ギルド受付役として生きていく・・・が、ブラックだ   作:パザー

43 / 43
お久しぶりです(n番煎じ
ペルソナ4gやったりアベンジャーズエンドゲーム見たりしてました。シナリオのクオリティとか上がってるといいなぁ…




exー20 この素晴らしい女の子達とコミュニティを!

日本(ここ)に降り立った時、俺や店主は空から落ちてきた。その時の感覚は簡単には言い表せない。

恐怖や焦り、諦めの感情が落ちる身体と連動してグルグルとかき混ぜられて段々と何も思考が追いつかなくなる。

俺にはそんな状況から抜け出せる『手段』があった。あったからこそ、何とか対処できた。

だが、ここはそんな異能なんて物は空想上のものでありそれを使える者なんていないだろう。そんな者の恐怖は計り知れない。

 

そして、目の前の男だった『物』は実際にその恐怖を味わったのだ。その顔は酷く歪み、直視も辛くなるような醜悪さを呈している。

 

 

「モ、モノノベさん…一体何が…」

 

「-------来るなッ!!中に戻れ!!」

 

「ど…どうしたってのよ……そんな大声出して…」

 

 

周りのつんざくような悲鳴をかき消すほどに怒号を買い物を終えた店主たちに放つ。2人が楽しそうな表情から一変して怯えた表情になるが

それに構っていられる場合ではない。

のっぴきならぬ雰囲気を感じ取った店主がこころを店内に連れ戻す。その様子を見届けて俺は再び遺体に目を向ける。

 

見るのも憚れる形相。だが、それを堪えて見ているうちに何かおかしな違和感を覚える。

明らかに小さいのだ。

落下の衝撃で潰れていたとしても、成人男性にしては身長が小さいだとか、そんな理由では説明できない違和感がある。

 

こんな惨たらしい状態の遺体は少し前-------あのベルディアに捕まる前の村で嫌という程見た。あれとの違い……

思い出したくない凄惨な記憶の鍵を開けてどうにかしてあの情景を思い浮かべようとする。

 

煌々と燃え盛る炎。

鼻の曲がる様な腐敗臭と鉄の匂い。

そして何より押し寄せる屍人達。冷たく、ただ彷徨うしかない悲しいもの。

目を背けたくなる形相がまぶたの裏で広がる。その中で、目の前の男とは違うもの、それは-------

 

 

「……血か」

 

 

成人した男の体重…70kg位なら血はその0.13倍の量……大体5Lくらいか。だがあんな上空から落ちて来たのに血が飛び散ってなさすぎる…なんなんだこの違和感…

 

深く、深く考え込んでいた。周りの悲鳴もざわざわと騒ぎ立てる喧騒も無視して。だが、そう遠くない所から甲高いサイレンが響き渡ってくる。

 

……目撃者として取り調べとかされたら色々と面倒そうだな…はぁ……またあいつらを担いで屋上の駐車場からでも飛んでいくしかないのか…それにしてもだ。

空に見たあの男を運んでいたか何かしらをしていた『アレ』は…黒い点に見えたのは多分男の体だとして、光の反射か何かでようやく視認できたって事は透明って事なのか?空を飛ぶ透明な生物、もしくは兵器……ダメだ。皆目見当もつかない。

 

 

「あっモノノベさん!一体何が-------」

 

「…話してやりたいのは山々だが、今はここから離れる事が優先だ。っていうわけで屋上に向かう」

 

「お、屋上ってもしかして…」

 

「ん?察しがいいなこころ」

 

 

店に入ると店主とこころが中央の踊り場の様な場所で椅子に腰掛けていた。そこで俺が屋上へ向かう旨を笑顔と共に伝えるとこころの顔が青ざめた。

 

〜*〜

 

「はぁ…はぁ……もう、なんたってまたあんな帰り方したのよっ!何回心臓が飛び出しそうになった事か!!」

 

「あー……うん、正直すまんかった」

 

「--------------」

 

 

風でボサボサに乱れた髪を振り回しながら問い詰めてくるこころ。そんなこころともう声も出ない程にグロッキーになった店主をどうにか諌めつつテレビのニュースをつける。

 

 

