ギルド受付役として生きていく・・・が、ブラックだ   作:パザー

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お久しぶりです。流石にexで話数がかさばるのもなぁ…って思って書いてたら1万字弱程になりこんな期間が空いてしまいました。

誠に申し訳ございませんでしたアアアアアアアアアッッ!!!


exー19 この変わりきった安寧に日常を!

「こ・た・え・な・さ・い!!」

 

「……ホントに答えなきゃダメっすか?」

 

 

白を基調とした部屋に単調ながらも意匠の込められた高級な家具の数々。落ち着いた柔らかい照明の下、これまた高そうなソファに腰掛けた俺に真上から強い語調で問いかけて来る少女が1人。

-------西園寺こころ。世界的な財閥、西園寺グループの令嬢。そしてひょんな事から行く宛のなくなってしまった俺と店主にこうして高級マンションの一室を貸してくれた人物。

 

……いい大人2人がこんな幼女に養われるままで情けないって?…うるさい。幾ら腕っ節が立とうと不思議パワーが使えようとこの国じゃなんの意味もない。ただの一般人となんら変わらないんだから。

 

そして、つい1時間くらい前に起こった出来事…デパートでのテロ。それをバリバリ不思議パワーで鎮圧、逃げ出そうとしたところ、こうして連いてこられて今に至る……まぁ、そうなるよね。聞きたいよね不思議パワーの根源。うん分かるとも。好奇心は猫を何とやらとか言うけど、生憎俺も店主もこんな幼女、かつ恩人に手を出せるほど非常ではなかった。

 

 

「はぁ〜…それじゃあ注意事項を幾つか。1つ、これから話すことは嘘偽りない真実です。2つ、もし現実離れしていようと嘘だなんだとは言わないで下さい。了解してもらえるかい?」

 

「えぇ!えぇ分かりましたとも!だから早く話して!」

 

「-------んじゃあまず最初に、俺と向かいの彼女。外国人だって言ったけど真っ赤な嘘だ。いわゆる異世界って所からなんでか知らないけど飛ばされてここに流れ着いたんだよ。そんでその異世界は魔法だとかそういうのが当たり前の世界なんだ。だからあぁして自在に氷を出したり、刀を出してそこから斬撃を飛ばしたりできるんだけど…納得してもらえた?」

 

「……」ホケ-‥‥

 

「ちょっ…ちょっとモノノベさん!?どういう事ですか異世界って!?」

 

「………まぁまぁ落ち着いて」

 

「お、落ち着いてって……」

 

 

……当たり前だけどフリーズしてますねはい。突然異世界人ですー魔法とかも使えますよーっていきなり言われたら信じないだろうけど、実際に目撃しちまったから揺れてるんだろうなぁ…

 

さっきまでの生意気そうな表情はどこへやら。ポカンとした表情で固定されて1ミリも動けずにいる彼女を俺たちはただただ待つしかなかった-------

 

〜*〜

 

『-------続いてのニュースです。昨夜未明、郊外の山にて遺体が発見されました。遺体には穴が幾つも開いており、これと同じ傷を負った遺体が発見されたのはこの1ヶ月で4人目となります。警察は-----」

 

「…なぁんか物騒だなぁ」

 

「…なぁんか物騒だなぁ…じゃないわよ!何よ異世界って!何よ魔法って!」

 

「あっ復活したか……何、と言われても困るんだけど…」

 

「あれだけ念を押したのもわかるけど、それ以上に理解不能よ!」

 

「とは言っても…ほら、こうやって実際に使えるんだし、認めてもらうしか……」

 

 

そう言い再びソファでくつろぎながらテレビのニュースを見る俺に今度は真後ろから怒声か叩きつけられる。

鬼気迫る形相で問い詰める彼女に『ティンダー』で指先にロウソク程の火を灯してみせると、険しい表情が少したじろいだ。

 

 

「み、認めるしかないのかしら…」

 

「だからそう言ってるでしょうに…」

 

「ぜひ解剖して調べ上げてもらいたい所だけど、私が騒ぎ立てた所で相手にされないでしょうし……はぁ…素直にテロられとくんだったわ…」

 

「いやそれはそれで良くないでしょうよ。まぁ何はともあれ認めてもらえてよかった」

 

