どうも、ふぁもにかです。今回は勇者刹那30の中で一番の超展開かと思われます。どうか覚悟した上で閲覧してくださいませ。
背中に二対の漆黒の翼を生やした猫女:創生魔王マギとの空中戦は、明らかに刹那の劣勢となっていた。己が創生した士気色の女神を利用して時の女神からタイムストリームを没収し、自身に取り込む形でドンドン超強化していく魔王マギ。時間経過とともに動きにキレが増していく魔王マギを相手に、刹那はただただ防戦を強いられていた。
魔王マギが次々と創生し、刹那に向けて矢継ぎ早に解き放たれる火炎、氷塊、闇槍、光矢、爆発、風刃、そして多種多様なモンスターの数々。魔王マギ自身も尋常でない速度とともに大剣を繰り出してくるため、刹那に攻撃の余裕は一切なかった。
時の女神が士気色の女神に自分のタイムストリームを奪われるのを阻止するために何やら色々試しているようだが、まるで効果がない。そのような状況下では長期戦になればなるほど時の女神のタイムストリームは奪われ、魔王マギは超強化される。それがわかっていて、しかし全然攻撃に転じることのできない現状に刹那は思わずギリッと歯噛みする。
(マズい、マズいマズいマズいマズい――)
刹那の内心は焦燥の念に満ちあふれていた。例え魔王マギと一定の距離を保ちつつふわふわ浮いているだけの士気色の女神を倒したとしても、魔王マギがまた新しい士気色の女神を創生するだろうから、そのような対策に意味がないことも刹那が焦る理由の一つだ。時間が経てば経つほど魔王マギが魔改造されて自分に勝ち目がなくなってしまうことも焦る理由の一つとして挙げられる。
しかし、刹那が内心で酷く狼狽する一番の理由は、別にあった。それは、時の女神によってこれまで刹那が倒した人造魔王たちから回収された膨大な量のタイムストリームが奪われることで、刹那が麻帆良へ帰るための手段を失うかもしれないという可能性。
魔王マギを倒せば、奪われた分のタイムストリームを取り戻せて、無事に麻帆良へ帰れるだけのエネルギーを再び確保できるかもしれない。けれど、もしも魔王マギに奪われた分のタイムストリームを取り戻せなければ、刹那は麻帆良へ帰れなくなるかもしれない。
そうなれば、膨大なタイムストリームを保有する人造魔王が魔王マギで最後である以上、人造魔王の他に膨大なタイムストリームを所持する存在を女神も刹那も知らない以上、刹那の麻帆良への帰還は叶わなくなるかもしれない。もう二度と、このちゃんに会えなくなるかもしれない。
(それだけはダメだ! 嫌だ! どうにか、早くどうにかしないとッ!)
刹那の心の奥に生じる焦り、そして恐怖。これらが刹那の動きに徐々に精彩を欠かしていく。魔王マギの猛攻を凌ぎ切れない状況を生み、刹那の体に致命的ではないにしても傷を増やしていく。少しずつ、だが確実に、刹那から勝機の芽を摘み取っていく。
(何か、何か手はないのか!? 何か、何か――)
焦燥の念に揺れながらも、刹那が魔王マギが振り下ろしてきた大剣を二刀でいなそうとした、まさにその時。突如として周囲の光景が灰色一色に染まり魔王マギの動きがピタリと止まった。
「え、え?」
「良かった、どうにか時間を止められたわね」
刹那が突然の状況の変化に適応しきれない中、刹那の前へとふわふわ移動した時の女神が荒い息を整えつつホッと胸を撫で下ろす。と、ここで。どうやら女神が自分以外のあらゆる時間を止めたんだと状況を把握した刹那に女神が「刹那ちゃん」と声をかける。それは、いつになく真剣な声色だった。
「今の状況がとってもヤバいことはわかってるわよね?」
「もちろんです。早く創生魔王を倒さないとドンドン強くなる一方ですし、私が元の世界に帰れなくなって――」
「あ、その点は心配ないわ。創生魔王を倒しさえすれば、奪われた分のタイムストリームは取り戻せるもの。問題はそこじゃない。このままだと私のタイムストリームが全て奪われてしまうことこそが問題なの」
「……女神さまのタイムストリームを全て取り込んだ魔王マギが相手では、どうあがいても勝ち目がないからですか?」
「それもあるけど……私が死ぬからよ」
「え……」
瞬間、刹那の頭は真っ白に染まった。唐突に放たれた、あまりに衝撃的な女神の発言に思わず固まる刹那だったが、すぐに我を取り戻し、すぐさま女神へと詰め寄った。
「死ぬ? 死ぬってどういうことですか、女神さま!?」
