魔法先生ネギま!cross vesperia   作:雪蛍

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第4話

 

 

 

 

 

 

 階段を降りきったその先にあるエレベーターに乗り、ユーリ達が更に深く降りた先に辿り着いたの想像に反して薄暗い空間、というわけではなかった。

 代わりに彼らの眼前に広がるのは明るく、そして穏やかな空間。

 地面には細やかな砂。

 あちこちに散在する大量の本棚とそれに入りきらない古びた書物。

 そして一際目を引くのが中央にある湖。

 そこはとてもこれから模擬戦闘が行われるような場所には見えない、リゾート地か何かと説明された方がよっぽど納得できる空間がユーリの目の前に広がっている。

 ユーリが湖に浸ってしまっている本を一冊拾い上げる。

 不思議なことにその本は、全く濡れていなかった。

 

「よく来たの、ユーリ」

 

 呆然と目の前の風景に見入っていたユーリに突如学園長の声がかかる。

 ハッと我にかえり即座に辺りを見渡してみるが、どこにも学園長の姿は見えない。

 

 代わりに背後から足音が聞こえてきた。

 ユーリが振り返るとそこには1人の男が立っていた。

 髭にオールバックにサングラスとかなり威圧感のある男。

 

「ちと予定が狂っての。 後衛の魔法使いは彼1人に勤めてもらうことになった」

 

 再度何処からともなく学園長の声がする。

 

「神多羅木だ。 よろしく頼む……」

 

サングラスの男、神多羅木はユーリに近づくと手を差し出す。

 

「ユーリだ」

 

 手を取り握手を済ませると、神多羅木はスーツの内ポケットから煙草を取り出し火を付ける。

 

「一応言っておくと、 俺は風の魔法を使う……」

 

 煙を吐きながら軽く自分の特性を簡単に説明する。

 そして徐に右手を持ち上げるとフィンガースナップで音をならした。

 

「っ!」

 

 突如、ユーリの耳のすぐ横を鋭い風が一陣吹き抜けた。

 ユーリが神多羅木を睨むと、怒るなよと両手を上げてホールドアップの姿勢を取った。

 

「今みたいに、詠唱なしで簡単な鎌鼬を起こすこともできる」

 

 デモンストレーションだよ、悪びれもせずにシニカルな笑みを浮かべ、神多羅木は言った。

 

「ったく、手癖の悪いおっさんだな……」

 

 悪びれもしないその態度に呆れるユーリ。

 おっさんという人種はどこの世界でも、どうも人をおちょくるのが好きらしい。

 呆れで怒りもなえてしまい、虚しいため息が出た。

 

「ユーリ……」

 

 ここに降りてきてから何時の間にか姿を消していた高畑が一本の剣を持って帰ってきた。

 それを丁寧にユーリに手渡す。

 

「これは?」

 

「シミターと呼ばれる剣だよ。 今回はこれを使うといい。 特に貴重ということもないから壊れてしまってもいいしね」

 

「ふーん……」

 

 渡された剣の重みや握りの感じを幾度か振るって慎重に確かめる。

 確かにこれと言って特徴のない剣だ。

 しかし悪くはない、これでも充分戦える。

 しかしユーリには1つだけ懸念があった。

 

「では説明に入ろうかの。 今回はユーリ、お前さんの実力を確かめるのが目的じゃ。 まぁお主の世界の話が事実ならばこんなことする必要もないが……まぁ一応の」

 

 ユーリは学園長の声を軽く聞き流しながら左手に握ったシミターを肩に担ぐ。

 今はその懸念については置いておくことにする。

 

「高畑君と後衛に神多羅木君をつけての戦闘じゃ。 これが何を意味するか…分かるかの?」

 

 何かを探るような学園長の問い。

 ユーリは間髪を入れずに解答を出す。

 

「集団戦闘……要は連携がどれくらいできるか見たいってことだろ?」

 

 簡潔に、そして堂々と答えたユーリにそうじゃの、と学園長も満足そうに頷いく。

 

「初めての共闘でどこまで他人と合わせられるかを見せてもらう。 ワシの直属と言ってもいつも1人というわけではない。 どちらかといえば誰かとチームを組んで事に当たってもらうことの方が多いじゃろう。 万が一はそうそう起こらんじゃろうしの」

 

 あれこれとぶっちゃける学園長。

 まぁ確かにそんなに頻繁に万が一が起こるようでは、こんな広い都市の安全を保つなど到底できるわけもない。

 

「それと今回の戦闘じゃが、遠見の魔法及び科学的な産物であるカメラの両方を複合的に使用し、麻帆良に在籍するほぼ全ての関係者が観戦することになっておふ。そのことも頭の片隅に入れて、戦っつてくれい」

 

「……あんま意味はわかんねぇけど、コソコソ見られんのはいい気分じゃねぇな」

 

 若干顔を顰め、辺りを見渡しながら愚痴を隠そうともせず、溜息を吐くユーリ。

 案の定、自分を監視しているであろうモノは発見できない。

 

「まぁそう言わずに。 手っ取り早いだろう? 君を知ってもらうにはさ……」

 

