魔法先生ネギま!cross vesperia   作:雪蛍

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旧オスティア突入編、始まります。

今回はその導入です


第15話

 

 

 

 

 

 旧オスティア、ウェスペリタティア王国跡地

 

 総督府管理下の入跡口よりかなり深く入り込んだそこに存在しているとある建造物、損傷が大分激しい為正確には判断できないが構造的に判断して恐らく何かの神殿。

 大地自体の落下の衝撃で屋根部分が半分以上崩れ、その残骸が屋内に降り注ぎ滅茶苦茶に内装が損傷している中傷1つ付かず、それはそこに悠然と存在していた。

 

 何かを奉るのが目的であろう台座。

 大きさは目算で80cm〜100cm程。

 後からそこに置いた物ではなく、建築の際に既に床と接合していたようで動かすことは不可能。

 床部分から上へ上がる程細くなっていく台形型。

 その4辺の面には不可思議な文字や絵文字に始まり記号のようなものが所狭しと刻印されている。

 表記は古代語なのか、解読することはできない。

 本来ならばその文字列には何か魔的な力が宿っていたのだろう。

 しかしここは魔力が枯渇してしまった禁断の地。

 刻印された文字群が本来の力を顕すことは最早叶わない。

 それでもなおこの台座には人が近寄りがたいと感じる何かが確かにある。

 それは有り体で陳腐な言葉で表すならば怨念。

 読み解くことはできなくとも、その文字列は呪詛のように見るものに嫌悪や恐怖といった負の感情を問答無用に植え付ける。

 

 近づくな……触るな……呼び起こすな……と。

 

 そんな仕掛けが施されている台座の天井部分、掌程の大きさの窪みに収まっているのは1つの宝珠。

 中で何かが蠢いているように怪しくまだらが輝いている。

 その宝珠へと黒い影がかかる。

 

 それは人の手だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく見つけたぜ。 これだろ? 今回の標的は……」

 

 無造作に掴まれた宝珠は男の込めた力に何ら反発することなく容易に台座から離れた。

 持ち上げた宝珠を顔の側へと近づけためつすがめつ眺める男。

 あまり広くはない室内には、何時の間にか8人の程の男達が入り込んでいた。

 皆一様に同じ意匠のローブを身につけ、男の持っている宝珠へと下卑た笑いを向けている。

 

「今回は想像してた以上に簡単な仕事だったな。 ここまでトラップ1つさえなかったしよ……」

 

 宝珠を持っている男を急かして奪い取るように掻っ攫った別の男が意気揚々と声を上げる。

 

「それを言うなら魔獣もだよ。 鉢合わせないよう慎重にしてたとは言え、その姿すら見ないですんだんだ。 拍子抜けだよ」

 

 壁に背を預け、煙草で一服しようとしている男が苦笑する。

 

 そう、男達は世界中にある遺跡から買った情報を頼りに価値ある宝を盗掘する新進気鋭の集団だった。

類稀なる実力なのかそれともただの奇運なのか、彼等は名を上げてからこれまで大きなミスらしいミスもなく順調にその名を大きくしてきた。

 狙った獲物はほぼ手に入れてきたし、何度か同業者や彼等の様な存在を取り締まる者達と敵対しても、逃げることはあっても負けることはしなかった。

 そしてそんな彼等がとある情報を耳にする。

 

 

 旧オスティアで最近、不可思議な反応を示す何かがあるらしい……

 そしてそれは、今は亡きウェスペリタティア王国が秘密裏に隠していたこの世にたった1つしかない貴重な宝である、と。

 

 

 裏の世界の情報網とは言え、得てして噂話というものには尾鰭がつく。

 誰が見たわけでもない、聞いたわけでもない、確実なのは不可思議な反応という部分だけ。

 しかし男達はそこに何かあると考えた。

 自分達には今追い風が吹いていると。

 慎重に判断した方がいいという少ない意見を封殺し、他に取られてしまう前にと いの一番にこの腐都へと駆けつけた。

 その際、彼等はいつも新しい狩場への移動に最も気を配っているのだが少し派手に動いてしまっている。

 

