「では改めて。 ネカネ・スプリングフィールドです。 メルディアナ魔法学校で教職員をしています」
胸に手を当て、ネカネがユーリに名乗った。
その際彼女はネギと同じか、それ以上に流暢な日本語を扱っている。
あの後、何かとはしゃぐネギを落ち着かせ村に到着したユーリ達はネカネの先導で一軒の家に入り、温かい紅茶が用意されている丸いテーブルを囲むように座っていた。
「ユーリ・ローウェル。 ユーリでいい……」
特に話す情報もないユーリは、とりあえず返事として名前だけを名乗る。
ネギはここまでタカミチと色々話したおして、ようやく落ち着いたようで今はいそいそと紅茶にミルクを入れて、その香りを楽しんでいる。
「ユーリさんは麻帆良にお住まいなんですか?」
上品に紅茶を一口飲んだネカネがユーリに尋ねる。
「ああ、そこで何でも屋みたいなことをやってる。 んで、今回はタカミチの依頼にちょっとわけあって同行してる、と……」
な? とユーリは向かいに座っているタカミチに同意を求めた。
静かに紅茶を飲んでいたタカミチはそうだね、と相槌をうつ。
「そうなんですか……高畑さんとはその、仲がいいんですか?」
タカミチとユーリのやりとりを探るように見つめていたネカネが、確認するように尋ねる。
「あ、ああ。 まぁよく仕事でもつるむし、悪くはねぇよな?」
「そうだね。 少なくとも僕は良好な関係を築けていると思ってるよ」
2人はネカネの突然の質問に目を丸くする。
なんの意図があってそのようなことを聞いてきたのか分からないが、ユーリもタカミチもとりあえず当たり障りのない回答を返した。
そう、ですか……と2人の回答を得て、ネカネは何かを考え込むように黙ってしまった。
「……ユーリさん、突然で不躾なんですが私も1つ、ユーリさんに仕事を依頼してもいいでしょうか?」
しかしネカネは徐に顔を上げたかとおもうと、なんの脈略もなく唐突にそんなことを切り出した。
「依頼? まぁ別に構わねぇけど……」
首を傾げながらもユーリはとりあえず頷いた。
その時ふと新世界にそのまま居ついてしまう可能性を考えたが、まぁ聞くだけならいいだろうとネカネに先を促す。
「実は……この子、ネギのことなんですが、来年麻帆良学園に行くことになっているんです……」
ユーリの視線を受けて、ネカネは隣で静かに紅茶を飲んでいたネギの肩に手を置いて話を始める。
「知ってる。 修行しに来るんだろ? タカミチがやたら嬉しそうに話してたからな。 んで?」
からかうようにタカミチに目線を送ると、タカミチは気恥ずかしそうに頭を掻いた。
はい、とネカネは頷き手を足の上に置いて姿勢を正し、しっかりとユーリの目を見て本題に入った。
「あの、ユーリさん。 四六時中ずっとだなんて厚かましいことは言いません、ただ偶にでいいんです。 この子のこと、気にかけてくれませんか?」
「おねぇちゃん……」
本当に心配そうにユーリに頼み込むネカネを見て、ネギが小さく呟いた。
本当なら自分がネギについて行きたい。
ついていって修行が終わるまで側で世話を焼いてあげたい。
しかし自分にも大切な仕事、役割があって簡単にここを離れるわけにはいかない。
「いくら修行の為と言ってもネギを1人にするのはとても心配で……それも教師だなんて本当にこの子に務まるのか…… でも高畑さんや今日ここで出会ったユーリさんが側にいてくれたら、ネギも心強いと思うんです。 だからユーリさん、宜しくお願いします!」
立派な魔法使いになる為の修行を変更するなどできることではない。
ならばせめて、自分の知っている人間が1人でも多く側にいて支えてくれるのであれば、これほど心強いことはない。
そう考えたネカネはまるで自分のことのようにユーリに必死に頭を下げた。
「……」
しかしユーリはそれに返事を返さない。
「あ、あのユーリ、さん?」
何時たっても返事が返ってこないので、不安気な顔でユーリの表情を伺うネカネ。
