魔法先生ネギま!cross vesperia   作:雪蛍

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一気に原作へと近づきます。
ようやくクロスオーバーを始められそうです。


第19話

 

 

 

 

 不思議な感覚。

 意識が浮上していくのを自覚している自分がいる。

 それはまるで深い深い深淵の水の底からゆっくりと浮き上がっていく様な……

 

 

 色々な夢を見ていた気がするが、それは気がするだけでどれもこれも思い出すことができない。

 そもそも自分が何故今こんな訳の分からない浮遊感を体験しているのか。

 

 

 

 ああ……そうだった。 俺は……

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 無駄に重い瞼を少し強引に開く。

 視界が捉えたのは木目調の天井。

 これまた無駄に重い首を少しだけ右に動かせば窓が目に映った。

 少しだけ開けられた窓から入り込む心地よい風がゆらゆらとカーテンを揺らしている。

 

 見覚えのある部屋。

 確かここは、とユーリがまだ覚醒したばかりでまだ動きの鈍い思考回路を働かせようとして、しかしそれは突然聞こえた1人のかなり慌てた声に遮られてしまう。

 

「あっ! ゆ、ゆゆ、ユーリが目を醒ましてるっ!? だ、だいじょー……ブっっ!!?」

 

 いつからそこにいたのだろうか。

 少なくともドアの開く音は聞こえなかった。

 声の主はユーリが目を覚ましていることに気づくやいなやドタドタと彼の横たわるベッドへと走り寄り、勢いがあまりすぎてベッドの縁に腹をぶつけてしまう。

 痛みに耐えられず床をゴロゴロと

転がる様はあまりにも情けない。

 

「いや、お前の方が大丈夫かよ……」

 

 ユーリは呆れながらゆっくりと体を起こす。

 どうやらかなり長い間寝込んでいたらしく、全身が鉛の様に重たい。

 それでもなんとか起き上がりベッドの縁に腰掛け、いまだ涙目で転がるどこかの元気一杯な頭領に似た物体に手を差し伸べる。

 

「う、ううなんとか……。 でもまだお腹が痛いよぅ」

 

 ユーリの手を掴み少年は立ち上がる。 

 それでもまだ腹は痛むようでしきりに逆の手でさすり続けている。

 

「どうやらまた 縁があったみたいだな……ネギ?」

 

 手を離し丁度撫でやすい所にあった少年、ネギの頭を撫でてやるユーリ。

 

「うん! 僕もまた会えて嬉しいよっ、ユーリ!」

 

 ユーリに撫でられたまま嬉しそうに返事を返すネギ。

 この純真な少年が、来年教師になるとはとてもではないが考えられない。

 

「へへ………………じゃなくてっ!!」

 

「おわっ」

 

 しばらくユーリに撫でられるままになっていたネギだったが、何か大切なことを思い出したように突然大声を上げる。

 流石に少し驚いてユーリも撫でていた手を引っ込めてしまう。

 

「ユーリが目を覚ましたんだよ! ずっと起きなかったユーリがっ!! 大変だー!」

 

「いや……おい……」

 

 それを目を覚ました本人に報告しても全く意味がないのだが、ネギはそうとうテンパっているらしくベッドの周りを手をわたわたと振り回しながら右へ左へと走り回る。

 

「どうしようどうしたら……大変だよぉ。 あっそうだ! 3週間も寝てたんだからお腹空いてるよね! 何か食べ物を……ああ僕今何も持ってないよ……待って、お腹が空いてるってことは……当然喉も渇いてるってことに! 水っ水はどこだっけ? ああさっき新しいのを持ってくるってお姉ちゃんが……ん、お姉ちゃん? そうだ! まずお姉ちゃんに知らせないとっ!!」

 

「ね、ネギ?」

 

「今お姉ちゃんに知らせてくるから! 大丈夫だからねユーリー!!」

 

 今度は頭を抱えてあれこれブツブツと何かを言っていたネギが突然妙案を思い付いた言わんはがりの清々しい笑顔で、ユーリの話を全く聞かずに勢いよくドアを開け放ちあっという間に飛び出して行ってしまった。