 

ようやく事態を理解したこころが項垂れながらも俺たちの素性を認めてくれた。高級な内装には似つかわしくない無様な姿勢をしているが。

 

 

「-------はぁ…ひとまず、あなた達の素性に関しては棚に上げとくわ。それよりも、異世界から来たって言っても帰る宛はあるのかしら?それとも日本ででも余生をすごすか。どうするのよ?」

 

「…あぁそれなんだがな……ここに来たのって正直訳の分からない事故がキッカケでな…もしかしたらテレポートで帰れるかも…なんて思ったんだが……どうだ店主?魔力のほう」

 

 

そう言いこれまで会話に参加せずに胸の前で手を合わせ黙想のようなポーズをしていた店主に声をかける。すると彼女はゆっくり息を吐きながら目を開けて初めてこちらの話に入って来た。

 

 

「ダメですね…ここに来て消費した分もそうなんですが、デストロイヤーと戦って使ってしまった魔力も全然回復しません。これじゃテレポートなんてとても…」

 

「やっぱそうか…俺も正直残ってて3割くらいだ。全然回復もしないし全部吸えばテレポート一回分くらいになるかも知れんが、俺は死ぬし失敗したら元も子もないし…」

 

「な、何よ貴方達。そんなにボロボロなの?全然そんな風には見えないけれど…」

 

「正直今寝ろと言われたら俺は5秒で寝れるぞ」

 

「いやそんなキメ顔で言われても…まぁいいわ。とりあえず今日の事情聴取はここまで!ゆっくりするといいわ。後、ご飯とかは適当に出前でも頼んでおいて。玄関の所にある程度お金は置いてくから。それじゃあね」

 

「本当に助かる。ありがとな」

 

 

背中を向けて去ろうとするこころにそう声をかけると、彼女は後ろ姿からでも分かるくらい何だかバツが悪そうなのか照れ臭そうに去っていった。ドアの閉まる重々しい音が響くと俺は深くため息をついた。

-------思えば今日は色々ありすぎた。デストロイヤー襲撃に日本紀行、そして極めつけにテロ撃退に財閥ご令嬢のお膝元に収まってしまう…また帰ったら仕事が溜まってるやつか…そうや一緒に飛ばされたであろうカズマ達はどうしたんだろうか。アイツらも日本に来たのか、若しくは適当な向こうの世界のどこかに飛ばされたか…まぁいい。疲れたし、こんな状態で考えたって徒労だ。素直に飯食べて寝よう。

 

〜*〜

 

その日はもう疲労でとにかくクタクタだった。手早く飯を済ませシャワーを浴びて床に入って眠ってしまいたい。

 

そんな思いを胸にベッドに入り横になって目を閉じる。何も考えない方が寝れるんだろうが久しぶりの日本に思慮が止まらない。脳裏で寝付きたい思いと日本への思いが寝よう寝かせまいとせめぎあいごちゃごちゃになる。

 

その中、不意に扉を小さくノックする音が耳に入った。

 

 

「…鍵なら空いてる」

 

「…し、失礼します……すいません、起こしてしまいましたか?」

 

「いんや、俺も少し寝付きが悪くってな。しばらく付き合うぜ?」

 

 

そう言い腰掛けたベッドの縁をぽんぽんと叩く。ベッドを少し鳴らしながら店主が横に腰掛けてくる。女性特有のいい匂いがして少し心臓が跳ねるが、流石に耐性がついて来たのか顔にまで興奮が現れることはなくなった。まぁ贅沢な耐性だなおい。

 

月明かりが部屋に差し込む。だが月に負けない程にこの東京という街は眠らず輝き続けている。そんな夜景を眺めていたがふと店主の方に顔を向けてみる。

 

-------綺麗だった。白くきめ細かい肌、キラキラと輝く胡桃色の大きな瞳。整った目鼻立ちとシルクのような瞳と同じ色をした髪。彼女の全てが、月光の下で美しく映えている。

 

気づかなかった。こんな綺麗だったんだ……普段がアレだとこんな事にも気付けないのか……なんかスッゲェ損した気分だ…

 

 

「……ど、どうしたんですか?ボーッとして」

 