 そして今、彼の目の前には結果として宝がある。

 確かに不可思議な反応を発している宝珠。

 場所が場所だけに当然だが魔力ではない。

 そしてこれも当たり前だが気でもない。

 しかし確実にこの宝珠からあふれている反応。

 今回も自分達は勝ったのだ、男達はそう強く確信した。

 だから自分達の武勇を楽しげに語る声が谺する室内、1人の男が手にする宝珠のあのまだら模様の生き物のような蠢きが次第に大きくなっていることに彼等は気づけなかった。

 

 

 例えそれが、自分達の運命に対して致命的なモノであったとしても。

 

 

「そろそろ外の連中にも知らせてやろう。 もうこれ以上探しても無駄だぞってな……」

 

「ハハ、そうだな。 おいっ、お前ひとっ走り外の奴らを集めとけっ! 帰還の準備も始めとけってな」

 

「はいっ!」

 

 恰幅の良いリーダー格の男が下っ腹然とした小柄な男に命令を飛ばす。

 命令された男は気が小さいのか、酷く肩をビクつかせて一目散に出口へと駆けていった。

 

「おいおい、 あんま脅かしてやんなよ。 あいつビビりだからそのうち心臓止まっちまうぜ?」

 

 壁にもたれて煙草を吸っていた男が苦笑する。

 

「ハハハッ、 こんくらい早く慣れねぇとこの家業続けらんねぇよ!」

 

 その窘めをリーダー格の男は笑い飛ばす。

 お前はそのへん、雑だからなぁと肩を上げる煙草の男。

 そのやりとりを見てる他の男達も、彼等の日常の何気ない風景に笑みを浮かべている。

 

「そんなことよりよぉ……」

 

 リーダー格の男が何かを思い出したように指を鳴らし、その恰幅の良い体を揺らす。

 そして台座の側で宝珠を持っていた男の隣に立つと、その手から奪うように宝珠を取り上げ煙草の男へよく見えるようにそれを掲げた。

 

「コレ、どんくらいの値が着くかね? へへっ、これまでで最高になると俺は踏んでるぜ。 お前はどう思うよ?」

 

「……」

 

 誇らしげに宝珠を掲げそれにつくであろう莫大な金を想像してにやけが止まらない男。

 しかし煙草の男からの返答はいつまで経っても返ってこない。

 

「ん?」

 

 それどころかよく見れば、男は咥えていた煙草を落としたことに気づかないくらい口を開けて、リーダー格の男ではなく彼の持つ宝珠を見開いた瞳で凝視していた。

 

「お、お前っ、 それ……」

 

「ん? なんだ、よ……」

 

 煙草の男が指を指す先、自分の手にある宝珠へと視線を向けようとして、リーダー格の男の動きが止まる。

 ドサッと大きな音が突然、背後から聞こえてきたからだ。

 

「は?」

 

 間抜けな声を上げ背後へと目を向けると、先程まで宝珠を握っていた男が倒れている。

 

意味が分からない。

 

 ピクリとも動かない仲間を某然とリーダー格の男が眺めていると異変に気づいた他の男が1人、すかさず倒れた男へと駆け寄った。

 

「おいっ、どうしたっ! 返事しろっ!!」

 

 頭を抱え、頬を軽くはたきながら何度も声をかけるが反応はない。

 恐る恐る心臓へと手を当てると、もうそこに命を繋げる脈動はなかった。

 

「お、おい……」

 

 リーダー格の男が戸惑いながら一歩近づく。

 顔を上げた男はリーダー格の男と目を合わせると、力なく顔を横に振った。

 

「止まってる……心臓が動いてない。 こいつ……死んでるぞ」

 

「嘘、だろ……なん、で……」

 

 リーダー格の男の弱々しい声が室内にゾッとする程大きく響いた。

 流れる沈黙。

 誰も何も言葉を発せない。

 意味が分からなかった。

 理解ができなかった。

 だって自分達はただ、お宝を手に入れただけなのに……なのに何故、仲間が死ぬ?