 

「……少しは落ち着けっての」

 

 呆然とそれを見送るユーリ。

 苦笑しながら溜息を吐く。

 

「それにしても……」

 

 再び窓へと目を向け、耳に入った気になるネギの言葉を思い出す。

 

「3週間、ね。 道理で体が重い筈だよ……ん?」

 

 ふと、視界の隅に入ったチェスト。

 その上に自分のブラスティアが置いてあることに気づく。

 

「毒は……もう心配ないみてぇだな。 ここにいるってことは一応助かったってことなんだろうが、あれからどうなったんだ?」

 

 手を伸ばしてブラスティアを手に取り、改めて自分の腕に装着しながらユーリは意識を失ってしまう直前のことを回想する。

 どうやら大分思考も回りだしたようでその辺りも朧げながら思い返すことができた。

 

「……そういえばあのガキ、あいつは……まぁ大丈夫そうだな。 なんとかなくだがあれは普通じゃねぇ気がするし、な」

 

 関連する様にユーリの頭に浮かんだのはよく分からない理由で自分に力を貸してくれた銀髪のあの少年。

 ここに自分がいるということはあの少年の魔法はちゃんと完成して、あの影の、いや泥の様な魔獣は倒せたのだろう。 

 勘でしかないが、あの少年が殺られる様には全く思えない。

 纏う雰囲気が、見据えられた瞳が、その挙動の、言動の1つ1つがあの少年が見た目通りの存在では決してないと、ユーリに警鐘する。

 

「……ま、もう会うことねぇだろうが、恩があるんだ。 できれば無事であってほしいが……ふぅ」

 

 あれこれ考えるのが面倒臭いになり、ユーリは再びベッドへその身を沈める。

 ネギがネカネを呼びに行ったのだ。

 待っていればその辺のことは離してくれるだろう。

 

「……確かに、腹は減ってるな。 説明の前に、何か食わせてもらうか」

 

 目を閉じ、ネギの考えもあながち間違いではないなと苦笑する。

 

 そして暫く何も考えずにぼぅっとしていると、控えめなノックが聞こえてくる。

 どうやらネカネがやってきたらしい。

 ユーリが適当な返事を返すと、ドアがゅつくりと開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にもう大丈夫そうですね。 安心しました」

 

 テーブルの反対側、ユーリの向かいに座るネカネが柔らかい笑みを浮かべてホッと一息つく。

 

「ごちそうさん。 結構危なかったけどな。 どうやら悪運だけは強いらしいぜ、俺」

 

 皿に盛られたパスタを綺麗に食べきり、フォークを置いて、ユーリが他人事の様に茶化す。

 

 部屋に入ってきたネカネによる簡単な診察を終え、ユーリが眠っている間のことを彼女が話そうかと問いかけたのを食事が先とユーリが頼み、ではとネカネが簡単ではあるが作ってくれたのであった。

 

 ふふ、とおかしそうに笑いながら食器を片付けるネカネ。

 作業を終わらせ、2人分の紅茶を用意する。

 サンキュ、と軽く礼を言ってユーリは受け取った食後の紅茶を喉に通す。

 本人に自覚はないが、彼の体にとっては久方ぶりの水分摂取の所為かその紅茶はとても美味しく感じられた。

 

「ふぅ……んで? 俺が気ぃ失ってる間、何がどうなってたんだ?」

 

 ようやく人心地ついたところでユーリが話を切り出す。

 大体の予想はできるが、やはりちゃんとした情報として聞いておきたいという欲求が強い。

 

「私も詳しいことはあまり……高畑さんから聞いたことと、彼から伝えて欲しいということが幾つかあるぐらいで……」

 

 と前置きをしてネカネがゆっくりと話を始める。

 

「まず、貴方がここに運ばれてから3週間が経過しています。 向こう(魔法世界)でどれくらい眠っていたのかは私は分かりませんが」

 

 ユーリは軽く頷く。 

 そこはさっき慌てふためいたネギが言っていたのでまぁ知っている。

 

「原因はやっぱ毒、か?」

 

