幽雅に舞え!   作:じゅぺっと

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決着。そして伝説へ。

「本当の勝負……ねえ。いいぜ、ここからてめえに本当の地獄を見せてやる。さあ次のモンスターを出しな!」

「俺は負けない!出てこい、そしてシンカせよ!その輝きで笑顔を照らせ、メガヤミラミ!」

 

 ヤミラミの体が光輝き、宝石が巨大な盾となる。メガシンカすることで守りに秀で、さらにメタルバーストで攻撃を反射することも出来る強力なポケモンだ。だがシリアはそれを鼻で笑った。

 

「メガヤミラミ、敵じゃねえな。まずはギラティナ、回復封じ!」

「自己再生を封じにきたか……メガヤミラミ、シャドークロー!」

 

 宝玉の光が強い陰影を映し出し、色濃くなった影がギラティナの巨体を切る。しかし……

 

「無駄だ。その程度の攻撃はギラティナには通用しない!」

 

 その一撃は、ギラティナのぼろぼろの羽根を薄く傷つけただけだった。

 

「ギラティナ、竜の息吹!」

「メガヤミラミ、メタルバースト!」

 

 ギラティナがこの世のものとは思えない、蒼と黒と白が混ざったような気味の悪いブレスを放つ。それはヤミラミの大楯に当たり、物理法則を無視してぐにゃぐにゃに散乱したが、メタルバーストの効果は発動する。さらに、ヤミラミの影が伸びる。

 

「光と闇、今一つとなりて新たな力を生み出さん!混沌螺旋カオスバースト!」

 

 メタルバーストの反射に影打ちを組み合わせ、高速で光と闇による螺旋状の一撃を生み出すサファイアとヤミラミの新たな技。輝きと影、二つの相反する攻撃を受けてギラティナの体の周りに爆発が起こる。だがなおも――伝説の竜の姿は、びくともしない。

 

「……怨みとプレッシャーの効果発動。貴様の影打ちとメタルバーストのエネルギーを奪う」

「びくともしない……これがシリアの伝説のポケモンの力なのか」

「そうだ、これがゴーストタイプ最大の体力、そして耐久力を持つギラティナの力……だがそれだけじゃねえ。こいつの伝説たる力を見せてやる!ギラティナ、シャドーダイブ!」

 

 ギラティナの体が、唐突に消える。ゴーストダイブと同じ種類の技かと思ってあたりの影を見渡すが、どこにもギラティナの存在は感じない。

 

「メガヤミラミ、守るだ!」

 

 ヤミラミの体が緑色の防御壁に包まれる。今やこの守りは四天王のイグニスのファイヤーの業火さえ防ぎきるほどだ。ひとまず相手が姿を現すまで耐え凌ごうとするサファイア。

 

「読み通りだ……やれ、ギラティナ!!」

 

 ギラティナの体は、何もない空中から穴をあけて顕れ、メガヤミラミに向かって突撃する。その一撃は緑の防御壁を――そもそも存在しないかのように突き抜け、ヤミラミの体を吹き飛ばした。

 

「なっ……」

「シャドーダイブは影に隠れて攻撃するだけのゴーストダイブとは決定的に違う。こいつが隠れるのはな、こいつの世界そのものなんだよ。全ての物理法則が通用しない空間。その性質を得て攻撃することで一瞬だがギラティナはあらゆる防御を無効化することができる!!」

 

 サファイアは、ギラティナの出てきた『穴』を見た。見てしまった。その中は、大地が天に、天が大地に存在し、水が下から上に流れ草木の根が触手のように直接空間に蔓延っている名状しがたい空間だった。思わず吐き気がこみあげるサファイア。

 

「そんな技が……大丈夫か、メガヤミラミ」

 

 ヤミラミは何とか宝石に縋るようにして立ち上がる。よく見れば、ダメージだけではなく体が麻痺していた。竜の息吹の効果だ。

 

「さあ止めだ!ギラティナ、祟り目!」

「……ヤミラミ、守る!」

 

 ギラティナの破れた翼から放たれる瞳型の光線を、今度こそ防御壁が防ぐ。だがその間にもプレッシャーの特性が技を出すエネルギーを削っていく。

 

