幽雅に舞え!   作:じゅぺっと

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旅立ちは彼を目指して

「……この番組は、御覧のスポンサーの提供でお送りしました」

 

番組が終わり、チャンピオンの姿が画面から消えてからようやくサファイアはテレビを切る。そして、興奮冷めやらぬ、といった調子で叫んだ。

 

「――――やっぱりチャンピオン…いや、シリアってすっげえ!!あのいきなりの相手の不意を付くシャドークロー!!サマヨールの確実に状態異常にするパンチ!

 

それに――最後もジュペッタのシャドークローでとどめを刺すなんて!!これで4年目の防衛だ!」

 

現ホウエン地方のチャンピオン、シリアはポケモンバトルに強さや見た目の美しさだけではなく、動きによる優雅さとスリルを持ちこんだ。不利な相手だからといってチェンジをせず、ゴーストポケモンの持つ惑わしの力と闇の力強さを併せたトリッキーかつ豪快な戦術で観客のカタルシスを掴む。本人の常に余裕の笑顔を絶やさない態度と合わせて、『幽雅』という言葉が生まれたほどである。

 

「なあ、お前もそう思うだろカゲボウズ!」

 

もう一度紹介しておくと、この元気でわんぱくともいえる性格の少年がサファイア・クオール。額にバンダナを巻いて地毛の茶髪をオールバックにしている。年は15歳。そしてその横でふわりふわりと漂っているのが、彼の相棒のカゲボウズだ。カゲボウズも主の喜ぶ感情に反応しているのだろう、特徴である角をピンと立てて周りをまわる。

 

「お前と出会えたのも、シリアのおかげだもんな……懐かしいな、おくりびやまで出会った時のこと」

 

カゲボウズも鳴き声で反応する。サファイアがカゲボウズと出会った理由は、何を隠そうゴースト使いのチャンピオンであるシリアに憧れたからだ。数年前に自分もゴーストタイプのポケモンを手に入れたいと親にねだり、おくりびやまに連れていってもらった時に出会ったのだ。その時初めてのバトルを乗り越えて以来、固い絆で結ばれている。……時々サファイアがカゲボウズに驚かされるが。

 

「じゃあ、これからよろしく頼むぜ……っと。んじゃ行くか!」

 

自分の机の傍にかけていたリュックを背負い自分の部屋から出る。そう、今日がサファイアにとっての旅立ちの日だ。本当なら15歳の誕生日とともに旅に出たかったが、近くに住む博士が珍しいポケモンを用意してくれるというのと、サファイア自身先ほどのチャンピオン戦をゆっくり見たい部分もあってしばらく我慢していたのだが、もう待つ必要はない。

 

早く旅に出たい。そして、憧れのチャンピオンのような強さと優雅さを持ったトレーナーになりたい。彼の戦いを今日見て、またその思いは強くなった。

 

母親との会話なら、既に済ませてある。辛いことがあったらいつでも帰ってきなさい、なんていう母親の言葉は笑い飛ばしたけど、本当は少し寂しかった。だから家を出る直前に、サファイアはこう呟く。

 

 

「大丈夫だよ母さん。俺は……亡霊ゴーストになんてならないから。必ず帰ってくる」

 

 

ここ小さな町、ミシロタウン。サファイアと博士の家は近い。10分とかからないくらいの距離だ。決意とともに踏み出したサファイアの足取りは――意外な形で急かされることになる。カゲボウズの角がまたピンと立ち……博士の家の方から、黒いエネルギーを吸収し始めたからだ。その意味を、サファイアはすぐに察する。

 

(こいつは負の感情をキャッチしてそれを吸収できる。それもこの色だとかなり強い。今博士の家から負の感情が出てるってことは……)

 

全力で走り出す。カゲボウズも事態はわかっているので何を言うまでもなくついてくる。負の感情を放っているのが誰なのかはわからない。博士なのか、別の誰かか。博士は温厚な人で怒ったところを見たことがないし、また一人暮らしでもあったからだ。カゲボウズの吸い取るエネルギーの量も相当で、ちょっとやそっとの揉め事とは思えない。博士がのっぴきならない事態になっていることは間違いなかった。

 

「博士!レイヴン博士……ッ!」

 

大急ぎで扉を開ける。すると目に入ったのは、服を焼けこげさせて倒れている博士の姿だった。駆け寄ってみると、博士は申し訳なさそうにサファイアに言う。

 

「済まないサファイア君。君に渡すはずだったポケモンが………………」

 

「今は喋らなくていいよ!くそっ、なんだってこんなこと……」

 

