【完結】勇者刹那30   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。今回はモブキャラが登場します。そして1話限りのモブキャラのくせに何だかキャラが濃かったりするという……。



Sleepy(2)

 

 刹那はフラフラとした危なっかしい足取りで前方に存在する村へと向かう。隙あらばと断続的に襲ってくる睡魔と必死に闘いながら刹那は襲いかかってくるモンスターをどうにか倒していく。感覚としてはいきなりプールに突き落とされた泳ぎ方を知らない子供ががむしゃらに水をかき分け足をバタつかせている感覚に近い。

 

 だがいくら神鳴流を修めた実力者といえど眠気のせいで注意力が散漫していて本来の力を発揮できていない刹那はモンスターと出くわす度に怪我を負っていく。いつ致命傷を負ってもおかしくない危険な状態だ。そんな状況下に置いてもモンスター消失とともに生まれるお金を回収することを忘れない辺りはお金大好き:時の女神さまに魅入られた者らしい行動だと言えるだろう。

 

 そして23秒後。刹那が睡眠願望に耐えながらやっとのことで到着した村は混沌と化していた。村人はそのほとんどが眠りに就いていて地面に寝そべって眠る者から直立したまま眠る者まで実に様々だった。しかし中には眠っていない者も存在した。見た所、村人の中でただ一人眠っていないと思われる中年男性は目をクワッと見開いたまま雑貨屋の店番をしていた。

 

「あ、あの……」

「ん? どうした、旅の少女よ!?」

「貴方は、その……眠くないんですか?」

「いや、眠い! なぜか知らんが超眠い! これがさっき世界の滅亡がどうこう言ってた魔王とやらの能力なら大したものだ! 皆眠っちまったしな! ガハハッ!」

「じゃあ、どうして貴方は起きていられるのですか?」

 

 刹那は残る気力を振り絞って仁王立ちの中年男性の元へ近づくと率直に問いを投げかける。魔王スリィピが唱えた睡魔の呪文の影響で誰もが熟睡する中で平然と起きているこの男性は何か眠気覚ましになるアイテムを持っている可能性が高いからだ。

 

「気合いだッ! 心頭滅却すれば眠気もまた感じないのだーッ!」

「そう、ですか……」

 

 しかしハイテンションな男性の返答は刹那の望みをすっぱり断ち切った。この様子だと目をギラギラと光らせている店番の男性が眠気覚ましのアイテムを持っている可能性は全然期待できなさそうだ。望みを絶たれた刹那はガックリとうなだれた。

 

「――と、いうのは冗談だ! 実際は急に襲いかかってくる眠気をいち早く察知した俺がとっさにレイフィール博士特製の眠気覚ましの目薬を使ったから今もギリギリ起きていられるんだ! 他の皆は目薬を使う前に睡魔にやられたんだろうな! うむ!」

 

 希望が粉々に打ち砕かれたことでそのまま睡魔に身を委ねてしまいそうになった刹那に男性はガハハと豪快に笑って自分一人だけが起きている理由を簡潔に説明してきた。睡魔と格闘し続け心の余裕がなくなっている刹那が歯をキランとさせて話す目の前の男性にイラッと来た瞬間である。

 

「……その目薬、ここで売ってますか?」

「おうよ! 1瓶150Gだ! 今なら3瓶1セットでもれなく300Gだが、どうする!?」

「単品でください」

「まいどッ!」

 

 だがここで怒りを男性にぶつけても事態は好転などしない。むしろ悪化するだけだ。刹那は男性に対する苛立ちの感情を心の奥底に封印すると即座に目薬を1瓶購入。早速目薬を使用した。余談だが、3瓶1セットで買った方が断然お得なのに刹那が目薬を1瓶しか購入しなかったのは偏に金銭的な問題である。

 

「……」

「ど、どう? 刹那ちゃん?」

「……そうですね。まだ眠いですけど、少しはマシになりました」

「ふぅ。それなら一安心ね。で、その状態で魔王スリィピと戦って勝てると思う?」

「……それはさすがに無理があるかと」

 

 女神の問いに刹那は首を力なく左右に振る。確かに多少は眠気はマシになった。だけどまだ眠い。油断すればすぐに睡魔に呑まれてしまうことには変わりない。一撃二撃程度で倒せるモンスターと戦うだけならまだしもこれで魔王スリィピと戦うのはいくら何でも無茶だ。魔王と戦っている最中に眠気のせいで集中を切らすなんてことになったら洒落にならない。

 

 それに惰眠魔王スリィピの睡魔の呪文はかなり強力らしく、肝心の眠気覚ましの目薬を使っても大体10秒でまた眠たくて眠たくて仕方なくなってしまう。こんな状態で魔王と対峙しても結果は目に見えている。

 

(だけど魔王を倒さないと世界が破滅してしまう。私は一体どうすれば……)

「旅の少女よ! もしも今以上に眠気を覚ますことを望むのならば北東の洞窟を抜けた先にあるレイフィール博士の家に向かうといい! 何を隠そうこの眠気覚ましの目薬を作ったのも他ならぬレイフィール博士なのだ! 博士ならこの目薬以上に眠気を覚ませる強力なものを既に開発しているかもしれないぞ!」

「ッ!? ホントですか!?」

「おうとも! 何せレイフィール博士は天才だからな!」

「わかりました! それでは早速行ってみます! ありがとうございます!」

 

 刹那がジィーと目薬の瓶を穴が開くほど見つめて頭を悩ませていると相変わらず仁王立ちの男性が耳寄りの情報を提供してくれた。これはいい話を聞いた。強力な眠気覚ましのアイテム入手のためにレイフィール博士とやらの家に向かうことにした刹那は男性に頭を下げてその場を去った。

 

 そして出店で売っていたはちみつトースト(30G)を食べて怪我をしっかり治癒した刹那は(※はちみつトーストの代金はぐっすり眠っている店主の隣に置いておいた)念のためにと一度女神像にお金を投入して祈りを捧げる形で女神に時間を巻き戻してもらい、それからレイフィール博士の家を目指して村の外へと駆けていくのだった。

 




 女神のせいで金欠なせっちゃん。
 せっちゃんガンバッ。マジガンバッ。
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