魔法先生ネギま!cross vesperia   作:雪蛍

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第3話

 

 

 

 

 

 

 

「やあユーリ、待ってたよ」

 

 駅に到し、改札を出た所でタカミチは待っていた。

 何の意図なのか不明だが学園長の部屋が女子校の中にある為いくら今が夜とは言え、ユーリ個人でおいそれと向かうと色々と面倒が起こる可能性がある為である。

 

「悪りぃなタカミチ。 なんかある度待たせちまってよ」

 

「気にしないでくれ。嫌だったら代わりを置いてるよ」

 

 ユーリは近づきながら軽く手を上げ挨拶する。

 そして何分かその場で取り留めもない会話を交わし、2人は学園長の待つ学園長室へと向かう。

 

 ユーリが麻帆良にやってきてから約半年、この帰還で2人は特に仲が良くなっていた。

 主な理由としてはやはり、模擬戦を共に経験したことだろう。

 それからも事あるごとに2人はペアを組んでいる。

 少し年の差はあれど、2人は良き友人と言えるくらいには互いに信頼を置いている。

 

 歩き始めて数分、程なくして2人は学園長室に到着した。

先を行くタカミチが控えにドアをノックする。

 

「学園長、高畑です。 ユーリを連れてきました」

 

 すると中から入っていいぞいと返事があり、2人は中に入る。

 広めの部屋には学園長が1人、椅机について書類と睨み合っていた。

 2人は学園長の机の前へと進む。

 

「急に呼び出してすまんかったの、ユーリ」

 

「気にすんなよ。 こういう仕事ってのは分かってんだ。 で? なにがあったんだ?」

 

 軽い挨拶を交わし、ユーリはさっさと本題を促す。

 ふむ、と眺めていた書類を手元に置き、腕を組んで学園長は今回の仕事の概要をぽつりぽつりと話し始める。

 

「ことの起こりは昨夜。  簡潔に言うと結界の境界をウロつく輩がでおった」

 

 目を細めながら学園長は説明を続ける。

 曰く、それは昨夜突然現れたとのこと。

 人数はおそらく1人。

 それほど魔力が高い訳ではない。

 結界に何かしている気配は今のところない。

 しかし、結界に沿って移動を続けていたということ。

 日の出の少し前に結界から離れ、反応は消えたらしい。

 

「今夜も現れるようなら、その時はこちらから接触、目的を確認する。 ただの迷子ならばいいんじゃが、 綺麗に結界に沿って移動してたことを考慮すればおそらくその線は薄いじゃろう。 よって相手の出方次第では抗戦も止むなし。 人員はユーリと高畑君で頼む」

 

「はい」

 

「おう」

 

「なお、後方支援として腕利きのスナイパーも1人待機させる。その事も念頭に入れておいてくれい」

 

 今までついたことのない味方にユーリは首を傾げる。

 大概タカミチと2人で組んでいたし、この2人で十分すぎるくらいの戦力だ。

 そこに後方支援、何かを感じ取りユーリは学園長に質問する。

 

「何か気がかりでもあんのかじいさん? やけに慎重だな……」

 

 ユーリの問いに黙り込む学園長。

 タカミチも不審に思ったのか、言葉にはしないが伺う様な表情を見せる。

 目を閉じ、暫く考え込んでいた学園長だったが、やがて話すと決めたようでゆっくりと口を開いた。

 

「……目的を確認、とは言ったが相手の目的は予想がつく。恐らく結界の弱い部分、もしくは綻び……」

 

「それは……あり得るんですか?」

 

 少し緊張気味にタカミチが尋ねる。

 麻帆良の学園結界と言えば、その強固において右にでるものなしと讃えられる程完璧に近い代物なのだ。

 その結界にもしも、実際にそんなポイントが存在するならば、これは非常に由々しき事態となる。

 タカミチの頬に汗が流れる。

 

「あり得ん……筈じゃ。 結界は常にデータ化され、それを24時間チェックできる体制を整えておるし、メンテナンスも欠かさず行わせておる。   そんな簡単に綻びなどできる訳がない……」

 

 タカミチの疑問に自分にも言い聞かせるように応える学園長。

 確かに聞いた分では結界に抜かりはないように思える。

 

「てことはアレか? 敵さん、あるかどうかも分かんねぇ綻びを探して今日もフラフラするってか?」

 

 よくやるぜ、と呆れ返るユーリ。

 彼のあんまりな物言いに緊張していた場の空気が途端に緩んでしまう。

 しかしそれでも学園長だけはまだ何かが引っかかるようで、その表情は優れない。

 