「簡単な話よ。私はタイムストリームを操る時の女神。その正体は、遥か昔に膨大なタイムストリームが一か所に集まって、それが神格化して、自我を持ったもの。つまり、私はタイムストリームそのものなの。だから、このまま創生魔王が私のタイムストリームを吸収しつくしたら、『私』の存在が崩壊して死んじゃうのよ。例えその後で創生魔王を倒したとしても、私は生き返らない」
「そんな、どうにかならないんですか!?」
「私が吸収されつくす前に創生魔王を倒さない限り、どうにもならないわね。タイムストリームの吸収を防ぐ手段を色々講じてみたけど、どれも効果なしだったしね」
「……」
「そこで、刹那ちゃんにお願いがあるの」
女神は刹那の漆黒の瞳をしっかりと見据えて、言葉を紡ぐ。いつになく柔らかな口調で、女神は刹那に語りかける。
「お願い、ですか?」
「うん。今私に残っているタイムストリームを全部刹那ちゃんに吸収してもらいたいの。あの私のコピーは私と同位体だからこそ私のタイムストリームを没収できる。だから、刹那ちゃんが私のタイムストリームを吸収すれば、あの私のコピーにタイムストリームを奪われることはなくなる。刹那ちゃん自身も私のタイムストリームを取り込んでパワーアップできる。だから――」
「――ちょっと待ってください、女神さま。今言いましたよね? 女神さまのタイムストリームが吸収されつくしたら、死ぬって」
「……」
「まさか」
「どうせ死ぬなら、あんなトチ狂った魔王なんかより刹那ちゃんの力になりたいじゃない?」
女神を構成するタイムストリームを全て吸収する。その意味する所を悟った刹那に女神はテヘッと舌を出して愉快そうに笑う。その態度に、まるで自分の命を何とも思ってなさそうな女神の挙動に、刹那の中で怒りの感情が弾けた。
「ふざけないでくださいッ! なんで、なんでもう生きることを諦めてるんですか、女神さま!? 何か、手はあるはずです! 時間はたっぷりあるんです、二人で考えれば、何か! 何か突破口が見つかるはずです! だから――!」
「悪いけど、時間はもうほとんど残されていないわ。あれを見て」
「えッ!? あれは、でもどうして……?」
怒りに身を任せて声を張り上げる刹那に女神はスッとある方向を指し示す。その方向を見やった刹那は思わず困惑した。無理もない。なぜなら、刹那と女神しか動けないはずの世界で、士気色の女神が相変わらず灰色に発光し続けていたのだから。
「あのコピーは私と同位体だから、時間を止めても普通に動けるみたい。私のタイムストリームは今も吸収され続けてる。今はまだ何とかしてるけど、このままだと私の知識や経験まで創生魔王のものになってしまう。もう時間がないわ」
「……」
「私だって色々考えたわよ。私が一旦他の時代に逃げればいいんじゃないかとか、この時間が静止した状態で刹那ちゃんが創生魔王を倒せばいいんじゃないかとかね。でも、創生魔王が私のコピーを使って停止世界にも干渉してきている以上、どの時代へ逃げたってタイムストリームの吸収からは逃れられないわ。それに、最初から私の存在を認知していたあの創生魔王が私の時間停止に対して何も対策を講じていないとはとても思えない。創生魔王を倒すには、彼女の想定を超えた行動を選ぶ必要があるってことよ」
「……」
「これが最善なのよ、刹那ちゃん。私のタイムストリームを取り込めば、刹那ちゃんはパワーアップできる。タイムストリームと一緒に私の知識や経験をも取り込めるからお金さえあれば自力で時間操作もできるようになるし、創生魔王のこれ以上のパワーアップを防げるわ。刹那ちゃん、お願い。私を吸収して。全てが、手遅れになる前に」
「……」
女神は言いたいことを全て言い終えると、話すのを止めてただ刹那を見つめる。
刹那は拒否したかった。例え勝ち目が薄くても、奇跡でも起きなければ魔王マギに勝てないのだとしても、それでも女神の死を前提とした提案を受け入れたくなかった。いくら女神の真剣なお願いでも、突っぱねたかった。女神に死んでほしくなかったからだ。
原因不明のまま異世界へと飛び、右も左もわからない刹那を救ってくれた。
真面目気質で、ふとしたことでついネガティブになる刹那を楽観的思考で救ってくれた。
いつの間にか、時の女神はこの異世界での、刹那の最も大事な精神的支柱となっていた。
だからこそ、刹那は女神のお願いを拒絶したかった。