「はい、正確にはそれに加えて極度の疲労と怪我も、ですけどね」

 

 ユーリの質問に付け加える形で答えるネカネ。

 

「毒の治療事態は向こうで行われた様です。 ただ、 他に例のないとても特殊な毒だったらしく治療も難航したと聞いてます」

 

「例のない、ね……」

 

 ネカネの説明によると、その毒は身体能力を著しく弱体化させる上に、ユーリの予想通り神経系等の伝達にも影響を及ぼすという悪質極まりない特性を持っていたようだ。

 完全に余談ではあるが、当時ユーリの治療にあたったヒーラーも術後、あまりの疲労に倒れてしまった程である。

 

「ん? そういやすっかり忘れてたがそのタカミチはどうしたんだ。 ここにはいないのか?」

 

 空腹や喉の渇きも満たし、状態がかなり安定したことで大事なことをようやく思い出したユーリ。

 無駄と思いつつも辺りをキョロキョロと見渡してみるが、当然気配すら感じない。

 

「高畑さんでしたら、貴方をここに運んだ後2、3日したら次の仕事が入ったということで一旦麻帆良へ帰られました。 とても忙しい人ですから……」

 

 タカミチの多忙さが心配なのか手を頬に当て眉を下げるネカネ。

 

「そうか……なぁ、俺達が逃がした連中のこと、何か聞いてないか? ほとんど殺られちまったが、何人かは連れ出せたんだが……」

 

 居ないのならば仕方がない。 

 ユーリはタカミチのことはさつざと納得して、己が体を張って逃がした人間のことを駄目元でネカネに聞いてみる。

 

「フフフ……」

 

「ん、何だよ急に笑って……」

 

 ユーリの次の質問を聞いて、ネカネが急に笑う。

 

「ごめんなさい。 本当に高畑さんの言うとおりだったから」

 

「だから何がだよ?」

 

 要領のえないネカネに首を傾げていたユーリだったが、何かからかわれているような空気か面白くなく、段々としかめっ面になっていく。

 

「大丈夫ですよ。 高畑さんが連れ出した人達は然るべき所で無事に保護されたそうです。 ユーリが起きたら絶対に気にするだろうから伝えて置いて欲しいと言われてたんですよ。 本当に仲がいいんですね」

 

 「……ったく。 タカミチの奴」

 

 ようやくネカネが笑っていた理由が判明した。

 今度こそ完全に不機嫌になったユーリが鼻を鳴らし彼女から顔を反らしそっぽを向く。

 まぁ若干照れ隠しも入っているのだが。 

 ごめんなさい、と可愛らしく首を傾げながらもう一度ネカネは謝ってふと、不思議そうなトーンでこんなことを言い出した。

 

「でも、ユーリさんを見つけた時の状況が不思議だったって、高畑さん言ってましたよ?」

 

「ん?」

 

 話題が変わったことでユーリも視線をネカネに戻し、先を促す。

 

「高畑さんが駆けつけた時、ユーリさんは岩のドームのような中で倒れていたそうなんですがそのドーム、どう見てもついさっきできたような風化が見られないとても真新しい物だったそうです」

 

「……」

 

 ネカネの言葉にユーリは黙り込む。

 岩のドーム、真新しい……恐らくそれを作ったのはあの銀髪の少年で間違いない筈だ。

 全ての魔法を見たわけではないので断定はできないが、少なくともユーリと共に戦っていた時は石の属性の魔法を多用していた。

 

「なぁ、倒れていたのは俺1人だけだったのか?」

 

 ユーリの質問にネカネははい、と答える。

 

(ということは、あいつはタカミチがくる前にどっかに行っちまったってことか……ま、助かったぜ、ありがとな)

 

 心の中で今もどこで無事でいるだろう少年に礼を言うユーリ。

 いつかまた会うことがあればその時は面と向かって言おうとユーリは少年の顔をしっかり覚えておくことにした。

 

「はぁ……結局進展なし、だな」

 

 そして一通りのことを聞き終えて、ユーリは1つ大きな溜息を吐いた。

 その表情は些か優れない。

 

「どうか、したんですか?」

 