『-------速報です。本日昼過ぎ、◇○デパート前にて男性の遺体が発見されました。遺体にはこれで5人目となる穴の様な傷がついており、目撃者によると空から降ってきたとの事です。警察は-------』

 

「な、何よいきなりこんなニュースなんて付けて…それにこのデパートって私たちがいた…」

 

「…まぁ、昼間は悪かったな怒鳴ったりして。それでだが…ここ数年、変な生物が発見されたーだとか、そんな発表はなかったか?後はそうだな……この辺りで誘拐だとか失踪事件だとか」

 

「へ、変な生物…?私が覚えてる限りだとせいぜい虫だとか…それも素人目には違いが分からないくらいのよ。誘拐に失踪……って言ったらそうね…学校での噂でしかないんだけど、休み続きの子が3人いてその子達、探検とか言って今は使われてない旧初台駅ってとこに行ったらしいわ。先生は風邪としか言わないけど生活に困ったホームレスに襲われただのって、もっぱらの噂になってるわよ」

 

「旧初台駅……分かった。ありがとうな、こころ」

 

「ま、まさか探検しに行く----とかそんなつもりじゃないでしょうね!?」

 

「そのまさかだ。もしかしたら俺たちが帰る足がかりになるかも知らんしな」

 

「-----------」

 

 

そう焦るこころに返すと彼女は俯いて黙りこくってしまう。

軽く答えた俺もその様子に感化されて2人の間に重苦しい空気が流れた。

 

 

「なぁこころ」

 

 

そう言い、彼女の前に膝をついて下から腕を優しく掴みながら顔を覗き込む。

 

 

「大丈夫だ。信用しろなんて言っても難しいかも知れないけど、必ず生きて帰ってくる。だからそんな顔すんな」

 

「……ホントに?ホントのホントに、大丈夫なんでしょうね?」

 

 

そう言い、悲しそうに疑り深い視線を向けてくる。大きな黒い瞳が微かに揺れながら問いかける。

その彼女の姿はとても見ているととても苦しくなり、申し訳なさがドンドンと胸の奥から込み上げてくる。

 

 

「-------あぁ、約束する」

 

「-------破ったら許さないからね」

 

 

そう誓い笑ってみせる。すると彼女もゆっくりと口を開き不器用に、しかししっかりと薄く笑ってみせた。

そんな彼女を見て安心する。

が、なんだか掴んでいる彼女の腕に少し腫れている様な感触を覚える。ゆっくりと指をずらして見てみるとそこには痛々しい青痣があった。

 

 

「……なぁこころ。この痣、もしかして運んでる時に怪我させちまったか…?」

 

「-------な、なんでもないの!ただちょっとぶつけただけで!」

 

「本当か?もしアレだったら土下座して謝りたいんだが…」

 

「本当に大丈夫だから!そ、それじゃあもうちょっとしたら暗くなりだすし部屋に戻るわね!」

 

「……あ、あぁ。じゃあな」

 

 

そう言い残し、なんだかバツが悪そうにそそくさと退散していく。

その姿から露骨に見て取れる焦りに違和感を感じるが深く立ち入る様な立場でもない。

なら今やる事は-------

 

 

「-------店主、大丈夫?立てる?」

 

「……ちょ、ちょっとトイレまで連れてってくださうっぷ……」

 

クッフフハハハ……おう、分かった…よっこらしょっ」

 

 

そう笑いを殺しながら店主の肩を担ぎトイレへと運ぶ。

そして一応耳は塞いだが結局、小さいがハッキリと店主のナイアガラの滝の音をしっかり聞き遂げて俺は結局張り手をされて夕飯時まで気まずく過ごした-------

 

〜*〜

 

「……ってなわけで旧初台駅ってとこを調査してみようと思う」

 

「な、なるほど…。確かになんだか怪しそうではありますけど…どうやって行くんですか?」

 

「何でも、関係者の出入りするビルから地下の駅に降りて行く階段があるらしい。だから紅姫を使って監視を避けながら潜入する」

 

「そ、それは…大丈夫なんですか?その…倫理…だとか、そういうアレからして」

 

「バレたらヤバイわな…一応、作業員の格好に変装はしていくつもりだが……まぁ、元の世界に戻るための足がかりだ。申し訳ないが、腹くくってくれ」

 

