【完結】勇者刹那30   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。ようやく私が連載当初から書きたくて書きたくて仕方のなかった話に到達することができました(※だからといって執筆速度が上昇することはありませんけど)。ここまでたどり着くのに計56話。期間にして約1年3ヶ月。……実に長い道のりでしたね、ええ。



第6話 予知魔王コノハ
Tragedy(1)


 

 あれから。刹那がセラフィエントの残した手記から驚愕の事実を知ってから3日後。今まで辿ってきた道のりを引き返しコノハのいるスルク大陸のアレイヤの村へと向かうこととなった刹那は今現在、勇者城を海底で走らせていた。

 

 

 どうしてこうなったのか。話は簡単だ。勇者城はスルク大陸からコルト大陸へと渡った際に使用した船よりも遥かに大きく重いため、船に勇者城を乗せようものなら一秒も持たずに船がプチッと潰されてしまう。だからといって巨壁魔王フミダインのような巨体が売りの魔王との戦闘の可能性を考慮すると勇者城を放置して船でスルク大陸へ渡るわけにはいかない。

 

 どうしたものかと主にナイトが頭を悩ませていた時、時の女神がふと提案したのだ。「勇者城なら海の中を走らせても大丈夫なんじゃない?」と。ゆえに今、勇者城は海底を爆走している。海の中だというのに陸上の時と比べて全くスピードが落ちていない辺り、さすがは勇者城である。

 

 

「勇者城って水陸両用だったんですねぇ……」

「うんうん、物は試してみるものね。まさかこんな発見があるなんて思いもしなかったわ」

 

 ナイトは勇者城の外に広がる蒼の世界にキラキラと目を輝かせる。無理もない。水族館なんて存在しないこの世界にて、海の生物たちが織り成す幻想的な光景を初めてナイトは断面の視点から見ることができたのだから。一方の女神は「さすがは私の勇者城ね」とさりげなく勇者城の所有権は自分にあるのだと主張する。

 

 

「あ、セツナさん見てください! あの魚虹色ですよ!? 虹色の魚が沢山泳いでますよ!? 綺麗ですねー、僕あんなの生まれて初めて見ましたよ!」

「…………………あ、そうですね」

 

 勇者城のハンドルを握る刹那はナイトの興奮に満ちた声を軽く聞き流し、後からナイトが自分に向けて言葉を放ったことに気づき生返事を返す。その瞳からは生気の光が消え失せている。

 

 

「め、女神さまー。無理です。僕には無理です。今のセツナさんを元気づけるなんてとてもできませんよ」

「あらあら。何を言ってるのかしら、ナイトくん? もっと頑張りなさい。ムードをメイクしてシリアスな雰囲気を吹き飛ばせないナイトくんに一体何の意味があるの? ほら、一度の失敗でめげてないでチャレンジチャレンジ♪」

「酷い! 酷いですよ、女神さま!」

 

 ナイトと女神が刹那の見えない場所でコソコソと話し合う、もとい女神が笑顔で毒を吐きナイトが涙目になる中。刹那の頭の中はコノハのことで埋め尽くされていた。

 

 

(コノハちゃんが、コノハちゃんが魔王なわけがない。こんなの、ただの偶然だ)

 

 この世界には名字という概念がない。だからコノハちゃんもレイフィールさんもライラさんもツッキーさんもマキナさんも皆、自己紹介の際には自分の名前だけを私に伝えた。だから予知魔王コノハがコノハちゃんと同名なだけで別人の可能性は十分に考えられる。この世界での『コノハ』がよくある名前だとしたら別人の可能性は一気に跳ね上がる。だけど、それでも予知魔王コノハがコノハちゃんじゃないと断言することはできない。

 