しかし。刹那は女神のお願いを拒否できなかった。目の前の女神が、刹那に推し量ることのできないほどの強い覚悟をその紺碧の瞳に宿していたからだ。女神の強固な覚悟を崩すことはできない。本能的にそう察した刹那の口から飛び出したのは、疑問の言葉だった。
「怖く、ないんですか? 私が女神さまのタイムストリームを全て吸収したら、女神さま……死んでしまうんですよ?」
「ん、まぁね。確かに私は死ぬけれど、でも消えてなくなるわけじゃないからね。自我は失うけど、姿形は変わるけど、こうして刹那ちゃんと面と向かって言葉を交わせなくなるけど、それでも刹那ちゃんの一部として確かに生きていく。刹那ちゃんに私のタイムストリームを吸収してもらうってことは、そういうことだもの」
「女神さまが、私の一部になる」
「そーゆーこと。それに、私が命を惜しんだせいで、私の大好きなこの世界が破滅してしまう方が私は怖い。これまで色んな勇者たちが何だかんだで守り抜いてきた、この綺麗で美しい私の世界が終わってしまう方が私は怖い。だから、死への恐怖は特にないかな、うん」
女神はあくまで飄々とした態度で、ニコリと笑みを浮かべる。眼下に広がる灰色の世界を見下ろして、女神らしい慈悲に満ちた笑みを浮かべる。その純真さを前にして、神々しさを前にして――女神の意思を尊重するため、刹那は覚悟を決めた。
「……わかり、ました。女神さまのタイムストリームの吸収方法を教えてください」
「了解。といっても簡単よ。私がタイムストリームとして刹那ちゃんの体に入り込むから、刹那ちゃんはただ私を受け入れてくれればいい。自然体でOKだわ。……あ、そうそう。私の吸収にはデメリットもあるから気をつけてね」
「デメリットですか?」
「そそ。私はそもそもタイムストリームそのものだから、私を吸収すれば私の知識や経験を得られる一方で、多少私の感性に引きずられるようになるわ。具体的に言うなら、刹那ちゃんがこれまでよりちょっとだけポジティブシンキングになってお金にがめつくなっちゃうかもしれないわ。見た目も変わっちゃうかもしれないわね。不快かもしれないけど――」
「――それは、むしろ望む所です。その方が、女神さまを近くに感じることができますから。女神さまが私と共にいてくれていると実感できますから」
「……ふふふ、嬉しいこと言ってくれるじゃない♪」
刹那は思わずと言った風に笑みを零す女神を改めて凝視する。もうこうして見て、話すことのできなくなる女神の姿を脳裏にしかと焼きつけるようにして、女神を見つめる。と、その時。女神もまた刹那の顔へと視線を移したため、二人は目と目でお互いを見つめ合い、何だか急におかしくなって互いに微笑みを浮かべる。その後、二人は示し合わせたように一つうなずく。刹那が異世界に来てからというもの、文字通りいつも一緒にいた刹那と女神との別れは、それだけで十分だった。
「ありがとね、刹那ちゃん。楽しかったわ」
女神は最後に刹那にお礼の言葉を述べ、満面の笑みを見せる。その笑みに刹那が一瞬コノハを幻視する一方、女神の体は見る見るうちに光の粒子へと変化した。そして。刹那が自然体でいようと目を瞑った瞬間に、光の粒子は刹那の体へと次々と入り込んでいった。
「……ッ」
光の粒子が刹那の体に溶けていく度に、時の女神の何千年にも渡る記憶が、知識が刹那の脳内に流入してくる。刹那の常識にまるで当てはまらない女神の経験の数々が刹那の中に続々と飛び込んでくる。体に自分とは全く別の異物が入り込み、刹那と一体化する。それはあまりに異様な感覚だったが、刹那は拒否反応を示すことなくただ受け入れ続けた。自分の体に入り込んでくる時の女神と言う存在を、ただただ受け入れ続けた。
◇◇◇
一体、どれだけの時間が経っただろうか。
一秒のようにも、一分のようにも、一時間のようにも、一日のようにも、一年のようにも、刹那の時間にも感じてしまう時を経て。刹那は女神のタイムストリームを吸収し終えた。
あいかわらず時間停止された世界にて。ふと「私の世界を、よろしくね」との女神の言葉が響いたような気がして刹那はゆっくりと目を開ける。
「任せてください、女神さま。真の勇者として、絶対にこの世界を守り抜いて見せます」
刹那は自分の一部となった女神に向けて、力強い言葉を口にする。
そして。
時の女神さまを取り込み、黒髪黒眼から銀髪碧眼へとクラスチェンジしたせっちゃん。
第三次せっちゃん魔改造企画の終了をお知らせします。