「-------あぁ、悪い。ちょっと考え事を…」

 

 

ふと目の前に意識を向けるとそこにはこちらをひょこりと覗く店主の顔があった。考えていた事が事なだけに心臓は鼓動を徒らに加速させ、胸がつまり少しばかり息苦しさを覚える。

ただこの店主の事だ。ここでもし俺が少しでも苦しんでるような仕草を見せたら自分が何しかしたかなどと言って心配をかけてしまうだろう。なら、少しでも気丈に振る舞っとかないと…こんな状況なんだ。余計に彼女に心労をかける訳には行かないしな…

 

 

「それなら良いんですが…何かあったらすぐ言ってくださいよ?いつでも頼ってもらって構わないですから」

 

「はははは!」

 

「ちょ、ちょっと!?なんで笑うんですかぁ!」

 

「お前なぁ…これでも一応一児の親だし、今の状況にまだ慣れてるのも俺の方だ。それなのに強がりやがって-------」

 

「……むぅ。こ、これでも私の方が年上…なんですし、ここは1つ大人の余裕を…なんて思っただけです!」

 

 

思わず吹き出してしまった俺に珍しく頰を膨らませ若干の剣幕でこちらに詰め寄ってくる。そんな珍しい店主の様子にさらに込み上げた笑いをどうにか抑えながら話を続ける。

 

 

「-------ふぅ。悪い悪い。いやさ、確かに俺のが年下だけどさ、それで俺に気遣いをさせちゃいけないなんていう事はないだろ?こういう心に関することなんて人によって堪えられる度合いも捉え方もまるで違う。だからたまには弱音を吐いたりしたって構わないさ」

 

「……………」

 

「……ん?どした」

 

 

そう恥ずかしいながらもクサい言葉を語りかけると店主は体をこちらに向けたまま俯いて黙りこくってしまう。長い髪に隠されたその奥の表情は影が差しまるで分からない。

 

 

「…う……ます」

 

「……?」

 

「……ありがとうございます。モノノベさん」

 

「え?……ど、どうした、なんか悪いものでも食べた?」

 

「…覚えてるか分かりませんが…あなたがまだ新米だった頃、もちろん仕事の一環だったと思いますけど、足繁く私の店に来て一緒に経営などの事を不器用ながらも必死に、親身に相談させてくれました。お互い、経営のことなんてまるで知らないのに必死に詮索して失敗して……リッチーの私は人と何かするという事は久しくありませんでした。ロクに素性も分からない怪しい者ですし……だけど、あなたはそんな事御構い無しに私といてくれました。それだけ…たったそれだけの事なんですけど、とても嬉しかったです。楽しかったです。幸せでした……だからもう一度、ありがとうと言わせてください」

 

「店主……」

 

 

これまで見たことない程の彼女の真摯な目。

そんな彼女から伝えられた言葉に何も言えなくなる。その言葉の重さが語調が、全てが圧倒してくる。

だが、彼女の瞳の奥は確かに、微かに揺れていた。

 

「…そんな事、幾らでもやってやるとも。やってやるさ…だから店主、泣かないでくれ。俺は周りの人たちには皆、笑顔でいてほしい。その為ならなんだってやる。不安な時は側にいてやる。何にだって付き合ってやるとも。だから、笑っていてくれ」

 

「-------!あ、ありがとう…ございます……ありがとう……!」

 

 

関が崩れたようにポロリポロリと彼女が顔を伏せて泣き出す。震える彼女の背中はひどく小さくみえる。

 

 

「……ったく、泣くなって言ったばっかりなのに…うし、ちょっといいか店主」

 

「…ふぇ……?」

 

 

相変わらず震えている店主の小さい背中。声をかけると少し間の抜けた声が漏れる。そんな彼女には御構い無しに頭を俺の膝に乗せて体に布団をかけてやる。微かに覗く瞳から困惑の色が伺える。

 

 

「も、モノノベさん…」

 

「…気がすむまで甘えててくれ。気持ち悪いかもしれないが、寝心地は保証する」

 

「……フフッ…やっぱり、モノノベさんはいい人です」

 

「やめろ照れ臭い。ほら、さっさと寝た寝た」

 

「えぇ、ありがとうございます。……本当にありがとうございます」

 

