どうも、ふぁもにかです。今回からエピローグ。エピローグとは一般的に本編終了の後日談を意味します。ですが、ただで終わるつもりはありません。むしろここからが個人的に本番です。さーて、もう少しだけ続くんじゃよ?
I'm here(1)
光の奔流の先。そこは豪雨だった。雨が絶え間なく降り注ぎ容赦なく刹那とナイトの体を濡らしていく。辺りを見渡すと闇、闇、闇。どうやら今は夜らしく、周囲に目を向ければ大小様々な建物の窓から光が漏れ出ていることがわかる。
刹那は当然のように各建物ごとに使われている人工光に首を傾げる。
当然だ、今まで刹那が過ごしてきた世界はファンタジーな世界。科学の産物である人工光を拝む機会など滅多になかったのだから。
(――ということは)
この時。刹那は気づく。これまで自分のいた世界にはなかった人工光が存在していることから。今は暗くて見えづらいが、それでも随分と見慣れた街並みから。刹那は気づく。自分がついに麻帆良へ帰ってこれたということに。
「ここが、セツナさんの世界……」
「はい。麻帆良です。やっと、帰ってこれたみたいですね」
ナイトがこれまでまるで見たことのない麻帆良の街並み――具体的には、洗練された四角い建物群や明かりのついた家屋――を興味深げに見つめる中。刹那は平然とナイトに言葉をかける。
麻帆良の街並み。これは刹那が今まで何度も夢見てきた光景だ。麻帆良の夢を見て、夢から覚めて、ため息をつく。それを異世界で何度繰り返してきたことか。本当なら一日でも、一秒でも早く帰りたくて、だけど中々叶わなかった麻帆良への帰還。そんな、長らく刹那が待ち望んでいた展開が今まさに到来している。なのに。
「……」
刹那は喜べない。歓喜の涙を流せない。木乃香に会えるのに。ネギに会えるのに。明日菜に会えるのに。龍宮に会えるのに。長い間会えなかった全ての人と会おうと思えば会えるようになったのに、刹那は全然喜べない。理由は簡単、刹那の心の奥底に、今の状況が都合のいい夢なのではないかとの疑念が渦巻いているからだ。
(問題は、今がいつなのか。ですね)
断続的に雷鳴が轟く中。ナイトが「凄い凄い!」とハイテンションで周囲を駆け回る中。刹那はとりあえず雨宿りのために既にシャッターの閉められた店の軒先へと移動し、思索にふける。
確かに刹那は元の世界に戻ることができた。でも、今が2003年とは限らない。刹那のいた時代とは限らない。もしかしたら過去の麻帆良へ戻っているかもしれないし、未来の麻帆良へやってきちゃったかもしれないのだ。
もしも今が過去の麻帆良なら、刹那は歴史改変を避けるために知り合いと接触しないよう気をつけないといけない。もしも今が未来の麻帆良なら知り合いに会う前にさっさと帰らない(歴史改変しない)と、刹那は神隠しからの帰還者扱いになってしまう。
(まずは今が何年かを把握するのが先ですね)
「あれ? セツナさん、ネコミミなくなってますよ?」
「え? あ! 本当ですね」
ひとまず行動指針を定めた刹那にいつの間にか近寄っていたナイトが、刹那の頭を指差す。ナイトに指差されるままに頭に手を置いた刹那は、ここでネコミミがなくなっていることに気づく。ついでに人間の耳があるべき場所に存在し、今の自分が麻帆良の制服を着ていることにも気づく。
(……これは、どういうことでしょうか?)
