どうも、ふぁもにかです。今回から第4話始動です。この勇者刹那30を起承転結に例えるならこの第4話からは『承』になります。つまり、今までの1、2、3話はあくまで『起』、単なる序章に過ぎなかったのだよ!
……ま、その序章に34話も使ってるのはどうかと思いますけどね、作品紹介の所では短編物語とか書いてるくせにこれですしね。
Sacred(1)
朝日が地平線から顔を覗かせんとする頃合いにて。とある荒野で一定の距離を取った状態で相手を見やる二人の人間。言わずもがな、刹那とナイトである。二人は各々の得物を手にいつ攻撃を仕掛けたものかとタイミングを慎重に見定めている。
どうして二人が戦うことになっているのか。答えは簡単、勇者城を移動手段として旅を行う道中に立ち寄ったとある町でようやく剣タイプの武器(ブロードソード)を入手することのできた刹那がナイトに模擬戦を申し込み、ナイトが快く引き受けたからだ。
(ナイトさんが隙を見せる気配はなさそうですし、そろそろ始めますか)
硬直状態が続く中、攻撃を仕掛けんと先に飛び出したのは刹那だった。足に氣を一点集中させて前進した刹那は一息にナイトの懐に入り込みブロードソードを逆袈裟に振り上げる。ナイトは咄嗟に刹那の攻撃を剣で受け止めるも、刹那の剣撃のあまりの重さについ後方に吹っ飛ばされる。
「わッ!?」
「はぁッ!」
刹那の華奢な体つきからはまるで想定できないレベルの刹那の力にナイトが動揺する中、刹那は絶え間ない剣撃を浴びせ続ける。常人であれば見ることすら難しいであろう剣の軌跡。しかしナイトは刹那の剣撃を前にしっかりと己の武器を使って防いでいく。最初の一合と違い、刹那のパワーを警戒していたためナイトが再度吹っ飛ばされることはなかった。
攻撃し続ける刹那と防戦一方なナイト。どちらも致命的な隙を見せないためにギン、ギンと金属と金属とがぶつかる音がただただ荒野に響き渡るのみである。一見すれば刹那優位に進んでいると思われる戦闘。しかし、物見遊山感覚で上空から二人の戦闘を観察していた時の女神はナイトが劣勢を装いつつ着々と罠を張っていることを見抜いていた。
「斬空閃!」
「しまっ――!?」
と、ここで。刹那は模擬戦に決着をつけようとブロードソードにありったけの氣を注ぎ込んで渾身の一撃を放つ。曲線状に放たれた氣。それをこれまでと同様に剣で受け止めようとしたナイトだったがあっさりと自身の剣を弾き飛ばされてしまったために蒼白の表情を浮かべ、対する刹那は今がチャンスとナイトへと距離を詰めようと足を踏み出す。
「痛ッッ!?」
刹那は一歩踏み出した右足に突如ほとばしった強烈な痛みについ足を下げる。刹那が足元を見やると黒一色のマキビシがビッシリと敷かれていた。どうやら先の痛みはマキビシを踏みつけたことによって生じた痛みのようだ。
(い、いつの間に――ッ!?)
思わず冷や汗を流す刹那。だが相手はマキビシの存在に戦慄する刹那を律儀に待ったりしない。刹那は前方から突っ込んでくるナイトが振り下ろしてくる予備の剣をブロードソードでいなし、いなした勢いをそのまま引き連れる形でナイトに斬りかかる。カウンターの要領で繰り出された刹那のブロードソードを、しかしナイトは欠片も避けようとせずにそのまま突っ込んできた。
「な!?」
いくら鎧を着ているとはいえそれでも無謀なナイトの行動に驚愕しつつも刹那はナイトを一刀に斬り伏せようとする。と、この時。刹那は気づいた。眼前に迫っているナイトが本人でなく、実に精巧に作られた偽物、もといかかしだということに。そのかかしがガバッと口を開いたその中に、既に点火済みの導火線つきの黒い球状の物体、もとい爆弾が仕掛けられていることに。
「ガッ!?」
刹那は急いでナイト似のかかしから距離を取ろうとするも、時すでに遅し。かかしが口の中に隠し持っていた爆弾は周囲にこれでもかと爆音と爆炎をまき散らし、至近距離で爆弾を喰らった刹那は派手に吹っ飛ばされ、数秒の滞空時間の後にズザザザッと荒野を転がっていく。
あっという間に戦局を覆されてしまったと急いで立ち上がろうとする刹那だったが、次の瞬間には自分の首筋からヒヤリと冷たい感触が伝わってきた。ナイトが刹那の首筋にいつの間にやら回収していたらしい剣を当ててきたのだ。
「……参りました」