 

そう言いながら目を瞑った彼女の寝顔は最高に幸せを謳歌する様な綺麗さだった-------

 

〜*〜

 

「買い物に行こうと思う」

 

「お、お〜-------ど、どうしたんですかその姿勢」

 

 

朝とも昼とも言えない微妙な時間帯。起床した俺は店主に端的に快哉と告げていた------逆立ちの体勢で。

 

 

「…いやなに、昨日の膝枕で膝が死んでまともに立てないとかそんなんでは決してない。決してないからな」

 

「す、すいません…」

 

「俺が自分からやった事だ。気にするな」

 

「……あの、逆立ちのせいで全然カッコついてません…」

 

「「……」」

 

 

沈黙と妙な気恥ずかしさが2人の間に流れる。なにを話していいものか…いやそもそも話すべきなのだろうか。それについて話してもいいのか問うべきなのだろうか。それを話してもいいかと問う事で話しかけてもいいものか。それを話してもいいかと問う事で話しかけてもいいかと問う事で話してもいいものかはたまた……やめよう。なに考えてんだ俺。

そんな時、部屋にインターホンが鳴り響く。

 

 

「はい-------って、こころか。ちょうどいい」

 

「えっちょっ何よいきなり…」

 

「いや……お前にしか頼めないんだ。お前のその品性を見込んでのことだ。引き受けて…くれるか?」

 

「〜〜ッ///!しょ、しょうがないわね!で!要件はなにかしら!」

 

 

ドアの前に立っていたこころを中へ案内しながら半身を向けて真摯っぽくそれっぽい口文句で彼女に問いかける。

するとまるで漫画のように顔を赤くしながらもまんざらでもない様な様子で逆に俺の先を歩き始めた。

 

 

「あぁそれなんだが-------」

 

 

そう言い店主の待つドアを指差す。意気揚々とこころがドアに手をかけて勢いよく開け放つとそこにはベッドに腰掛けカーテン越しの淡い朝日に照らされる店主がいた。

 

 

「……」

 

「えぇっ!?ちょ、ちょっとあの……」

 

「……何やってんだお前」

 

 

それを見るやいなやこころはゆっくりとドアを閉めた。慌てた店主の声がドア越しに聞こえてくるが、それを意に介さず俯いた彼女の表情は深く陰り何も読み取れない。

 

 

「あ、あ……」

 

「あ?」

 

「あんな美人に何しようってのよこの変態!無理!あんな美人と隣にいるだなんて私の精神がもたないわ!」

 

「何じゃそりゃ…てか何変態とか言ってくれてんのねぇ!?」

 

「変態は変態よ変態!変態以外に何があるってのよ変態!」

 

「変態変態うるさいわ!変態がゲシュタルト崩壊してきたじゃねぇかよ何でこんな変態的な事象に会わなきゃならねぇんだ変態め!!」

 

「あなたもめちゃめちゃ変態って言ってるわよ変態!ほら変態なんだから何回変態って言ったか数えてみなさいよ変態!」

 

「あ、あの〜……」

 

「「何(だ/よ)!この変態に用!?」」

 

「ご、ごめんなさい〜〜〜!!」

 

「「あっ……」」

 

 

恐る恐る開け放たれたドアに向かい2人揃って怒声を放つ。少しだけ体を覗かせていた店主は怯えながら何故か謝りながら部屋の奥の方へと逃げていった。そんな彼女を見て冷静になり俺とこころの間に微妙に気まずい雰囲気が流れる。

 

 

「な、なぁ…」

 

「ね、ねぇ…」

 

「「……」」

 

「……なんだ?何か聞きたい事でもあるか?」

 

「……あなた、あの人とどういう関係なの?なんだか、あなたみたいな人とは到底無関係そうな人に思えるのだけど…」

 

「どういう意味だそりゃ…って問いただしたいけど質問してんのはそっちだな…まぁ端的にいうと元同業者、現友達ってだけだ」

 

「友達……ねぇ」

 

「おいなんだその含みのある笑みは」

 

「さぁ〜?どうかしらねぇ?」

 

「はぁ……まぁいい。それで俺からの質問…ってか頼みなんだが-------あいつを引っ張り出すのと服を見繕ってやってほしい」

 

