どうも、ふぁもにかです。今回からはしばらくせっちゃん救済回です。
かなり文字数が少ないですが、キリの良さ的にこれで勘弁してくださいませ。
盲目の少女、クゥは決めていた。
時の女神から刹那という人の心を動かすよう頼まれた時、既に歌う曲を決めていた。
それは、クゥが粗暴で、唯我独尊で、しかし実は心根は優しい青年:ユウジャとの旅の中で綴った歌詞を元に組み上げた『時の歌』。
それは、かつて女神が『運命』の仕業で闇堕ちした際に、女神を救うために歌った歌。
さすがにあの時のように自分の命を賭してまで歌う気はない。
けれど、一度は消滅した自分を蘇られてくれた時の女神さまのお願いを叶えるため、クゥは歌族の誇りを胸に歌い始める。
自分の歌が、きっと刹那の心を震わせると信じて。
――『遥かな空間へ』。
静謐さと切なさと、安らぎと悲しさ、そして慈しみと荘厳さをも孕んだ歌。
歌族であるクゥの奏でる歌は辺り一帯に響き渡り、自然の中に消えていく。
自然に伝播し、溶け込んでいくクゥの歌は。清涼な声質で奏でられるクゥの歌は。
「……」
「~~♪」
「…………」
「~~~~♪」
「…………………?」
はたして、刹那の心に届いた。
◇◇◇
(なに、これ)
すっかり何も感じなくなったはずの心に染み渡るように聞こえてくる歌に、膝を抱えていた刹那はわずかに顔を上げる。力ない動作で辺りを見渡してみるも、視界に映るのはただ闇だけだ。
(なに、なんなの?)
何も見えないし、何も聞こえない。そのはずなのに途切れ途切れに聞こえてくる歌。
刹那は困惑する。闇しか見えなかった世界が徐々に灰色に移り変わっていくことに。冷たかった世界がほんのり温かみを持ち始めていることに。歌になぜか酷く動揺させられている自分に。
わからない。何がどうなっているのか。わからないのが怖くて、震えが止まらない。
なのに。それなのに。
(涙が、止まらない)
刹那の頬を伝う、一筋の涙。いくら服で拭っても止まる気配はない。それどころか、ボロボロと止めどなく涙があふれ出てくる始末だ。
(なんで、なんで。どうして、こんな……)
上手く機能してくれない頭が疑問の声を上げ続ける間も、刹那はわけもわからず涙を流し続ける。と、ここで。刹那は見渡す限りの灰色の世界にポツンと、誰かがいることに気づいた。砂浜に膝をつき、両手を組んで祈るように歌っていた少女は刹那の視線に気づき、顔を上げる。
「こんばんは」
「あ、なたは……?」
「ただの通りすがりの歌族の者です。傷ついた貴女に、私の歌を聞いてもらいたくて」
「うた……」
少女は刹那の問いに答えながらも途切れることなく歌を歌い続ける。歌を歌いながら話すという、器用極まりないことを平然とやってのけている少女に刹那が内心で驚いていると、少女がおもむろに刹那の両手を掴んできた。
「私は未熟ですから、貴女の今の気持ちを正確に察することはできません。……ですが、感情を溜めこんでしまってはいけません。たまには吐き出さないと、手遅れになってしまいます。貴女は壊れてしまうには、あまりに若すぎます」
「……ぇ?」
少女は刹那の心に直接語りかけるように話し、ふわりと刹那を優しく抱きしめた。抵抗しない刹那を前に、少女は自身の心音を聞かせるように刹那を抱きとめる。
「だから今は、ここで泣きましょう。ここにいるのは貴女の知らないただの他人、気にすることはありません。私に全てを委ねてください」
少女は刹那の漆黒の髪をゆったりと撫でながら、話す。少女の声は温かくて。歌も温かくて。人肌も温かくて。優しさも温かくて。表情も温かくて。ただでさえあふれる涙を止められない状態だった刹那は、少女の無償の温かさに触れた刹那は、感情を爆発させた。
「ぅあ――」
刹那は少女にしがみつき、泣いた。泣いて、泣いて、とにかく泣いた。
少女の服が刹那の涙でグシャグシャになっても構わずに、泣きまくった。
体の中の水分がなくなってしまうんじゃないかと少女が疑問を抱くほどに、泣いた。
刹那が大好きで、何に代えても守り抜きたい近衛木乃香。その木乃香とそっくりな容姿をした
この時。刹那の世界は、灰色だった世界は、正常な色を取り戻した。
そして。この時初めて、刹那はコノハを自分が殺したという事実と正面から向き合うことができたのだった。
『遥かな空間へ』は勇者30の中でもトップクラスの名曲ですので、聴いてみるのをオススメします。カサブランカもいいですけどね。