リュックの中から傷薬を取り出す。カゲボウズに負の感情を吸収させることで落ち着かせながら、サファイアはできる限りの治療を試みた。傷薬を塗り、母親に持たされた包帯を火傷になっている部分に巻き付ける。拙くとも真剣にやったおかげか。ひとまず博士はしっかり話せる程度にはなった。

 

「それで……何があったんだ?誰がこんなこと……」

 

サファイア自身ひとまず手当てを終えたからか、謎の襲撃者への怒りがこみあげてくる。だがその感情はすかさずカゲボウズに食べられた。自分のポケモンに窘められたようで、反省する。

 

「……ごめん、怒ってる場合じゃないよな。教えてくれ、博士」

 

「君より年下の、赤い髪に緑の目をした子だ……本当なら君とその子、そしてもう一人に一匹ずつ渡すはずだったのだが、それが気に入らないと……3匹とも寄越せと言ってきた。それは出来ないといったら……この有様だ」

 

「そっか……博士の気にすることじゃないよ。悪いのはそいつだ。そいつ、どんなポケモンを使ってたんだ?」

 

珍しいポケモンを分けてもらえるだけでもありがたいのにこんなふうに暴れるなんてとんでもない奴だ。怒りとは別にしても、見つけてやっつける必要があるとサファイアは思った。

 

「……コイルだ。取り戻すつもりなら気を付けてくれ。レベルはそう高くはなさそうだったが……技マシンで覚えさせたんだろう、10万ボルトを使ってきた……」

 

「技マシンってあれだろ。ポケモンに技を覚えさせられるけど、なかなか手に入らないってやつ……そんなの持ってるのに、随分欲張りな奴だな」

 

「ああ……珍しいものは何でも手に入れないと気が済まない、そんな子だったよ」

 

「わかった。そんな奴は俺がとっちめてやる!!それくらいできなきゃ、チャンピオンになんか届きっこないからな!!」

 

拳を上げて、博士に宣言する。それを見た博士は、今日会って初めて笑顔を浮かべた。

 

「……君は本当に元気でいい子だ。だけど、無理はしてはいけないぞ。

 

何も渡せなくて悪いが、君の旅がよいものになることを願っている」

 

博士が腕で十字を切り、サファイアに向かって祈る。それはなんだか気恥ずかしかったけど、博士はいつも真剣に祈っているから、サファイアも茶化さなかった。

 

「……それじゃあ行ってくるよ。博士。

 

博士も元気で――――」

 

研究所を後にする。博士の言う珍しいポケモンは手にできなかったけど、サファイアのたびに当面の目標が出来た。嬉しいことではないけれど、確かな目的を胸に――サファイアとカゲボウズの旅は、始まったのだ。

 

 

ミシロタウンを出て、101番道路を歩く。ミシロタウンから出るときはいつも親と一緒に車に乗っていたし、勝手に野生ポケモンが出る草むらに入ってはいけないと親にきつく言われていた。だから初めて歩く野生のポケモンが出てくる草むらの感触をしっかりと踏みしめる。

 

「カゲボウズ、ナイトヘッドだ!」

 

時折出てくる野生のジグザグマやポチエナは難なく一撃で倒せる。カゲボウズはおくりびやまで仲間にしたのでもともとのレベルが高いということもあるし、家でチャンピオンのバトルを研究したりトレーニングをしていたのもある。家でチャンピオンのバトルを見ていた時、サファイアがジュペッタの影分身に気付いていたのはそのためだ。ノーマルタイプのジグザグマも、思い切りおどろかすやナイトヘッドを使えばダメージを与えなくても逃げさせられるくらいのことは出来る。

 

「へへっ、楽勝楽勝!……でも、少し手ごたえがなさすぎるかな……」

 

予想はしていたことだが、さすがにレベルの差がありすぎる。苦手なタイプのポチエナでさえ悪タイプの技を覚えていないのだから勝負にならない。なにせノーマルタイプの技はカゲボウズには意味をなさないのだから。

 

それでも、人間であるサファイアにとってはポケモンの身体能力は脅威だ。決して草むらの揺れは見逃さず、歩みを進めていく……と、何やらコトキタウンの方から赤いガスマスクのような覆面をかぶった痩せぎすの男が走ってきた。

 

その男は、サファイアに向かってこう叫ぶ。

 

「そこのミシロタウンから出てきた少年ー!少し止まるべきだ!」

「え……どうした、何かあったのか?」

 

何か向こうで危ないものでもあったのだろうかとサファイアは思ったが、覆面男はこう言いだした。

 

「ミシロタウンから出てきたということは君が博士から珍しいポケモンを貰った少年であろう?そうであるべきだ!」

「……いや、貰ってないよ。貰うはずだったんだけど誰かに奪われたんだ。そのポケモンについて何か知ってるのか?」

「むむむ……お前も、持ってないというのか。だがしかし、ここではいそうですかと帰ってはティヴィル様に怒られてしまう!アミティヴィル様第3の子分としてそれは避けるべきだ!

