ギルド受付役として生きていく・・・が、ブラックだ 作:パザー
とある何処かの町外れの森。
月明かりに照らされ淡く輝いているかのように神秘的な様相を呈している。
が、あって当たり前の何かが欠如している。
そんな違和感の正体は静寂。
生物の営み。木々のさざめく音。そのどれもが、欠如していた。
そしてとある開けた一角。
天然のスポットライトがまるで悲劇のヒロインを照らすように、柔らかくも冷たい光が一ヶ所をピンポイントで刺している。
まるで風景の一部のように自然に溶け込み、静かに岩の上に腰掛け、佇んでいる青年。
黒のローブを羽織り、抜き身の白刃を月光にかざしている。
「・・・・・」
無言。そして無害であるはずがこの森が静寂に包まれている理由は彼にあった。
野生の本能で生命の危機を感じた動物たちは遠くへがむしゃらに逃げ、冬眠をしていた洞穴の奥の奥へ閉じ籠り、震えている。
しかしここで静寂を破る小さな足音が響く。
ゆっくりと青年が視線を上げるとそこにはそれなりにガタイの良い黒色のタキシード、顔の半分を覆う白と黒の仮面を着た男がゆっくりと歩み寄ってきていた。
「・・・・・クソ仮面悪魔・・・」
「フハハハハ!!開口一番あんまりな挨拶であるなぁ?―――“骸王”よ?」
「ハッ・・・久々にあのヘタレを押し退けて出てきたんだが・・・一番に遭遇したのがテメェみたいなクソだったこっちの身にもなれ。消されたいか?」
「フッ。やれるものならやってみろ・・・と普段なら啖呵を切っている所だが今の貴様では余裕で残機を減らされかねな・・・おっとっと」
目にも止まらぬ一閃。地面を抉り、軌跡の上に存在するものを全て切り裂いた斬撃。
が、仮面の男に届くことは無かった。
「・・・次はタマ取る・・・さて、本題だ。何の用で来た?」
「恐いのぉ・・・全く、あの老いぼれ魔王に命じられて来たはいいが・・・・・よもや数少ない我の見通せぬ相手とは・・・目的は偵察だったのだが、偵察だけでは・・・済みそうにないであるな」
「チッ・・・腕1本・・・」
幾本もの軌跡が同時に襲いかかる。
全て避けたと思われたが何かの落ちる音が二人の間に鳴った。
地面に落ちると同時に切断された腕は土に還り、本体の方に再び腕が勢い良く生えだした。
そんな頂上現象もあの悪魔と一度手合わせしたことがある者からしたら当たり前なのだが。
「・・・騙し紅姫」
骸王と呼ばれた青年が軽く刀で自分の指を斬りつける。
鮮血が玉になって溢れてくるがそんなものは意に介さず何やらブツブツと口頭で何かを唱えている。
次の瞬間、仮面の男の四肢が全て切り落とされる。
青年はまだそこに立っているというのに。
「ぬうっ・・・・・!?」
「次は何処が良い?」
驚きの声を上げる男を他所に青年は真一文字に固く結んだ口から軽口を叩く。
そして言葉を紡ぎ終わる瞬間、目の前に現れた青年に目から光線を放つ。
しかし血のような赤い光線は青年を通過し、後ろの地面を焦がしただけで消滅する。
まるで、初めて3Dを体験したかのような反応を示した男は直ぐ様距離を取り、身構える。
ユラユラと不穏な立ち姿をしている青年。
亡霊のように立ち尽くして動かない・・・・様に見えた。
突然、男の視界が反転、急速に視線が下がりゴトッと音を立て頭部に鈍い刺激が走る。
目の前の幽霊は何もしていないと言うのに、男の首が切り落とされたのだ。
諦めるしかないか―――そう悟った男は自分の体を土で再構築する事もせず、ただただ迫ってくる青年の足元を見つめる。
「魔界にでも帰って出直せ」
「出来ることならば二度と会いたくは無いがな」
「・・・そうか」
仮面を破壊される刹那、彼の赤い瞳はとあるものを確かに捉えた。
青年の輪郭線が重なり、2重になっていること。そしてそれが合わさり、いつも通りの姿に戻った事を。
~*~
「骸王・・・ですか?聞いたことはありますが・・・どうしてそんな事を?」
日も暮れ、青い月光が小窓から注ぎ込んでいるとある町外れの小さな店。
ウィズ魔道具店。それなりに値の張る最上級アイテムからポンコツ、何に使うか分からないガラクタ。なんでもござれの品揃えをしている店だが、表には
『closed』
の看板が出され、ただでさえ人の来ない店には店主であるウィズともう一人、紅い瞳を輝かせる少女、ゆんゆんが向かい合い丸テーブルを囲んでいる。
神妙な顔をしたウィズからの問いかけ。
それに対してこちらも似たような面持ちをしたゆんゆんが頷き返答する。
「では・・・どんな人物かは?」
「あまり詳しくは知りませんが・・・お伽噺、冒険者さん達の理想が創りだした英雄像・・・そんな噂を少し耳に入れた位です」
「でしょうね。骸の様に虚で、骸の山の頂上に君臨する王の風格と実力を持つ冒険者達の妄想、虚言が産んだ骸の王・・・・・“骸王”。今となってはそんな幻とされています」
「あ、あの・・・そんなに強かったんですか?店主さんがそこまで言うなんて・・・」
目の前の温厚そうな彼女が昔は高名なアークウィザードとして名を馳せていた事実。
そんな彼女がここまで大袈裟に語るなど考えがたい事である。
「えぇ、名実共に最強だったと思いますよ、私は。恐らく魔王よりも・・・」
「そ、そんな・・・で、でもあくまでお伽噺・・・ですよね?」
「いいえ、これら全て・・・紛れもない真実です。私は―――実際に見てますから」
「え―――――?」
あまりないウィズのハッキリとした物言い。
それが一体どれ程の説得力、現実味を持っているのか。
疑う余地も無いのは明白である。
衝撃が電撃の様にゆんゆんの脳を駆け巡り、その処理能力を縮め、圧迫していく。
あまりの発言に頭が追い付かず固まっているゆんゆんにウィズは話を続ける。
「まず、恐らく何を差し引いても最速なんです。目にも止まらない剣筋や肉体攻撃・・・速さで敵う者はいないかと・・・ですが、一番はとにかくこれに尽きます―――――行動と攻撃の乖離性―――です」
「乖離性・・・?」
「私たちは何をするにもそれに決まった動作がありますよね?魔法を使いたかったら魔法名を声に出して放つ方向に掌を向ける。そんな動作が。ですが彼は違うんです・・・棒立ちの状態で数メートル先の敵を斬り倒し、鬼気迫る表情で肉薄、首を斬られたかと思うと何もなく、数秒後に何もしていない彼に斬られる・・・そんな乖離性が彼の最大の武器です」
「えっと・・・つまり・・・」
話に付いていけずアタフタとしているゆんゆん。
そんな彼女にウィズは静かに口を開く。
「言葉を飾りすぎましたね・・・率直に言います。骸王は・・・モノノベサクは歴代・・・地上最強の冒険者です」