【完結】勇者刹那30   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。さて、相も変わらず鬱展開。しかし今回以上に鬱な展開は今後ないかと思われますのでご安心ください。



Tragedy(5)

 

 

 ――そして。鮮血が飛び散った。

 

 

 刹那は呆然とそれを見ていた。背中を逆袈裟にバッサリ斬られ傷口から勢いよく血を噴出させる予知魔王コノハを刹那は見開かれたままの目で見ていた。

 

 

 ――今、一体何が起きた?

 ――今、私はナニヲヤッタ?

 

 

 刹那は頭がロクに回らないまま、それでも現状把握に努める。するとついさっきまで床に倒れ伏していたはずの自身が翼をバサバサとさせて滞空していることに気づいた。そして、右手には血に濡れた聖刀カナメ。眼前には自身の斬撃をモロに喰らったらしいコノハちゃんの姿。

 

 どうやら刹那はコノハの槍で頭を貫かれる直前で背中の翼を使って無理やり体を起こしつつ攻撃を回避。そして回避した勢いを利用してコノハの背後へと回りありったけの氣を込めた上での渾身の一撃をコノハに浴びせたようだった。

 

 

「カフッ」

 

 と、ここで刹那の一刀をまともに喰らったコノハが血の塊を吐き、二対の白い蝶の羽が虚しく揺れるとともにそのままドサリと床に倒れた。

 

「コ、コノハちゃんッ!」

 

 手からスルリと滑り落ちた聖刀カナメをそのままに、目の前のコノハが予知魔王コノハとして刹那を死に至らしめる可能性など知ったことかと言わんばかりに、刹那は翼をはためかせてコノハの元へと舞い降りその体を抱き寄せる。コノハの血で自分の服が汚れることなど気にも留めずにコノハを見やる刹那の顔はこれ以上ないほどに蒼白だった。

 

 

「なんで……」

 

 刹那の口からふと疑問の言葉が零れる。無理もない。何せ今まで刹那が戦った人造魔王はどれもたった一度の斬撃程度で死ぬほどに脆弱ではなかったのだから。

 

『アハハ……私は序列7位の最弱魔王で、人並みの頑丈さだからね。たった一回斬られただけでも致命傷になっちゃうんだ』

 

 なんで。どうして。刹那の頭の中を疑問がグルグル駆け巡る中、刹那の脳内に刹那の疑問を正確に汲み取ったらしいコノハの声が直接届けられる。ハッと刹那が改めてコノハの顔を見ると、優しさに満ちた表情で刹那を見つめるコノハの双眸と目が合った。

 

「コノハちゃん!? まさか、正気に――」

『うん、そうみたい。世界を破滅させたいって欲求に呑まれたらもう二度と戻れないって思ってたのに……なんでかな?』

 

 刹那の問いにコノハは弱々しくうなずき、続いて首を傾げる。もしかしたら特別な力の宿る聖刀カナメのおかげで魔王と化したコノハを元の状態にできたのかもしれなかったが、刹那にはそんなことなどどうでもよかった。

 

「……」

 

 欲求に呑み込まれ予知魔王コノハと化した時のような言動を見せず、あくまで刹那のよく知るコノハと同様の言動を見せるコノハを見て。刹那の斬撃のせいでもはや口で話す力すら残っておらず、そのために刹那の頭の中に直接言葉を届けているらしいコノハを見て。自分はなんてことをしでかしてしまったんだとの思いが刹那の心に重くのしかかる。どう見てももう助かりそうになさそうなコノハを前に刹那の思考回路はグチャグチャにかき乱される。

 

 

「ッ!? そうだッ、薬草! これがあれば――」

『ううん、せっちゃん。それを食べても私の怪我はどうにもならないよ。食べ物で回復するのは人間だけ。私は正気に戻れたけど、まだ体は魔王のままだからね』

「そん、な……」

『せっちゃん。お願い、自分を責めないで。これは私がダメだったせい。私が欲求に耐えられなかったせい。せっちゃんは何も悪くないよ』

「……」

 

 コノハは震える手で刹那の頬に触れ、自責の念に駆られる刹那に自分を責めないようにお願いをする。しかし刹那はコノハの言葉を拒絶するように、あくまで悪いのは自分なんだとの考えを強調するようにフルフルと首を振る。

 

 

『ごめんね、せっちゃん。あの時、せっちゃんは私を助けてくれた。だから私もいつか恩返ししたいって、いつかせっちゃんが困った時に手を差し伸べたいって思ってたのに、辛い思いさせちゃったね。結局恩を仇で返すような真似しちゃったね。ごめんね、ごめんね、せっちゃん。バカな私で、ごめんね』