「あう〜…分かりました……そ、それといつ決行するんですか?」

 

「そうさな…善は急げっていうし明後日だな。明日は作業員の格好だったり他の噂を調査するのと休息だ」

 

「了解しました-------それにしてもこのピザっていう食べ物美味しいですね」

 

「大概の食べ物はお前の主食の砂糖水よりは美味いと思うが…そんな2枚も食べて…太っても知らんぞ?」

 

「ちょ、ちょっと!デリカシーがありませんよ!!」

 

「あぁーッ!悪かった!悪かったから平手だけは勘弁してくれ!!」

 

 

幸せそうにピザを頬張る店主を少しからかってやると、さっきのナイアガラの件のほとぼりがまだ冷めてなかったのか再び俺に向けて凶器の平手を向ける。

その恐怖を存分に刻み込まれたので瞬時に顔面を両手で覆って謝罪の言葉を向ける。この間僅か0.5秒。すごいやろ。

 

〜*〜

 

「きょ、今日も今日とて暑いですね……」

 

「あぁ…全く以って参るなこりゃ…」

 

 

その翌日、サンサンと照りつける太陽の下。俺と店主はこの暑さに辟易しながら往き行く人々を眺めていた。その奥には警告色のポールや赤いコーンが置かれた無骨な扉。そう、件の旧初台駅へと続く扉だ。

 

そこで延々作業着の人間が出てこないかを見張っている訳だが…全然現れそうにない。この季節だと作業着じゃなくもっとなんかラフな格好で仕事してるのか?それともこの時間に訪れる人間はいない?

 

そんな事を頰を伝い、手に落ちたうっとおしい汗を拭いながら考える。そろそろ2時間が経つ。買ってきたペットボトルもすっかり空っぽになりただ手持ち無沙汰な気持ちを紛らすオモチャにしかならない。

 

 

「-------店主、一旦切り上げよう。住宅街で聞き込みだ」

 

「えぇ…そうですねそうしましょうその方がいいです…ぜぇ…」

 

 

店主の方を見ると、太陽に弱いせいか髪が多すぎるせいか俺以上に汗をかいている。伝う汗で強調されるしなやかな顔のラインが色っぽく少しドギマギするがそれ以上に彼女は幾ら日傘と帽子があるとはいえもうノックアウト寸前だ。

 

そうして都心から少し離れた郊外。多くの一軒家、公園が並ぶが高層ビルはなく、この一帯だけは都心の喧騒や息苦しさを忘れさせて楽に生きさせてくれる。そんな雰囲気がある。

たくさんの家のおかげで日陰は増えたものの、やはり日本の高い湿度も相まって蒸せ返る様な暑さからは逃げられない。

 

買ってきた水もほんの少しだけで生温かさを帯びてきたがそんなのより…人はいないかね……平日の昼前だし流石に厳しいか…?

 

 

「あっ…モノノベさん、あそこに人がいますよ!」

 

「おぉ。良くやったぞ店主!-------すいませーん!少し時間いいですか?」

 

 

店主の指さす先に1人、影の濃いところに日傘をさした初老の女性がゆっくり向かいからこちらに歩いてきていた。

その人になるべく大きな声で話しかけながら歩み寄る。すると歩くのと同じ様にゆっくりとした動作でこちらへ顔を向けてくる。

 

 

「----どうもこんにちは。最近暑いですね」

 

「え、えぇ……あ、あの…どうかなされたんですか?」

 

「あぁ、すいませんね。実は少し調べ物をしてまして----旧初台駅、について何か知ってる事ありませんか?それも怪談とか都市伝説とか…ちょっと怖そうなやつです」

 

「旧初台駅…って確かもう使われてない駅ですよね?なんたってそんな所を----」

 

 

旧初台駅、その名前を出した途端女性の顔つきが少し疑いの色を見せる。…マズイな。こんな時の言い訳に作っておいた名刺名刺…

 

 

「あぁ…申し訳ないですがそこまで答える事は…一応商売ですので、どうかご理解のほどを」

 

 

そう言って先日デパートに行った時適当なオカルト雑誌を立ち読みしてそれっぽく作っておいた名刺を手渡す。そして彼女にそれを渡すと思惑通り疑いの色が少し晴れた。

 

