魔法先生ネギま!cross vesperia   作:雪蛍

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第11話

 

 

 

「今日は来て頂きありがとうごいました。 ユーリは楽しめましたか?」

 

 野点を切り上げ、2人は茶室の前で話していた。

 

「ああ、茶は苦かったけど、茶菓子は美味かった。 こういうのは苦手なんだけどな、たまには悪くねぇな」

 

 抹茶そっちのけで茶菓子ばかりおかわりして食べている辺り、楽しみ方を全力で間違えてはいるが、ユーリなりにこの時間を充分に楽しんだようだ。

 

「それならよかったです」

 

 手を体の前で組んでお辞儀する茶々。

 

「お前はこの後どうすんだ?」

 

「私ですか? 特に予定はありませんが……」

 

 ふとあることに気づき、ユーリは尋ねる。

 

「茶々も学校に行ってんだろ? クラスは何やってんだ?」

 

「私のクラスはカフェをしています。 メイド喫茶やその他様々な案が浮かびましたが、結局回り回って通常のものに落ち着きました」

 

 「? そうか」

 

 茶々の説明に出てきたメイド喫茶というものが何なのか分からないユーリだったが、何をしているのかだけは理解できた。

 

「へぇ。 んじゃ行ってみるか、どうせ他にやることねぇしな」

 

「一緒に、ですか?」

 

 突然のユーリの提案に茶々が聞き返す。

 

「ああ。 つか俺、茶々の学校どこか知らねぇし。 なんか都合悪いか?」

 

「いえ特には。 そうですね、では御一緒させて頂きます」

 

 頭の中にあるデータをもう一度軽く照合して、問題がないことを確認して茶々は頷いた。

 よし、と頷きユーリは歩き出す。

 茶々はお決まりのようにその少し後ろを歩く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉ兄さんっ! 女連れかい?」

 

「またか……今度は何だよ?」

 

 茶々の学校へ向けて歩いている道中、ユーリ達は威勢のいい声に呼び止められる。

 もう何度目か分からないその呼び止めにいい加減ウンザリだったユーリだが止まってしまった以上、無視するのも気が引けた。

 

「どうだい? 彼女にプレゼントでもしてポイント稼ぎってのは。 そういうのにうってつけのいい物揃えてるぜっ?」

 

 溜息を吐くユーリの態度を気にすることもなく露天商は自慢の商品を進め出す。

 この学祭で店を出している人間は本当に商魂逞しい。

 

「んなの口に出してる時点で効果ないだろ。 それにんな関係じゃ……」

 

 ない、と言おうとしてユーリの言葉が切れる。

 彼の目が売り物の一つの可愛らしい髪留めを捉えていた。

 その彼の後ろで「そ、そんな関係では……」と無表情ながら焦っている茶々がおかしな手の動きをみせているが、ユーリは気づかない。

 

「これ、いくら?」

 

 ユーリはひょいっと髪留めを手に取り、店主へ値段を尋ねる。

 

「そいつぁ3000円だな! 買ってくれるのかい?」

 

「ああ……」

 

 売り物の中では値が張るほうだったが、ユーリは迷うことなく会計を済まし、茶々の元へと戻ってくる。

 そして徐に彼女の手の平にその髪留めを置いた。

 

「ユーリ?」

 

 不思議そうに尋ねる茶々。

 

「今日の礼ってことで。受け取ってくれよ」

 

「そんなっ、お礼だなんて別に……」

 

「もう買っちまったしな。 んなモン俺には必要ねぇし、 なっ」

 

 悪戯っぽくウインクするユーリ。

 暫くあたふたとしていた茶々だったが、どうあってもユーリには返せそうにないと諦め、手の中の髪留めへと視線を落とした。

 

「創作、でしょうか? 見たことのない花びらです。 桜に似ているような気がしますが……」

 

 その髪留めには花びらがあしらわれているのだが、彼女のデータベースに該当する物はなかった。

 

「やっぱそうか……」

 

 茶々の呟きを聞いて、ユーリは自分の想像が当たったことを理解する。

 髪留めにあしらわれた花びらは、ハルルの花びらにとてもよく似ていたのだ。

 恐らくこれを作った人間のの想像の産物で、全くの偶然なのだろう。

 しかしその花びらに何か縁のようなものを感じて、ユーリはこれを買っていたのだ。

 

「ありがとうございますユーリ。大切にします」

 

 茶々の平坦な声色の中に、確かに嬉しいという感情が垣間見えた。

 

「あ……」

 

 茶々の礼には応えず、徐にユーリは彼女の手から髪飾りを取り、彼女の頭に着ける。

 髪留めの着け方なんてあまり詳しくないので少し不格好な着け方になってしまったが、2、3歩下がって茶々の頭を眺め、ユーリは満足そうに頷いた。

 

「いいんじゃねぇ? よし行くか」

 

「……はい」

 

 それだけ言って歩き出すユーリ。

 頭の髪飾りを少し撫で、茶々は返事を返して彼の後を追いかけた。

 