 だからこそ。刹那は真相を確認するために、コノハが決して予知魔王コノハでないことを本人から確認するためにコノハのいるアレイヤの村へと勇者城をただ走らせる。その間、刹那は何度も何度もコノハちゃんは予知魔王コノハなんかじゃないと繰り返し自身に言い聞かせるも、刹那の胸の内にくすぶる不安の種は、胸騒ぎは一向に消えなかった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 勇者城が海底を疾走すること丸2日。アレイヤの村から西に位置する海岸までたどり着いた刹那は一人でコノハの家へと向かう。どうしてもコノハと一人で会いたかった刹那はテキトーな理由をつけてナイトに勇者城を託し、一人でコノハへ会いに行く。ただし女神は例外である。

 

 

「あ! せっちゃんだ! せっちゃーん!」

「コノハ、ちゃん……」

 

 閑静とした村の中でコノハを探し歩いていると、突如刹那の横合いからコノハが喜びに満ちあふれた笑顔を零して一目散に駆け寄ってくる。瞬間、コノハの笑みを木乃香の笑みと混同してしまった刹那の胸がドクンと高鳴る。しかし目の前のコノハちゃんがもしも魔王だったらとの考えが刹那の高鳴る胸を一気に締めつける。コノハちゃんとまた会えて嬉しいとの感情を一気に冷却する。眼前に迫るコノハから目を逸らさせる。――ゆえに。

 

 

「グフッ!?」

(あ、これデジャヴだわ)

 

 勢いよく抱きついてきたコノハという名のミサイルに反応できず思いっきり鳩尾に受けてしまった刹那はお腹を押さえてうずくまる。コノハの意図せぬ攻撃により刹那がノックアウトされるのはこれで二度目である。

 

「久しぶり、せっちゃん! 元気だった!? 怪我とかしてない!? って、見ればわかるよね。うん、無事そうでよかったよ」

 

 女神が微笑ましいものを見るような視線を刹那に注ぐ中。地にうずくまる刹那と目線を合わせるために膝をつき刹那の体をペタペタと触って刹那の全身を隈なく見たコノハは心から安堵の息を吐く。目の前のコノハちゃんは言葉遣いは違えど、性格は違えど、見た目や声、それに本質はこのちゃんそっくりだ。だからこそコノハちゃんが魔王だなんてとても思えないし、信じたくもない。

 

 

「……どうしたの、せっちゃん。元気ないよ?」

「ッ!? す、すみません、コノハちゃん。ちょっと考え事をしていました」

 

 刹那の顔を覗き込もうと鼻先が触れそうなくらい顔を近づけてきたコノハに刹那はビクッと跳び上がるとコノハを心配させまいと急ピッチで笑みを形作る。対するコノハは「そう?」と首を傾げて刹那を見上げるも、刹那の様子に関して感じる違和感を追求しないことにしたのか、「ならいいけど」と自身も立ち上がる。

 

 

 この時、刹那は決心した。こんなに自分のことを心配してくれる優しいコノハちゃんが魔王なわけがないという根拠のない自分にとって都合のいい事実を信じ込んだ上で、当初の予定通りコノハが決して予知魔王コノハでないことを直接確かめることにした。

 

 確かめることで、現在進行形で自分を苦しめているあらゆる感情から逃げ出したかった。それほどまでに、セラフィエントの手記に綴られていた真実は刹那の精神を蝕んでいた。

 

 

「コノハちゃん」

「ん? どうしたの、せっちゃん?」

「話が、大事な話があるんです。聞いてくれませんか?」

「……えーと、せっちゃん? その話って他の誰にも聞かれたくない感じの話だったりする?」

「はい。二人きりで話したいです」

「そっか。じゃあ私の家に行こうよ。そこならゆっくり話せるしね」

 

 コノハはパッと刹那の手を取って自身の家へと向かい始める。かくして。えへへと純粋な笑みを浮かべるコノハに引っ張られる形で刹那はコノハの家にお邪魔するのだった。

 

 




 陸だけでなく海底だって走れる勇者城。
 勇者城パネェ。マジパネェ。
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