「……コノハちゃん」

『今、私は凄く幸せだよ。せっちゃんのおかげで、綺麗な世界を壊さずに済んだ。どうしてかわからないけど、正気を取り戻せた。最後にせっちゃんとこうして話ができた。……私は、本当に幸せ者だよ。ありがとう、せっちゃん』

 

 と、ここまで自身の心情を刹那に伝えたコノハはふと刹那の手を取って、その上に指輪を乗せる。中心に大きめの金色の宝石がつけられているプラチナ製のそれは刹那にとって酷く見覚えのある指輪――光麓の指輪――だった。

 

 

「これ、あの時の――」

『うん。もう私は死んじゃうから、あげる』

 

 コノハは無理を通して少しだけ体を起こして指輪をつけたチェーンを刹那の首に巻きつけると『うん。似合ってるよ、せっちゃん。凄く似合ってる』と微笑みかける。と、ここでコノハは刹那から視点をズラして虚空を見やる。時の女神がふわふわ浮いている位置へと目線を動かす。

 

 

『貴女もありがとね、女神像の人』

「んー? 何のことかなぁ? てか、見えてたんだね、私のこと」

『うん。でも他の人は見えてないみたいだったから私も見えてないフリをしてたんだ』

「なるほどなるほど。あ、それと女神像の人って言い方はやめてほしいな。私のことは時の女神さまでお願い。で、なんでコノハちゃんは私に感謝してるのかな? 私、別にコノハちゃんの好感度を上げるようなことをした覚えなんてないわよ?」

『私の最期の時間を延ばしてくれてるの、時の女神さまだよね? だって魔王は致死量の攻撃を受けたらすぐに消滅する仕様だし』

「……ま、延ばすってよりはこの魔王城の時間の流れをやたらゆっくーりにしてるって言った方が正確だけどね」

『……最後にせっちゃんと話す機会をくれて、ありがとう』

「どういたしまして。でもどうせ感謝するなら何か金目のモノくれないかな?」

『金目のモノ、かぁ。う~ん……それなら私の家を全部売り払ってお金にするのはどう?』

「その話乗った!」

 

 目の前で一人の少女の命が消えてなくなろうとしている状況下においても決してブレることなくお金に執着する女神。女神にしてはあまりに現金な態度にコノハは思わず苦笑を零し、コノハと女神との会話など全く耳に入っていない刹那へと顔を向ける。

 

 

『時の女神さまが頑張ってくれてるけど、そろそろ時間みたいだね』

「……ッ」

『ありがとう、せっちゃん。大好きだよ』

「ッ! コノハちゃん!」

 

 徐々に自身の体が光の粒子へと変わっていく様子を確認したコノハは刹那に満面の笑みを浮かべる。そして純粋な笑みを見せたのを最後にコノハは消滅した。同時にコノハの服も、刹那の服や床に染みついていたコノハの血も、刹那が感じていたコノハの体温さえも消え去った。残ったのはコノハが刹那に渡した指輪のみ。

 

 かくして。予知魔王コノハは消滅し、ハメツの呪文は解除された。人々の命を脅かす脅威は消え去り、世界は救われた。残り時間『01’07』の出来事であった。

 

 

 

 

 

「あ」

 

 コノハが消滅してなおコノハを抱き寄せる体勢のままな刹那の口から声が出る。それは今にも消え入りそうなほどに小さな声だったが、確かに大気を震わす声だった。

 

「ああ――」

 

 刹那は思い知らされていた。今この瞬間においてコノハは消滅し、コノハがここにいたという証左は今現在刹那の首にチェーンで提げられてある指輪のみだということを。今後、コノハに二度と会えないということを。そのような現実を導いたのは紛れもない自分自身だということを。

 

 

 

 

 

「――ぁぁぁああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 刹那は絶叫した。

 

 

 

 

 

 




 近衛木乃香とそっくりさんなコノハちゃんを殺しちゃったせっちゃん。
 心中お察しします。……ま、この作品において最も書きたかったシーンといっても過言ではない部分をようやく執筆し終えたので私的にはこれまでにない充足感を抱いてたりするんですけどね。

Q.予知魔王コノハはせっちゃんの斬撃を予知していたはずなのにどうしてせっちゃんの攻撃を喰らっちゃったんですか? ご都合主義ですか?
A.せっちゃんが無意識とはいえ本気の本気で斬りかかったのと、予知魔王コノハの中に未だ残っていたコノハちゃんの自我の『せっちゃんを殺したくない』という強い思いが予知魔王コノハの回避行動をほんの一瞬だけ妨害したためです。まぁご都合主義ですね、ええ。
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