【完結】勇者刹那30   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。今回は女神さまの本領発揮。女神さまだってちゃんと女神やるときはやるんだってことが今回でよくわかるかと思いますね、ええ。



Awakening(4)

 

「上手く生きましたよ、女神さま」

「ナイスよ、クゥちゃん。やっぱりナイトくんとは大違いね。さ、あとは私に任せて」

「はい」

 

 刹那がクゥの胸の中でただひたすら号泣し、それが落ち着いた頃。刹那&クゥの元へツツゥと近づいてくる時の女神に、クゥは歌を歌うのを止めてにこやかな笑みを浮かべる。女神よりも女神らしい笑みを見せるクゥに微笑み返した女神は、未だクゥの両腕に抱かれたままの刹那の眼前へとふわふわ浮遊する。

 

「刹那ちゃん、もう大丈夫?」

「……はい、何とか」

 

 クゥに抱きしめられている様を女神に見られていることが何だか恥ずかしくなった刹那は一言入れてクゥから離れる。そして。刹那はポツリポツリと己の心情を口にし始めた。

 

 

「……女神さま。私は弱いです。無力です。どんなに頑張っても、努力しても、守りたい人を守れません。大切な友達一人守れません。いつだって、どんなに手を伸ばしても私の手からは滑り落ちてしまいます」

 

 コノハの殺害。いくら自分の命が危うかったとはいえ絶対にやってはいけないことをしでかしてしまった刹那は蚊の鳴くような声で己の弱さを嘆く。それを契機に、刹那はゆっくりと内に秘めていた思いを吐き出していく。

 

 

 正直、私は強くなったつもりだった。いや、実質私は強くなっただろう。強大な力を持つ魔王との度重なる戦い。未知のモンスターとの戦い。ナイトさんとの模擬戦。己を高めるための自主練。レイフィールさんがくれたリミッターのオンオフ機能。麻帆良とは全く異質の世界で生きる内に、私は強くなった。経験を積んで、鍛錬を重ねて、私は確かに強くなった。二人掛かりとはいえ、ドラゴンを無傷で倒せるぐらいには強くなった。

 

 でも。あの時。溺れていたこのちゃんを助けたのは私じゃない。このちゃんを狙う輩を排除するために夜の麻帆良を奔走していたのは私だけじゃない。修学旅行の時、関西呪術協会の手の者にいいように利用されかけたこのちゃんを救えたのは、他ならぬネギ先生を始めとする皆の協力のおかげだ。今まで人造魔王を倒してこれたのは、超速レベルアップを私に施し時間を巻き戻してくれる女神さまがいたからだ。

 

 所詮、私は一人じゃ何も守れない。大切な友達一人さえ守れない。私は弱い。私は無力だ。そして、無力は罪だ。重罪だ。こんなの、その辺の悪より性質が悪い。

 

 

 ネギ先生ならきっとこんなことにはならなかった。

 明日菜さんならこうはならなかった。

 龍宮ならこんな結果にはならなかった。

 エヴァンジェリンさんなら、詠春さんなら、高畑先生なら……私以外なら、こんなことにはならなかった。他の皆なら、それぞれのやり方でコノハちゃんを救うことができたはずだ。

 コノハちゃんを救えなかったのは、コノハちゃんを救おうとしたのが私だったからだ。

 私が、どこまでも無力だからだ。

 無力なくせに、私がコノハちゃんを救おうと出しゃばったからだ。

 

 私の、せい。全部全部、私のせい。ただそれだけの話だったのだ。

 人を救おうとして、結局救えない。

 こんなの、救われなかった方からしたらたまったものではないだろう。

 どうせ救われないのなら、中途半端に希望をチラつかせられる方が迷惑に決まってる。

 きっと、コノハちゃんはこんな私に失望したはずだ。

 

 

「なんで生きてるんでしょうか、私。大切な人を守れない私に、生きる価値なんてないのに……」

 

 闇色の鈍重なオーラを纏い、どこまでもネガティブ思考に陥っていく刹那に、女神はあっけらかんとした口調で「んー。それ、ホントにそうかなぁ?」と問いを投げかける。そのあまりに空気を読まない声音に刹那はつい「え?」と疑問の声を返す。

 

「少なくとも、刹那ちゃんはコノハちゃんの心を救ったでしょ? だからあの子は最期に笑顔でいられた。死ぬ間際だったのに、あんなに純粋に笑っていられた。そうよね?」

「……心を救った? ハハッ、それが何だっていうんですか。命を守れなきゃ、意味なんてありませんよ。死んだら、死んでしまったら、それで全部おしまいなんです」

「……ねぇ刹那ちゃん。一つ聞かせてもらうけど、貴女が守りたいのって何? 貴女の言う大切な人が生きてさえいれば、心はどうでもいいの? 例え地下室や牢屋に閉じ込めてでも、大切な人の命さえ守り抜けたら後はもうどうでもいいの? だったらそれはただの保身(エゴ)だよ、刹那ちゃん。自分の心を守るために大切な人に生きてほしいだけで、大切な人自身の考えになんてこれっぽっちも目を向けてない。それはちょーっと性質悪いんじゃないかしら、刹那ちゃん?」

「ッ……」

 

 刹那の投げやりな物言いに少々頭にきた女神は、ギンと刹那を睨み、しかしあくまで声に怒気を込めずに淡々と言葉を畳みかける。一方、女神の指摘にまるで心を鈍器で殴られたかのような強烈な衝撃を受けた刹那は反論を挟めず、ただ閉口する。