 

少年!私とポケモンバトルするべきだ!私が勝ったら珍しいポケモンを渡すべきそうすべき!」

「ポケモンバトルならいいぜ……って、持ってないって言ってるだろ!」

 

身構え、カゲボウズにいつでも技を出せるように目で合図する。この覆面男、どうやら人のポケモンを奪うつもりらしい。それも特段の悪意なしにだ。

 

「少年、嘘をつくのはやめるべきだ。今日博士から何やら珍しいポケモンを3人の少年少女が貰うのは聞いている、ミシロタウンから出てきた以上、君がその一人に間違いない。誰かに奪われたなどと見苦しい言い訳はやめるべき!」

「だから、嘘じゃないんだって!大体その珍しいポケモンってお前はどんなのかわかってるのかよ?具体的に知らなさそうな口ぶりだけど、それで俺が持ってるってわかるのか?」

 

そうサファイアが尋ねると、覆面の男は覆面越しに表情がわかりそうなほど露骨に固まって困惑した。そういえばどんなやつだっけ?と思っているのが手に取るようにわかる。

 

暫く固まった後、もう破れかぶれと言わんばかりにサファイアを指さす。

 

「もう何でもいいからポケモンよこすべきー!でないとティヴィル様に叱られるのだ!いけっ、ユキワラシ!粉雪を放つべきだ!」

「くそっ……無茶苦茶だ!カゲボウズを誰かに渡すわけになんていかない!カゲボウズ、影分身!」

 

覆面の男がユキワラシを繰り出し、細かい氷の粒を広範囲にばら撒く。影分身によってカゲボウズの分身が増えていく中、氷がカゲボウズとサファイアの体を刺すように冷やすが所詮は冷気。

 

(この程度ならダメージにはならない、ここから一気に畳みかけてやる!)

「カゲボウズ、一気に行くぞ!必殺・影法師だ!」

 

サファイアが命じると、カゲボウズが応じるように角に負の感情の力を込める。

 

そして、影分身によって作り出した無数のカゲボウズの姿が。ブクブクと膨らんで、数秒後には巨大な影となってユキワラシを取り囲んだ。ユキワラシの目には、巨大な影法師が上からいくつも自分を睨んでいるような異様な光景が写り、思わずその体を身震いさせた。ガタガタと震えて、口から放つ粉雪が止まりそうになる。

 

これが、サファイアとカゲボウズがチャンピオンの真似をしながらトレーニングをしているうちに生み出した『必殺技』。自分を大きく見せて相手を驚かせるナイトヘッドを、影分身にも使うことで威力を高めたのだ。

 

決まった、とサファイアは確信する。だが、それは実戦においては甘かった。覆面の男がすぐさま命じる。

 

「ユキワラシ、目を閉じるべきだ!そうすれば何も恐れることはない!粉雪を放ち続けるのだー!」

「なっ……!?カゲボウズ、避けろ!」

 

瞳を閉じたものに影法師は効果がない。ユキワラシが目を閉じ、恐怖から解放されて再び粉雪を打ち続ける。だがその狙いは滅茶苦茶だ。目を閉じているのだから当たり前だが。その攻撃はカゲボウズもサファイアも捉えず、ただ周りの空間を冷やしていく。

 

「何のつもりだ……カゲボウズ、だましうちだ!目を閉じているなら、直接攻撃するしかない!」

 

そう命じ、カゲボウズが目を閉じているユキワラシの後ろから角で突いたり負の感情をぶつけて攻撃するが、目を閉じているがむしゃらに打つだけの相手は騙しようがない。純粋な直接攻撃にまだ乏しいカゲボウズは、ちまちまとダメージを与えるしかなかった。

 

「ふははっ、さっきまでの威勢はどうしたのだ?さあ、大人しくよこすべき!」

「うるさい!お前こそ俺のカゲボウズに難のダメージも与えられてないじゃないか?これ以上やっても、お前のポケモンが傷つくだけだろ!」

「くくく……それはどうかな?」

「何を言って……」

 

その時。ぐらり、とサファイアの体が傾いた。慌てて体勢を立て直すがいつの間にか、頭がぼんやりとしている。

 

(なんだ、これ?)