 

「雑誌社の方なんですか?えっと旧初台駅っていうと…そう!最近私の知り合いがね、なんだか変な物を見たって話してましたよ。なんでも何個も透明なキラキラした物が駅のホームで見えたって…まぁ、窓の反射とかそんな物だと思いますけどね」

 

「キラキラしたもの…ですか…いえいえ、有益な情報です。ご協力いただきありがとうございます。では、熱中症には気をつけてくださいね」

 

「えぇ。それでは私はこれで-------」

 

 

そう言い軽く手を振りあって彼女は再びゆっくりとした動作でどこかへ歩き出した。その軽く曲がった後ろ姿を見送っていると店主がなんだか素っ頓狂な顔をしているのが目に入った。

 

 

「----どうした店主?」

 

「モ、モノノベさんってそんなキャラでしたっけ…?」

 

「お前…俺の職業忘れたのか?ギルド受付係だぞ。こんなもんお茶の子さいさいじゃ」

 

「あっ…受付係……そうでしたね。受付係でしたもんね…受付…係…」

 

「おいなんだその欺瞞がありありの言い方。本職なんだぞ本職。本職……」

 

 

……思えば、最近ロクに受付の仕事してなかったな…現場でゴリゴリに闘ってた…あれ受付係ってなんだっけ…受付係って書いてバーサーカーって読むアレなんかな…

 

 

「……うん、本職って言葉をちゃんと調べてくるわ…てかそれよりもだ!駅で見たっていうキラキラ!ちゃんと覚えとけよ!!」

 

「フフフ----は〜い」

 

〜*〜

 

その後も見かけた数人の通りすがりに適当に話しかけ件の事を持ちかけたが証言は似たり寄ったり。旧初台駅(あそこ)には、何か不思議な物がある。そうにわかに噂されているようだ。

このまま続けても特段目新しい情報が入って来るとも思えないし…

 

 

「店主、図書館に行きたいんだが……ねぇ、大丈夫?」

 

 

そう提案しながら彼女の方に振り向く。

すると彼女はゼェゼェと肩で息をするのを通り越して掠れた弱々しい息でもう瀕死と言っても差し支えのない様相だった。

 

 

「だ、大丈夫です……大丈夫ですから…調査をつ、続けましょう…」

 

「……悪かった。今日のところはこれで引き上げる」

 

「…え?ど、どうしてですか…図書館に行くんじゃ……」

 

「少しは自分に甘くなれよお前は。それに、そんな状態で言われてもな…いいから、帰るぞ」

 

「は、はい…わっ-------」

 

「-------っと」

 

 

憔悴しきり足元が覚束なくなっていた為だろうか。不意に店主がこちらに向かって倒れ込んでくる。

受け止めた店主の弱々しい息遣いと心なしかひどく軽い体途端にを至近距離で感じられる。そこから伝わる彼女の体の状態がひどく胸に何かバツの悪い何かをじわじわと生み出した。

 

 

「……悪かった。本当に…」

 

「…え?ど、どうしたんですかいきなり…そ、それと苦しいです…後恥ずかしい……」

 

 

 

腕の中で戸惑う店主をよそに彼女を背中に担ぎ上げる。

無言でいる俺に彼女も何か察したのかそれとも観念したのか。静かにゆっくりと俺の背中に体重を預けて頰を乗せるような感触が伝わってくる。

そして、若干傾き始めた日を背に浴びながら特に言葉を交わすこともなく微妙な空気の中、帰路に着いた----

 

〜*〜

 

「-------ちょっと色々買い物をしてくる。シャワーでも浴びて大人しくしといてくれよ?」

 

「…は、はい……すいません、お手数をおかけしてしまって…」

 

「はぁ…だから、自分にもっと甘くなれっつったろ。ほら、とっとと休め休め」

 

 

ソファに一旦休ませた店主を横目に見ながらそんな軽口を叩く。いつもより赤みがかった顔と希薄で今にも消えそうな雰囲気をこれでもかと漂わせる彼女に少し不安を覚えて買い物する事に決めたが……大丈夫だよな?このままぽっくり…心配だ。

 

 

「-------店主、吸え」

 

「----ふぇ?い、いきなり何言ってるんですか!?」

 

「は!?おま…人の親切にそんなドン引きするか普通!?」

 

「し、親切!?吸えだなんてそんなの親切な訳ないじゃないですか!」

 

 

顔をより一層赤くして慌てふためく店主。そしてそんな彼女に俺もつい口調が強くなってしまう。

てか何言ってんのこいつ!?何をそんな恥ずかしがってんの!?

