“確執”というのはオーバーなので、宗介を巡っての千鳥も加えたドタバタ劇を考えてみました。入れ替わりの頃から、約1年後くらいの話です。
読んで頂ければ幸いです。
「テスタロッタ大佐、明後日のイベントの予定表が完成しました。」
私は、宮水三葉、二十一歳。ミスリル所属の士官で、階級は少佐。現在は、トゥアハー・デ・ダナン艦長、テレサ・テスタロッサ大佐の補佐官として、デ・ダナンに乗船している。
ミスリルに入ったのは、四年前。何でたった四年で、二十一歳の小娘が少佐になれたかというと……早い話が私は“ウィスパード”という、ブラックテクノロージーの知識を生まれながらにして自分の頭の中に持っている特殊人物なのだそうだ。それ故に、組織内でも最重要人物とされているのと、その知識故に最先端技術に精通して、それを使う兵士達に適切な指示ができるからだ。
ちなみに、私が補佐するテスタロッサ大佐もその“ウィスパード”で、幼い頃からミスリルにいる彼女は、わずか十七歳で大佐の大任を任されている。ただ、戦闘指揮をする時の彼女は本当に大人顔負けの敏腕士官であるが、日常生活に於いては、かなり天然のドジっ娘である。
自分より年下の少女が上官という事には、別に不満もわだかまりも無い。実際に彼女の方が先輩で、実戦経験も豊富なのだから。ただ、ひとつだけ、絶対に彼女には譲れないものがある。最も、最大のライバルは彼女では無く、もうひとり居るのだが……
「……宮水少佐、ここに、“ビンゴゲーム”とありますが……」
「はい!ウェーバー軍曹が、前回好評だったので、今回も是非にと。」
「ま……まさか、一等賞の景品は……」
「はい!それもウェーバー軍曹が、前回好評だったから是非にと!」
「ええ~っ!こ……困ります!」
「え?ダメなんですか?」
「当たり前です!あ……あんな恥ずかしい事、もう二度と……」
「そうか、残念ですねえ……仕方ありません。そこは、私が代わっておきます。」
「え?」
「ウェバー軍曹に言われてたんですよ、“もしテッサが無理なら、三葉でもいいぜ”って。だから、仕方が無いので、私が変わりますね!」
「そ……それは……」
「でも、もし、相良軍曹が一等賞になっちゃったら、どうしよう?……そしたら、つい本気になっちゃって、キスだけじゃなくてそのまま……」
私は、わざとらしく頬を赤らめ、両手を頬に当てて戸惑う仕草をする。
「ま……待って下さい!」
「はい?」
「や……やります……私が、やります!」
テッサは、顔を真っ赤にしてそう答える。
「はい、了解しました!」
ふふ、うまくいった。大佐とはいえまだまだ小娘、ちょろいもんね。
もし、本当に相良くんが一等賞になっても、どうせテッサは舞い上がっちゃって、固まっちゃうに決まってる。そうしたら、さりげなく、私がサポートに入って……でも、その時に、大きな障害になるのが……
「ところで、宮水少佐?」
「はい?」
「彼女にも、招待の連絡はしているんですよね?」
「はい、それはもちろん。相良軍曹に、伝えてお連れするように指示を出しています。」
もっとも、相良くんのことだから、うまく伝えているかどうかは分からないけど……
すると、テッサの目の色が変わった……
分かっているようね、あなたも。
最も警戒すべき敵は、私達では無いって事を……
三葉から、明後日のイベントに、千鳥も招待するようにとの連絡が入った。それで俺は、通学時に千鳥にその事を告げた。
「千鳥、明後日、何か予定はあるか?」
「え?……別に無いけど。」
「実は、君に一緒に来て欲しいんだが……」
「え?」
何故か、千鳥は頬を赤らめた。おかしいな?何か、変な事を言ったか?
「ど……何処に?」
「南の島だ!」
「み……南の島?!」
“な……何なの?い……いきなりデートの誘い?それも、国外だなんて……
ん?確か、前にもこんな事があったような……”
何故か、急に千鳥の様子が変わった。目が、据わっているような……
「ねえ、宗介?」
「な……何だ?」
声のトーンが低い。いったい、どうしたんだ?