「おかしな点がある。 相手は隠れようとする気配が全くないんじゃ。昨晩泳がせたのはそれが気になったからなんじゃが……もしかしたら先程言ったのは見当違いで、本当にただ迷い込んだだけなのかもしれん……しかし嫌な予感が頭を離れんのじゃ。 ともかく、気を引き締めて事に当たってくれい……」

 

「分かりました」

 

 タカミチ一度しっかりと頷いて、ドアへと向かう。

 ユーリもタカミチに続こうと振り返るが学園長がそれを止めた。

 

「そうじゃユーリ。 お主にはこれを渡しておく。 前渡したのよりは役に立つ筈じゃ」

 

 そう言ってゆっくりと学園長は立ち上がると側にあったケースに手をかける。

 厳重にいくつもロックされていそれを開錠していく。

 

「こいつは……」

 

 ユーリが僅かに驚きの声をあげた。

 ケースの中に入っていたのは一本の柄の白い刀だった。

 学園長に目を向けると、手にとってみろと目配せされ、ユーリはゆっくりとその刀を取り出す。

 よく手に馴染む。

 重さや握った感覚までしっくりとくる。

 ユーリが驚いたのも無理はない。

 彼が今手にしている刀はとても良く似ているのだ。

 彼がテルカ・リュミレースで使っていたある刀に。

 

「お前さん、かなり風変わりな戦い方するじゃろ? じゃから丈夫なのを探しておったんじゃよ。中々の物じゃろ? いや大変じゃったわい。 方々探してやっとみつけたんじゃ」

 

 先程までとはうってかわって大仰に自身の苦労を語り出す学園長。

 腕を組んでうんうん唸っている。

 

「での、 この刀にはそれはもう大変な逸話があってのぉ。 話出したら朝までかかりそうじゃから今はやめておくが、それはもう名のある一振りなんじゃよ。 心して使うんじゃぞ?」

 

 心ここにあらずで刀に目を奪われているユーリに気づかず、勿体ぶった言い回しを続ける学園長。

 やっと核心にせまる。

 

「で、気になるこの刀の銘じゃが……う、うんっ! いくぞい? なんとっ! わ……」

 

「ニバンボシ……」

 

「……はえ?」

 

 学園長が間抜けな顔で硬直した。

 どや顔で自信満々に刀の銘を高らかに披露しようとしたその出端を挫かれたのだから無理はない。

 

「こいつの銘はニバンボシでいい。  ありがとなじいさんっ。 いい仕事してるぜ?」

 

 呆然としている学園長を綺麗にスルーしてユーリは嬉しそうに礼を言って、刀、ニバンボシを携えてさっさと部屋から出て行ってしまった。

 

「あの……そんな銘じゃないんじゃが……ワシの、ワシの苦労は?」

 

「と、いうか学園長……この世界の歴史を知らないユーリに刀の銘を自慢しても、仕方がないのでは?」

 

「あ……」

 

 ユーリが異世界人だという事実をすっかり忘れていた学園長の情けない声が決して狭くない部屋に虚しく、そしてやけに大きく響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園長室から2人が退室してから数十分後、敵の出現の連絡が入るまでの間、ユーリとタカミチは麻帆良駅前にあるSTARBOOKS CAFEに入っていた。

 窓際の席でユーリがココアを啜っていると、何がおかしいのか突然タカミチがクスクスと笑いだした。

 

「どうしたんだよ? 急に笑いだして……」

 

 訝しげにユーリが尋ねると、悪い、と軽く謝りタカミチはコーヒーカップをソーサーに置き、慣れた手つきで煙草に火をつけた。

 

「いやね、そういえばあの模擬戦の日も始まる前にこの席に座ったなと思ってね。 早いな、もう半年か……」

 

 紫煙を燻らせ懐かしそうに目を閉じるタカミチ。

 そういえばそうだったか、とユーリも当時のことを回想する。

 

「剣を振れば振る程君はイキイキとしていくからね。 最後にはみんは呆れて警戒心も吹き飛んでいたよ」

 

「そうか? 普通だと思うけどな……」

 

 さも不思議そうにユーリが首を傾げる。

 剣を振り回していると疲れるどころか逆に調子が良くなっていくのが剣を扱う者にとって普通なんだと、本気でそう思っているようだ。

 

「君の戦い方にも心底驚かされたね。 本当にあれは……」

 

「慣れだよ。 やってりゃ誰でもできるって」

 

「無理だよ、 あんな危ない戦い方なんて……」

 

 真似する気もおきないよ、と苦笑しながら煙草を咥える。

 