 

「だから……」

 

 誰かが小さく呟いた。

 

「だから言ったんだ……今回は場所が場所だからもう少し慎重になろうって。 なのにあんたが急かすから、下調べなんかしてたら他の連中に持ってかれるからって……あんたのせいだっ!! 」

 

 部屋の隅で今まで黙っていた男が狂ったように涙を流し喚くように大声でまき散らしリーダー格の男を責め立てる。

 

「んだとっ!? 黙って聞いてりゃ好き放題言いやがって……」

 

 それで一気に頭が沸騰したリーダー格の男が喚く男を睨みつける。

 近寄って胸倉つかんでやろうと大股で歩き始める。

 

「だってっ! あんた、あんたがっ!! あんたのせいでそいつもっ……皆あんたのせ……ぐっ、 え?」

 

 リーダー格の男に睨み付けられて更に気が動転した男が言葉にならない言葉で喚き続ける。

 その声を聞いているのが耐えられなくなったリーダー格の男が一際大きな声で怒鳴り上げようとした、正にその瞬間だった。

 

「……はっ?」

 

 それは、一本の黒い線だった。

 成人男性の腕くらいの太さの漆黒の線。

 輪郭が曖昧な、しかし触れたモノ全てを取り込み同じ漆黒に塗りつぶしてしまうようなそんな黒が、喚いていた男の心臓を寸分違わず狙いすましたように突き刺していた。

 

「え? は、何……こ、れ……っ」

 

 自身に何が起こったのかさえ理解できていない男。

 ゆっくりと自分の胸に突き刺さる黒い線へと手を動かす。

 その線に触れた途端、激しい痛みが触れた部分に走った。

 そして触れた所から侵食していく黒。

 

「……っ! こっちにもあるっ」

 

 それを目の当たりにした物言わぬ亡骸を抱える男は即座に死体の右腕へと視線を向けた。

 宝珠を握っていた男の右腕には同じような黒い痣が数カ所あった。

 恐らく、あの黒い線に何時の間にか何本も刺されていたようだ。

 

 そして時を同じくして壁で煙草を吸っていた男も見た。

 黒い線の正体は分からない、だがそれが何処から伸びているのかを。

 言うまでもない、リーダー格の男が握るあの宝珠だ。

 1番初めに宝珠の異常に気づいたのはこの男だった。

 リーダー格の男が自慢げに高く掲げていた宝珠を何となく視界に収めたあの瞬間、もう既に事態は手遅れだった。

 模様だと思っていたまだらが異常な速度で宝珠の中を蠢いている事実に呆然としている間に1人が突き刺されていた。

 宝珠から伸びる真っすぐな黒い線はやがて気が済んだのかうねるようにぐにゃぐにゃと曲がり宝珠の中へと戻っていく。

 

「おいっ! それを早く離せっ!! それはまず……」

 

 いっ、と言おうとして室内に響き渡るけたたましい叫びに遮られた。

 それはリーダー格の男の叫び。

 黒い線が宝珠の中へ収まりきった次の瞬間、その何倍もの黒い線が一斉に真上へと凄まじい速度で伸び上がり、天井近くで綺麗に折れ曲がって、そう思った時にはもうリーダー格の男は蜂の巣だった。

 断末魔の叫びの残響が途切れぬうちにあっという間に刈り取られたリーダー格の男の命。

 床に倒れる音が2人目の男と重なる。

 

「えっ……」

 

 惨劇はまだ終わらない。

 1人目の犠牲者をまだ抱えていた男が次の犠牲者となった。

 それを避ける暇などない。

 否、避けようと頭が考える頃にはもう既に終わっている。

 

 だってそうじゃなきゃこんなのおかしいだろ?