「1年前にも、同じような事言わなかった?」
「ん?そうだったか?」
「南の島って……ミスリルの基地の事?」
「ああ、そうだ。」
「そこで、何があるの?」
「ああ、デ・ダナンの就航二周年記念の式典が……」
言い終わらない内に、物凄い形相で、千鳥はハリセンを振り上げていた。
「それを先に言わんかああああああああっ!」
千鳥のハリセンで、今迄に無いほど厳しく叩かれた。
「い……痛いじゃないか……」
な……何で、そんなに怒るんだ?
格納庫ではマオさんが、また懲りずにM9でのダンスの練習を指揮している。
その横で、私は缶ビール片手に、彼女と雑談をしている。
「また、テッサを挑発して来たの?」
「人聞きの悪い事を言わないで下さい。私は補佐官として、予定表の承認を頂いて来ただけです。」
「でも、普通に考えたら、クルツのあんな提案テッサが呑む訳無いわ。あんた、何かしたでしょ?」
「べ……別にぃ……」
「しかし、あんたもテッサも、あんな朴念仁のどこがいいのかね?」
「お……大きなお世話です。」
「ふふ……でも、テッサと違って、随分くだけた士官よね、あんたって。」
「え?」
「いくらあたしが勧めたからって、勤務中に士官がビール飲む?普通?」
「まあ、育ちが悪いんで……マデューカスさんに見つかったら、不味いですけどね……」
「ん?や……やばい!」
突然、M9の動きがおかしくなった。プログラムに、バグがあったようだ。二機でチークを踊っていた内の一機が、軌道を外れ、機材の中に突っ込んでしまう。
「あっちゃ~っ!」
M9は損傷し、機材もばらばらに散乱してしまう。その内の殆どが壊れてしまった。
罰が悪そうに、マオさんは私の顔を見る。私はにっこりと笑って……
「始末書は、明日の朝までに提出しておいて下さいね。壊れた機材の修理費は、曹長の来月以降の給与から差し引いておきますから。」
そう言い残して、私は格納庫を後にする。
「ああいうところは、テッサそっくりなんだから……まったく……」
そして、いよいよイベントの当日。相良くんに連れられ、かなめがデ・ダナンにやって来た。
私が、二人を出迎える。
「宮水少佐、相良宗介、千鳥かなめを連れ、帰還しました。」
相良くんは、私に向かって敬礼する。
「やだわ、相良くん。今日は任務じゃ無いんだから、三葉って呼んで。」
「は?はあ……わ……分かった、三葉。」
「相変わらずね、三葉。」
「お久しぶり、かなめ。」
宿命のライバルとの再会。そこから、決戦の火蓋が……とはならない。
「ほんと久しぶり、元気してた?」
「もちろんよ!かなめも元気そうで、安心した!」
と、女子会トークに突入し、相良くんを放ったらかして、話しながら談話室に向かった。
ひとり残された宗介の肩を、クルツが叩く。
「よう、大変だな?お前も。」
「ん?何がだ?」
「お……お前な……」
あまりの鈍感さに、呆れるクルツであった……
そうして、デ・ダナン就航二周年記念(別名:デ・ダナン二歳の誕生会)は大々的に開催された。
まずは、艦長テッサからの挨拶。続いて、補佐官の私が乾杯の音頭をとった。
パーティは滞り無く進んで行き、遂に、運命の時がやって来た。
「さあて宴も酣だが、これより恒例の大ビンゴ大会の始まりだ!」
『おお~っ!』
会場内から歓声が上がる。
「今回も、沢山の豪華商品を用意したが、目玉は何と言っても一等賞、前回に続き、テスタロッサ艦長からのキスだ!」
『おお~っ!』
会場内から更なる大歓声が上がる。そして、壇上にテッサが上がる。
テッサは、恥ずかしそうに俯く。かなめは、心配そうに相良くんの顔を伺っている。
次々と番号が発表されるが、中々リーチにならない。しかし、六順目あたりからちらほらリーチが出だし……
「リーチ!」
遂に、相良くんもリーチとなった。テッサは頬を赤らめ、かなめは更に心配そうな顔になる。私も、どきどきして来た。胸の鼓動が、高まっているのが分かる。
「えっと、次は……Gの五十八番だ!」
「ビンゴだ!」
そう言って手を上げたのは、何と、相良くんだった。
ま……まさか!ほ……本当に、相良くんが一等賞?