「-------何、そんな事だったの?」

 

 

いたずらな笑みを貼り付けていたこころの顔が一転、俺の頼みを聞くやいなや素っ頓狂な表情に様変わりする。……いやマジで俺ってこいつにどんな人間だと思われたんだ…

 

 

「いいわよ、ちょうど暇だったし。この西園寺こころ様のファッションセンスを見せてあげるわ!」

 

「本当か!?助かるぜサンキューな!」

 

「〜〜〜ッ!もうっ!うっさいわよほら支度してなさい!」

 

「うびばっ!!」

 

 

喜んだ俺の顔面は彼女の平手で思い切り半回転した-------

 

〜*〜

 

「〜〜♪〜〜〜♪」

 

「お〜い店主。はしゃぐのはいいがあんまり先行き過ぎんなよ〜」

 

「……買い物1つであんなにはしゃぐ物なのかしら?ちょっと前にテロられたばっかりなのに…」

 

「正直、昨日の奴らなんて素人もいい所だ。どうやって銃を手に入れたかは気になるが…まぁ俺達のいた世界だとちょっと街外れの原っぱにいるカエルのがよっぽど強い」

 

「テ、テロリストより強いカエルってなんなのよ…あっあそこよ、目的地」

 

 

昨日と相も変わらず鬼のように熱い日差しの元、先を急ぐ店主をボンヤリとした目で見ながらこころとそんな他愛のない会話を交わす。

なんだか向こうの世界で感じた事のある刺々しい視線を感じるがまぁ無視するとしよう…いや、服の下に雑誌でも仕込んどくかな。

 

 

「〜〜〜〜〜ッ!〜〜〜ッ!」

 

「……何騒いでんだ店主」

 

「…なんだか、自動ドアの前でわちゃわちゃしてるわね」

 

「……まさか…」

 

 

目的のビルの入り口にて、何故か店に入らず焦った顔でわちゃわちゃしている店主。こっちののドアの仕様に混乱しているというかアレは…

そんな事を考えていると迷っていた店主がとうとう決意を固めたのか未だ開かずにいるドアに向けて歩を進める。

が、もちろんそんな都合のいいタイミングでドアが開く訳もなく彼女はドアに直撃して尻もちをついてしまう。

 

 

「店主〜……あっ」

 

「フギャッ!……うぅ〜…ど、どうなってるんですかこれ…」

 

「あぁ〜これ、今時珍しいけど多分これ温度センサー式ね。暑い日だと反応が鈍るらしいし…」

 

「あぁいやそれ多分こいつが……いや、そうだな、温度センサーだもんな」

 

 

リッチーだから多分認識されてない…なんていったらまた話が余計にややこしくなる。そんな言いたいような言いたくないような気持ちをグッと抑えて店主に手を差し出して起こす。

少し赤くなった額をさすりながら懲りた表情の店主は前に行かないように左右からこころとエスコートしながら店内を練り歩く。

冷房のよく効いた店の中には年にもう何回やるんだというセールの呼び込みやそれを狙う客で溢れかえっている。

つい昨日同じような店で事件が起きたというのに、そんな事は誰も気に留めることなくそれぞれが思うままに買い物を楽しんでいる。

 

 

「-------さってと、この辺かしらね」

 

「はぁ〜…たくさんありますね…!」

 

「…やっぱ女物の服って何がなんだか…」

 

 

様々な方法で展示、販売されている女性服の数々。ワンピースやシャツなどの種類の違いは流石にわかるのだが…ワンピースとかの一ジャンルの中での服の違いが分からない…何が違うんだアレ全く…

 

 

「ん〜そうね…店主さん?は落ち着いた色の…そうね、これとこれ…後これとかも……はい!これ持ってあの試着室で着てきて!」

 

「こ、こんなに…分かりました♪」

 

 

こころの差し出した3セット程の服の数々。それを持って爛漫そうな顔でスキップしながら試着室へと向かう店主。彼女の滅多に見たことのない至福の表情を見てなんだか和むが…それと同時にあの世界での店主の経済状況を思うと胸が苦しくなる…いや自業自得だけども。

 