 

 

「あの建物が校舎です」

 

 あれから暫く2人は無言で歩いた。

 そして10分程歩いた頃、茶々は前方に姿を現した建造物を指差した。

 

「あ? なんだ、じいさんトコだったのか……」

 

 それを見て、ユーリは意外そうな声を上げた。

 そこは学園長室がある建物で、ユーリもこの半年でもうかなりの回数訪れたことがある見慣れた場所であった。

 

「来られたことがあるのですか?」

 

「まぁな、つっても来るのは夜中ばっかだけどな」

 

 ユーリがここに呼ばれるのは大概生徒達が帰宅した後、人目につかない時間帯ばかり。

 だから彼が茶々の制服を見てもここの生徒だと気づくことはなかった。

 

「行きましょう、ユーリ」

 

 前を歩き出した茶々の後について、昼に来るのは初めてだな、と考えながらユーリも足を進めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「騒がしい連中だったな、無駄に疲れたわ……」

 

 夕方、校舎からはかなり離れたカフェテラスの一席でユーリは甘めに作ってもらったカフェオレで喉を潤しながらため息を吐いた。

 茶々のクラスの出し物がカフェと聞いて、休憩がてらのつもりだったのだが、その計画は教室に一歩踏み入れるその前に破綻してしまい、全く休憩にならなかった。

 結局、あれこれ煩く聞いて来る女生徒から逃れるためにさっさと退店し、こうやって別の店に入ることになってしまった。

 

「あれがうちのクラスの標準的なテンションです。 学祭効果がなくても、年中お祭り騒ぎですよ」

 

 「茶々も大変だな、巻き込まれたりすんだろ?」

 

 テーブルに肘をつき、ユーリは茶々があの連中に巻き込まれ慌てる様子を想像する。

 割と簡単に想像できる辺り、2-Aのインパクトは凄まじい。

 

「いえ、私は基本的に干渉はしませんから、遠巻きに見ているだけです」

 

「そうか……」

 

 予想が外れたことにさして何も感じず、ユーリは目を閉じた。

 

「流石に少し疲れた。 馬鹿騒ぎが好きな連中だな、ホントに」

 

 瞼を閉じて、この3日間に見たこの都市の人達を思い返す。

 悪ふざけがすぎる連中やめんどくさいのも多々いたが、この広すぎる学園中に笑顔が溢れていた。

 

「……」

 

 茶々から応えは返ってこない。

 それが珍しくてユーリが彼女の方へ目をやると、茶々は髪飾りを撫でるのに夢中になっているようだ。

 その光景に頬を緩ませるユーリ。

 出会ってから世話になりっぱなしのイマイチ何を考えているのかよく分からない彼女への礼は、割と成功だったようだ。

 

 大通りへと目を向ける。

 年齢、性別関係なく心から楽しそうに大声で笑う人々。

 鬱陶しいくらいハイな3日間だったが、悪い気は全くしなかった。

 捜索が全く進展しない環境で溜まっていたマイナスの感情や、ストレスが結構洗い流せた。

 

(そういう意味では、茶々にも感謝しねぇとな……)

 

 向かいに座る彼女にも、精神的に助けられた面は大きいだろう。

 出会いは偶然で、それきり会うことがなくても何の不思議もないくらい、取り立てた何かがあったわけではない。

 しかし何だかんだで学園祭を一緒に回るくらいには心を許している。

 

(寂しかった……とか? ハッ、笑えねぇな)

 

 強がって鼻で笑っみたが、恐らくはそれが正解なのだろう。

 あの日あの夕方あの場所で、確かにユーリは寂しさに囚われていた。

 商店街の住人はとても温かい。

 下町を思い出すくらいに。

 だからこそ、温かければ温かい程現実に目を向けた時、寂しさが募る。

 ここはテルカ・リュミレースではないのだと、実感する。

 

 そんな時に出会った茶々、案内をかってでてくれたあの時、口ではああ言いながらも、正直嬉しかったのが本音だった。

 

(……自分の心なんざ分析するんじゃなかった。 我ながら女々しすぎる)

 

 「ユーリ……」

 

「あ、ああ何だよ?」

 

 あれこれここ最近の自分について自己分析を続け、ユーリの頭がそろそろ気恥ずかしさに占領されそうになった時、丁度いいタイミングで茶々が声をかけてきた。

 少しどもりながらユーリが目を開けると、茶々はユーリを見ずに、首を左側へと向けていた。

 

「ユーリ見てください、あれが世界樹の発光です」

 

「あれが……」

 

 茶々にならい左の方を見て、ユーリは目を大きく開く。

 彼の目に飛び込んできたのは、麻帆良の象徴たる世界樹が光を発している、とても幻想的な光景だった。

 

(今日はホントに、よくハルルを思い出すな……)

 

 その光景はあの日、エステル、カロル、ラピードと見たものと良く似ていた。

 

「本当に綺麗な光景だと、機械の私でも理解できます」

 