当のユーリはネカネのことを見ておらず、目を大きく開いてネギのことを見ていた。
「……お前、向こうで先生なんてすんのかよ?」
ようやく起動したユーリが、珍しく声を少し震わせながらネギに事実の確認をする。
確かにユーリは目の前の少年が来年、麻帆良に来て修行をすることはタカミチから聞いていた。
しかしそれはあくまてま魔法の修行であって、ユーリの中ではあの日の模擬戦のように日々誰かと戦ったりだとか、魔法の授業を受けたりだとかそういうことを想像していた。
しかしそれがまさか、教師をするのが修行だとは考えもしなかった、しかも10才の子供がだ。
魔法の修行に何の関係があるのか甚だ疑問である。
ユーリの世界、テルカ・リュミレースにも学校くらいある。
だが10歳の子供が教師をするなど聞いたこともなければまずあり得ない。
いや身近に1人、大勢の大人達に教鞭を揮ったとしても違和感がないのがいたか。
まぁ本人はそんな面倒な事、頼まれてもしそうにはないが……。
「は、はい。 その、修行の内容は自分では決められなくて、しかも決まった以上変更することも、できないから……」
ユーリの視線を受けて何故か申し訳なさそうに喋るネギ。
彼自身も困惑はしているようだ。
「……でも僕、立派な魔法使いになる為にどんなことでも絶対に諦めないって、そう決めたんですっ」
しかしそんな困惑とは裏腹にその胸に秘めた覚悟は本物のようで、強い眼差しをユーリに返す。
「勿論、これは特例だよ。 普通の人間が10歳で教師なんてなれはしないよ。 教師はとても大変で責任ある仕事だ。 ネギくん、それでもできそうかい?」
タカミチが優しく、しかしその覚悟を試すかのようにネギを見る。
タカミチに問いかけられてネギは少し考えて、それからしっかりと大きく頷いた。
「うん! どれだけ大変でも、やりとげるって決めたんだっ!」
明確な決意を瞳に宿すネギをしばらく横から見て、やがてユーリはその口元を緩ませた。
ネギの姿に、今は遠く離れた彼のの所属するギルドの首領が、一瞬重なって見えた気がした。
「へっ?」
気がつくとユーリはポンっとネギの頭に手を置いて、くしゃっと彼の頭を少し乱暴に撫でていた。
「決めたんなら、しっかり頑張らないとなっ? まっ暇があったら手伝いくらいならしてやるよ、ネギ先生っ」
「はいっ!」
いきなり頭を撫でられたことに若干驚いていたネギだったが、ユーリの言葉に励まされ、満面の笑顔で元気良く返事を返した。
「ふふ……」
そんな2人の様子を見て、ネカネは嬉しそうに口元に手を当てて微笑む。
「不思議な魅力のある方ですね。彼に頼んでよかったです。 ネギの麻帆良行き、少しだけ安心できそうです」
「はは、まぁ僕もできる限りフォローしますから、安心してください」
ネギとユーリを見守るようにネカネとタカミチは2人を見る。
今日出会ったばかりだというのに、ユーリとネギがまるで兄弟のように見えると、ネカネはそう思った。
ちなみにこの後、依頼に対する報酬を払うと譲らないネカネとそんなもの別に要らないと首を横に振るユーリの押し問答が数10分に渡って繰り広げられ、結局依頼ではなく「友人の頼み」という形にユーリが半ば無理矢理に決着させることで終息した。
「ここでよく魔法の練習をしてるんですっ。 タカミチと初めて会ったのもここなんですよっ!」
「へぇ……」
村の外れ、大きな湖を見渡せる岩の先に立ち、ネギは楽しそうに両手を広げて一生懸命にユーリに説明する。
確かにここならば、少しくらい大きな音を立てても人に気取られることはないだろう。
そう思い、ユーリは気持ちのいい風が吹く風景を見渡した。
お茶会という顔合わせもネカネとの風変わりな交渉もなんとか終わり、じゃあ明日までの空いた時間でネギがユーリに村を案内したい申し出たので、タカミチも合わせて男3人で村とその周辺を散歩することとなった。
「ユーリさんは、その……」
「ユーリでいい、敬語もいらねぇよ、ネギ先生?」