 ポケットに両手を突っ込んだ高畑が、笑いながらユーリを諭す。

 既に準備はできているようだ。

 神多羅木も吸っていたタバコは捨て、臨戦体制をとっている。

 

「ではそろそろ始めるかの…」

 

 学園長がそう言った直後、広い空間のあちこちに徐に幾つかの魔方陣が現れる。

 互い違いに回転する三重の円、その間には見たこともない文字が次々と浮かび上がっていく。

 やがて円の回転は止まり、何かが円の中からせり上がってくる。

 

「……人、か?」

 

 目を細めながらその現象をじっと見つめていたユーリが小さく呟く。

 魔法陣から現れたのは、土でできた人形のような物体だった。

 ダランと腕をぶら下げている様、目や口といったパーツのない顔、そして身体中からボロボロと崩れ零れる欠片が不気味さと嫌悪感を醸し出す。

 

「これはここの土にワシの魔力を付与して形作った簡単な土人形じゃ。   まぁ見てくれはちと悪いし、頑丈さも態と落としてある。 が、準備運動くらいにはなるじゃろう……では行くぞい、各員健闘を祈る!」

 

 学園長のその言葉が合図になって、

ゆらゆらとその場で揺れていた土人形達が一斉に動き出す。

 その粗末な見た目とは裏腹に非常に素早い動き見せる。

 

「あれは……げっ、マジかよっ」

 

 剣を肩に担いでいるユーリが遠目に気づいたのは人形の手。

 小さな魔方陣が発生してその中から剣、槍、刀、斧などの様々な近接戦闘武器が現れてくるら、

 

「さあ、どうするユーリ? 僕達は君の指示に従うよ」

 

 真剣に、しかしほんの少し楽しそうに高畑は真っ直ぐユーリ見つめる。

 その視線を受けてユーリは目を閉じ思考を回す、それはほんの数秒と短い。

 そしてユーリは瞳を開け、高畑から敵へと視線を向けると、彼の質問に答えることなく敵へと向かって走り出した。

 

「おっさん! この世界の魔法ってやつ、さっそく見せてくれよっ!」

 

 位置的に1番最初に土人形と接敵しそうな神多羅木の元へと走りユーリは楽しそうに叫んだ。

 

「牙狼撃っ!」

 

 そのまま1番近い人形に追いつき、 握られた斧が振り上げられるよりも速く、その鳩尾部分に下から鋭く抉るような拳を叩き込む。

 

「!」

 

 特に踏ん張るなどの人間の本能的な抵抗もなく簡単に後方へ勢い良く転がっていく人形。

 その際手に持っていた斧が吹き飛んで消滅したのだが、停止して人形が立ち上がる頃には再びその手に出現している。

 

「ユーリ、詠唱のフォローを頼む。 こいつら、見た目に反してかなり速い」

 

「りょーかいっ!」

 

 神多羅木のオーダーに揚々と答える。

 その間にも次の人形がユーリに接近してきている。

 

「そらっ!」

 

 しかしユーリは全く余裕を崩さずに、肩に担いでいた剣を下ろし、勢いを付けて真上へと切り上げた。

 そしてその流れのままに、驚くことにユーリはシミターから手を放してしまった。

 鋭く回転しながらユーリの真上へと上がっていくシミター。

 股から頭の天辺まで綺麗な一直線が刻まれる人形。

 下からの斬撃の勢いで宙に少し浮かされ、構えていた剣を落とす。

 

「持ってきな……三散華っ!」

 

 そして剣を手放したことで空いた左手の甲で顔、胸、腹の三ヶ所への素早い連打を打ち込む。

 完全に態勢が崩れた人形。

 しかしユーリはまだ止まらない。

 殴った左手を上へと上げる。

そこへ狙ったように落ちてきたシミターの柄がユーリの手に収まった。

 一連の流れはとても綺麗で洗練されていたが、一歩間違えれば大惨事になってしまいそうで見ている者達の度肝を抜いた。

 

「ハァッ!」

 

 そのまま右手へと剣を投げ渡し、思い切り切り下ろす。

 断末魔もなく綺麗に両断された人形が溶けるように消え去った。

 

「ディグ・ディル・ディ・リック・ヴォルホール……」

 

 その側で驚きながらもすぐさま意識を戦闘へと戻して始動キーを唱え、詠唱の準備に入る神多羅木。

 更にフィンガースナップを使った無詠魔法でユーリに近づく一体を吹き飛ばした。

 詠唱魔法と無詠唱魔法の同時使用、彼の得意とする複雑で高度な戦闘技術だ。

 

「サンキュッ!」

 

 神多羅木に顔を向けずに礼を言い、次の標的に狙いを付けるユーリ。

 模擬戦闘の出だしは、中々幸先のいいものとなった。

 

 

 

 

 

 

 

「随分と奇抜な戦い方をするのぅ……どう見るかの、刀子先生?」

 

 ユーリ達のいる空間とは遠く離れたとある一室。

 そこでは学園長を初めとした数人の魔法使いが壁に大きく設置された画面に映る戦闘を眺めていた。

 