 樹を見たままの茶々が、独り言のように呟いた。

 

「んな言い方すんな。 関係ねぇよ、んなことは……」

 

「……はい」

 

 世界樹を眺めたまま、ユーリはその呟きを即座に否定する。

 外側は確かに違っていたとしても、綺麗だと感じるその心に違いなんかない、ユーリはそう考えている。

 しかしまだ何か思うことがあるのか、茶々はすぐには答えなかった。

 

(来年の今日、 俺はこの樹をどんな状態で見ることになるのか……と、そうだ。 言っとかねぇとな)

 

 そのまま来年へと思いを馳せていたユーリだったが、これからの予定のことを思い出して茶々へと伝えるべきことを口にする。

 

 「茶々、俺当分猫の餌やり、行けそうにねぇわ」

 

「……そう、ですか」

 

 肘をつき、樹を見たままそう言い放つユーリ。

 視線をユーリに向け、少し寂しそうにする茶々。

 

「理由を聞いても、いいですか?」

 

 躊躇う素振りを見せたがやはり気になる気持ちの方が強く、茶々はユーリにその理由を尋ねた。

 

「タカミチとイギリスってとこに行くことになった。 理由はまぁ……探し物ってとこか。 それが見つからねぇと、俺結構まずいんだ」

 

 こちらの関係者ではないと思っているユーリはじぶんの目的を暈してから話す。

 しかし伝えられる情報はできるだけ伝えようと言葉を選ぶ。

 

「探し物……」

 

「ああ、んで今回は一旦戻ってくるらしいが、場合によっちゃ拠点を向こうに移すかもしれねぇ。 そうなったら、もう猫の世話はできなくなっちまう……」

 

 だから、とユーリはついていた肘を下げ、姿勢を少しただして茶々を見た。

 

「元々茶々がやってことだからおかしな話だが、そうなったらあいつらのこと、頼むな?」

 

 ユーリの目をじっと見つめ黙る茶々。

 その目からは何を今考えているのかは分からない。

 暫くして、茶々は目を伏せて小さく答える。

 

「分かりました……あの、向こうに拠点を移したら、もうここには戻らないのですか?」

 

「いや、来年の学祭には戻ってくる。 つうか戻ってこないといけない」

 

「?」

 

 ユーリの妙な言い回しに首を傾げる茶々。

 どいうことなのか意図が掴めない。

 しかし茶々にはそんなことは今はどうでもよかった。

 

「あのっ! その時また会えますか?私、また案内します。だから……」

 

 自分がどうしてこんなことを口走っているのか理解はできない。

 けれど今これを伝えておかないいけない気がして、茶々は言葉を続ける。

 しかしその続きを言おうとして、突然茶々の動きが止まった。

 右手を尖った耳に当て、何かを聞いているようにも見える。

 

「茶々?」

 

 彼女のその不審な行動を不思議に思いユーリが声をかけるが、茶々は反応を返さない。

 

ー了解しました、マスター。 今から向かいますー

 

 喧騒の中、そんな言葉をユーリは聞いた気がした。

 

「そろそろ行かなければなりません。 ユーリ、今日私は多分楽しかったんだと思います。 だからありがとうございます……」

 

 急に動きだしたかと思うと、徐に茶々が立ち上がり頭を下げた。

 そこに先程まで確かにあった人間らしさは残っておらず、出会った時のようにただただ機械的に別れの挨拶をする。

 それを少し不思議に思いながらもユーリは茶々に遅れて立ち上がり、同じように礼を言った。

 

「俺の方こそ、な。 久しぶりに色々楽しめたよ。 茶々のおかげだ、ありがとな」

 

 顔を上げた茶々は無表情に戻っていた。

 

「いえ、お気になさらずに。 楽しんで頂けたのなら、幸いです」

 

 ゆっくりと軽く首を振り、そう答えた。

 そして振り返ろうとして、少しだけ止まる。

 

「……探し物、見つかるといいですね」

 

「ああサンキュ。 絶対見つけるさ。んじゃな」

 

 軽く手を振ると、茶々はもう一度頭を下げて、ユーリに背を向け今度こそ雑踏の中へと消えて行った。

 1人になったユーリは再び席に座り、テーブルの上に置いてあったカフェオレを一気に飲み干した。

 

「ふぅ……。ここの暮らし、結構気に入ってたんだけどな」

 

 そして立ち上がり空になったカップを店員に渡してカフェの近くにあった手摺に体重を預け、世界樹を眺める。

 

「あと1年……」

 

 ここ最近すっかり口癖になってしまった言葉だ。

 特に世界樹を眺めていると、ついつい零してしまう。

 

「ま、頑張りますかねっ」

 

 夕方が連れてくる独特の寂しさ感傷を言葉と共に振り切り、気合を入れてユーリも帰路につく。

 日が落ちて、大量に上がり始めた学祭最終日の夜を鮮やかに彩る花火が、彼の明日からの旅立ちを祝福するかのように、夜空に花開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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