「はい、僕の勝ちですね!」
まだ立ち上がってすらいない状態からの現状打破の方策が思いつかない刹那はブロードソードを手放す。一方のナイトは自分が勝利したという事実への喜びを満面の笑みで体現するのだった。
◇◇◇
ひとまず薬草を食べて刹那が全回復した後。
「ナイトさん、さっきのってもしかしてわざとですか?」
「はい、わざとです。わざと自分が後で回収しやすい位置に剣を飛ばしたんです。セツナさんの攻撃を防ぐので精一杯のように振舞ったのもセツナさんにバレないようにマキビシ撒いたり爆弾付きかかしを用意するための時間稼ぎでしたしね。ま、こういう戦い方は初めて戦う相手にしか通じないのがネックなんですけど」
「私はナイトさんに弄ばれていたんですね。……私はまだまだ弱い、ということですか」
刹那はナイトの手の平で踊らされていた事実を知りうなだれる。これまで旅の道中で出くわしたモンスターをもれなく撃退し、超速レベルアップの恩恵があるとはいえ三体もの魔王を討伐してきた刹那。少なくともこの世界に飛ばされた時よりは遥かに強くなったものと考えていただけあって、己の弱さを再認識した刹那の落ち込み具合は大きい。
「セ、セツナさん。そんなに落ち込むことないですよ。僕はもうかれこれ900年は生きてるんですし、戦闘経験の差がそのまま勝敗に繋がったって仕方ないですよ。それに罠を仕掛けまくったのはそうしないとセツナさんに勝てる気がしなかったからで――って、あれ? 900年も生きてるのにこんな姑息な手段じゃないとセツナさんに勝てない僕って一体……?」
「まぁ、ナイトくんは全然才能ないからね。ノリと勢いと根性だけの人間だもん、仕方ないよね。所詮世界を救ったメンバーの中じゃあまず間違いなく最弱で目立たないモブキャラだしね」
「う、うわーん! そこまで言わなくてもいいじゃないですか、女神さま!? 泣きますよ!? 約900歳の人間が5歳児みたいにみっともなく泣いちゃいますよ!?」
「女神さま! 今のはさすがに言い過ぎでは――」
「大丈夫大丈夫。これぐらいのやりとりは日常茶飯事だから。それにああ見えてナイトくんはメンタルの強さが売りだからね」
女神の心無い発言に精神的ダメージを負い涙目のナイト。刹那は女神に非難の目を向けるも女神はナイトを指差して呑気に笑う。実際、刹那がナイトを見やるとあたかもついさっきまでの涙目状態がなかったかのようにケロッとしているナイトの姿がそこにあった。
(気持ちの切り替え早過ぎやしませんか、ナイトさん!?)
「ところでセツナさん、一つアドバイスいいですか?」
「あ、はい。何でしょうか?」
「セツナさんと戦って思ったんですが、セツナさんは正面からの攻撃ばかりで不意を突くような攻撃をしない、というよりそういった戦い方を敢えて選んでいないように感じました。ですので、もう少し手段を選ばない戦い方をした方がいいと思います」
「で、ですが正々堂々と戦わないというのは気が引けると言いますか、自分が相手より劣っていると認めるようで嫌だと言いますか――」
「セツナさん。戦う手段を選べるのは強い者の特権ですよ。自分がまだまだ弱いと思ってて、これからもっと強くなりたいと考えているのならもっと色んな戦い方を身につけた方が絶対にいいです。そうすることで初めて見えてくるものもありますしね」
「……ナイトさん」
刹那はナイトの意見を踏まえて考えにふける。確かに正々堂々と戦えるのは強い者の特権だ。弱者が手段を選んでなんかいたらそれこそ勝てる戦いすらも逃してしまいかねない。今回のような失うもののない模擬戦であればそれでもいいかもしれない。だけど、これがもしも大切な人の命を賭けた戦いであれば――
「わかりました。私なりにやってみます」
「はい、頑張ってください」
正々堂々戦った上で勝利したいという意地を通したせいで木乃香が死んでしまうシーンを想像してしまった刹那はブンブンと頭を振って脳内の想像をかき消し、ナイトのアドバイスを素直に聞き入れる。ナイトのアドバイスをすぐに還元することは難しいかもしれないが、それで自分が強くなってこのちゃんをより守れるようになるのなら色々と試してみようと心に決める刹那だった。
ナイトのアドバイスでまた一つ強くなるきっかけを手に入れたせっちゃん。
せっちゃんガンバッ。マジガンバッ。