でも、と口篭るネギ、ユーリはウインクをして堅苦しいのは苦手なんだよ、と笑った。
「うんっ! ねぇっ、ユーリはマギステル・マギなの? それともミニステル・マギ?」
ユーリにそう言われ渋々だが頷くネギ。
しかしその後ネギは途端に興味津々にユーリ詰め寄った。
この変わり様にはユーリも少し驚いてしまった。
彼がタカミチの友達ということでやはりそこが気になるようだ。
「なんだよそれ? ……なんかの名前か?」
どさっと地面に腰を下ろし、体を目一杯伸ばしたユーリはキョトンと首を傾げた。
その言葉に全く聞き覚えがないらしい。
「え?」
まさかそんな反応が返ってくるとは微塵にも思ってもみなかったネギの目が大きく見開く。
この世界で魔法という存在を知っているにも関わらず、この2つの単語を知らない人間がいるとは夢にも思わず、驚いている。
「マギステル・マギって言うのは世の為人の為に陰ながらその力を使う、 魔法世界で最も尊敬される仕事のことさ。 まぁ例外はあるけど、平たく言えば後衛のことだよ、ユーリ」
少し後ろに立って2人のやりとりを見守っていたタカミチがユーリが飽きてしまわない程度に話を簡潔にまとめてフォローする。
「そしてミニステル・マギはそれとは逆で前衛のことを言うんだ。 魔法使いは呪文詠唱中、完全に無防備となり攻撃を受ければ呪文は完成できない、そこを盾となり剣となって守護するのがマギステル・マギの役割っていうのが定説かな」
「早い話が後ろか前かってことか……」
「まぁ、それで大方間違ってはないけどね……」
せっかくあれこれと説明を入れたのに、ひどく簡単な一言に纏められて、タカミチは渋い顔をした。
しかし結果的に決して間違いではない為、文句も言えない。
「そういうことなら……俺はミニステル・マギ、だな。 魔法なんかメンドくさくて覚える気全くねぇしな……」
脱力しきった態勢のまま身も蓋もないことを口にするユーリ。
昔から本を読むことが苦手だった彼は、親友が口うるさく覚えろと進言していたのに、終ぞ初歩的な回復術すら、身につけることはなかった。
「じゃ、じゃあやっぱりタカミチと同じくらい強いの? ユーリはどうやって戦うのっ ? 武器はっ?」
出端を挫かれたネギだったが、ユーリがミニステル・マギならばそれはそれで気になることはいくつでもある。
勢いを盛り返しキラキラと目を光らせてユーリにあれこれ質問をぶつけるネギ。
「ユーリは強いよ。僕なんかよりもずっとねっ」
ポケットに手を入れ、ユーリの隣に立ったタカミチが笑ながらネギにそう言う。
「タカミチよりっ!? 凄い……」
驚愕の眼差しでユーリを見るネギ。
もはや興味を通り越して、その視線には憧れや尊敬といったものが混じり始めている。
「よく言うぜ。 本気なんか出したことない癖に……」
そんなネギのことは視線から外し、眼前に広がる湖を見たまま、ユーリが面白くなさそうに呟く。
彼とは何度も手合わせをしたことはあるが、いまだタカミチの本気など見たことがない。
「それは君も一緒だろ? ……いや、やめよう。 終わりがないよ、この手の話は……」
ユーリに同じことを言い返そうとして、しかしタカミチは苦笑して早々に話を切ってしまった。
言い出したらキリがないのだ、この手の話題は。
「それもそうだな。 で何だったっけ? ああ俺の武器か。 大抵は剣だな。 たまに斧を使うこともあるけど、アレは重しいなぁ……」
「へぇーっ、 ユーリの戦う所、見てみたいなぁっ!」
戦いに於いて最も分かりやすく、又男の子にとって所謂「格好いい」の象徴と言っても過言ではない剣という単語聞いて益々テンションが上がるネギ。
終いには勝手にユーリが戦う所を想像しだす始末である。
彼の想像の中でユーリは分厚く。そして煌めく白い鎧を装着して、大きな両手剣を構え敵と相対しているという、なんとも安直でそれでいてとても分かりやすい騎士の姿をしていた。