「ひとおもいにはやらねえ、俺を本気で怒らせたこと、たっぷり後悔させてやる……ギラティナ、怨み!」

 

 さらに負の思念が守るのエネルギーを削り取る。もう一回使えればいい方だろう。

 

「お返ししてやるよ、影打ちだ!」

「……メタルバースト!」

 

 ギラティナから伸びる影を、ヤミラミが宝石で防いで跳ね返す。しかし元々影打ちの威力は低いのと、ギラティナの圧倒的な体力の前にはほとんど効果がない。

 

(それでも、まったく効いてないなんてことはあり得ない……耐え続けて攻撃を仕掛ければ、勝機は)

「あるとでも思ってるんじゃねえだろうな?さあ怨めギラティナ!お前を理不尽な世界に閉じ込めた奴らへの怨みを晴らせ!」

 

 負の思念が、ことごとくヤミラミの技を放つエネルギーを削っていく。その憎しみは、過去におくりび山での使命を強制されていたシリア本人のものでもあるようにサファイアには思えた。

 

「さあ止めだ!シャドーダイブ!」

 

 ギラティナがこの世の物理法則が通用しない世界へと隠れ、全ての守りを無効にする渾身の突撃がヤミラミの体を吹き飛ばす。

 

「どうだ、これが俺の……」

「詰めが甘いぜシリア!」

「何?」

「メガヤミラミ、混沌螺旋カオスバースト!」

 

 再び、光と闇の螺旋がギラティナに飛んでいく。直撃し、ギラティナが初めて苦しそうな雄たけびをあげる。

 

「まだメタルバーストを打つ余力があったとはな……だがこれで終わりだ、祟り目!」

「……戻れ、メガヤミラミ」

 

 二発のシャドーダイブでヤミラミの体力は尽きる寸前だった。守るを使うエネルギーも切れ、防ぐ術なく倒される。だがサファイアの闘志は挫けない。

 

「続いて現れろ!全てを憎しみを引き裂く戦慄のヒトガタ――メガジュペッタ!!」

「――――!!」

 

 ジュペッタがケタケタ笑いを浮かべながら出てくる。その笑い声が、熱くなりすぎるサファイアの頭を冷やしてくれる。

 

「シリア、あんたは怨みで技を出すエネルギーを切らすのを狙うならメタルバーストが打てなくなるのを確認してからとどめを刺しに来るべきだったんだ。回復封じ、シャドーダイブの

 

防御封じと攻撃回避……そして怨みとプレッシャーの技封じ。一見無敵に見えるけど実はそうじゃない。今のシリアは――その強さで相手を見下しててスキが出来てる。俺が知ってる幽雅なチャンピオンはそんなミスしなかった」

「……ちっ」

「それに――シリアは、今バトルしてて楽しいか?ワクワクしてるか?」

「はっ、くだらねえ。これはジャックのところに行くための踏み台のバトルだ。そうでなくても、俺にとってはバトルは勝つためだけにあるんだ。そんな感情、入り込む余地はねえよ」

「……だったら、俺がこのバトルでシリアをワクワクさせてみせる。そういうチャンピオンに、俺はなる」

「なら俺を倒してみろ……ギラティナ、眠る!」

 

 ギラティナが瞳を閉じ、ヤミラミが折角削った体力を回復させる。回復封じの効果は終了したらしい。

 

「さらに!カゴの実の効果が発動し、俺のギラティナは眠りから覚める……これでお前のヤミラミの努力も無駄ってわけだ」

「いいや、それは違うさ。メガジュペッタ、影分身!」

 

 ジュペッタの体が高速で分身していく。ギラティナは本体を見失う。

 

「またちょこまかと逃げるだけか?まだギラティナの技はある。波動弾!」

 

 ギラティナの『気』が具現化し、蒼と黒と白が混ざったような光弾が放たれる。それはまっすぐにジュペッタの本体へ飛ぶ。格闘タイプの技ゆえにジュペッタにはダメージはないが――

 

「ふん、そこが本体か。竜の息吹だ!」

「もう一度影分身!」

 