 タカミチが思い返しているのはユーリの剣の扱い方。 

 彼は戦闘中だと言うのにお構いなしにその手から剣を放してしまう。

 それで空いた手と足を使って格闘をこなす。

 その間剣はというと、どんな放り方をすればそうなるのやらユーリの側で上手に回転しているのだ。

 そしてタイミング良く彼の手元に戻ってくる。

 本人曰く「慣れ」らしいのだがとてもじゃないが慣れでなんとかなるとは思えない。

 

 目を閉じてその光景を思い返す。

 味方だったとある魔法使いがユーリの戦い方を見て目を見開いているのがとても印象的だった。

 そして何より、久しぶりに楽しく戦えた。

 当たり前のことだが初めての共闘だったのにすごく息が合っていた気がする。

 もっともユーリが好きに戦って、その隙をタカミチが上手く埋めただけ、とも言えるのだが。

 そう言ってしまっては身も蓋もない。

 

「そういえばあの日も、今日みたいに月が綺麗だったな……」

 

窓から見える月を眺め、ユーリはふとそんなことを呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

半年前

 

「んで、ここ何処だよ?」

 

 不遜な態度でユーリが尋ねる。

 

「図書館島、と言ってね。 名前の通りあの建物は図書館なんだ。 古今東西裏表を問わず貴重な物が数多く安置されてる」

 

 そんなユーリの態度に特に気を悪くするすることなく高畑が答える。

本と聞いてユーリはあからさまに顔を顰めた。

 

「本は嫌いかい?」

 

「ああ、読んでると眠くなっちまう……」

 

 非常に分かりやすい回答に笑ってしまいそうになる高畑。

 急にユーリが立ち止まって高畑に再度尋ねる。

 

「いいのかよ? んな大事なモンが置かれてる所で模擬戦なんて。 俺、弁償する金なんて持ってねぇけど?」

 

 意地の悪い笑みを浮かべるユーリ。

 言外に周りなんか気にせず戦ういう意思表示だ。 

 何が壊れても俺は知らないぞ、と。

 

「ああそのことなら大丈夫だ。 今から行く所は一般の人間は絶対に辿り着けない地下深く。 そこにある本はどれも強力な魔力を宿しているから、ちょっとやそっとじゃ傷すらつかないよ。 だから君が余計な心配をする必要はない」

 

 笑顔で答える高畑。

こちらも言外に、「そんなことを気にして実力出せませんでした、なんてやめてくれよ?」と言っているようなものだ。

 

「へぇ……」

 

 そんな高畑の切り返しが楽しかったのか、不敵に笑うユーリ。

 そして2人はまた歩きだす。

 建物の入り口を通過して、辿り着いたのは裏口近くの一角。

 壊れた建造物の破片や大きな岩などが散乱している。

 そんな中に1つ、朽ちた扉があった。

 正確には扉しかない、とも言える。

壊れすぎて周りの壁は無くなり、ポツンと扉だけが寒々しくそこにある。

 

「ここだよ」

 

「は?」

 

 ぽかんと口を開けるユーリ。

 どう考えてもこれは地下への入り口などではない。

 開けても向こう側の景色が見えるだけだろう。

 ユーリがそう考えてることが伝わったのか、高畑は少し笑いながらユーリを促した。

 

「はは、まぁ騙されたと思って開けてみなよ」

 

「……」

 

 懐疑的な視線を浴びせ続けても、笑顔を崩さない高畑の態度に折れ、渋々とノブに手をかけるユーリ。

 ゆっくりと回しドアを押す。

 

「なっ……マジかよっ!?」

 

 そして眼前に現れた光景に彼は絶句する。

 ドアを開けたその向こうは別世界だった。

 薄暗く深い縦穴。

 その壁を沿うように深淵へと続く螺旋階段。

 

「驚いたかい? 転移魔法の一種なんだよこれは。 勿論一般の人がただ開けただけでは絶対にここには繋がらないけどね」

 

 悪戯が成功したのが嬉しいのか高畑が楽しそうに説明する。

 ユーリはそれがちょっと癪なのか逆に面白くなさそうな顔をしている。

 

「さっさと行こうぜ」

 

「はいはい」

 

 ユーリは高畑の返事を待たずに勝手に1人で早々に階段を降り始めた、

 やれやれと肩をすくませながら高畑もそれに続く。

 しかしユーリの機嫌はすぐに治っていた。

 証拠に高畑には見えないが、これからの戦いが楽しみで仕方ないと、その表情が雄弁に語っている。

 ユーリにとってこの世界での初めての戦闘。

 

逸る気持ちを抑えながら、ユーリは階段を降りて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





時間軸があちこち行くのはもう少しご容赦を。

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