もしその想像をユーリがみ見たら、呆れるか若しくは鼻で笑ってしまいそうになる代物だった。
「ま、機会があったらな……」
ユーリは興奮して舞い上がっているネギを適当に受け流して、両手を頭の後ろで組んでその場に寝転がった。
風も太陽も気持ちがいいので、ここで寝てしまおうかと考え始めている。
「僕も楽しみにしてるよ? ネギ君がどれだけ強くなったか。 来年麻帆良に来たら一度手合わせしてみようか?」
「ええっ!? 無理だよっ! 子供の僕じゃタカミチにかなう筈ないよ……」
「そうかい? それは残念だな」
少し悪ノリしたタカミチがポケットに手を入れて戦闘の構えをとる。
途端に慌てふためいて両手を一生懸命に振りながらタカミチの提案を必死で却下するネギ。
過去の滝割りが相当根強く頭に焼き付いているのだろう、今のネギにはタカミチに勝つどころか戦っている所すら想像できはしない。
ただできるのは、無残に真っ二つになっている自分の姿だけだった。
ブルブルと震えるネギを見て頬を掻くタカミチ。
少し悪ふざけが過ぎたかなと反省する。
しかしもう少し積極的になって欲しいな、と思わないでもない。
謙虚な所がネギの美徳とも言えるが、まだ彼は幼いのだ。
あれこれ考えるよりまず何も考えずにぶつかってみるという大胆さがあった方が、きっと見える物もある筈だ。
「いつか、もっと強くなれたら……その時は戦おうね、タカミチっ!」
「……ああ、そうだね」
少し寂しそうにタカミチは笑ながらネギと指切りをする。
しかし今はこれでもいいだろう。
こういうことは本人の個性や資質と関わってくることだ。
無理に強制していいもいい結果にはならないだろう。
今度はユーリに剣の戦い方を聞こうと身振り手振りユーリに詰め寄るネギを見つめて、タカミチは小さく息を吐いた。
そして夜、家に帰りネカネが用意してくれていた温かな夕食に舌鼓を打ち、タカミチとユーリはベッドが2つセットされた部屋に腰を降ろした。
「……じゃあ今回の任務について話しておくよ」
明日の準備の為、バッグの中をあれこれ確認しながらタカミチが話をきりだす。
「簡単に言ってしまえばよからぬことをしようとしている輩を捕縛、状況によっては殲滅すること、だね。それをユーリにも手伝ってもらうことになる」
「おいおい やけに両極端だな、それ」
手に顎を乗せ、ユーリが気になったことを指摘する。
確かに今の話だけではそう感じても不思議ではない。
捕縛、それか殲滅。
特に後者の方が穏やかではない。
「うん、実は僕はとある組織の残党を追っていてね。
その連中の可能性があるホンの僅かでもある場合、こうやって駆り出されているんだ。
その時が殲滅……」
鞄の整理を早々に終え、寝る前の最後の一服へと火を付ける。
「で、そうじゃなかった時が捕縛、ていう感じかな。
今回の場合は場所が場所だけにただの盗賊の可能性もあるからね、その時はできるだけ穏便に捕縛で終わらせる、というわさ」
実際そこには色々と込み入った事情が絡み合っているのだが、今ここでそれを話しても仕方ないと判断して、タカミチはユーリに直接関係のある、要は彼が何をすればいいのかだけを話した。
ふーんと鼻を鳴らすユーリ。
「それは構わねぇけど、敵がどうこうだとか、どこにいるのかだとか、1から探すのか?」
荷物の中からニバンボシを取り出し、ユーリが面倒くさそうに眉を顰める。
「いや、そういう情報収集は向こうでやってくれてる。 僕たちはあくまで戦闘がメインだよ」
タカミチがベッドとベッドの間にあるテーブルの上の水を飲み、ユーリの懸念を打ち消した。
「で、今回の流れなんだけど、それを終わらせて、残った時間を宙の戒典の捜索とユーリの向こうの案内の時間に当てようと計画してる。 だから早く終わればそれだけそっちに時間が割ける。 お互い頑張ろう」
タカミチの言葉に無言で、しかししっかりと頷いたユーリ。
タカミチは彼の反応に満足したのか煙草を消して靴を脱ぎさっさとベッドに上がった。