刹那は自身の体の唐突な変化に脳内にクエスチョンマークを浮かべる。刹那が取り込んだ時の女神の知識を総動員してもまるでわからない事象に眉を潜めて考え込む刹那。と、ここで。刹那は違和感を感知した。
「これは、結界!?」
そう。麻帆良全域に張られている結界とは別の結界が張られているのだ。性質から察するに、この結界は結界内の物音が外部に一切届かないよう遮断するもの。もしも刹那たちが偶然結界内に転移していなければ、おそらく結界の存在に気づけなかったことだろう。
「結界、ですか?」
「はい。何らかの異常事態が発生しているみたいです。気を引き締めてください、ナイトさん」
刹那はナイトに注意を呼びかけると、雨宿りを止めて夜の麻帆良を駆ける。異世界の危機を救い、元の世界へ帰還した真の勇者:桜咲刹那にどうやら休息の時は与えられないようだった。
◇◇◇
所変わって。麻帆良学園中央の野外ステージにて。
ネギ・スプリングフィールドと犬上小太郎は劣勢を強いられていた。
突如、神楽坂明日菜、綾瀬夕映、宮崎のどか、朝倉和美、近衛木乃香、古菲、那波千鶴の7名を人質とし、ネギの前に立ちはだかったヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン伯爵。上位悪魔たるヘルマンは明日菜の胸元につけたペンダントを起因として明日菜の魔法無効化能力を逆用。ネギの魔法を、小太郎の氣を封じ、終始優位に戦いを進めていた。
ネギと小太郎は二人協力してヘルマンと激戦を繰り広げた。しかし、魔法や氣を封じられていることを差し引いてもまず間違いなく実力の違うヘルマンに、二人はどうしても決定打を叩きこめない。どう足掻いても戦況を変えられない。二人はただヘルマンの拳に蹂躙されるだけだった。
(どうすれば、どうすればいい……!?)
ネギは必死に考える。ヘルマンの弾幕のごとき拳撃をさばききれなかった小太郎が腹部を殴られ派手に吹っ飛ばされるのを尻目に。使える手段をあらかた使い果たしてしまったネギは、何度もヘルマンの殴打を喰らってボロボロなネギは、それでも必死にヘルマン撃破のための策を考える。先生として生徒兼仲間を助けるために。ネギの村を壊滅に追いやった仇を倒すために。
「敵の目の前で考え事か。余裕だな、ネギ君」
「ぐッ!?」
しかし。一瞬の判断ミスが命取りな状況下で思考を巡らせていたネギはヘルマンの攻撃に対応しきれず、ヘルマンの繰り出した悪魔パンチの余波をモロに喰らって上空へと飛ばされてしまう。
「やれやれ。これで終わりか」
持っていた杖を手放してしまい、空中で自在に動けなくなったネギ。そんなネギを落胆気味に見上げて、ヘルマンはカパァと口を開く。その中から生まれる光。その光をネギは知っている。ネギの過去を知った明日菜、夕映、のどか、和美、木乃香、古菲も知っている。人を石化させる光だ。
ついさっき腹部に重い一撃を喰らった小太郎は思うように体を動かすことができず、ネギを助けられない。拘束されて身動きの取れない明日菜も、水牢に閉じ込められている夕映、のどか、和美、木乃香、古菲、千鶴(※眠ってます)もネギを助けられない。状況は明らかに詰んでいた。
そして。ついに放たれる光。皆がネギにあの石化の光を避けてくれとネギの名前を叫ぶ中。あと数瞬もあれば石化してしまう状況下で、ネギは無駄な抵抗と知りつつも、どうにかして光から逃れようと空中でもがく。
――その時。ネギは何者かに横から抱きつかれていた。
何者かがネギに抱きついたことでネギの体は光の直線状から外れ、ヘルマンの口から放たれた光はネギに当たることなく虚空で霧散する。現れるはずのない邪魔者にヘルマンが「む?」と唸る一方、ネギに抱きついた人物はネギをお姫さま抱っこにした状態でふわりと着地した。
「ふぅ。ギリギリセーフって所でしょうか? 間に合って良かったです」
ネギを石化の危機から救った張本人は背中に展開していた白い翼をしまいつつ、安堵のため息を吐く。それは、ネギにとってしばらく聞いてなかった声で。ある日忽然と姿を消してそのまま行方不明だった生徒の声で。ネギは驚愕に目を見開いた。
「大丈夫ですか、ネギ先生?」
「せ、刹那さんッ!?」
「はい。お久しぶりですね」
刹那は驚愕を顕わにするネギに微笑みで返し、眼前に悠然とたたずむヘルマンを鋭く見据える。ネギ側が苦戦を強いられていた絶望的な戦況が一変した瞬間だった。
ネギ先生のピンチに颯爽と現れたせっちゃん。
きゃー! せっちゃん、カッコいい! 愛してる!