どうも、ふぁもにかです。実はたった数時間前まで
「ぅ……う?」
突如全身に痛みを感じたことにより惰眠魔王スリィピの睡魔の呪文に打ち勝った刹那はうっすらと目を開ける。ぼんやりとした意識の中、刹那がまず最初に視界に捉えたのはしゃがみ込んで自分の顔を覗き込む少年の姿だった。
「やっと起きたか小娘」
「ここ、は……?」
「僕の家だ。貴様がどこの誰かは知らんが、人様の家のドアを粉々に破壊し挙句の果てに玄関で勝手に熟睡するとは……最近の来客は傍若無人極まりないものだな」
「え……あ! も、申し訳ございません!」
「む、素直に謝ったか。ならばこの件については不問だ。ただし次からは気をつけろ。誰もが僕みたいに誠実で寛大で器の広い人間なわけではないのだからな。いいな?」
「は、はいッ!」
刹那は少年の上から目線の言葉に思わず身を引き締める。まるで絶対に怒らせてはいけない偉い人による説教を受けているような気分だ。そのため今の自分が寝転がった体勢だと気づいた刹那はバッと勢いよく起き上がり正座する。瞬間ズキッと頭に鋭い痛みが走った。
「うッ!?」
「む? どうした小娘?」
「いえ、なぜか頭がズキズキと痛むのですが――」
「気のせいだ。大方どこぞのモンスターの攻撃でも喰らったのだろう。この辺りは俊敏なモンスターがいるからな。気づかないのも無理はない」
「……そ、そうなんですか。あと全身もなぜか痛むのですが――」
「気のせいだ。大方その辺で派手に転んだのだろう。この辺りは区画整理が進んでいないからな。転倒するのも無理はない」
「そう、ですか……」
刹那は少年の有無を言わさぬ物言いにこくこくとうなずく。本能が目の前の少年に絶対に逆らってはいけない、少年の言葉を決して疑ってはいけないとしきりに警鐘を鳴らしていたからだ。なぜかダメージを負っている自分の体に関する疑問について考えることを止めた刹那は改めて少年に視線を向ける。と、ここで初めて相手の顔をはっきりと見た刹那は言葉を失った。
なぜなら。刹那の視線から逃れるようにして立ち上がった少年が。見た目10歳な白衣の少年が。天然パーマの銀髪に緑色の瞳をした少年が。なぜかエメラルドグリーンの瞳が死んだ魚のように濁りきっているといった差異こそあるものの、かつてこのちゃんを狙っていたメンバーの一人:フェイト・アーウェルンクスにそっくりだったからだ。
「――って、フェイト・アーウェルンクス!? なぜ貴様がここに――」
「フェイト・アーウェルンクス? 誰だそれは? 僕はそんな長ったらしくて覚えづらい名前なんかじゃないぞ? 私にはレイフィールという後の歴史で語り継がれるであろう偉大でカッコいい名前があるのだが?」
「え、あ――すすすすみません! あまりにレイフィールさんが私の知り合いに似ていたもので、つい!」
「ほう、なるほど。フェイト・アーウェルンクスとやらは僕のそっくりさんなのか。世界には自分とそっくりな奴が三人はいると言われているが……ふむ。これは興味深い」
少年レイフィールは一度はフェイト・アーウェルンクスの名前を鼻で笑い飛ばしたが、そのフェイトが自分とそっくりな容姿をしていると知ると顎に手を当ててニヤリと笑う。フェイトの人形みたいな無表情しか知らない刹那は眼前のフェイトとそっくりそのままの容姿をした人物の凶悪な笑みにゾワリと言い様のない戦慄を覚えた。
「で、小娘。要件は何だ? わざわざドアを粉砕してまでここにやって来たんだ。何か相応の用事があるのではないか? というか、なかったら承知しないからな」
「あ、あの……」
「何だ? 言いたいことがあるならさっさと言え。手短にな」
「はい。私はセツナと言う者ですので、できたら名前で呼んでほしいのですが」
「そうか。ではセツナ。もう一度聞くが貴様の要件は何だ?」
「じ、実は――」
刹那は高圧的なオーラを纏うレイフィールに事の経緯を全て話した。世界滅亡を狙う惰眠魔王スリィピのこと。魔王スリィピによる睡魔の呪文のこと。自分が女神の力を借りて魔王を倒そうとしていること。村で売っていたレイフィール作の目薬では効果が薄く魔王と戦うには不安が残ること。目薬の製作者たるレイフィールなら目薬の他にも何か強力な眠気覚ましのアイテムを発明しているかもしれないとここにやって来たこと。これらのことを包み隠さず話した。
ちなみに全てを聞き終え現状を知ったレイフィールの反応は「魔王云々はどっかの粋がりたい悪ガキのイタズラじゃなかったのか……」と頭を抱えてため息を吐くというものだった。
「それでレイフィールさん、何か眠気覚ましになるアイテムってありますか?」
「あぁ、あるぞ。僕特製のコーヒーなら眠気など一瞬で吹き飛ぶことだろう。あれは効果が強すぎる上に材料が容易に手に入らないからと販売を見送ってた奴だからな。まぁ、あれはかなり苦いから飲む際はあらかじめ覚悟しておけよ。でないとショック死しかねないしな」
「提供してくれるんですね! ありがとうございます、レイフィールさん!」
刹那はパァと花が咲いたような笑みを浮かべてレイフィールに頭を下げる。目薬以上に眠気覚ましの効果が見込めるコーヒー。それがあればさすがに眠気に悩まされることはないだろう。魔王スリィピ討伐の道が見えてきた。刹那は魔王スリィピ退治の算段を脳内で構築していく。だが刹那が組み上げようとした作戦は次のレイフィールの一言でガラガラと崩れ落ちることとなった。
「おい待てセツナ。何か勘違いしてないか? 誰がタダでやると言った?」
「え?」
「折角だ。実験台になれ、セツナ」
「……へ、え?」
「聞こえなかったのか? 僕の実験台になれと言ってるんだ。二度も言わせるな」
実験台。一度は聞き間違いかと思っていた物騒な言葉が二度もレイフィールの口から飛び出してきたことに刹那は思わず呆然としたのだった。
レイフィールの実験台にされそうなせっちゃん。
うん。せっちゃん逃げて。超逃げて。