 

 

「だ・か・ら!ドレインタッチで俺の魔力を吸えっての!!お前、このままじゃ消えそうで怖いの!!」

 

「ド、ドレインタッチ……あ、なるほど…は、恥ずかしい…で、でも良いんですか?その…魔力、回復してないんですよね?」

 

「消えられるよりマシだっての。ほら、はやく」

 

「じゃあ…お、お言葉に甘え…ます」

 

 

そう言うと俺の差し出した手を取り魔力を吸い出す。その影響で若干立ちくらみの様な感覚に襲われるがこれで彼女が消えてしまう心配はないだろう……ただ…魔力残量…3割6分ってとこか…あの死体を発見した時も何故か少し回復したが、安心できる数字じゃないな……なんだか今回の件、怪しい感じがするし…

 

そんな事を考えながら、日が落ち始めオレンジがかった街へと繰り出した----

 

〜*〜

 

「こんなもんか…」

 

 

繰り出した先は薬局兼スーパー。氷枕や冷えピタ、とにかく涼むための物や適当にオロナミンCだのの精のつく飲み物。そしてひさひざに料理をしようと数種類の食材。何年か振りの日本での買い物だが、まるで初めてみたいに新鮮で懐かしくなる。

だが、そんな懐かしい気持ちを店外に出た途端に襲いかかる熱気が遥か彼方に吹き飛ばしてしまった。

 

今日何度めかも分からない暑さへの辟易に若干飽きながらも帰り道をなぞり始める。

そんな折、ふとよく見た黒髪の後ろ姿を視界に捉える。

学校の帰りなのか、これまで見たことのない服…おそらく制服だろうか…と周りに数人、同じような服装に年齢の少女がいる。下校途中ってところか…うん、まぁここで俺が何かする事もないし帰る…

 

そう思い踵を返して帰ろうとした時、

 

 

「ねぇあんたさぁ……よね……」

 

「-----------」

 

 

ふと、そんな会話の断片が耳に飛び込んでくる。

それも愚痴だとか談話だとかそんな楽観な雰囲気でない、明らかに悪意のある、剣呑な様相だった。

……これは…ちょっと気が引けるが…

 

 

「『騙し紅姫』」

 

 

そう呟き、街の喧騒へと身を溶かした----

 

〜*〜

 

魔力の節約をしたいがゆえ若干雑なカモフラージュになってしまったため、注意を払いながらようやく着いた街はずれ。密談に密会、こそこそ何かをするにはうってつけな雰囲気だ。

移動の合間、彼女たちの間に一言も会話はなかった。

ただただその鉛のように重苦しくドス黒い雰囲気が辺りを取り巻いていた。

あの感じ、冒険者の時に嫌という程味わった感覚とよく似ている。背中に刺さる妬みや嫉みそれに怨念だとか、自分の劣等をなんの気もなしにぶつけるあの視線と同じだ。

 

 

「……ん!?」

 

 

…やらかしたな…この辺り、思ったより視界が悪い…どこ行った…?

辺りも薄暗く、案外木で視界が遮られるせいだろうか。少し考え事をしている内に少女たちの姿はすっかり消えてしまっていた。

彼女達の間の剣呑な雰囲気。流石に大事には至らないとは思うが心配だ…早く見つけねぇと…

 

〜*〜

 

「見つかんねぇなチクショウ…!ハァ…ハァ…」

 

 

辺りを10分弱程駆け回った。視界の悪さに悪路というのもありイタズラに体力が奪われていき、息も絶え絶えになる。

ここまで見つからないとなると…誰かに見られる可能性もあるが…鬼道で探すしかないか…

 

 

「……上空から、って思ったが…大気に踏めるくらいの霊気がないな……いや、あったら魔力も回復してるはずだし…節約したかったんだが、しょうがないか----『黒白の羅、二十二の橋梁、六十六の冠帯、足跡・遠雷・尖峰・回地・夜伏・雲海・蒼い隊列 太円に満ちて天を挺れ----天挺空羅(てんていくうら)』」

 

 

青白く輝く魔力の網が辺り一面へと這っていく。日本の常人には見えるやつはいないから大丈夫だろう…大丈夫だよな?

