ギルド受付役として生きていく・・・が、ブラックだ 作:パザー
「大好き、モノノベ君」
揺らぐ視界。いつの間にか俺は目に大粒の涙を溜めていた。
そんな中、唯一明瞭に聞こえる彼女の声。それが焦った思考に拍車をかける。
「・・・ごめんね。こんな一方通行で。」
・・・・・いいや。そうじゃない。
「・・・戸惑ったでしょ?いきなり、訳の分からない話を聞かされて、自分が“私なんか”と重ね合わせられてたんだから・・・」
・・・違う。俺は----俺は--------!
「ごめんね。もう、こんな事言わない・・・だから、忘れて。これは誰かに縋ろうとした・・・私のエゴ」
--------違う! 言え!! 早く言え!! 一生後悔してもいいのか!?
ここまで彼女が話したんだ!!黙っているのはそれこそ1番ひどい自分のエゴだろうが!!
「------ルナさん」
叱責する心。それがようやく、火を灯す。
肩から回された彼女の腕にそっと触れ、できる限りの優しめな声で話しかける。
背中から伝わる彼女のしゃくり上げた小さな泣き声が心を締め付ける。既に涙でマトモに見えてなかった目から大粒の涙が零れ落ちる。
「-------知ってますよね? 『骸王』って。あれは--------俺なんです」
「・・・・・え? 」
「すいません、こちらこそいきなりこんな事言って。ただ、そんな事打ち明けてもらった以上、言うしかないかなって・・・取り敢えず、俺が所長に拾われてここに来て大体・・・1年、でしたっけ? 入ってすぐの俺は、ずっとあなたに憧れてました。俺はこれまで与える事なんて無かったんで、周りの方々に笑顔を振りまいて、幸せを与えてるあなたが。もちろん今の今までそんな背景があったなんて知りませんでしたから、それこそ、あなたの言うただの顔見知りで踏み込もうとしない人だったんでしょう。 だけど、俺は嬉しかったですよ。なにせ憧れの人と一緒に居て、働けたんですから。あなたのおかげでそんな日常が、この場所が大好きになれました。 ですから、泣かないで下さいよ。こんなありきたりな言葉しか言えませんが、あなたが泣いていると俺も泣きたくなりますから。 これこそ、さっき言ってたエゴです」
「で、でも・・・・」
「ほら、そうやってまた自分を否定しようとする。自分を無下にしないで下さい。-------あなたが否定したあなたを、俺は信じてるんです。 ただのワガママですけど、俺だって嬉しいんです。憧れの人にそんな風に思われていて・・・ですからそのあなたが変わっちゃうのは-------俺には受け入れらんないです。さて・・・・・これで俺のエゴは全部吐き出しましたよ。どうです? 誰かに・・・俺に縋ろうとしたあなたのエゴっていうのは、全然エゴなんて呼ばないような気がしません? 少なくとも俺はそう思いますよ」
「-------フフッ・・・不器用で口下手なのにそんな事言うから、怪しいカウンセリングみたいになってるわよ・・・!」
「ハハハ。そりゃあ違いないですね」
彼女が笑うに連れて俺も笑い出す。閑静な部屋に響く笑い声。それがなんだか自分の胸の内の何かを満たしていくように感じられる。
-------俺が求めてた物・・・ってのは存外、ルナさんと同じだったのかな・・・・・自分を心の内に秘めてくれる人。それがきっと、俺の求めてた物であり、今日カズマ達を見て感じた事なんだろう・・・ひとまず、いつまでもこの体勢でいるってのも・・・無作法だろう?
そう思い立ち、彼女の腕を優しく解く。
一息の静寂。その僅かな余韻で決心をつけ、俺は体を回転させる。
背中にずっと顔を埋めていたのだから当然と言えば当然、なのだがやはりこんな近距離で彼女の顔を見るとどうも固まってしまう。
いや、ここまで来たんだ。言うしかねぇだろ。もう退けない。
自分の発言には責任を持て。無下にするなと言ったのは誰だ。
だから------言え!!
「ルナさん・・・・・俺・・・まだ返事返せそうにないです」
「・・・・・そう・・・やっぱり・・・」
「・・・昔--------いや、ほんの2、3ヶ月位前の俺だったら間違いなくイエスと答えました。今だって正直、このままあなたと付き合いたい、なんて思ってます。 ですけど・・・・・俺自身、揺れているんです。どうしたら良いのか、どうするべきか・・・って。つい最近、守りたい人・・・って言うのが増えました。頼りないくせに、やけに意地っ張りで、一途で、真面目で、そして健気で。一緒にいると温かくて、身を委ねられる・・・そいつらを、今は必死に守って、育ててやるべきなんじゃないか・・・・・なんて、事を今は思ってます。ただ、いつか俺も気持ちに整理を付けます。ですからその時-------
-------また、告白してもらっても良いですか?」
「フフッ・・・女の子にそんなひどい事させるなんて・・・モテないわよ?」
「そう言ってる割には、嫌そうな顔してないじゃないですか」
真っ直ぐ彼女の顔を見据える。
涙でぐしゃぐしゃになったお互いの顔が面白いからか。何にせよ、俺たちはまた笑い合っていた。それこそ、いつもの日常みたいに。
・・・自分でもひどい事を言ったのは分かってる。ただ、今の俺のこの気持ちを伝えず、不明瞭な想いで安直にイエスとは言いたくないし、言えない。それこそ、彼女に対する無礼だ。なにせルナさんはこうやって自分の胸中を明かしてくれた。
今まで通り、俺に接してくれ・・・・・そう言いたい。が、それは傲慢が過ぎる。それに、どうするかはルナさんが決める事・・・・・クソッ・・・結局、どの道だろうと後悔はついて来んのかよ・・・
「そう言えばモノノベ君」
「・・・・・あ・・・な、何です?」
「私ね、君と愚痴してる時、いつも行き遅れた〜なんて言ってるけどさ・・・・・」
彼女はそう告げるとイタズラそうな表情を浮かべながらウインクし、俺の唇に優しく人差し指で触れる。
初めて見た彼女の幼げな表情に顔がドンドン紅潮していくのが分かる。が、彼女はそんな事御構い無しに口を開く。
「こうやって、ちゃんと告白したの、初めてなのよ?いつか返事を聞かせてね。私の初めてを貰っちゃった
「----------ッ!・・・・・フフ・・・任せてくださいよ、
「ありがとう・・・・・やっぱり、大好きよ」
「ちょ、まだ早いですって」
「フフ・・・面白い・・・・何回でも言うわよ、私のこの想いを・・・ねぇ、抱き・・・・・締めて」
「・・・・・つくづく分からない人ですね・・・」
彼女がベッドの上で体勢を変え、再びこちらを見つめてくる。
そんな彼女に軽く皮肉を口にして俺もベッドへとゆっくり足を踏み入れる。
そして、何かウキウキしている彼女との距離を詰め、互いの体の所々が触れ合い始める。相変わらず柔らかい彼女の体の感触はいつでも慣れず、ドキドキしてしまう。
距離が無くなり、彼女が俺の首に両手をかけ、俺も彼女の背中に手を回し抱き寄せる。吐息も鼓動も、胸の柔らかな感触も、全部伝わってくる。
「・・・ねぇ、このままでいて」
「もちろんです・・・僕もそうしてたいですから」
泣き疲れたせいだろうか。それともお互いの体温がとても心地いいせいだろうか。すごく眠い。だけど、しばらくこうして・・・たい・・・あぁ・・・ダメだ・・・・・眠い・・・
「-------おやすみ、モノノベ君」