウロイの攻撃に見えて仕方が無いのです」
しかし隊長はその問いを一蹴した。
「馬鹿言え、あれがネウロイの訳あるかよ」
「では何なのです。あんな兵器、私は見たことがありません」
「俺は見たんだよ。あの出撃の時、倒すはずだった扶桑機を」
「? いくら探しても見つからなかったじゃないですか」
「戦闘機や爆撃機を探してたらそりゃあ見つからねえよ。でもな、スヴャトラフの機体が墜ちた時、俺はあの光の先端に『女』を見たんだ。ありゃあウィッチだ。扶桑のウィッチにあいつらは墜とされたんだ」
確かにウィッチだとしたら見つからないのは道理だ。肉眼で探すには小さすぎる。しかし…
「扶桑海軍はウィッチの戦力投入を諦めたのではなかったのですか?」
そうだ。
確かこの戦争の初期にウィッチを実戦投入したときはウィッチは使い物にならなかったはずだ。
「何で扶桑がウィッチを使えているのかはわからねえが俺の目は確かだ。あれはウィッチだったし、あの光を撃ったのもウィッチだった。これはかなりマズイぞ。ここだけの話、上はリトビャグ大尉やポクルィーシキン少佐みたいな著名なウィッチを召還してテストしたらしいんだが、やはり使えなかったらしい。少なくともあれの対抗策が出来るまでは俺たちはヤツの良い的だろうな」
その後、飛行隊長の予測通り、扶桑海軍は正式にあの光はウィッチの攻撃であると発表した。
扶桑の発表によるとあれは魔法力を用いたレーザー兵器であるらしい。
何という皮肉だろう。
ウィッチが大好きだった上官はウィッチに撃墜されたのだ。
かつて俺は何故ウィッチが好きなのか彼に訊いたことがある。
「何で俺がウィッチを好きかって? それはな、憧れだからだよ」
「憧れ、ですか」
「そうだ。オラーシャがこの戦いで扶桑に健闘出来ているのは、ひとえにウィッチが使えないからだ。ウィッチは対人戦闘に使えないっていうのは実はネウロイ大戦中から言われてたことなんだ。それを俺は軍学生の頃に聞いて、とても羨ましいって思ったんだ」
彼は人に銃を向けず、政治に利用されず、一騎当千の力で自由に空を飛び、人類の敵とのみ戦うその幼き人類の守護者に憧れたという。
そんな男の最期がウィッチによる撃墜である。
しかも、扶桑の発表によるとそのウィッチは「宮藤芳佳」らしい。
ネウロイ大戦終結の英雄。
スヴャトラフ中尉が俺につけたあだ名の由来のウィッチ。
彼曰く「彼女の本当の魅力は戦闘ではなく、その心優しい所だ」とのことだが、それは嘘っぱちだ。
そんなウィッチが何故人を殺せる。
数多の軍人を殺してなお飛び続けられるということは、彼女は殺すことを何とも感じていないと言うことだ。
そんな奴が「心優しい」訳がない。
いつしか俺は、宮藤芳佳を殺そうと考えるようになった。
俺は、積極的に出撃するようになった。
しかし、宮藤は出てこない。
正確には俺が出撃する時に限って彼女がいないのだ。
いつの間にか俺はエースになっていたがそんなことはどうでも良かった。
俺は彼女を探し続けた。
そうして3ヶ月がたった。
─1951年5月23日ウラジヴォストーク上空
この日、俺はまた迎撃の為に空に上がっていた。
この日の扶桑側の機体数は10機。こちらは13機で、直ぐに終ると思われた。
しかし、湾の上空で俺が乗った機体のエンジンが異音を出し始めた。
俺が抜けてもこちらは12機。司令部も問題ないと判断したのだろう、管制塔から帰投の命令を寄越してきたので仕方なく引き返している途中だった。
突然、悲鳴が聞こえ、仲間の無線が途絶した。
管制塔に問い合わせてもあやふやな答えが返ってくるだけだった。
あの魔女だ。宮藤がやったんだ。
しかし機体が故障している俺にはどうすることも出来ない。
今死んではヤツを殺せない。
悔しい思いをしながら基地に向かって低速で飛んでいると、レーダーに後ろから飛んでくる飛翔体が写った。
何だ?