 

見れば、カゲボウズの攻める動きもだんだんと鈍くなっていた。粉雪は一度も直撃していないはずだ。それなのになぜ……と困惑する。

 

それを見て、覆面の男は最初の勢いを取り戻したように勝ち誇る。

 

「幼い少年に教えてやろう……君と君のポケモンは今、我がユキワラシの『冷気』に苦しめられているのだ!」

 

サファイアは改めて周りを見渡して、気づく。温暖なはずの101番道路が、まるで雪国のように雪が積もり、冷気は肌を突き刺すような痛みとなっている。今まで気づかなかったのは、目の前の敵に集中していたからにすぎなかった。だが体が限界を迎えて意識の混濁という症状が現れ始めたのだ。

 

「どうする?大人しく渡さないと、凍え死んでしまうぞ?さあ……珍しいポケモンを渡すべき!」

 

言い返す余裕がない。これが実戦。自分がチャンピオンに憧れ、努力をして掴んだ必殺技はあまりもあっけなく破られた。そのショックに、目の前が真っ暗になりそうになる。

 

(……このまま、こんな奴に負けちゃうのか)

(俺には、チャンピオンなんて無理だったのか)

 

「---―!」

 

だけどその時、カゲボウズが鳴いた。カゲボウズは自分が本気で落ち込んだときは、その感情を食べない。負の感情を食べられれば楽にはなれるけど、それじゃ成長しないから。

 

だから、そんなとき相棒は鳴き声で自分を鼓舞してくれる。カゲボウズだって寒さで凍えているのに。

 

(……そうだ、俺は負けない)

(自分が不利な時こそ、幽雅に。美しく。それがチャンピオンの……俺のポケモンバトルだ!!)

 

「……凍え死ぬ?いやあ、快適な涼しさだったよ。だけど…そろそろおしまいにしようか」

 

ぐらつきそうな体に鞭を打って堂々と胸を張る。そして余裕の笑み…とまではいかないが平気そうな表情を浮かべて言った。

 

「カゲボウズ、鬼火!狙いは……俺だ!」

 

「な、何をする気だ!?馬鹿な真似はやめるべきだ!」

 

カゲボウズがサファイアを疑うことなく鬼火を自分のトレーナーに向けて放つ。凄い熱さがサファイアを襲ったが、我慢した。もしこの炎が本物の炎ならサファイアは大やけどをしているだろう。だが鬼火は炎は炎でも霊の怨念によるもの。実際の炎とは違って焼け死にはしない。カゲボウズが自分で暖を取るのを、優しく撫でてやった。ゴーストタイプのカゲボウズにとっては怨念の炎も実際の炎と同じ効果がある。十分温めることが出来た。

 

「へへ……これで、寒さは解消できました。」

 

無論、実際に熱くなっているわけではない以上一時しのぎだ。だけど、こちらもちまちまとユキワラシにダメージを与え続けている。一時しのぎで十分。人差し指と中指をびしっとユキワラシに向けて、チャンピオンを真似るように命じる。

 

「さあ、これでフィニッシュ!!カゲボウズ。影打ち!!」

 

カゲボウズの角の先から伸びた影が、ユキワラシを正確に捕える。体力の削れていたユキワラシは吹っ飛ばされ、覆面の男にぶつかった。

 

「うぐぐぐ……こ、ここは一度退くべきだ~!次会ったら覚えておくべきー!!」

「あっ、おい待て!お前にポケモンを奪うように言っているのは誰なんだ!」

 

あっという間に覆面男は逃げてしまった。追いかけたが、寒さにやられた体では追いつけなかった。ひとまずカゲボウズと一緒に粉雪の影響の範囲外で腰を下ろす。

 

「なんだったんだろうな……あいつら。ティヴィル様…って言ってたけど、昔のアクア団とかマグマ団みたいなやつらなのか……?」

 

考えてみるが、当然答えは出ない。わかっているのは、博士の珍しいポケモンを求めて自分や他に貰うはずだった人からそのポケモンを奪おうとしていることだけで……

 

 

『むむむ……お前も、持ってないというのか』

 

 

「……あっ!!」

 

覆面の男は、お前も。といっていた。そして珍しいポケモンが3匹いて、それを一人が奪っていってしまったということはもう一人自分と同じくポケモンを貰いそこねた人物がいるということ。

 

いてもたってもいられない。走ることは出来なくても、早歩きで歩を進め始めた。

 