「無茶苦茶です。 確かに剣を手放し空いた手で格闘……効率的に聞こえはますがそれは放った剣を確実にキャッチできることが大前提です。  失敗したら自滅の上に敵の攻撃も貰ってしまう。 デメリットが多すぎです」

 

 長く綺麗な髪、眼鏡をかけた知的な女性が呆れながら学園長の質問に答える。

 

「その筈なんですがね……安定してますよね、アレ……」

 

 苦笑しながら一見ピシッと決まった感じなのだが、よく見たらシャツの裾が半分ズボンから出ている眼鏡の男性が画面を見つつ口を挟む。

 

 男の言うとおり、画面の中のユーリは事あるごとに剣から手を離す。

 時に明らかにキャッチが不可能な程にユーリの背中側まで飛ぶ事もあるのだが、その場合はなんと足で蹴りあげ再び上空へと跳ねあげる。

そして一度のミスもなく、回転する剣をキャッチしてのける。

 まるで曲芸師の芸でも見ている気分にさせられる。

 

「そうですね。 あれだけやって落とさないのであれば、戦術として確率できているといってもいいと思います。 打撃、蹴撃そして斬撃。 これを剣を握ったままでは実行できないタイミングで放つ……相手にするなら相当に戦い辛そうです。ただ……」

 

「ただ、どうしたのかの?」

 

 言いよどむ刀子に先を促す学園長。

 

「窮屈そう、なんです。 何でしょうか? 身体の動きが制限されている、という印象を受けます」

 

 顎に手を当て考えこみながら感じた疑問を口にする刀子。

 その場にいる者たちも彼女の言葉を踏まえてもう一度画面をよく見てみる。

 

「ふむ、成る程の。 もう少し様子を見てみるかの……」

 

 そう言って魔力を継ぎ足し、学園長は新たに数体の人形を召喚した。

 

 

 

 

 

(やっぱブラスティアが使えねぇと戦いにくいよな……)

 

 既に数体の人形を排除し、一旦その場で動きを止めるユーリ。

 またも詠唱中のおっさんに近づく人形を見定めながら舌打ちをする。

 

(エアルがないんだ。 覚悟してたが俺もブラスティアをかなり頼りにしてたってことだな……)

 

 ユーリが懸念していたこと、それは魔導器のことだった。

 魔導器はテルカ・リュミレースのみに存在するエアルを取り込むことで起動する。

 そのエアルがない以上、使うことはできないだろうと覚悟はしていたが、やはりかなり状況は厳しい。

 

騎士団新米時代はブラスティアを支給されてない状態で実戦もこなしていまこともあったが、手に入れてからは使わないことなど殆どなかった。

 

「無くなってから有り難みが分かる、ね。 全くもって皮肉だな……」

 

「逆巻け夏の嵐、彼の者等に竜巻く牢獄を……ユーリ、下がれっ!」

 

「っ!」

 

そこへ術の詠唱を終了した神多羅木が、その効果範囲内にいるユーリへと後退の指示を飛ばす。

 その声に素早く反応し、数度バックステップを踏んで神多羅木の側へと着地したユーリ。

 

「風花旋風風牢壁」

 

 それを確認して神多羅木はいたって冷静な声で術を発動させる。

 

 ユーリが上手く立ち回り調節しながら人形を吹き飛ばしたおかげで密集するように纏まっていた3体の人形の周囲に、突然風が巻き起こった。

 そよ風のように小さかった風は、しかしあっという間に巨大で獰猛な竜巻へと変貌する。

 

「本来この魔法は敵を閉じ込める檻の役目を担う……だが、調節すればこういう使い方もできる」

 

 神多羅木の言葉に従うように、竜巻に変化が起こる。

 その幅が徐々に狭まっていく。

 やがて風の檻に触れた人形はミキサーにかけられた様にガガガと音を立て削られ消滅していく。

 そうしてやっと竜巻は収まった。

 

「へぇ、すげぇな。 けどこんなところまでおっさんと同じとはな……」

 

 似たような術を使う元祖おっさんの間抜けは顔を思い出し、素直に賞賛できないユーリ。

 そんな彼の様子に首を傾げる神多羅木。

 

 そこへポケットに手を入れたまま、上空から高畑がユーリの隣に着地した。

 

「思っていた以上にやるねユーリ。 じゃあ今度は僕と一緒に闘ってくれるかい?」

 

 楽しそうに笑う高畑にユーリも不敵に笑いながら軽口を返す。

 

「いいぜ、ちゃんとついてこいよ?」

 

 確かにブラスティアがない影響で使えない術技が多数ある現状だが、この程度の敵ならばまだまだ余裕は充分にある。

 

「ちょっと行ってくるぜ。 やられんなよおっさん?」

 

「ふっ……行ってこい。それと……」

 

 おっさんはやめろ、と少し低い声で脅しを入れる神多羅木。

 しかしユーリと高畑は既に走り出してしまっていて、恐らく彼の耳には届いていないだろう。

 やれやれ、と肩を竦めて再度魔法の準備に入る。

 まだ模擬戦闘は始まったばかり。

 彼もまた、新しく此処へやってきた異世界人が見せてくれるであろう何かに、期待を寄せているように、その口元には微かに笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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