こんなところを飛ぶやつがいるのか?
そう思い、後ろを振り向いても飛行機の姿は見えない。そしてレーダーの表示が俺の機体を追い越した時だった。
「え?」
上空に、あの魔女がいた。
ユニットのエンジンは止まっているらしく高速で滑空しつつ地面に向かっている。
「あれはっ…!」
今がチャンスである。
照準を覗いた。
すると、彼女の顔が見えた。
もう23歳であるはずで、かつ歴戦のエースであり仇敵だが、そうは見えない幼い顔に安らかな眠るように閉じられた目。
──何だ? あれは。
──まるで、ただの女の子じゃないか。
何か自分が大きな勘違いをしているような気がして、銃を撃つのを躊躇った瞬間。
彼女は、俺の前を通り過ぎ、地面に激突した。
憎んでいる敵は、あっけなく、歴戦のエースにしてはあまりにもあっけなく、墜ちた。
その後帰投した俺は、車を駆けて彼女の死体を探し回った。
そして基地から数キロ離れた静かな森の中で彼女の死体を見つけた。
墜ちるとき最期のシールドが無意識にはられたのだろう、彼女の顔や足には傷ひとつ無く、墜落したというのに顔には笑みさえ感じられるような表情が広がっていた。
仇敵であるはずなのにとても神聖なものであるように感じた俺は、その死体に花を手向け、基地に帰った。
その後──
「あなた、あなた、起きてくださいな。まだ昼寝には早いですよ」
2001年8月30日、オラーシャ共和国モスクワ郊外
「もう、今日は大事な日だって私に出掛ける用意までさせたのに、あなたは昼寝ですか」
「いいじゃあないか少しくらい。お前、歳とって口うるさくなったな」
「何を言うんです。頑固で口うるさいのはそっちじゃないですか」
ああやかましい。
今日くらい昔を思い出したって良いじゃないか。
愚痴りながら外行きの服に袖を通す。
つけっぱなしのテレビからニュースキャスターの声が聞こえる。
「──ネウロイ大戦後、最初の人類国家間戦争、扶緒戦争が終戦してから今日で五十年を迎えます。それを記念して扶桑・オラーシャ共同慰霊祭が扶桑皇国浦塩市にて行われ、我が国からはプ──」
あのウィッチが墜落した後、扶緒戦争は劇的に動いた。これは後になってわかった事だが、あのウィッチが我らの航空隊から制空権を奪還し、その隙に勃海から上陸し、準備を整えた扶桑陸軍が背後からウラジヴォストークを強襲、扶桑海からの扶桑海軍機動艦隊による航空支援によりウラジヴォストークを奪還、というシナリオを扶桑は描いていたらしい。
それがあのウィッチの墜落によって駄目になってしまった。当時の扶桑大本営ではウラジヴォストークを諦める声すら聞かれたらしい。
が、その時大きく事態が動いた。
扶武同盟を理由にシベリアの資源が欲しいブリタニアが、発言力と戦勝国という立場が欲しいリベリオンと共に協力を申し出たのだ。その三カ国の圧倒的な物量攻撃を前に軍備がまだ整っていないオラーシャ軍は潰走。
私の部隊は撤退を支援せよとの命を受け、基地から基地へと転戦を続けた。
しかし、いくら私たちが奮闘したところで物量の差は如何ともし難く、シベリア鉄道を輸送に利用した三カ国が瞬く間にバイカル湖まで辿り着いたのと同時に我が軍も行動を停止した。ついに戦費が底をついたのだ。結局直後の皇帝自らの声明により1951年8月30日をもって我がオラーシャは降伏、戦争は終結した。
あれから五十年。
本当に長く、大変な五十年だった。
バイカル湖以東の譲渡や皇帝制の廃止等が盛り込まれたバイカル条約により打ち立てられた新生オラーシャ政府は、前々皇帝の進めたヨーロッパオラーシャの復興計画を引き継ぐ事を決定。
軍縮で浮いた費用を全て注ぎ込む勢いで計画を遂行した。