 本体を見抜き、攻撃が飛んでくる前に再び分身を作り出す。特性『悪戯心』の前に思うように手が出せないギラティナ。

 

「ヤミラミが教えてくれたんだ。ギラティナはスピードはそこまで高くない。メガジュペッタの速度には追い付けない。攻撃も直線的だ。いくら守りを無効化出来ても、そもそも当たらなければ意味がない」

「なら、怨みで技が出せないようにするまでだ!ギラティナ、やれぇ!」

「その前に倒しきる!メガジュペッタ、虚栄巨影!」

 

 ジュペッタの体が巨大化し、その爪が怨みを込めるギラティナの体に傷を入れる。ナイトヘッド、シャドークローの両方の技を出すエネルギーが削られるがお構いなしだ。

 

「怨め!もっともっと怨め!」

「続けろメガジュペッタ、残影無尽撃!」

 

 分身したジュペッタの影が伸び、無数の刃となり、ギラティナの翼を、体をさらに傷つける。そして次の瞬間、ギラティナの周りの空間が撓んだ。

 

「ギラティナ、シャドーダイブで退避しろ!」

「させるか、怨虚真影!」

 

 怨みと影打ちを組み合わせた、神速の一撃が異空間に逃げようとするギラティナをはじき飛ばす。そして吹き飛ばした先は――無数の分身たちの、中心。

 

「これでとどめだ、必殺・影法師!」

 

 今までの旅で作り出した技の最後に繰り出すのはサファイアとジュペッタ――当時はカゲボウズがシリアに憧れて生み出した最初の必殺技。無数の巨大な影を前にギラティナが、亡霊の竜が――屈し、倒れる。

 

「馬鹿な……こんな子供だましの技にギラティナが……」

「確かにこれはあんたに騙されて作った子供の技かもしれない。でも……俺は、俺たちはあんたに騙されたからこそここまでこれたんだ」

「うるせえ……うるせえうるせえうるせえっ!出てこいメガジュペッタ!」

 

 サファイアの言葉に、ギラティナが倒された事実に、何より自覚せざるを得ない自分の詰めの甘さに苛立ち、葛藤するシリア。怒りのままにジュペッタを繰り出し、ヒマワキで見せた必殺の一撃を使う。

 

「ナイトヘッドからの怨みだ!全ての技のエネルギーを刈り取れ!」

 

 シリアのジュペッタの体が巨大化し、凄まじい負の思念が視覚を通してサファイアのジュペッタを蝕もうとする。だがそれは一度見た技。何より、ナイトヘッドの弱点をサファイアは知っている。

 

「目を閉じろ、メガジュペッタ!」

「!!」

 

 そう、目を閉じればナイトヘッドの恐怖は伝わってこない。必殺の一撃をあっさりと躱され、焦るシリア。

 

「だったら呪いと怨みだ、その呪詛で、奴の体を貫け!」

「――――!!」

 

 シリアのジュペッタの手に、呪詛が纏わりついた螺子のような物体が握られる。それを特性『悪戯心』による高速の移動でサファイアのジュペッタを貫こうとして、その螺子が空を切る。理由は単純に、サファイアのジュペッタの影分身の方が速かっただけだ。

 

「なっ……!俺のジュペッタの速度を上回るなんて、こんなことが……!」

「……俺の知ってるシリアは、それくらいの不利ひっくり返したさ」

「……!」

 

 呪いは自身の体力を消耗して発動する技だ。残された手段は――ただ一つ。

 

「いけっ、メガジュペッタ、シャドークロー!」

「……怨念だ!」

 

 サファイアの攻撃に合わせて、怨念を放つ。避けるそぶりもなく攻撃は直撃して、シリアのジュペッタが倒れると同時に、サファイアのジュペッタの技のエネルギーを全て刈り取った。シリアがジュペッタをボールに戻すと同時、サファイアもジュペッタを戻す。

 

「この俺を最後まで追い詰めるとは……出てこい、サマヨール」

「頼んだぞ、ヨノワール!」

 

 サマヨールとヨノワール、進化前と進化後のポケモン同士が最後に残る。苦渋の表情を浮かべるシリアに対し、サファイアの表情は笑顔すら浮かんでいた。

 