辺りに伸びた魔力の網から次々と情報が流れ込んでくる。地形に温度、材質にそこにいる生き物まで。膨大な情報の波に眩暈がする…が、まだ目的のモノは引っかかってない。

そして、数百メートル程伸ばした所にようやく、他の鳥や虫などより大きめの反応が4つ見つかった。

 

頼むから…下手に大事だとかに至ってくれるなよ……

 

そんな不安に駆られながら歩を踏み出す。

日が落ち始め、冷たくなってきた風が肌に吹き付ける。その冷感が否応にも胸の焦燥を加速させた-------

 

〜*〜

 

「-------腹が立つのよっ!!このっ!!」

 

「…うっ……」

 

「「〜〜〜〜!!」」

 

 

移動のために木の上を渡り歩いてきて数百メートル。

ぽっかりと空いた大きな林冠から下を見下ろすと、そこには地面にうずくまるこころと彼女を取り囲むリーダーらしき罵声を浴びせる少女とその周りで何かわめき散らしている2人の少女。

そしてたどり着いたその時、リーダー格の子がこころの腹に蹴りを入れた。それに便乗して他の2人も蹴り出し彼女はより一層その体を丸める。

 

 

「------『雷吼炮(らいこうほう)』」

 

 

天空に向けて雷を纏った爆砲を放つ。

爆音と振動が辺りに響き渡り、震え上がらせる。一帯を一瞬昼のように照らし出し、直後に全てが凍ってしまったような静寂が訪れる。

 

 

「な、なによ…雷…?」

 

「…は、はやく帰りましょ…山火事とかになったらヤバイし…」

 

 

怯えた様相を見せた3人はどこかに去っていった。

が、うずくまったこころは一向に動かない。

 

 

「……大丈夫か?」

 

問いかける。

 

「……」

 

彼女はゆっくり、小さく頷く。

 

「何回目だ?」

 

再度問いかける。

 

「……」

 

 

今度は何も反応を見せない。

うずくまった彼女はひどく小さく、そして儚く見える。

 

 

「…ねぇ……」

 

「…あぁ」

 

「……何で私は、西園寺なの?」

 

 

そう、問いかけてくる。

なぜ自分は自分なのか。そんな素朴な疑問。だが、決して解決することは難しい。それこそ、生涯かけて考え抜くような事だ。

 

彼女はとても、途方も無いほどに大きく広い荒野で迷っている。

どこにもあても、道しるべになる光もない。そんな彼女の身になるとどれだけ恐ろしく、不安なことか。身が震え上がる。

だが、俺は大人で。彼女は子供だ。なら、先に人生を歩んだ者として少しでも助けになってやらないと。

 

 

「…少し話をしよう。膝でも空いてるが、どうする?」

 

「……」

 

 

そう聞きこころの頭の側に足を伸ばして座り込む。

すると彼女はゆっくりと動き出し俺の太ももに頭を預けた。小さく弱々しい感触が伝わる。

 

 

「----俺も昔、一応少しは格式のある方の家に生まれたんだ。それも武道だとかそういう方のな。たっくさん仕込まれた。剣道、柔道、空手に合気道。槍術棒術、何から何まで親の思う理想の俺を体現してたと思う。

だけどまぁ……その…なんだ、こんなバカな性質(タチ)だからかな。ある日、子供を見たんだよ。自分と同じくらいの。めちゃくちゃ楽しそうにしてたよ。その時思った訳だ----俺はあんな風に笑えた事があるか?なんでこんなにも不自由なんだ?-------って。

だから逃げた。今思うとヤバイくらい短絡だな。だけど、抑えられなかったんだよ-------そうやって逃げて逃げて…気づいたらどこかの孤児院に拾われてた」

 

「……そう…だったの…」

 