「おおっ!やったな、宗介!テッサのキスはお前のもんだ!」
会場中が騒然とする。テッサはもちろん、かなめも驚いて、放心状態だ。もちろん、私も……
が、当の相良くんは、表情ひとつ変えていない。
ど……どこまで鈍感なの?この人……
「さあ、相良軍曹!ステージの上へ!」
クルツさんに促され、相良くんはゆっくりと壇上に上がり、テッサの前に来る。
「大佐殿、宜しくお願いします。」
相良くんは両手を後ろに組んで、テッサに一礼して直立不動で立つ。
粛清か何かと勘違いしているのか?この男は?
テッサの方は、もう立っているのもおぼつかない感じだ。顔は真っ赤で、両手を胸のところで組んで、彼の顔も満足に見れない。声も出ない状態だった。
これは、私の予想通り……
それなら私が……と思ったんだけど、実際その通りになると中々勇気が出ない。
依然として、テッサは動けず喋れない。会場には、どよめきが起こってきている。
チャンスは今しかない!
ここを逃してはダメ!
勇気を出すのよ三葉!
私は、意を決して壇上に上がる。私の姿を見て、また会場が騒然とする。
「ど……どうも、テスタロッサ大佐が、固まってしまいましたので……ほ……補佐官である私が、代わりを務めたいと思います。」
また、会場内にどよめきが起こる。そして、その中から、突き刺さる視線を感じて、私はそちらに目を向ける。
その視線の主は、もちろん、千鳥かなめだ!物凄い形相で、かなめは、私を睨んでいる。
悪いけどかなめ、ここは譲れないの!
ただでさえ、私はあなたには大きく遅れをとっている。
その遅れを、ここで少しでも挽回するの!
「み……三葉?」
周りの雰囲気に、流石の超鈍感男、相良くんも只ならぬものを感じたのだろう。顔が引きつって、顔面には冷や汗が浮かんでいる。
「で……では、相良軍曹……」
そう言って、私は両手を後ろに回し、顔を相良くんに近づけようとする。
「ま……待って下さい!」
それを、そこまで固まっていた、テッサが制する。
「こ……これは、私の任務です。わ……私がやります!み……宮水少佐は、さ……下がって下さい!」
やっとの事で、声を絞り出したという感じだ。でも、私もここで引き下がる訳にはいかない。
「い……いえ、た……大佐には荷が重過ぎます!ここは、やはり私が……」
「いいえ、私がやります!」
「いえ、私が!」
「ちょっと待ちなさいよ!」
とうとう、かなめも壇上に上がって来た。
「さ……さっきから何やってんのよ!あんた達!た……たかだか、ビンゴの景品のキスでしょ!な……何、そんなにムキになってんのよっ!」
そのたかがキスに、ムキになって壇上に上がってきたのは誰だ?
