どうも、ふぁもにかです。さーて、そろそろせっちゃんには惰眠魔王スリィピと戦ってもらいましょうかね。
「ハァ!」
刹那はもういつ壊れてもおかしくないデッキブラシに氣をこめて襲いかかってくる灰色のオオカミを一気に薙ぎ払う。超速レベルアップによって大幅に身体強化が為された刹那の一閃。オオカミたちは反応すらできずに攻撃を喰らった傍から消滅する。
(動きが鈍いな……)
刹那はモンスターが消えた場所から出現したお金を慣れた手つきで回収しつつ村へと全力で駆ける。レイフィールさん特製のコーヒーのおかげで意識が覚醒している今だからこそわかる。魔王スリィピが唱えた睡魔の呪文は決して人間限定で効くものではなくモンスターにもそれなりに影響を及ぼしていることがよくわかる。
睡魔と闘っているせいで動きがぎこちないモンスターたちを刹那は危なげなく倒していく。惰眠魔王スリィピと戦えるレベルにまで昇格するために刹那は着々と超速レベルアップを遂げていく。と、そこで刹那は脳内タイムウォッチが『01’85』となっていることに気づいた。
「――ッ!?」
刹那は半ば転がりこむようにして村の中に入り込む。明らかに目立つ行為だが村人は相変わらず夢の中なので刹那の行為を気にする者はいなかった。
(の、残り0.35秒……あ、危なかった……)
「今のは中々危なかったわねぇ」
「……はい。次からは気をつけます、女神さま」
「あ、いや今のは刹那ちゃんを責めたわけじゃないから気に病むことないわよ? 変に凹まなくていいわよ? それにハメツの呪文発動まで残り0.35秒で村の中に入るなんてまだまだマシな方だしね」
「……え、これでもマシなんですか? 残り0.35秒ですよ?」
「うん。マシね。前に魔王退治のためにユウシャさんって人に協力したことがあるって言ったことあったわよね? その人なんか刹那ちゃんよりももっとギリギリだったもの。最高ギリギリタイムは確か残り0.01秒だったかな?」
「れ、0.01秒って……」
「あの人は足の速さが取り柄だったからね。ユウシャさんからすれば自分の足なら十分間に合うって確信あっての行動だったんだろうけど見てるこっちはハラハラものだったわよ」
「……そうだったんですか」
「いやぁー、懐かしいわねぇ。ユウシャさんはあの頃の時点で既に筋金入りの無口だったけど初々しくて可愛かったわぁ」と宙にふわふわと漂いながら女神は今から1300年前の過去に思いを馳せる。その傍らで刹那は綱渡り極まりない魔王退治をやってのけたであろうユウシャという人物に密かに戦慄を覚えた。
◇◇◇
度重なるモンスターとの戦闘でついに壊れたデッキブラシの代わりにボクソードという名の木刀を買った(※よだれを垂らして幸せそうに眠っている武具屋の店主の隣に代金の50Gを置いてボクソードを頂戴した)刹那は早速魔王城に乗り込むことにした。眠気による戦闘力低下の危険がない以上もはや魔王スリィピとの戦闘を躊躇する理由はどこにもない。もちろん女神像に200Gを投じて祈りを捧げることで女神に時間を巻き戻してもらってからだが。
「……え?」
時間短縮のため魔王城の扉を氣をこめたボクソードで物理的に破壊し惰眠魔王スリィピの姿を捉えた刹那は思わず困惑の声を出した。玉座に座る可愛らしいクマの人形を抱きかかえた羊頭の男の子を見てつい足を止めた。
『すぴ~。すぴ~』
「……」
見た感じ身長120センチ程度の惰眠魔王スリィピは鼻ちょうちんを作って可愛らしい寝息を漏らしていた。気持ちよさそうにぐっすり眠っている魔王スリィピを前に刹那はどうしたものかと考えあぐねる。目の前の存在は世界滅亡を実現しようとしている魔王だ。ならば隙だらけで眠っている今の内に一撃でも多く攻撃を入れた方がいいに決まっている。
わかっている。わかっているのだが、そのやり方は卑怯だと自分を責めるもう一人の刹那の存在が刹那の足をその場に縫いつける。女神が気を利かせて魔王城に入ってからの時間を止めていることや眠っている魔王スリィピが中々に母性本能をくすぐる容姿をしていることがより刹那に不意打ちの一撃を繰り出すことを躊躇させる。
『――ん。しまったの。睡魔の呪文でつい僕も眠っちゃったの』
「あ……」
奇襲するか。魔王スリィピを起こして正々堂々勝負するか。刹那が二つの選択肢の間で揺れ動いていると魔王スリィピがうっすらと目を開けた。魔王はまだ意識が完全に覚醒しきっていないのかクマの人形を抱きしめたまま微動だにせずに目をシバシバとさせている。
『んー。いい天気なの……って、あれ? なんでなの? なんで人間のお姉さんがここにいるの? 僕の睡魔の呪文が効いてないの? どういうことなの? ちゃんと成功したのに、こんなのおかしいの。信じられないの。バカげてるの』
魔王スリィピはクマの人形を玉座の肘かけに置いてクッと背伸びする。と、ここでようやく刹那の存在に気づいた魔王は首をコテンと傾ける。その何とも愛らしい動作とは裏腹に言葉には険があり瞳には不快なものを見るような目つきが宿っている。
『まぁいいの。邪魔者は誰だろうと排除するの。ハメツの呪文は止めさせないの』
「ッ!? そんなこと、世界を破滅なんてさせませんッ!」
『やってみろなの!』
魔王スリィピは玉座にひょいと足を乗せてググッと膝を曲げるとぴょーんと高らかに跳躍する。そのまま刹那の目の前にストッと着地した魔王はどこからか取り出したいかにも死神が持っていそうな黒光りする大鎌を両手に持つ。大鎌を構えて敵意をありありとぶつけてくる魔王と真正面から向かい合ったことによりハッと我に返り己のやるべきことを思い出した刹那は自身の気を引き締める目的で声を張り上げる。
かくして惰眠魔王スリィピと神鳴流剣士:桜咲刹那との世界の命運を賭けた戦いが幕を開けたのだった。
自分の唱えた睡魔の呪文でついつい眠っちゃう惰眠魔王さん。
スリィピ可愛いよスリィピ。お持ち帰りしたいよスリィピ。