「こんな形になったけど……シリアとバトル出来て楽しいよ。伝説のポケモンまで倒せて、すっごくワクワクしてる」

「……ああそうかよ」

 

 だからどうした、と言わんばかりのシリア。

 

「俺、ヒマワキシティでのシリアのバトルのこと、最初は相手を無理やり動けなくするだけの相手を見下した酷いバトルだって思ってた。でも今は違う……どんなバトルにも、真剣にや

 

ってるから楽しい、そう思えるんだ。」

「……」

「俺はシリアのバトルを否定しない。これがシリアの本当のバトルスタイルだって言うならそれでもいい。だけど……『幽雅』な心まで無くしちゃ駄目だ。きっとシリアは、その方が強

 

い」

「……言いたいことはそれだけか?」

「ああ、もうこれ以上言うことはない」

 

 数秒、お互いに静寂。発声は同時だった。

 

「サマヨール、重力!」

「ヨノワール、重力!」

 

 両手を前に突き出しお互いに発生させた重力が、お互いの体を潰しあう。ヨノワールは攻撃に優れ、シリアのサマヨールは進化の輝石を所持しているため防御にさらに特化している。

攻撃と防御。純粋な力の衝突に勝ったのは――サファイアと、そしてルビーのヨノワールだった。シリアの最後の手持ちが力尽きる。

 

 

「……………………俺の負け、か」

「ああ、俺の――俺とルビーと、仲間みんなの勝ちだ」

 

 

 敗北したシリアは、何処かすっきりとした表情をしていた。憑き物が落ちた、という表現がふさわしい。サファイアの顔をまっすぐ見据えると、こう言った。その笑顔は、まさしくサ

 

ファイアの知っていたチャンピオンの顔そのままだった。

 

「ジャックを……俺の師匠を頼む。だが次は負けねえ。ホウエンリーグで待ってるぜ……この地方の代表、『幽雅な』チャンピオンとしてな」

「わかった。この戦いが終わったら、すぐにでも行くよ」

 

 口調は元のまま、それだけ言って、シリアは踵を返して去っていく。それをサファイアが見送ると、再びジャックの声が響いた。

 

「やあ、チャンピオンとの戦いお疲れ様。良いバトルだったよ。末期の見世物には丁度いいね」

「それで、ジャックはどこにいるんだ」

「まあ焦らないでよ。――今行くからさ」

 

 すると突如として、サファイアの目の前にジャックが現れた。もう意外とサファイアに驚きはない。

 

「さあ、今ここにホウエントレーナー最強のトレーナーが誕生したわけだ。こちらも最強のポケモン達で挑まないとね」

 

 ジャックが指をパチンと軽やかな音を立てて弾く。すると――海を割り、大地を割り、二体のポケモンが現れる。

 

 

「グラアアアアアアア!!」

「ギャオオオオオオン!!」

 

 

その二体こそが、この日照りと大雨を引き起こしているポケモン、グラードンとカイオーガだった。体に浮かんだ金色の文様から、異常なまでの力を感じる。

 

「これこそがメガシンカと対を為すゲンシカイキの力。僕を3000年生きながらえさせている無限の忌々しき力だよ……ポケモンは回復させてあげる。だから全力でかかっておいで。そしてこの二匹を倒して――ゲンシカイキの力を消滅させて、僕を眠らせてくれ。でないとこの二体はホウエンを滅ぼしてしまうよ」

 

 虹色の光がサファイアを包むと、ボールの中のポケモン達が回復した。ジャックはサファイアとの対戦に喜んでいて、ゲンシカイキの力に怒っていて、自分の呪われた生を哀しんでいて、ティヴィルにメガシンカの力を蓄えさせ、この状況を作り出したことを楽しんでいた。全ての感情がまじりあった不思議な笑顔だった。

 

 

「――さあ、最高のバトルを楽しもう」

「……やってやる」

 

 サファイアは覚悟を決める。ルビーの、シリアの、今まで旅して出会ってきたすべての人々の思いを込めてサファイアは叫ぶ。

 

 

「俺はホウエンを守る。そして――ジャックのことも死なせない!それが俺のポケモンバトルだ!!」

 

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