しかし、軍縮は思わぬ弊害を招いた。
それまで維持していたオラーシャの影響力が突然に小さくなったことで民族運動が活発化したのだ。
もとより多民族国家だったオラーシャは力によってそれらの分裂を抑えていたが、戦争で弱体化し疲弊したオラーシャにそれを止める手だては無く小国が次々と独立。
その過程で生まれたのは幾つもの小競り合いと大量の犠牲者だった。
オラーシャはどんどん小さくなった。
最後に残ったのは最盛期の領土とは比べ物にならないほど小さい領土。
しかし、疲弊したオラーシャはその領土を維持する事が精一杯だった。
国民は小さくなったオラーシャで復興のために懸命に働いた。
その大きな助けとなったのは軍縮で仕事にあぶれた兵士たちと、ストライカーを知らないウィッチたちだった。
最低限の軍隊を所持するので精一杯なオラーシャにとって、平時には何の役にも立たない航空及び陸戦ウィッチ部隊の維持・運用など不可能だった。
しかし万が一のためにウィッチたちを固めておきたい。
そこでオラーシャが採った苦肉の策が、ネウロイ大戦の英雄、ポクルイーシキン中佐をリーダーとしたウィッチたちの復興支援部隊だった。
魔法力を発現させれば強大な力を出せるウィッチたちの復興支援は大きな成果を挙げ、また古くからオラーシャに根付いていた魔女を悪とする思想を払拭する事すら成し遂げた。
そうしたウィッチと国民が協力した復興計画の結果、オラーシャはネウロイ大戦前の生活を送れるようになるまでに復興した。
今では数十年前にネウロイによって平らにされた土地には作物が実り、ネウロイによって廃墟にされた都市にはビルが建ち、人々が平穏な生活を送っている。
「あなた! 早くしてくださいな!」
あの口うるさい妻も四十年前は上がりを迎えたばかりの可愛いウィッチだったのだ。まったく時というものは残酷である。
ニュースは続く。
「──また、本日正午には当時のストライカーによる展示飛行がモスクワにて──」
2001年、モスクワ、クレムリ宮殿前広場
ゴォォァッ!と爆音を立てて高速のジェット戦闘機やジェットストライカーが幾つも幾つも飛び去っていく。周囲の観客が歓声を上げるが、私は早く「アレ」が来ないかと思いながら空を見上げる。
すると、今までの物とは明らかに違う音を立てるストライカーが来た。それを見たとき、私の心は大きく湧き立った。
ブウゥゥゥゥン…とレシプロ特有の音を響かせながらゆっくりと飛ぶ一つのストライカーと一つのレシプロ戦闘機。
片方は、帝政オラーシャ陸軍航空隊塗装のレシプロ戦闘機。私が乗っていたのもこの戦闘機だった。
そしてその傍らを飛ぶストライカーは、かつて目の前で墜ちていった扶桑海軍旧塗装の大型戦闘脚。──宮藤芳佳が駆った機体だった。
あの光景を再び思い出す。
木陰でまるで眠るように安らかに死んでいたあのウィッチ。
彼女がこの光景を見たらどう思っただろうか。
あの時は宮藤を冷酷な敵としか考えていなかった。
しかし家族を持ち、娘を授かり、孫すら産まれた今は疑問の方が強い。
彼女は本当に冷酷だったのだろうか。
私の仲間を殺した時、本当に何も感じていなかったのだろうか。
…それは死んだ彼女にしかわからないのだろう。
宮藤芳佳の機体が夏のモスクワを飛んでいく。
その光景が五十年前の五月末のウラジヴォストークと重なる。
スヴャトラフ中尉、セギーリョフ少尉、慰問楽団長、飛行隊長…
死んでいった彼らは上で宮藤と会ったのだろうか。
もし会っていたとしても、どうか争っていませんように。
せめて死後だけでも、安らかでありますように。
私は、そう願わずにはいられなかった。