 ユーリの表情が曇ったことに聡く気づいたネカネが心配そうに尋ねる。

 

「いや、命は運よく拾ったがまたふりだしに戻っちまったってな。 まぁ手掛かりももうねぇし……どうすっかな」

 

 残っていた紅茶を一気に煽り、天井を見つめるユーリ。

 今が八月の終わり、単純に計算すればユーリに与えられた猶予は残り約10ヶ月。

 今回の出張で必ず何かを掴んで見せると意気込んで臨んだというのに、蓋を開けてみれば怪我して一月失って挙句成果は何もなし。

 流石のユーリでも気落ちしてしまうのも無理はない。

 

「手掛かりって、例のユーリさんの探し物、のことですか?」

 

「ああ……」

 

 ネカネの問いかけに力なく答える。

 完全にだらけきった態勢でネカネに視線を合わせることすらしていない。

 

「それに関してなんですが……実はいい報告があるんですけど」

 

 しかし次の瞬間、ユーリの体に一瞬にして力が篭る。

 慌ててネカネを見てみる。

 

「高畑さんからの伝言です。 ユーリ、問題は解決した。 だから安心してその時を待てばいいよ……です」

 

 「…………は? てか、 それだけ?」

 

「はい、それだけです」

 

 テーブルに手をついて前のめりになっていまユーリの目が点になる。

 のりだした態勢のまま固まってしまい、頭の中も停止してしまう。

 それでもなんとか頭を働かせ、今ネカネが発した言葉の意味を吟味する。

 

 問題は解決した……とはどういうことだろうか。

 安心してその時を待て……その時とは恐らく来年の世界樹の大発光のことだろう。

 問題、とは世界樹の大発光の際に絶対必要な物が揃っていないということ。

 その必要な物とは今更言うまでもないデインノモスの中身、ユーリ自身は見たことはないが宝珠の形をしているらしい、のことだ。

 解決した、ということはつまりそれが見つかったということ。

 事実ならば手掛かりどころの騒ぎではない。

 

「……マジなのか、それ」

 

 あまりに突拍子のなさすぎる話の進展ぶりに困惑し、その信憑性を思わず疑ってしまう。

 

「ええ、時期が来れば向こうから来てくれることになっている、と仰ってましたよ?」

 

「……」

 

 聞き直してもネカネの言葉が変わることはなかった。

 事情を詳しく知らない彼女や、ましてユーリの事情を詳しく知っているタカミチがこんな嘘をこんなタイミングでつく筈がない。

 両者ともそんな人間でないことくらい理解している。

 ならばこの話は事実で、ユーリがテルカ・リュミレースに帰還する為にやるべきことは完了したということになる。

 

「まぁ詳しい話は麻帆良へ戻ってから高畑さん本人に聞いてみてくださいね」

 

 そう言って紅茶に口をつけるネカネ。

 確かにそうだとユーリも納得する。

 ここであれこれ実りのない考察を続けるくらいならばさっさと戻って本人の口から事情を聞き出せばいいのだ。

 

「それもそうだな。 んじゃさっそく俺も向こうに戻るとするか」

 

「あ、それについてなんですが……」

 

 善は急げとばかりに席を立とうとしたユーリをネカネが呼び止める。

 

「ん? なんだよ……」

 

 まだ何か話が残っていたのかとユーリも大人しく再び席についた。

 ネカネは空になっていたユーリのカップに新しい紅茶を注ぎ、どうぞと促す。

 

「実は、私と高畑さんから1つお願いがあるんです。 聞いてもらえますか?」

 

 ユーリが新しい紅茶を一口飲んでカップをソーサーに置くまで待っていたネカネが唐突にそんな話を切り出した。

 

「お願い? 内容次第だが……俺に何させたいんだ?」

 

 とりあえず先を促すユーリ。 

それに頷き、ネカネは少しだけ言い辛そうに控えめに内容を語った。

 

「はい、ユーリさんにお願いしたいのはネギのことなんです……」

 

 

 

 

 

 






ユーリが倒れている間に起こったことはこれから少しずつ補足と説明をしていくつもです。


ではまた。
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