 

「刹那ちゃん。貴女は所詮、一生物に過ぎないわ。例え翼があっても、人並み外れた力があっても、できることには限りがある。時の女神な私にだってできないことはいっぱいあるもの。それくらいは理解してるわよね? ……でも、それでも刹那ちゃんは頑張ったんでしょ? 自分にできることを精一杯やって、コノハちゃんを救おうとして、そして最期の最期にコノハちゃんを正気に戻した。笑顔を取り戻した。その行いに、意味がないわけないわ」

「……」

「もう一度聞くけど……刹那ちゃん。貴女は一体、何を守りたいの?」

 

 自分が何を守りたいのか。女神からの問いに刹那はつい反射的に「大切な人を守りたい」と答えようとして、喉まで出かかった言葉を寸での所で中断する。

 

 違う。そうだ、違うんだ。私は、大切な人(このちゃん)にただ笑っていてほしいんだ。幸せでいてほしいんだ。自身に襲い来る脅威のことなんか気にせずに、自分を脅かす存在に怯えることなく笑っていてほしいんだ。何気ない日常を楽しんでほしいんだ。何でもない毎日を生きてほしいんだ。当たり前の日々を幸せに暮らしてほしいんだ。

 

 

 刹那は一旦目をつむり、自分の本音を簡潔に表現できる言葉を探す。そして、一言。「私は、大切な人の『幸せ』を守りたいです」と、女神に告げた。

 

 そう、そうだ。私はただ、大切な人が幸せに生きるための手助けがしたかっただけなんだ。私の大切な人にだけは何が何でも辛い思いをさせたくなかったんだ。大切な人の笑顔が一瞬でも長く続くように頑張りたかったんだ。たった、それだけのことだったんだ。

 

 自分の本当の気持ちに気づいた刹那は、今の今までこんな簡単なことにも気づけなかったのかと思わず苦笑する。そして、気づけないままただ盲目に自分が大切だと思う人の命を守ろうと固執していた少し前までの自分に軽く戦慄した。一方、刹那の答えに満足した女神は怒りの眼差しで刹那を射抜くのをやめて、笑みを零す。

 

 

「ふふ、『大切な人の幸せを守りたい』か。なら、実際にコノハちゃんの幸せは守られたでしょ? あの子は刹那ちゃんと会って、話して、笑えたんだから。刹那ちゃんと打ち解けて、『ちゃん』付けで呼び合える仲になって、海で一緒に遊べたんだから。本当なら遅かれ早かれ人造魔王として欲求のままに世界を滅ぼすという絶望的な未来しかなかったコノハちゃんにとって、ある日偶然出会った刹那ちゃんの存在がどれだけ救いだったか、考えるまでもないでしょ?」

「でも……そんなの、ほんの一日だけじゃないですか」

「時間じゃないよ。こういうのは時間じゃないんだよ、刹那ちゃん。コノハちゃんには確かに幸せだった瞬間があって、最期にコノハちゃんはそれを思い出すことができた。その結果、死に恐怖することなく、安らかな死を迎えることができた。勇者に倒される邪悪な人造魔王でなく、一人の人間としての死を迎えられた。決してベストな結果じゃないけれど、それは素晴らしい結末なのよ。刹那ちゃんにとっては悲劇でも、コノハちゃんにとってはハッピーエンドだったのよ、あれは」

「……そう、なんでしょうか」

「もちろん。貴女はちゃんと守ったわよ。大切な人の笑顔を。幸せを。だから――刹那ちゃんは無力じゃない。よくやったわ。この結果は、ただ力があれば、強ければ手にできるようなそう単純なものじゃない。刹那ちゃんみたいに優しくて、自分の大切な人のために死力を尽くせる人にしかできない特別なことなのよ」

「……そっか。私は、コノハちゃんの幸せを守れたんですね。良かった……」

 

 女神からの慈愛に満ちた言葉に、刹那は自然と笑みを浮かべる。自分の行為が決して無意味でなく、コノハをちゃんと守れていたことに心から安堵の声を漏らす。今の刹那にはもう、ネガティブな考えなど欠片も存在しなかった。

 

 

「ええ。だから刹那ちゃん。もっと誇りを持ちなさい。自信をもって前を見据えなさい。貴女はね、己の意思に反して世界を破滅させるはずだったコノハちゃんの心を救い、幸せを守った立派な勇者なのよ? コノハちゃんも、きっとそれを望んでるわ」

「……ッ。そう、ですね。コノハちゃんなら、きっと――」

 

 刹那は女神の発言に同調する。コノハのいない地上から、コノハがいるであろう天空を見上げて刹那は同意する。その時、刹那の頬を涙が伝った。一度は止まったはずの涙がまたも刹那の漆黒の瞳からあふれ出してきた。

 

 だが、今度は刹那は涙を拭うようなことはしなかった。ただあるがまま、コノハの幸せを守れてよかったという気持ちと、コノハがいなくなって悲しいとの気持ちがない交ぜになった結果現れた涙を刹那は受け入れ続けた。

 

 

 刹那の流す涙は頬を伝って、ポツポツと砂浜へと落ちていく。

 その内の一滴の涙が聖刀カナメに落ちた時。

 

 

 ――唐突に、聖刀カナメが金色の光を放ち始めた。

 

 




 女神さまのお言葉で元気になったせっちゃん。いやぁー、良かった良かった。
 しかしまだこの幕間はもうちょっとだけ続くんじゃよ。
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