そんなこんなで色々思いを馳せていると、試着室の向こうから「お、お待たせしました〜」と相変わらずの弱々しい店主の声と共にカーテンがおずおずと開かれる。

 

彼女が着ていたのは、藍色のスキニーパンツに白色のシャツの上からベージュ色をした薄手のカーディガンを羽織った落ち着いた大人の雰囲気がよく伝わるコーディネート。

 

そして次にカーテンを開けると再びベージュのチェック柄が入ったノースリーブのシャツにゆったりとした黒色のロングスカート。Vネックがロングスカートのゆったりとした雰囲気をシュッと引き締め若干深めに被った藍色の帽子が怪しげな中に美しさを感じさせる。

 

3つ目のコーディネートは膝丈ほどの白地に花柄の入ったスカート。薄い黄色の型にフリルがついたシャツと胸の下辺りに黒色のリボンがついたサッシュベルトを巻いている。彼女の豊かな体のラインがサッシュベルトで強調され、上の縁がないメガネが更に知的な雰囲気を醸し出す。

 

どれもこれもオシャレという言葉を濃縮して具現化したような具合で店主の美貌をより引き立たせる。そんなコーディネートを10分強で見繕ったこころのセンスに素直に感服する。隣の彼女も満足そうに鏡で自分の姿を眺める店主を見て顔を綻ばせている。

 

 

「いや〜久々にいい感じにコーディネートできたわね…!やっぱり素材がいいと気合も入るし服も映えるわね」

 

「ファッションなんて毛先程も分からんが確かにあれは洒落てるな…凄いなお嬢様」

 

「別に…お嬢様だからって訳じゃないわよ。まだまだ若い女の子としてこれくらいは出来ないとってだけよ」

 

「はぁ〜…おじさん今時の事情は分からないが…凄いんだな、こころ」

 

 

2人で店主を眺めながらそんな会話を交わす。が、なんだか人がいすぎるせいかはたまた冷房に当たりすぎたせいか、少しばかり外の風に当たりたくなってきた。こころ達に一言告げて外の適当な日陰のベンチに座ってしばらく空を眺めたりして何も考えず、ただただボーッと放心していた。

 

明るすぎる日差しに大きな雲が空を覆っている。そんな夏空のお手本のような景色中に一点、何か形容しがたい『異物』のような何かがふと目に入る。黒い歪な点がゆっくりと不規則に動いている。カラスや何か風船が飛んでしまったとか、空に飛ぶ物の中で考え得る限り、アレに該当する物は俺の記憶にはない。

 

そんな何かを太陽の日差しを浴びながらも目を細め訝しげに見つめる。よく見つめてみるとその黒い点の周りは少し光が反射しているようにキラキラと白や赤に光っているような気がした。だが、それに気づいた時、同時にもう一つ違和感を覚える。

 

黒い点が、急速に大きくなっている。それも、その歪さや不規則な揺らめきを大きくしながら。思わず立ち上がりもう一度目を凝らす。

 

-------それは、大きくなっているのではない。近づいて(落ちてきて)いるのだ。

点はだんだんと形を取り戻していく。

それはよく知る形だった。

なぜなら自分と同じ、『人』であったから。

不規則な揺らめきや歪さ。

それは落下の風圧で煽られて手足や頭が色々な方向に振れているから。

そんな思慮の内、それは地上に衝突した。

グチャリ。衝撃で骨肉は原型を失い生々しい音を立てながら混ざり合う。

辛うじて残った顔は恐怖に引き攣ったまま時が止まっている。

そしてその首には『マルタ 5』と書かれた血まみれのドッグタグ。

更に、ニュースで聞いた穴の開いた死体と一致する傷がなんとか残った体の一部から見て取れた。

 

脳が十数メートル先の目撃した光景を処理するのを拒む。

汗が全身から吹き出し、呼吸が荒く不規則になる。

だんだんとあの顔が今にもこちらを向いて恨み言を連ねて来るのではなかろうか。

そんな突飛のない妄想に囚われる。

気が狂いそうになってしまう。

それ程までに目の前の光景は猟奇的でこの世のものとは思えなかった。

 

 

「キャアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

その場に居合わせた誰とも知れない金切り声。

その声で堰が壊れた。

辺りは狂乱し、混沌に落ちていく。

 

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