どうも、ふぁもにかです。ついにこの勇者刹那30も最終話、クライマックス突入です。起承転結で言うなら『結』ですかね。私個人の目標としては、もうとにかく燃える展開にしたいですね。あくまで願望ですけど。……萌えるじゃないですよ?
Union(1)
刹那が真の勇者として覚醒した一件の翌日。刹那は勇者城でスルク大陸を南下していた。相変わらずいつどこで魔王がハメツの呪文を唱えるかわからないため、行き当たりばったりの旅である。
(前はここで北へ行って、そこで惰眠魔王と戦ったんですよね。懐かしいなぁ)
刹那はまだこの異世界に来たばかりで、美味しい食べ物を食べたら全快するといったここでの常識に馴染みきれていなかった頃の自分を思い出してスッと笑みを浮かべる。原因不明のままこの異世界で目覚めてからまだ1か月も経っていないというのに、残虐魔王や惰眠魔王と戦っていた頃が一昔前のように感じられる今日の刹那である。
「……それにしても、残す人造魔王もあと一体! ついにここまで来ましたね、セツナさん!」
「え、あ。そういえばそうでしたね」
「あらあら? 忘れてたの、刹那ちゃん?」
「まぁ、コノハちゃんの一件が一件でしたからね。……ところで、女神さま。今、どれくらいタイムストリームが溜まっているんですか?」
「結構溜まってるわよ。多分今のままでも刹那ちゃんを元の世界に帰せるとは思うんだけど、もしも失敗して今まで溜めてきたタイムストリームを全部失っちゃったらもう目も当てられないし、ここは念には念を入れて最後の人造魔王も倒す方針でいきましょ♪」
「わかりました。まぁどっちにしろ、最後の人造魔王を倒してから帰るつもりでしたけどね」
「ふふふ、いかにも真の勇者っぽい発言ね。随分板についてきたじゃな~い」
「カッコいいです! 今のセツナさん、凄くカッコいいですよ! 僕が今まで見てきたどの勇者よりもカッコいいです!」
「か、からかわないでくださいよ、二人とも」
刹那は随分と手慣れた操作で勇者城の進行を妨げる岩を難なく避けつつ、時の女神やナイトとの会話に興じる。と、ここで。刹那はふと思った。もしも自分が麻帆良に帰ったら、もう目の前の二人とは二度と会えないかもしれないと。その他にも、レイフィールさん、ライラさん、ツッキーさん、マキナさんとももう一生会えなくなるかもしれないと。
(……寂しい、ですね)
麻帆良とは違う異世界で知り合った人たちとの別れの時が着々と近づいている。そのことに思い至った刹那の表情は自然と暗くなる。さっきまでにこやかな雰囲気だった刹那の様子が一変したことにナイトが「セツナさん、どうかしましたか?」と尋ねようとした、その時。ガクンと、唐突に勇者城に衝撃が走った。
「ふぎゃ!?」
結果、勇者城のハンドルをしっかり握っていた刹那とふわふわ宙に浮いていた女神以外、つまりナイトがバランスを崩し顔面から床に倒れ込んだ。ご愁傷さまである。
「い、いたたたた……今のは一体?」
「す、すみません、ナイトさん。ちゃんと障害物は避けてたはずなんですが……あ、あれ?」
「刹那ちゃん?」
「いえ、なぜか勇者城が全然動いてくれなくて。……ちょっと外行って様子を見てきます」
刹那は全て言い終えるや否や、すぐさま勇者城の窓枠から遥か50メートル下降の地面へと飛び降り、勇者城へと目を向け――目を見開いて絶句した。
「な、何よこれぇ!?」
「何ですか、これ!?」
刹那の後を追うようにしてふわふわ浮遊で刹那の元までやってきた女神や駆け足で勇者城の正規ルートから降りてきたナイトもまさかの事態に思わず驚愕の声を上げる。無理もない。なぜなら、蛍光ピンク色の、見るからにおぞましい色をしたぶっとい触手十数本が勇者城をがんじがらめに拘束していたのだから。
どこから湧いたのかわからないその触手は表面が妙にテカっている&時折うねうねと身じろぎをする&ビグビグと電気ショックを受けたかのように痙攣するため気持ち悪さが凄まじい。
ピンク触手へのあまりの嫌悪感から、刹那はたまらず聖刀カナメで手近の触手一本を斬ってみるも、斬った触手の断面から新たな触手がニョキニョキ生えてきて、勇者城にビチャリと絡みついた。そのあんまりにも気持ち悪い効果音に背後の女神とナイトが「ヒィ!?」とそろって情けない悲鳴を上げる。刹那も悲鳴を上げたい気分だったがギリギリの所でどうにか留まった。
「……これ、どうしましょう?」
「この様子じゃ勇者城は動かせなさそうね。ここからは歩きで移動しましょ。うん、それがいいわ」
気持ち悪さMAXな触手の前に固まる刹那、女神、ナイト。しかしいつまでも固まっていては何も始まらないと刹那が触手への対応策という話題を振ったのをきっかけに、刹那たち一行は一旦勇者城をその場に捨て置くことに決めた。皆、一刻も早くあの生理的悪寒をそそってくる触手から離れたかったが故の選択である。
(しかし、あの気持ち悪い触手は一体……)
気色悪いことこの上ない触手のショックで誰もが会話を差し控える中。刹那はふと、考えるのもおぞましい先の触手についての疑問を脳裏に浮かべる。というのも、勇者城が拘束されたのは見晴らしのいい高台で、周囲に植物など存在しない荒地だったからだ。
これが密林で勇者城が拘束されたのならまだ未知の植物の仕業だと納得できなくもない。だが、周囲に植物の気配のなかったあの場所で不意に触手に襲われた。それが意味する所は、つまり。
(あの触手は誰かの仕掛けた罠? だとしたら、なんて悪趣味な――ッ!?)
