【完結】勇者刹那30   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。これまでの雰囲気とは打って変わって鬱度がドンドン加速しちゃう第6話。第6話の雰囲気はずっとこんな感じなので「すごく…シリアスです」な展開に拒否反応が出ちゃうタイプな人はブラウザバック推奨です。



Tragedy(3)

 

『皆さん、こんにちは。私は予知魔王コノハ。これから本気で世界を滅ぼす者の名だよ。もしも世界の破滅を阻止したいと考えるのならアレイヤの村の西の海までおいで。ハメツの呪文が発動するまでの30秒間だけ遊んであげるから』

 

 家主のいなくなったコノハの家にて。ゴゴゴゴッと魔王城が地中から現れる際の地響きが家を浸透してから十数秒後、ただ呆然とコノハのいなくなった天井の穴を見つめるのみの刹那の脳内にコノハの声が響く。全世界に向けたコノハの世界滅亡宣言。その直後、例のごとく刹那の脳内に『30’00』と残り時間を示すタイムウォッチが表示される。

 

 しかし脳内タイムウォッチはカウントダウンを始めない。時の女神が刹那が村や町の中にいる間は外部との繋がりを断絶、もとい外の時間を止めるサービスを提供しているため、脳内タイムウォッチは残り30秒を示したまま動かない。ゆえに。今は世界の破滅までに残された時間を気にしなくていい刹那はただ呆然とする。その瞳はどんよりと濁っておりまるで焦点が定まっていない。

 

 

 何これ?

 何なの、この状況?

 どうして?

 どうしてコノハちゃんなの?

 どうしてコノハちゃんがよりによって予知魔王コノハなの?

 わからない、何だこれは?

 性質の悪い悪夢じゃないのか?

 見たくないよ、こんな夢。

 ……眠ればいいの?

 今ここで眠ってしまえば、こんなふざけた夢から逃れられる?

 そうだ、眠ってしまおう。それがいい。

 

 

 刹那はギュッと目を瞑って意識を闇に沈めようとするも現状で眠れるはずもなく、意識は逆に冴えわたるのみ。とても眠りにつけそうな状況ではない。

 

(眠れないなら、無理やり眠るしか……)

「ダメ、刹那ちゃん! それだけはやっちゃダメ!! しっかりして、これは夢じゃないわ!」

 

 眠れないのなら強制的に眠ればいい。要するに死ねばいい。どうせここは夢の中だから何も問題ない。そのような考えの元で聖刀カナメを鞘から抜き放ちそのまま腹部を貫こうとした刹那を時の女神が背中から羽交い締めにして阻止する。自身の妨害に必死に抵抗してくるだろうと想定した女神だったが、女神の予測に反して刹那の動きはピタリと止まる。

 

 刹那とてわかっている。今が夢でないことぐらい。今がどうしようもなく現実であることぐらい。でも。それでも。どうしても受け入れられなくて。受け入れたくなくて。一秒でも早く現実から逃げたくて。だけど逃げ方がわからなくて。だから一番最初に思い浮かんだ現実からの逃げ方をちょっと試そうとしただけで自殺行為に固執する理由のない刹那は女神の力が緩んだタイミングで拘束を解き、ごく自然な所作で聖刀カナメを鞘に戻す。現実からはどう足掻いたって逃げられないことをわかっているのも刹那が女神の羽交い締めに抵抗しなかった理由の一端であろう。

 

 

「……女神さま」

「……」

「私は、コノハちゃんを殺したくないです」

「……でも、殺さないと世界が破滅しちゃうわよ?」

「わかってます。わかってますよ、そんなこと……」

 

 刹那は椅子の上で体育座りになるとその中に頭をうずめる。女神の正論を聞きたくなかった刹那はそうすることで女神からの語りかけの全てをシャットダウンする。

 

 

 どうしたら……

 どうしたらいい?

 どうしたらコノハちゃんを助けられる?

 何か他に方法はないの?

 本当にハメツの呪文は魔王を殺すことでしか止められないの?

 コノハちゃんをセラフィエントが植えつけた欲求から、仕様から救い出す方法はないの?

 コノハちゃんも、世界も同時に救う方法はないの?

 何か、ないの?