 

 男はそう自問自答する。

 それくらい速くなければ目の前の光景を説明できない。

 たった数秒だ、自分の口から煙草が落ちて一度バウンドして、再び床に落ちた……たったこれだけの時間でこの部屋で生きているのはもう自分だけなのだから。

 

「ど、どうしたんですかっ! 何がっ……ガッ……」

 

 外で待機していた筈の仲間。

 リーダー格の男の叫びを聞きつけ戻ってきたのか。

 部屋に一歩を踏み入れる前に終わった。

 直後、幾つもの叫び声が上がった。

 一緒に駆けつけてきていた仲間達が目の前の惨状とそれを作り出した存在に恐怖し、我先にと逃げ出す光景が目に入った。

 男は再び宝珠へと目を向ける。

 

 それはもう宝珠などではなかった。

 ほんの数秒の間に何が起こったのか。

 宙に漂うソレは掌サイズの宝珠の何倍になるのか、人間4人分程の大きさへと膨れあがっている。

 海の中を悠然と泳ぐような動きとその全体のシルエットが巨大な鱏を思わせる。

 しかし決して生物などと認められない、本能的に認めたくない。

 半透明な躯体、 全体としては黒くその淵をなぞる様に怪しく明滅する薄い青。

 瞳があるのかないのか、そしてこちらを向いているのかいないのか、全てが男の理解の範疇を超えていた。

 足に力が入らず、ズルズルと壁伝いに腰が落ちていく。

 静かになった空間で、1人と1体は恐らく向き合っている。

 そんな空間で男はふと、あることに気づく。

 

「俺は……俺は何でまだ、生きてんだ?」

 

 ポツリと呟いた。

 そう、凄まじい惨状の中で、男はまだ生きていた。

 

「……みん、な……」

 

 次々と死んでいった仲間達を順々に眺めると、男の目から自然と涙が流れ出る。

 無法者達ではあった。

 しかし、男は今まで感じたことなどななかった家族というものをこの仲間達に感じていた。

 その彼等はもう動かない、そう実感すると今度は激しい怒りが男の中を駆け巡り始めた。

 これからだった。

 名を上げて世界に自分達の存在を強く刻み付ける、陳腐だが彼等とならばそれが掛け替えのない誇らしいことだと思えた。

 それを奪われた、理不尽に、唐突に。

 そんなもの許せるか? 

 許せるわけがない。

 じゃあどうする?

 殺す、彼等がされたように無慈悲に、そして理不尽に。

 じゃあ立て! 

 武器を握れ!

 俺はまだ生きている、特別なんだ!

 だから奴を殺してやる!

 皆の仇を討つ!

 

「……あ、れ?」

 

 身体中を駆け巡る怨嗟の声に身を任せ立ち上がろうとして、男はようやく気づいた。

 恐怖で足に力が入らないから尻餅をついたのではなかった。

 自分は別に特別などではなかった。

 自分だけが生きているわけではなかった。

 

「そう、か……」

 

 ゆっくりと視線を仇から下へ下げる。

 自分の心臓、それはとうの昔に突き刺され貫かれていたのだ。

 ただ恐怖で全てが麻痺していただけのこと。

 そう、死ぬことさえ忘れてしまうくらい刹那の出来事だったのだ。

 

「俺ももう、死ん、で…た、のか……」

 

 突き刺さっていた黒い線、触手が勢い良く抜き取られる。

 その影響で男の頭は上を向いた。

 

「あ……か……」

 

 薄れていく意識、次第に漆黒に染まっていく視界の中、男が最後に見たのは壊れた天井の上、そこに立ち尽くしている人間のようなカタチ。  

 白く美しい長髪、そしてこちらを無感情に見つめる真紅の瞳だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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