刹那が勇者城の拘束を誰かの意図したものではないかとの考えに至った時。唐突にゴゴゴゴゴゴゴッという尋常でない地響きとともに刹那たち一行の遥か前方の大地が真っ二つに割れ、そこからズズズッと例に漏れず毒々しい赤と紫を基調にした魔王城――今までの魔王城の3倍の大きさはありそうだ――がその姿を現した。
『もっしもーし! 勇者さーん、全世界の人類さーん! おっはよーございまーす! 皆はマギちゃんの声が聞こえるかにゃぁぁああああああああ!?』
直後、刹那たちの脳裏にやたらテンションの高い少女特有の声がガンガン響き渡る。ついに最後の魔王が姿を現したことを受けて、刹那たちの表情が真剣なものへと変化した。
「来ましたか、最後の人造魔王」
『っとと、気合入れ過ぎた。あ、あー。多分こんぐらいの音声で十分かな。では改めまして、おはよーございます、勇者さん、全世界の人類さん。マギちゃんは序列1位の創生魔王マギ。勇者さんのせいで最後の一人になっちゃった人造魔王だよーん! だ・か・ら。勇者さんがマギちゃんを倒せば、世界の破滅を目論む脅威は全て排除されてよかったよかったハッピーエンドって流れになるんだけど……そんな薄気味悪くて後味のゲボ悪いエンドなんてゴメン被りますでござりまするなんだよねー、個人的にさー』
魔王マギは明朗快活な口調で、どこまでもマイペースに全人類に向けてメッセージを送っていく。奇妙で奇怪なテンションで自己紹介をし、自分の気持ちを簡潔に伝えていく。
『だ・か・ら。今からマギちゃんはハメツの呪文で勇者さん並びに全世界の人類を幸せ絶頂平穏満載なほのぼのライフ一歩手前で絶望バッドエンドに突き落としちゃいます! キリッ! あ、これ決定事項だよん、変更不可不可。抵抗も無駄無駄。だってにゃあ、やっぱ下等で下劣な人類って絶望に晒された時こそ最も輝けると思うしさぁ☆ ……で、だ。そのための用意もマギちゃんはきーっちりしてきたんだよ! マギちゃんは超天才だもん! ほら!』
魔王マギは全人類を滅ぼすと朗らかな声でサラッと宣言した後、指パッチンの音を刹那たちに届ける。瞬間、魔王城のトゲのついた真っ赤な扉がギギギギッとの効果音を引き連れてゆっくりと開き、中から多種多様な大量のモンスターたちがワラワラと飛び出てきた。数える気すらなくしてしまいそうなほどのモンスターの大群は二手に分かれてゾロゾロと行軍していく。
『見よ! この王国の騎士団なんかあっという間に飲み込めそうなこの物量! 数の暴力こそ最強至高って感じするでしょ!? 勇者さんぐらい強くないとこの物量から生き残るのは無理無理無理って感じするでしょ!? てなわけで。さーて、勇者さーん? 今マギちゃんの魔王城からモンスター計10万体を放出したわけなんだけどー、今からこのモンスター連中にこの周辺にある村二つを襲わせちゃいまする! イェイ、楽しそう! こういうのって世界破滅の余興にはちょうどいいよね! ね!』
「なッ!?」
モンスターのあまりの大群具合に圧倒されていた刹那は、二軍のモンスターたちがそれぞれ向かう先にある二つの村を襲おうとしていると知らされたことで我を取り戻す。
『もちろん、勇者さんなら村を守るためにモンスター軍団と戦うよねぇ? ま・さ・かとは思うけど、村の住人を見殺しにしてマギちゃんを倒そうとしちゃうなんて、そーんな残酷で残虐で非道な真似はしないよねぇ? てなわけで、マギちゃんはここでゆーゆーと、ハメツの呪文を唱えさせてもらうにゃあ♡ 数の暴力を覆しうる勇者城が使えない状態で勇者さんがどこまで足掻くか、ワクワクが止まらなーいにゃあ! にゃははは、にゃははははははは! ま、勇者さんが己の無力を恨んだのを最後に世界が破滅するルートはもう決定事項だけどね! 大丈夫、皆で滅べば怖くないさ! イェス!』
魔王マギが己の言いたいことだけをただ刹那たちに叩きつけたのを契機に、刹那の脳内タイムウォッチが『30’00』からカウントダウンを始めていく。真の勇者として覚醒したばかりの刹那に試練の時が訪れた瞬間だった。
絶望的状況から始まるラストバトル。
せっちゃんガンバッ。マジガンバッ。