「きっと、もう一人あいつの仲間に襲われてる奴がいる……助けないと!!」

 

  

 

 

幸い、そう離れていないところに自分と同じ立場の子供……白いタンクトップと膝が見えるくらいのスカートの軽装に黒髪を結った、真っ赤な日傘をさしている少女はいた。

 

(相手がわかりやすい覆面で助かったぜ……)

 

少女の前にはバトルをしているさっきの覆面男とカラーリングが違うだけの黄色い覆面をした男がいた。今、その少女はヨマワルを、黄色い覆面男はラクライを繰り出している。ラクライがいくつもの電撃を放ち、それをヨマワルが必死に耐えている。少女の側が防戦一方……にサファイアには見えた。

 

「カゲボウズ……いけるか?」

 

カゲボウズは頷く。あの子も自分と同じく無茶苦茶を言われてバトルする羽目になっているのは予想できた。戦況も不利な以上、放っておけるはずがない。

 

「そこの子、加勢するぜ!話は後だ!!カゲボウズ、影打ち!」

 

一気に飛び出して、先制技の影打ちを放つ。その影が届く瞬間……ラクライの方が、ぱたりと倒れた。そのまま影打ちにふっとばされてさっきと同じ光景になる。

 

「え……?」

 

「ラッツⅢならずこのラッツⅡまでも……逃げるべきだ~!!」

「そうすべきだ~!」

 

さっきとは違う意味で混乱するサファイア。男たちはまたよくわからない捨て台詞を吐いて逃げ出してしまった。サファイアはぽかんとしている。

 

そんな様子を見ていた日傘の少女はモンスターボールにヨマワルをしまうと……何やらおかしなものを見るような眼でサファイアを見て、こう口にした。

 

「ひとまず加勢ありがとうと言っておこうかな。だけど、今のは間抜けだったね。もう勝負は決まるところだったんだから」

「決まるって……だって、防戦一方だったじゃないか?」

 

サファイアがそう言うと少女はますます馬鹿にしたような眼をする。

 

「あのね、君もゴーストタイプのポケモンを使っているんだろう?だったら最初に鬼火を相手に打って、後は相手が倒れるのを待つくらいの基本戦術は頭に入れておいた方がいいんじゃないのかな」

「なっ……そんな言い方はないだろ!シリアはそんな戦い方はしないし……」

 

チャンピオンのシリアは、補助技や変化技も大いに使うが最終的には強力な攻撃技を決めて終わらせる。だからサファイアの戦い方も自然とそうなっていて、ただ待つだけの戦術は頭から抜け落ちていた。

シリア、と名を聞いた少女はほんの少し眉をひそめたが、サファイアは気づかない。

 

「……まあいいか。察するに、君も今日レイヴン博士からポケモンを貰う予定だったんだろう?誰かに奪われたみたいで残念だったね。それと……ボクの事、もしかして覚えていないのかい?」

「え……?いや、悪い。どこかで会ったことあったっけ?」

 

サファイアのもの覚えは悪くはない。だがこの少女に見覚えはなかった。

 

(でもなんだろう、この雰囲気には覚えがあるような……)

 

「……そう、わかったよ。ここであったのも何かの縁だ。どうせなら一緒に旅をしないかな?」

 

か弱い女の子の一人旅は危ないからね。と嘯く。正直言って、か弱い女の子はこんな喋り方しないとサファイアは思った。思ったので口に出すと。

 

「やれやれ。ボクがどんな喋り方をしていようとボクは女子なんだ。盗人やケダモノには関係のないことだよ。それで――受けてくれるのかい?」

 

やっぱり随分はっきりものを言うので、守る必要があるとは思えなかったりするが……気にはなる。それに、一緒に旅をするのならお互いをライバルとして実力を高め合うことも出来るだろう。

 

だけど、この少女が自分を女子と言い張るならサファイアだって一人の少年だ。素直にわかったというのは照れ臭い。なので。

 

「……名前」

「ん?」

 

「人にものを頼むときは、まず名前を名乗れよな。俺はサファイア。サファイア・クオール。あんたが名前を名乗るなら……その話、受けてやってもいいぜ」

 

「なんだそんなことか。ボクの名前はルビー・タマモだよ。ミスマッチな名前だろう?」

「……親に貰った名前を馬鹿にするもんじゃないぜ。ま、わかったよ。じゃあルビーでいいよな?」

「ああ、これからよろしく頼むよ。サファイア君」

 

こうして。謎の襲撃者の危機を乗り越えて今日旅立ったばかりの少年少女は出会い。また101番道路を歩き出すのだった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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