眼鏡を外し、横のチェストに置く。
「何だ? もう寝んのか?」
「ああ、明日は早いよ。君も今のうちに休んでおいた方がいい。向こうについたら色々大変だしね」
そう言うとタカミチは枕に頭を乗せ、目を閉じる。
休める時に休んでおくのが戦士の務めだと言わんばかりにタカミチは驚く程あっという間に眠りに落ちてしまった。
「じゃ、俺も少し休むかね……」
タカミチに習い、ユーリもさっさと寝てしまおうと靴を脱ぐ。
そしてチェストの明かりを消し、静かにシーツを被った。
程なくして、規則正しい寝息が2つ、静かな部屋の中に響き始める。
「じゃあネカネさん、お世話になりました。少し申し訳ないですがネギ君にも宜しく言っておいてください」
翌朝、まだ日も登りきってない頃、既に準備を済ませ玄関の前でタカミチとユーリは見送りをしてくれているネカネに頭を下げた。
「はい、また来てください。ネギもきっと喜びます」
見送りの為に早起きしてくれたネカネ、ネギはまだ夢の中だ。
「ありがとうございます。 時間が空けば帰りにでもまた顔を出します」
タカミチの言葉にはい、と笑顔で返すネカネ。
しかしすぐにその笑顔を曇らせてしまう。
「あのっ、お気をつけて……」
詳しいことは分からなくても女の勘か、それともただ鋭いだけなのか、これなら起こるであろう荒事を心配してネカネが2人を見る。
「大丈夫ですよ。ユーリもいますからね」
そのネカネの心配を少しでも払拭する為、戯けてタカミチがユーリに視線を送る。
それを受けてユーリも肩をすくめる。
「ではまた」
「じゃあな」
あまり長くなっても迷惑なので早々に話を区切り軽く手を振って2人は歩き出す。
その後ろ姿を、ネカネは見えなくなっても暫く動かずにずっと見送っていた。
「だいぶ霧が濃くなって来たな……迷ったりしねぇのか?」
ネカネと別れてから村を外れて暫く歩いているとユーリの言葉どおり、急に霧が辺りを包み始めた。
もう既に視界がほとんど使い物にならないくらいにまで濃くなっているが、タカミチはそれでも止まることなく歩き続ける。
「大丈夫だよ、これは一般人向けの対策でね。 迷い込んだとしても村の出口に戻されるだけなんだ」
霧について説明しながらもタカミチの歩く速度は変わらない。
ユーリはタカミチを見失わないように少し速度をあげて距離をつめた。
「じゃあお前は何で方向が分かるんだよ? それも魔法か?」
「まぁ、そんなところかな? そろそろ着く頃だよ」
「つくづく便利だな、こっちの魔法ってのは。不思議なことはなんでも魔法って言っときゃ全部通っちまう……」
ユーリの言葉を聞いて、タカミチはそれ程万能でもないんだけどね、と苦笑をもらした。
「着いたよ、ここだ」
前を歩くタカミチがやっと足を止める。
ユーリが彼の隣に立つと今までの濃霧がまるで幻だったかのように突如として消え去った。
そして代わりに現れたのは規則的に配置された岩の遺跡。
「……」
登る太陽に照らされた岩々の壮大さに言葉を失うユーリ。
よく見ればその遺跡の周りには頭からフードを被った人間が十数人立っている。
「彼らも皆向こうに行く人達だよ。ゲートは一週間に一度しか開かないからね。毎回結構な数が集まるんだ」
タカミチの言葉を聞きながら、ユーリはもう一度辺りを見回す。
風景は確かに綺麗だが、それだけでなんの変哲もないただの遺跡にしか見えない。
これからここで何が起こるのか全く想像がつかない。
「丁度いいタイミングだったみたいだね。始まるよ、ユーリ」
「あ?」
肩に手を置かれタカミチの指差す先、中央の岩を見るとそれが光輝き始めていた。
そしてその光はだんだんとその強さを増していき、近くにいた人達を順々に飲み込んでいく。
「移動は一瞬で終わるよ。じゃあ、向こうでまた会おう」
迫る光が2人を包む瞬間、タカミチがユーリに話しかける。
何か返そうかと思ったユーリだったが、口を開く間もなく眩しい光に飲み込まれていった。