 私にできること、私がすべきこと、何かないの? 何か……

 ……誰か、誰か助けて。

 誰でもいい。どんな手段だっていい。

 助けてくれるなら何でもするから。

 お願い、コノハちゃんを助けて。

 

 

『待ってるからね、せっちゃん』

 

 膝を抱えて、ふさぎ込んでからどれだけ時間が経った後か。ふと刹那の脳裏に先のコノハの言葉がフラッシュバックする。他の誰でもない、刹那に向けて放たれたその一言に触発された刹那はゆらりと幽鬼のごとく立ち上がる。

 

 

「せ、刹那ちゃん?」

「……行きましょう、女神さま。コノハちゃんが待っています」

「う、うん。そうね」

 

 まるで死人のような形相の刹那の放つ凍てついた声に女神が軽くビクッと肩を震わせる中、刹那はフラフラとした足取りでコノハの家を出る。

 

 

 会おう。もう一度コノハちゃんに会おう。そうしないといつまで経っても事態は何も変わらないし、いくら村の中にいる間は外の時間が止まったままとはいえ、いつまでもコノハちゃんを待たせるのは可哀想だ。それに。もう一度コノハちゃんと会えば、何か事が好転するかもしれない。それこそ女神的超展開が待っているかもしれない。何か、何かあるはずだ。諦めるにはまだ早いはずだ。私にできること、私だからできること。きっと、何かあるはずだ。コノハちゃんだってそれを期待してるに決まってる。だから今も私を待っててくれている。『殺しに来て』なんて何かのウソだ。だから、会おう。きっと、私ならコノハちゃんも世界も救えるはずだから。

 

 刹那は自身にとって非常に都合のいい言葉を次々と自身の心に語りかけ、それらの言葉が徐々に刹那に浸透する内に足取りが少しずつ確かなものへと変わっていく。かくして、ほんの少しだけだが自力で精神を立て直し瞳にわずかながら光を取り戻した刹那はコノハが待っているであろう西の海に位置する魔王城へと向かうのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 その後。刹那がアレイヤの村を出た辺りで女神は例のごとく超速レベルアップができるよう刹那のタイムストリームを弄った。しかし刹那はモンスターを一匹も狩らなかった。モンスターを倒せば倒すほどに一時的に化け物染みた身体能力を入手できるという、超速レベルアップの恩恵。しかしその恩恵を享受することが、モンスターを積極的に倒していくことがまるでコノハを安全確実に殺すための準備に思えたためにモンスター退治に拒否反応が出たのだ。

 

 そうして。時折視界に入るモンスターの存在など歯牙にもかけずに氣を運用した移動方法であっという間に魔王城へと到着し聖刀カナメで魔王城の扉を斬り破った刹那の視界に映ったのは、血に赤く染まった状態で倒れる十数人の人間とその屍の上に座るコノハの姿だった。当のコノハはつまらなそうに屍を見つめるのみだったが、刹那の姿を捉えると一転。パァァと明るい表情を見せる。

 

 

「あ、せっちゃん!」

「コノハ、ちゃん……? こ、これ……」

「あ、これ? 最近私たち魔王が巷を騒がせてるからってことで討伐のために国から派遣された騎士団の人たちみたいだよ。聞いたことあるでしょ? 疾風の騎士団長:ファイナスさん。大層な二つ名が付けられてる人が率いてる騎士団だからちょっぴり期待したんだけど……全然大したことなかった。やっぱりニンゲンなんて下等生物に魔王と同等の力を期待する方が間違ってたのかな? アハハッ」

 

 いつものように空気を読んだ女神が一時的に時間を止めている中。コノハは死体の一つをグリグリと踏みつける。既に原形をとどめなくなってくる死体の顔を踏みつけては心底楽しそうにニタァと口角を吊り上げる。

 

 

「あ、もちろんせっちゃんは別だよ。せっちゃんは私より上の序列の魔王をたくさん殺してきたんだもん。きっとせっちゃんはこんな雑魚で生きる価値のないニンゲンなんかより遥かに高尚な種族なんだろうね。案外私と同類だったりして」

「コノハ、ちゃん……」

 

 コノハは死体の一つの腹部に刺さっていた槍を抜き取ると返り血のついた顔で刹那にニコリと笑いかける。普段の優しいコノハであれば絶対にやらない言動を目の当たりにして、返り血に濡れたコノハを目の当たりにして、刹那は認識させられる。

 

 目の前のコノハはもう刹那の知る『コノハ』ではなく、身も心も予知魔王コノハに成り果てていると。自分のことを『せっちゃん』と呼んでいることから『コノハ』としての記憶は残っているのだろうが、『コノハ』の人格が『予知魔王コノハ』へと書き換えられていると。

 

 

「とっても強いせっちゃんなら私を楽しませてくれるよね? 期待してるからね、せっちゃん♪」

 

 コノハは刹那に見せつけるように鼻歌まじりに槍をクルクル振り回すと、二対の白い蝶の羽をはためかせて刹那へと一気に接敵する。

 

 かくして。コノハを傷つける覚悟などまるでできていない刹那と世界を破滅させたいとの欲求に呑まれ変貌したコノハ、もとい予知魔王コノハとの戦いが幕を開けるのだった。

 

 




 コノハちゃんとの戦闘回避不可能っぽいせっちゃん。
 せっちゃんガンバッ。マジガンバッ。
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