「----ってのが俺だ。物部朔だ。これまでの歩いてきた道のり全てで俺ができてる。…なら、お前はどうだ?こころ」

 

「……」

 

 

そう問いかける。

するとこころは黙り込み、少し重々しい雰囲気が辺りに立ち込める。

が、彼女は少しずつだが、重い口をゆっくりと開く。

 

「……私は、西園寺に生まれた。ただそれだけ…親はいつもどこか飛び回ってて年2、3回くらいしか会えないの。でも、不自由は感じなかったわ----全部があったんだもの。自分の望む物の殆どは叶ったし。そして小学校を卒業して中学校に入って……それからかしら。なんだか皆よそよそしくなって距離を感じ始めたの。それもそうよね…大財閥の令嬢だなんて、何かしでかしたらタダじゃ済まないのは目に見えるもの……それで皆から離れて過ごしてる内にあの子達が来た。言い分は簡単、金持ちってだけで周りの大人から優遇されてて腹が立つ。なんで普段から努力してる私たちは見向きもされないのに-----って。そうやって彼女達のストレスのはけ口に仕立てられたの…もちろん抵抗もしたけどいつもいつも嘘の告発をするだのって脅されて……おどされ……て……」

 

「-------ありがとう。よく話してくれたな」

 

 

段々と震え、嗚咽交じりになる彼女の細々とした声。

細かく震える彼女の頭をゆっくりと撫でて何とか落ち着かせようとする。

 

 

「そうか…辛かったな。よく耐えたよ、そんな小さな体で…本当に凄いな…お前は。それでさ----お前は今の自分の事、どう思ってるんだ」

 

「……こんな事に…なる……なら…西園寺になんて……生まれたく…なかった…」

 

「…生まれたくなかった…か……そればっかりはどうしようもない…ごめんな。ただ、これだけは絶対に言える-------生きろ。どんなに辛くても、折れそうでも生きろ。どんなに汚れても傷付こうともな。自分が諦めない限り、この素晴らしく、ふざけた世界に晴れない雲はないんだ」

 

「……雲…」

 

「…そうだな…それじゃあ、参考にはならないかも知れないが…これが、1回は折れたが…諦めなかった俺の『答え』だ」

 

 

こころを立たせ、自分もゆっくりと立ち上がる。

そして深く、重い雲のかかった空を見上げる。分厚く、灰の深い、陽の光を閉ざす雲が余計に辛気臭くさせているのではないか…そんな事を感じ始める。

 

 

「破道の八十八----『飛竜撃賊震天雷砲(ひりゅうげきぞくしんてんらいほう)』」

 

 

掌から先ほどの雷吼炮とは比べ物にならないほどの波動と衝撃。名前の通り、飛竜が天へと昇る様な咆哮と閃光が響き渡る。

 

そして竜は天へと昇り、分厚い鉛の雲と衝突する。

 

その威光は辺り一帯の暗雲を完膚なきまでに晴らし、夕焼けの美しさを余す事なく映し出すキャンバスを作り出す。

 

 

「------どうだい、凄いだろ?」

 

「-----------」

 

「……ちょ、ちょっとこころさん?なんか言ってくださらないとわたくしの労力が…」

 

「…プッ……ブフッ!アッハハハハハハ!な、何よこれ!こ…こんなの、何をどうしたらこんな事が出来るように成長するのよ!アハハハハハ!!」

 

 

温かい夕日に照らされ、風景がガラリと明るくなる。

そんな中、彼女は黙り込んでいる。が、突如。なんの脈絡もなく積が切れたように高笑いを始める。

その様子はなんだかこれまでの彼女よりも一段吹っ切れた様に見えた。

その様を見ると俺の頬も緩んで笑えてきた。

 

 

「おま…フフフ……割とちゃ…ちゃんと…ブフッ……頑張ったのに……フフフ…ハハハハハ!」

 

「い、いやだってこれ…て、天気変わってるじゃない…アハハハハハ!」

 

「ハハハハハ!うーし!帰って飯にするぞこころー!!」

 

「えぇそうね!そうしましょう!アハハハハハハハハ!!」

 

 

夕日に照らされ、凹凸のお調子者の様な影が森の中へ伸びていた-------

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。