「引っ込んでて、かなめ!これは、私とテッサの問題やの!」
「そ……そうです、かなめさん!部外者のあなたは、引っ込んでいて下さい!」
「あ……あたしは学級委員として、宗介の行動を管理する義務があるの!」
「ここは学校やあらへん!生徒の私生活には、例え教師やて干渉する権利は無いに!」
「うるさいわね!ごちゃごちゃ屁理屈並べるんじゃないわよ!」
壇上は、完全に女の戦場と化していた。私もいつの間にか訛り全開になっていた。会場の皆は、完全に呆れ……てはいず、逆に、異様な盛り上がりをみせていた。
「いいぞ!がんばれ大佐!」
「負けるな!宮水少佐!」
「かなめもがんばれ!」
中には、賭けを始める者までも出ていた。
「宮水少佐に、五十ドル。」
「俺は、テッサに百ドル。」
「ほんじゃ、俺はかなめに二百ドルだ!」
一方、ひとり顔面蒼白なのは相良くん。直立不動は崩さないが、顔は、かなり冷や汗で濡れてきた。
「な……何なんだ?これは……」
「さあ、面白くなってきたぞ!宗介にキスを送れるのは、テスタロッサ大佐か?宮水少佐か?はたまた、飛び入りの千鳥かなめか?」
クルツさんが、一番面白がって実況をして、余計に騒動を煽っている。
「やれやれ……」
ひとりため息をつき、マオさんは呆れている。
「とにかく、景品は私のキスなんですから、私がキスします!」
「テッサは、最初嫌がってたやろ!だから、私が代わるに!」
「いい加減にしなさいよ!そんな事でもめるなら、あたしがやるわよ!」
いつまで経っても決着が付かないので、痺れを切らしてクルツさんが口を挟む。
「あ……あのさあ……」
『何よ!』
三人とも、凄い形相で睨み付けたので、クルツさんは一瞬たじろぐ。
「い……いや、このままじゃ、決着付きそうにないから……この際、宗介に決めてもらったら?」
「何?」
この提案に、三人は顔を見合わせ、同時に頷く。一方の相良くんは、更に顔色が悪くなる。
「では、景品のキスをどの女神から頂くか、一等賞を引き当てた相良軍曹に決めて頂きましょう!相良軍曹、どうぞ!」
「ま……待て、クルツ!それは……」
「もちろん私ですよね?相良さん?」
「やっぱ私やろ?相良くん?」
「あたしに決まってるわよね?宗介!」
「い……」
私達三人に詰め寄られ、相良くんの顔からどんどん血の気が引いていく。顔中、冷や汗ででいっぱいだ。
「じ……じゃあ……」
『じゃあ?』
三人の顔が、相良くんの眼前に迫る。
「じゃあ……く……クルツで……」
『……はあ?』
私達三人だけで無く、会場全体から、一瞬何が起こったのか分からないような、ため息ようなの声が上がる。
次の瞬間、会場中が一気に静寂に包まれる。私達は、あまりの事に呆然として、俯いたまま硬直してしまった。
「な……何言ってんだよ、お前……」
静寂を破ったのは、クルツさんの言葉だった。
「い……いや……つ……つい……」
続いて相良くん。私達は、次第にワナワナと震え出していた。
すると、かなめが、何処から取り出したのか?巨大なハリセンを三つ取り出し、ひとつをテッサに、ひとつを私に渡す。
「い……行くわよ、みんな。」
低いトーンで、かなめが言う。
「分かりました。」
「ええよ、かなめ。」
私とテッサも、同じトーンで答える。
「い……いや、ちょっと……千鳥?……三葉?……大佐殿?……」
『この、唐変木がああああああああああっ!!』
三人同時で、ハリセンを上段に振り上げ、一気に相良くんの脳天に突き落とす。
「い……い・た・い……」
相良くんは、そのまま倒れ込んでしまう。
「……馬鹿!」
マオさんはひとり、ため息をついて俯くのだった……
その後、長らくの中断を経て、続きのビンゴゲームが行われた。
一次会はそれでお開きになり、それぞれ勤務に戻る者、二次会を行う者に別れた。
相良くんとかなめは、明日も学校があるので、特別機で東京に帰った。テッサは勤務に戻り、私はマオさんと、化学洗浄プールを使ったお風呂に浸かっていた。
「ぷは~っ!」
マオさんは、凄い勢いで飲んでいる。まあ私も、半ばヤケ酒気味に何本か空けている。
「ほんまに、相良くんって、女心が全く分かってへんのやからっ!」
「あら?そんな馬鹿に、惚れてるのはどちら様でしたっけ?」
「そ……それは……」
「ふふ……でも、良かったじゃない?」
「良かった?」
「だって、結局宗介は、誰も選べなかったんでしょ?もし、あなたじゃない、誰かひとりを選んでたら……」
「そ……それは、そうかもしれへんけど……」
でも、こんな関係がいつまでも続けばいいかなと、少しは思ってしまう私だった。そんな私を見て、マオさんは、優しく笑うのだった……
そんな訳で、宗介を巡っての、三葉、かなめ、テッサのドタバタ劇でした。
まあ、最終的には原作通り、宗介は千鳥かなめとくっ付くんですが、できるだけ長くこんなドタバタが続いて欲しいと、思う次第です。